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1 三河湾里海再生について
Ⅰ 三河湾里海再生について 1 背景 三河湾は、湾奥部に流入する大河川が豊富な栄養塩をもたらし、浅い海、発達した干 潟 ・浅 場 、狭 い 湾 口 と い う 地 形 的 条 件 に よ り 、内 湾 性 の 水 産 生 物 が 極 め て 豊 富 な 海 と な っ ている。このため、古来より魚介類の宝庫、全国有数の優れた漁場として利用されてき た。 し か し 、戦 後 の 経 済 発 展 に 伴 っ て 、水 質 浄 化 機 能 や 生 物 生 産 機 能 を 果 た し て き た 干 潟 、 浅場及び藻場の埋立等による消失、陸域から流入する汚濁負荷の増大による富栄養化の 進行などにより、この豊かな海は次第に変貌してきた。透明度の低下や底質の悪化が進 み、赤潮、夏期の貧酸素水塊、苦潮などの影響が深刻となり、生物生産機能の低下や生 物多様性の喪失が進行している。 2 経緯 海 域 の 環 境 改 善 は 、本 県 の 大 き な 課 題 で あ る こ と か ら 、そ の 対 策 と し て 伊 勢 湾 ・三 河 湾 に 流 入 す る 汚 濁 負 荷 量 を 削 減 す る た め 、 1980(S55)年 度 か ら 水 質 総 量 削 減 計 画 を 策 定 し 、 各 種 対 策 を 推 進 し て き た 。2002(H14)年 度 に 策 定 し た 第 5 次 水 質 総 量 削 減 計 画 か ら は 、富 栄養化防止のため、従来のCOD(化学的酸素要求量)に加え、窒素及びりんを指定項 目に追加し、流入負荷削減対策の強化を図ってきたが、海域の環境基準は依然として達 成されておらず、水質の浄化が進んでいない。そのため、三河湾の環境を改善するため には、陸からの流入負荷削減だけでなく、海域における対策の必要性が指摘されるに至 った。 こ の よ う な 状 況 を 踏 ま え て 、本 県 環 境 部 で は「 あ い ち 水 循 環 再 生 基 本 構 想 」 ( 2006(H18) 年3月)に基づき、県内の流域全体にわたって進められている健全な水循環再生に向け た取組の一つの柱として「海づくりの取組」を掲げ、生態系の保全、憩いの空間整備、 高 品 質 ・高 鮮 度 水 産 物 の 安 定 供 給 と い っ た 海 辺 の 保 全 ・再 生 や 水 産 業 の 活 性 化 を 軸 と し 、 さらに水産業体験学習、水辺のイベントの実施、海辺の清掃活動の実施等を通じて県民 の 目 を 海 へ 向 け て も ら い 、 海 の 保 全 ・再 生 の 連 携 を 図 る こ と と し て い る 。 ま た 、農 林 水 産 部 で は「 食 と 緑 の 基 本 計 画 2015( 2011(H23)年 5 月 予 定 )」に お い て 、 水 質 浄 化 能 力 を 有 す る 干 潟 ・浅 場 の 造 成 や 、藻 場 や 干 潟 の 保 全 活 動 の 推 進 、里 海 に お け る 県民参加型の環境保全活動の支援等を推進し、海が本来有する生態系保全や水質浄化な どの機能を発揮させていくこととしている。 さ ら に 、建 設 部 で は「 こ れ か ら の 社 会 資 本 整 備 の 考 え 方 」( 2010(H22)年 4 月 )で 、社 会資本分野における「環境」への取組の一つとして「水質浄化」を掲げ、陸域では下水 道の整備普及などにより流入する有機汚濁物質の削減を進め、海域では深掘跡の埋め戻 し 等 を 行 う こ と に よ り 伊 勢 湾 ・三 河 湾 海 域 環 境 の 改 善 を 図 る こ と と し て い る 。 