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北九州におけるPCB廃棄物処理の視察報告
©日本 POPs ネットワーク 北九州市におけるPCB(ポリ塩化ビフェニル)廃棄物処理 ∼国内初の本格的な化学処理施設視察の報告∼ 日本 POPs ネットワーク 山科則之* 日時:2004 年 11 月 22 日(月) 目的: ①北九州市 PCB 廃棄物保管施設の視察 ②PCB 廃棄物収集運搬ルートの確認 ③北九州 PCB 廃棄物処理施設 (日本環境安全 事業(株)北九州事業所)の視察 2004 年 12 月 18 日、国内初の本格的な PCB 廃棄物処理施設が北九州市で稼働した。PCB 処理の現状把握のため、日本環境安全事業 (株)(JESCO)の北九州ポリ塩化ビフェニル廃 棄物処理施設と北九州市が保管する PCB 廃棄 物の保管施設である江川中継所の視察を行っ たので報告する。本格処理が間近な時期に視 察させていただき、JESCO 並びに北九州市の 対応に感謝いたします。 珍しい自治体の集中保管施設 北九州市環境局環境産業政策室の PCB 担当 者を訪問し、関連資料を入手した。その後、 廃棄物指導課の環境局パトロール車の先導に より江川中継所に向かう。 江川中継所(北九州市八幡西区)は、本城かん びん資源化センターに隣接した所にあり、過 去に海洋投棄を行う廃棄物(もちろん PCB 廃 棄物ではない)の一時保管庫としていた施設 を有効利用したもの。 江川中継所には、北九州市各局(環境局や建 設局、水道局等)並びに公立の施設・小学校か ら排出された PCB 廃棄物(トランス、コンデン サ、安定器、廃油、感圧紙、土砂、シーリン グ剤)が保管されている(表 1)。安定器や廃感圧 紙、シーリング剤は、ドラム缶やペール缶、 プラスチック容器等に保管されている(これ らの廃棄物は、 第 2 期工事以降の処理になる)。 保管施設の点検は、月 2 回の定期確認(漏洩 等のチェックや保管量の確認)の他、廃棄物指 導課の課員が管轄の施設を視察する際に立ち 寄り、行っているとのこと。 教育委員会などが管轄の小中学校の安定器 をまとめて保管している事例はあるが、自治 体全体の PCB 廃棄物を集中保管している施設 図1 :江川中継所 表 1 江川中継所の PCB 廃棄物量(注) PCB 廃棄物の種類 高圧トランス 高圧コンデンサ 安定器等 (安定器、低圧トランス・コンデンサ) 廃 PCB 等 保管量 3台 205 台 23,350 台 7,228kg (廃油、廃感圧紙、土砂、シーリング剤) (注)北九州 PCB 廃棄物処理施設の試運転時にトラン ス・コンデンサを提供しており、現在の保管量ではない。 はあまり例がない。長期保管による紛失や不 法処理が相次ぐ中、このような集中保管とい う管理方法は有効な手段であると思われる。 例えば、電力会社や JR、大手企業などは、専 用の PCB 廃棄物保管施設を保有しているとこ ろが多い。このような大量保管者が、自社の PCB 廃棄物を処理し終えた後、空いた保管ス ペースを活用して、周辺の自治体や中小企業 の PCB 廃棄物を保管するという管理方法は、 検討の価値があると思う。集中保管は、自治 体主導だけでなく、民間企業が事業として行 ってもいいのではないか。なお、江川中継所 については、保管中の PCB 廃棄物をすべて処 理し終えた後の活用方法は未定とのこと。 *エコケミストリー研究会 主任研究員 http://env.safetyeng.bsk.ynu.ac.jp/ecochemi/ 日本 POPs ネットワーク 構成員 http://env.safetyeng.bsk.ynu.ac.jp/ecochemi/pops_net/ 「PCB をなくすために」 主幹 http://www.pcb.jp/ 1 ©日本 POPs ネットワーク 図 2 江川中継所で保管中の PCB 廃棄物 (左:シーリング剤と安定器、右:コンデンサ) 収集運搬ルートの確認 江川中継所からは、国道 279 号線、国道 199 号線、国道 277 号線を経て、電源開発(株) 若松総合事業所前を通り国道 495 号線に入り、 北九州市エコタウンセンター前を通過、響灘 大橋を渡り、北九州 PCB 廃物処理施設に到着 した。