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既存住宅の流通促進に関する研究会 研究報告書 概要版

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既存住宅の流通促進に関する研究会 研究報告書 概要版
既存住宅の流通促進に関する研究会
研究報告書
概要版
平成19年1月
社団法人
不動産流通経営協会
はじめに
我が国の住宅政策は、平成18年6月に施行された「住生活基本法」により「ストック重視」、
「量から質」への政策転換が本格的に図られることとなり、さらに、同法に基づき平成18年9
月に策定された「住生活基本計画」の中で、既存住宅の流通促進が住宅政策の目標として明確に
位置付けられることになりました。
当協会としては、このような状況を受け、不動産流通業界団体の立場から既存住宅の流通促進
に寄与する、市場動向の実態に基づく具体的な調査、検討等を行う必要があると判断し、今般、
各界の先生方のご協力もいただいて、「既存住宅の流通促進に関する研究会」を設置し、短い期
間でしたが集中的にご議論いただき、今般、報告書として取りまとめました。
ご案内のとおり、既存住宅、いわゆる中古住宅の流通に関しては、継続的に拡大傾向を示して
いるというのが、業界関係者の営業現場での実感ですが、その数量的な把握が積年の難しい課題
でした。また、諸外国と比較した場合、流通促進に関する制度整備等がまだ充分とはいえない状
況であることも事実でしょう。
本研究会では、まず、既存住宅の流通促進を図るための基本事項の整理、検討等を行うことを
主目的として、次の事項に関して、市場実態を踏まえた調査、検討結果の報告および提言の取り
まとめを行いました。
(1)まず、基礎データとなる「既存住宅の流通量および指標」についての調査、検討に基
づく、「FRK 既存住宅流通指標」の提案およびその継続的な補足、公表の実施。
(2)次に、既存住宅流通促進の一つのポイントであると思われる「既存住宅の住宅検査」
に関する、法定の既存住宅性能表示制度および民間の任意の住宅検査の両者についての実
態調査、ユーザー・アンケート調査等の実施による、住宅検査の今後のあり方についての
提言の取りまとめ。
(3)最後に、住宅の質と価格との関係について、実際の取引データに基づく定量分析、さ
らには、米国と日本の具体的な価格査定事例の比較による「快適な住まい」等の居住性に
関する評価のポイント等に関する分析、検討等の実施。
これらの各テーマは、いずれも極めて複雑で、難しいものであり、今回の報告は、いわば、基
礎整理の段階のものともいえ、今後、さらに継続的な課題の掘り下げ等を行い、加えて本研究会
の検討テーマとはしなかった税制、金融面等のその他の課題も含めたトータルな検討、研究等を
進めていく必要があります。本研究会の報告が、既存住宅の流通促進に向けた今後の各種研究、
政策の立案・実施の一助となれば幸いであります。
最後に、短期間の内に多面的なご議論をいただいた研究会の委員各位、さらに各種の多大なご
協力をいただいた関係者各位に心よりの謝意を表する次第です。
平成 19 年 1 月
社団法人
不動産流通経営協会
専務理事
内藤
勇
既存住宅の流通促進に関する研究会
委員名簿
座
長
浅見
泰司
東京大学 空間情報科学研究センター
委
員
中川
雅之
日本大学
委
員
清水
千弘
麗澤大学 国際経済学部
委
員
保倉
俊一
(社)カーテンウォール・防火開口部協会
委
員
松 村
委
員
村林
委
員
内 籐
徹
経済学部
教授
助教授
株式会社 ニッセイ基礎研究所
正次
教授
専務理事
金融研究部門上席主任研究員
株式会社 価値総合研究所 取締役・主席研究員
勇
社団法人
不動産流通経営協会
専務理事
順不同(座長除く)肩書きはH18 年 9 月現在
オブサーバー
国土交通省関連部局担当官
社団法人
不動産流通経営協会の各委員長
(事務局)
社団法人
不動産流通経営協会
(調査業務委託先)
株式会社
価値総合研究所
■研究会の開催日時
第一回 平成 18 年 9 月 20 日
第二回 平成 18 年 11 月 14 日
第三回 平成 18 年 12 月 13 日
目
次
I.
要旨.......................................................................................................1
II.
概要編 ............................................................................................... 11
1.
調査の背景と目的............................................................................................................. 11
1-1
調査の背景 ............................................................................................................................................ 11
1-2
調査の目的と構成 ............................................................................................................................. 16
2.
既存住宅流通量の把握及びFRK既存住宅流通指標の提案 .......................... 18
2-1
既存住宅流通量・流通指標の考え方について ................................................................. 18
2-2
既存住宅流通量の推計結果 ......................................................................................................... 24
2-3
本研究会における既存住宅流通指標 ..................................................................................... 29
3.
既存住宅の流通促進に向けた住宅検査の課題と今後の方向性 ................... 32
3-1
本調査での検討内容 ........................................................................................................................ 32
3-2
住宅検査の種類と活用実績 ......................................................................................................... 32
3-3
既存住宅性能表示制度と民間任意の住宅検査の概要 .................................................. 33
3-4
既存住宅性能表示制度・民間任意の住宅検査の活用の実態 ................................... 34
3-5
既存住宅の流通促進に向けた住宅検査の方向性 ............................................................ 40
4.
住宅の質と価格評価の関連性 ..................................................................................... 42
4-1
住宅の質と価格の関係についての定量分析 ...................................................................... 42
4-2
日米の既存住宅売買における価格査定について ............................................................ 53
4-3
今後の課題等 ....................................................................................................................................... 59
I. 要旨
本研究会による研究成果の要旨は以下のとおりである。
■ 多様な主体・多様なライフスタイルによる取得も含めた既存住宅流
通量の推計及び多様な視点からの検討による「FRK既存住宅流通
指標」を作成。今後も各年リリースを継続。(P3~P5参照)
本研究会では、多様なライフスタイル実現のためのセカンドハウスの買い増し
や法人による取得などを含めた既存住宅流通総量の推計及び既存住宅流通指
標の検討を行っている。その結果、既存住宅流通市場は順調な成長を見せ、平
成15年時点の既存住宅流通量は約44万件、新築着工数を含めた総流通量の
約28%を占めている。
「FRK既存住宅流通指標」とは、「客観性」、「安定性」、「継続性」、「速
報性」、「再現性」及び米国との同定義による比較を可能な限り担保すること
に重きを置き検討を行ったものである。
■ 住宅の質をわかりやすく適切に表現・伝達し、消費者の安心感を高
めるための住宅検査業界の仕組みづくりが必要(P6~P7参照)
消費者の安心感を高め、既存住宅の流通を促進させるためには、市場で比較で
きる質の高い共通の情報を有した住宅ストックを増やし、その情報を適切に消
費者に伝達することが必要である。そのためには住宅検査の役割が重要とな
る。
本調査では、その実態に関する情報量が少ない既存住宅の住宅検査の状況を把
握するために、主要な検査機関へのヒアリング調査及び実際に検査を受けたユ
ーザーを対象としたアンケート調査を実施している。その結果、既存住宅の流
通の場では、法定の既存住宅性能表示制度ではなく、民間検査機関が任意で実
施している住宅検査の活用頻度が高く、それに対するユーザーの満足度も高い
ことが明らかとなった。
今後も民間任意の住宅検査の活用頻度は高まることが想定されるが、既存住宅
の円滑な流通促進及び住宅検査市場の確立のためには、住宅検査業界における
統一検査基準、倫理規定、住宅検査員育成プログラムの作成など、消費者の安
心感を高め、住宅ストックの質の向上につながる仕組みづくりを公的機関等の
支援も仰ぎつつ検討を行うことが必要である。
住宅検査業界における検査項目、検査水準等の業界自主ルールの作成
住宅検査員の育成プログラムの作成
住宅検査結果における責任の所在の明確化及び住宅検査会社の責任保険
制度の検討
新築住宅性能表示制度の普及促進
1
■ 【定量分析】質の高い分譲マンションは資産価値が維持されやすい。
尚、戸建住宅でも築後年数を経ても、一定程度、建物価格が維持さ
れている。(P8~P9参照)
■【事例分析】日米ともに取引事例比較法が主流。なお、米国ではエリ
アにより評価の視点、増減額の基準等が異なる。(P10 参照)
市場の取引データを用いた定量的な分析の結果、構造が堅固で品質の高い分
譲マンションは資産価値が維持されやすいことが検証された。
また、戸建て既存住宅価格(土地・建物一体価格)に占める建物価格の割合
については、新築時では約 34%、築 20 年の物件では約 11%という分析結果
が得られている。
日米ともに、取引事例比較法が主流であるが、敷地面積にゆとりのある米国
では、面積単価により単純に加減することがない。また、見晴らし、地下室
の有無等、そのエリア特性、需要等により、評価される視点も増減額の基準
も地域によって異なっている。一方、我が国では敷地面積が面積単価として
直接的に反映されるほか、敷地の形状や道路付け等、細部に渡って評価され、
さらに街並み等も大きな査定ポイントになっている。
2
【要旨
内容説明】
□ 既存住宅流通量の推計とFRK既存住宅流通指標
本研究会における既存住宅流通量及び流通指標とは、我が国の住宅政策への示唆とな
るものであることに加え、実際の不動産流通現場の実態に即し、不動産流通業界とし
て捉えるのに適したものであることが重要となる。
さらに、「客観性、安定性、継続性、速報性、再現性」を可能な限り担保し、海外と
も同定義で比較できることが本調査の大きな目的でもある。
住生活基本計画における成果指標では、既存住宅流通量を住宅土地統計調査の公表値
である、「既存住宅を取得し、住宅土地統計調査時点で居住が継続されている戸数」
が用いられている。しかし、多様なライフスタイル実現のためのセカンドハウスの買
い増しや法人による取得件数についても無視できないこと、さらに、住宅土地統計調
査は5年に一度の統計調査のため、速報性に欠けること等から、本研究会では、所有
権移転登記個数をベースとした推計を行い、下図に示す既存住宅流通指標を「FRK
既存住宅流通指標」として各年継続的に補足・リリースしていく。
FRK既存住宅流通指標
分子
既存住宅流通量総数
(所有権移転登記個数ベース)
※法人取得+個人取得(H15:44万件)
分母
新築住宅着工総数
住宅着工統計における「借家や
給与住宅」も含んだ総着工数
<H15:116万戸>
既存住宅流通量総数
分子と同じ
■指標の意味
・新築を含めた総住宅流通量に占める既
存住宅総流通量の割合を見るもの
■既存住宅流通量の定義
・法人・個人により取得された既存住宅
の総流通量(流通回数)
・戸建て、分譲マンション、賃貸用住宅
(購入者の居住の有無、流通後の用途
は問わない)
■使用データ
・既存:民事・訴訟・人権統計年報(法務
省)における建物売買による所有権移
転登記個数
・新築:住宅着工統計
■リリース頻度
・各年1回
注)本指標における既存住宅流通量総数の単位:戸建住宅、分譲マンションの「戸」に加え、賃
貸マンションの一棟売買などの「棟」が含まれる。また、一戸・一棟について単年度に複数の所
有権移転が行われた場合、その回数分(所有権移転が行われた数)がカウントされることになる。
参考 住生活基本計画における既存住宅流通指標
分子
既存住宅流通数
『持家として取得され、居住継続が行われている既存住宅数』
※個人取得(H15:17.5万件)
分母
新築住宅着工総数
住宅着工統計における「借家
や給与住宅」も含んだ総着工
数
既存住宅流通数
分子と同じ
3
■指標の意味
・新築を含めた総住宅流通量に占める持
家として取得され居住継続が行われて
いる既存住宅総流通量の割合を見るも
の
■既存住宅流通量の定義
・個人により取得された既存住宅の流通
量(流通戸数)
・購入者の自己居住用として取得され居
住継続が行われている戸建て、分譲マ
ンション
■使用データ
・既存:住宅土地統計調査公表値
・新築:建築着工統計
■リリース頻度
・5年に1回
FRK既存住宅流通指標は各年上昇を見せており、2003 年(H15)では、27%、既
存住宅流通量総数は約 44 万戸と推計されている。今後も、住宅検査市場、リフォー
ム市場の整備・成熟とともに、既存住宅流通市場の拡大が期待できる。
1,400
1,200
(千件)
1,198
40.0%
1,230
1,215
1,174
1,000
800
22.3%
23.4%
新築着工総
数(借家・給
与住宅含む)
30.0%
27.9%
27.5%
26.9%
26.1%
1,189
1,160
1,151
1,236
23.9%
20.0%
600
400
344
370
387
414
423
461
440
10.0%
200
0
既存住宅流
通量(所有権
移転個数(個
人・法人取
得))
FRK既存住
宅流通指標
2005
2004
2003
2002
2001
2000
1999
1998
0.0%
図 I-1 本研究会における既存住宅流通指標の推移
【参考 海外と比較できる「既存」、「住宅」、「流通量」の把握】
我が国の既存住宅流通量については、海外、特にアメリカの流通量と比較される
ことが多い。しかし、「既存」、「住宅」、「流通量」の定義が異なっている場合
には、単純に「量」だけを比較することは意味をなさない。
米国の既存住宅流通量についてはNARにより公表されているが、NARでは、
売買成立後の用途や個人・法人間の取引を問わず、売買が成立した時点で流通量に
カウントされる。
全米リアルター協会(NAR)の既存住宅流通量推計
NAR: National Association of REALTORS
NAR会員等による既存住宅の取引量(売買成約時点でカウント)
取引量全体の3~4割
収集対象となるMLS(Multipule Listing Service:不動産情報検索システム)における取引量
月次データ
各地のリアルター協会
各地のリアルター協会(NAR)
所定のサーベイフォームにより報告
全米リアルター協会(NAR)
地域区分(北東部 ・南部 ・中西部 ・西部)
NARのエコノミストによる精査
10年毎のベンチマークテストから、地域別、
住宅形態別の需要の違いを考慮して「重
み」を設定
季節調整
既存住宅流通量推計値
月次値:約160組織からの提供データが基
四半期値:約700組織(全体)からの提供データが基
売買が成立した件数をもとに推計
取得者は法人・個人を問わない
売買成立後の住宅の利用形態を問わない
4
【参考 建築物の総ストックにおける既存住宅ストック・既存住宅流通量の位置付け】
非住宅を含めた既存建築物の総ストック数と非住宅を含めた既存建築物の流通量総数における
既存住宅のストック数、既存住宅流通量総数の関係は下図のとおりである。
本調査では、「住宅」に着目した検討を行っているが、不動産流通業界団体としては、常に非住
宅を含めた不動産の流通の状況を捉えていく必要がある。
不動産資産額※1
(H15)約2227兆円
土地総資産額
土地流通量総数※4
(H15)約1288兆円
(H15)約291万件(回)
建築物・構築
物総資産額
その他(耕
地、林地等)
宅地
(H15)
約1072兆円
既存建築物ストック総量※2
(H15)約939兆円
(H15)住宅:約5389万戸 非住宅:約340万棟
既存建築物流通量総数※5
住宅以外の
建物
約247兆円
既存住宅ストック総量※3
既存住宅流通量総数※6
住宅
約240兆円
(H15)約5389万戸
その他構築
物
約453兆円
(H15)約47万件(回)
(H15)約44万件(回)
住宅総数
居住世帯 (①+②)
有 りに 占 め に 占 め
4 6 ,8 6 2 ,9 0 0 る %
