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飽和炭化水素の生成熱とトポロジカルインデックス
Title Author(s) Citation Issue Date 飽和炭化水素の生成熱とトポロジカルインデックス 鳴海, 英之; 細矢, 治夫; 片山, 明石 北海道大學工學部研究報告 = Bulletin of the Faculty of Engineering, Hokkaido University, 103: 19-25 1981-02-27 DOI Doc URL http://hdl.handle.net/2115/41670 Right Type bulletin (article) Additional Information File Information 103_19-26.pdf Instructions for use Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP 北海道大学二[1学都研究報借 Bulletin of the Faculty o£ Engineering, 第103号 (}1召禾1156向三) Hoklgaido University, No. !03 (1981) 飽和炭化水素の生成熱とトポロジカルィンデックス 1鳥海英之“L 細矢治夫’:〈一 .:“ 片山明石粥繰 (【1召禾【155脅三9Jヨ 30 日受Jll!) Heat of Formation of Saturated Hydrocarbons and Topologieal lndex Hideyuki NARuMI, Haruo HosoyA and Meiseki KATAyAMA (Received September 3e, 198e) Abstract A linear relationship of the heat of formation of linear and branched saturated hydro− carbons with the topological index Z was found and cliscussed. 1. 緒 言 不飽和炭化水索(π系)の骨格(トポロジー)と,全π電子エネルギーの関係に.ついては,多 くの研究…黄によって充分論じられてきた1)。 然し,飽和炭化水素(a系)の骨格と全電子エネルギーについては,ほとんど論じられた事が ないQ 炭素骨格法は,o系を扱う最も簡単なLCAO法であるが, GC結合間の共鳴積分と,同一 炭素原子の異った混成軌道聞の共鳴積分を別なものとして扱う2)ので,Httcl〈el永年方程式を行 列式を用いて表わすと,π系のように行列要素が0と1のみにはならない。 (1−1)は,ブタジエソ(図1)のπ電子系の永年方程式であり,(!−2)は,プPパン(図2)の σ電子系の永年方程式である。 ;: ,1, OO !x!O Olxl =e (!−1) OO 1. x 、o(?cg(こ)。 o EO E 1 3 図1 ブタジエンのπ軌道 ee @北海道大学理学部化学第2学科 轍 お茶の水女子大学理学部化学科 eeSC’ee原子工学科 放射体応用講座 1 4 図2 プ裏・パソの炭素骨格法による軌道 2e 2 鳴海英之・細矢治夫・片山明石 x!OO ixrl Orx! (1−2) =o OOI .xt ここにrは,同一原子の異った混成軌道間の共鳴積分である。一般に0<r<1の関係がある ので,σ系は,従来のグラフ理論的方法では扱い難く,新しい方法が望まれるのである。 さて,細矢は,飽和炭化水素の構造異性体を扱う量として,Topological lndex Zを提案し3), 沸点4)やエントロピー5)との関連について論じた。 Zは,同一炭素数からなる構造異性体の,枝分かれによる熱力学的量を反映するので生成熱に ついても関連があり,生成熱に対応する全電子エネルギーにも何らかの関係があると想定される。 それ故,第2章で生成熱dHと,トポロジカルインデックスZとの相関々係を調べ,最後に 今後の見通しについて述べる。 2.生成熱とトポロジカルインデックスの関係 表1に生成熱6)遜∫と,飽和炭化水素の炭素原子骨格グラフのトポロジカルインデックスZ3) 及びZ’を示す。Nは炭素原子数である(なお∠Eは気体における生成熱である)。 表1 生成熱6)dff(kJ/mol)とトポPtジカルインデックス3>Z及びZ’ N ”i””’ ・一ゴH 炭 化 水 素 秩h一]一一…g 一’IJ …勾画.・・ Z 174蕊㎜ ・ log Z Oi OOOOO 1 log Z’ Z, P. . .1......9,:,nv6gsg O. 30103 17 1. 