試運転時に PCB 廃棄物を運搬した時と ほぼ同じ経路である。国道 495 号以降は、産 業道路であり、特に問題ないと思われるが、 一部市街地を通過するため、収集・運搬方法や 安全対策等に関する「受入基準」(JESCO 北九 州 PCB 廃棄物処理事業)並びに「PCB 廃棄物収 集・運搬ガイドライン」(環境省)を遵守して収 集運搬を行って欲しい。 「受入基準」によれば、全収集運搬車両に 「GPS システム」の搭載が義務づけられている。 図 3 処理施設への移動経路 (「北九州市 PCB 廃棄物処理計画」に加筆) 「GPS システム」とは、GPS による車両の位置 確認だけでなく、センサーによる加速度の検 出、運搬状態(積込み時間や道路の渋滞状況、 休憩時間等)などの情報を監視センターに報 告することができるシステムである。位置情 報については、運搬経路の所定の地点(チェッ クポイント)を通過した際に通過時間等を報 告し、軌跡地図等の情報として情報公開され る(今回、著者が通過したルートのチェックポ イントは、 図 3 に示すとおり、 「電源開発」と「エ コタウンセンター」「PCB 処理施設」の 3 地点)。 この他、「GPS システム」は、加速度計により 急ブレーキを検出した際に、運転手が監視セ ンターに報告を行ったり、監視センターが事 故や急病等の緊急事態を運転手に確認するな ど、安全確認ができ、不測の事態に迅速に対 処できるようなシステムとなっている。 収集運搬には、上記システムの導入の他、 安全性を重視した特殊な運搬容器の導入、運 転手に対する安全教育の実施などが必要であ り、通常の廃棄物収集運搬コストよりも高い 金額になることが予想される。 現在、「北九州ポリ塩化ビフェニル廃棄物処 理施設(第1期)への入門を許可する収集運 搬事業者に係る認定要綱」(平成 16 年 3 月 22 日)に基づき認定された収集運搬事業者は、 山九(株)と日鐵運輸(株)の 2 社のみであ る。 国内初の本格的な化学処理施設 北九州 PCB 廃棄物処理施設は、この原稿を 書いている本日(12 月 18 日)、開業式が行われ た。いよいよ本格的な処理が始まろうとして いる。今回の視察(11 月 22 日)は、開業式を間 近に控え、本格運転を目指しての準備作業中 であるため、情報公開ルームと見学通路のみ の視察となった。 北九州 PCB 廃棄物処理施設は、北九州市若 松区の総合環境コンビナート・響リサイクル 団地の右端に位置する。同団地の南側は、事 業予定地となっており、北九州 PCB 廃棄物処 理施設の隣接地は、広大な空き地であるため、 4 階建ての処理施設の大きさが際立って見え る(図 4,5)。 真新しい正面玄関を通ると情報公開ルーム と受付がある。まずは、受付にて、今回の視 察を受け入れていただいた JESCO 北九州事業 所の総務課長を訪ねる。そして、事務管理棟 にあるプレゼンテーションルームにて、北九 州 PCB 廃棄物処理施設の概要や収集運搬の方 法、試運転時の状況の説明を受ける。施設の 概要や環境・安全対策の詳細については、別に 解説する予定であるが、簡単に紹介する。 2 ©日本 POPs ネットワーク 図 4 北九州 PCB 廃棄物処理施設のイメージ (第5回北九州市PCB処理監視委員会配布資料より) <前処理工程> (トランス等の容器処理を行う工程) PCB 廃棄物は、施設の西側から搬入され、 抜油・解体が行われ、溶剤洗浄が行われる。紙 や木材等の含浸物については、溶剤洗浄で十 分に基準をクリアできない場合に、真空加熱 分離処理を行う。卒業判定後、基準をクリア した金属等の処理済物や紙等の残さ物は、有 価物として再利用もしくは産業廃棄物として 処分する予定となっている。 試運転時に前処理工程の改良等を行ったそ うであるが、この件も別に解説する。 <液処理工程> (回収した PCB 油を無害化する工程) 回収された PCB 油は、金属ナトリウム分散 体法(SD 法)により脱塩素化分解され、処理済 油は燃料として再利用、固形残さは産業廃棄 物として処分される予定となっている。 