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Page 1 愛知教育大学教科教育センター研究報告第13号、PP.282〜294
詩の魅力と﹁読み方﹂を教える授業 −高校二年生における実践報告− 和・足立悦男・小海永二等によって論じられ、具体的な指導過程のあり方 詩教材の解釈と指導については、これまで、例えば、西郷竹彦・仲田湛 的にはこれまで考えてきた詩教材についての理論的考察を、﹁授業化﹂す こ一・一三ロ。愛知教育大学附属高校二年生、ニクラス︶。これは、巨視 についての豚究授業をヽ附属高校の御協力を得て行った︵一九八八年九月 ︵昭和六十三年十二月二十六日受理︶ 愛知教育大学国語教室 佐 藤 洋 一 も含め、様々な実践報告が積み重ねられてきたことは周知のとおりである。 ることによって理論の有効性を検証すること、かつまた、理論を生かした はじめに しかし、詩の研究の遅れ︵文学研究の中で︶、短歌・俳句に比べての近 実践的な指導過程︵授業論︶の構築のための手がかりを考えるためであった。 さに気づかせる、また、それが豊かな読書体験につながってゆくために、 一方、詩の﹁知識﹂や技法を覚える授業ではなく、詩の魅力・読む楽し 時、§教材、㈲指導観、㈱指導目標、㈱指導計画、㈲評価。 授業の全体像︵アウトライン︶、︲∼㈲の順に簡潔に示す。○教室・日 一、授業の方法と観点︵指導案を通して︶ おわりに 三、まとめ ㈲個性の多様性︵﹁春﹂の詩四編︶ 0表現の個性︵翻訳詩三編︶ ○児童詩の方法と親しみやすさ︵詩三編︶ 二、授業の実際と考察 一、授業の方法と観点︵指導案を通して︶ てゆく。 本稿は、田の部分の実践報告とその考察である。以下、次の順序で述べ ②萩原朔太郎の詩の独自性・魅力に気づかせる︵二時間目︶ ︵注4︶ 田詩の魅力・楽しさに気づかせつつ、詩の﹁読み方﹂を教える︵一時間目︶ 授業は、次のような二段階の構成を考えた。 現代詩の親しみにくさ︵戦後詩等は特に︶、また、教科書教材を丁寧に分 析したり、詩の﹁知識﹂を覚える授業等のゆき過ぎによる生徒の詩の″授 業″嫌い等々、多くの問題点もこれまで指摘されてきている。 詩教材を教室で扱う場合の問題点という視点から考えてみると︵ここで は中学・高校を想定している︶、次の三点が特に重要な点として私には考 えられる。 田詩の原理︵本質︶に即した詩の﹁読み方﹂ ︵学び方︶の指導 ②その詩人の、また、その詩の独自性と方法︵表現の特質︶等に気づかせ る、教えるための指導 ㈲生徒の成熟過程、興味関心に即した教材選択・配列等の問題 文学教材の指導の中で、詩の本質・特質や各詩人の固有の価値に着目し た詩教材指導の必要性にっいては、これまでも指摘はされてきたものの︵ 注1︶、ほとんど啓蒙的な指摘にとどまり、十分な論証は伴ってこなかっ 詩の﹁読み方﹂を教えるということも重要とされながら、やはり、十分に ︿詩の授業︲︱−国語科学習指導案−﹀ たということができる︵ここでは詳細は省く。注2︶。 は論じられていない︵注3︶。詩の原理の解明・詩人の固有の文体解明と 0教室・日時 o愛知教育大学附属高校 二年四組︵文系、45名。男9、女36︶。一九 いう点にかかわるための難しさといえよう。 このような詩教材についての研究と実践の状況をふまえて、私は﹁詩﹂ 一 ― 294 − 1989) pp. 282∼294 (March, 愛知教育大学教科教育センター研究報告第13号, 愛知教育大学教科教育センター研究報告第13号 彦、小学五年︶④﹁イニシアル﹂︵レーモンニフディゲ。堀口大学訳 ②﹁はつこい﹂ ︵鈴木静香、小学五年︶③﹁働くお母さん﹂︵道西聖 詩集子どもの詩﹄花神社・一九八六年五月。①∼③まで同書による︶ ①﹁おばあちゃんのしわ﹂ ︵いしいさとし、保育園6歳。川崎洋編﹃ 現のいろいろI﹂ oプリント︵B4版︶の一枚目。題は﹁詩の授業mT−詩の楽しさと表 ○教材︵プリント2枚に詩14編︶ の部分は省略する。︶ ︵本稿での報告は二年四組のものである。また、朔太郎研究について 九月一三日当二・四限。 八八年九月こ一日月丁二限。二年一組︵理系、44名。男36、女8︶。 児童の詩は、﹁感動﹂ ︵よろこび、怒り、かなしみ⋮⋮︶等の報 を検討するのは、詩の原理にかなった指導法ということができる。 り、怒り、せつなさ⋮⋮︶を一言でとらえ、さらに、そのイメージ ②詩は﹁感動﹂の具体的な表現であるので、詩の中核の観念︵思いや 魅力と表現に気づかせる。 ではない。一限目の授業では、いろいろな個性をもった詩を読み、 有効性は、読む楽しさ・魅力の実感の中から感じとられるもので逆 的につまらなくしていることが多い。文学の″技法″という知識の 田一編の詩を詳細に分析する授業は、教室における詩と授業を、結果 l詩の指導 回萩原朔太郎の詩の特質︵省略︶ 要な、かつ、本質的なポイントとなる。 のリズム・文脈や場面の中での働きとともに、詩を学習させる際の重 二 ﹃月下の一群﹄第一書房二九二五年九月。④∼⑥は同書による︶⑤ の機能は科学の言葉にある﹁論理﹂による概念形成と伝達とともに、 感情・思想等の概念や情感を形成し、伝達するという働きである。