2304 3 O. 477!2 56 !. 7481 84. 67 2 ’1”””16,ll,.一,’ 3 フ。 μ パ ソ 4 ブ タ ソ 124. 7 5 e. 69897 !85 ?”. 2671 2−Meワ。ロバン 131. 6 4 0. 60206 176 2. 2455 5 ペ ソ タ ソ !46. 4 8 O. 90309 61! 2. 7860 2−Me一ブタン 154, 5 7 0. 84509 584 2. 7664 2,2−di Me一プμパン 166. 0 5 0, 69. 897 512 2. 7092 ヘ キ サ ソ 2−Me一ペンタソ 167. 2 13 1. 11394 2018 3. 3049 174. 3 1i 1. e4139 1928 3. 2851 !2 ’1.079!8 1937 3. 2871 0. 95424 1712 3. 2335 6 7 3−Me一ペンタソ 171. 6 2,2−di Me一ブタン !85. 6 2,3−di Me一ブタン !77. 8 10 1. 00000 !856 3. 2685 ヘ プ タ ソ 187. 8 21 1. 3222 6665 3. 8238 2−Me一ヘキサソ 195. 0 18 1. 2552 6368 3. 8040 3−Me一ヘキサソ 192.3 !9 1. 2787 6395 3, 8058 3−Et一ペソタン 189. . 7 20 i. 30!0 3. 8076 2,2−di Me一ペソタン 206. 2 14 1.146ユ 6422 5648 2,3−di Me一ペソタソ 199. 2 17 1. 2304 2,4−di Me一ペソタン 202. ! 15 !, !760 6152 6080 3,3−di Meペンタン 201. 5 16 1. 2041 5720 3. 7573 2,2,3−tri Me一ブタン 204. 8 13 1. 1139 5504 3. 7406 9. 3. 7518 3. 7890 3. 7839 3 21 飽和炭化水素の生成熱とトポμジカルインデックス N 一dH Z log Z オ ク タ ソ 2−Me一ヘプタン 208. 4 34 !. 5314 22013 4. 3426 212. 6 29. 1. 4623 21e32 4. 3228 3−Me一ヘプタソ 212. 6 31 1. 4913 21122 4. 3247 4−Me一ヘプタソ 212. 1 30 1. 4771 21113 4. 3245 3−Et一ヘキサソ LtlO. 9 32 1. 5051 2, 2一(1iMe一ヘキサン 224. 7 23 1. 3617 21203 18656 2, 3−di Me一ヘキサン 213. 9. 27 1. 4313 20312 4. 3077 2,4一〔li Me一ヘキサソ 219. . 4 26 1. 4149 20168 4. 3046 2,5−di Me一ヘキサソ 222. 6 25 1. 3979 20096 4. 3031 3,3−di Me一ヘキサソ 220. 1 25 1. 3979 !8872 4. 2758 3,をdi Me一ヘキサソ 213, 0 29 1. 4623 20393 4. 3094 2−Me−3・Et一ペソタソ 211. P− 28 1. 4471 2()384 4. 3092 3−Me−3−Et一ペソタソ 215. 0 28 1. 4471 19097 4. 2809 2,2,3−tri Me一ペンタソ 220. 1 2P“ 1. 3424 18224 4. 2606 2,2,4−tr三Me一ペソタン 2L4. 1 ]9. 1. 2787 17792 4. 2502 2,3,:3−tri Me一ペソタソ Lt 16, 4 23 L36ユ7 18368 4. 264{} 217. 4 Lt4 1. 3802 19. 520 zl, 29. Oti 225. 9 17 1. 23(}4 16640 4. 2211 炭化水素 8 2,3,をtri Merペソタソ 2,2,3, 3−tetra Me一ブタン Z’ 1og Zt 4. 3263 4. 2708 Meはメチル, Etはエチルを意味する。 ここにトポμジヵルイソデックス(Topological Index)とは,次のようにして定義された指数 である。 1>個の点(主に炭素原子)からなるグラフ又は構造Gを考える時,非隣接数P(G,ん)とは グラフGのK個の結合をもってきた時,それらのうちどの結合も互いに連結しないような選び 方の数であるが,トポロジカルイソデックスは,これを用いて定義される。 