る%
住 宅 総 数 ① +②
住 宅 総 数 ( 建 築 中 除 く)
5 3 ,8 9 0 ,8 0 0
5 3 ,7 8 2 ,0 0 0
①居住世帯有り
持 家
居
住
世
帯
有
り
28,665,900 一 戸 建 ・長 屋
61% 共 同
その他
借 家
17,166,000 一 戸 建 ・長 屋
37% 共 同
その他
うち 民 営 借 家
うち個 人 所 有
うち法 人 所 有
52.6%
3,922,300
8.4%
45.7%
7.3%
100,400
0.2%
0.2%
3,101,900
6.6%
5.8%
14,016,200
29.9%
26.0%
47,800
0.1%
0.1%
12,561,300 一 戸 建 ・長 屋
2,542,900
5.4%
4.7%
10,616,300 共 同
9,986,700
21.3%
18.5%
31,700
0.1%
0.1%
1,031,000
0.0%
1,945,000 そ の 他
所有関係不明
1.9%
7 ,0 2 7 ,9 0 0
13.0%
一 時 現 在 者 の み
325,900
0.6%
二 次 的 住 宅
498,200
0.9%
3,674,900
6.8%
②居住世帯無し
居
住
世
帯
無
し
24,643,300
賃 貸 用
売 却 用
302,600
0.6%
そ の 他
2,117,600
3.9%
建 築 中
108,800
0.2%
住 宅 土 地 統 計 調 査 (H 15)をも とに作 成 。
※1 内閣府「国民経済計算年報」ストック編(名目)
※2 住宅は、住宅土地統計調査(H15)。非住宅は、社会資本整備審議会「既存建築物の改善と有効活用のための建築行政のあり方に
関する答申」参考資料(平成16年2月)におけるH13末推計値をベースに、建築着工統計等を用いて推計
※3 住宅土地統計調査(H15)
※4 法務省「民事・訟務・人権統計年報」における土地の売買による所有権移転登記個数(筆数)
※5 法務省「民事・訟務・人権統計年報」における「建物売買による所有権移転登記個数」(住宅以外も含む)
※6 法務省「民事・訟務・人権統計年報」における「建物売買による所有権移転登記個数」をベースに推計
注)既存住宅流通量総数(約 44 万件)の捉え方
本調査で推計を行った既存住宅流通量総数(約 44 万件)とは、一戸建て住宅、分譲マンシ
ョンの住戸、賃貸マンション・アパートの一棟等が、一年間で売買により所有権移転が行わ
れた回数を示しているものである。
よって、不動産流通の現場において、複数の不動産を一括して売買する契約が成立した際は、
その取引に含まれる戸数・棟数が各別に流通量算定の対象となる。また、一戸・一棟につき
複数(「売り」・「買い」それぞれ)の媒介契約がある場合には、媒介契約の数ではなく、
媒介契約の対象となっている物件の戸数または棟数となる。
5
□ 既存住宅流通促進のための住宅検査のあり方
本調査では、既存住宅流通促進のための住宅検査のあり方について、既存住宅性能表
示制度と民間任意の住宅検査※1 の両面から検討を行ってきた。しかし、既存住宅性能
表示制度が有効に機能するためには、新築住宅性能表示制度の一層の普及が必要であ
り、現時点で制度内容に関して、既存住宅流通促進のための提言を行うことは若干困
難であると考えられる。
民間任意の住宅検査については、既存住宅の売買の場での活用頻度が高く、本調査に
より実施したユーザーアンケート調査結果からも高い満足度が確認されている。その
ような状況からも、今後もその活用頻度は高まると考えられる。
既存住宅の取引に関しては、売り手から買い手への情報提供が重要となり、住宅検査
は、住宅の質に関する情報を売り手、買い手へ伝達する重要な手段である。この手段
において、伝達される情報の量や質の不均一性が顕著であれば、既存住宅流通市場に
混乱を来たしかねない。
さらに、上記した住宅の質の情報について、その具体性を高めれば高めるほど、住宅
検査員の知識・技能が問われるとともに、売買後のトラブルが生じた場合の対応策の
検討の必要性が高まると考えられる。
以上のことから、本研究会における既存住宅の流通促進のための住宅検査に関す
る提言を以下のとおりとする。
(1) 民間任意の住宅検査における検査項目、検査水準等の業界自主統一ルー
ルの作成とそれに対する公的機関等の支援の必要性
個別物件に関する具体的な欠陥の指摘や、リフォームへのアドバイスは、売主、
買主に対しても安心感を与え、既存住宅の流通促進及び住宅ストックの質の向上に
とって有効である。
しかし、現在の売買の場で活用されている民間任意の住宅検査においては、統一
的なルールが存在しないため、様々な検査結果情報を持ち合わせた住宅ストックが
市場に蓄積することは、情報の取引の重要性が高い既存住宅流通市場において好ま
しいことではない。
よって、既存住宅性能表示制度を補完する観点から、業界の自主的な統一ルール
や倫理規定が策定されることが望ましく、それに対しての働きかけや具体的検討の
場の設置などに公的機関等の支援が行われることが望ましい。
(2) 民間任意の住宅検査における人材育成プログラムの作成とそれに対する
公的機関等の支援の必要性
業界統一ルールの策定に合わせて、住宅検査員の知識・技能レベルを一定水準に
維持することも重要となる。
よって、住宅検査業界に係る人材育成プログラムの策定と、策定に対する公的機
関等の支援が行われることが望ましい。
※1
民間任意の住宅検査とは、法定制度である住宅性能表示制度とは別に、民間の独自のノウハウに基づき実施されるもので、
目視等による住宅検査、耐震診断、白あり検査、有害物質検査等の総称である。
6
(3) 住宅検査結果における責任の所在の明確化及び住宅検査会社の責任保険
制度の検討
売買の場において、個別物件の欠陥等の表示について具体性を高めれば高めるほ
ど、住宅検査員の知識・技能が問われるとともに、売買後にトラブルが生じるリス
クが高まると想定される。
しかし、現在においては、検査内容・検査対象の種類や、トラブルの内容にかか
わらず、責任の所在等が必ずしも明確ではない。
よって、住宅検査結果に対する責任の所在範囲について、検査内容・対象、トラ
ブルの内容など、適切な区分ごとに明確化していく必要がある。
さらに、責任の所在如何によっては、住宅検査会社の賠償責任を担保する責任保
険制度の検討を行うことが望ましい。
これについては、住宅の品質確保の促進等に関する法律による紛争処理体制があ
るように、民間任意の住宅検査においても、責任保険制度と紛争処理体制の一体的
な検討を行うことも考えられる。
(4) 新築住宅性能表示制度の普及促進
既存住宅性能表示制度、民間任意の住宅検査が有効に機能するためには、新築時
にその物件の性能が正しく測られ、その情報が付帯していることが必要である。
よって、新築住宅性能表示制度の更なる普及促進のためのアクションを進めてい
くことが必要である。
0%
10%
20%
(1)費用:売主 (N=30)
(1)費用:買主 (N=135)
16.3%
3.0%
0.0%
19.4%
20.7%
8.3% 5.6%
16.1%
48.3%
42.4%
18.2%
やや満足
20.1%
54.5%
42.4%
0.0%
0.0%
6.3%
43.8%
42.4%
8.4%
2.9%
3.6%
52.5%
50.0%
29.5%
6.1%
0.0%
45.5%
41.0%
(8)総合評価:売主 (N=33)
6.1%
0.0%
48.6%
57.6%
(7)担当者の対応やアドバイス:売主
(N=32)
9.3%
42.4%
48.5%
6.3%
3.0%
0.0%
51.5%
37.5%
(6)申込から評価・検査終了までの期間:買主
(N=139)
7.4%
54.5%
51.5%
27.3%
90% 100%
13.3% 6.7%
52.9%
17.1%
(6)申込から評価・検査終了までの期間:売主
(N=33)
満足
80%
30.4%
45.5%
(5)評価・検査レポートの内容の充実度:売主
(N=33)
(8)総合評価:買主 (N=143)
70%
52.1%
22.2%
(4)評価・検査レポートのわかりやすさ:買主
(N=144)
(7)担当者の対応やアドバイス:買主
(N=139)
60%
26.7%
42.4%
(4)評価・検査レポートのわかりやすさ:売主
(N=33)
(5)評価・検査レポートの内容の充実度:買主
(N=143)
50%
45.9%
(3)評価・検査の方法:売主 (N=33)
(3)評価・検査の方法:買主 (N=140)
40%
53.3%
(2)評価・検査項目:売主 (N=33)
(2)評価・検査項目:買主 (N=144)
30%
7.9%
3.0%
0.0%
57.3%
17.5%
やや不満
不満
7.0%
図 I-2 住宅の評価・検査に対する満足度
(民間任意の住宅検査を受けたユーザーへのアンケート調査結果)
7
□ 市場データに基づく住宅の質と価格の関係の定量分析
ここでは、実態市場において、「住宅の価格」に「住宅の質」が「どの程度」影響を
及ぼしているのかについて、市場データを用いて分譲マンション、戸建て住宅の両面
から定量的な分析をおこなっている。
(分譲マンションについては、株式会社東京カンテイの協力による平成7年以降に売買さ
れた渋谷区・世田谷区・杉並区の既存マンションのデータを用いている。戸建て住宅につ
いては、東日本不動産流通機構に登録され、平成 2 年 5 月 1 日~平成 18 年 9 月 30 日の間
に成約された小田急電鉄沿線(下北沢~玉川学園前)の既存戸建住宅並びに土地データを
用いている)
・ SRC(鉄筋鉄骨造)>RC(鉄筋造)>PC(プレキャスト造)>S(鉄骨造)の順に価格維
持率は高くなっており、耐用年数が高い構造物ほど価格維持率が高いことが示されて
いる。
次に分譲マンションの品等については、品等が高い程、価格維持率も高いことが示さ
れている。
(%)
0.000
-0.050
-0.100
-0.150
-0.200
-0.050 -0.000
-0.250
-0.100 --0.050
-0.300
品等 2
品等 1
品等 4
品等 6
品等 5
品等 8
品等 7
鉄骨造
品等 9
プレキャストコンクリート造
鉄筋コンクリート造
鉄筋鉄骨コンクリート造
-0.400
-0.450
品等 3
-0.350
-0.150 --0.100
-0.200 --0.150
-0.250 --0.200
-0.300 --0.250
-0.350 --0.300
-0.400 --0.350
-0.450 --0.400
図 I-3 建物構造・品等別減価率
品等区分
1
2
3
4
5
6
7
8
9
判定基準
・外観、エントランス、設備、完璧な管理体制など 全てが一級品
・外観、エントランス、設備、管理に高級感あり
・高級でも小規模住戸がある場合など
・外観、エントランス、設備、面積で高級には何か物足りない
・外観、エントランス、設備などが良い
・面積、設備、管理などから、標準より一歩抜きんでている
・スケールメリットがある
・小規模でもガッシリしている、工夫がある
・一般、標準
・共用施設の乏しい大型マンション
・箱形開放廊下タイプが多い
・外壁がタイルのみで工夫がない
・標準以下
・小規模マンションに多い
8
戸建て住宅では、敷地が南向きであること、敷地内の空地の確保がなされていること
など、住環境に関わる要素が価格に反映されている一方、
築後経過年数が 1 年増すと、
価格が 1.4%低くなるという分析結果が得られた。
さらに、一定の条件のもと、築後経過年数に伴う戸建て住宅における建物価格比率(建
物価格比率/土地・建物一体価格)のシミュレーションを行ったところ、新築時では
約 34%、築後経過年数 20 年では約 11%、28 年では 0.4%との結果が得られている。
表 I-1 築後経過年数に伴う既存戸建住宅価格における建物価格比率の変化
築後経過年数
建物価格/(土地・建物一体価格)
新築
33.5%
1年
32.5%
2年
31.6%
3年
30.6%
4年
29.6%
5年
28.5%
6年
27.5%
7年
26.4%
8年
25.4%
9年
24.3%
10 年
23.2%
11 年
22.1%
12 年
20.9%
13 年
19.8%
14 年
18.6%
15 年
17.5%
16 年
16.3%
17 年
15.0%
18 年
13.8%
19 年
12.6%
20 年
11.3%
21 年
10.0%
22 年
8.7%
23 年
7.4%
24 年
6.0%
25 年
4.6%
26 年
3.3%
27 年
1.9%
28 年
0.4%
9
□ 日米の既存住宅売買における価格査定の実態分析
ここでは、米国および日本において、既存住宅売買のフローの中で、個別の不動産価
格の査定が実際にどのようになされているか、具体的事例をサンプル的に取り出して、
比較検証を行っている。
米国において、売主あるいは買主はリアルター等に対して売買の媒介依頼をする際に、
リアルターからCMA(Comparable Market Analysis : 比較市場分析)等の資料の提供
を受けて、参考事例となる取引物件の成約価格等の情報を入手した上で、MLSにリ
スティングする売却希望価格の決定あるいは購入可能な物件価格の把握等を行うが、
具体的な個別物件の価格査定を行うためのマニュアル、査定書式等の類いは、NAR
による各種標準書式類を含めて存在していない。
一方、個別物件の価格査定という意味では、購入者が住宅ローンを利用する際に、住
宅ローン債権の市場での二次流通を前提に、統一的な住宅価格査定書が様式化されて
用いられている。
両国ともに、取引事例を基にした査定方法が主流ではあるが、双方における価格査定
の実態分析を通して、以下のような示唆が得られている。
(米国の事例)
①住宅の敷地面積にゆとりのある米国の場合、敷地面積の増減等を単純に面積単
価で増減させるような考え方はない。この点は、住宅の敷地に関し、敷地の形
状、道路付け、方位等の状況に強い関心をもつ日本とは置かれている環境が異
なるともいえる。
②築後年数については、ほとんど考慮しないケースと、一定の定額的な評価減を
するケースがみられ、全米統一ルール的なものは存在しないと思われる。なお、
新築物件と既存物件間では一定の評価減を行うことが通例のようである。
③部屋数、あるいは重視する設備等の重点項目にはウェートをかけて評価してい
るといえるが、逆に、細かな細部に関しては評価上、あまりこだわっていない
ともいえる。
④なお、米国内の各エリアにおける、不動産価格水準の差異は、単純な個別の建
物価格の差異というよりは、そのエリア全体としての人気、需要ニーズの差異
によるものがかなり大きいと思われる。
(日本の事例)
①日本の場合は、そもそもの国土面積、敷地利用状況の違いから、住宅の敷地状
況への関心が米国に比べて高いのは事実だが、一方で、その住宅地の街並み形
成等の住宅環境面が、住宅の価格ベースに大きなウェートを占めていることも
伺える。
②さらに、建物メンテナンスの良し悪し等が、同一エリア内の既存住宅売買にお
ける価格差に影響を与えることも、示唆されている。
10
II. 概要編
1. 調査の背景と目的
1-1 調査の背景
(1) 住生活基本法の創設
我が国の住宅政策においては、住宅建設計画法がその任を終え、住生活基本法への大
きな政策転換を遂げた。その大きな原動力となっているものは、「量から質」への政策
転換の流れであるとも言える。
不動産流通業界としても、量から質への政策転換の重要性を受け止め、その政策転換
が円滑に行われるよう、既存住宅流通の促進について検討を行うことを通し、その責務
を果たしていく必要がある。
(2) 住生活基本計画・成果指標の創設
住生活基本法の創設と連動し、それを具体的行動に移すための住生活基本計画が平成
18年9月15日に公表された。当該計画では、4つの目標があげられ、さらにその中
で、目標に連動する「成果指標」が打ち出されている。
どの目標も、不動産流通業と深い関わりがあるが、特に、「国民の多様な居住ニーズ
が適切に実現される住宅市場の環境整備」という政策目標と、それに連動する「住宅性
能表示制度の実施率」、「既存住宅の流通シェア」という成果指標は、不動産流通業の
現活動内容及び今後の行く末に直接かかわるものである。
図 II-1 住生活基本計画における成果指標
11
(3) 我が国の不動産流通市場における既存住宅流通量の位置付け
既存住宅の流通促進は、国民の多様なライフスタイルの実現を図るだけではなく、不
動産市場の活性化はもちろんのこと、既存住宅流通に係る住宅検査やリフォーム等の関
連ビジネスにおけるインパクト、さらには新規ビジネス創造に与える影響も大きい。
さらに、不動産市場の一部である不動産投資市場に目を向けると、その活発化には目
覚しいものがある。その代表とも言える不動産証券化の実績は、平成 16 年度累計で約
20 兆円と公表されている。さらにその用途別内訳を見ると、「住宅」が年々増加して
いる。
既存住宅の流通という観点から見ると、投資用マンションのオーナーチェンジは、実
物不動産への投資の代表格であり、証券化という視点から見ると、信託受益権の売買も
広義のオーナーチェンジと捉えることもできる。
このようなことからも、様々な検討の土台となる既存住宅流通量について、広義な視
点から把握していくことが必要となり、さらには実物不動産の流動とともに、不動産投
資市場や関連ビジネスにおける経済効果も視野に入れた既存住宅流通効果を「金額」と
して俯瞰していく必要性がある。
12
(4) 既存住宅購入者の実態・意識
ここでは、本調査の背景となる既存住宅購入者の実態と意識について、「不動産流通
業に関する消費者動向調査(FRK)」の結果をもとに整理する。
「不動産流通業に関する消費者動向調査」とは、FRK 会員企業の協力を得て、首都圏
(一都三県)で過去 1 年の間に、購入した住宅の引渡しを受けた世帯を対象としたアン
ケート調査である。
平成 18 年度調査の発送数・有効回答数は以下のとおりである。
合計
2646
(100.0%)
有効回答数
992
(100.0%)
発送数
新築住宅
購入者計
1024
(100.0%)
※N 433
(100.0%)
既存住宅
戸建て
マンション
購入者計
368
656
1622
(35.9%) (64.1%) (100.0%)
146
286
※S 559
(33.7%) (66.1%) (100.0%)
戸建て
マンション
625
997
(38.5%) (61.5%)
193
341
(34.5%) (61.0%)
住宅形態不明 1 票を含む。
※N
※S
住宅形態不明 25 票を含む。
1) 二次取得者における既存住宅の選択
二次取得者の従前従後の住宅形態を見ると、従前の住宅形態では、新築マンシ
ョンが 41.0%と最も多く、新築戸建てをあわせると新築住宅が 70.5%を占めるが、