こ 詩の言葉︵言語︶の中核にあるのは﹁イメージ︵描写︶﹂によって、 I文学の中の﹁詩﹂ ㈲指導観 旅上﹂ 部。一九一七年二月・以下同じ︶⑨﹁竹﹂⑩﹁蛙の死﹂⑩﹁猫﹂⑩﹁ ⑩﹁春の感情﹂ ︵萩原朔太郎。詩集﹃月に吠える﹄感情詩社白日社出 oプリント二枚目。題は﹁詩の授業②−萩原朔太郎の詩を読むI﹂ ・一九三八年四月︶ 年九月︶⑨﹁また来ん春⋮⋮﹂’︵中原中也。﹃在りし日の歌﹄創元社 圖一四編の詩の中から、自分の判断で好きな詩を選べたか。︵挙手︶ ︱それぞれの詩がもつ個性に、生徒は興味関心を示したか。︵授業態度︶ ㈲評価 ㈱指導計画︵2時間扱い。具体的発問は次章参照︶ 圀朔太郎の詩の個性と表現上の特質に気づかせる︵省略︶ ことを知らせる。 念︶と事柄︵イメージ、描写︶の関係に注意すると、詩がよくわかる 圀詩は﹁感動︵感情・思想︶﹂の表現形式であり、﹁感動﹂の中核︵観 一詩を読む魅力と楽しさに気づかせる ㈱指導目標 ㈲中学・高校における朔太郎詩の教材化︵省略︶ 表現の楽しさ等に気づかせるステップとなる。 い。自己表現の一方法としての詩、テーマのひろがり︵多様性︶、 高校二年生にとっては既知の事柄が多いこと等によってわかりやす 告・説明という形式をとることが多く、テーマがとらえやすいこと、 ﹁耳﹂ ︵ジャンーコクトー︶⑥﹁Iフボー橋﹂ ︵ギイヨームーアポリ ネール︶⑦﹁春の河﹂ ︵山村暮鳥。﹃雲﹄イデヤ書院・一九二五年一 言葉の本質的な要素である。 月︶⑧﹁寂しき春﹂ ︵室生犀星。﹃抒情小曲集﹄感情詩社・一九一八 ﹁イメージ﹂による概念形成と伝達という詩の言葉の特質は、言葉 - 293 - 佐藤:詩の魅力と「読み方」を教える授業 l詩について、感想を述べることができたか。︵感想文−二日後提出︶ マ﹀ 現・描写︶ [清濁 12]では、思いやりがわかる表現に二ヶ所、傍線を引いてみよう。 ︵しわを2ほんすくなくかいた/でも、ぼくはだまっていた︶︿詩の表 では、□の中に﹁思いやり﹂と書いておこう。︵プリントの各詩の下 ニ、授業の実際と考察 発問の生徒の理解︵感想文︶を中心に、授業の概要を述べてゆく。 きっと、いしい君という子は、おばあちゃんが大好きなんだろうな れて、ほのぽのしているところが好きです。 L いしい君の、おばあちゃんに対する優しさとか思いやりとか感じら ︿生徒の感想﹀︵感想文からの引用である︶ に□を書き込んである。詩のテーマを意識させるためである。 緊張を解き、授業への心構えをつくってもらうために、授業前に次の諸 点を説明した。 ①指名するが、心はリラ。クスして率直に答えるように、②間違いは成 内容について。④授業後、詩の人気投票︵挙手︶を行うので、自分の好き あと思いました。︵女子︶ 長のために不可欠、間違いを恐れないこと ③﹁二時間の授業の方法と な詩を選ぶこと ⑤授業では一人一人にゆっくり感想は聞けないので、感 とても感じられるので、読み手としても素直に受けとめることができ Z 詩全体に、全然飾り気がなくて、さとし君の素直で純粋な気持ちが 想文︵後日提出︶を出してもらう。読むのが楽しみであること等である。 0児童詩の方法と親しみやすさ︵詩三編−①②③−︶ る。本当に、ありふれた日常生活のIコマなのに、こんなに新鮮に優 ひたいをかぞえたら しわがいっぱいある おばあちゃんのかおには もっとしわがふえた わらった そしたら とってもうれしそうに かいたら おばあちゃんは しわを2ほんすくなく 代りに、金歯や銀歯なんて書いてあったら、楽しくて、かわいいのに と考えてみたけれど、やっぱり同じふうに書いたのでは⋮⋮。しわの いても心が和む。もし、これがおじいちゃんだったらどうだったかな おばあちゃんに対する″思いやり″が深く深く感じられて、読んで しく、おもしろく書かれているのに感動した。 ふといのが 12ほん って思う。でも、﹁しわという題材﹂からも、さとし君の優しさがひ ①おばあちゃんのしわ^いしいさとし’6歳゛ おばあちゃんのかおを でも ぼくはだまっていた しひしと伝わり、心が暖まる気分になった。︵女子︶ かみにかいた このように、特別な表現が使われている訳でもなく、読んでいても何 a ﹁しわを2ほんすくなくかいた⋮⋮/でも、ぽくはだまっていた﹂。 げない詩のようなのですが、それなのに作者の心の温かさがよくわる 範読を一回行い、発問を中心に授業を進めていった。︵どの詩も必ず範 読する。詩が多く時間の関係もあるので、範読後各自にI∼二回読ませた ︿解説﹀ った。︵男子︶ のは④∼⑩の詩。以下、読みについては省略する。︶ 範読中に、生徒達の微笑がもれる。後ろで顔を見合わせている隣同志の [清濁ぼ] いしい君は6歳です。とてもユーモラスな詩です。では聞きます。 いしい君は、おばあちゃんをどう見ていますか?︵バカにしている・思 三 いやりをもってみていると聞き直す。思いやりという答え。︶︿詩のテー ― 292 − 女子がいる。あまりに簡単な発問︵︱・2︶で、すぐに②へ移ったためか、 四 ﹁≪B<m│何歳だと思いますか?︵三名に指名、小学校六年生、中学二年生、 態度にあるが、本人はユーモア等と意識しないで、大まじめに﹁でも、ぽ この詩の特徴は、無論、思わず笑顔がこぼれるいしい君のユーモラスな 上手に表現しています。