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発表資料 - 慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス
身体性が生む阿吽のインタラクション ―他者に承認される「先読み」行為― JSAI2014 OS-28 知の身体性 坂井田 瑠衣 (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科) 諏訪 正樹 (慶應義塾大学環境情報学部) 対面相互行為の身体性: リソースとして機能してしまう身体 • 「身体表現」が多用される対面相互行為 ü 非対面の相互行為では身体を参照不可能 Ø e.g. 電話,メール • 身体の観察可能性 [Goffman 63] ü 身体が観察可能な相互行為のリソースとして 他者に開かれているという性質 Ø 当人の伝達意図とは無関係(不随意的)に, 他者に情報を提供するメディアとならざるをえない Ø 「身体表現によるコミュニケーションは, やめることができない」[Goffman 63] 2 伝達意図がなくても 対面相互行為は成り立つ 発話・動作 (情報) • 伝達意図を前提とした相互行為 ü 話し手が特定の聞き手に情報を送る ü 聞き手は情報を自覚的に受け取る 情報送出 行為 話し手 (発信者) 聞き手 アドレス 行為 情報受信 行為 聞き手 (受信者) 話し手 アドレス 行為 • 伝達意図のない相互行為 ü 他者の認知の利用 [高梨 10] Ø 「駅のフォームに駆け上がる人を 見て,電車の到着を察知する」 Ø 他者の身体を情報源として 一方的/勝手に利用する Ø 発信者の伝達意図はないが, 情報が伝達されたように見える ü cf. 焦点の定まらない相互行為 [Goffman 63] 発話・動作 (情報) 情報受信 行為 話し手 (発信者) 聞き手 (受信者) 話し手 アドレス 行為 伝 達 意 図 あ り 伝 達 意 図 な し 話し手と聞き手の図式 ( [木村 10] を一部改変) 3 相手の伝達意図を超えた 「阿吽のインタラクション」 食卓にて,相手がグラスの水を 飲み干したことに気づき,水を継ぎ足す 互いの傘を外側に傾け, 濡れないようにすれ違う (傘かしげ) • 阿吽のインタラクション [坂井田 14] ü 相手の身体動作を観察し,相手の伝達意図を超えた振る舞いを 返すことで成立する相互行為 Ø HIやHCIなど,人工知能研究が着眼すべき重要な現象 (cf. [中島 12]) ü 阿吽のインタラクションの達成メカニズムを解明するには 相互行為のマイクロ分析が必要 4 発話・視線・利き腕動作のマイクロ分析 身体動作のマイクロ分析 [Kendon 04], [細馬 09a], [城 14] など • The10ms単位で言語/非言語行為の前後関係・共起関係を分析 28th Annual Conference of the Japanese Society for Artificial Intelligence, 2014 • 各々の身体動作を「ジェスチャーフェーズ」に分解し詳細に記述 ( ) 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5 5.0 5.5 6.0 6.5 7.0 7.5 8.0 8.5 9.0! U F P S H (U ( ) ) R ( ( ) ) U R1 S1 ( ( ) F S2 P ( ) S3 H ( ( ) ( ) ) 2: (2) 発話・視線・利き腕動作のトランスクリプト U R2 (F ) ) 5 発話・視線・利き腕動作のマイクロ分析 身体動作のマイクロ分析 [Kendon 04], [細馬 09a], [城 14] など • The10ms単位で言語/非言語行為の前後関係・共起関係を分析 28th Annual Conference of the Japanese Society for Artificial Intelligence, 2014 • 各々の身体動作を「ジェスチャーフェーズ」に分解し詳細に記述 ( ) 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5 5.0 5.5 6.0 6.5 7.0 7.5 8.0 8.5 9.0! 