従後住宅(現住宅)では、既存マンションが 31.7%と最も多くなっており、二次
取得者の場合は、新築・既存にこだわらず自分が気に入ったもの、必要なものを
選択していることがうかがえる。
0%
20%
60%
41.0
従前住戸
現住戸
40%
25.1
29.5
18.6
80%
100%
5.5 4.9
19.1
31.7
21.3
3.3
n=183
新築マンション
新築一戸建て
既存マンション
既存一戸建て
土地(建物は注文建築)
図 II-2 二次取得者の従前住居と現住居の形態
13
無回答
2) 既存住宅購入者の「住宅の質」に関する意識
既存住宅の流通促進を検討する際には、購入者の意識の変化についても常に留意
していく必要がある。
下図は、「既存住宅購入者の既存住宅を購入した理由」と「新築住宅購入者の既
存住宅を購入しなかった理由」を示したものである。
「既存住宅を購入した理由」を見ると、「希望エリアの物件だったから」、「手
頃な価格だったから」が毎年 1 位、2位を占めているが、「良質な物件だったから」
との回答も、5割弱を占めている。
一方、「既存住宅を購入しなかった理由」を見ると、「住宅の質に関連する項目」
の回答が、2005年調査では軒並み減少する傾向が見られている。
このことからも、既存住宅であっても「良質な物件」は市場でのニーズが安定し
て見られ、さらに、質に対する不安感も薄らいでいると受けとめられる。
消費者の既存住宅の質に対する意識の変化が見られる現在、既存住宅流通の促進
させる環境は徐々に整いつつあるとも言え、不動産流通業界として、本調査を実施
する意義は大きいと考えられる。
また、既存住宅の購入にあたって望む改善点としては、新築住宅と同様に「構造
上の性能の保証・アフターサービスなど」、「修繕・補修などの履歴情報の完備」
との声が強い。これらの消費者の声を受けとめ、既存住宅流通の円滑化、不動産流
通業の発展のためにも検討を行う必要性は高い。
0
20
40
60
80
希望エリアの物件だったから
65.3
61.6
61.6
59.7
手頃な価格だったから
63.9
59.1
65.8
59.7
14.3
14.7
17.7
14.8
リフォームするつもりだったから
いずれまた住み替えをするから
6.4
4.2
7.2
7.0
多くの中古物件から選ぶことがで
きたから
6.3
5.5
7.8
3.6
いずれ建替えようと思っているか
ら
2.7
4.0
3.0
2.6
5.4
4.9
4.6
3.3
10.0
13.3
7.8
17.7
40
60
80
100
66.7
66.2
71.9
69.8
長く住むつもりだから
37.4
42.1
36.5
37.8
中古では耐久性や品質に不安が
あるから
30.9
29.7
40.6
34.1
安くてもリフォーム費用などがか
かるから
18.5
19.0
25.5
23.2
良い中古物件がなかったから
18.0
20.7
24.5
22.0
新築の方が税制面で有利だから
中古は公庫融資を利用しにくい
から
2006年調査
(n=559)
2005年調査
(n=550)
2004年調査
(n=526)
2003年調査
(n=610)
(%)
22.9
23.4
30.6
27.3
好みに合う中古物件がなかった
から
21.1
17.5
16.5
14.6
早く入居できるから
20
新築の方が気持ちが良いから
36.7
35.5
36.7
35.4
新築にはこだわらなかったから
無回答
0
(%)
47.0
45.6
45.8
34.9
良質な物件だったから
その他
100
13.4
15.1
13.3
12.2
3.2
4.9
5.9
8.3
その他
3.7
5.6
5.1
3.4
無回答
5.3
5.1
0.8
2.0
2006年調査
(n=433)
2005年調査
(n=411)
2004年調査
(n=392)
2003年調査
(n=410)
※複数回答
※複数回答
図 II-3 既存住宅を購入した理由(既存住宅購入者)
図 II-4 既存住宅を購入しなかった理由の推移(新
築住宅購入者)
14
3) 建物の性能評価へのニーズ
別途費用を払ってでも受けたいサービスについての回答を住宅形態別に見ると、
2006 年度調査では、すべて「建物の性能評価」が 1 位となっている。
既存住宅について見ると、既存一戸建てでは、2 位が「白アリ検査」となっており、
住宅の質に関する評価・検査のニーズが高いことがうかがえる。既存マンションに
ついては、「建物の性能評価」とのニーズが年々上昇していることがわかる。
このような現状からも、消費者のニーズに対応した既存住宅における性能評価の
あり方について検討を行う必要性が高いと判断される。
【新築一戸建て】
0
10 20
40
0
50
建物の性能評価
建物の性能評価
専門家による税務相談
専門家による税務相談
2006
不動産鑑定評価
(%)
10 20 30 40 50
【新築マンション】
(%)
30
2006
不動産鑑定評価
2005
白アリ検査
2004
2005
専門家による法律相談
登記に関する調査・手続
き代行等
土壌汚染調査
【既存一戸建て】
0
(%)
【既存マンション】
0 10 20
10 20 30 40 50
建物の性能評価
建物の性能評価
白アリ検査
専門家による税務相談
専門家による税務相談
2006
不動産鑑定評価
登記に関する調査・手
続き代行等
2004
30
40
(%)
50
2006
2005
2005
不動産鑑定評価
2004
リフォーム業者のあっせ
ん
2004
登記に関する調査・手続
き代行等
図 II-5 別途費用を払ってでも受けたいサービス(性能評価へのニーズ)
注)それぞれの図のサービス項目は、2006 年度調査における上位 5 位を示している。
15
1-2 調査の目的と構成
(1) 調査の目的と位置付け
前述した背景をもとに、本調査では、住宅政策の転換や消費者ニーズ等を踏まえ、
国民のライフスタイルの多様化の実現や、不動産流通業界及び関連業界の一層の発
展に資する、既存住宅の流通促進のための基礎的な研究を行うものである。その目
的は以下に示すとおりである。
第一に、検討の対象となる「既存住宅」の「流通量」及び「流通指標」について、
不動産流通業の観点から再度検討を行い、海外とも同定義で比較できる「既存住宅
流通シェアの指標」の検討及び、不動産市場における位置付け及び関連業界への経
済効果について検討を行うものである。
第二に、既存住宅の流通促進のために有効となる住宅検査について、法定制度で
ある既存住宅性能表示制度と民間任意の住宅検査を取り上げ、既存住宅の流通の場
での活用実態やユーザーニーズを調査分析することを通して、既存住宅の円滑な流
通に向けた住宅検査のあり方の検討を行う。
最後に、住宅の質が消費者にとってわかりやすく伝えることができる環境が整っ
たとしても、その質が価格に的確に反映されなければ、既存住宅の流通市場が成熟
したとは言えない。よって、現状において、住宅の質が価格にどのように反映され
ているのかについての定量的・実証的分析を行い、今後の不動産評価や実態市場に
おいて、質が価格に反映されるあり方についての検討を行うものである。
尚、本調査研究は、次頁に示した調査体系に基づき、複数年の視野のもと実施さ
れるものであり、本年度調査はその初年度となる。
また、本年度の成果及び今後の調査経過によって、適宜、調査体系の見直しを行
い、既存住宅の流通促進に最も寄与できる体系的な調査を実施していくものである。
16
(2) 調査の構成
Ⅰ.調査の背景
□住生活基本法への政策転換
・ストック重視、市場重視の施策展開
・既存住宅流通量指標が成果指標に
□不動産投資市場の活発化
・不動産市場における既存住宅流通の役割が増大
そもそも本調査
の対象となる
「既存住宅の流
通量」の概念・ボ
リュームが明確
ではない。
Ⅱ.既存住宅流通量の把握及び不動産市場における位置づけ
1.既存住宅流通量の推計
・信頼性の高い、継続的に取得できるデータをもとに、「継続性」、「安定
性」、「客観性」を持った推計手法の検討を行う。
2.不動産市場における位置づけ
・不動産市場における既存住宅流通量の位置づけの検討を行う。
・既存住宅が円滑に流通することによる関連産業への波及効果の検討を
行う。
既存住宅の流
通促進のために
期待される性能
表示制度が十
分に活用されて
はいない。
Ⅲ.既存住宅性能表示制度・民間任意の住宅検査の現状と課題
1.既存住宅性能表示制度・民間任意の住宅検査の実態把握
・住宅性能評価機関・検査会社へのヒアリング調査、住宅検査ユーザーへ
のアンケート調査を通し、性能表示制度、任意検査の実態把握及び課題
の抽出を行う。
2.ユーザーニーズとのミスマッチの検証
・FRK消費者動向調査等のユーザーニーズに関するデータと、1.で把握し
たデータを突き合わせ、ユーザーニーズとのミスマッチの検証等を行う。
性能表示制度で
質を測ることがで
きても、価格にど
のように反映さ
れるのかが不明
確。
Ⅳ.住宅の質と価格評価の関連性に関する調査
1.住宅の質と価格との関連性に関する分析
・市場データをもとに、新築分譲時の価格と既存住宅となった際の価格に、住
宅の質がどの程度影響を与えているのかについて、定量的な分析を行う。
2.住宅の質の価格評価への反映について
・収益還元法による評価において、リスクプレミアムがあると同様に、住宅の
質についても、「快適プレミアム」なるものが存在するべきと考え、住宅の質
の不動産価格評価への反映方法について検討を行う。
□実際に即した既存住宅流通の市場規模の把握
□市場で評価される評価内容・手法への示唆
□住宅の質が価格に反映される市場形成への示唆
提言
□不動産市場における既存住宅流通の重要性
□市場実態を踏まえた既存住宅流通の促進方策
17
2. 既存住宅流通量の把握及びFRK既存住宅流通指標
の提案
2-1 既存住宅流通量・流通指標の考え方について
(1) 既存住宅流通指標の基本的考え方
本研究会における既存住宅流通量及び流通指標とは、我が国の住宅政策への示唆とな
るものであることに加え、実際の不動産流通現場の実態に即し、不動産流通業界として
捉えるのに適したものであることが重要となる。
(2) 推計上の視点
1)既存住宅流通指標の考え方の明確化
2)継続的なリリースの確保
3)海外と比較できる「既存」、「住宅」、「流通量」の確立
1) 既存住宅流通指標の考え方の明確化
住生活基本計画では、既存住宅流通量が成果指標の一つとしてあげられている。
この指標は、「既存住宅取引戸数/(新築住宅着工総数+既存住宅取引戸数)」
と表現されており、新築住宅を含めた住宅の総流通量に占める既存住宅の流通量
を表している。ただし、ここで用いられている既存住宅流通量とは、住宅土地統
計調査(総務省)の性質上、住宅土地統計調査によるアンケート調査回答時に、
回答者の居宅が、購入した既存住宅であることが前提となる。
すなわち、持家として取得され、アンケート調査時に居住継続が行われている
既存住宅流通量となる。
分子
既存住宅取引数
住宅土地統計調査における『調 ・・・・・・・・・・・・・
査時点で持家として取得され、居
住が継続されている既存住宅数』
持家のみ
住宅ストックか
らの流通
分母
新築住宅着工総数
住宅着工統計における
「借家や給与住宅」も含ん
だ総着工数
既存住宅取引数
住宅土地統計調査にお
・・・・
ける『調査時点で持家とし
て取得され居住が継続さ
れている既存住宅数』
持家+借家
住宅ストック
からの流通&
フロー
図 II-6 住生活基本計画案による既存住宅取引シェア指標
この成果指標で用いられている既存住宅流通量には、多様なライフスタイルの
実現のために購入された既存住宅数や、購入後に一時的に賃貸活用されている既
18
存住宅数、法人により取得された既存住宅数等が含まれてはいない。
本調査では、住宅政策上においても意味があり、かつ不動産流通業界として捉
えるに相応しい既存住宅流通量及び既存住宅流通指標を求めることが目的である
ことから、これら住宅土地統計調査による公表値には含まれない既存住宅流通量
も視野に入れた検討を行っていくものである。
■住宅土地統計調査による既存住宅流通量の定義と、捕捉されていない既存住宅の流通量
住宅土地統計調査による既存住宅取得数の基本形
主たる住まいとして購入者によって居住継続
調査対象期間
調査時点
15年
14年
購
入
13年
購
入
購
入
12年
11年
購
入
購
入
居住継続
居住継続
居住継続
居住継続
住宅土地統計調査で捕捉されていないケース
主たる住居の変更
はないが、別荘など
の二次的利用や賃
貸等を目的として既
存住宅が買い増しさ
れたケース
15年
14年
13年
12年
11年
住
替
調査
時点
購
入
一時貸し 等
居住継続(既存住宅)
居住継続(この住居)
15年
14年
13年
買増
多様な目的に
よる買い増し
ケースa
一旦、既存住宅を購
入したものの、一時
的に「貸家」として利
用されており、調査時
点で「既存住宅に居
住」ではなくなった
ケース
ケースb
調査
時点
12年
11年
購
入
別荘等、二次的利用(既存住宅)
居住継続(この住居)
ケースc
15年
14年
13年
12年
11年
建
替
調査
時点
購
入
居住継続(既存住宅)
居住継続(この住居)
ケースd
一旦、既存住宅を購
入したものの、買い
換えが行われたこと
により、調査時点で
「既存住宅に居住」で
はなくなったケース
15年
14年
13年
12年
11年
買
換
調査
時点
購
入
居住継続(既存住宅)
居住継続(この住居)
ケースe
一旦、既存住宅を購
入したものの、他の
用途に転換され、調
査時点で「既存住宅
に居住」ではなくなっ
たケース
15年
14年
13年
調査
時点
購入された既存住宅
で、住宅土地統計調査
の調査時点で、「この
住居」ではないもの
駐車場、倉庫等
居住継続(この住居)
購入された既存住宅
で、住宅土地統計調査
の調査時点で、「この
住居」に該当するもの
転換
一旦購入後に、直ぐに建替えや用途転換
一旦、既存住宅を購
入したものの、建替
が行われたことによ
り、調査時点で「既
存住宅の居住」では
なくなったケース
12年
11年
取
得
居住継続(既存住居)
既存住宅以外のもの
図 II-7 住宅・土地統計調査による既存住宅流通量と、捕捉されていない流通要因
19
2) 継続的なリリースの確保
本研究会による既存住宅流通指標については、客観性を持ち、継続的・安定的
に捕捉・リリースすることを目的としている。
よって、分子となる既存住宅流通量が客観性・継続性・安定性を持って捕捉し
続けられることが必要となり、分母を加えた指標については、速報性、再現性も
必要とされる。
i)データ・指標の客観性、安定性、継続性、速報性、再現性
の確保
・客観性:推計元となるデータに恣意性がなく客観的なものであるか。
・安定性:一定のルールに基づけば、推計元となるデータすべてが同内容で安定
的に取得できるか。推計方法に難があり、得られた推計値に含まれる誤
差の影響より指標が大きく変動しないか。
・継続性:推計元となるデータを継続的に取得し、推計値及び指標を継続的にリ
リースできるか。
・速報性:適切なスパンで指標を提供できるか。
・再現性:一定のルールに基づいた方法を取れば、推計値及び指標を容易に再現
できるか。
ii)データの性質(誤差構造)
登記データ、課税データなど、実態ベースの公的申請データと、アンケート
回答の母集団拡大推計等によるデータ等では、誤差構造が大きく異なるため、
両データで加減乗除を行うことは好ましくない。
20
3) 海外と比較できる「既存」、「住宅」、「流通量」の定義の確立
我が国の既存住宅流通量については、海外、特にアメリカの流通量と比較される
ことが多い。しかし、「既存」、「住宅」、「流通量」の定義が異なっている場合
には、単純に「量」だけを比較することは意味をなさない。
米国の既存住宅流通量についてはNARにより公表されているが、NARでは、
売買成立後の用途や個人・法人間の取引を問わず、売買が成立した時点で流通量に
カウントされる。また、NAR、住宅土地統計調査ともにサンプルをもとに拡大推
計しているが、NARでは実際の売買取引結果を、住宅土地統計調査ではアンケー
ト調査を基にしているという違いがある。
全米リアルター協会(NAR)の既存住宅流通量推計
我が国の住宅土地統計調査(総務省)
NAR: National Association of REALTORS
NAR会員等による既存住宅の取引量
既存住宅の取引量
(売買成約時点でカウント)
(売買成約時点でカウント)
調査・推計の
対象
全国の世帯
全国の世帯
5年毎
層化2段抽出法による
サンプル世帯抽出
取引量全体の3~4割
収集対象となるMLS(Multipule
Listing Service:不
既存住宅の取引量
動産情報検索システム)における取引量
(売買成約時点でカウント)
調査対象世帯(居住世帯)
調査対象世帯(居住世帯)
調査区の人口規模により、
1/2~1/20の抽出率
抽出
月次データ
世帯へのアンケート
各地のリアルター協会
各地のリアルター協会(NAR)
調査時点で「購入した既存住宅を主たる
住宅として居住継続している」戸数
所定のサーベイフォーム
により報告
全米リアルター協会(NAR)
全米リアルター協会(NAR)
推計対象デー
タ収集
総務省統計局
総務省統計局
地域区分
・北東部 ・南部 ・中西部 ・西部
地域区分
・全国
NARのエコノミストによる精査
重み付け
・10年毎のベンチマークテストから、地
域別、住宅形態別の需要の違いを考
慮して「重み」を設定
拡大推計(抽出率等を考慮)
季節調整
既存住宅流通量推計値
既存住宅流通量推計値
月次値:約160組織からの提供データが基
四半期値:約700組織(全体)からの提供データが基
調査対象最終年次は9月分までの把握であるた
め、年間値にする場合は4/3を乗じる
アンケートの回答をもとに推計
取得者は個人に限定
売買成立後に、アンケート回答者により居住継続
されているものに限定
売買が成立した件数をもとに推計
取得者は法人・個人を問わない
売買成立後の住宅の利用形態を問わない
【推計上の問題点】
【推計上の問題点】
NARのHP上では、以下の問題発生要因があげられ
ている。
<データに起こりえる問題の発生要因>
・地方組織の管轄区分の変更
・MLSの変更
・回答欠如
・誤データ
・アンケート回答者が居住している住宅に関するデータ
であるため、「調査時点で居住継続されている既存
住宅」のみがカウントの対象となる。
・全米リアルター協会による推計値では、法人取得分
が含まれるが、住宅土地統計調査では、世帯の取
得分のみである。
図 II-8 既存住宅流通量の推計ステップ(日米の違い)
21
(3) 本調査での推計アプローチ
1) 主な推計対象データの種類と特徴
本調査では、住宅土地統計調査に加えて、各年継続して安定的に取得できるデ
ータとして、「家屋の継承分に係る取得税課税件数」及び「建物売買による所有