﹁初恋のせつなさ﹂と書いておこう。 小学校五年生なのに、言葉にうまく言い表わせない不思議な感情を、 きの声、互いに顔を見合わせている︶ ︿作者1年令・経験﹀ 一九歳という答え。一一歳・小学校五年生というと﹁エーノ﹂という驚 くはだまっていた﹂と口をつぐむ︵?︶ところが、大層愛らしい。また、 ︿生徒の感想﹀ 呆気にとられ、あわてて何やらプリントに書き込む男子もみられた。 おばあちゃんへの好意・愛情を″好き・優しい″等の感情を表わす言葉で に鮮明に、愛情が表現されているのである。 ことがそのまま書いてあるだけなのに、なぜか不思議な気持ちになっ キドキして﹂だとか、﹁はずかしい﹂だとか、ごく普通に思っている L 初めて恋をしたということが非常によく伝わってきた。﹁むねがド 1・2の感想にみられるように、この詩のもつ肯定的な人間観、あたた たのは楽しかった。 まとめず、″しわ″についての報告という形で具体的に描いたために、逆 かさ、子供の愛らしさ、身近さ等への感銘は多かった。詩の表現を通して、 また、その人を思う気持ちが、﹁太陽﹂を使って強烈に表している 所など、とても小学五年生の子が作った詩とは考えられなかった。 ドキして いつでもどこでもむねがドキ あの人をみると あの人にちかづきたい 太陽の光よりも あなたがまぶしい ない ︿解説﹀ ︵女子︶ 何よりも、﹁なかよくなりたい﹂という一言がすごく気に入った。 持ちがわかる。 ことを真剣に思っていることが、この詩の中からつたわってくる、気 つには心理小説イコール恋愛小説として具体化されてきたことからも、よ く知られていることである。 ― 291 ― 生徒の人間観と共鳴作用をおこしているのである。また、″しわ″への着 目による感情の表現という観点は、この詩を通して現実の見方を学ばせて ︵男子︶ も、初恋だけではなく恋はいつでもこの詩のようだと思います。 大変気持ちがよくわかるからです。この詩の題は﹁はつこい﹂だけど Z 読んだ時に、思わずにっこりとしてしまいました。なぜかというと いる。3の感想を読むと、﹁論理﹂の言葉と異なる﹁イメージ﹂による文 学的表現の特性等に気づかせられる可能性を強く感じさせられる。すなわ ち、日常語の組み合わせによって、比喩・暗示・象徴・ユーモア・皮肉等 の日常的実感︵そのリアテイ︶を表現する特質のことである。 心がなごむ気がしました。︵女子︶ ついにげてしまう なかよくなりたい 範読の時も、息をつめるようにして集中して聞いている様子であった。 a 小学生のくせに言葉の表現が鋭いと思った。そして、″あの人″の こくはくしたいけどはずかし 心がいたい 人間の心理・感情の不思議さを典型的に表わすものが﹁恋愛心理﹂である ②はつこい ^鈴木静香゛ い はじめてのこい ︿詩のテーマ﹀ ことは、例えば、近代小説の発達史の中で、人間探究というテーマが、一 心の中はあのひとしかうつら いる一行は?︵心がいたい︶ ﹁I`漓川﹂鈴木さんの初めての恋のせつなさが、短い言葉でよく表現されて 愛知教育大学教科教育センター研究報告第13号 佐藤:詩の魅力と「読み方」を教える授業 とらえている点他、誰もが一度は通過する経験として、生徒の共感を呼ぶ この類型性はまた、普遍的共通性にも通じており、″痛み″の感覚として を恋人にたとえる表現やその他の一行一行は、まことに類型的ではあるが、 る。近現代文学の中の﹁恋﹂を知っている大人の眼から見れば、太陽の光 は初恋のI感覚を、いくつかの感情・気持ちを重ねるようにして表現してい その個性的認識︵と表現︶へ向かわせる機会になればとも考えた。この詩 ﹁はつこい﹂の詩のもつわかりやすさを通して、自己の内面の複雑さ、 いうこともあって、楽しげな集中している授業態度であった。︶ けるのではとてとも思われたが、国語に関心の高い、女子の多いクラスと ①②③のような詩から導入は、研究授業等に慣れた高校二年生の反挑を受 こう。︵詩の表現や多様な個性の魅力の一端に気づかせるためとはいえ、 ろうか。④﹁イニシアル﹂、⑤﹁耳﹂、⑥﹁きフボー橋﹂の詩を読んでゆ に、詩人達はどのような﹁表現の工夫﹂ ︵イメージの方法︶をしているだ さて、それでは、今度は、そういう個性的な感情・思想を表現するため むことが、詩人の詩を読む楽しさでもあり、また、難しさでもあるのです。 叫表現の個性︵翻訳詩三柵−④⑤⑥−︶ ④イニシアル ︵レーモンーラディゲ、堀口大学訳︶ 砂の上に僕等のやうに 海の響をなつかしむ 私の耳は貝のから 堀口大学訳︶ ⑤耳︵ジャンーコクトー、 のではないかと考えた。生徒の感想︵123︶は、そうした共感の諸相を 示しているものである。 ③﹁働くお母さん﹂ ︵道西聖彦︶については省略する。︵生活のために 必死に働く母のイメージは、生徒の生活実感からは遠いものに感じられて いるようで、好きな詩の中にも選ばれていなかった。︶ ︿①②③の詩の学習についてのまとめ﹀ 抱き合ってるイニシアル このはかない紋章より先きに 三つの話についての授業後、簡単に児童︵子供︶の詩の表現の特色と方 法という点から以下のようにまとめ、④﹁イニシ″ル﹂以後の詩を読む方 僕等の恋が消えませう。 