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SOCの規定因としての仕事の条件

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SOCの規定因としての仕事の条件
別冊表紙2014̲PDF用̲別冊表紙2009 平成 26/03/19 14:07 ページ 7
SOCの規定因としての仕事の条件
片瀬 一男
Work Condition as a Determinant of SOC
Kazuo KATASE
人間情報学研究 第19巻 2014年3月
Reprinted from Journal of Human Informatics
vol.19, March 2014
pp.89−95
(東北学院大学 人間情報学研究所)
プロジェクト1̲レイアウト 1 平成 26/03/19 14:00 ページ 1
08片瀬2014̲基本体裁 平成 26/03/19 13:43 ページ 89
人間情報学研究,第19巻
2014年,89~95頁
89
− 研究ノート −
SOCの規定因としての仕事の条件
片瀬 一男*)
Work Condition as a Determinant of SOC
Kazuo KATASE
Abstract
We examined relationship between SOC(Sense of Coherence) and JDC
(Job‑Demand‑Control).We found interactional effect :when control is high, job
demand improve SOC. We could foresee transformation of JDC model from
stress‑creating model to heath maintaining model.
Keywords: Work Condition, JDC, SOC
*
東北学院大学教養学部教授 Tohoku Gakuin University
Journal of Human Informatics Vol.19
March,2014
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片瀬一男
90
1.目的
40.6
①把握可能感、②処理可能感、③有意味感か
25.3
15.1
1
らなる「首尾一貫感覚(SOC)」 は、Antonovsky
(1987=2001)が提唱して以来、ストレスを処
35.7
22.4
13.1
高
32.2
17.0
19.1
心理
的要
求
理する能力としての有効性が確認されてきた
(山崎ほか, 2008)。しかし、SOCがどのように
形成されるかについては、必ずしも明らかにな
高
っていない。
決定の裁
量
Antonovsky(1987=2001:103‑148)自身も、
て、SOCの形成に寄与する要因を探索的に列挙
垂直の棒の数値は、各職業カテゴリーで抑うつ症状
をもつパーセンテージ
しているが、決定的な要因を指摘するに至って
これに対して、Karasek and Theorell(1990)
の 「 仕 事 の 要 求 度 ‑コ ン ト ロ ー ル ・ モ デ ル
低
低い仕事のソーシャル・サポートのもとでの抑うつ
(全体平均 26.8)
幼児期から成人期にわたるライフコースにおい
いない。
低
図1.ソーシャル・サポート、要求/コントロー
ルモデルと抑うつ(アメリカ男女、N=2,679)
出典:Karasek and Theorell, 1990:72
(JDC)」は、Antonovsky(1987=2001)とは逆
に成人期の仕事の条件がストレスを生成するメ
「アクティブ」な条件下では、新しい職業技能
カニズムを特定している。それによると、仕事
の学習が行われ、知的機能も高まるので、スト
の要求度が高いにもかかわらず仕事の裁量度
レス・コーピングが活発に行われるとした(図
(コントロール)の低い「高ストレイン」な仕
2参照)
。
事の条件は、もっともストレス反応(抑うつ)
などを発症しやすいという(図1参照)
。
そこで、本稿では、「仕事の要求度‑コントロ
ール・モデル」をもとに、SOCの形成要因を解
その一方で、Karasek and Theorell(1990)
らは、Kohn and Schooler(1982)らの「仕事
明し、社会階層と健康生成を媒介するメカニズ
ムを明らかにする。
の自己指令性」の概念2も参照しながら、仕事
の要求度が高くても「コントロール」の大きい
2.方法
「まちと家族の健康調査」(以下「J‑SHINE
1
この首尾一貫感覚の3つの要素について、Antonovsky
