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ジョグ・ウォード短編集0

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ジョグ・ウォード短編集0
ジョグ・ウォード短編集0
支援BIS
タテ書き小説ネット Byヒナプロジェクト
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︻小説タイトル︼
ジョグ・ウォード短編集0
︻Nコード︼
N7431CQ
︻作者名︼
支援BIS
︻あらすじ︼
2015年黄金週間企画
1
1
よろい
コリン・クルザーは決心した。
父の形見の剣を売る。鎧もだ。そうすればたまった借金を片付け
ることもできるし、これからしばらくの薬代にもなる。服や靴も少
しはましなものに替えることができる。
コリンの父はコエンデラ家に仕える騎士だったが、戦で負った怪
我がもとで寝込むようになってしまった。そして去年死んだ。父親
が生きているうちは、コエンデラ家から時々食べ物が届けられたが、
それもなくなった。
もっともクルザー家は領地も財産もなかったが、少しばかり広い
畑を持っている。それを近くの農民たちに貸していたから、借地代
として届けられる作物で、生活そのものは何とか成り立っていたの
だ。
だが父親の回復を願って高価な薬を与え続けたことが、クルザー
家を圧迫した。そして父親の死後、母親が看病疲れで倒れてからは、
さらに薬代がかさんだ。今では借地代として届けられる作物はわず
かな金に換えて借金の穴埋めにするほかなく、家事をしに通ってく
れている老女への給金も滞りがちである。
こうしたもろもろのことが、十歳になったばかりのコリンの肩に
ずっしりと乗っている。
剣と鎧を売るという以外の道は残されていなかった。
だが剣と鎧を売るということは、騎士になるのを諦めるというこ
とである。
どうせ騎士になれないのなら、馬が生きているうちに売ればよか
ったのだ。だが、馬を売るのは母親が嫌がった。
﹁あの馬を売ってしまったら、お前が騎士になったとき乗る馬がな
い﹂
若いとは到底いえない馬だったから、コリンが騎士になったとき
2
元気でいるとはとても考えられなかったが、それでも母親は馬を売
るのに反対した。母親の気持ちがわかるだけに、コリンも無理強い
はできなかったのである。
そしてその馬は父親のあとを追うように死んでしまった。それを
みた母親はすっかり気力を失って、今は病の床にいる。この母親を
どうやって守るか。それが今のコリンの課題である。
コエンデラ家に頭を下げれば、従卒として騎士修業をさせてくれ
るだろう。それはわかっている。ただし剣も鎧も馬も持たないコリ
ンが騎士になるためには、ほとんど奴隷といってよい過酷な条件が
付けられるだろう。また、コリンが騎士修業を始めたからといって、
母親の薬代をコエンデラ家が出してくれることはない。カルドス・
コエンデラとはそういう男だ。
主家とは何か。
騎士が主君に仕えるとはどういうことか。
父親は主家であるコエンデラ家のため、身を粉にして働いた。そ
して傷つき倒れた。
その父親にコエンデラ家は何の報償も与えてはくれなかった。
もしも。
もしも病床の父にコエンデラ家が温かい手を差し伸べてくれてい
たなら。
病の床で苦しんでいる母に、コエンデラ家が少しでも助けをくれ
るなら。
コリンは感謝し、コエンデラ家のために身をささげることをため
らわなかっただろう。
だが現実にはコエンデラ家はクルザー家を見捨てている。クルザ
ー家の苦しみと没落を、まるで他人事のように眺めている。
だがそれでいて、もしもコリンが騎士になったならば、コエンデ
ラ家は当然のように忠誠を要求するだろう。
主家とはそういうものなのだろうか。
騎士とはそういうものなのだろうか。
3
̶̶ならば僕は騎士になんてならなくていい!
そうコリン・クルザーは決心したのである。
2
水をくんで家に帰ったコリンは、誰かが馬に乗って家から遠ざか
っていくのをみた。
馬に乗っているということは、騎士か従騎士である。だがクルザ
ー家を訪ねる騎士などない。
不思議に思いながら家に入ると、机の上に袋が置いてある。
中には大金が入っていた。
コリンは驚いて母親を起こしたが、誰がやって来たのか眠ってい
たため知らないという。
̶̶まさか、ジョグか?