詩は″自己表現″の方法であり、″感動″︵感情・思想︶の″自己表現″ 向を示した。 であること︵次のように板書︶。 ④﹁イニシアル﹂ ﹁t一t1 一﹂ ﹁イニシアル﹂とは頭文字のことです。では、この詩の場所︵背 11 景︶は?︵海岸・海辺・砂の上︶ ︿詩の背景﹀ ﹁おばあちゃんのしわ﹂﹁はつこい﹂ では、詩を書いた人は自分の″思いや │≪gCM21﹂この詩は恋の詩です。では、恋のはじめと終りのどっちだと思い ておこう。 ︿詩のテーマ﹀ ますか?︵終り︶□の中に、海岸での恋のはかなさ、終りの予感と書い り︵優しさ︶″″せつなさ″という感 情を表わす言葉をあまり︵ほとんど︶ 使わず具体的な事柄︵″しわ″″太陽 ︵砂の上に書かれた、抱き合っているようなイニシャルと比べられてい [潭屏 13]二人の恋のはかなさ、終りの予感は、何と比べられていますか? ﹁事柄︵イメージ・描写︶﹂のところ る︶ ︿詩の表現・イメージの構成﹀ の光″︶を描くことで表現していた。 にこそ、その人の感情・思想の﹁個性﹂ 海岸や避暑地での恋は、絶え間なく打ち寄せる波に崩れるより先に、 二人の恋が終りそうという詩です。作者のラディゲは、フランスの詩人 が出る。だから、詩人の詩はほとんど ﹁事柄﹂ ︵イメージ︶だけの詩です。感情の説明のないイメージの詩を読 五 − −290 で小説家。一四歳で詩を書き、二〇歳で死んだ早熟な天才でした。 しひしと伝わってくる。 Z たった二行なのに、作者の広大な海をなつかしみ、慕う気持ちがひ 六 ⑤﹁耳﹂ 自分の耳を貝殻にたとえる巧みな技法に感心したが、それよりも、 何よりも、海と自分が一体化した感じが私の心を捕えたのだと思われ ﹁耳﹂はこの詩で何にたとえられていますか?︵﹁貝のから﹂の くるのを知っているでしょう。貝殻にとっては、海は昔なつかしい故郷 海辺で拾った巻貝等の殻を耳元へもってゆくと、海の響きが聞こえて ︿イメージの構成﹀ ぐにわかった生徒が何人かいて、ささやきあっている︶ に共通しているもの︵こと︶は? 話し会ってごらん。︵音・響︲︱す る方法、そのためのイメージの構成等の魅力と方法に気づいてほしいと思 という短い表現の中の暗示性︵象徴性︶、イメージによって﹁思想﹂を語 かし、初めてこれ等の詩を読む生徒がほとんどのようであった。二∼四行 堀口大学の名訳で人口に胎灸したラディゲとコクトーの二編である。し ︿解説﹀ した海が、彼にそう書かせたのだろうと思う。︵女子︶ 難しいのによくできている。ジャンーコクトーは、海を愛し、その愛 る。これだけの短文で自分の今の心境を全て表現してしまうところが、 ︵ノスタルジア︶なのです。海の思い出を忘れられなくて、貝殻は空に っての教材化である。 ではヽ﹁貝のから﹂の形以外にヽこの詩を読んでヽ耳と貝のから なっても、海の響きをいっぱい秘めているのかもしれません。 の詩についての効果な導入になると思われる。 というわかりやすさは、特に詩が苦手で嫌いというような生徒にも、詩人 しゃれたテーマの扱い方︵エスプリ、ウィット︶、難語句もなく、短い □の中に﹁海へのなつかしさ﹂と書いておこう。 ︿生徒の感想﹀ L この詩はみじかいけど好きだ。’恋のはかなさが、イニシャルが波で ﹁イニシアル﹂ 消されてしまうことに結びつけて書いてあるのでよかった。︵男子︶ z 一枚目のプリントの中で一番印象が強かった。海岸での恋のはかな さという先生の説明を聞いて、﹁そういえばそうだなあ﹂と思った。 とてもきれいな詩だと感じた。イニシアルとか紋章、消えませうとい う言葉の響きがいいと思う。︵女子︶ a 何ていうか、この詩にひきつけられる何かがある。新鮮で、妙に魅 力的で、私は感動しました。︵男子︶ ﹁耳﹂ L たった二行の詩から、たくさんの事が感じられた。目にまるで、こ の風景が映っているようであった。耳と貝という実際はちがうものを、 ″海″という一つのものでつなぎ合わせていて、すごくふつIの詩な のに、考えさせられ、何を言いたいのだろうかって思いました。︵女子︶ ― 289 ― 形︶ ︿詩の表現・イメージの構成﹀ 愛知教育大学教科教育センター研究報告第13号 大きい﹂は、文字通りの″希望″の裏に″希望・期待″が大きい分だけ 私の失望の悲しさは深いのだという意味が表現されています。 [漬溝 13]過ぎた時間・二度とかえらぬ恋と重ねられている風景は?︵フラ ンスはパリ、ミラボー橋の下のセーヌ河、その水の流れ←象徴︶ 象徴になっていることに気づかせ、﹁象徴﹂と書き込ませた。 ︿詩の表現・象徴﹀ この詩には、アポリネールがピカソの紹介で出会った女流画家マリー つてゆくことを強調している表現を□で囲みなさい。︵日も暮れよ [腸満 14]過ぎた時間、二度とかえらぬ恋が刻一刻と移り変って、過去とな ・ローランサンとの激しい恋と別れが描かれている。マリーとの激しい 鐘も鳴れ/月日は流れ 私は残る︶ ︿詩の表現・強調﹀ ﹁㈲鼎 1﹂こういう繰り返しを英語で何と言うか?︵リフレイン。単なる知 15 識でなく、詩の表現構造の中で、リフレインという技法を位置づけたっ 恋の後︵四年半後︶別れなければならなかった失恋の悲しみがうたわれ、 シャンソンにも唄われている有名な詩です。