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2007.1 number 133 寄稿論文 長寿命電荷分離システムの創製と応用 大阪大学 大学院工学研究科・SORST 福住 俊一 1. はじめに 近年特に深刻化を増す地球環境エネルギー資源問題の根本的解決をはかるためには,人類が 使用するエネルギーは従来の化石燃料に頼るのではなく,自ら生み出した分だけ使用する人工 光合成型エネルギー変換システムを創製することが緊急の課題となっている。 当研究室では,光合成の光電荷分離過程について,まず天然の光合成反応中心の機能を分子 レベルで再現することを最初のターゲットとした。光合成反応中心モデルに使用する分子の電 子移動特性の詳しい検討を行い,最適の組み合わせを見出して選択した。選択した光捕集分子, 電子供与体,受容体分子を共有結合で連結し,光合成反応中心と類似した多段階電子移動シス テムを構築した。各電子移動過程についてはレーザー時間分解法を駆使してそのダイナミクス を明らかにし,マーカスの電子移動理論を適用して詳しい解析を行った。その結果,人工系で 初めて天然の電荷分離寿命を凌ぐ分子複合系の開発に成功し,電荷分離寿命の世界記録を次々 と更新した 1-3。これ自体で画期的なことであるが,このような天然の光合成反応中心を模倣し たシステムでは,多段階電子移動を経て長寿命電荷分離状態を得るために,エネルギー損失が 大きい。しかも多数の分子を共有結合で連結する必要があるため合成が困難でありコストが高 いのが応用を考える際に大きな問題となる。そこで多段階ではなく一段階の光誘起電子移動過 程で長寿命かつ高エネルギーの電荷分離状態を得ることのできるドナー・アクセプター連結系 分子を設計・合成した。その結果,天然の光合成反応中心のエネルギーおよび寿命を凌駕する 電荷分離分子の開発に成功した 4。また,高エネルギー・長寿命の電荷分離状態を生成する連結 分子を光触媒として用いた光触媒反応系への応用展開を行なった。本総説では当研究室におけ る人工光合成研究の中で長寿命電荷分離システムの創製と応用を中心に最近の成果をまとめた。 2. 電子移動設計指針 光合成で行われているように高効率で長寿命かつ高エネルギーの電荷分離状態を得るには, 最 初の光誘起電荷分離過程(Charge Separation, CS; 図 1a)が逆電子移動による電荷再結合過程 (Charge Recombination, CR)よりもはるかに速く起こる必要がある。それぞれの光誘起電荷分 離過程の速度定数(kET)のドライビングフォース(−∆G0ET)依存性は非断熱型電子移動のマー カス理論 (式 1)に従うことが示される 5。すなわち電子移動速度定数の対数(log kET)は電子 移動のドライビングフォース(−∆G0ET)に対して放物線の依存性を示す(図 1b)。ここで λ は 電子移動の再配列エネルギーとよばれ,この値と ∆G0ET の値で電子移動の速度が決まる(kB は ボルツマン定数,h はプランク定数)。また , V は電荷間の相互作用の大きさを示すものであり, 電荷間の距離が大きくなるほど小さくなる。電子移動のドライビングフォース(−∆G0ET)が λ の 値より小さい領域では log k ET の値は −∆G 0 ET の増大に伴い増大する。この領域はマーカスの kET = 2 π λ kB T 1/2 V2 h exp − (∆G0ET + λ)2 4 λ kB T (1) 2007.1 number 133 通常領域と呼ばれる。一方,電子移動のドライビングフォース(−∆G0ET)がλの値より大きい 領域ではlog kET の値は−∆G0ET の増大に伴い逆に減少する。この領域はマーカスの逆転領域と呼 ばれる。一般に電荷再結合過程(CR)のドライビングフォース(−∆G0CS)より電荷分離過程(CS) のドライビングフォース(−∆G0CR)の方が大きい(図 1a,b)。その場合λが小さくなると,電荷 再結合過程(CR)の速度は電荷分離過程(CS)の速度よりもはるかに遅くなることが可能とな る(図 1b)。従って,長寿命の電荷分離状態を得るには小さなλを有するドナー・アクセプター (D-A)連結系を用いる必要がある。 図1. (a)光電子移動スキーム (b)電子移動速度のドライビングフォース(−∆G0ET)と λ に対する依存性 3. ポルフィリン・フラーレン連結系 ポルフィリンとフラーレンはいずれも電子移動反応の再配列エネルギーが小さく,その組み 合わせは長寿命電荷分離状態を得るのに適している 6-8。そこで天然の光合成反応中心で用いら れているバクテリオクロロフィルの代わりに亜鉛クロリン(ZnCh),亜鉛ポルフィリン(ZnPor), フリーベースポルフィリン (H2Por) ,フリーベースクロリン (H2Ch) ,フリーベースバクテリオク ロリン(H2BCh)を用い,また電子受容体としてはキノンの代わりにその還元電位がほぼ等しく, 電子移動特性に優れたフラーレン(C60)を用いて,両者を共有結合で連結した(図 2)9-11。図 2 のドナー・アクセプター連結分子の中で光励起により電荷分離状態が観測できるのはZnCh−C60 連結系の場合に限られる。これは,他の場合は電荷分離状態よりもポルフィリンあるいはクロ リンの3重項励起状態の方がエネルギーが低くなるためである。ポルフィリンの1つのピロー ル環の二重結合が還元されてクロリンになるとその酸化電位が低くなり,また亜鉛イオンの導 入によってさらに酸化電位が低くなるため,電荷分離状態(ZnCh • + −C 60 • - )のエネルギーが クロリンの3重項励起状態より低くなる。自然界ではポルフィリンではなく,ポルフィリンの 2つのピロール環の2重結合が還元されたバクテリオクロロフィルを用いているのも,電荷分 離状態のエネルギーがバクテリオクロロフィルの3重項エネルギーよりも低くなるようにする ためであると考えられる。 電荷分離状態(ZnCh • + −C 60• -)からの逆電子移動すなわち電荷再結合過程(CR)の速度定数の ドライビングフォース(−∆G 0BET)依存性も電荷分離過程(CS)と同様に式(1)に従う(図 2)9。 3 2007.1 number 133 電子移動速度定数が最大値を与えるドライビングフォースが電子移動の再配列エネルギーに対 応する。ここでCR 過程のドライビングフォースは完全にマーカスの逆転領域(ドライビング フォースが大きくなるほどkBETの値が小さくなる)に入っている。そのためドライビングフォー スの大きなCR過程の方がドライビングフォースの小さなCS過程より速度がはるかに遅くなる。 CR過程のドライビングフォースがもっと大きくなると,電荷分離状態の寿命はもっと長くなる ことになるが,それには限界がある。すなわち,基底状態へのCR 過程のドライビングフォース がクロリンの3重項励起エネルギーよりも大きくなると,もはや基底状態へは戻らず,3重項 励起状態への逆電子移動が起こってしまうことになる。