ジョグはカルドス・コエンデラの庶子であり、母親の死後コエン
デラ本家に迎えられた。三つ年上のジョグはコリンにとって兄に近
い。悪い遊びを教える兄に。
ジョグは乱暴で、いたずら好きで、気ままで、反抗心旺盛な少年
だ。コリンのほか数人の少年を引き連れ、悪さばかりしている。も
っとも大柄なジョグはとても十三歳にはみえず、実際騎士修業を始
めて三年で、もう従騎士になっている。
ジョグはコリンにとって主筋にあたるが、敬語は使わない。ジョ
グが嫌がるからだ。だがひそかにコリンはジョグを尊敬している。
ジョグは乱暴でぶっきらぼうではあるが、無道ではない。コリンや
ほかの少年たちへの態度も、慣れてくれば底に温かみがあるのに気
付く。いっそジョグがコエンデラ家を継いでくれればとも思うが、
カルドスの正妃には三人も男の子がいて、一人はジョグより年上だ。
﹁ジョグ。母さんが倒れちゃったんだ。家のことをしなくちゃなら
ないから、当分遊びに来られない﹂
そうコリンが言ったとき、ジョグの反応は淡泊なものだった。
4
﹁へえ。そうか﹂
そのジョグが突然金を持ってきてくれたりするだろうか。そもそ
もジョグがこんな金を持っているはずもない。
その大金は、たまった借金を返して、さらに馬が買えるほどの金
額だった。一瞬、ジョグがコエンデラ家の使いとして来たのかもし
れないと考えたが、それならば黙って帰ったりせず、とことん恩を
売りつけるだろう。
わけがわからなかった。だが一つはっきりしているのは、この大
金はコリンと母を救ってくれるということだ。
コリンは神々に感謝の祈りをささげた。
3
うわさ
しばらくして、コリンは奇妙な噂を聞いた。ジョグがサルクスの
ウォード家に養子に出されたというのである。
その背景には、なかなかとんでもない事情があったという。
なんとジョグは、コエンデラ家がリンツで毛皮を売って得た代金
を運ぶ馬車を襲って金を強奪したのだという。そして豪遊してその
金を使い果たしてしまったのだ。
馬車を襲ったとき、ジョグは覆面をしていたというが、馬も体つ
きも剣技も、どうみてもジョグ以外ではあり得ない。
ばつ
ほうちく
カルドスも、さすがにこの事態を放置することはできなかった。
罰としてコエンデラ本家から放遂したのである。
コリンは首をかしげた。
サルクスは小さいが豊かな領地である。コエンデラ本家から養子
に出したのなら、たぶんその跡継ぎということになる。それで懲罰
になるのだろうか。
別の噂がこの疑問に答えをくれた。
この襲撃事件は正式には裁かれない。なぜなら騎士二人と従騎士
二人がたった一人の少年にたたき伏せられて金を奪われたなどとい
5
つら
うことを明らかにすれば、コエンデラ家の名誉と武威は地に落ちる
からだ。また、ジョグ自身も白を切り通している。素晴らしい顔の
皮の厚さである。正式に追求できない以上、罪人扱いすることはで
きない。そこでコエンデラ本家からの放遂という処分にとどまらざ
るを得なかった、ということらしい。
ほかにこんな噂もあった。将来コエンデラの当主の座をめぐって
長子ゼオンとジョグのあいだに争いが起きることを恐れたカルドス
の正妃が暗躍したというのだ。
また、サルクス領の跡継ぎの座に押し込むことでジョグに恩を売
りつつ、サルクス領の富を吸収しようとするカルドスの陰謀である
ともいう。
あるいは他の家臣の手前やむを得ず家から出すことにしたが、ジ
ョグの反発が恐ろしかったので、ウォード家の跡取りといううまみ
を与えたのだともいう。
コリンにはどちらでもよかった。
理由などどうでもいい。大事なのは結果だ。
̶̶決めた。僕の忠誠はコエンデラなんかにはささげない。僕の
忠誠はジョグ・ウォードにささげる!
さっそくウォード家におもむいて、騎士修業をさせてくれるよう
頼むのだ。
そして騎士になろう。
ジョグの支えとなれるような優秀な騎士に。
そう、コリン・クルザーは決心した。
6
PDF小説ネット発足にあたって
http://ncode.syosetu.com/n7431cq/
ジョグ・ウォード短編集0
2016年7月7日21時31分発行
ット発の縦書き小説を思う存分、堪能してください。
たんのう
公開できるようにしたのがこのPDF小説ネットです。インターネ
うとしています。そんな中、誰もが簡単にPDF形式の小説を作成、
など一部を除きインターネット関連=横書きという考えが定着しよ
行し、最近では横書きの書籍も誕生しており、既存書籍の電子出版
小説家になろうの子サイトとして誕生しました。ケータイ小説が流
ビ対応の縦書き小説をインターネット上で配布するという目的の基、
PDF小説ネット︵現、タテ書き小説ネット︶は2007年、ル
この小説の詳細については以下のURLをご覧ください。
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