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電気探査法を応用した鉄筋コンクリート 構造物の内部推定

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電気探査法を応用した鉄筋コンクリート 構造物の内部推定
電気探査法を応用した鉄筋コンクリート
構造物の内部推定に関する研究
平成 21 年3月
露
口
雄
次
「電気探査法を応用した鉄筋コンクリート構造物の内部推定に関する研究」
目次
第1章 序論
1.1 研究の背景 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1.2 物理探査法の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1.3 鉄筋位置ならびに腐食状況診断方法の現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1.4 研究の目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1.5 論文の構成 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
4
6
8
10
第2章 RC 構造物に電気探査法を適用する際の基礎検討
2.1 概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2.2 直流比抵抗法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2.2.1 測定目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2.2.2 測定方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2.3 強制分極法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2.3.1 測定目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2.3.2 測定方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2.4 電気探査法と既存測定法の解析上の比較検討 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2.4.1 電気探査(ウェンナ)法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2.4.2 分極抵抗法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2.4.3 交流インピーダンス法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2.5 携帯型電気測定装置の開発 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2.5.1 開発目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2.5.2 携帯型電気測定装置の構成 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2.5.3 携帯型電気測定装置の検定 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2.6 まとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
12
12
13
13
17
17
18
20
20
22
24
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29
32
38
第3章 三次元有限要素法(FEM)による直流比抵抗法の解析に関する検討
3.1 概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3.2 直流比抵抗法の順解析理論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3.3 直流比抵抗法の逆解析理論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3.3.1 逆解析の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3.3.2 拡張カルマンフィルタを用いた逆解析理論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3.4 開発した逆解析コードの検証 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3.5 まとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
40
41
43
43
43
50
54
第4章 電気探査法を RC 構造物に適用する際の実際的諸問題に関する検討
4.1 概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
4.2 コンクリート用の電極開発 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
4.3 見掛け比抵抗適用時の留意点 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
4.4 三次元有限要素法(FEM)を RC 構造物に適用する際の工夫 ・・・・・・・・・・・・・・・
4.4.1 アース点と絶対電位測定の必要性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
4.4.2 ひび割れ有無の検討 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
4.4.3 コンクリート部細分化と電極位置の検討 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
4.5
まとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
55
56
57
60
60
63
66
71
i
第5章 見掛け比抵抗および見掛け充電率に及ぼす諸要因の影響に関する検討
5.1 概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5.2 鉄筋径,鉄筋腐食の有無,空洞の有無の影響に関する検討 ・・・・・・・・・・・・・・・・・
5.2.1 検討目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5.2.2 実験概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5.2.3 見掛け比抵抗の測定結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5.2.4 見掛け充電率の測定結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5.2.5 RC 構造物の内部推定のための実用化の検討 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5.2.6 測定結果解釈のための FEM 逆解析 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5.3 打ち込み方向,粗骨材の有無、鉄筋の有無の影響に関する検討 ・・・・・・・・・・・・
5.3.1 検討目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5.3.2 実験概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5.3.3 見掛け比抵抗の測定結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5.3.4 見掛け充電率の測定結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5.3.5 測定結果解釈のための FEM 逆解析 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5.4 鉄筋腐食要因の差異の影響に関する検討 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5.4.1 検討目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5.4.2 実験概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5.4.3 見掛け比抵抗の測定結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5.4.4 見掛け充電率の測定結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5.4.5 電食試験中とその前後の測定結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5.4.6 測定結果解釈のための FEM 逆解析 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5.4.7 既存測定法(自然電位法,分極抵抗法)による検討 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5.5 まとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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73
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126
第6章
6.1
6.2
6.3
6.4
見掛け比抵抗と見掛け充電率を用いた鉄筋腐食状況等の推定
概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
見掛け比抵抗および見掛け充電率と鉄筋等の存在および腐食状況との関係 ・・
鉄筋等の存在および腐食状況の推定方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
まとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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134
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第7章 既存 RC 構造物への適用例
7.1 概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
7.2 マンション A の屋上パラペット部 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
7.2.1 検討目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
7.2.2 測定概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
7.2.3 見掛け比抵抗分布と見掛け充電率分布 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
7.2.4 測定結果解釈のための FEM 逆解析 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
7.2.5 屋上パラペット部と供試体の比較検討 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
7.2.6 推定結果の検証 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
7.3 逆 T 型擁壁の鉛直壁部 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
7.3.1 検討目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
7.3.2 測定概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
7.3.3 見掛け比抵抗分布と見掛け充電率分布 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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137
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141
142
142
ii
7.3.4 鉛直壁と供試体の比較検討による鉄筋腐食状況等の推定 ・・・・・・・・・・・・
7.3.5 推定結果の検証 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
7.4 埋設型浄化槽の頂版部 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
7.4.1 検討目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
7.4.2 測定概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
7.4.3 見掛け比抵抗分布と見掛け充電率分布 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
7.4.4 測定結果解釈のための FEM 逆解析 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
7.4.5 局部破壊による推定結果の検証 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
7.5 まとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
第8章
参考文献
結論
144
145
145
145
146
147
148
149
151
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
152
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
157
謝辞
iii
第1章 序論
1.1 研究の背景
高度成長期の 1960~1970 年代に建設された RC 構造物は,
建設後 30~40 年以上経過してお
り非破壊検査の需要が拡大すると予想されている.