即ち ノナじ Z湿ΣP(G,le) (2−D ktt±0 と定める。ここに,mはグラフGについてのleの最大数である。 P(G,0)=・1と定義する。又P(G,!)二結合の数である。 例えば,図3の2一メチルブタンについては,図4のグラフ1が対応し,そのFポロジヵルイ ソデックスはZ= 7である。この場合,P(G,!)=4, P(G,2)=2で, Z==1+4+2である。 水素原子も炭素原子と同等に扱ったグラフについてのZを,ここではZ’で表わす。図5の グラフIIについては, Z’ == 584である。 H HCH H ”fiXx...g /費\\9, 図4 2一メチルブタンの炭素 轟 H 2一メチルブタン 原子骨格のグラフ(グラフ1) Z==7 22 4 鳴海英之・細矢治夫・JOLI明石 図52一メチルブタンの水素原子及び炭素原子骨格のグラフ(グラフII)Zt・・584 2h’{) ...Nl(kパln∩1} 颪 t三tiい 2,10 0 0 :?.L>O o o estr一一一N−e一 S一一. Xo QN−es..Q :)oo −xo. x ..\o.・一、N漏丁 ユSl〕 o ‘X,.5 1’flO ’XQ XN・一fl 1・1( 12( oNマ3 ]1:)C 一Z oN’: ,st i’ 7 !) N,1 Il ]il lt・) .1 7・ IY 21 ![S L, ;’} L?7 2V 3] llil 図6−AHとZの関係 表2 経験式一dH=A+BZ,一dH=A’+B’Ztの係数及び相関係数 ρ,〆;1>,nは炭素数及び異性体の数 (2>=4,5の値については数値が少く統計的値とはいえない) 酬n 4i2 s. 1 ! B p At 159. 20 一6. 9000 一1 2. 66. 53 198. 44 −6. 4214 一 O. 99. 592 263, 79 1“… 6 5 222. 60 一4. 3000 一〇, 97970 288. 51 7 9 238. 30 −2. 3933 −O. 98101 292. 44 8 !8 244. 89 一 1. 0757 −O. 90044 278. 53 B, f)’ 一〇.76666 1 一1 −O.190e9 i 一〇.98772 一〇. Osgsgs 1 −O.015529 ii −o. 0031356 1 一〇. 99. .7.32 −O. 9328/ 一〇. 8361{ 図5のようなグラフを考える理由は,ひCとC−Hの結合エネルギーがほぼ等しいからであ る。つまり,C−C結合とC−H結合を同等に考えている事になる。 図6には,一∠HとZの関係を図示してある。 表2に,一AHとZ又は一dHとZ’の間の関係を線型であるとして,それぞれ 一dH=A十BZ (L−L) 5 23 飽和炭化水素の生成熱とトポμジカルイソデックス 1二}5e 一 一 xll’1 {kJ/mol ) :1’O() L,r)o o N’・W吊8 LI M) .x’ .一r \ N罵6 XN T.5 三50 XQxxQ. , .一・・ 4 ON訟3 ioo oN ’2 N”1 A .: ,c} o.s () 1.O 1.tr, . lc}kv Z 図7 一 A.lll’とlogr Zの関係 表3 経験式一dH= C+D log Z,一dH=・Ct+1)’1Qg Z’の係数及び 相関係数Pl,ρ〆;ノ〉, nは炭素数及び異性体の数 (N・・4,5の値については,数値が少く統計的値とはいえない) NIn c L. D 4 2 174. 46 一71. 200 5 3 231. 21 −92. 662 ’i 一 O. 98958..1 一J,“ DJ5g,iil,6U・”’ 6 5 287. 92 7 9 309. 32 一 9. 1. 164 8 18 302. 46 一 60. 738 Cf Pl 一 108. 534 P D, ,Olt 848. 9. 1 一319. 44 −1 824. 86 一 243. 01 −O. 98461 101!. 02 一 255. 12 一〇. 99046 ーO. 97029 1009. 43 −214. 48 −O. 92681 −O. 89e43 813. 41 一 138. 97 一 O. 83234 ミ 一ALIr == At十BtZ, (2−3) と仮定して最小自乗法によって求めた係数を与えてある。!>は炭素数,nは異性体の数,ρ,ρ’は 相関係数である*(それぞれの共分散を附録表4に挙げた)。 K− Q>==4又は5については,nが小さいのでρ,ρ’は形式的な億で統計的値とはいえない。 24 鳴海英之・縞矢治夫・ヌれLI明石 6 図8 各混成軌道間の相互作用を同等に扱った場合のグラフ (黒丸●は,軌道を意味する。