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クライアントの方へ向けて 「建物の耐震性とは」

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クライアントの方へ向けて 「建物の耐震性とは」
クライアントの方へ向けて
「建物の耐震性とは」
2014.5.1
金箱構造設計事務所
建築の構造設計は「建築基準法」という法律に基づいて行います。耐震設計に関しては 2 段階
の地震力に対しての設計を行うことになり、それぞれ 1 次設計、2 次設計と呼ばれています。
1 次設計は「稀な地震」あるいは「建物存在中に数回受けるであろう地震」に対しての設計で、
建物の損傷を防ぐことを目的としています。2 次設計は「極めて稀な地震」あるいは「数百年に
一回程度発生する可能性のある地震」に対しての説明で、建物の被害は許容するが倒壊を防ぎ、
人命を守ることを目的としています。
地震の大きさを示す指標として一般的に「震度階」が用いられています。基準法で考える地震
の大きさとしては、1 次設計は震度 5 弱から強、2 次設計は震度 6 強から7と考えることもでき
ます。しかし、建物に影響を及ぼす震動は震度階だけで単純に表現することはできません。同じ
震度であっても建物の性質や地震動の性質、また地盤の様子によって建物への影響は異なり、震
度の小さい地域の方が震度の大きい地域よりも被害が大きいということもあります。実際に、東
北地方太平洋沖地震では、栗原市で震度7を記録しましたが倒壊した建物はほとんど無く、損傷
などの被害も少なく、むしろ震度 6 強や 6 弱が観測された福島県や茨城県に位置した建物の被害
のほうが多いという現象が起きました。
そのため建築基準法では、今までの地震被害の経験を基にして概ね上記の震度階によって建物
に生じると考えられる標準的な地震力を決めており、その値を用いて構造計算を行います。この
ようにして設計された建物が、地震の際に倒壊を免れることは阪神大震災や東日本大震災でも概
ね確認されています。ただし、注意する点が二つあります。
一つは、同じ地震力を用いて設計を行ったとしても構造の種類によって地震の時の揺れ方や被
害の様子が異なると言うことです。低層の建物より高層の建物のほうが、鉄筋コンクリートで作
られた建物よりは鉄骨で作られた建物のほうが揺れを感じやすいことがあります。また、同じ鉄
筋コンクリートの建築であっても壁が多いものは地震の揺れや被害が少なくなります。
もう一つは、建築基準法は最低基準を定めたものであり、より安全性を高めることを考えるこ
ともありうることです。前述したように、建築基準法に基づく設計では、大きな地震を受けた際
に人命は保護されますがでは建物には被害が生じる可能性があります。被害を減らすこと、安全
性をどこまで高めるかは建物を作る人と設計者とで協議して決めていく必要があります。例えば、
住宅性能表示制度では、
「耐震等級」を定めており、基準法で規定している地震力で設計したもの
を「等級 1」とし、地震力の大きさを 1.25 倍、1.5 倍として設計された建物をそれぞれ「等級2」、
「等級3」としています。このように地震力を割りますことで安全性を高める方法があります。
免震構造や制振構造といった技術を用いるとさらに地震に対しての安全性が増します。しかし、
安全性を高めるためには、柱や梁が大きくなったり、壁の量が増えたりすることもあり、建設コ
ストも増加します。平面計画(使い勝手)や費用対効果を考えて地震に対する安全性を高めるか
どうか決めていくことが重要です。
地震時の人的な被害は家具の転倒などによって引き起こされることも多く、家具や什器の転倒
防止を行うことにより安全・安心の確保ができます。
以上の説明を理解していただき詳細については設計者と対話することがよいと思いす。さらに
理解を深めたい方は、次ページに少し詳細な説明を載せていますのでお読みください。
<建物の耐震性能に関する補足的な説明>
図1は,建物の固有周期(横軸)と地震の大きさ(縦軸)を示したものです。地震は地面が動
くことによって建物が揺れる現象ですが、構造計算では建物が地面に固定されており、地震力は
建物に作用する水平力として考えます。地震力は建物の重量に比例する水平力として考え、縦軸
には建物全重量に対して最下階で生じる水平の力の比率を示しています。その値は、建物の固有
周期と地盤によって決まるものです。
図 2 は,水平力を受けた構造物の状態について示しています。簡単にするため、建物は 1 層で
考えます。縦軸が建物の加わる水平力、横軸が水平方向の変位を示しています。点 A までは力と
変位が比例関係にあります(弾性)が、それを越えると力と変位が比例しなくなります(塑性)。
最大強度とされる B 点を超えると、建物が倒壊します。グラフの左側に記載した①、②が建築基
準法で規定する 1 次設計、2 次設計を説明したものです。
図 3 は構造の種類によって地震力を受けたときの様子の違いを示しています。代表的な構造の
種類として 4 つを取り上げ、RC 造の壁の多い構造、RC 造のラーメン構造、鉄骨造のブレース構
造、鉄骨造のラーメン構造について違いを示したものです。同じ力を受けた場合でも建物の変位
の大きさはかなり異なります。地震に耐える力とは、強度とそれまでに塑性変形した度合いの組
み合わせで決まります。
図 4 は、構造(骨組み)のバランスの重要性について示したものです。壁が平面的に偏ってい
るとねじれることにより被害が大きくなりがちです。階の上下で壁の量が偏っている場合には壁
の少ない階に地震力が集中することがあります。このような構造は避けるべきものといえます。
地震力の大きさと建物の状態
建物に作用する地震力
・建物が受ける地震力の大きさは固有周期と地盤種別によって決まる
・地震力を水平力として考えて設計する
地震力と建物の変形の関係
水平力
A
比例関係の限界点(Aまでは弾性範囲)
A→B 荷重の増加が小さくても変形が急激に
進む状態(塑性化)
B
最大耐力(強度)
それ以降は変形が進むが耐力は減少
B
水平力
地震力の大きさと設計目標
A
①まれに生じる地震(震度5弱)
A点を超えないように設計
構造体は弾性範囲で損傷なし
②極めてまれに起こる地震(震度6強)
B点を超えないように設計
構造体に損傷が生じるかもしれない
地震力
――――
建物重量
水平変位
力と変形の関係
図1
図 2 地震力と構造物の状態
固有周期と地震力
■構造体(骨組)のバランスが重要
構造の種別と強度・変形の関係
建物の地震に対する安全性は強度と変形性能
の両方を加味する必要がある
上下階のバランス
・平面的に壁が偏在していると
・極端に柔らかい層があると地
震力が集中して揺れやすい
ねじれが生じやすい
・
変形性能は構造の種類によって異なる
変形が大きい場合の留意点
ガラスや外壁の取り付け方法
残留変形
地震後の修復
水平力
平面的なバランス
荷重
RC壁
鉄骨ブレース
RCフレーム
この部分の面積が地震
に耐える性能を示す
鉄骨フレーム
変形 鉄骨フレーム
右図のように様々な構
造形式が可能
水平変位
図 3 構造種別による強度と変形の状態の違い
図4
骨組のバランスの重要
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