このようにポルフィリン,クロリン,ク ロロフィル類を使う限り,一段階で長寿命の電荷分離状態を得るには限界がある。そのため,光 合成では多段階電子移動を経て,電荷を引き離すことにより長寿命化を達成している。 図2.ポルフィリン(クロリン) ・C60 連結分子と電子移動速度定数の ドライビングフォース依存性 9 ZnCh−C60の連結部位を短くすると2分子系としては非常に長い電荷分離寿命が得られた(図 3a)10,11。 また,ポルフィリンのメソ位に 2,4- ジ -t- ブチルフェニル基を導入すると,電荷分離 状態(ZnP•+−C60•-)のエネルギーがポルフィリンの3重項エネルギーよりも低くなり,逆電子 移動では3重項状態でなく基底状態へ戻るため,比較的長寿命の電荷分離状態が得られた(図 3b)8。その他,従来の2分子系に比べ,超寿命の電荷分離寿命を有する種々のドナー・アクセ プター連結分子を開発した(図 3c,d にその例を示す)12-17。 4 2007.1 number 133 図3. ドナー・アクセプター連結系分子と電荷分離寿命 多段階電子移動による電荷分離状態の長寿命化についても,モデル化合物を用いて再現す ることができた。例えば,電子供与体としてフェロセン(Fc),光増感剤として亜鉛ポルフィリ ン(ZnP),フリーベースポルフィリン(H2P),電子受容体としてC60 を用いた4分子連結系(Fc− ZnP−H2P−C60)では,紅色光合成細菌の反応中心複合体における多段階電子移動の結果生じる長 寿命の電荷分離状態を良く再現することができた(図 4a)18。まず ZnP が励起され,H2P への エネルギー移動を経て,H2P の1重項励起状態から C60 への電子移動,ZnP から H2P•+ への電子 移動,Fcから ZnP•+ への電子移動が連続的に起こり,Fc+ と C60•- が 50 Å離れた電荷分離状態が 得られる(スキーム1)18。 図4.4分子連結系: (a)Fc-ZnP-H2P-C60;(1)-(3)は多段階電子移動による電荷分離課程, (4) は電荷再結合過程を示す 18 (b)Fc-(ZnP)3-C6020 5 2007.1 number 133 スキーム 1 この分子内CR過程の寿命は 0.38秒となり,光合成反応中心の寿命に匹敵する長寿命となった18。 また,4分子連結系(Fc−ZnP−H2P−C60)の H2P を ZnP で置き換えると電荷分離寿命は 1.6 s ま で長くなった19。 光捕集部位にメソ位で連結した亜鉛ポルフィリン3量体を用いた5分子連結系 においても同様に 0.53 秒という長寿命電荷分離状態が得られた(図 4b)20。このように適切な 色素,電子供与体,電子受容体を適切な配置で連結することにより,光合成の光誘起電荷分離 過程を良く再現することができた。 4. 天然の光合成反応中心を凌駕する電荷分離エネルギー および寿命を有するドナー・アクセプター2分子系の開発 上述の天然の光合成反応中心を模倣したシステムでは,多段階電子移動を経て電荷を長距離 に分離して長寿命電荷分離状態を得ている。この場合,各電子移動段階でその自由エネルギー 変化が負になるため,最終的な電荷分離状態を得るためのエネルギー損失が極めて大きい。 しかも多段階電子移動が起こるためには多数の分子を共有結合で連結する必要があり,その合 成は極めて困難である。従って,このような人工光合成分子の応用を考える場合,そのコスト の高さが大きな問題となる。そこで多段階ではなく一段階の光誘起電子移動過程で,長寿命か つ高エネルギーの電荷分離状態を得ることのできるドナー・アクセプター連結系分子を設計・合 成した。その基本的な考え方は(1)電子移動の再配列エネルギー(λ)の値が小さく, (2)3 重項励起エネルギーが高いものを選ぶことにある。9- フェニル -10- メチルアクリジニウムイオ ンは ESR の線幅交換から決定した電子交換の λ の値が 0.30 eV と非常に小さく 21,しかも3重項 エネルギーが高いので,長寿命かつ高エネルギーの電荷分離状態を得ることのできるドナー・ アクセプター連結系分子の構成分子として非常に優れている。溶媒の再配列エネルギーを小さ くするためにはドナー・アクセプター間の距離を小さくして,溶媒が間に入り込まないように する必要がある。ただし,ドナー・アクセプター間の相互作用が大きくなると,電子移動速度 が速くなるので,できるだけ相互作用を小さくしなければならない。そこでアクリジニウムイ オンの 9 位に,オルト位に置換基を有するドナー分子を直結した 9- 置換アクリジニウムイオン を設計・合成した 22。9- メシチル -10- メチルアクリジニウムイオン(Acr+−Mes)はドナー部位 とアクセプター部位が直交し(図 5a),HOMO はドナー部位(図 5b),LUMO はアクセプター 部位(図 5c)に完全に分離している。この電子移動状態のエネルギーは 2.37 eV であり,光合 成反応中心よりはるかに高く,その寿命も2時間という驚異的な長さに達した 22。このように 6 2007.1 number 133 図5. (a)9- メシチル -10- メチルアクリジニウムイオンの X 線結晶構造 (b)HOMO 軌道 (c)LUMO 軌道 (d)電子移動状態の逆電子移動速度定数の温度依存性 22 単純なドナー・アクセプター連結系分子で高エネルギー・長寿命の電荷分離状態が達成できた ことにより,その応用展開の期待が高まった 23。一方で,Acr+−Mes を光励起して生成するのは A c r + 部位の3重項励起状態ではないかとの異論も出され,そのりん光スペクトルが報告 された 24。しかし,それは合成法に問題があり,不純物として含まれるアクリジンのものである ことが明らかとなった 25。Acr+−Mes の電子移動状態の寿命は温度が低くなるほど長くなり(図 5d)22,実際 77 K における寿命は無限大に近くなることが示された 25。 Acr+−Mesではアクリジニウムイオンにドナー部位を共有結合で連結したが,非共有結合を用 いた連結系においても長寿命電子移動状態が得られることがわかった26。アクリジニウムイオン (AcH+)はパックマン型ポルフィリンダイマー中に π−π 相互作用により容易に挿入される(ス キーム2)。PhCN 中このπ 錯体にレーザーパルスを照射すると,レーザーフラッシュフォトリシ ス法により π 錯体の電子移動状態に由来する AcH• と H4DPOx•+ の過渡吸収スペクトルが観測さ れた。生成した電子移動状態の寿命は 298 K で 18 µs と比較的長寿命であった 26。さらに,π 錯 体では電子移動の再配列エネルギーが非常に小さくなり,電子移動状態の寿命に大きな温度依 存性が見られた 26。その結果,77 K では電子移動状態の寿命は非常に長くなり,低温で定常光 照射することにより電子移動状態に由来する両ラジカル種を安定に観測することに成功した (図 6)26。 