権移転個数」を基とした既存住宅流通量の推計を行っている。
「家屋の継承分に係る取得税課税件数」及び「建物売買による所有権移転個数」
では、個人・法人を問わず、既存住宅の所有権移転がなされた際に、各法律に基
づいて申請が行われるものである。
i)各データにおける流通量の定義の違い
各データにおける流通量の定義として最も大きな違いは、住宅土地統計調査
では、狭義の「既存住宅流通戸数」を表現しているのに対し、「承継による不
動産取得税課税件数」、「建物売買による所有権移転登記個数」では、「既存
住宅流通回数」を示していることである。
すなわち、「承継による不動産取得税課税件数」、「建物売買による所有権
移転登記個数」では、一戸もしくは一棟につき、単年度に複数の所有権移転が
行われれば、一戸、一棟につき、複数回のカウントが行われることになる。
ii)「承継取得」と「売買による所有権移転」
不動産取得税課税件数(道府県の課税状況に関する調)における、家屋の「承
継分」の課税件数は、有償・無償及び登記の有無を問わず、売買、交換、遺贈・
贈与等によって取得した場合の課税対象件数(免税点に満たないもの、控除額
以下の物を含む)である。
一方、建物の売買による所有権移転個数(民事・訟務・人権統計年報)は、
登記原因が「売買」による所有権移転の個数(家屋番号単位の個数)であり、
遺贈・贈与を原因とするものや、競売によるものは別計上され含まれていない。
iii)一定期間売却されない「みかけの既存住宅」
地方税法第73条の2第2項の規定により、「家屋が新築された日から6月
を経過した日において家屋の取得がなされたものとみなし、これに不動産取得
税を課する(平成 10 年 10 月 1 日から平成 20 年 3 月 31 日まで新築された家屋
については 1 年)」とされている。すなわち、新築物件であっても、一定期間
中に売却されない場合には、その時点の所有者(不動産業者等)に不動産取得
税が課税されることになり、その後売買が成立した場合には、「承継分の不動
産取得税課税件数」にカウントされることになる。よって、新築住宅が「みか
けの既存住宅」としてカウントされることになる。
22
住宅土地統計調査(第49表)による既存住宅取得数の基本形
個人取得
専用住宅
併用住宅
取引戸数
・5年に一度のサンプル調査(アンケート調査)。
⇒調査年において、回答者が居住している住宅についての回答。
⇒前回調査から直近調査時点までに取得され、直近調査時点で居住されていない既存住宅数は
カウントされない。
調査対象期間
調査時点
15年
14年
購
入
13年
購
入
購
入
12年
11年
購
入
購
入
居住継続
居住継続
居住継続
居住継続
民事・訴訟・人権統計年報(法務省)
(建物売買による所有権移転個数)
道府県の課税状況等に関する調(総務省)
(不動産取得税課税件数)
個人
取得
専用
住宅
法人
取得
併用
住宅
取引
回数
・有償・無償を問わず、売買、遺贈などによって住
宅を取得した際に課する不動産取得税の件数。
・免税点に満たないもの、控除額以下の物を含む
が、非課税分(相続等の形式的な所有権移転)
は含まれない。
承継分
木造
既存住宅
家屋承継
みかけ既存
※1
競売物件
贈与等
専用住宅※2
併用住宅
その他
個人
取得
法人
取得
専用
住宅
併用
住宅
・建物の売買による所有権移転個数。
・居宅以外の全用途が含まれる。
件数(登記申請件
数)
・土地と建物を同時に申請
した場合、土地の売買に
よる所有権移転として1
件が計上されるのみ。建
物売買による所有権移
転は0件としてカウント
登記原因
居宅
が「売買」
による所
有権移転 店舗、宿舎、事
務所、旅館等の
個数
居宅以外の事
業用の建物
建築分
(
新築 ・
増改築)
非木造
専用住宅
併用住宅
取引
回数
個数(家屋番号単位
の建物の数)
・家屋番号単位の建物がカ
ウントに反映
その他
その他の
理由(相
続・競売
等)
居宅
店舗、宿舎、事
務所、旅館等の
居宅以外の事
業用の建物
住宅・土地統計調査の
既存住宅流通量としては
既存住宅流通量に概
「対象外」と判断できるもの
ね該当
※1:新築であるのにもかかわらず、新築から6ヶ月、または1年以内に売買が成立せずに、現所有者が取得者として課
税対象となっているもの(地方税法第73条の2第2項:家屋が新築された日から6月を経過した日において家屋の取得
がなされたものとみなし、これに不動産取得税を課する(平成10年10月1日から平成20年3月31日まで新築された家屋
については1年))
※2:専用住宅と併用住宅に区分されたのはH14年以降。それ以前は、専用住宅とその他の区分のみ。
区別された状態で
取得されるもの
データ取得時には区
分されていないもの
注)両者には、不動産業者が一旦買取り、転売した場合の、不動産業者に課せられる課税件数・所有権移転個数が含
まれる。ただし、中間省略登記が行われた場合は、所有権移転個数にはカウントされない。また、両者とも取得税が
課税された、所有権が移転された「回数」であり、必ずしも、住宅戸数・棟数とは一致しない。
図 II-9 推計対象データの定義
23
2-2 既存住宅流通量の推計結果
(1) 住宅土地統計調査からのアプローチ
住宅土地統計調査による推計では、公表値である17万5千戸(平成15年度)
では補足されていない、下図①~④の流通量を推計・加算することにより、個人に
より取得された既存住宅流通量の推計を行っている。
住宅土地統計調査からのアプローチ
住宅土地統計調査(第49表)で捕捉されていない流通要因
第49表:持ち家として取得した既存住宅数
(購入後、主たる住宅として居住継続されて
いる既存住宅数)
(既存住宅を取得したが、調査時点で居住継続をしていないために
捕捉されていないもの)
①一旦取得されて建替えられた件数
・H11以降に入居が行われた持家で、H15調査時点までに建替
えられた住宅=既存住宅に入居して、建替えたと想定
第48表:「H11以降に入居、H15調
査時点までに建替えられた持ち
第47表:「持ち家の建
家数」:152100戸
築時期別建替え件数」
によるH11~H15の各
年の構成割合
平成15年:約24,000戸
平成15年:約175,000戸
平成15年:約175,000戸
②買い増しが行われた件数
・現住居以外の「宅地」を個人から購入し、現況用途が住宅で
ある場合(従前用途は把握できない)、既存住宅の取引がなさ
れたと想定
第93表:「現住居の敷地以外の宅地などを所有する
件数」のうち、利用現況が「住宅」:2,983,000戸
第92表:「現住居の敷地以外
の宅地などを所有する件数」
のうち、取得方法が「個人から
購入」:30.7%
平成15年:約33,000戸
第93表:「現住居の敷地以外
の宅地などを所有する件数」
のうち、取得時期のH11~
H15の各年の構成割合
③一旦取得されてから住替えられた件数(買替、一時貸し)
・従前住居をH11以降に既存住宅を取得し、H11以降に現住居
に入居した世帯を想定
第67表:「従前の居住形態が持ち家で、H11以降に
現住居に入居した数」:1,751,100戸
住宅土地統計調査からの推計
国勢調査による「現住居の居住期間」
:1年未満7.9%、1年以上5年未満19.7%
(千戸)
既存住宅 既存住宅 既存住宅 既存住宅 既存住 宅
取引量
購入⇒
購入⇒
購入⇒
購入⇒
居住継続 建替え
買い増し 住替え
平成11年
平成12年
平成13年
平成14年
平成15年
225
237
244
221
241
163
169
176
162
175
37
38
34
26
24
24
28
31
28
33
住民基本台帳による「世帯あたり人員」
1
2
4
5
8
(課題点)
・5年に一度の調査・・・前回調査時点からの5年間に行われた複数
の住居移動を捕捉できない
・アンケートによるサンプル調査・・・世帯主の記憶や・認識、拡大推
計に伴う推計誤差の存在
・「取得」のカウント・・・住宅の建築時期・取得時期と入居時期は必
ずしも同年ではないため、取得しても入居していないものはカウン
トされない。
・「取得形態」が考慮されない・・・戸数単位での把握が基本であり、
一棟単位の売買が単独で捕捉されない。
「従前の居住形態がH11以降に入居した持ち家で、
その後さらに現住居に入居した世帯」
平成15年:約8,000戸
第47表:住居取得形態に
おける既存住宅の比率:
15.4%
④一旦取得されて他用途に転換されている件数
・継続的安定的な推計不可
図 II-10 住宅土地統計調査からのアプローチ
24
参考 住宅土地統計調査による既存住宅流通量推計の課題
①5年に一度の調査であることによる課題
住宅土地統計調査は、5 年に一度の調査であり、調査時点において、世帯が居住して
いる住宅が対象となる。
さらに、調査時点が5年毎の10月1日現在であることから、調査対象年で捕捉され
るのは1月から9月までであり、年間の数値にする場合は4/3を乗じる等の補正が
必要となっている。
②「取得」が必ずしもカウント対象となっていないことによる課題
住宅土地統計調査は、その回答者が調査時点で居住している住宅について回答するこ
とから、新築住宅取得者については、既に建築され、その住居に入居している者のみ
がカウントの対象となる。よって、調査年については、着工されたとしても、まだ売
買が成立していないものや、売買が成立したとしても、まだ入居されていないものは
カウントされないことになる。一方、既存住宅に関しては、入居年により各年の既存
住宅取得数を捉えることができる。ただし、取得年と入居年は必ずしも同年とは限ら
ないため、調査年においては、取得しているのにもかかわらず、入居が行われていな
いためにカウントされない件数が存在すると考えられる。
統計表の値(調査年である
H10,H15は1月~9月の値)
建築年次
1994(H6)
1995(H7)
1996(H8)
1997(H9)
1998(H10)
1999(H11)
2000(H12)
2001(H13)
2002(H14)
2003(H15)
年間値(調査年は、4/3を乗じて
補正)
新築の住宅を
新築の住宅を
新築(建て替え
新築(建て替え
購入(分譲購
購入(分譲購
を除く)
を除く)
入)
入)
290,900
310,400
313,700
293,500
163,400
280,400
290,500
267,300
231,000
152,400
196,000
262,700
265,800
228,700
129,000
237,500
274,800
255,600
223,700
138,500
196,000
262,700
265,800
228,700
172,000
237,500
274,800
255,600
223,700
184,667
290,900
310,400
313,700
293,500
217,867
280,400
290,500
267,300
231,000
203,200
350,000
300,000
(戸)
250,000
200,000
150,000
100,000
新築の住宅を購入(分譲購入)
新築(建て替えを除く)
50,000
2003(H15)
2002(H14)
2001(H13)
2000(H12)
1999(H11)
1998(H10)
1997(H9)
1996(H8)
1995(H7)
1994(H6)
0
図 II-11 建築年次別の新築住宅数(分譲、自ら建築)
③取得形態が考慮されていないことによる課題
住宅土地統計調査では、基本的に戸数単位での把握となっている。例えば、現在の住
まい以外に、賃貸共同住宅のオーナーとして一棟を取得した場合も共同住宅の住戸を
取得した場合と同様に、その賃貸共同住宅に含まれる戸数がカウントされることにな
る。よって、取得の形態が一棟単位によるものなのか、個別住戸ごとに取得されたも
のなのかは不明であり、住戸取得の実態を捉えることができない。
よって、買い増し件数等の推計の際も、「住戸数」をもととした推計ではなく、
「宅地数」をもととした推計を行わざるを得ない。
以上のように、住宅土地統計調査は、国の指定統計として、安定性、継続性は高いも
のの、「居住している世帯」を対象とした「5 年に一度」の「アンケートに基づくサン
プル調査」であることにから、流通量としてのデータの捕捉には限界がある。
25
(2) 不動産取得税課税件数からのアプローチ
不動産取得税課税件数からのアプローチでは、住宅の承継による不動産課税件数
から、不動産流通以外の要素よる課税件数(遺贈贈与や競売等)を除外することに
より、法人・個人を問わず、既存住宅が売買された件数を求めるものである。
なお、この数値には、データの性質上、「年間に複数回取引された場合の重複カ
ウント」、「転売によるダブルカウント」「賃貸アパートの一棟承継」「みかけの
既存住宅」が含まれている。
表 II-1 不動産取得税課税件数をベースとした既存住宅流通量推計
1)
2)①
2)②
遺贈、贈与
不動産取得
その他無償
税課税件数
住宅の承継
名義による
による不動
競売物件推 ベースの
所有権の移
流通量推計
産取得税課
計値
転個数:住
値
税等件数
宅該当推計
値
平成10年
平成11年
平成12年
平成13年
平成14年
平成15年
平成16年
465,416
481,283
491,298
511,262
523,557
540,517
590,493
65,306
62,531
64,417
67,974
68,984
77,699
78,382
8,377
8,663
8,843
9,203
9,424
9,729
10,859
391,732
410,088
418,037
434,086
445,149
453,088
501,253
(3) 建物売買による所有権移転登記個数からのアプローチ
所有権移転登記個数からのアプローチでは、売買によって所有権移転が行われた
個数から、非居住用の建物の所有権移転個数を除去することにより、法人・個人を
問わず、既存住宅が売買された件数を求めるものである。なお、この数値には、デ
ータの性質上、「年間に複数回取引された場合の重複カウント」、「転売によるダ
ブルカウント(中間省略登記実施時を除く)」「賃貸アパートの一棟承継」が含ま
れていることに留意する必要がある。
表 II-2 建物売買による所有権移転個数ベースの流通量推計
1)
2)
居住用以外の所
建物売買による所
有権移転個数推
有権移転個数
計値
平成10年
平成11年
平成12年
平成13年
平成14年
平成15年
平成16年
365,053
393,311
410,773
440,226
449,306
467,280
490,075
21,538
23,205
24,236
25,973
26,509
27,570
28,914
26
建物売買による所有権
移転個数ベースの
流通量推計値
343,515
370,106
386,537
414,253
422,797
439,710
461,161
前期の不動産取得税課税件数、及び所有権移転個数の両公的申請データからのア
プローチによる推計結果を整理すると、以下の通りとなる。
住宅の承継分の不動産取得税課税件数から
のアプローチ
建物の売買による所有権移転登記個数から
のアプローチ
・承継(売買の他、贈与、競売含む)によって取得され
た住宅に対する不動産取得税課税件数
・免税点、控除額に達しない価額のもの(課税額ゼロ
)を含む。ただし、相続、信託財産等、形式的な所有
権移転(非課税)は除く
・登記申請書にて「売買」を原因とする建物の所有権移
転登記個数(家屋番号単位の個数)
住宅
住宅(別荘(毎月一日以上
の居住の用に供しない家屋
)は含まれない
平成15年:約54万件
平成15年:約54万件
平成16年:約59万件
平成16年:約59万件
売買
競売
非住宅
贈与等
「道府県の課税状況に関する調(総務省)」
「民事・訴訟・人権統計年報(法務省)」
■遺贈・贈与等による取得(住宅+非住宅)
【民事・訟務・人権統計年報(法務省)】
平成15年:約8万3千件
平成16年、約8万3千件
既存建築物ストック
における「非住宅」
分の割合(住宅土
地統計調査・建築
着工統計等により
別途推計):約6%
贈与等
除外
平成15年:約47万件
平成15年:約47万件
平成16年:約49万件
平成16年:約49万件
家屋の売買
「住宅」の承継分のうち、遺贈・贈与等に
よる取得を推計・除外
平成15年:約7万8千件
平成16年:約7万8千件
非住宅
建物の所有権移転登記個
数のうち、非住宅の移転個
数を推計・除外
平成15年:約2万8千件
平成16年:約2万9千件
■競売による取得(戸建・マンション)
【裁判所BIT(Broadcast Information of
Tri-set System)システム】
家屋承継に占める競売割合:1.8%
競売
除外
住宅の承継分のうち、競売による取得
を推計・除外
平成15年:約1万件
平成16年:約1万1千件
住宅の承継分の不動産取得税課税件数からの推計
1)
住宅の承継に
よる不動産取
得税課税等件
数
平成10年
平成11年
平成12年
平成13年
平成14年
平成15年
平成16年
465,416
481,283
491,298
511,262
523,557
540,517
590,493
除外
建物の売買による所有権移転登記個数からの推計
2)①
2)②
1)-2)①-2)②
遺贈、贈与そ
不動産取得税課税件数
の他無償名義
ベースの
による所有権 競売物件推計
流通量推計値
の移転個数: 値
住宅該当推計
値
65,306
8,377
391,732
410,088
62,531
8,663
418,037
64,417
8,843
67,974
9,203
434,086
445,149
68,984
9,424
453,088
77,699
9,729
501,253
78,382
10,859
1)
2)
1)-2)
建物売買による所有権 居住用以外の所有権
移転個数
移転個数推計値
平成10年
平成11年
平成12年
平成13年
平成14年
平成15年
平成16年
・賃貸アパート・マンションの一棟承継分を含む
・竣工後一定期間を経た新築住宅の売買分(みかけ
の既存住宅)を含む
想定される両者の差異要因
・単年度で複数回のオーナーチェンジ分を含む
・中間省略登記が行われた件数
・業者が一旦取得し、販売する際の課税ダブルカウ
・みかけの既存住宅に対する課税件数
ント分を含む
・法人による取得分を含む
365,053
393,311
410,773
440,226
449,306
467,280
490,075
21,538
23,205
24,236
25,973
26,509
27,570
28,914
建物売買による所有権
移転 個数 ベースの
流通量推計値
343,515
370,106
386,537
414,253
422,797
439,710
461,161