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(1987=2001:23)は、「第1に、自分の内外で生じる環
境刺激は、秩序づけられた、予測と説明が可能なもの
という確信、第2に、その刺激がもたらす要求に対応
するための資源はいつでも得られるという確信、第3
に、そうした要求は挑戦であり、心身を投入しかかわ
●
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●
るに値するという確信から成る」(傍点、原文)と述
べ、ストレスを処理する能力の基礎をなすとみている。
2
仕事の自己指令性とは、①仕事の実質的複雑性(仕
事内容が複雑で自律的な判断を伴うこと)、②仕事の
非管理性(仕事が上司や規則によって厳密に管理され
ず、自己裁量の余地が大きいこと)、③仕事の非単調
性(ルーティン化された仕事をしていないこと)から
なり、いずれも自己に対する肯定的なオリエンテーシ
ョン(自己評価の高さなど)を生むとされる(Kohn
and Schooler,1982)
。
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SOCの規定因としての仕事の条件
心理的要求
低
高
高
低ストレイン
民向け東大健康社会学版SOC3項目スケール
SOC3‑UTHS(戸ケ里, 2008)によって、また
JDC(仕事の要求度とコントロール)は日本版
JCQ(Kawakami et al.,1995)によって測定した。
②
パッシブ
低
アクティブ
③
決定の裁量
(コントロール)
新しい行動パ
ターンを発達
させようという
動機の学習
3.結果
高ストレイン
④
①
心理的ストレ
インや身体的
疾患のリスク
図2.心理的要求/決定裁量モデル
出典:Karasek and Theorell, 1990:32
まずSOCの階層差をみると(表1a,b)、中小
企業ブルーカラーのSOCが、専門職および大企
業・中小企業・自営ホワイトカラーに比べて有
意に低く、社会的地位が低いほどストレス・コ
ーピングの資源に欠けるという知見が得られた。
データ」と略す。なお、このデータセットは、
また、従業上の地位でくらべると(表2)
、大
2011年5月18日配布のJ‑SHINE第1回調査デー
企業および中小企業ホワイトカラーにおいて、
タセット)を用いて分析を行う。この調査は、
非正規雇用者のSOCは正規雇用より有意に低か
2010年に東京23区とその近郊の市部に在住する
った。
25歳から50歳の男女を無作為抽出して行われ
他方、JDCのうち要求度は、先行研究(片瀬,
た。調査法は訪問留め置き式(CAPI)で、有
2008)と同様、専門職と大企業ホワイトカラー
効回答数は4,381、回収率は31.5%であった。
が他の職業階層に比べ高く、コントロールは専
また、SOCの測定は、「大規模多目的一般住
門職および自営ホワイト・ブルーカラーにおい
表1a.職業階層別にみたSOC
専門 大ホワイト 中小ホワイト 自営ホワイト 大ブルー
中小ブルー
自営ブルー
農業
F値
処理可能感 5.33
5.17
5.17
5.47
5.06
4.78
4.88
5.19
10.632
***
有意味感
5.43
5.28
5.29
5.59
5.22
4.95
5.02
5.00
8.907
***
把握可能感 4.98
4.82
4.78
5.08
4.78
4.50
4.67
4.75
8.129
***
15.73
15.27
15.24
16.14
15.06
14.23
14.58
14.94
11.487
***
892
683
893
121
115
421
85
16
SOC
N
注)***:p<0.001
表1b.SOCの多重比較
表2.職業・雇用形態別にみたSOC
専門 > 中小ブルー
専門
大ホワイト
中小ホワイト
大ブルー
中小ブルー
大ホワイト > 中小ブルー
正規
15.6
15.4
15.4
15.1
14.3
中小ホワイ ト> 中小ブルー
非正規
15.9
14.8
14.9
14.9
14.2
自営ホワイト > 中小ブルー
t値
‑1.271
2.186*
2.440*
0.428
0.359
注) p<0.05
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表3a.職業階層別にみたJDC
専門 大ホワイト 中小ホワイト 自営ホワイト
大ブルー 中小ブルー 自営ブルー
農業
F値
要求度
8.92
8.79
8.15
7.65
8.52
8.37
8.59
8.27
11.864
***
コントロール
8.31
7.81
8.16
9.89
7.07
7.51
8.67
7.81