スキーム 2 7 2007.1 number 133 図6.H4DPOx と AcH+ との π 錯体を 低温で光照射したときの色およ びスペクトル変化 (挿入 図は 680 nm の吸光度の経時変化)26 5. 長寿命電荷分離を用いた光触媒反応の開発 次に長寿命の電子移動状態を生成するAcr+−Mesを光触媒として用いた反応の開発を行った。 まず,Acr+−Mes の電子移動状態の強力な酸化還元力を利用して,アントラセン類の酸素化反応 が効率良く進行することを見出した 27。この光触媒反応ではAcr+−Mesの電荷分離状態からアン トラセンラジカルカチオンとスーパーオキシドイオンが同時に発生し,両者がラジカルカップ リングすることでアントラセンエンドパーオキサイド(An−O2)が選択的に生成することがわ かった(スキーム 3)。An−O2 はさらに光反応が進行し,最終生成物としてアントラキノンと過 酸化水素が得られた(スキーム 3)。アントラセンだけではなく,他の芳香族化合物および工業 的廃棄物であるコールタール(芳香族炭化水素)を用いても過酸化水素が生成する。この光触 媒反応はオレフィンからのジオキセタン生成に適用することができる(スキーム 4)28,29。 スキーム 3 8 2007.1 number 133 通常ジオキセタンはオレフィンと一重項酸素との反応により得られるが,テトラフェニルエチ レンは一重項酸素とは反応しない。Acr+−Mesを光触媒として用いて初めてジオキセタンを単離 することに成功した28,29。その他種々の基質の酸化反応および酸素化反応にも適用できることが わかった 30-32。 スキーム 4 一方,Acr+−Mes を光触媒とし,メチルビオローゲン(MV2+)を修飾した白金クラスターを 用いると,NADH を電子源とする水からの水素発生が効率良く進行する(スキーム 5)33。また, MV2+ 無しでもAcr+−Mes の電子移動状態から直接,水素発生触媒への電子移動によってプロト ンを還元し水素発生することを見出した34。 さらに電子源として生体内の電子源でもあるNADH を用いた結果,酵素と組み合わせることによってエタノールからの水素発生にも成功した 34。 スキーム 5 6. 人工光合成型太陽電池の開発 上記のメシチレン・アクリジニウム連結分子をSnO2 透明電極(OTE/SnO2)に結合させるため に10-位にカルボン酸を導入した9-メシチル-10-カルボキシメチルアクリジニウムイオン(Mes− Acr+−COOH)を合成した。さらに電析法により C60 クラスターを Mes−Acr+−COOH と電極上で 複合化させた(図 7)35。この光電気化学特性について,電解液として NaI 0.5 M I2 0.01 M のア セトニトリル溶液を用いた湿式二極系で評価を行った。その結果,C60 の導入量の増大に伴い効 率良く光電流が発生し,IPCE(incident photon-to-photocurrent efficiency)値は最大15%(480 nm) となった 35。この場合,光励起によりメシチレン・アクリジニウム連結分子(Mes−Acr +)の メシチレン部位(Mes)からアクリジニウム(Acr+)部位への光誘起電子移動が起こり,生成し たアクリジニルラジカル(Acr•)から C60 への電子移動,さらに SnO2 の伝導帯への電子注入が 起こる(図 8)35。一方,I− からメシチレンラジカルカチオン(Mes•+)への電子移動が起こり, I3− へ Pt から電子が注入されて効率良く光電流が発生する(図 8)35。 9 2007.1 number 133 図 7.メシチレン・アクリジニウム連結分子とフラーレンの超分子複合系太陽電池 図8.メシチレン・アクリジニウム連結分子とフラーレンの超分子複合系 のエネルギーダイアグラム Mes−Acr+−COOH の電荷分離状態の還元力は低いため,TiO2 への電子注入はできない。そこ で TiO2 微粒子を Mes−Acr+−COOH の集積化に利用した。すなわち,TiO2 微粒子上に Mes−Acr+− COOH を集積させたナノクラスター(Mes−Acr+−COO−TiO2)を調製し,フラーレンと混合クラ スター((Mes−Acr+−COO−TiO2+C60)n)を形成させて,OTE/SnO2 上に電析させた電極(OTE/ SnO2/(Mes−Acr+−COO−TiO2+C60)n)を作製した。その結果,TiO2 微粒子を用いない場合に比べ て高い光電変換特性が得られた 36。 さらに高い光電変換特性が得られるように光捕集効率の優れたポルフィリンと電子移動特性 が優れたフラーレンを高次に組織化するために,ポルフィリンアルカンチオールで修飾された 金コロイドを合成した 37。この高次組織化集合体の作成手順を図 9 に示す。まず,ポルフィリン アルカンチオール(Primary Structure)を金微粒子に修飾した(H 2 PC11MPC; Secondary Organization)。次に,これらをトルエン溶液中でフラーレン(C60)と混合させると,超分子錯 体が形成され(H2PCnMPC+C60; Tertiary Organization),さらにアセトニトリル / トルエン = 3/1 の混合溶媒を用いると,自己組織化した分子クラスターが生成する((H 2 PCnMPC+C 60 ) m ; Quaternary Organization)。参照系として,ポルフィリン金コロイドのみの三次の組織化 ((H2PCnMPC)m)及び金コロイドのない系((H2P-ref+C60)m)と合わせて比較検討を行った 37。 10 2007.1 number 133 図9.ポルフィリンアルカンチオール修飾金微粒子とフラーレンとの 逐次自己組織化超分子集合体の形成 37 その結果,二次の組織化のポルフィリン金コロイドが数ナノメートルのサイズであるのに対し, 四次で組織化されたポルフィリン金コロイドと C60 の混合クラスターは 300 nm 程度の大きさを 有する大きな分子クラスターを形成していることがわかった37。また,ポルフィリン金コロイド のみの三次の組織化と比較しても,四次で組織化された金コロイドはクラスターのサイズ及び 大きさがコントロールされ,かつネットワーク状に集合化している 37。この四次で組織化された クラスター (H2PC11MPC+C60)m では,トルエン中のポルフィリンや C60 の吸収スペクトルと比 較して可視光領域内だけでなく,近赤外領域まで幅広く吸収領域を有し,さらにポルフィリン 金コロイドのみの分子クラスター (H 2 PC11MPC+C 60 ) m と比較しても波長領域が広くなる 37 。 このことはポルフィリンとフラーレンの相互作用が波長領域の広域化に大きく寄与しているこ とを示す。次にOTE/SnO2 の電極を用いて,電析により目的とするOTE/SnO2/(H2PCnMPC+C60)m (図 10)及びその参照系を作製した 38 。その光電気化学特性については,NaI 0.5 M 及び I 2 0.01 M のアセトニトリル溶液を電解液とした湿式二極系で検討した 38。