図 5 北九州 PCB 廃棄物処理施設(JESCO) 立地場所:北九州市若松区響町 1-62-24 敷地面積:約 54,000m2(第 2 期工事用地含む) 緑 地 率:緑地率 25%以上 建 物:第 1 期処理施設・事務管理棟 ①築面積 約 6,300m2 ②建築構造 鉄鋼造 ③階数 4階 ④主な施設等 ・前処理施設 ・脱塩素化分解施設 ・中央監視室 ・事務室・会議室・分析室 ・情報公開施設 ・その他ユーティリティー施設 PCB 処理能力:0.5t/日(PCB 油分解量) 処理方式:脱塩素化分解方式(SD 法)による PCB の化学処理 (溶剤洗浄と真空加熱分離により トランス等から除去した PCB を化 学処理により無害化する) 設計・施工:北九州 PCB 廃棄物処理施設 JV (新日本製鐵(株)、日本曹達(株)、 三井物産(株)、大成建設(株) 、 (株) 竹中工務店) <運転> 北九州 PCB 廃棄物処理施設の要員は、施設 の運転管理に約 70 名(前処理工程は 2 交代制、 液処理工程は 3 交代制)、JESCO の管理部門と して 20 名弱となっている。なお運転業務は、 新日本製鐵のグループ会社である北九州環境 プラントサービス(株)が請け負っている。 情報公開について 事務管理棟には、情報公開用として、以下 施設がある。 ① 情報公開ルーム: 施設の基本的な情報を 見ることができる。PCB 処理に関する資料 の閲覧が出来る。施設の模型(図 5-b)、処 理施設内の工程毎の作業状況を TV 映像と してリアルタイムで確認することができ る作業状況表示モニター、施設の紹介DV Dビデオ、処理実績(図 5-b)や、処理の現 状について一目で分かるモニター(図 5-c)、 パネル、処理済物などが展示されている他、 北九州 PCB 処理監視委員会の資料などが 閲覧できる。 ② プレゼンテーションルーム:150名収容 の団体見学者用の会議室。大型スクリーン を要している(図 5-a)。 ③ 見学者通路:安全管理上、処理施設内部の 見学はできないが、その代わりとして一部 3 ©日本 POPs ネットワーク の施設を窓越しに見ることができる通路 がある(図 5-d)。この通路は、前処理工程 と液処理の薬液タンク、コントロールルー ムなどが見えるほか、作業状況表示モニタ ーが設置されている。 (a) (b) (c) (d) 図 5 情報公開施設(a.プレゼンテーションルー ム、b.情報公開ルーム①、c.情報公開ルーム②、 d.見学者通路から見た監視室) 現在、PCB 処理施設の設置が計画されてい る自治体関係者や議員の見学が多く、その対 応に追われているとのこと。国内初の本格的 な処理施設と言うことで、関係者の高い関心 が伺われる。 情報公開ルームは、平日の 9:00∼17:00 に予 約なしで自由に見学でき、職員に声をかけれ ば説明もしてくれる。 団体の場合は、予約すればプレゼンテーシ ョンルームも使用可。 視察後の動き 試運転が終了し、北九州廃棄物処理施設は、 PCB 北九州 PCB 廃棄物処理施設異業種建設工 事共同企業体(JV)から JESCO に引渡された。 12 月 10 日に北九州市長から廃棄物処理法 に基づく PCB 廃棄物処理業の許可を得え、12 月 18 日に開業式がとりおこなわれた。 今後、PCB の本格的な処理が始まる予定で ある。 終わりに PCB 廃棄物処理施設の視察は、今回で 7 箇 所目であるが、今までの施設が実証段階や小 規模の自社処理施設であったため、今回の北 九州 PCB 廃棄物処理施設の規模の大きさに驚 かされた。廃棄物処理施設というより、化学 プラントといった印象を受けた。国内初の本 格的な化学処理施設であり、定常的に処理を 行うには、まだまだ課題が山積していると思 うが、今後の規範となるように、適切な処理、 並びに情報公開を行って欲しいと切に願う。 【入手資料】 ・『北九州市 PCB 処理安全性検討委員会報告書(平 成 13 年 8 月)』 ・『市民と委員との意見交換会(平成 13 年 8 月) ・「「北九州市における PCB 処理事業について」に 対する国からの回答に係る市長コメント」 ・「関連記事」 ・『北九州市ポリ塩化ビフェニル廃棄物処理計画』 ・『北九州市 PCB 処理監視委員会だより Vol.1∼ Vol.9』 ・「北九州エコタウン事業」(パンフレット) ・「日本環境安全事業株式会社・会社案内」 ・「北九州 PCB 廃棄物処理施設(第 1 期)」 (パンフレット) ・「PCB 廃棄物の処理がいよいよ始まります。」 (パンフレット) 4