□の中に﹁失恋の悲しみ﹂ もりである︶ ︿詩の表現・リフレイン﹀ ︿生徒の感想﹀ と書いておこう。 ︿詩のテーマ﹀ L この作品は、とても風景が想像できたのでいいなあと思いました。 強調ということで″リフレイン″という言葉がとても印象に残ってい ﹁無窮の﹂は″永遠の″という意味。﹁疲れた無窮の時﹂の﹁疲れた﹂ /疲れた無窮の時が流れる︶ ︿詩の展開﹀ ます。とても心がしみじみとした感じになります。それは、自分の心 い﹂というのが、失恋︵失望︶の心の痛みが伝わってくるように思え わってくるように思えます。﹁生命ばかりが長く/希望ばかりが大き 初めは恋のうれしさから悲しみへと変ってゆくのが、しみじみと伝 ます。 は″ものうい恋の気分″のこと。まとめると、他では刻一刻と時間は進 表現している二行を□で囲みなさい。︵生命ばかりが長く/希望ばか たいのに人生の時間は虚しく長く、そして、失望ばかりだということを 日が流れようが、自分は変らない。恋した相手のことを一途に思って 楽しかった日々は帰ってこない。日が暮れようが、鐘が鳴ろうが、月 のうちに水が流れていって、二度と同じ水は流れないように、二度と ― 288 − 過ぎ去った時間、二度とかえらぬ恋、そして、その思い出に生きてゆ こうというアポリネールの思いが語られています。 かつて、恋人と会っている場面は?□で囲みなさい。︵手と手 んでいても、二人にとっては、永遠に終ることのない恋と思われた、そ は変ってもまわりの風景等は変らないでいるからです。︵女子︶ をつなぎ顔と顔を向け合はう/かうしてゐると/われ等の腕の橋の下を ういう時間の気分のことです。︵アイロニカルな﹁疲れた無窮の時﹂の りが大きい︶ いる⋮⋮。逆な言い方をすると、自分がどれだけ大切な恋を失くして セーヌ河にたとえていたのが良かった。Iフボー橋という現在を一瞬 Z とても、失恋の悲しみが出ていると思いました。特に、自分の恋を では、﹁生命﹂に線を引き″人生″と、﹁希望﹂に″失望・悲しみ″ も、日は暮れるし、鐘は鳴る、いつも︵昔︶と何も変わらないという 七 と書いて下さい。この二行は、﹁生命﹂←人生のこと、﹁希望ばかりが ニュアンスは理解が難しいので、こちらから説明した︶ ﹁t㈲ 1﹂ではヽよく聞いて下さい。燃えるような恋、そういう時間を生き 12 佐藤:詩の魅力と「読み方」を教える授業 一研究報告第13号 愛知教育大学教科教育センタ-研究報告第13号 ことが、一層、むなしさというか孤独を感じさせます。︵女子︶ また、こういうリズムの良い詩を書くのには、″リフレイン″を使 てゆく、そういうところがロマンチックに頭の中に浮かびます。 はやい時間の流れの中に、いろいろな思いがセーヌ河と一緒に流れ いからです。 ゐないのか ながれてゐるのか 春の河は たっぶりと ⑦春の河^山村暮鳥゛ さぴしいぞ 越後の山も見ゆるぞ あをぞらに うつうつまはる水ぐるま したたり止まぬ日のひかり ⑧寂しき春^室生犀星゛ か、比べながら読んでゆきましょう。 えばよいのかと思いました。この詩の中で一番印象に残っている部分 ういてゐる a この詩は萩原朔太郎以外の中で、一番いいと思いました。調子がい は﹁生命ばかりが長く-﹂というところです。︵女子︶ 藁くづのうごくので 野にいでてあゆめぱ いちにら 一日もの言はず ﹁Iフボー橋﹂は、授業で扱った一四編中︵朔太郎詩を除く︶、﹁おば ︿解説﹀ それとしられる 菜種のはなは のよろこび・うれしさという詩人の心情としてとらえた意見も出た。こ − −287 あちゃんのしわ﹂ ﹁また来ん春⋮⋮﹂とともに最も人気のある作品であっ た。パリ︵フランス︶、セーヌ河、別れる恋人達のイメージ⋮⋮、こうじ いまははや 遠きかなたに波をつくりて ﹁ttm﹂春の河は流れている?いない?︵流れている︶なぜわかる?︵﹁ しんにさびしいぞ たエキソチックでロマンチックな舞台・イメージヘの親しみやすさ、アポ ら興味をひきやすい。物語風の劇的構成の表現を通して、河の流れと時間 リネールとマリー・ローランサンとの恋という事実が背景にあること等か ⑦﹁春の河﹂ いてほしいと考えたのである。生徒の感想文中の傍線部分は、そうした点 ういてゐる﹂以下二行によって︶ ︿詩の表現・描写﹀ 慕、そのギャップの中に描かれる生の孤独、詩と人生の結びつき等に気づ ・恋の比喩・象徴・リフレインの効果等や、自然の変化流転と変わらぬ思 をよく理解しているものということができる。 │≪K1 E﹂ <こ Mの 2詩は一言でいうと、春のどんな様子をいったものか?︵のん れもよろしいと評価した。﹁春のおだやかさ﹂とまとめたのは、⑧⑨⑩ びり、ゆったりした雰囲気︶ ﹁春のおだやかさ﹂と書いておこう。︵春 ④﹁イニシアル﹂、⑤﹁耳﹂、⑥﹁ミラボー橋﹂は詩人が自分の感動を の詩の個性を際立たせるために、日本的な美意識﹁春﹂←おだやか・の 匈個性の多様性︵﹁春﹂の詩四編−⑦⑧⑨⑩−︶ ージ︶によって感動の﹁個性﹂を表わしていることがわかりました。イ 表わすのに、感情を表わす言葉はなるべく使わず、具体的な事柄︵イメ んびりとの図式を確認しておきたかったからである。