24.682
***
ストレイン
1.19
1.25
1.11
0.83
1.33
1.25
1.10
1.18
11.836
***
N
893
685
899
125
113
430
85
15
注)***:p<0.001
表3b.JDCに関する多重比較
要 求 度 専門>中小ホワイト、自営ホワイト、大ブルー、中小ブルー
大ホワイト>中小ホワイト、自営ホワイト
コントロール 専門>大ホワイト、大ブルー、中小ブルー
自営ホワイト>専門、大ホワイト、中小ホワイト、大ブルー、中小ブルー、自営ブルー
自営ブルー>大ブルー、中小ブルー
ストレイン
専門>自営ホワイト大ホワイト>中小ホワイト、自営ホワイト
中小ホワイト>自営ホワイト
中小ブルー>中小ホワイト、自営ホワイト
て有意に高くなっていた(表3a,b)
。
が有意となり、非正規の効果であることの効果
また従業上の地位では、要求度はすべての職
は消滅している。このことから、非正規雇用で
業階層において、コントロールは専門職と大企
あることは、仕事に対するコントロールの低さ
業ブルーカラーを除く職業階層において、正規
を媒介にSOCの低さがもたらされていることが
雇用者が非正規雇用者より高くなっていた(表
明らかになった。
4)
最後に(モデルⅣ)、仕事の要求度とコント
SOCを従属変数とした重回帰分析(職業の基
ロールの交互作用項を入れると、その効果も有
準は、中小企業ブルーカラー)をみると(表5)
、
意となった。ここから、要求度の高い条件下で
まずモデルⅠから、中小企業ブルーカラーに比
コントロールが大きいことは、Karasek and
べ、専門職であること、大企業・中小企業ホワ
Theorell(1990)が指摘したように、SOCを高
イトカラーであること、また大企業ブルーカラ
めることが示唆された。
ーであることは、SOCを有意に高めていた。さ
実際、要求度がSOCに及ぼす影響を図示する
らに従業上の地位を入れたモデルⅡからは、非
と(図3)すると、仕事のコントロールの大き
正規雇用であることは、SOCを有意に低下させ
い条件では、仕事の要求度がSOCを有意に高め
ることがわかった。他方、JDCのうちコントロ
ることが明瞭にわかる。
ールを追加投入すると(モデルⅢ)、その効果
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SOCの規定因としての仕事の条件
表4.職業・雇用形態別にみたJDC
専門
要求度
大ブルー 中小ブルー
正規
9.28
9.21
8.70
8.90
8.84
非正規
7.87
7.56
7.21
7.41
7.64
8.453***
8.270***
5.717***
3.378**
5.448***
8.23
7.97
8.47
6.96
7.80
7.86
7.31
7.64
7.38
7.05
1.861
3.674***
5.717***
‑1.008
3.495**
正規
1.24
1.27
1.12
1.42
1.27
非正規
1.16
1.17
1.08
1.09
1.22
1.532
1.933
0.881
2.451*
0.793
t値
コントロール 正規
非正規
t値
ストレイン
大ホワイト 中小ホワイト
t値
注)***:p<0.001
**p<0.01 **p<0.05
表5.SOCの規定因 標準化偏回帰係数
モデルⅠ
モデルⅡ
モデルⅢ
モデルⅣ
β
β
β
β
男性ダミー
0.014
‑0.006
‑0.017
‑0.018
年齢
0.074 ***
0.080 ***
0.071 ***
0.069 ***
専門ダミー
0.222 ***
0.199 ***
0.177 ***
0.177 ***
大企業ホワイトダミー
0.136 ***
0.131 ***
0.125 ***
0.126 ***
中小企業ホワイトダミー
0.151 ***
0.148 ***
0.123 ***
0.125 ***
大企業ブルーダミー
0.045 *
0.044 *
0.057 **
0.057 **
‑0.047 *
‑0.019
‑0.019
要求度
0.010
‑0.119
コントロール
0.198 ***
0.061
非正規ダミー
要求度×コントロール交互作用
2
R (自由度調整済)
注)***:p<0.001
0.026 ***
0.184 *
0.025 ***
0.062 ***
0.063 ***
**p<0.01 *p<0.05
4.結論
以上のことから、非正規雇用であることは、
SOCの低さをもたらしていることが明らかにな
った。また、要求度とコントロールの交互作用
仕事に対するコントロールの低さを媒介に把握
も有意であったことから、仕事の要求度の高い
可能感や処理可能感、有意味感を低下させ、