コンクリート構造物(RC構造物含む)の寿命は半永久的で,鋼構造物のような維持管理は
不要と近年まで考えられていた.しかし,塩害による鉄筋腐食,アルカリ骨材反応によるコ
ンクリートの異常ひび割れ,コールドジョイントを原因とするトンネル壁面の剥離など,建
設後10~20年で劣化するコンクリート構造物が相当数存在することが明らかになってきた.
このようなコンクリート構造物の早期劣化対策として,例えば,1986(昭和61)年には土木学
会「コンクリート標準示方書」が改訂され,2001(平成13)年には土木学会「コンクリート標
準示方書 維持管理編」が制定された.
図 1-1 コンクリート構造物の維持管理フロー6)(一部加筆)
1
土木学会維持管理調査研究部会による維持管理フローを,図 1-1 に示す.このフローによ
れば,コンクリート構造物の総合的な維持管理技術は,次の 4 つの技術によって構成されて
いる.
①コンクリート構造物の機能・性能の劣化予測技術
②点検・調査技術
③劣化度の評価・判定技術
④補修・補強などの維持管理対策技術
上記の中で,既存の RC 構造物に対しては,②,③の開発が急務であり,非破壊検査の社会
的ニーズが高まっている.
現在用いられている主な非破壊試験法の一覧を,表 1-1 に示す.RC 構造物の非破壊試験と
は,種々な測定方法を用いて,直接観察できない構造物の状態や品質を調べたい箇所まで到
達し推定する技術の総称である.
RC 構造物の非破壊試験とは,
“物を壊すことなく”その欠陥や劣化の状況を調べ出す検査
技術であり,原子力発電所からビル,鉄道,橋,地中埋設物にいたる社会資本すべてが検査
対象である.超音波や放射線,レーダなど最新の装置と技術を駆使し,予防保全,有効活用
へ役立てられる.RC 構造物の保守検査の一環として非破壊試験を適用することにより,使用
中の社会資本や設備などを長期にわたって有効に活用することが可能となる.非破壊試験は
社会の安全性,経済性,地球環境問題を円滑に確保するための検査技術であり,今後益々そ
の重要性が高まると考えられる.RC 構造物の強度推定のためには鉄筋の位置,径,腐食状況
を非破壊で推定する必要があり,現状の方法や問題点等を明らかにすることが重要である.
鉄筋位置や大きさを推定する非破壊検査法には,電磁波レーダ法,電磁誘導法,放射線法
等があり,鉄筋腐食状況を推定する非破壊検査法には,自然電位法,分極抵抗法,交流イン
ピーダンス法がある.ただし,上記の非破壊検査法は,鉄筋の位置,大きさと腐食状況を同
時に推定することは困難であり,自然電位法と分極抵抗法は鉄筋端部をはつり出すという一
部破壊作業も必要である.そのため,より簡便で精度の良い非破壊検査法を開発する必要性
が高まっている.