︶ ︿詩のテーマ﹀ ﹁漬旧﹂ 11﹂ 一言で言うと、どういう気持ちを表現した詩ですか?︵さびしさ I詩中から抜き出させる︶ ︿詩のテーマ﹀ ⑧﹁寂しき春﹂ メージの構成やリフレイン、象徴等の方法も勉強しました。それでは今 度は、⑦﹁春の河﹂、⑧﹁寂しき春﹂、⑨﹁また来ん春⋮﹂、⑩﹁春の 感情﹂の詩を読んでゅきます。四編とも、﹁春﹂という共通のものを題 材にした日本の詩人の詩です。詩人の個性によってどのように異なるの 八 □以外の風景は明るいか、暗いか?︵明るいIこれは十分に 青春の重苦しさ・孤独と書いておこう。 この詩を書いた時、犀星は二五歳。故郷金沢での孤独をうたった詩です。 その部分を□で囲もう︵さびしいぞ/いまはや/しんにさびしいぞ︶。 ″春″は新しい出発とか、冬から春への新展開とか心のはずむ人も 気持ちは募り、﹁しんにさびしいぞ﹂と思う心が悲しすぎる。 濃く浮き立っている気がする。もの言わないで、心の内へ内へと迫る だバック︵背景︶の真ん中に、まるで、黒じみを持つ絵画のように色 天気も空気も環境も良い、そんな中で作者の気持ちが、明るく透ん 多い季節といえる。そこでとり残される人は、真の孤独なのだと思う。 はとらえにくかったようである︶ ︿詩の表現・イメージの構成﹀ りと流れているイメージで、日本的な春の美意識の側面を、よく表わして ︵男子︶ 空が晴れて、空気も澄んでいることがわかる部分は?︵ニケ所。 いる。 あをぞらに/越後の山も見ゆるぞ。/菜種のはなは/遠きかなたに波を が募る、さびしくなるってこと経験したことはないですか。雨の日曜日 また、﹁寂しき春﹂は犀星の屈折した孤独な心情が、美しい自然︵風景︶ ﹁春の河﹂は、遠く雪解け水を含んだ河の水が、暖い春光の中でゆった の方が、かえって落着いたりしてI。この詩はそういう感情を表現し との対比として描写されている点が特長である。これ等の﹁春﹂のとらえ ︿解説﹀ た詩です。﹁したたりやまぬ﹂ ﹁うつうつまはる﹂ ﹁一日もの言はず﹂ 方は、中原中也・萩原朔太郎の詩との比較によって、生徒達に表現とテー つくりて︶ ︿詩の表現・イメージの構成﹀ の部分的表現にも、周囲との違和感・心の重苦しさが出ています。 マの個性と多様性に気づかせる一つのきっかけとなるにちがいない。 空が晴れて、太陽が美しく照って⋮⋮、でも逆に不安や心の重苦しさ ︿生徒の感想﹀ [t漓m]この詩は一言で言うと、伺を表現した詩か︵あるいは、補足して ﹁春の河﹂ 授業では、この詩のイメージを﹁春のおだやかさ・よろこび﹂とし ていましたが、私自身はこの詩を読んで、ゆっくりとした気の遠くな るような時間の流れをまず感じました。 何となく、蕪村の﹁春の海終日のたりのたり哉﹂を思い出す。蕪村 の句も、春の海の一日のゆったりとした時の流れを表わしているから、 そう感じたのかもしれない。特に﹁ながれてゐるのか/ゐないのか﹂ の部分が、流れているんだけれど、ゆっくりすぎて人︵作者の︶眼に は流れがわからないという表現から、そう思った。︵男子︶ ﹁寂しき春﹂ この﹁春﹂は青春の孤独を表わしているということで、作者がこの 詩を書いた歳と年令の差はあるけれど、私達の年代にも通じる孤独が 描かれていると思う。年代にかかわりなく、誰でもが孤独をどこかで 知っているので、この詩はとても良いと思う。 九 ― 286 − を教える授業 佐藤:詩の魅力と「読み方」 愛知教育大学教科教育センター研究報告第13号 a 私は、この詩がとても気に入りました。親の子供に対する愛情を強 十 中也のどういう気持ちを表現した詩か-子供を失った哀しさ、つらさ︶ 強く感じました。私も自分の親にこんなに思われてるのかなあと思っ この詩では、春のイメージは五月の動物園での愛児文也との思い出に満 ︿解説﹀ て、ちょっと感動です。︵女子︶ て、断片的にアルバム写真のように子供との思い出を反擲 ている。 ちて、光輝く美しい︿生﹀と︿死﹀という喪失の二重のイメージをもつ。 子供を失ったつらさが″春のイメージと結びついている。そし ︿詩のテーマ︶ どこの﹁場面﹂を思い出していますか?︵動物園へ行った時のこと︶ るとしたら、この詩のどの表現へつづくか?︵冒頭の連︶︿詩の構成﹀ 動物園の描写は、文也の愛らしい︿生﹀とそれを暖かくみつめる中也の眼 也の悲しみを巧みに描き出している。生徒の感想にもみられるように︵2︶ 也独特の語り口︵リズム︶、妙に明るい表現に潜む︿死﹀のイメージ等が、 結局、悲しみの″説明々になっている作品ではあるが、放心したような中 末尾の﹁:⋮こは冒頭にもどって、何度もくり返しが続いてゆく。そ 末尾の一行﹁立って眺めてゐたっけが⋮⋮﹂の﹁⋮⋮﹂につづけ ︿詩の表現・イメージの構成﹀ の終わりのないリズムは、中也の哀しみのリズムである。一九三七年︵ う親の愛情︶の切実さ、哀切な喪失感、独特の語り口︵リズム︶等によっ ざし︵成長への期待︶が描かれている。切断された愛のテーマ︵子供を思 中也はこのショ。クで悲しみのあまりノイローゼになり、病院に入院し て、一四編、最も人気のあった作品であった︵感想文は一番多かった︶。 