2一メチルブタンの例) N芯6については,Z’の方が相関性が喪いが, N瓢7, N=8については, Zを用いた方が相 関性が良い。 図7に,一dHとlog Zの関係を図示する。 表3には,一liHと10g Zの関係が線型であるとして, 一dH=C十Dlog Z (2−4) とおいた場合の値を示してある。ρ1は糊閣係数である。 叉,表3には, 一liff=C’十D’ log Z’ (Lrm5) とした場合の係数C’,D’,相関係数ρ1も示してある(附録表5を見よ)。 表3でもやはり,N=6のときは一AHとlog Z’の方が相関が良いが,!>=7, i>=8のとき には,一dllと10g Zの方が相関が良い。 π系では,xネルギーEが10gZに線型である1)がσ系ではどうであろうか。 dHと 10gZがなぜ表3にみられるように,よい精度で線型になるかの説明は今後に残され た問題である。Htickel理論7,8)にもとずいた説明を検討中であるが,まだ成功していない。 dHとlog Ztについては, C−C結合とC−H結合を図5に見られるように,同等にグラフで 扱った為と考えられる。 C−C結舎とC−ff結合を同等に扱うやり方を,軌道同志の相互作用まで含めて考えると,グラ フは図8になる。黒丸は軌道を意味する。このやり方は,等価結合軌道モデルとして昔より知ら れたものであるが,イオン化エネルギーについては,意外に良い結果を与える事が知られてい る9)。 C−C結合,C−H結合を同じ様に扱い,軌道同志の相互作用まで扱うやり方の,グラフ理論的 取扱いも今後の課題となろう。 謝 辞 著老の一人(H.N.).は,本研究を行った際,研究施設を使わせていただき,議論の相手になっ て下さった事について,北海道大学理学部の大野公男教授に,叉,相談相手になって下さった事 について,同学部の佐々木不可【.1:助教授,相原惇一博士に感謝致します。 文 !A)例え一ば,H. Hosoya et al.: a) Theoret. Chim. Acta, 38 (1975), p. 37. b) Bull. Chem. Soc. Jpn., 48 (!975), p. 3512. c) 」. Chem. Phys. 64 (1976), p. 1065. 1B) 」. Aihara: J. Org. Chem. 41 (19. 76), p. 2488. 献 7 飽和炭化水素の生成熱とトポ隅ジカルイソデックス 25 2) H. Yoshiztiml: Trans. Faraday Soc., 53 (1957), p. 125. 3) H. Hosoya: Bull. Chem. Soc. Jpn., 44 (1971) p. 2332. 4) H. Hosoya et al.: Bull. Chem. Soc. Jpn., 45 (1972), p. 3415. 5) H. Narumi and H. Hosoya: ibid., 53 (1980), p. 1228. 6) Landolt−B6rnstein: Zahrenwerts und Funktionen, II. Band, Eigenschaften der Materie in lhren Aggregatzustanden, (1961), Springer−Verlag. 7)例えば,A, Streitwieser, Jr.:“Molecular Orbital Theory for Organic Chemists”,(196!), Chap.2な ど,Jehn・Wiley&Sons Inc. 8)細矢治夫:貴子化学(1980),p.164など,サイエンス社. 9) G. Bierl et al.: Helv. Chim. Acta, 60 (1977), p. 2334. 附 録 表4 共分散μ,〆 N pt y’ 4 2 一 3. 450 一 31.050 5 3 一 !4. 983 一 497.850 6’ 5 一 1.0, 750 一 79. 1. 775 7 9 一 17. 9. 50 −2501. ’187 8 18 −2i. 332 −631L 752 μ,〆はそれぞれρ,〆に対応する共分散である。 表5 共分散μ1,μ〆 N Stl Ptlt 4 2 一〇. 33433 一〇. 07452 5 3 −1. 02515 −O. 38697 6 5 −O. 43197 −O. 18519 7 9 一 O. t1609! −O. 17877 8 18 一〇. 36948 −O. 14110 Ftl, Stl’はそれぞれρ1,ρ1’に対応する共分散である。