・賃貸アパート・マンションの一棟承継分を含む
・単年度で複数回のオーナーチェンジ分を含む
・業者が一旦取得し、販売する際の登記ダブルカウン
ト分を含む(中間省略登記が行われた場合を除く)
・法人による取得分を含む
図 II-12 公的申請データ(不動産取得税課税、所有権移転登記)からのアプローチによる推計
27
既存住宅流通戸数
既存住宅流通数
オーナーチェンジが行われた住宅の戸数や棟数ではなく、オーナーチェンジが行われた数
オーナーチェンジが行われた住宅の戸数や棟数
2.建物売買による所有権移転個数
からの推計
1.不動産取得税課税件数からの推計
3.住宅土地統計調査による推計
約17.5万戸
一戸・
一棟につき一回
個人への承継
法人への承継
・竣工後一定期間経た新築住宅(「みかけ
の既存」)※4
約
24
万
戸
・買い増し(セカンドハウス、賃
貸用)として取得
・取得して買い換え・一時貸し
法人への承継
・社有売り(業者が一旦取得)の課税
件数※6
・専用住宅・併用住宅
承継後、現
の承継件数
用途を継
(賃貸アパート・マン
続
ションの一棟承継)
・取得して建替え
一戸・
一棟につき
複数回
・一戸・一棟が単年度で複数回オー
ナーチェンジ※5
個人への承継
一戸・
一棟につき複
数回 ※2
約
44
(46)
万
戸
約
36
(37)
万
戸
一戸・
一棟につき一回
※1
個人への承継
一戸・
一棟につき一回
約
45
(50)
万
戸
約
37
(41)
万
戸
・専用住宅・併用住宅
承継後、現 の承継件数
(賃貸アパート・マン
用途を継
ションの一棟承継含
続※3
む)
・取得して居住継続
【住生活基本計画での指標】
住宅土地統計調査第49表
・一戸・一棟が単年度で複数回オー
ナーチェンジ※5
・社有売り(業者が一旦取得)の登記
件数※6
・取得後に用途変換
・一戸・一棟が単年度で複数回オー
ナーチェンジ
・社有売り(業者が一旦取得)の登記
件数
一戸・一棟につき一回※1
法人による取得件数
一戸・一棟につき複数回※2
一戸・一棟につき一回※1
一戸・一棟につき複数回※2
・業者取得時の中間省略登記が行われた件数
・みかけ既存住宅に対する(売却時)課税件数
※戸数はH15年時点での比較
※1 調査年の単年度において、一戸、一棟につき、一回のみのオーナーチェンジが行われたケース。 オーナーチェンジが行われた建物数(戸・棟)=オーナーチェンジ数
※2 調査年の単年度において、一戸、一棟につき、複数回のオーナーチェンジが行われたケース。 オーナーチェンジが行われた建物数(戸・棟)<オーナーチェンジ数
( )はH16年の戸数
※3 オーナーチェンジが行われた後に、そのオーナーが住宅としての用途を維持しているケース。(住宅・土地統計調査の範疇)
※4 新築であるのにもかかわらず、新築から6ヶ月、または1年以内に売買が成立せずに、現所有者が取得者として課税対象となっている件数。登記については、実質的なオーナー(みかけの既存住宅の購入者)が取得した時点で、はじめ
て保存登記を行うものと見られるため、所有権移転個数には含まれないものと見られる。
※5 ※2と同義
※6 不動産販売業者等が、既存住宅を一旦購入し、リフォームなどを施し、自社物件として売りに出すケース。不動産取得税については不動産販売業者等が課税対象となるが、登記については、中間省略登記が行われる場合が多くある。
中間省略登記が行われなかった場合、所有権移転個数をベースとする推計値にカウントされる。
図 II-13 各アプローチからの推計結果と推計量の差異
28
既存住宅の流通促進に関する研究会 研究成果概要
2-3 本研究会における既存住宅流通指標
(1) 本研究会における既存住宅流通指標と参考指標
本研究会により、複数の既存住宅流通指標を候補にあげ、それぞれについて検討
を行ってきたが、住宅政策上、または不動産流通業として意味のある指標となり、
客観性、安定性、継続性、速報性、再現性を可能な限り担保でき、かつ米国との比
較も類似定義で行うことができる指標としては以下のものがあげられ、これを本研
究会における既存住宅流通指標とする。
また、他に候補としてあげられた複数の既存住宅流通指標についても、それぞれ
に指標としての意味があるものから、住生活基本計画の指標とあわせ、参考指標と
して捕捉していくものである。
なお、住宅の質は個々の住宅によって異なっており、この点を踏まえ、指標を検
討する余地は残されている。
FRK既存住宅流通指標
分子
既存住宅流通量総数
(所有権移転登記個数ベース)
※法人取得+個人取得(H15:44万件)
分母
新築住宅着工総数
住宅着工統計における「借家や
給与住宅」も含んだ総着工数
<H15:116万戸>
既存住宅流通量総数
分子と同じ
■指標の意味
・新築を含めた総住宅流通量に占める既
存住宅総流通量の割合を見るもの
■既存住宅流通量の定義
・法人・個人により取得された既存住宅
の総流通量(流通回数)
・戸建て、分譲マンション、賃貸用住宅
(購入者の居住の有無、流通後の用途
は問わない)
■使用データ
・既存:民事・訴訟・人権統計年報(法務
省)における建物売買による所有権移
転登記個数
・新築:住宅着工統計
■リリース頻度
・各年1回
図 II-14 本研究会における既存住宅流通指標(FRK既存住宅流通指標)
29
既存住宅の流通促進に関する研究会 研究成果概要
本研究会における参考指標
■指標の意味
・既存住宅流通の母体となる総住宅ストックに
対する、既存住宅流通量のシェアを見るもの
■既存住宅流通量の定義
・法人・個人により取得された既存住宅の総流
通量(流通回数)
・戸建て、分譲マンション、賃貸用住宅(流通後
の利用用途は問わない)
■使用データ
・既存:民事・訴訟・人権統計年報(法務省)に
おける建物売買による所有権移転個数
・住宅ストック数:住宅土地統計調査及び住宅
着工統計等による推計値
■リリース頻度
・各年1回(参考値としての取扱い)
「総ストック数に対する既存住宅流通量」
分子
既存住宅流通量総数
(所有権移転登記個数ベース)
※法人取得+個人取得
<(法人・個人)H15:44万件 >
分母
既存の総住宅ストック数
住宅土地統計調査における総住宅ストック数 <H15:5389万戸>
「総持家流通量に対する既存住宅流通量」
(持家としての選択性) 分子
取得された既存住宅数(住宅土地統計ベース)
住宅土地統計調査における『居住継続+買増+建替+住替』の
既存住宅数
<(個人)H15:24万戸>
分母
新築住宅(持家)着工総数
(借家・給与住宅を除く)
(住宅着工統計)
住宅着工統計から、「借家や給
与住宅」を除外した総着工数
<H15:116万戸>
取得された既存住宅数
(住宅土地統計ベース)
※分子と同じ
<H15:24万件>
■指標の意味
・持家(新築・既存)の総流通量に占める既存
住宅の流通量を見るもの
■既存住宅流通量の定義
・個人により取得された既存住宅の総流通量
(流通戸数)
・戸建て、分譲マンション、賃貸用住宅(流通後
の利用用途は問わない)
■使用データ
・既存:住宅土地統計調査を基にした推計値
・新築:住宅着工統計
■リリース頻度
・5年に1回(参考値としての取扱い)
図 II-15 参考として捕捉する既存住宅流通指標
参考 住生活基本計画における既存住宅流通指標
分子
既存住宅流通数
『持家として取得され、居住継続が行われている既存住宅数』
※個人取得(H15:17.5万件)
分母
新築住宅着工総数
住宅着工統計における「借家
や給与住宅」も含んだ総着工
数
既存住宅流通数
分子と同じ
■指標の意味
・新築を含めた総住宅流通量に占める持
家として取得され居住継続が行われて
いる既存住宅総流通量の割合を見るも
の
■既存住宅流通量の定義
・個人により取得された既存住宅の流通
量(流通戸数)
・購入者の自己居住用として取得され居
住継続が行われている戸建て、分譲マ
ンション
■使用データ
・既存:住宅土地統計調査公表値
・新築:建築着工統計
■リリース頻度
・5年に1回
図 II-16 住生活基本計画における既存住宅流通指標
30
既存住宅の流通促進に関する研究会 研究成果概要
1,400
1,200
(千件)
40.0%
1,230
1,215
1,198
1,174
1,000
800
22.3%
23.4%
新築着工総
数(借家・給
与住宅含む)
30.0%
27.9%
27.5%
26.9%
26.1%
1,189
1,160
1,151
1,236
23.9%
既存住宅流
通量(所有権
移転個数(個
人・法人取
得))
20.0%
600
400
461
440
423
414
387
370
344
10.0%
FRK既存住
宅流通指標
200
0
2005
2004
2003
2002
2001
2000
1999
1998
0.0%
図 II-17 本研究会における既存住宅流通指標の推移
(千件)
8,000
75.5%
76.0%
76.6%
76.8%
76.7%
77.6%
77.0%
6,779
7,000
80.0%
7,075
米国新築着
工総数
6,175
6,000
5,000
5,205
4,970
60.0%
5,566
5,296
5,152
米国既存住
宅流通量
40.0%
4,000
3,000
2,000
1,617
1,640
1,848
1,705
1,602
1,569
2,068
1,956
20.0%
米国指標
1,000
0.0%
2005
2004
2003
2002
2001
2000
1999
1998
0
図 II-18 米国における既存住宅流通量と指標の推移
100.0%
0.60
90.0%
80.0%
75.5% 76.0% 76.7%
76.8% 76.6% 77.0%
70.0%
60.0%
50.0%
0.30
0.31
0.31
0.34
0.35
0.36
77.6%
0.50
FRK既存
住宅流通
指標
0.40
0.36
0.30
米国指標
40.0%
30.0%
22.3% 23.4%
26.9% 27.5% 27.9%
23.9% 26.1%
20.0%
0.20
0.10
10.0%
2005
2004
2003
2002
2001
2000
1999
0.00
1998
0.0%
FRK指標/
米国指標
図 II-19 本研究会における指標と米国指標との比較
31
既存住宅の流通促進に関する研究会 研究成果概要
3. 既存住宅の流通促進に向けた住宅検査の課題と今後
の方向性
3-1 本調査での検討内容
既存住宅の売買の場における住宅検査については、既存住宅性能表示制度の実績は僅
かであり、民間任意の住宅検査が活用されている実態がある。しかし、既存住宅性能表
示制度については、「既存住宅の円滑な流通や住み替えを促進する」が目的の一つであ
り、既存住宅の流通促進のためには、活用が進まない理由を検討する意義は大きい。
一方、民間任意の住宅検査については、これからも活用が進むと考えられるため、市
場が大きく膨らむ前に、今後想定される課題を含め、既存住宅の流通促進に向けた検討
を行う意義は大きい。
よって、本調査では、既存住宅性能表示制度と民間任意の住宅検査を主な対象とし、
それらの検査内容・目的、活用実態の詳細や課題を比較検討することを通して、既存住
宅の流通促進に向けた住宅検査のあり方を検討するものである。
3-2 住宅検査の種類と活用実績
現在、我が国で行われている既存住宅を対象とした主な住宅検査としては、国の公的
な制度である既存住宅性能表示制度、民間の任意で行われている住宅検査があげられる。
その他、地震保険割引や税制特例を受けるために行われる特定目的のための住宅検査が
ある。
このうち、既存住宅性能表示制度の実績については、下表の通り、月別の戸建、共同
住宅別の受付・交付実績が公表されている。
これによると、平成 18 年 6 月末時点で、一戸建て住宅で 362 戸、共同住宅で 291 戸、
計 653 戸の実績となる。平均すると毎年 200 件前後ということになるが、これは、住宅
土地統計調査(総務省)で公表されている既存住宅流通量(H15:17.5 万戸)を母数と
してみると 0.1%程度となる。
既存住宅性能表示制度の年度別実績推移
(単位:戸)
平成14年度計(H14.12~H15.3)
平成15年度計(H15.4~H16.3)
平成16年度計(H16.4~H17.3)
平成17年度計(H17.4~H18.3)
平成18年度計(H18.4~H18.6まで)
合計
一戸建ての住宅
受付
交付
6
3
136
125
118
116
92
97
16
21
368
362
共同住宅等
受付
交付
1
0
97
96
112
106
88
56
1
33
299
291
合計
受付
7
233
230
180
17
667
交付
3
221
222
153
54
653
資料:国土交通省住宅局住宅生産課
表 II-3 既存住宅性能表示制度の年度別実績推移
一方、民間任意の住宅検査については、ヒアリング調査によると、年間約 600 件の実
績をあげている機関もあり、主要な検査機関の累積では 5000~10000 件程度の実績があ
ると思われる。
特定目的の住宅検査については、活用実績は把握できないが、一般的に民間任意の住
宅検査とセットで活用されることが多い。
32
既存住宅の流通促進に関する研究会 研究成果概要
3-3 既存住宅性能表示制度と民間任意の住宅検査の概要
(1) 既存住宅性能表示制度と民間任意検査の役割・位置付けの違い
既存住宅性能表示制度と民間任意の住宅検査では、既存住宅を検査・評価することに
は変わりはないが、その機能・役割が異なることを基本認識として踏まえておく必要が
ある。
1) 既存住宅性能表示制度
既存住宅性能表示制度では、「共通のモノサシ」により、既存住宅ストックを統
一的かつ客観的に評価し、既存住宅ストックの質の向上及び流通の円滑化を政策的
に促進させようとするものである。
適切な維持管理や修繕・リフォームに役立つことについても制度の目的としてい
るが、あくまでも評価・表示する制度であり、建物の瑕疵の有無を判断し、リフォ
ームを促すアドバイスを行うことまでを制度の範疇とはしていない。
2) 民間任意の住宅検査
民間任意の住宅検査とは、法定の住宅性能表示制度とは別に、民間独自のノウハ
ウに基づいて実施されるもので、目視等による耐震診断や白あり検査、有害物質検
査等の総称である。この民間任意の住宅検査については、共通のモノサシは持ち合
わせてはおらず、検査員の客観的な判断のもと、個別物件の欠陥を発見し、ユーザ
ーニーズへの対応(評価・検査にもとづくアドバイス等)を行うことが主たる商品
設計内容となっている。
よって、既存住宅性能表示制度については、個別物件に関する欠陥発見等の詳細
調査には不向きであるが、共通のモノサシにより、市場での客観的な情報の共有を
行っていくものである。一方、任意の住宅検査では、個別物件に関する詳細はわか
るものの、他物件との比較等当該物件の市場での位置付けを明確にする事に関して
は、不向きである。
・既存住宅性能表示制度では、「共通のモノサ
シ」により、統一的かつ客観的基準による評価
共通のモノサシにより、統一的かつ客観的な評価が可能
が可能であり、「既存住宅の検査時点の状態に
な制度設計
ついて評価・表示」する制度。
検査・評価の具体性・詳細性・対応柔軟性
制度の範疇外
・瑕疵の判断。評価後に
リフォームを促す。(具体
的なリフォームアドバイ
ス・業者紹介等)
民間任意の住宅検査
既存住宅性能表示制度
民間任意の住宅検査は、「共
通のモノサシ」に基づくもので
はないため、統一的客観性
は低いものの、個別物件や
個別ニーズに対する検査・評
価結果の具体性、詳細性、柔
軟性がある
個別的客観性
検査・評価の客観性
統一的客観性
図 II-20 既存住宅性能表示制度と民間任意の住宅検査の役割・位置付けの違い
33
既存住宅の流通促進に関する研究会 研究成果概要
3-4 既存住宅性能表示制度・民間任意の住宅検査の活用の実態
(1) 調査手法
1) 登録性能評価機関及び任意住宅検査機関等へのヒアリング調査
新築住宅性能表示制度を対象とした各種調査は実施されているが、既存住宅性
能表示制度については、十分な検討が行われてはおらず、情報量も希薄である。
一方、民間任意の住宅検査については、登録性能評価機関、指定確認検査機関
及び大小様々な一級建築士事務所等が実施しているため、その全容を把握するこ
とは困難である。よって、登録性能評価機関及び民間任意の住宅検査を行ってい
る主要な検査機関を対象に、ヒアリング調査を実施している。
2) ユーザーアンケート調査
ヒアリングを行った検査機関の中で、協力が得られた検査機関の顧客を対象に、
ユーザーアンケート調査を実施した。本アンケート調査では、「既存住宅の買い
手」、「既存住宅の売り手」を対象とし、既存住宅の売買にあたって利用した住
宅評価・検査の種類・内容を把握した。
また、本アンケート調査では、全て民間任意の住宅検査の利用者を対象として
いるため、既存住宅性能表示制度を活用しなかった理由を尋ねたほか、検査にあ
わせての保証制度の活用の有無、活用しなかった場合のその理由についても把握
を行った。
i)配布数
ヒアリングを行った検査機関の顧客 1190 名(うち、買主 1020 名、売主 170
名)
ii)調査方法
郵送配布・留置き、郵送回収(2期に分けて実施)
iii)調査時期と配布・回収数
表 II-4 既存住宅検査に関するユーザーアンケートの配布・回収状況
配布数
有効回収数
回収率
第1期 平成 18 年 9 月 14 日~9 月 29 日
売主調査
0
0
-
買主調査
791
第2期 平成 18 年 9 月 28 日~10 月 13 日
売主調査
170
買主調査
229
総計
売主調査
170
買主調査
1020
34
77
9.7%
34
72
20.0%
31.4%
34
149
20.0%
14.6%
既存住宅の流通促進に関する研究会 研究成果概要
(2) 既存住宅性能表示と民間任意の住宅検査の利用実態の詳細
1) 住宅検査の主な種類と活用の場
住宅検査には、前述した既存住宅性能表示制度、民間任意の住宅検査、さらには
特定目的のための検査が存在し、それぞれにおいて活用に至る目的が異なる。
既存住宅性能表示制度、民間任意の住宅検査の何れにおいても、「売買の場」、
「居住継続のための場」の双方で活用されている。
ただし、売買の場では、既存住宅性能表示制度よりも民間任意の住宅検査の活用
頻度が高い。これは、既存住宅性能表示制度では、共通のモノサシによる売買物件
の性能の「評価・表示」までに留まるが、民間任意の住宅検査では、売買物件の具
体的瑕疵の発見及び具体的なリフォームのアドバイスを行うことができることに起
因すると考えられる。
その他、売買の場では、「フラット35の公庫技術基準適合証明取得のための検
査」が主に買主からの申請により多く活用されている。
一方、居住継続のための場では、主に居住者が今後居住継続を行う物件に対する