鉄筋端部のはつり作業を行わず,鉄筋等の存在と腐食状況を同時に推定できる非破壊検査
法の研究事例 3),4),9),10)は国内外ともに比較的少なく,更に,その測定法としては主に交流イ
ンピーダンス法が用いられている.ただし,交流インピーダンス法は,入力周波数毎に測定
値を検討できることが特徴であるが,その分,測定装置が複雑化するとともに測定時間が長
くなる傾向がある.そのため,より簡便で精度の良い鉄筋等の存在と腐食状況を同時に推定
できる非破壊検査法を開発する必要がある.
2
表 1-1 非破壊試験の目的別分類 (参考文献 7)を一部修正)
試験目的
強度
寸法,厚さ
鉄筋位置,
間隔,
かぶり,径
ひび割れ位置,
幅,深さ,長さ
空隙,欠陥,
浮き
鋼材腐食
表面温度
含水率
鉄筋の圧接
試験法
試験法の原理と適用範囲
反発硬度法は試験方法が簡便であり,コンクリートの強度推定法として最
も一般的に使用されている. ただし,測定するのはコンクリ ー トの表面硬
反発硬度法
度であり,コンクリート強度との関連性は原理的にはない. シュミットハ ン
マーが最も普及しており , 商品名ではあるが反発硬度法と同義で用いら れている.
超音波の伝搬速度はヤング係数や密度と関連があるが .強度との関連性は
超音波速度法
理論的にはない.
組合せ法
反発硬度法と超音波法を併用 して強度の推定精度を向上させる.
試験用のボルトやアンカーを先に埋め込んでおく場合と後から打ち込む場
引抜き法
合がある. 先に埋め込んでおく試験は吹付けコンクリートの初期強度の管
理に用いられている.
透過法と反射法がある .音速はコンクリートによって異なよるため事前にキ
超音波法
ャリブレーションが必要.
放射線法
適用範囲はX線で40cm,γ線で60cm程度まで.
電磁波法
適用範囲は50cm程度まで.内部に鋼材などがあると反射されてしまう.
位置,かぶりは精度良くわかるが鉄筋径の測定は難しい.配筋状態によっ
電磁波レーダ法
て影響を受け,配筋か密であると精度は低下する.
銑筋探査に最も一般的に使用されている.精度も実用レベル.径とかぶり
電磁誘導法
のどちらかが既知である必要がある.
位置はわかるが,かぶり,径を求めるには複数箇所での写真撮影が必要と
放射線法
なる.装置が大がかりなこと , 安全面での規制があることなどからあまり
使用されない.
ひび割れ発生位置の検出.ひび割れ発生音を検出する受動的な方法であり,
AE法
新たなひび割れの発生やひび割れの進展がなければ何も検出されない. .
超音波法
ひび割れ深さの測定が可能 .
ビデオカメラ ,CCD カメラ , 赤外線カメラなどが用いられる .CCD カメ ラ
カメラ撮影法,
では0.005mm幅程度のひび割れまで検品可能.レーザ光線も用いられる.
赤外線法
車両に搭載して走行しながら連続撮影できる装置が開発されている.表面
ひび割れが対象であり深さは測定できない.
超音波法
はく離や内部空洞,ジャンカなどを調査.伝搬波形により判定する.
はく離 , 背面空洞の調査に用いられる .ピルのタイルのはく離調査用には
壁面を自動昇降するロホットが種々開発されている.振動波形や音圧など
打音法,振動法
を測定して判定する.ハンマーで打撃し人間の耳で判断する場合には
コン クリート厚ざが20mm程度あれば大きな背面空洞の有無がわかる..
放射線法
内部空洞の推定精度は比較的良い.
赤外線法
表面近くの空洞,ジャンカ,はく離を調査できる.
走行しながらトンネルの覆工コンクリート背面の空洞を調査できるレーダ
電磁波法
を搭載した車両が開発されている.鉄筋などの鋼材がある場合には鋼材より
奥の空洞は調査が難しい.
鋼材の自然電位を測定し,その絶対値または電位分布図から腐食程度を
自然電位法
推定する.
直流電流を入力し,鉄筋部のコンデンサー効果消失後の分極抵抗を測定して,腐食程度を
分極抵抗法
推定する.
1mHz~100kHz交流電流を入力し,分極抵抗と鉄筋部のコンデンサー効果を測定して,
AC(交流)インピーダンス法
両者の値から腐食程度を推定する.