昭11︶年二月一〇日に文也という息子が二歳になる直前に病気で死ぬ。 ました。 ︿生徒の感想﹀ L 子供を失った後、精神の均衡を崩してしまったという話を聞いて、 この詩に興味をもった。これほど何かに思いこめるということに憧れ た。私に、失ってしまった時、泣けるものがいくつあるのか数えてみ ようとしたけど思いつかなかった。︵女子︶ Z この作品が一番気に入ったものです。中原中也が、本当に子供を愛 していたということが、率直に伝わってくるからです。この中でも、 ﹁春が来たって何になろ/あの子が返って来るぢゃない﹂という所が 好きで、本当は楽しいはずの季節が、子供を失ってしまったばかりに つらい春になってしまったようです。 ﹁象を見せても猫といひ/鳥を見せても猫だった﹂という表現で、 子供が動物園で喜こんでいて、その様子を見て、作者もうれしくなっ たんではないかと思いました。先生の説明で、その時、作者が病院に 入院してしまったという事を聞いて、もっとかわいそうになった。 ︵女子︶ ― 285 − かかる菌の類はあやしげなる色香をはなちて たとへば毒だけ へびだけ べにひめぢのやうなもの これを﹁感覚による表現﹂といいます。 聴覚化︶ ・香り匂いのあるもの︵嗅覚化︶等によっても表わしている。 という目には見えないものを、見えるもの︵視覚化︶ ・聞こえるもの︵ また藪かげに生えてほのかに光るべにひめぢの類。 ぞくぞくとしてふきだす菌 毒だけ そこにもここにも ひびきのやうだ 春がくるときのよろこびは あらゆるひとのいのちを吹きならす笛の 春がくる 春がくる だ﹂と、はじめにポンとだすなんて、やっぱり﹁個性的﹂だなあと感 いのに、萩原さんは、﹁ふらんすからくる咽草のやにのにほひのやう L 私は、﹁春﹂と言えば暖かい・花・小鳥の声ぐらいしか思いつかな ︿生徒の感想﹀ ︿詩の表現・イメージの構成﹀ ひとつの音色⋮⋮︶嗅覚︵姻草のやにのにほひ、あやしげなる色香⋮⋮︶ 視覚︵色香、光る、銀色の⋮⋮︶聴覚︵小鳥のなきごゑ、笛のひびき、 ﹁凛旧ぽ﹂では、視覚・聴覚・嗅覚の表現をそれぞれ抜き出してみよう。 ひねもすさびしげに匂ってゐる。 ︵詩の中の傍線、書き込みは佐藤。⑩の詩はこの状態で配布。︶ 山村暮鳥・室生犀星・中原中也にとっての﹁春﹂のイメージと、萩原 Z まず読んで、とても表現が面白いと思いました。﹁私のたましひは 授業は、作者の﹁生命感覚﹂のことがよくわかった。︵女子︶ じた。々ふらんす″の姻草をすったことがあるなんてモ・ターン。 朔太郎にとっての﹁春﹂のイメージはどのようにちがうだろうか。 ぞくぞくとして菌を吹き出す﹂というところがとても好きです。自分 の個性を菌・毒だけ・へびだけ等にたとえているのが面白いです。 私は、自分の考えとして個性を大切にして生きていきたい。自分を ︵明30︶の中で、﹁春﹂は時代の封建制への抵抗としての青春︵恋愛︶ 四月、出発、希望、入学式、卒業式⋮⋮︶島崎藤村は、詩集﹁若菜集﹂ とても﹁個性的﹂です。春というと、普通イメージされるのは?︵桜、 していますか?︵−=線部を読み説明︶ ︿詩のテーマ﹀ │≪ECM2﹂では、朔太郎の心の中心﹁いのち﹂は春になるとどうなると表現 きならす笛のひびきのやうだ︶ ︿詩のテーマ﹀ ﹁春の感情﹂にみる朔太郎の特異な美意識・グロテスクな表現は、朔太 ︿解説﹀ いです。この詩を読んでそんなことを思いました。︵女子︶ でも、自分というものは一人なのだから、自分らしさを大切にした はないかと思う時があります。 本当に個性を大切にしていていいのだろうか、一般的な方がいいので 私は高校生になり、個性を大切にしようと思いました。でも、時々、 - 284 - ﹁春の感情﹂は、朔太郎の個性によってとらえられた特異な春の表現 です。さらに、その表現を通して、朔太郎の生き生きとした﹁生命感覚﹂ を表わしています。 大切にして、自分の考えをしっかりと持っていたいです。そう思って 讃歌、そのシンボルとして表現している。しかし、朔太郎の﹁春﹂はど 郎の作品全体にほぼ一貫する点であり、私見によれば、潜在意識の中の不 いるからでしょうか、この詩の表現がとても好きです。 うだろうか?、また、朔太郎は﹁春の感情﹂を通して﹁生命感覚﹂ ︵朔 透明で曖昧な人間性の″本質感″を表現したものである︵ここでは詳細は 十一 太郎にとっての生きている実感︶を個性的に表現している。″いのち″ [凛澗 11] ﹁春がくるときのよろこび﹂を、どのようなものだと表現してい ますか?□で囲んだ部分をみて下さい。︵あらゆるひとのいのちをふ 佐藤:詩の魅力と「読み方」を教える授業 愛知教育大学教科教育センター研究報告第13号 三、まとめ 十二 省く︶。時代や伝統、日常性への批評にもなっているその個性的な世界は、 文学の言語操作や文学的表現によってのみ可能な日常的実感の表現︵例 えばユーモア、暗示、比喩、皮肉、象徴⋮⋮︶を、詩は本質的に備えた文 現実の世界︵春の風景、詩人の孤独や悲しみ⋮⋮︶の説明や写生にとどま らず、現実の″本質感″をより純化した形で表した象徴の世界となってい を読め、書けるようになるといったことと同じように、きわめて重要な国 芸である。