安心感を得るために実施される。よって、下図でいう「所有者」からの発意となる。
居住継続の場で既存住宅性能表示制度が活用される背景としては、新築時に性能
評価の取得が行なわれていない物件や新築物件の取得後に当該物件に対して何らか
の不安を感じた「所有者」が下図でいう「施工者(設計者)」に打診(クレーム)
を行い、施工者(設計者)がそれに対応して申請するケースが多い。よって、この
ケースでの評価対象住宅は、新築間もない住宅ということになる。既存住宅性能表
示制度の活用の背景としては、売買の場よりも、むしろこちらのケースの方が多い。
・隠れた瑕疵の発
見。トラブルの事前
回避(不動産業者
が売主の場合)
・隠れた瑕疵の発
見。トラブルの事前
回避
フラット35適合証明
フラット35Sの等級
取得
売買の場
一般任意検査
活用の場面
・主にクレーム対応、
トラブルの回避(検
査なしに売買された
新築物件への既存
検査による対応)
既存住宅性能表示
・実績はあるが、数は
僅か。
・売買の場では、一
般任意検査の活用
頻度が高い。
耐震基準適合検査
保証検査
居住継続の
ための場
・保証制度
を受ける
ための検
査
・居住継続の安心を
得るための活用
・物件の付加価
値付け
一般任意検査
・税や地震
保険上の
メリットを
得るため
既存住宅性能表示
耐震基準適合
検査
売主(個人)
買主(個人)
不動産業者
施工者
設計者
所有者
申請者の種類
図 II-21 活用の場と申請者の種類別に見る既存住宅を対象とした住宅評価・検査の種類
35
既存住宅の流通促進に関する研究会 研究成果概要
2) 既存住宅性能表示制度の利用実績と評価機関数の構造
住宅性能評価機関等連絡協議会(以下「評価協」と略記)によると、日本住宅性
能表示基準の性能について評価方法基準に従って客観的に住宅の評価を行う「登録
住宅性能評価機関」は、平成18年6月現在、全国で88機関あり、そのうち業務
内容に既存住宅性能表示制度を含めているものは、約半数の45機関となっている。
評価機関ヒアリングによると、既存住宅性能表示制度の実績は、上位数社でおよ
そ半数~半数以上の実績を占め、既存住宅性能表示制度を業務内容としていながら、
実績がゼロ件である機関も多い。
本調査のヒアリング対象とした評価機関5機関においても、ほとんどの機関は実
績が5件以下であり、ヒアリング対象のうち1機関のみが、一戸建て住宅で 140 件
あまり、共同住宅で 10 棟前後の実績があるとの回答であった。
一方、既存住宅性能表示制度を扱っている評価機関のうち、任意の住宅検査も実
施している機関では、既存住宅性能評価と比べて、任意の住宅検査の方が実績が圧
倒的に多い。
上位数社で、
実績の大部
分を占める
既存住宅性能表示
制度を業務内容に
含めている登録住
宅性能評価機関
既存住宅性能表示
制度
実績
約650件
45機関
多くの機関は、
実績が1ケタな
いしはゼロ
実績数・機関数共にH18.6現在
図 II-22 既存住宅性能表示制度の実績と実施機関の関係性
36
既存住宅の流通促進に関する研究会 研究成果概要
(3) 民間任意の住宅検査の利用実態
ここでは、ユーザーアンケート調査結果から、民間任意の住宅検査の利用実態に
ついて整理する。
1) 活用した住宅検査の種類
活用した住宅検査の種類では、買主・売主ともにほぼ全員が「目視による住宅
検査」を受けている。買主では白アリ検査が約5割と高い活用頻度を示している。
耐震診断については、買主・売主ともに約3割である。
0%
20%
40%
60%
80%
100%
96.9%
90.3%
目視等による住宅検査
28.1%
29.2%
耐震診断
18.8%
13.2%
地盤調査
37.5%
白アリ検査
有害化学物質調査
その他
120%
47.9%
3.1%
19.4%
0.0%
売主 (N=32)
買主 (N=144)
8.3%
図 II-23 活用した住宅検査の種類(複数回答)
2) 住宅の評価・検査を依頼した理由
i)買主
住宅の評価・検査を受けた理由では、買主では「これから購入する住宅の性
能や欠陥の有無をきちんと知っておきたい」が約7割となっている。
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
18.4%
仲介業者に勧められたから
これから購入する、又は最近購入した住宅の性能や
欠陥の有無についてきちんと知っておきたいから
72.1%
住宅の資産価値の維持につながると思うから(将来
の売却時に有利になると考えるから)
5.4%
リフォームをしたいと考えており、要修繕箇所や優先
順位を効果的に知りたかったから
19.0%
現在住んでいる住宅に不具合を感じており、住宅購
入に際しては検査の必要があると感じたから
2.7%
その他
16.3%
N=147
図 II-24 住宅の評価・検査を依頼した理由(買主)(複数回答)
37
既存住宅の流通促進に関する研究会 研究成果概要
ii)売主
一方、売主では、「仲介業者に勧められた」が約7割となっており、検査に
対しての自発性についてはやや低い面がうかがえる。
0%
10%
30%
40%
50%
60%
70%
3.0%
買い手から求められたから
12.1%
物件の性能や優位性をアピールできるから
既存(中古)住宅市場のためには、行うべきだから
20%
0.0%
売りに出す前に、欠陥の有無を事前に確認したかっ
たから
42.4%
仲介業者に勧められたから
66.7%
売却後のトラブルに備えたいから
15.2%
その他
6.1%
N=33
図 II-25 住宅の評価・検査を依頼した理由(売主)(複数回答)
3) 活用に至る経緯
活用に至る経緯としては、買主・売主ともに、「仲介業者からの紹介」が最も
多く見られる。買主については、「自らがインターネット検索を行った」との回
答が約2割見られるが、売手側には見ることができない。
このことからも、住宅評価・検査の活用においては、仲介業者の役割が大きい
ことがうかがえる。
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
100%
3.0%
93.9%
売主 (N=33)
2.1%1.4%
買主 (N=145)
9.0%
56.6%
18.6%
7.6%
0.7%4.1%
仲介業者から紹介を受けた
買主(売主)から紹介を受けた
自らがインターネット検索を行うことを通して知った
金融機関から紹介を受けた
「評価協」など、関連団体のホームページを通して知った
新聞・雑誌などを通して知った
親族や知人から紹介を受けた
その他
図 II-26 住宅の評価・検査の活用に至った経緯
38
既存住宅の流通促進に関する研究会 研究成果概要
4) 評価に対する満足度
下図は民間任意の住宅検査に対する売主・買主の評価であるが、「満足」、「や
や満足」を含めると、売主では各項目とも8~9割、買主では 7 割~8 割を占め
ている。
0%
10%
20%
16.3%
(6)申込から評価・検査終了までの期間:売主
(N=33)
満足
8.3% 5.6%
45.5%
48.3%
16.1%
52.5%
42.4%
やや満足
39
0.0%
6.3%
0.0%
20.1%
54.5%
7.9%
3.0%
0.0%
57.3%
17.5%
やや不満
不満
図 II-27 住宅の評価・検査に対する満足度
8.4%
3.6%
2.9%
43.8%
42.4%
18.2%
0.0%
6.1%
42.4%
50.0%
29.5%
9.3%
0.0%
6.1%
48.6%
41.0%
6.3%
0.0%
3.0%
20.7%
57.6%
(7)担当者の対応やアドバイス:売主
(N=32)
(8)総合評価:買主 (N=143)
19.4%
42.4%
48.5%
(8)総合評価:売主 (N=33)
0.0%
3.0%
51.5%
37.5%
27.3%
7.4%
54.5%
51.5%
(5)評価・検査レポートの内容の充実度:売主
(N=33)
90% 100%
13.3% 6.7%
52.9%
17.1%
(6)申込から評価・検査終了までの期間:買主
(N=139)
80%
30.4%
45.5%
(4)評価・検査レポートのわかりやすさ:買主
(N=144)
(7)担当者の対応やアドバイス:買主
(N=139)
70%
52.1%
22.2%
(4)評価・検査レポートのわかりやすさ:売主
(N=33)
(5)評価・検査レポートの内容の充実度:買主
(N=143)
60%
26.7%
42.4%
(3)評価・検査の方法:売主 (N=33)
(3)評価・検査の方法:買主 (N=140)
50%
45.9%
(2)評価・検査項目:売主 (N=33)
(2)評価・検査項目:買主 (N=144)
40%
53.3%
(1)費用:売主 (N=30)
(1)費用:買主 (N=135)
30%
7.0%
既存住宅の流通促進に関する研究会 研究成果概要
3-5 既存住宅の流通促進に向けた住宅検査の方向性
(1) 提言に向けた考え方
既存住宅流通促進のための住宅検査については、既存住宅性能表示制度と民間任
意の住宅検査の両面から検討を行ってきたが、既存住宅性能表示制度が有効に機能
するためには、新築住宅性能表示制度の一層の普及が必要であり、現時点で制度内
容に関して、既存住宅流通促進のための提言を行うことは若干困難であると考えら
れる。
よって、本研究会における提言については、現時点の売買の場で活用されている
民間任意の住宅検査を主に取り上げ、今後危惧される事態を想定した上での提言を
行いたい。
民間任意の住宅検査については、現時点の既存住宅の売買の場において最も活用
されており、今後もその活用頻度は高まると考えられる。
現時点の主要な検査機関の動向については、本調査で行ったヒアリング調査によ
り、その概要は把握されているが、中小一級建築士事務所等を含めたすべての検査
機関における検査機関の種類や検査商品の内容については十分に把握されてはおら
ず、今後の住宅検査市場の拡大に伴って、その把握は益々困難になると考えられる。
既存住宅の取引に関しては、売り手から買い手への情報提供が重要となり、住宅
検査は、住宅の質に関する情報を売り手、買い手へ伝達する重要な手段である。こ
の手段において、伝達される情報の量や質について不均一性が顕著であれば、既存
住宅流通市場に混乱を来たしかねない。
さらに、上記した住宅の質の情報について、その具体性を高めれば高めるほど、
住宅検査員の知識・技能が問われるとともに、売買後のトラブルが生じた場合の責
任を問われるリスクが高まることが想定される。
以上のことから、本研究会における既存住宅の流通促進のための住宅検査に関す
る提言内容としては、以下のものが考えられる。
(2) 提言内容
1) 民間任意の住宅検査における検査項目、検査水準等の業界自主統一ルールの作
成とそれに対する公的機関等の支援の必要性
個別物件に関する具体的な欠陥の指摘や、リフォームへのアドバイスは、売主、
買主に対しても安心感を与え、既存住宅の流通促進及び住宅ストックの質の向上
にとって有効である。
しかし、現在の売買の場で活用されている民間任意の住宅検査においては、統
一的なルールが存在しないため、様々な検査結果情報を持ち合わせた住宅ストッ
クが市場に蓄積することは、情報の取引の重要性が高い既存住宅流通市場におい
て好ましいことではない。
よって、既存住宅性能表示制度を補完する観点から、業界の自主的な統一ルー
ルや倫理規定が策定されることが望ましく、それに対しての働きかけや具体的検
討の場の設置などに公的機関等の支援が行われることが望ましい。
40
既存住宅の流通促進に関する研究会 研究成果概要
2) 民間任意の住宅検査における人材育成プログラムの作成とそれに対する公的
機関等の支援の必要性
業界統一ルールの策定に合わせて、住宅検査員の知識・技能レベルを一定水準
に維持することも重要となる。
よって、住宅検査業界に係る人材育成プログラムの策定と、策定に対する公的
機関等の支援が行われることが望ましい。
3) 住宅検査結果における責任の所在の明確化及び住宅検査会社の責任保険制度
の検討
売買の場において、個別物件の欠陥等の表示について具体性を高めれば高める
ほど、住宅検査員の知識・技能が問われるとともに、売買後にトラブルが生じる
リスクが高まると想定される。
しかし、現在においては、検査内容・検査対象の種類や、トラブルの内容にか
かわらず、責任の所在等が必ずしも明確ではない。
よって、住宅検査結果に対する責任の所在範囲について、検査内容・対象、ト
ラブルの内容など、適切な区分ごとに明確化していく必要がある。
さらに、責任の所在如何によっては、住宅検査会社の賠償責任を担保する責任
保険制度の検討を行うことが望ましい。
これについては、住宅の品質確保の促進等に関する法律による紛争処理体制が
あるように、民間任意の住宅検査においても、責任保険制度と紛争処理体制の一
体的な検討を行うことも考えられる。
4) 新築住宅性能表示制度の普及促進
既存住宅性能表示制度、民間任意の住宅検査が有効に機能するためには、新築
時にその物件の性能が正しく測られ、その情報が付帯していることが必要である。
よって、新築住宅性能表示制度の更なる普及促進のためのアクションを進めて
いくことが必要である。
41
既存住宅の流通促進に関する研究会 研究成果概要
4. 住宅の質と価格評価の関連性
4-1 住宅の質と価格の関係についての定量分析
(1) 目的
ここでは、『住宅の価格』に『住宅の質』が『どの程度』影響を及ぼしているの
かについて定量的な分析をおこなう。
具体的には、既存住宅の価格が、どのような要因により影響され、どのような住
宅であれば、新築時の価格を市場で維持することができるのかについて分析をおこ
なうものである。
尚、分析にあたっては、分譲マンションについては、株式会社東京カンテイの協
力による平成7年以降に売買された渋谷区・世田谷区・杉並区の既存マンションの
データをもとにおこなっている。
戸建住宅については、東日本不動産流通機構に登録され、平成 2 年 5 月 1 日~平
成 18 年 9 月 30 日の間に成約された小田急電鉄沿線(下北沢~玉川学園前)の既存
戸建住宅価格、並びに土地価格のデータを用いている。
既 存 分 譲 推定1
マンショ
ンを対象
とした分
析
推定2
戸 建 て を 推定1
対象とし
た分析
推定2
推定3
対象(被説明変
目的
数)
既 存 マ ン シ ョ マンションによって価格が異な
ン価格
る要因が『何で』『どの程度』
影響を及ぼしているのかについ
て分析をおこなう
既存時価格/新 『どのような』要因で『どの程
築時価格
度』新築時の価格が維持される
のかについて分析をおこなう
分析手法
ヘドニック・アプローチ
リピート・セールス法
(既存マンション価格関
数式、新築マンション価格
関数式、マンション価格変
化率式並びに制約式から
なる連立方程式モデル)
既 存 戸 建 住 宅 住宅によって価格が異なる要因 ヘドニック・アプローチ
価格
が『何で』『どの程度』影響を
及ぼしているのかについて分析
をおこなう
土地価格
土地によって価格が異なる要因 ヘドニック・アプローチ
が『何で』『どの程度』影響を
及ぼしているのかについて分析
をおこなう
既 存 戸 建 住 宅 不動産の種別によって価格が異 ヘドニック・アプローチ
価格
なる要因が『何で』『どの程度』
・土地価格
影響を及ぼしているのかについ
て分析をおこなう
※本概要版では、上記した複数の分析の要点のみをまとめている。
42
既存住宅の流通促進に関する研究会 研究成果概要
(2) ヘドニックアプローチによる推定手順
ヘドニック・アプローチによる価格関数の推定については、幾つか問題点(分散
不均一、除外された変数の影響、多重共線性)が指摘されている。本調査ではこれ
らの問題に対処し信頼に足る結果を得るために、以下の手順に従い価格関数の推定
をおこなう。
説明変数の選択
・散布図、相関係数表等を参考に説明変数を選択
(多重共線性の排除) ※1
再検討
誤差項の
分散不均一性
の検証 ※2
定式化の検証
・ラグランジュ乗数検定等を用いて分散不均一性を検証。分散
が不均一である場合、関数型の変更、変数の変換をおこな
う。なお問題が残る場合には、Whiteの不均一分散一致標準
偏差(HSCE)を用いて推定
・パラメータ(係数)の符号と想定される符号条件との整合性を
検証(⇒「仮定」と「推計結果」との整合性を検証)
・VIF(Variance information factor)値を用いて多重共線性を
チェック
・t値によってパラメータの値が統計的に有意かどうかを判断
・自由度修正済み決定係数等によってフィットの良さを確認
推定式の確定
図 II-28 価格関数の推定手順
※1 説明変数間に非常に強い相関があったり、1次従属な関係があったりする場合に多重共線性があると言われる。具体
的な症状としては、推定値の符号が理論と合わない、決定係数は大きいのに個別のt値は低い、観測値を増加させる
たびに推定値が大きく変動する、説明変数を増減すると推定値が大きく変動する等が挙げられる。(山本拓『計量経
済学』1995 年
新世社)
※2 分散が不均一の場合でも、その推定量は一致性と不偏性は持っているが、有効性が無くなり t 検定をおこなうことが
できない。また、検定した場合には、本来有意でない説明変数を有意としてしまう傾向がある。ただし、White の不
均一分散一致標準偏差(HCSE)といわれる修正によって t 検定をおこなうことができるようになる。
43
既存住宅の流通促進に関する研究会 研究成果概要
(3) 既存マンションにおける質と価格の関連性分析
1) 推定結果 1(既存マンション価格を対象にしたケース)
既存マンション間の価格の相違の要因を把握するため、既存マンション価格関
数の推定をおこなった。
i)建物構造別減価率について
S(鉄骨造)>PC(プレキャスト造)>RC(鉄筋造)>SRC(鉄筋鉄骨造)の順に減価率が高く
なっており、耐用年数が高い構造物ほど減価率が低いことが示された。
(%)
100.0
90.0
80.0
70.0
60.0
SRC
50.0
RC
40.0
PC
30.0
S
20.0
10.0
0.0
3
4
5
6
7
8
9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30
(築後経過年数)
鉄筋鉄骨コンクリート造
鉄筋コンクリート造
プレキャストコンクリート造
鉄骨造
図 II-29 構造別価格比(築 3 年の住宅の価格を 100 とし、それに対する各築年の住宅の価格)
※構造以外の他の条件を同じにした場合(品等は 8 で固定)
44
既存住宅の流通促進に関する研究会 研究成果概要
ii)建物品等別減価率について
減価率は、品等 2>品等 3>品等 4>品等 5>品等 6>品等 7>品等 8>品等 9 の順に大き
くなっており、グレードの高い住宅ほど減価率が低いことが示された。
(%)
100.0
90.0
80.0
70.0
60.0
①