条件下でコントロールも大きい「アクティブ」
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モデルをSOCと組み合わせることで新たな「健
康生成モデル」へと展開する可能性を示唆する
ものといえよう。
ただし、今回の知見は横断的調査から得られ
要求高
要求低
大 小
たものであるが、3時点にわたる縦断的調査か
らも、心理社会的職場特性(仕事の条件)は
SOCの形成に影響を及ぼし、これを媒介に精神
的健康度に影響することが明らかにされている
図3.コントロールと要求度の交互作用
(戸ケ里, 2012)ことから、今後はJ‑SHINEの第
2波調査のデータも含めて、仕事の条件が階層
な仕事の条件は、SOCを高めることが示唆され
とSOC、さらには精神的健康を媒介する因果メ
た。仕事の要求度とコントロールの交互作用項
カニズムを明らかにしていきたい。
を入れると、その効果も有意となった。ここか
ら、要求度の高い条件下でコントロールが大き
主要文献
いことは、 Karasek and Theorell(1990)が指
Antonovsky,Aaron, 1987, Unraveling the
摘したように、SOCを高めることが示唆された。
Mystery of Health, Jossey‑Bass
実際、4つの仕事の条件ごとにSOCをみると差
(=2001,山崎喜比古・吉井清子訳『健健
があり(図4、F=30.0.p<0.001)、多重比較を
の謎を解く』有信堂高文社)
.
すると、仕事のコントロールが高いアクティブ
Karasek, Robert, A.Jr. and Töres Theorell,
群と低ストレイン群のSOCは、高ストレイン群
1990, Healthy Work: Strss, Productivity
やパッシブ群よりもSOCが有意に高くなってい
and the Reconstruction of Working Life.
た。
Basic Books.
このことは従来は仕事の「ストレイン」に注
目して、ストレス生成モデルとなっていたJDC
片瀬一男, 2008,「仕事の条件と職業性ストレス」
菅野剛編『階層と生活格差』(2005年
SSM調査シリーズ10)79‑91.
Kawakami, N., Kobayashi, F., Araki, S., Haratani,
T., Furui, H.,1995, Assessment of job
stress dimensions based on the Job
Demands‑Control model of employees of
telecommunication and electric power
companies in Japan: reliability and
validity of the Japanese version of Job
Content Questionnaire, International
Journal of Behavioral Medicine, 2,:358‑
図4.要求度とコントロールがSOCに及ぼす影響
人間情報学研究 第19巻
375.
2014年3月
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Kohn, Melvin and Carmi Schooler,1982, Job
Condition and Personality: A Longitudinal
Assessment of their Reciprocal Effects,
American Sociological Review. 87:1257‑
1286.
戸ケ里泰典, 2008,「大規模多目的一般住民向け
東大健康社会学版SOC3項目スケール
(University
of Tokyo Health Sociology
version of the SOC3 scale: SOC3‑UTHS)
の開発」(東京大学社会科学研究所 パ
ネル調査プロジェクト ディスカッショ
ンペーパーシリーズ No.4)
.
戸ケ里泰典, 2012,「一般成人男性における心理
社会的職場特性と精神的健康との関係に
おけるsense of coherenceの媒介効果」
『理論と方法』51:41‑61.
山崎喜比古・戸ケ里泰典・坂野純子, 2008,
『ストレス対処能力SOC』有信堂高文社.
【付記】J‑SHINEデータの使用については2012
「社会階層と健康」研究班データ管理委
員会の許可を得た。
Journal of Human Informatics Vol.19
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