放射線法
赤外線カメラでコンクリート表面を撮影して温度分布を調べる.
静電容量(誘電率)法
コンクリート表面に電極を押し当てて静電容量を測定し,含水率を推定する.
電気抵抗法(電極式)
コンクリートの電気抵抗を測定して含水率を推定する.
マイクロ波(電磁波)吸収法 マイクロ波を照射し,エネルギー吸収度を測定して含水率を推定する.
水素原子の中性化に対する減速効果を利用したもの.中性子水分計と
中性子法
呼ばれている.
鉄筋ガス圧接部の探傷用のパルス反射式超音波探傷器があり鉄筋圧接部の
放射線法
検査に用いられている.
3
1.2 物理探査法の概要
「物理探査」1),2)とは,地下の地盤構造や構造物基礎周辺の状態を,物理現象を利用して可
視化し,さらにその物理的特性(物性)を解明する探査技術である.現在用いられている主
な物理探査法の一覧を,表 1-2 に示す.なお,本研究では,表 1-2 内の電気探査法(直流比
抵抗法と強制分極法)を応用して RC 構造物の内部推定を試みている.
表 1-2 主な物理探査法の一覧
分類
試験法
測定値
自然電位法
電位分布異常
直流比抵抗法
比抵抗
電気探査法
強制分極法(IP法)
複素比抵抗法
比抵抗,充電率,
周波数依存性
試験法の原理
比抵抗,充電率,
周波数依存性,電位分布
から推定する方法
電磁法
比抵抗
電流を流して発生する
2次的な電場と磁場を計測し
得られた比抵抗の分布から
推定する方法.
電磁波速度,
反射係数
地表から電磁パルス波を放射し
その反射波から推定する方法.
弾性波速度,
音響インピーダンス
人工震源を用いて弾性波を
発生させ,その伝播速度より
推定する方法
重力探査法
密度
地下の密度分布で変化する
重力から推定する方法
磁気探査法
磁化率
地下の磁化率や残留磁化の変化
から推定する方法
放射能探査法
γ線強度
地下の自然放射能から
推定する方法
地温探査法
温度,熱伝導率
地表と地下水の温度差から
地下水流動を推定する方法
リモートセンシング
電磁波の
反射,散乱,幅射
遠隔探査の総称.地下探査では
電磁波からの推定が一般的
地磁気地電流法
電磁探査法
CSMT法
VLF法
地下レーダ探査法
屈折法
弾性波探査法
反射法
地盤調査といえば,ボーリング調査が存在するが,ボーリング調査では「線」の情報しか
得ることができない.これに対し物理探査では,
「面」あるいは「立体」の情報を,基本的に
非破壊で得ることができる.
測定原理と方法によって,電気探査法(自然電位法,直流比抵抗法,強制分極法など)
,電
磁探査,弾性波探査法(屈折法,反射法)
,重力探査,磁気探査,地震探査,放射能探査等に
4
分類される.以下,主な測定方法別に各々の概要を示す.
a.自然電位法(電気探査法の一種)
自然電位法は,地盤に流れている自然電流によって生じる電位差の分布を測定する探査手
法である.地すべり地においては,地下水の移動に伴って発生する電位を測定して地下水経
路を求めることに利用されている.測定は2本の電極を地表面に設置し,2電極間の電位差
を測定する.測定は簡便であるが,電位分布の解釈が比較的難解で,単独で実施されること
は少ない.
b.直流比抵抗法(電気探査法の一種)
直流比抵抗法は,比抵抗を測定対象とする探査手法であり,比抵抗の大きさは地層中に含
まれる地下水や粘土鉱物などに依存する.地下水や粘土鉱物の含有量は岩石の種類や地質構
造等に影響されるので,比抵抗分布を調べることにより,地下の地質状況を推定することが
できる.
地面に接地した1対の電極から直流電流を地盤に流し,
その電流で発生した電位を,
別の1対の電極で測定する.
c.強制分極法(電気探査法の一種)
強制分極法(IP 法:Induced Polarization)は,主に鉱床探査に用いられている.自然界
に存在する鉱物の中には,電圧をかけるとコンデンサーのように電荷を蓄える性質を持つも
のがある.このような性質を分極といい,その程度を表す指標を充電率と呼ぶ(黄銅鉱や黄
鉄鉱のような硫化鉱物は充電率が比較的高い)
.
d.屈折法(弾性波探査法の一種)
地すべりの調査技術として弾性波探査法が用いられる場合,そのほとんどが P 波を用いた
屈折法探査であり,屈折法で求められるのは弾性波速度分布である.