50.0
②
③
④
40.0
⑤
⑥
30.0
⑦
⑧
20.0
⑨
10.0
0.0
3
4
5
6
7
8
9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30
(築後経過年数)
品等1
品等8
品等2
品等9
品等3
品等4
品等5
品等6
品等7
図 II-30 建物品等別価格比(築 3 年の住宅の価格を 100 とし、それに対する各築年の住宅の価格)
※建物品等以外の他の条件を同じにした場合(構造は鉄筋鉄骨コンクリート造で固定)
45
既存住宅の流通促進に関する研究会 研究成果概要
下図は、築後月数 1%の変化に対する価格の減価率を建物構造・品等別にみたものである。
(%)
0.000
-0.100
-0.200
-0.300
-0.400
-0.100 -0.000
-0.500
-0.200 --0.100
-0.600
品等 1
品等 3
品等 5
品等 4
品等 7
品等 6
-0.456%
-0.449%
-0.454%
-0.474%
-0.551%
-0.579%
-0.596%
-0.663%
-0.714%
品等 8
品等 1
品等 2
品等 3
品等 4
品等 5
品等 6
品等 7
品等 8
品等 9
鉄骨造
鉄筋鉄骨
コンクリート造
品等 9
プレキャストコンクリート造
鉄筋コンクリート造
鉄筋鉄骨コンクリート造
-0.800
-0.900
品等 2
-0.700
-0.300 --0.200
-0.400 --0.300
-0.500 --0.400
-0.600 --0.500
-0.700 --0.600
-0.800 --0.700
-0.900 --0.800
鉄筋
コンクリート造
-0.465%
-0.458%
-0.463%
-0.483%
-0.561%
-0.588%
-0.605%
-0.673%
-0.723%
プレキャスト
コンクリート造
-0.473%
-0.466%
-0.471%
-0.491%
-0.569%
-0.596%
-0.613%
-0.681%
-0.731%
鉄骨造
-0.571%
-0.564%
-0.568%
-0.589%
-0.666%
-0.693%
-0.711%
-0.778%
-0.829%
図 II-31 建物構造・品等別減価率
※築後月数 1%の変化に対する価格の減価率(%)
iii)その他
専有面積が 1 ㎡広がると、価格は約 1.3%高くなる。
角部屋である場合、そうでない場合と比べて価格は 5.6%程度高い。
( 0.056 ≅ e0.055 − 1 )
住戸が 1 階にある場合、そうでない場合と比べて価格は 8.6%程度低
い。( −0.086 ≅ e−0.090 − 1 )
土地の権利形態が所有権である場合、借地権の場合と比較して価格
は 15.3%程度高い。( 0.153 ≅ e0.142 − 1 )
敷地面積、総戸数のパラメータがいずれも負であることから、小規
模の邸宅型マンションでは、相対的に価格が高い可能性がある。
46
既存住宅の流通促進に関する研究会 研究成果概要
※
建物品等(グレード)の判定基準は以下のとおりである。
区分
判定基準
・外観
・エントランス
1
・設備
・完璧な管理体制など全てが一級品
・外観、エントランス、設備
2
・管理に高級感あり
3
・高級でも小規模住戸がある場合など
・上級以上だが、外観、エントランス、設備、面積
4
で高級には何か物足りない
5
・外観、エントランス、設備などが良い
・面積、設備、管理などから、標準より一歩抜きん
6
でている
・スケールメリットがある
7
・小規模でもガッシリしている、工夫がある
・一般、標準
・共用施設の乏しい大型マンション
8
・箱形開放廊下タイプが多い
・外壁がタイルのみで工夫がない
・並以下
9
・小規模マンションに多い
・木造アパート並み
10
・エントランスが外階段のみ
※品等 10 に該当するデータは用いていない。
47
既存住宅の流通促進に関する研究会 研究成果概要
2) 推定結果2(既存時価格・新築価格比を対象にしたケース)
新築時からの価格維持率が高いマンションの特徴を把握するため、価格比率関
数の推定をおこなった。なお、推定に際しては、既存マンション価格関数式、新
築マンション価格関数式、マンション価格変化率式並びに制約式からなる連立方
程式モデルを組み、3 段階最小 2 乗法を用いている。
i)建物構造について
SRC(鉄筋鉄骨造)>RC(鉄筋造)>PC(プレキャスト造)>S(鉄骨造)の順に価格維持率は
高くなっており、耐用年数が高い構造物ほど価格維持率が高いことが示された。
(%)
16.0
14.0
12.0
10.0
8.0
S
6.0
PC
4.0
RC
SRC
2.0
0.0
3
4
5
6
7
8
9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30
(築後経過年数)
鉄筋鉄骨コンクリート造
鉄筋コンクリート造
プレキャストコンクリート造
鉄骨造
図 II-32 構造別経年減価率(前年の価格からの減価率)
※構造以外の他の条件を同じにした場合(品等は 8 で固定)
48
既存住宅の流通促進に関する研究会 研究成果概要
ii)建物品等について
品等 1>品等 2>品等 3>品等 4>品等 5>品等 6>品等 7>品等 8>品等 9 の順に価格維持
率は高くなっており、グレードの高い住宅ほど価格が維持されることが示された。
(%)
14.0
12.0
10.0
⑨
8.0
⑧
⑦
6.0
⑥
⑤
4.0
④
③
2.0
②
①
0.0
3
4
5
6
7
8
9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30
(築後経過年数)
品等1
品等8
品等2
品等9
品等3
品等4
品等5
品等6
品等7
図 II-33 建物品等別経年減価率(前年の価格からの減価率)
※建物品等以外の他の条件を同じにした場合(構造は鉄筋鉄骨コンクリート造で固定)
49
既存住宅の流通促進に関する研究会 研究成果概要
下図は、築後月数 1%の変化に対する価格維持率の変化を建物構造・品等別にみたものである。
(%)
0.000
-0.050
-0.100
-0.150
-0.200
-0.050 -0.000
-0.250
-0.100 --0.050
-0.300
品等 2
品等 1
品等 4
品等 6
品等 5
品等 8
品等 7
鉄骨造
鉄筋鉄骨
コンクリート造
品等 9
プレキャストコンクリート造
鉄筋コンクリート造
鉄筋鉄骨コンクリート造
-0.400
-0.450
品等 3
-0.350
-0.150 --0.100
-0.200 --0.150
-0.250 --0.200
-0.300 --0.250
-0.350 --0.300
-0.400 --0.350
-0.450 --0.400
鉄筋
コンクリート造
プレキャスト
コンクリート造
鉄骨造
品等 1
-0.171%
-0.177%
-0.177%
-0.223%
品等 2
-0.213%
-0.219%
-0.219%
-0.265%
品等 3
-0.236%
-0.242%
-0.242%
-0.287%
品等 4
-0.253%
-0.259%
-0.259%
-0.305%
品等 5
-0.284%
-0.290%
-0.290%
-0.335%
品等 6
-0.302%
-0.308%
-0.308%
-0.354%
品等 7
-0.321%
-0.327%
-0.327%
-0.373%
品等 8
-0.349%
-0.355%
-0.355%
-0.401%
品等 9
-0.372%
-0.378%
-0.378%
-0.423%
図 II-34 建物構造・品等別価格維持率
※築後月数 1%の変化に対する価格維持率(%)
iii)その他
専有面積が 1 ㎡広がると、価格比(既存時価格/新築価格)は 0.30%
大きくなる<新築時との価格差が小さくなる>
マンションの総戸数が 1%増えると、価格比(既存時価格/新築価
格)は 0.310%大きくなる<新築時との価格差が小さくなる>
専有面積が広い住戸や大規模マンションの住戸では価格維持率が高いこと
が示された。
50
既存住宅の流通促進に関する研究会 研究成果概要
(4) 既存戸建住宅価格・地価関数の推定
推定に当たっては、東日本不動産流通機構に登録され、平成 2 年 5 月 1 日~平成
18 年 9 月 30 日の間に成約された小田急電鉄沿線(下北沢~玉川学園前)の既存戸建
住宅価格、並びに土地価格を被説明変数として用いている。また、東日本不動産流
通機構登録データを説明変数として用いている。
1) 推定結果
i)建物について
床面積が 1 ㎡広がると、価格は 0.13%高くなる。
築後経過年数が 1 年増すと、価格は 1.4%低くなる。
ii)住環境について
南向きの土地であることで、そうでない場合と比べて価格が 5.9%程
高い( 0.0591 ≅ e0.0574 − 1 )
空地率が 1%増加すると、価格は 0.0028%高くなる。
2) シミュレーション
i)シミュレーションの設定条件
シミュレーションに際しては、以下のような設定条件をおき、築後年数の経
過に伴う建物価格比率(建物価格/土地・建物一体価格)の変化を観察する。
表 II-5 シミュレーション設定条件
項目
設定条件
敷地面積
200 ㎡
最寄り駅から新宿駅までのアクセス時間
25 分
最寄り駅までの徒歩時間
15 分
最寄り駅までのバス時間
0分
土地の向き(接面道路の向き
東
前面道路幅員
5.5m
側道
無
空地率(100-建ぺい率)
50%
土地権利形態
所有権
建物床面積
125 ㎡
築後経過年数
新築~28 年
51
既存住宅の流通促進に関する研究会 研究成果概要
ii)シミュレーション結果
シミュレーションの結果は以下のとおりである。築後経過年数に応じて建物
価値が減価することが示されている。ただし、築年を経た住宅においても建物
価値はある程度評価されている。
表 II-6 シミュレーション結果
築後経過年数
建物価格/(土地・建物一体価格)
(新築)
33.5%
1年
32.5%
2年
31.6%
3年
30.6%
4年
29.6%
5年
28.5%
6年
27.5%
7年
26.4%
8年
25.4%
9年
24.3%
10 年
23.2%
11 年
22.1%
12 年
20.9%
13 年
19.8%
14 年
18.6%
15 年
17.5%
16 年
16.3%
17 年
15.0%
18 年
13.8%
19 年
12.6%
20 年
11.3%
21 年
10.0%
22 年
8.7%
23 年
7.4%
24 年
6.0%
25 年
4.6%
26 年
3.3%
27 年
1.9%
28 年
0.4%
図 II-35 不動産価格に占める建物価値の割合
52
既存住宅の流通促進に関する研究会 研究成果概要
4-2 日米の既存住宅売買における価格査定について
(1) はじめに
前節では、住宅の質と価格の関係について、市場データからみた分析を試みたが、こ
こでは観点を変えて、米国および日本において、既存住宅売買のフローの中で、個別の
不動産価格の査定が実際にどのようになされているか、具体的事例をサンプル的に取り
出して、比較検証を行っている。
(2) 米国における価格査定事例
1) 米国の既存住宅売買のプロセスと価格査定
米国において、売主あるいは買主はリアルター等に対して売買の媒介依頼をす
る際に、リアルターからCMA(Comparable Market Analysis : 比較市場分析)
等の資料の提供を受けて、参考事例となる取引物件の成約価格等の情報を入手し
た上で、MLSにリスティングする売却希望価格の決定あるいは購入可能な物件
価格の把握等を行うが、具体的な個別物件の価格査定を行うためのマニュアル、
査定書式等の類いは、NARによる各種標準書式類を含めて存在していない。
一方、個別物件の価格査定という意味では、購入者が住宅ローンを利用する際
に、住宅ローン債権の市場での二次流通を前提に、統一的な住宅価格査定書が様
式化されて用いられている。
そこで、ここでは、その住宅ローンにおける融資可能額算定の基礎となる
Uniform Residential Appraisal Report(統一住宅価格査定書)による、査定事
例を2例あげて、内容の検討を行っている。
2) カリフォルニア州の住宅の事例
まず最初に示したのは、カリフォルニア州ロスアンゼルス郊外にある高級住宅
地の査定事例である。米国の場合、まず対象物件のプロフィールを明確にした上
で、比較事例となる物件の成約価格をベースに、対象物件との条件上の差異を加
減算調整(adjustments)して、対象物件の査定価格を算定するという方式をとっ
ている。
①敷地面積の増減を、単純にそのままの価格増減には反映させていない。
この事例では、面積差が大きい場合に、10 ドル/sqft で価格を増減させている。
なお、当該エリアの戸建の土地:建物比率は 8:2 ないしは 7:3 程度(固定資産税
の課税標準額)であり、10 ドルはいわゆる土地単価ではない。ビュー(見晴らし)
に対する評価が極めて重視されており、当該エリアの特徴が明確に現れている。
53
既存住宅の流通促進に関する研究会 研究成果概要
②既存住宅の築後年数による査定額の差額は、原則として評価していないが、新
築物件との差額は状態(condition)の差と含めかなり大きくみている。
③部屋数では「浴室・トイレ付き」の部屋数が重視されている。また、「総居住
エリア」面積も重視されており、100 ドル/sqft で評価額を増減させている。ま
た、主な改造では「キッチンのリモデリング」への評価が高くなっている。
(これらは、居住性に関する米国人の重視ポイントを端的に示すものであろう。)
統一住宅価格査定書(カリフォルニア州の事例)
比較事例3
項目
対象物件
比較事例1
比較事例2
住所
-
-
-
-
1.17 miles(1マイル=1.6キロメートル)
0.01 miles
1.11 miles
対象物件までの距離
$2,545,000
売買価格
$511.66 sq.ft.
売買価格(総居住エリアの売買単価)
データの出所
$2,050,000
販売時の資金調達上の譲歩等
MLS
MLS
証書番号
証書番号
リースホールド・単純所有権の別
事項
調整額
事項
調整額
記録された抵当権設
定証書なし
記録された抵当権設
定証書なし
通常の65%ローン
2005年10月26日
2006年1月12日
2005年11月30日
平均的
平均的
平均的
単純所有権
単純所有権
単純所有権
単純所有権
19,930+-
10,890+-
+90,400
26,370+-
パノラマ・オーシャン
なし
+300,000
パノラマ・オーシャン
なし
伝統型
地中海型
地中海型
伝統型
建物の質
良好
良好
良好
築後年数
19
16
New(新築)
-250,000
26
Good(良好)
Good
Excellent(優良)
-250,000
Good
敷地面積等
見晴らし
デザイン(スタイル)
状態
地上の部屋
部屋数
総居住エリア
地下階
地下の居室用仕上げ
機能的利便性
暖房/冷房
エネルギー効率設備
車庫・カーポート
ポーチ/パティオ/デッキ
合計 寝室
9
4
浴室 ・
合計
トイレ
5.5
9
寝室
浴室・
トイレ
5
4.5
4,974 sq.ft.
4,189 sq.ft.
なし
なし
合計 寝室
+30,000
+78,500
9
19,406+-
-64,400
+300,000
良好
浴室 ・
トイレ
4
5
4,800 sq.ft.
合計 寝室
-15,000
+17,400
なし
8
浴室 ・
トイレ
4
4.5
4,269 sq.ft.
なし
なし
なし
なし
平均的
平均的
平均的
暖気送風装置/冷房
なし
暖気送風装置/冷房
なし
暖気送風装置/冷房な 暖気送風装置/冷房
し
なし
なし
なし
なし
なし
自動車3台用車庫
自動車3台用車庫
自動車3台用車庫
自動車3台用車庫
パティオデッキ
パティオデッキ
パティオデッキ
パティオデッキ
プール&スパ
プール&スパ
プール&スパ
プール&スパ
なし
キッチンのリモデル
なし
キッチンのリモデル
-100,000
+$398,900
Net(正味) 19.5%
Gross(総体) 29.2%
-$562,000
Net 15.8%
$2,448,900
Freddie Mac Form 70 March 2005
Gross 16.8%
+30,000
+70,500
なし
平均的
正味調整額合計
比較事例との比較調整後販売価格
調整額
平均的
販売時期
ロケーション
$544.62 sq.ft.
$739.58 sq.ft.
MLS
事項
事項
$2,325,000
証書番号
インスペクション
証明方法
価格調整
$3,550,000
$489.38 sq.ft.(1sq.ft.
当たり$489.38。
1sq.ft.=0.0929㎡)
-100,000
+$300,500
Net 19.5%
$2,988,000
Gross 29.2%
$2,625,500
Fannie Mae Form 1004 March 2005
54
既存住宅の流通促進に関する研究会 研究成果概要
3) ペンシルベニア州の住宅の事例
次に示したのは、米国東部のペンシルベニア州の高速道路近接の地方都市(人
口 2 万人弱)の郊外住宅地の査定事例である。この事例からは、概ね次のような
点が指摘されると思われる。
①カリフォルニア州の事例と同じく、敷地面積の増減を、単純にそのままの価格
増減には反映させていない。
この事例では、面積差について、0.11~0.15 ドル/sqft で価格を増減させてい
る。なお、この場合も、0.11 ドル等はいわゆる土地単価ではない。
②築後年数の差については、築 1 年である対象物件と、新築物件の差額を状態
(condition)の差と含め 7,500 ドル、築 14 年物件との差額を 1 年 1,000 ドル
/sqft で評価しており、カリフォルニア州の事例とは評価方法が異なっている。
③本事例では、「浴室・トイレ付き」の部屋数よりは「総部屋数」が重視されて
おり、カリフォルニア州の事例とは若干異なる。なお、「総居住エリア」面積
の増減については、25 ドル/sqft で評価額を増減させている。
④その他、地下室のあることが常態化しているエリアとしてその状態に関する評
価のウェートが高く、また、車庫については車 1 台の増減で 5,000 ドル、暖炉
付き部屋の増減で 4,500 ドル等の査定が行われている。
統一住宅価格査定書(ペンシルベニア州の事例)
項目
対象物件
比較事例1
比較事例2
住所
-
-
-
-
0.01マイル弱 北西
0.1マイル弱 北西
3.84マイル南西
対象物件までの距離
$876,000
売買価格
$900,000
$165.50 sq.ft.