そ の ほ か 、国 土 交 通 省 中 部 地 方 整 備 局 は 、中 部 地 区 に あ る 国 の 機 関 、愛 知 県 、岐 阜 県 、 三 重 県 な ど と 連 携 し て 伊 勢 湾 再 生 推 進 会 議 を 立 ち 上 げ ( 2006(H18)年 2 月 ) 、 健 全 な 水 ・ 物 質 循 環 の 構 築 、多 様 な 生 態 系 の 回 復 、憩 い ・安 ら ぎ の 空 間 の 拡 充 を 基 本 方 針 と し た「 伊 勢 湾 再 生 行 動 計 画 」 ( 2007(H19)年 3 月 ) を 策 定 し て い る 。 1 ま た 、2010(H22)年 10 月 に は 、国 連 の 生 物 多 様 性 条 約 第 10 回 締 約 国 会 議( C O P 1 0 ) が愛知県名古屋市で開催され、生物多様性の保全やその利用などに関して幅広い議論が な さ れ た 。 そ の 成 果 の 一 つ と し て 、 2020 年 ま で の 20 項 目 の 個 別 目 標 等 か ら な る 生 物 多 様性保全の新戦略計画「愛知目標(愛知ターゲット)」が採択されたが、この中には、 水 産 資 源 の 持 続 的 な 漁 獲 、海 域 10% の 保 護 地 域 等 に よ る 保 全 な ど 、海 域 に 関 係 す る 項 目 も多数含まれており、COP10を契機に海域環境への認識が深まってきている。 こ う し た 状 況 か ら 、本 県 と し て 三 河 湾 を 里 海 ( 注 ) と し て 再 生 す る た め の 対 策 を 強 化 し て い く 必 要 が あ り 、ま た 、こ れ ら の 各 種 計 画 ・目 標 等 を 踏 ま え た 具 体 的 な 施 策 の 実 施 が 望 ま れている。 (注)里海とは、「人の手が加わることにより、生産性と生物多様性が高くなった沿岸海域」のことであり、 2007(H19)年度に環境省が設置した「里海創生検討会」においては、「人間の手で陸域と沿岸域が一体的・ 総合的に管理されることにより、物質循環機能が適切に維持され、高い生産性と生物多様性の保全が図ら れるとともに、人々の暮らしや伝統文化と深く関わり、人と自然が共生する沿岸海域」と定義している。 3 三河湾里海再生に向けた検討体制 三河湾は、その沿岸域の全てが県内に位置し県民との関わりが深く、古くから豊かな 海の恵みをもたらしてくれる「里海」であることから、本県がリーダーシップを発揮し て、その再生に取り組む必要がある。 一 方 、本 県 で は 、こ れ ま で 海 域 の 環 境 改 善 に つ い て 、環 境 部 は 工 場 ・事 業 場 へ の 排 水 規 制 、生 活 排 水 対 策 な ど 流 入 負 荷 削 減 対 策 を 、農 林 水 産 部 は 農 地 ・畜 産 対 策 、農 業 集 落 排 水 事 業 な ど の 流 入 負 荷 削 減 対 策 及 び 干 潟 ・浅 場 造 成 等 に よ る 漁 場 改 善 対 策 を 、建 設 部 は 下 水 道 整 備 等 に よ る 流 入 負 荷 削 減 対 策 及 び 港 湾 区 域 内 で の 環 境 保 全 措 置 と し て の 干 潟 ・浅 場 造成事業を、3部局がそれぞれに取り組んできた。 こうしたことから、海域の環境改善に関わる環境部、農林水産部及び建設部から構成 さ れ る 「 三 河 湾 里 海 再 生 推 進 特 別 チ ー ム 」 を 2008(H20)年 4 月 に 設 置 し 、 三 河 湾 の 恵 み を将来にわたり享受できるよう、三河湾の里海再生に向けた取組について、それぞれの 知 見 ・経 験 を 生 か し て 検 討 ・推 進 す る こ と と し た ( 表 1-1)。 