H2PC11MPC における ポルフィリンの濃度一定下における光電流発生のアクションスペクトルでは,C60の添加濃度が 増すにつれて劇的な IPCE 値の増加が観測された 38。このことはポルフィリンから C60 への効果 的な電子移動が起こっていることを示す。さらにポルフィリンアルカンチオールの鎖長効果に ついて検討した結果,アルカンチオールの鎖長の増加とともに IPCE 値の向上が確認された 38。 これは鎖長が長いほどポルフィリン環の間にフラーレンを取り込みやすくなるため,ポルフィ リンから C60 への電子移動が効率良く起こることを示す。H2PC15MPC ではちょうどポルフィリ ン環の間に C 6 0 を取り込んでπ錯体を形成するのに適当な面間隔が得られる。O T E / S n O 2 / (H2PC15MPC+C60)m の場合,11.2 mW cm-2 の光源下,フィルファクター(ff) = 0.43,解放電圧 (Voc) = 380 mV,短絡電流(Isc) = 1.0 mA cm-2 となり,エネルギー変換効率 (η)は 1.5 %に 達した 38。同様の測定条件で比較した OTE/SnO2/(H2P−ref+C60)m における変換効率(0.035 %) と比べると,ポルフィリン金コロイドを用いることにより,約 45 倍のエネルギー変換効率の向 上を達成することができた38。このような多層膜においては,ポルフィリンとフラーレンの効果 的な集合化により高効率な電荷分離特性および輸送特性が得られ,そのため高いエネルギー変 換特性が達成できたと考えられる。 11 2007.1 number 133 図10.ポルフィリンアルカンチオール 修飾金微粒子とフラーレンとの 逐次自己組織化超分子集合体を 用いた太陽電池 38 7. おわりに 以上,自然界の光合成の機能を分子レベルで再現することを目標に研究を行い,共有結合と 非共有結合を利用した光電荷分離状態の長寿命化と応用について概観した。今後の展望として は,自然界の光合成反応中心の電荷分離過程だけでなく,光合成の電子移動システム全体を分 子レベルで再現・制御できる超分子複合系電子移動システムが構築できることが期待される。こ のような超分子複合系の電子移動化学はこれまで全く未開拓の分野であり,超分子複合系電子 移動システムを構築する学問的意義は極めて大きい。 最後に,本寄稿論文で紹介した研究成果は,文献に記載した国の内外の多数の共同研究者, 研究員,学生の献身的な努力によるものであり,この場を借りて深謝する。 参考文献 1) a) Fukuzumi, S.; 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Soc. 2001, 123, 8459. 22) Fukuzumi, S.; Kotani, H.; Ohkubo, K.; Ogo, S.; Tkachenko, N. V.; Lemmetyinen, H. J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 1600. 23) Harriman, A. Angew. Chem., Int. Ed. 2004, 43, 4985. 24) a) Benniston, A. C.; Harriman, A.; Li, P.; Rostron, J. P.; Verhoeven, J. W. Chem. Commun. 2005, 2701. (b) Benniston, A. C.; Harriman, A.; Li, P.; Rostron, J. P.; van Ramesdonk, H. J.; Groeneveld, M. M.; Zhang, H.; Verhoeven, J. W. J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 16054. 25) Ohkubo, K; Kotani, H.; Fukuzumi, S. Chem. Commun. 2005, 4520. 26) Tanaka, M.; Ohkubo, K.; Gros, C. P.; Guilard, R.; Fukuzumi, S. J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, 14625. 27) Kotani, H.; Ohkubo, K.; Fukuzumi, S. J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 15999. 28) Ohkubo, K.; Nanjo, T.; Fukuzumi, S. Org. Lett. 2005, 7, 4265. 29) Ohkubo, K.; Nanjo, T.; Fukuzumi, S. Catalysis Today 2006, 117, 356. 30) Ohkubo, K.; Iwata, R.; Kojima, T. Fukuzumi, S. Org. Lett. in press. 31) Ohkubo, K.; Nanjo, T.; Fukuzumi, S. Bull. Chem. Soc. Jpn. 2006, 79, 1489. 32) Ohkubo, K.; Yukimoto, K.; Fukuzumi, S. Chem. Commun. 2006, 2504. 33) Kotani, H.; Ohkubo, K.; Takai, Y.; Fukuzumi, S. J. Phys. Chem. B 2006, in press. 34) Kotani, H.; Ono, T.; Ohkubo. K.; Fukuzumi, S. Phys. Chem. Chem. Phys. 2006, in press. 35) Hasobe, T.; Hattori, S.; Kotani, H.; Ohkubo, K.; Hosomizu, K.; Imahori, H.; Kamat, P. V.; Fukuzumi, S. Org. Lett. 2004, 6, 3103. 36) Hasobe, T.; Hattori, S. Kamat, P. V.; Wada, Y.; Fukuzumi, S. J. Mater. Chem. 2005, 15, 372. 37) Hasobe, T.; Imahori, H.; Kamat, P. V.; Fukuzumi, S. J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 14962. 38) Hasobe, T.; Imahori, H.; Kamat, P. V.; Ahn, T. K.; Kim, D.; Hanada, T.; Hirakawa, T.; Fukuzumi, S. J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 1216. (Received Nov. 2006) 執筆者紹介 福住 俊一(Shunichi Fukuzumi) 大阪大学 大学院工学研究科 教授 [ご経歴] 1978年 東京工業大学大学院理工学研究科博士課程修了。