秒数 発話 U F P 視線方向 (U (会話分析のトランスクリプトの S R H 記号 [西阪 08] を使用) ( ( ( ) (空白は視線移動, 方向が不明な箇所) ) ) ) U R1 S1 ( ( ) S2 P ( ) S3 H ( ) ( R2 (F ( ) ) ) ) 利き腕動作 2: (2) (P:準備,S:ストローク,H:ホールド,R:復帰) F [Kendon U 04], [細馬 09b] 6 相手の身体の観察可能性を利用した 「先読み」行為 • 事例分析 (約9.6秒間) ü 場面:ある展示会の会場 ü 学生 (U) が先輩学生 (F) に仕事を依頼する Ø 仕事内容:複数枚の用紙をクリップで留める ü UはFに仕事内容を教示しながら,道具を手渡す • ここでの「阿吽のインタラクション」 ü FはUの身体動作を観察し,Uの教示内容を 「先読み」する Ø 教示と手渡しの過程が効率化される 7 仕事内容の教示と受け渡しが 「先読み」により同時進行する The 28th Annual Conference of the Japanese Society for Artificial Intelligence, 2014 2 U:再び紙を重 8 4 6 F:Uから F:仕事内容を F:右手をそのまま U:再び紙を ね0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5 5.0 5.5 6.0 6.5 7.0 7.5 8.0 8.5 9.0! ( ) 紙を 先読みし, 保持し,紙を受け取る 重ねながら ながら教示を 受け取る Uから紙を受け タイミングを見計う 教示を継続 継続 取ろうとする U F P (U ( ) まだ教示発話は 完了可能点 [Sacks S2 74] P ( ( に達しない ) U R1 S1 ( ( ) 1 U:右手で持った U:右手で持った 紙をF 紙を左手の紙に 左手の紙に重ねて 重ねて教示を開始 教示を開始 (2): ) ) 3 U:クリップを 2: クリップを探そうと (2) 探そうと教示を中断 教示を中断 U 視線を手元から 視線を手元から 下,左方向に移動 下,左方向に移動 S H ) R ( ( ) ) S3 H ( 5 R2 (F ( ) ) ) U:クリップ を探索していて Fの試みに 気づかない 7 U:再び手元に 視線を戻し, Fの試みに気づく 8 U 仕事内容の教示と受け渡しが 「先読み」により同時進行する The 28th Annual Conference of the Japanese Society for Artificial Intelligence, 2014 2 U:再び紙を重 8 4 6 F:Uから F:仕事内容を F:右手をそのまま U:再び紙を ね0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5 5.0 5.5 6.0 6.5 7.0 7.5 8.0 8.5 9.0! ( ) 紙を 先読みし, 保持し,紙を受け取る 重ねながら ながら教示を 受け取る Uから紙を受け タイミングを見計う 教示を継続 継続 取ろうとする U F P (U ( U R1 S1 ) U:右手で持った U:右手で持った 紙をF 紙を左手の紙に 左手の紙に重ねて 重ねて教示を開始 教示を開始 S2 P ( ( (2): ) R ( ( ) Uの教示終了を待たずに Fが道具を受け取ろうとしたことで 教示と受け渡しの同時進行による効率化を達成 ) 1 S H ) S3 H ( ( ) 3 U:クリップを 2: クリップを探そうと (2) 探そうと教示を中断 教示を中断 U 視線を手元から 視線を手元から 下,左方向に移動 下,左方向に移動 ) ( ) 5 R2 (F ( ) ) ) U:クリップ を探索していて Fの試みに 気づかない 7 U:再び手元に 視線を戻し, Fの試みに気づく 9 U Uに承認されることで双方向性/連鎖性を 帯びるFの「先読み」行為 発話・動作 (情報) • U:教示を中断しクリップを探索する間, 紙を持った右腕を保持 ü ü 情報受信 行為 教示が終了しておらず,Fに紙を渡さない • F:Uがクリップを探索し始めた タイミングで受け取り動作を開始 話し手 (発信者) 聞き手 (受信者) 話し手 アドレス 行為 教示の完了前にいち早く仕事を「先読み」 • U:Fの試みに気づくとすぐ, Fに紙を手渡す動作を開始 ü Fの受け取り動作に同調し, 先読み Fの「先読み」を承認 を承認 • 当初は一方的な「先読み」が, 事後承認により遡及的に相互行為としての 双方向性/連鎖性を帯びる (cf. [高梨 10]) 仕事を 先読み 発話・動作 (情報) 情報送出 行為 話し手 (発信者) 聞き手 アドレス 行為 話し手 アドレス 行為 情報受信 行為 聞き手 (受信者) 10 「先走り」という側面を 「配慮」という側面が相殺する • 「先読み」は「先走り」と紙一重 ü F:UがFに視線を向けていない状態で, 紙を奪おうとする? • なぜ「先走り」は許されたか ü U:非効率的なクリップ探索動作 Ø 右手で紙を持ちながら左手でクリップを探索 ü F:仕事をある程度理解した時点で受け取り開始 Ø Uのクリップ探索を手助けした ü 「先走る」ことで「配慮」が可能になった 11 まとめ:身体性による「先読み」の達成と 他者の承認による連鎖性の発生 • 伝達意図を超えた相互行為としての「先読み」 ü 対面による身体の観察可能性によって実現される • 一方的/勝手に開始される「先読み」 ü 他者の同調的な振る舞いにより正当性が承認される Ø 相互行為としての連鎖性,双方向性が生まれる • 「先走り」と紙一重の「先読み」 ü 参与者たちに共有された目標に到達するための 「配慮」という側面によって相殺される 12 「非言語コミュニケーション」研究から 「身体相互行為」研究へ • これまで:非言語コミュニケーション研究 ü ジェスチャー,視線,姿勢など… ü コミュニケーションチャネルとしての身体 Ø 言語の「伝達」機能を補足する役割 • これから:身体相互行為研究 ü 絶えず他者に情報を晒し続ける媒体としての身体 Ø 「阿吽のインタラクション」を可能にする場としての身体 ü 「やめることができない [Goffman 63]」相互行為 =不随意的な身体相互行為を分析の俎上に載せる 13 参考文献 [Goffman 63] Goffman, E.: Behavior in Public Places: Notes on the Organization of Gatherings, The Free Press (1963) [細馬 09a] 細馬 宏通: 話者交替を越えるジェスチャーの時間構造 ―隣接ペアの場合―, 認知科学, Vol. 16, No. 1, pp. 91-102 (2009) [細馬 09b] 細馬 宏通: ジェスチャー研究のための分析単位 ―ジェスチャー単位. 坊農 真弓, 高梨 克也 編: 多人数イ ンタラクションの分析手法, pp. 119-136, オーム社 (2009) [城 14] 城 綾実, 細馬 宏通: 語りの進行を回復する実践として共―語り手たちが産出する同期現象, 社会言語科学, Vol. 16, No. 2, pp. 32-49 (2014) [Kendon 04] Kendon, A.: Gesture: Visible Action as Utterance, Cambridge University Press (2004) [木村 10] 木村 大治: 「Co-act」と「切断」 ―バカ・ピグミーとボンガンドにおける行為接続, 木村 大治, 中村 美 知夫, 高梨 克也 編: インタラクションの境界と接続―サル・人・会話研究から―, pp. 231-253, 昭和堂 (2010) [中島 12] 中島 秀之: 阿吽の呼吸と環世界, ヒューマンインタフェース学会誌, Vol. 14, No. 4, pp. 255-258 (2012) [西阪 08] 西阪 仰, 串田 秀也, 熊谷 智子: 特集「相互行為における言語使用: 会話データを用いた研究」について, 社会言語科学, Vol. 10, No. 2, pp. 13-15 (2008) [Sacks 74] Sacks, H., Schegloff, E. A., Jefferson, G.: A simplest systematics for the organization of turn-taking for conversation, Language, Vol. 50, No. 4, pp. 696-735 (1974) [坂井田 14] 坂井田 瑠衣: 阿吽のインタラクション ―身体性が生む相互行為の秩序―, 慶應義塾大学大学院政策・ メディア研究科2013年度優秀修士論文, 湘南藤沢学会 (2014) [高梨 10] 高梨 克也: インタラクションにおける偶有性と接続, 木村 大治, 中村 美知夫, 高梨 克也 編: インタラク ションの境界と接続 ―サル・人・会話研究から―, pp. 39-68, 昭和堂 (2010)