詩の表現を楽しみ、﹁読み方﹂を体得することは、論理的文章 ﹁春の感情﹂は、朔太郎の詩の個性と、朔太郎詩の﹁読み方﹂を教える 語科教育の目標であると考えている。 の実感の中からのみ生まれるものであって、その逆ではない。以下、今回 しかし、文学的表現の意味や効果についての理解は、文学を読む楽しさ ための一典型として扱っているので、観点を示し、その非日常的な表現が 実は、″個性″そのものであること、非日常的表現という衣装を通して﹁ 生命感覚﹂を象徴的に表わしていることを知らせるものであった。 の実践をふまえ、確認できた詩教材指導についてのポイントを述べる。 の魅力、読む楽しさを体験させてやることの必要性。近現代詩の名詩鑑賞 L いろいろな表現の個性の詩︵表現・テーマーリズム他︶を読ませ、詩 L 詩は﹁感動﹂の表現としての一形式である。詩を読む観点としては二 ︿①∼⑩についてのまとめ︵口頭で以下の三点をまとめた︶﹀ ことが大切である。 分析主義というアカデミズムの厳密さは、その精密な実証性とひきかえ ちなみに、今回、一四編の詩の学習後、挙手による詩の人気投票︵自 つに分けて考えてゆくとわかりやすい。事柄︵イメージ・描写︶十感情 にした報告・説明の形によることが多いためである。 に、生徒達の学習意欲をそぎ落とし、結局、詩の″授業″嫌いをつくっ Z 事柄︵イメージ・描写︶の方法を工夫することによって、自分の感情 分で好きな詩を選ぶ。一人二編︶を行った。結果は次のとおりである。 てきたのではないか。児童の詩は一例であるが、生徒が喜びそうな詩を ・思想の個性、独自性を表現できるので、詩人の工夫の一つは感情は表 ︱位 ﹁また来ん春⋮⋮﹂ ﹁三フボー橋﹂ ︵各一五人︶ ・思想︵観念の中核︶の組み合わせである。①②③の児童の詩でみたよ 現しないで、いかに独創的なイメージ︵の世界、リズムも︶を構築する 2位 ﹁おばあちゃんのしわ﹂ ︵一二人︶ うに、児童詩のわかりやすさは、既知の体験による親近性、テーマの明 かにかかってくる。︵意識的な方法の工夫のみならず、無意識の﹁力﹂ 3位 ﹁猫﹂ ︵八人︶ ﹁旅上﹂ ︵九人︶ 利用し、生徒の実感にそった作品から、高度なものへ指導を向かわせる や、言語についての感覚等複雑な要素がからみあうことは無論である︶ 4位 ﹁イニシアル﹂ ︵六人︶ 確さの他に、感情︵テーマ、中核の観念︶と事柄︵イメージ︶をセ。ト 例えば、④⑤⑥でみたように、比較や異質なイメージの結合、共通な 最も人気がなかった詩⋮⋮﹁寂しき春﹂﹁春の感情﹂ ︵挙手○︶ は多いが、同じ″題材″でもテーマは詩人の個性によって異なることを うと?︶をとらえだ後で、イメージの構成や表現の特性を調べるという a 詩の﹁読み方﹂についての一方法として、詩の中核の観念︵一言でい ﹁発見する楽しみ﹂を残しておく。 Z 詳細に扱いすぎず、ポイントをおさえて、後は生徒本人に﹁読み﹂を もののクローズアップ、象徴・暗示、リフレイン等の方法があった。 知ることが大変重要である。⑦⑧⑨⑩の四編の詩の比較はそのこともよ a 題名イコールテーマという文学作品︵詩・小説︶の読み方をする生徒 くわかったと思う。 考え方は、詩の原理にもかなったもので有効である︵詳細は、注3の拙 ― 283 − 佐藤:詩の魅力と「読み方」を教える授業 稿を参照︶。 生方にも、御礼を申し上げる。 かい点にわたっての配慮や暖い御協力を得た。クラス担任や教科担任の先 という印象を生徒がもったり、図書館・学級文庫の利用が増えること等 a 読書意欲に結びつく積極的な態度の育成。具体的には﹁詩って面白い﹂ である。 おわりに 二学期が始まって一週間目、しかも、文化祭を一週間後に控えた気分的 にも落着かない時期にもかかわらず、生徒諸君は強い関心をもって授業を うけてくれた。 教科担任の先生に伺うと、二年生は一学期に教科書の中の詩を二∼三編 扱っただけ、一年時もほぼ同じ状況だそうである。これは高校の国語教室 でのごく普通の詩教材の扱われ方といっていいであろう。 授業を行ってみて、反省点も多いが、やはりと思われたのは、教材の多 さであった。生徒の感想の中にも﹁もっとゆっくり読みたかった﹂ ﹁考え る時間をもっととって、詳しくやりたかった﹂というものがみられた。一 時間に四編位が妥当であったと考えている。 めて﹂﹁朔太郎って面白い﹂等という印象の他に、次のような感想もあっ しかし、生徒の感想文の中に、﹁こんなにたくさんの詩を読んだのは初 て、それ等を読むと、私に対する﹁挨拶﹂の部分を含むものとは知りつつ も、私が何とか詩の魅力に気づいてほしいと願ったことはわかってもらえ たようだし、また、研究のために﹁利用﹂された等との意識はもたれなか ったようで、ほんの少しだがほっとしている。 o 大学の先生と聞いて、難しい授業をやるのかなと思っていたけど、 実際、授業を受けてみて、わかりやすかったし、詩というものが少 しはわかるようになったと思う。これからも、機会があったら、授 業をやっていただきたいと思います。︵女子︶ 附属高校での授業にあたっては、校長外狩先生、甲斐先生に便宜を図っ ていただいた。副校長太田先生・国語科主任横井先生には時間割はじめ細 − −282