1978-1981年インデイアナ 大学博士研究員,1981 年 大阪大学工学部助手,1992 年 大阪大学工学部助教授,1994 年 大阪 大学工学部教授。工学博士。 2005 年 日本化学会賞,大阪大学教育研究功績賞,2006 年 タンペレ工科大学名誉博士号受賞。 [ご専門] 電子移動化学 TCI 関連製品 R3 4 R2 R5 R1 R N CH3 ClO4 R1,R3,R5=Me, R2,R4=H 9-Mesityl-10-methylacridinium Perchlorate R1 ∼ 5=H 10-Methyl-9-phenylacridinium Perchlorate R1,R4=Me, R2,R3,R5=H 9-(2,5-Dimethylphenyl)-10-methylacridinium Perchlorate R1,R5=Me, R2,R3,R4=H 9-(2,6-Dimethylphenyl)-10-methylacridinium Perchlorate 5g, 1g [M1774] 5g, 1g [M1775] 5g, 1g [D3428] 5g, 1g [D3429] 13 2007.1 number 133 3456789012345678901234567890121234567890123456789012345678901212345678901234567890123456789012123456789012345678901234567890121234567890 3456789012345678901234567890121234567890123456789012345678901212345678901234567890123456789012123456789012345678901234567890121234567890 3456789012345678901234567890121234567890123456789012345678901212345678901234567890123456789012123456789012345678901234567890121234567890 3456789012345678901234567890121234567890123456789012345678901212345678901234567890123456789012123456789012345678901234567890121234567890 3456789012345678901234567890121234567890123456789012345678901212345678901234567890123456789012123456789012345678901234567890121234567890 化学よもやま話 ◎第 3 話 「S」に架ける橋 北海道大学 大学院農学研究院 川端 潤 前回は窒素同士がつながった種々の官能基の話をしました。窒素つながり分子については, ベンゼンの炭素を順次窒素に置き換えていくとどうなるかなど他にも興味深い話があるのです が,それはまた別の機会として今回はイオウの話です。 イオウはおもしろい原子で,ポリスルフィドという-S-S-S-S- が連なった構造をつくることが できます。イオウ分子S(1) もSが8個つながった環状構造です。シイタケの香り成分lenthionine 8 (2)は炭素 2 個を含む 7 員環で,これは有機化合物か否かなどと悩んでしまいそうですね。S-S 結合は,システイン残基同士の結合としてタンパク質の構造保持やグルタチオンの酸化還元 など,生化学的に大変重要な機能をもっていることはご承知のとおりです。 S S S S S S S S S S S S S 1 2 この安定なS-S結合を形成する特性のためにイオウの酸素酸には多数の分子種があり,一昔前 の岩波理化学辞典には H x S y O z 型の酸素酸として 10 以上の化合物の項目がありました。その 多くはS-S結合を分子内にもつものであり,これは他の元素の追随を許さないところです。それ らの塩類には古くから還元剤としてよく用いられているハイポ(チオ硫酸ナトリウム Na2S2O3, 3),ハイドロサルファイトナトリウム(Na2S2O4,4),メタ重亜硫酸ナトリウム(Na2S2O5,5) などがあります。でもこのような慣用名からはどんな構造なのか想像がつきませんね。この うちハイドロサルファイトナトリウムはキノンの還元剤として筆者も実験に時々使うことが ありますが,論文に記載するときにはきちんと亜二チオン酸ナトリウムと書きます。 NaO S NaO S O O NaO S O O NaO S O NaO S O S S NaO O HO S O n-2 HO S O O 3 4 5 6 HO S O O HO S O 7 このnチオン酸,第三版以前の理化学辞典では二チオン酸から六チオン酸まで 5 種類の酸 すべての項目がありなかなか壮観でした。現行の版ではポリチオン酸の項目ひとつで片づけら れているのが残念です。これらは H2SnO6 型の分子(6)で,すべてのイオウが分子内 S-S 結合 でつながっています。現在では S20 くらいまで存在することがわかっているそうです。まさに イオウの面目躍如というところでしょう。ちなみに二チオン酸は 19 世紀前半にゲイ・リュサッ クが合成しているそうですから歴史的にも相当のものです。旧版辞典によればこれらの酸は水 溶液としてだけ知られ,ヴァッケンローダー液に含まれるとあります。このヴァッケンローダー 液というおどろおどろしい名前の液は,二酸化イオウの飽和溶液に 0 ℃で硫化水素を通じたも ので,コロイド状イオウを含む複雑な混合物です。亜硫酸が硫化水素で還元されてできる種々 の酸が含まれるのだろうということは容易に想像できます。 