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“Metallurgy”再考

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“Metallurgy”再考
巻頭言
“ Metallurgy ”再考
─ リサイクル社会構築のフロントランナーをめざして ─
大阪大学大学院工学研究科
マテリアル生産科学専攻 教授
田中 敏宏
Metallurgy(メタラジー)という語は「 冶金学(や
り,製品を輸出するという形式が確立したため,
「天
きんがく)
」と翻訳でき,現在は新常用漢字にあるも
然資源」が少ない国として一般には認識されている。
のの,この漢字を読める若い世代は非常に少ないと
しかしながら,この「天然資源」から素材を経て付加
思われる。Metallurgy の歴史は古く,青銅器・鉄
価値の高い工業製品となった後,日本国内にもかな
器時代から現代に至るまで,その時代の先端を走っ
りの量の有価金属元素が「都市鉱山」として蓄積され
た社会や地域ではその社会の発展の初期において
ている。今では「都市鉱山」という表現は珍しくなく
Metallurgy が発展し,その社会の近代化のために必
なったが,筆者が「都市鉱山」という名前を初めて聞
要な金属素材を供給する役割を果たしていることか
いたのは今から 25 年ほど前であり,東北大学の選
ら,それらのいずれの地域も Metallurgy の知識と技
鉱製錬研究所を訪問した際に南条道夫先生が機能性
術を活用した経験を有している。Metallurgy は,一
材料のリサイクルに関するご講演をされた際に使わ
般的には天然鉱山に眠る鉱物から有価金属を抽出す
れ,初めてその表現を耳にしたときの新鮮な感覚は
る技術として定義されている。金属材料が工業の発
いまだによく覚えている。南条先生は惜しくも若く
展には不可欠であるために,いまでも先進諸国にお
して亡くなられたが,その先駆的なお考えにはいま
いて Metallurgy は重要な一工業分野として大きな規
だ感動している。また最近では「レアメタル問題」
模で産業活動が行われている。ただし,それらの金
と呼ばれ,先進工業製品に欠かせない色々な金属の
属を素材としてさまざまな機能性材料が開発され,
鉱山が局所的な地域に偏っているために,資源の流
さらにはそれらの機能性材料を使ってより高い付加
通が 滞った場合には日本での工業活動に支障を来す
価値のある工業製品を創りだすことに注意が向けら
ことが 懸念されている。一方,日本の「都市鉱山」に
れるため,基盤産業として極めて重要であるが,一
おける有価金属の蓄積量については天然資源の量と
般の人々に対して Metallurgy は必ずしも目立たず,
比較しても,世界でトップクラスに日本がランクさ
上記の歴史的背景から古典的なイメージを持たれる
れている金属元素も多数存在する。日本には天然資
ことが多い。
源は少ないが,人工物を含めた有価金属元素の蓄積
我が国においても上記のことが当てはまるが,さ
量は単位面積当たりでは相当高いと思われる。さら
らに日本の場合には天然鉱石を輸入して素材を作
に,「レアメタル」問題に対処するために,
「 コモン
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日立金属技報 Vol. 31(2015)
メタル」と呼ばれる地殻内に多く存在する身近な元
誘導を発見し,発電機とモーターが開発され,世界
素・金属成分をレアメタルに置き換えて,従来の工
中で活用されている。もし身近な鉄が 磁性を有して
業製品と同格以上の特性を持った製品を作ろうとい
いなかったら? と考えると随分異なった社会が発展
う動きもすでに活発に行われている。
したように思われる。このように,磁性を有する材
このような背景を考えると,「天然資源」から有価
料は広く社会に浸透した不可欠な存在であるがゆえ
金属を抽出する Metallurgy だけではなく,
「都市鉱
に,その機能を有する高付加価値材料の再資源化は
山」に存在する有価金属の抽出・分離・再資源化をも
持続性社会構築を先導する役割を果たす可能性が非
めざした「21 世紀型の Metallurgy(メタラジー)」は
常に高いと思われる。
先進国における工業分野の新たな目標の一つとして
いま,日本は人々を惹きつける目標となるべきも
大いに掲げられるべきではないかと考えている。上
のを模索している状況にある。リサイクルは経済性
述のように Metallurgy という言葉が古典的なイメー
も問われるために,ビジネスとしては難しいという
ジをもたれるため,それを避ける傾向があるのかも
話が多く,ついつい素晴らしい技術も世に出ること
しれないが,都市鉱山を含めた「鉱山」からの有価
なく埋もれてしまうことも多いが,付加価値の高い
金属の抽出を新たな Metallurgy の定義とすれば,こ
材料やそれに含まれる希少元素を対象とすれば,経
れほど 端的にたった一語でこの分野を表現する言葉
済性が問われるリサイクルの世界にあっても,再
は他には見当たらない。若い世代にはむしろ新鮮な
資源化社会構築を先導するチャンスになりうると
響きさえ与えるかもしれない。
考えられる。世界に誇る機能性材料の開発と併せ
一方,素材のもつ機能の中で最も普及しているも
て,その再資源化の技術開発が持続性社会構築の
のは何だろう? と考えると,「 磁性」はそのトップ
フロントランナーとなり,未来社会の構築に大いに
クラスに位置付けられる可能性は十分にある。磁石
貢献することを期待している。その際,
“ 21世紀型
という特性は,非常に限られた元素を含むものでし
Metallurgy”という言葉が一つのキーワードとなって
か作れないが,その一つである鉄が 磁性という特性
若い世代をも大いに惹きつけ,未来社会構築の原動
をもっているがゆえに,磁性が身近なものとして見
力となることを切に願っている。
出され,電磁気学が生まれ,またファラデーが 電磁
日立金属技報 Vol. 31(2015)
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