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日本の現役高校生が抗菌物質の新製法を発見。国際誌 J. of Materials

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日本の現役高校生が抗菌物質の新製法を発見。国際誌 J. of Materials
日本の現役高校生が抗菌物質の新製法を発見。国際誌 J. of Materials Science に発表
仙台第二高等学校化学部の部員が、クラブ活動で行った実験から、
銀過酸化物 Ag2O3 を安価に生成する方法を発見。そして、この物質
の抗菌効果が従来汎用されている酸化銀 Ag2O より約 10 倍の抗菌
効果があることを明らかにしました。高校の
化学室から生まれたこの新発見は、シュプ
リンガーの Journal of Materials Science
に投稿され、投稿から約 3 ヶ月間という短時
間で、国際誌に日本の高校生の論文がスピ
ード掲載され、世界の研究者に向けて発信
されました。
Journal of Materials Science,
Volume 47, Number 6
http://www.springerlink.com/content/831q480317723456/
DOI: 10.1007/s10853-011-6125-0
Published online: 24 November 2011
も、東北大で PDF を出力し、片っ端から目を通すという、地道な調査
活動を行いました。
高校一年から高校二年へと進級し、試験直前のクラブ活動こそ学校
規定により休止しましたが、それ以外の日は、始業前、昼休み、そし
て放課後も実験・調査三昧。土日も返上し、長期休暇中にも合宿を行
うなど、まさにこの新発見を導くために没頭した日々を過ごしたそうで
す。
文献にあたって、物質の特定を行うのと同時に、東北大の分析センタ
ーの装置を使って、陽極側に析出した黒光りする結晶の X 線回折を
スタート。遂にこの結晶が、Ag2O3 のクラスレートであることを突き止
め、また、抗菌活性に注目して調査したところ、従来材の Ag2O の 10
倍の抗菌作用があるということが明らかになりました。
銀化合物や銀イオンの抗菌活性については、古くから知られていると
ころで、最近では、制汗スプレーなどに銀が利用され、私達にも銀の
抗菌作用は親しいものとなっています。しかし、この高校生達が発見
した Ag2O3 のクラスレートは、一般に使用されている酸化銀 Ag2O と
比べて、大腸菌に対する抗菌活性が約 10 倍強く、また高い酸化活性、
電導性、さらに 10 倍以上の銀イオンを水に溶出する能力を有したも
のでした。
しかも、彼らが発見した製法を使えば、生産コストが 1/100 程度にさ
がるため、抗菌剤として、広範囲での活用が期待できるとのことで
す。
シュプリンガー・ジャパンでは、この発見の立役者であり、論文の著
者である仙台二高生、日置友智さん、安東沙綾さん、山田学倫さん*、
化学部で指導に当たられた渡辺尚先生、そして、東北大学科学者の
卵養成講座(独立行政法人 科学技術振興機構「未来の科学者養成
講座」受託事業)において、彼らの指導を受け持たれた東北大学生
命科学研究科教授の東谷篤志先生にインタビューを行いました。
*山田さんは当日欠席。
発見は化学部の実験室から生まれた
発見の発端となった実験は、化学部の活動の中、日置さん、安東さ
ん、山田さんが、自ら考えたテーマにそって、自ら研究過程を設計し
て、行われました。高校の実験室の設備で、理科実験の手法で行い、
新発見へと結びつけたのです。
ことの発端は、高校一年であった 2009 年 7 月に遡ります。化学部の
資料集にあった銅樹の写真。樹(Dendrites)というには寂しい「樹」
であるのを見て、ならば、堂々たる銅樹を作ってみようという若者らし
い発想から全ては始まりました。銅樹の実験に成功した後、次に、同
じプロトコルを用い、銀樹を作る実験を始めます。即ち、硝酸銀水溶
液を白金電極を用いて電気分解を行ったのです。すると、陽極側に
黒い結晶ができることに気付きました。
この物質の特定のために、彼らは化学部にある資料を総ざらい。更
に、東北大学附属図書館にも日参して、東北大のリソースを「本棚の
端から端まで調べ」るくらいに渉猟。英語のオンライン・ジャーナル
写真: Ag2O3 に見られる強い抗菌作用。酸化銀 Ag2O と比較して、より強い
増殖阻止効果を示している。(論文より)
Ag2O3 の抗菌活性発見を発表
2011 年 1 月に、Ag2O3 の定性的・定量的結果が判明した時点で、彼
らは論文執筆にとりかかります。しかし、その直後の 3 月 11 日、東日
本大震災勃発。仙台市にある仙台二高も被害を受けます。また、同
市内の東北大分析センターは壊滅状態に。一時、実験・論文執筆の
中断を余儀なくされました。
しかし、そうした障壁を乗り越えた彼らが高校 3 年へと進級し、まとめ
上げた研究論文を 2011 年 8 月高校生バイオサミット in 鶴岡で発表。
科 学 技 術 振 興 機 構 賞 を受 賞 します。
http://www.bio-summit.org/winner.html
Journal of Materials Science で出版。世界へと発信。
次に彼らは、この成果を世界に向けて発表すべく、英語での論文執
筆を開始しました。
高校生バイオサミットで発表した日本語の論文をもとに、東北大科学