3456789012345678901234567890121234567890123456789012345678901212345678901234567890123456789012123456789012345678901234567890121234567890 3456789012345678901234567890121234567890123456789012345678901212345678901234567890123456789012123456789012345678901234567890121234567890 3456789012345678901234567890121234567890123456789012345678901212345678901234567890123456789012123456789012345678901234567890121234567890 3456789012345678901234567890121234567890123456789012345678901212345678901234567890123456789012123456789012345678901234567890121234567890 3456789012345678901234567890121234567890123456789012345678901212345678901234567890123456789012123456789012345678901234567890121234567890 3456789012345678901234567890121234567890123456789012345678901212345678901234567890123456789012123456789012345678901234567890121234567890 14 2007.1 number 133 012345678901234567890121234567890123456789012345678901212345678901234567890123456789012123456789012345678901234567890121234567890123456 012345678901234567890121234567890123456789012345678901212345678901234567890123456789012123456789012345678901234567890121234567890123456 012345678901234567890121234567890123456789012345678901212345678901234567890123456789012123456789012345678901234567890121234567890123456 012345678901234567890121234567890123456789012345678901212345678901234567890123456789012123456789012345678901234567890121234567890123456 012345678901234567890121234567890123456789012345678901212345678901234567890123456789012123456789012345678901234567890121234567890123456 一方,メタ重亜硫酸イオンは酸化度の異なるイオウが結合したおもしろい構造をしています。 重亜硫酸はクロム酸と重クロム酸の関係と同様に亜硫酸 2 個が脱水縮合した分子(7)に相当し ますが,実際にはその構造異性体である S-S 結合型として存在しているものと考えられます。 それでメタを冠して区別しているわけですね。これもS-S結合の安定性の一例といえるかもしれ ません。正式名では重クロム酸が二クロム酸であるように二亜硫酸塩とよばれます(メタは いらないのかな) 。 ところで単体イオウは抗菌性をもっています。含硫化合物を含むアブラナ科植物などには, イオウそのものが成分としてはいっているものがあり,抗菌性を指標に成分検索をやったり したときに有機溶媒可溶性の低極性成分として単離されることがあります。筆者が昔いた研究 室でも,白色粉末を単離してマススペクトルをとってみると分子量 256 などというもっとも らしいイオンが出るので,勇躍 NMR を測定してみるとあれれ何にもピークが出ない,という 笑い話がありました。 さて,varacin(8)のような 1,2,3,4,5- ペンタチエピン環をもつ海洋天然物がいくつかあり, 抗腫瘍性や抗菌性を示します。一見,なんでこんな構造のものが生理活性を示すのだろうと 思いますね。イオウ分子の抗菌性と何か関係があるのでしょうか。関連化合物の活性を調べて みると,8 のメトキシ基を除去した化合物は高い細胞毒性を保持していますが,側鎖のアミノ エチル基を除去した化合物では,活性が 1/20 以下に低下することがわかりました。つまり, 活性発現にアミノエチル側鎖が重要な役割を示していることになります。また,この末端 アミノ基を三級アミンにすると活性が大きく低下することから,ここの窒素のローンペアに よる求核性が反応の鍵であることが予想されます。 OMe OMe S S S S S MeO MeO OMe S S S S MeO S S S NH NH + S3 NH2 8 活性発現様式は次のように考えられています 1)。まず側鎖アミノ基がちょうど 6 員環を形成 する位置のイオウ原子を求核攻撃して,その位置で環の S-S 結合が開裂し,テトラスルフィド アニオンが生成します。そこから次いで S3 分子が脱離して安定なフェニルチオラートアニオン になり,これが DNA 切断などの生理活性発現の本体となります。側鎖アミノエチル基の欠けて いる分子ではこのような分子内活性化が起きないため,細胞毒性が低下しているわけですね。 うまくできているものです。まさに自動発射装置をそなえた機能分子といっていいでしょう。 同様にしてイオウ分子 S8 もアミンなどの求核剤によって開環することが確かめられています。 そのあたりにイオウの抗菌性の理由があるのかもしれません。 1) E. M. Brzostowska and A. Greer, J. Am. Chem. Soc., 2003, 125, 396-404. 執筆者紹介 川端 潤 (Jun Kawabata) 北海道大学 大学院農学研究院 教授 [ご経歴] 1980 年 北海道大学大学院農学研究科農芸化学専攻博士後期課程中退,1980 年 同農 学部助手,1985-1987 年 オーストラリア国立大化学科博士研究員,1992 年 北海道大学農学部助 教授,1999 年 同農学研究科助教授,2002 年 同教授,2006 年 同農学研究院教授,現在に至る。 農学博士。1992 年 日本農芸化学奨励賞受賞。 