売買価格(総居住エリアの売買単価)
$160.71.38 sq.ft.
(1sq.ft.=0.0929㎡)
データの出所
$858,560
$166.07 sq.ft.
MLS/ブローカー/郡の記録
郡の記録
郡の記録
事項
事項
販売時の資金調達上の譲歩等
事項
調整額
$930,000
$179.61 sq.ft.
MLS/ブローカー/郡の記録
証明方法
価格調整
比較事例3
MLS/ブローカー/郡の記録
郡の記録
事項
調整額
DOM 120
CONV
DOM 148
CONV
調整額
DOM 47
CONV
2004年11月16日
2005年6月23日
2004年12月9日(260K
ロケーション
郊外/良好
郊外/良好
郊外/良好
郊外/良好
リースホールド・単純所有権の別
単純所有権
単純所有権
単純所有権
単純所有権
56,628+-
50,007+-
平均的
平均的
販売時期
敷地面積等
見晴らし
デザイン(スタイル)
建物の質
地上の部屋
部屋数
2階建
2階建
2階建
石造/スタッコ
(木造)スタッコ
+5,000
1
新築
-5,000
新築
-5,000
14
Good(良好)
新築
-2,500
新築
-2,500
平均的
浴室・
合計
トイレ
4
3.1
12
寝室
浴室・
トイレ
4
3.1
合計 寝室
12
浴室・
トイレ
4
レンガ造/木造
合計 寝室
3.1
10
+13,000
+2,500
浴室・
トイレ
4
総居住エリア
5,293 sq.ft.
5,600 sq.ft.
-7,700
5,170 sq.ft.
+3,100
5,178 sq.ft.
地下階
2,635 sq.ft.
100%(Walkout)
-15,000
100%(Walkout)
-15,000
100%
75%
0%
+9,000
0%
+9,000
平均的
平均的
地下の居室用仕上げ
機能的利便性
暖房/冷房
エネルギー効率設備
車庫・カーポート
ポーチ/パティオ/デッキ
暖炉
キッチン
ヒートポンプ電気/セントラル
石油/セントラルエアコン
エアコン
3.2
50%
平均的
平均的
石油FWA/セントラルエアコ
ン
ガスFWA/セントラルエアコ
ン
不知
不知
不知
不知
自動車3台用車庫
自動車3台用車庫
自動車3台用車庫
自動車2台用車庫
パティオ
バルコニー/パティオ
-3,000
ポーチ/デッキ
-6,000
暖炉
暖炉
暖炉
2暖炉
モダン
モダン
モダン
-$23,200
Gross(総体) 4.8%
+$13,600
$876,800
Freddie Mac Form 70 March 2005
Gross 9.4%
+2,900
+4,000
+5,000
-4,500
-$50,600
Net 5.4%
Net 1.6%
Net(正味) 2.6%
-5,000
屋内ポーチ
モダン
正味調整額合計
比較事例との比較調整後販売価格
-68,500
平均的
2階建
合計 寝室
12
653,400+-
-5,000
平均的
石造/スタッコ
築後年数
状態
100,188+-
+1,000
+30,000
$872,160
Gross 11.3%
$879,400
Fannie Mae Form 1004 March 2005
55
既存住宅の流通促進に関する研究会 研究成果概要
4) 米国の事例のまとめ
以上の、米国の価格査定の事例から、次のようなことがいえるであろう。
①住宅の敷地面積にゆとりのある米国の場合、敷地面積の増減等を単純に面積単
価で増減させるような考え方はない。この点は、住宅の敷地に関し、敷地の形
状、道路付け、方位等の状況に強い関心をもつ日本とは置かれている環境が異
なるともいえる。
②築後年数については、ほとんど考慮しないケースと、一定の定額的な評価減を
するケースがみられ、全米統一ルール的なものは存在しないと思われる。なお、
新築物件と既存物件間では一定の評価減を行うことが通例のようである。
③部屋数、あるいは重視する設備等の重点項目にはウェートをかけて評価してい
るといえるが、逆に、細かな細部に関しては評価上、あまりこだわっていない
ともいえる。
④なお、米国内の各エリアにおける、不動産価格水準の差異は、単純な個別の建
物価格の差異というよりは、そのエリア全体としての人気、需要ニーズの差異
によるものがかなり大きいと思われる。
56
既存住宅の流通促進に関する研究会 研究成果概要
(3) 日本における価格査定事例
1) 日本の既存住宅売買のプロセスと価格査定
次に、日本の既存住宅売買のプロセスと価格査定の現状についてみてみたい。
現状、日本においては、売主が媒介業者に売却依頼をする際には、媒介業者によ
り、周辺成約事例等に基づく当該物件の価格査定等の情報提供が行われた上で、
売主による売却希望価格の決定が行われることが通例である。
また、国土交通省による「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」(いわゆ
る国土交通省「ガイドライン」)により、売主等による「告知書」の提出が勧め
られており、当協会等の各業界団体において、売主より対象物件の状況等に関す
る事項を媒介契約時等に告知していただき、それを購入希望者に提供する標準書
式が作成され、既存住宅売買の場において用いられている。
ここでは、具体的に媒介業者が、売主に対して提示された価格査定事例を、米
国事例と比較しやすい形に、若干アレンジして示して、日米の差異等を検討して
みたい。
2) 小田急線沿線の住宅の事例
ここに示したのは、小田急線沿線のやや古い郊外型の開発分譲地の、既存住宅
売却における最近の査定事例であり、ここでは実際の査定事例を、比較事例とな
る物件の成約価格をベースに、対象物件との条件上の差異を加減算調整して査定
価格を算定するという米国流の方式に組み直して示している。
なお、日本の場合、財団法人
不動産流通近代化センターによる「価格査定マ
ニュアル」等をベースに各媒介業者において独自のマニュアル等により価格査定
を行っているのが現状であり、本件事例もあくまでも、一媒介業者による現場で
の査定の一例を参考として示したものである。
その前提を置いた上で、この事例からは、概ね次のような点が指摘されると思
われる。
①日本の場合、敷地面積の増減は原則として、そのまま敷地単価の増減で査定し
ており、その他、敷地に関しては、前面道路の方位、幅員、舗装状況、形状、
間口等の細かな状況をチェックし、査定価格に反映させている。
②街並み、周辺街路の状況等が、評価の大きなポイントとなるがこれらは、単な
る「土地」評価の項目というよりは、米国との対比で、日本人が居住性に関し
てウェートを置くポイントともいえ、例えば、対象物件エリアと比較事例3エ
リアの査定価格の差の大きな要素となっていると判断される。
③対象物件と比較事例1との価格差は、購入後に買主が追加のリフォーム工事を
要するかどうかの差で生じているともいえ、建物メンテナンス等の良し悪しが、
売却価格に影響を与えているといえる。
④なお、査定の際の各評点、建物の現価率等、若干、単純化されている傾向もあ
り、現在の、消費者ニーズを充分に反映した価格査定になっているか、なお検
討する必要があるともいえよう。
57
既存住宅の流通促進に関する研究会 研究成果概要
日本の媒介業者による価格差定事例
比較事例2
対象物件
比較事例1
比較事例3
小田急線沿線郊外住
小田急線沿線郊外住宅地(最寄駅バ 小田急線沿線郊外住宅地(最寄駅バ 小田急線沿線郊外住宅地(最寄駅バ
宅地(最寄駅バス10
ス10分)
ス11分)
ス10分)
分)
項目
住所
約500メートル南西
対象物件までの距離
5850万円
売買価格 (A)
約4キロメートル北西(駅反対方向)
約700メートル南西
5380万円
6300万円
4200万円
売買価格(総居住エリアの売買単価)
レインズ・データ
データの出所
レインズ・データ
レインズ・データ
証明方法
事項
事項
価格調整
事項
調整額
事項
調整額
調整額
販売、財政上の譲歩
販売時期
2006年8月
2006年9月
2005年8月
2005年12月
ロケーション
郊外/良好
郊外/良好
郊外/良好
郊外/平均的
単純所有権
単純所有権
単純所有権
単純所有権
238.32(72.09)
212.77(64.36)
252.63(76.42)
212.52(64.28)
リースホールド・単純所有権の別
敷地面積 ㎡(坪)
平均的
平均的
利便性・宅地・環境等の評点(*1)
119.5
130
デザイン(スタイル)
2階建
2階建
2階建
2階建
建物の質
木造
木造
木造
木造
築後年数
28
25
21
23
Good(良好)
平均的
平均的
平均的
見晴らし
状態
平均的
平均的
128.7
+141万円
105.5
-752万円
6SLDK
4LDK
4LDK
4LDK
159.26(48.17)
127.51(38.57)
140.77(42.58)
122.18(36.95)
地下階
なし
なし
なし
なし
地下の居室用仕上げ
なし
なし
なし
なし
地上の部屋(部屋数)
延床面積 ㎡(坪)
+1063万円
機能的利便性
暖房/冷房
エネルギー効率設備
車庫2台可
車庫・カーポート
テラス
ポーチ/パティオ/デッキ
改修工事等を含めメン 購入者が、購入後に
テナンスが十分行わ リフォーム工事実施
れている
中
建物価格 (B)
523万円
198万円
売買価格(A)-建物価格(B) (C)
5327万円
5182万円
6062万円
4011万円
(C)/敷地面積 ㎡(坪)単価:千円
223(738)
243(805)
240(793)
188(624)
正味調整額合計
+325万円
+285万円
238万円
+466万円
Gross(総体) 8.66%
-467万円
5846万円
Net(正味) 33.26%
Gross 16.46%
5833万円
Gross(総体) 33.26%
(*1)各事例の主要な評価項目・評点
対象物件
比較事例1
比較事例2
比較事例3
①最寄駅(中心街)へバス
で
0.0
0.0
0.0
-3.0
②最寄バス停へ徒歩で
0.0
0.0
-0.8
0.0
0.0
0.5
3.0
0.0
0.0
0.0
5.0
3.0
5.0
3.0
0.0
4.0
3.0
0.0
0.0
0.0
5.0
3.0
10.0
5.0
-1.5
5.0
3.0
0.0
0.0
0.0
5.0
3.0
10.0
5.0
-1.5
3.0
2.0
0.0
0.0
0.0
5.0
0.0
0.0
0.0
119.5
130.0
128.7
105.5
比 較 項 目
(1) 交通の便
(バス圏用)
(2) 最寄商店(街) へ徒歩で
① 方
(3) 前面道路
の状況
位
② 幅 員
③ 舗 装
(4) 形状(路地状敷地を除く)
(5) 間口 (不整形地・路地状地を除く)
(6) 排水施設
(7) 周辺街路の整備・配置の状況
(8) 街並み
(9) 日照・通風
評 点
58
+334万円
+1397万円
Net 7.41%
Net(正味) 8.66%
比較事例との比較調整後販売価格
189万円
5597万円
既存住宅の流通促進に関する研究会 研究成果概要
(4) 日米の価格査定の事例のまとめ
以上の、日米の価格査定の状況から、住宅の質と価格の関係について、次のような事
項が指摘できるであろう。
①米国の場合、既存住宅の売買においては、住宅を継続して使用することが前提
になっており、その意味で、住宅に関してポイントとなる設備、面積等にかな
り焦点を絞って、価格査定でも評価がなされている。
②ただし、その場合の住宅の質とは、原価積上げ的なものというよりは、住宅か
らの眺望等も含めて、当該エリアにおいて重視される「快適な住まい」「ゆと
りある住まい」等の居住性が重要であり、またその各ポイントのウェート付け
に関する統一的な全米基準等は特にないと判断される。
③日本の場合は、そもそもの国土面積、敷地利用状況の違いから、住宅の敷地状
況への関心が米国に比べて高いのは事実だが、一方で、その住宅地の街並み形
成等の住宅環境面が、住宅の価格ベースに大きなウェートを占めていることも
伺える。
④さらに、建物メンテナンスの良し悪し等も、同一エリア内の既存住宅売買にお
ける価格差に影響を与えることも、示唆されている。ただし、売買時の価格査
定が、住宅の質に関する消費者ニーズを充分に反映したものとなっているか、
なお検討の余地があるといえる。
4-3 今後の課題等
既述の、不動産流通経営協会の消費者動向調査のアンケート結果等でみられるように、
住宅の品質面に関する購入者の不安除去が、既存住宅流通の一層の拡大には必要である。
そのためには、例えば、売主サイドからの物件状況等の告知が的確になされると共に、
それを、専門的な第三者のインスペクション等を通じて客観化し、また、消費者ニーズ
を充分に反映した価格査定の促進等により、取引の信頼性、透明性、安全性を高めてい
く取り組みの強化が、官民共に必要であると考えられる。
また、住宅に対する消費者ニーズを総体としてみた場合、個別住宅の品質等もさるこ
とながら、街並み、利便施設、公共施設、緑の豊かさ等のトータルとしての快適な、豊
かな町づくりがベース、基盤となることも充分に認識する必要があろう。
本研究会の議論は、ある意味で、これら既存住宅の流通促進のポイントの基礎整理の
段階のものともいえ、今後、本研究会で示された課題のさらなる掘り下げ、また、本研
究会の検討テーマとはしなかった、税制、金融面等も含めたその他の側面も踏まえた検
討、研究をさらに進めていく必要があると考える。
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既存住宅の流通促進に関する研究会 研究成果概要
図表目次
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I-1 本研究会における既存住宅流通指標の推移 ........................................................................................ 4
I-2 住宅の評価・検査に対する満足度 ........................................................................................................ 7
I-3 建物構造・品等別減価率...................................................................................................................... 8
II-1 住生活基本計画における成果指標 ................................................................................................... 11
II-2 二次取得者の従前住居と現住居の形態............................................................................................ 13
II-3 既存住宅を購入した理由(既存住宅購入者) ..................................................................................... 14
II-4 既存住宅を購入しなかった理由の推移(新築住宅購入者) ................................................................. 14
II-5 別途費用を払ってでも受けたいサービス(性能評価へのニーズ)......................................................... 15
II-6 住生活基本計画案による既存住宅取引シェア指標 ............................................................................ 18
II-7 住宅・土地統計調査による既存住宅流通量と、捕捉されていない流通要因......................................... 19
II-8 既存住宅流通量の推計ステップ(日米の違い)................................................................................... 21
II-9 推計対象データの定義 ..................................................................................................................... 23
II-10 住宅土地統計調査からのアプローチ............................................................................................... 24
II-11 建築年次別の新築住宅数(分譲、自ら建築) ................................................................................... 25
II-12 公的申請データ(不動産取得税課税、所有権移転登記)からのアプローチによる推計 ....................... 27
II-13 各アプローチからの推計結果と推計量の差異 ................................................................................. 28
II-14 本研究会における既存住宅流通指標(FRK既存住宅流通指標) ..................................................... 29
II-15 参考として捕捉する既存住宅流通指標 ........................................................................................... 30
II-16 住生活基本計画における既存住宅流通指標 .................................................................................. 30
II-17 本研究会における既存住宅流通指標の推移 .................................................................................. 31
II-18 米国における既存住宅流通量と指標の推移 ................................................................................... 31
II-19 本研究会における指標と米国指標との比較 .................................................................................... 31
II-20 既存住宅性能表示制度と民間任意の住宅検査の役割・位置付けの違い.......................................... 33
II-21 活用の場と申請者の種類別に見る既存住宅を対象とした住宅評価・検査の種類 .............................. 35
II-22 既存住宅性能表示制度の実績と実施機関の関係性 ....................................................................... 36
II-23 活用した住宅検査の種類(複数回答) ............................................................................................. 37
II-24 住宅の評価・検査を依頼した理由(買主)(複数回答)....................................................................... 37
II-25 住宅の評価・検査を依頼した理由(売主)(複数回答)....................................................................... 38
II-26 住宅の評価・検査の活用に至った経緯 ........................................................................................... 38
II-27 住宅の評価・検査に対する満足度 .................................................................................................. 39
II-28 価格関数の推定手順 ..................................................................................................................... 43
II-29 構造別価格比(築 3 年の住宅の価格を 100 とし、それに対する各築年の住宅の価格)..................... 44
II-30 建物品等別価格比(築 3 年の住宅の価格を 100 とし、それに対する各築年の住宅の価格).............. 45
II-31 建物構造・品等別減価率................................................................................................................ 46
II-32 構造別経年減価率(前年の価格からの減価率) .............................................................................. 48
II-33 建物品等別経年減価率(前年の価格からの減価率) ....................................................................... 49
II-34 建物構造・品等別価格維持率......................................................................................................... 50
II-35 不動産価格に占める建物価値の割合............................................................................................. 52
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I-1 築後経過年数に伴う既存戸建住宅価格における建物価格比率の変化 .................................................. 9
II-1 不動産取得税課税件数をベースとした既存住宅流通量推計 .............................................................. 26
II-2 建物売買による所有権移転個数ベースの流通量推計 ....................................................................... 26
II-3 既存住宅性能表示制度の年度別実績推移 ........................ エラー! ブックマークが定義されていません。
II-4 既存住宅検査に関するユーザーアンケートの配布・回収状況............................................................. 34
II-5 シミュレーション設定条件 .................................................................................................................. 51
II-6 シミュレーション結果 ......................................................................................................................... 52
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