者の卵養成講座の指導を受けて英語化。発見者として、その内容を
正しく伝えるために、日置さん、安東さん、山田さんと、そして指導教
諭の渡辺先生が常に頭をつきあわせて、一言一句に至るまで、表現
や単語を吟味。
そうやって仕上げた論文を 2011 年 9 月 4 日、シュプリンガーの
Journal of Materials Science に投稿。2011 年 11 月 11 日付けでア
クセプトされた後、ほんの僅かな表現修正を経て、同月の 24 日には、
オンライン版で公式に、オープン・アクセス論文として出版されました。
投稿から公開まで 3 ヶ月足らずのスピード出版でした。
高校生の世界デビューを支えた指導者
高校生が高校のクラブ活動で、高校の実験室の設備で新発見を行
い、それが日本国内で賞を受け、さらには国際誌に発表されるに至
るには、何はさておき、彼ら自身の刻苦奨励がありました。しかし、同
時に、指導者の存在を忘れてはなりません。彼らが、世界の研究者
に向けて新発見を発信するには、彼らと共に歩み、彼らを支えた人々
がいたのです。
クラブ顧問の渡辺尚先生は、部員達の実験を、身内の満足で終わら
せるのではなく、常に発表の場を創出し、様々なコンペティションとい
う外部の機会に彼らを送り込みました。科学技術振興機構賞を受賞
した高校バイオサミット in 鶴岡の前にも、様々な大会に挑戦して、
受賞を重ねています。そうした外からの評価を受けることで、生徒達
の能力を更に後押しし、モチベーションを高めていきました。
オープン・アクセス
渡辺尚先生(仙台二高化学部教諭)、東谷篤志教授(東北大学科学
者の卵養成講座)は、Journal of Materials Science に論文を出版す
るにあたり、オープン・アクセスを選択しています。それには、主に 2
つの理由がありました。
まず、同じ立場で科学を志す高校生や、その指導にあたる先生方に
論文を見てもらいたいという希望があったこと。大学以上であれば、
大学の情報リソースとしてシュプリンガーの電子ジャーナルを閲覧で
きますが、高校生に見せるには Open Access 論文として出版し、誰
もがアクセスできるようにする必要がありました。
また、オープン・アクセスにより、より広い範囲での公開を狙いました。
当初は、特許出願をも検討したというこの新発見ですが、むしろ、ス
ピード重視で、なるべく早く出版し、公開したいという思惑があったの
です。実際、Journal of Materials Science 上で出版され、プレスリリ
ースで公になったことにより、日本の主要紙や、テレビ局など、各種メ
ディアからも取材を受けており、さらには既に企業からも多数引き合
いが来ているとのことです。
将来への抱負
また、東北大学科学者の卵養成講座に参加し、そこで受けた指導に
ついても言及すべきでしょう。
東北大学科学者の卵養成講座には、日置さん、安東さんが高校一年
時に応募。全国から多数応募があった中、4 倍の難関をくぐり抜けて
講座に入門しました。
今回の新発見は、高校の部活で行われたものではありますが、ひと
つひとつの実験結果を論文として纏め、発表するという過程について
は、科学者の卵講座で、そのノウハウを教わっています。また、東北
大学の情報リソースを解放し、高校生であっても、世界中の文献に
触れられる機会をつくり、同大学の施設を利用して、遂に銀過酸
化物 Ag2O3 が持つ高い抗菌活性を発見したのでした。
高校生達が実験し、発見した。そして、その後は科学界を知る大人の
役目だと、化学部教諭の渡辺先生、科学者の卵講座の東谷先生が
動き、特許取得を検討。最終的には、発見者が高校在学中に発表す
べきであるという判断のもと、国際誌への投稿に踏み切り、Journal
of Materials Science に掲載されたのです。
まさに高校生・指導教諭・科学者の卵という三つ巴で達成した快挙と
言えましょう。
現役高校生にして、国際誌の論文著者となった日置さん、安東さん。
既に進学先も決まっている二人に将来の抱負を尋ねてみました。
日置さん:
ものの物質を説明できるように、物性物理を専攻するつもりです。
日本は資源の乏しい国。既存の資源から、より良い材料を開発して
いかねばならないと思っています。そして、そうした材料が偶発的に
発見されるのではなく、定量的に作れるような研究をして、科学界に、
日本に貢献していきたいです。
安東さん:
一般に化学は堅苦しいというイメージが先行し、日本では理系離れ
が進んでいます。だからこそ、多くの人に科学に対して興味を持って
もらえるように、科学の「見える化」に貢献したい。そして、研究の環
境整備をする仕事をしていきたいです。
日置さん、安東さん、山田さんの、そして、仙台二高化学部諸君の今
後の益々のご活躍を期待しています。
シュプリンガー・ジャパンは、今後、第二・第三の若い卵達が生まれ、
研究者として成長し、その研究を出版することによって、科学の世界
に貢献してほしいと願っています。私どもも出版社として、出版活動
によって情報の発信・流通を行って研究を後押しし、また発表の場を
提供することによって、科学の発展に寄与し続けていく所存です。
今回の発見の立役者であり、ジャーナル論文の著者として名前を連ねている
高校生達。
左から、宮城県立仙台第二高等学校三年生の日置友智さん、安東沙綾さん、
そして化学部で指導にあたられた渡辺尚先生。
山田学倫さんはインタビュー・撮影当日は欠席)。
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