「おもしろ有機化学ワールド」webmaster http://www.geocities.jp/junk2515/ [ご専門] 食品機能化学,天然物化学 012345678901234567890121234567890123456789012345678901212345678901234567890123456789012123456789012345678901234567890121234567890123456 012345678901234567890121234567890123456789012345678901212345678901234567890123456789012123456789012345678901234567890121234567890123456 012345678901234567890121234567890123456789012345678901212345678901234567890123456789012123456789012345678901234567890121234567890123456 012345678901234567890121234567890123456789012345678901212345678901234567890123456789012123456789012345678901234567890121234567890123456 012345678901234567890121234567890123456789012345678901212345678901234567890123456789012123456789012345678901234567890121234567890123456 012345678901234567890121234567890123456789012345678901212345678901234567890123456789012123456789012345678901234567890121234567890123456 15 2007.1 number 133 新しい光学純度決定試薬 / e.e. Determination of Wide Range of Chiral Compounds C2184 Chirabite-AR [(R)-2,2'-[5-Nitroisophthalamidobis(2,6-pyridylenecarbamoylmethoxy)]-1,1'-binaphthyl] (1) 100mg 23,000 円 HN O N O HN O NO2 O HN N O O HN 1 キラバイト -AR(1)は依馬らにより開発された大環状化合物で,汎用性の高いキラルシフト 試薬です。1 の空孔は水素結合ドナー部位と水素結合アクセプター部位が巧みな組合せで配置 されており,その空孔内に幅広い化合物をゲスト分子として取り込みます。そして,取り込ま れたゲスト分子は,不斉源である BINOL の強い磁気異方性効果を受け,エナンチオマー間で そのケミカルシフト値が大きく異なります。 Chart 1. HO Chart 2. S CO2H O Chirabite-AR (7 mg) in CDCl3 at 22 °C 近年,高磁場 NMR が普及しつつあり,従来から用いられている Eu 錯体ではブロードニング が生じ,満足の行く NMR スペクトルを得ることができません。1 はブロードニングの原因とな る金属を含んでいないため,高磁場 NMR,低磁場 NMR のいずれにも利用でき,カルボン酸,ラ クトン,オキサゾリジノン,アルコール,スルホキシド,スルホキシイミン,イソシアナート, エポキシなどの幅広い化合物の光学純度が測定できます。また,その測定法は極めて簡便で, NMR試料管中の測定対象試料を溶解した重クロロホルムに1を添加するだけでエナンチオマー 間のケミカルシフト値が異なるスペクトルを得ることができます。 1 は利用しやすいこと,適応化合物が広範なこと,普及型 NMR から高磁場 NMR まで利用で きることなど,従来のキラルシフト試薬を凌駕する性能を有します。 文 献 16 Versatile and practical chiral shift reagent with hydrogen-bond donor / acceptor sites in a macrocyclic cavity T. Ema, D. Tanida, T. Sakai, Org. Lett., 8, 3773 (2006). 2007.1 number 133 有用なエステル脱水縮合触媒 / Active Dehydrative Ester Condensation Catalyst D3293 Dimesitylammonium Pentafluorobenzenesulfonate F (1) 1g 9,800 円 F O NH2 O S F O F 2 CH3OCH2 O OH C OH + CH3(CH2)4 CH O F CH3OCH2 1 (1 mol%) C OCH (CH2)4CH3 (CH2)4CH3 (CH2)4CH3 heptane, 80 °C, 4 h Y. 95 % 近年,石原らは嵩高いジアリールアミンと弱酸のペンタフルオロベンゼンスルホン酸(pKa = 11.07,重酢酸中)から調製されるアンモニウム塩 1 が脱水縮合触媒として有用であることを見出 しました。1 を用いる脱水縮合反応は,副生する水に反応が阻害されることなく,等モルのカルボ ン酸とアルコールから対応するエステルを収率良く得ることができます。 これはアンモニウムカチ オン,カウンターアニオン両方の嵩高さによる疎水効果に起因するものと推測されています。1 は 嵩高いアルコールや酸に不安定なアルコールとの反応にも適用可能です。また,より反応性の高い 第一級アルコールとは,無溶媒で室温下,反応が進行することが報告されています。 文 献 Bulky diarylammonium arenesulfonate as active esterification catalyst K. Ishihara, S. Nakagawa, A. Sakakura, J. Am. Chem. Soc., 127, 4168 (2005). A. Sakakura, S. Nakagawa, K. Ishihara, Tetrahedron, 62, 422 (2006). 求電子的アミノ化剤前駆体 / Precursor of Electrophilic C-Amination Agent B2857 tert-Butyl [Bis(4-methoxyphenyl)phosphinyloxy]carbamate (1) 1g 20,900 円 O O MeO TFA P Ph OMe MeO P ONHBoc ONH2 1 2 R i) Base, THF, -78 °C ii) 2 , -78 °C to 23 °C iii) Ac2O, Et3N Ph OMe R NHAc R= CN, CO Et etc. 2 O(ジフェニルホスフィニル) ヒドロキシルアミンは, 求電子的アミノ化剤として金属エノラー トなどと反応し,アミノ基を導入することができます。近年,Vedejs らはフェニル基の4位に メトキシ基を導入したヒドロキシルアミン 2 が,より活性な求電子的アミノ化剤であることを 報告しています。弊社では取り扱いの容易な前駆体 1 を製品化しました。1 は TFA で処理するこ とで,容易に 2 を生成します。 文 献 Electrophilic C-amination reagent J. A. Smulik, E. Vedejs, Org. Lett., 5, 4187 (2003). 