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科学技術と社会-ヨーロッパの取り組み(英国)【PDF:72KB】
NEDO海外レポート NO.954, 2005. 4. 20 < 新刊目次のメール配信をご希望の方は、http://www.infoc.nedo.go.jp/nedomail/ > 海外レポート954号目次 http://www.nedo.go.jp/kankobutsu/report/954/ 【産業技術】科学政策 科学技術と社会−ヨーロッパの取り組み (英国) 2005 年 3 月 9∼11 日の 3 日間にかけて、 ブリュッセルのシャルルマーニュ会議場において、 欧州委員会(European Commission)による、Science in Society Forum 2005 と題された会 議が、主としてEU諸国から 1,000 名を超える参加者を集めて開催された。 会議の目的は、科学者、政策の企画立案担当者、市民グループその他の利害関係者が一同に 集い、科学と社会の関係の議論が展開されている現状について、また、そうした議論が現実に 世の中に与えている影響、また、そうした議論に参加している各層の役割を、それぞれ検討す ることにあった。 会議では、政策的な重要性及び欧州社会の将来にとって関係の深い事項かといった観点から、 「科学,社会とリスボン戦略(Science, Society and Lisbon Strategy) 」 、 「科学,技術と民主主 義(Science, Technology and Democracy) 」 、 「科学コミュニケーションの土壌確立に向けて (Towards a culture of science communication)」 、 「科学分野における多様性,包括性及び公平 性の涵養(Fostering diversity, inclusiveness and equality in science) 」 、という4つのコアと なる論点が設定され、それぞれについて議論が行われた。また議論と並行して、現在各国で行 われている本分野に関する様々な取り組みについて紹介する展示が、 「科学の普及」 、 「公開討 論及び参画のプロセス」 、 「社会の多様なグループとの関わり」 、の3つの分類で行われた。 この会議の背景には、欧州委員会による「リスボン戦略」及び「科学と社会・行動計画」 (Science and Society ActionPlan)がある。前者は、2000 年に策定され、欧州統合が進む中 で、より多くの質の高い職を確保しながら持続的な経済発展を続けるために、2001 年までに 欧州が世界で最も競争的で活力のある知識経済社会(knowledge-based economy)となること を謳い、科学技術面について言えば、欧州域内の GDP に占める科学技術研究開発費の割合を 3%に引き上げることをターゲットとしている。 後者は、リスボン戦略の達成を支えるための一つの手段として、2001 年に策定され、欧州 における科学教育を充実・強化すること、科学技術政策を市民に身近なものにすること、政策 決定において的確な科学的知見を活用すること、の 3 つの目的が示されている。 つまり、科学と社会の問題が議論される背景には、産業の空洞化、頭脳の米国への流出、学 生の科学技術分野離れといった状況に欧州として適切に対応し、統合欧州が将来的にも国際社 会で一定の地位を保つために、競争力の源泉の一つである科学技術分野の健全な発展を促す必 要があるとの認識の下、その担い手として必要となる科学的人材の育成を図る一つの前提とし て、科学と社会の関係を改めて見つめなおし、科学に対する理解、興味を促すという狙いがあ 41 NEDO海外レポート NO.954, 2005. 4. 20 るように考えられる。事実、上述の 3%目標を達成するためには、数十万人の科学者の増加が 必要になるとの見方がある。 もちろんこのほかにも、科学技術的な知見の活用が市民社会の生活と切り離せない時代とな っており、政策形成において科学的知見が適切に利用されることや、市民社会に科学技術に対 する適切な理解が定着することの必要性についての認識もあるものと考えられる。 遺伝子組換え体やナノテクノロジーの利用に対する市民の不安に対応していくためにも、科 学と社会の関係を議論することが必要とされているわけである。展示の部でも、SINAPSE と 呼ばれる、欧州における政策支援のための科学情報データベースの公開 (http://europe.eu.int/sinapse) 、 ナノ・ダイアローグ (Nano dialogue) 、 ナノ・フォーラム (Nano Forum)といった取り組みなどが紹介された。 会議の議論においては、従来の技術予測(Foresight)が、科学者中心の、また、進歩史観 によるものとすれば、技術評価(Technology Assessment)は、市民も参画し、また、科学 的な進歩が全て善とは限らない、という観点を含み得るものであることにも言及した上で、市 民参画それ自体は科学の発展にとって障害となるものではなく、むしろ科学の健全な発展の上 で重要な視点を与えるものだ、との認識が示された。 これは、リスボン戦略及びそれに連なる行動計画の流れを踏まえれば、科学技術と社会が一 体不可分のものとなりつつあり、また、それを担う人材の育成を考えた場合、当然の流れと言 えるのかもしれない。つまり、科学における市民参画、民主主義の徹底、そしてその結果とし て、科学が支持を受けるようになること、という観点から、このような認識が必要とされるの であろう。かかる観点からは、科学分野における女性やエスニック・マイノリティの登用に関 する議論も多く見られた。 こうした科学における市民参画の推進、民主的な運営の推進の必要性がEU加盟国間におい て共有されることは、拡大するEUにおいて科学技術人材の流動性が高まっていくためにも、 必要不可欠な前提条件であると考えられる。 欧州委員会の科学研究担当理事からも、第 7 回目となる、欧州の次期フレームワークプロ グラムにおいて、科学と社会の関係は益々重要な論点となり、欧州の持続可能な発展のための 大きな鍵の一つであるとの認識が示された。 以上 (参考) この会議の詳細については、次のウェブサイトから情報が入手可能である。 http://europa.eu.int/comm/research/conferences/2005/forum2005/index_en.htm 42