本チームでは、三河湾について具体的かつ効果的な取組を明らかにし、里海再生の実 現を目指した。 表 1-1 三河湾里海再生推進特別チーム チームリーダー 環境部技監 水地盤環境課長 環境部(水地盤環境課、環境調査センター) 構 成 部 課 等 農林水産部(農林政策課、水産課、水産試験場) 建設部(建設企画課、河川課、港湾課) 設 置 期 間 2008(H20)年 4 月 ~ 2011(H23)年 3 月 ( 3 か 年 ) 構 成 サブリーダー 三 河 湾 の 現 状 を 踏 ま え 、三 河 湾 の 里 海 と し て の 再 生 に 向 け た 取 組 を 設 置 目 的 検 討 し 、今 後 取 り 組 む べ き 施 策 を「 三 河 湾 里 海 再 生 プ ロ グ ラ ム 」と して取りまとめる。 4 三河湾と「里海」 三河湾は遠浅の海であり、かつては河口域には広大な干潟や浅場が広がり、海岸線の 至るところで干潮線付近にはコアマモが、その沖水深2~3m付近まではアマモが繁茂 2 し て い た 。干 潟 や 浅 場 で は 、ハ マ グ リ 、ア サ リ 、マ テ ガ イ 、カ キ 、キ サ ゴ 、オ オ ノ ガ イ 、 ハイガイなどが漁業や潮干狩りで採取され、その沖ではアカガイ、サルボウ、トリガイ な ど が 漁 獲 さ れ て い た 。 ア マ モ に つ い て は 、 「 三 河 湾 の 生 き も の と 自 然 (1995.7)」 の 中 で小柳津弘氏が、昭和初期頃のコアマモ採取の様子を描いた「モク取りの夏」という文 章を紹介している。夏に一家総出でコアマモを採取し、熟成させて麦畑用の肥料として いたようで、陸域の生産活動にコアマモが重要であった様子がうかがえる。また、一家 総出のモク取りは、年中行事のレジャーでもあり、ウナギ取りの様子に触れるなど楽し げ な 様 子 が 綴 ら れ て い る 。前 述 の 貝 類 あ る い は ヒ ト デ な ど も 肥 料 と し て 利 用 さ れ る な ど 、 沿岸域の住民は食料ばかりでなく、農業用肥料まで干潟や浅場から得ており、多様で豊 かな生態系に裏付けされた、まさに「里海」であったことが想像される。 「 里 海 」 に つ い て 環 境 省 が 整 理 し た 5 つ の 構 成 要 素 を 図 1-1 に 、 三 河 湾 に お け る 「 里 海 」 の 構 成 要 素 と し て 考 え ら れ る も の の 例 示 を 表 1-2 に 示 す 。 こ れ ら の 様 々 な 恵 み を 再 生、拡大していくことが必要である。 出 典 :環 境 省 パンフレット「さとうみ」(2009年 3月 ) 図 1-1 表 1-2 構成要素 生態系 里海の構成要素 三河湾における「里海」の構成要素(例示) 里 海 の 恵 み ・ 干潟、浅場及び藻場の存在により多様な生態系が維持されている。 ・ 漁業活動により干潟の機能が適切に維持されている。 ・ 貧酸素水塊の発達がなく、豊かな底生動物が生息している。 物質循環 ・ 高い生産性と多様な生態系を維持するために適度な流入負荷がある。 ・ 干潟、浅場及び藻場による物質循環機能が活きている。 ・ 漁業や鳥類により流入負荷が海域から取り上げられ、健全な物質循環 が維持されている。 ふれ合い ・ 県民が三河湾の海の幸に親しみがある。 ・ 祭 り 、潮 干 狩 り 、環 境 学 習 の 場 な ど と し て 、県 民 が 海 に 親 し ん で い る 。 ・ 漁業者の生活を支える安定した漁業生産が維持されている。 3 写 真 海 で遊 ぶ子 どもたち(蒲 郡 市 ・昭 和 初 期 ) 写 真 子 供 も交 じって魚 とり(幡 豆 町 ・昭 和 35~40 年 頃 ) 写 真 三 谷 祭 海 中 渡 御 (蒲 郡 市 ・昭 和 35 年 ) 4