関連製品 A1441 M1182 H0530 Acetoxime O-(2,4,6-Trimethylphenylsulfonate) 25g 29,500 円 5g 9,500 円 Ethyl O-Mesitylsulfonylacetohydroxamate 5g 15,900 円 Hydroxylamine-O-sulfonic Acid 500g 48,600 円 25g 7,000 円 17 2007.1 number 133 不斉ハロゲン化触媒 / Organocatalytic Asymmetric Halogenation (2R,5R)-2,5-Diphenylpyrrolidine (1a) (2S,5S)-2,5-Diphenylpyrrolidine (1b) D3185 D3186 O O Ph t N H t Bu Me Bu Me Me NaBH4 H 1:1 CH2Cl2-pentane, PhCO2H (20 mol%), H2O (200 mol%) Me Br O 1a (20 mol%) + H Ph 100mg 39,600 円 100mg 59,200 円 Br Me HO Br Me Br Y. 87% (96% e.e.) 1はアルデヒド,ケトン類のα位を立体選択的にハロゲン化する際の触媒として非常に有用な 試薬です。Jørgensen らは,20 mol%の 1a の存在下,3- メチルブタナールと臭素化剤を反応させ, (S)-2-ブロモ-3-メチルブタナールとし,これを還元することにより,収率87%(96%e.e.)で(S)2-ブロモ-3-メチルブタノールを単離しています。 文 献 1) Organocatalytic asymmetric α-halogenation of aldehydes and ketones a) S. Bertelsen, N. Halland, S. Bachmann, M. Marigo, A. Braunton, K. A. Jørgensen, Chem. Commun., 2005, 4821. b) N. Halland, A. Braunton, S. Bachmann, M. Marigo, K. A. Jørgensen, J. Am. Chem. Soc., 126, 4790 (2004). 希少糖 / Rare Sugars P1699 A1982 T1398 A1488 D-Psicose Allitol D-Talitol D-(+)-Allose (1) (2) (3) (4) CH2OH C O 1g 38,500 円 CH2OH 100mg 7,600 円 100mg 9,500 円 100mg 13,800 円 1g 13,600 円 CH O CH2OH H OH HO H H OH OH H OH H OH HO H H H OH H OH HO H H OH H OH H OH H OH H OH CH2OH 1 CH2OH 2 CH2OH 3 CH2OH 4 希少糖は“自然界に微量にしか存在しない単糖”の総称で,その入手の困難さから応用研究 がほとんど行われていませんでした。近年,何森らにより希少糖の一つである D-プシコース(1) の効率的酵素合成法が開発され,1 の研究が盛んに行われるようになりました。例えば,エネル ギー価がほぼゼロであること,体脂肪蓄積を抑制すること,血糖値上昇を抑制することなどが 報告されており,医薬品,機能性食品,化粧品などへの応用が期待されています。また,1 は 各種希少糖の原料としても使用することができる有用な化合物です。 文 献 18 Bioproduction and application of rare sugars 何森 健 , バイオインダストリー , 19, 34 (2002). T. B. Granström, G. Takata, M. Tokuda, K. Izumori, J. Biosci. Bioeng., 97, 89 (2004). 松尾達博 , 日本栄養・食糧学会誌 , 59, 119 (2006). 2007.1 number 133 長鎖末端不飽和アルキルハライド / Long Chain Unsaturated Alkyl Halides B2849 B2816 10-Bromo-1-decene (1a) 18-Bromo-1-octadecene (1b) 5g 5g 20,100 円 61,000 円 1g 7,800 円 1g 17,700 円 OH CH3 CH2 CH3 CH3 1) O CH(CH2)8Br 1a CHO CH3 Mg, Et2O CH3 CH3 CH2 CH3 2 末端不飽和アルキルハライドはα,ω-二官能性ビルディングブロックとして多方面で利用され ています。特に 1a や 1b のような長鎖のものは大環状化合物の出発原料として多用されてい ます。例えば,1a は香料として有用なムスコン 2 の原料として使用されています。 文 献 1) Ring closing metathesis guided synthesis of (R)-(-)-muscone V. P. Kamat, H. Hagiwara, T. Suzuki, M. Ando, J. Chem. Soc., Perkin Trans. 1, 1998, 2253. 2) C-Alkylation using unsaturated alkyl halides a) E. P. Balskus, J. Méndez-Andino, R. M. Arbit, L. A. Paquette, J. Org. Chem., 66, 6695 (2001). b) M.-C. Roux, R. Paugam, G. Rousseau, J. Org. Chem., 66, 4304 (2001). 関連製品 B0920 B1474 B2106 4-Bromo-1-butene 5-Bromo-1-pentene 6-Bromo-1-hexene 250g 68,000 円 25g 11,900 円 10g 6,900 円 25g 18,200 円 5g 6,000 円 25g 39,900 円 5g 12,000 円 ジニトリル&トリニトリル / Dinitriles & Trinitriles NC CN CN NC S NC CN S Glutaronitrile Sebaconitrile 250g 32,000 円 25g 6,300 円 500ml 47,900 円 25ml 5,900 円 3,3'-(Ethylenedithio)dipropionitrile 1g 8,200 円 [G0072] [S0029] [E0673] CN CN CN NC NC CN NC CN CN 1,3,5-Cyclohexanetricarbonitrile 1,2,3-Propanetricarbonitrile 1,3,5-Pentanetricarbonitrile 1g 20,100 円 5g 30,000 円 1g 10,100 円 500mg 50,000 円 [C1967] [P1630] [P1631] 19 TOKYO CHEMICAL INDUSTRY CO., LTD.