密度と弾性波速度の積である音響インピーダンスの違う境界面で波動は屈折し,地下へ進入
した波動が再び地表へ戻ってくるという現象が発生する.この波動を測定して,地下の伝播
速度とその地層の位置を推定する探査手法である.弾性波速度値は,地質や N 値,一軸圧縮強
度等の工学的諸量との相関が良いことから,地すべり面の推定や対策工の選定,設計のため
の資料などとして用いられている.比較的浅い地層の探査に有利である.
e.反射法(弾性波探査法の一種)
反射法探査では,密度と弾性波速度の積である音響インピーダンスの違う境界面が反射面
として得られ,地質構造や地層構成の推定に用いられる.比較的深部に存在する水平層構造
の探査に有利であり,天然ガス・石油・石炭の探査に有効に利用されている.
f.電磁探査
電磁探査は,電気探査と同様に比抵抗を測定対象としており,時間変動する電磁場を測定
し,地下の比抵抗を推定する.探査深度は電磁場の周波数に依存し,電磁波は周波数が低い
ほど深部にまで浸透するので,様々な周波数の電磁場を測定することで浅部から深部までの
情報を得ることができる.探査深度は 1km~数 km である.
5
g.重力探査
重力探査は,地下の密度を測定対象とする探査手法である.重力は,地球の引力と遠心力
の合力で,平均的な重力加速度は 9.8m/sec2 であることが知られている.物質の持つ引力は
その物質の密度に比例し,密度の高い物質ほど引力が強くなるので,岩石の種類により密度
が異なる.また,同じ種類の岩石でも断層や褶曲などがあると密度が変化することがある.
ゆえに,重力を精度良く測定することにより,地下の密度分布を推定し,地質構造を把握す
ることができる.
上記の物理探査法の検討結果から,コンクリート構造内部の鉄筋等の存在とその腐食状況
を調べるには,電気探査法(直流比抵抗法と強制分極法)が有望と考えられる.具体的には,
コンクリートは電気を通し難く,鉄筋は電気を通し易いことが知られているため,電気探査
法の一種である直流比抵抗法を用いて,抵抗値分布を測定することで,コンクリートと鉄筋
の差異が明確に判定可能と考えた.また,電気探査法の一種である強制分極法では,電圧を
かけるとコンデンサーのように電荷を蓄える材料の性質を測定する.地盤中の黄銅鉱や黄鉄
鉱等の鉱物探査に関する実績が豊富なため,コンクリート構造内部の鉄筋等の存在とその腐
食状況も判定できる可能性が高いと判断した.
それゆえ,本研究では RC 構造物の内部推定のための手段として,電気探査法(直流比抵抗
法と強制分極法)を取り上げ,室内実験,現地測定,解析を実施し検討した.
1.3 鉄筋位置ならびに腐食状況診断方法の現状
鉄筋位置や鉄筋径を推定する非破壊検査法には,表 1-1 に示したように電磁波レーダ法,
電磁誘導法,放射線法等があり,また,鉄筋腐食状況を推定する非破壊検査法には,自然電
位法,分極抵抗法,交流インピーダンス法がある.ここでは,これら非破壊検査方法の現状
と問題点について述べる.
a.電磁波レーダ法
コンクリートに入射させた電磁波レーダは,電気的に性質の異なる物質により反射して戻
ってくる.その伝播時間から反射物体(鉄筋,配管,空洞など)までの距離を計算し,その
位置を特定する.アンテナを RC 構造物の表面上で移動させることにより,鉄筋の平面的な配
置とかぶり厚を計測できる.
ただし,RC 構造物の場合は鉄筋からの反射波が大きく,空洞や CD 管(電線やケーブルを
通すパイプ)などからの弱い反射波を識別することが困難である.また,水分が溜っている
と電磁波が反射することが知られている.
b.電磁誘導法
電磁誘導法は,コイルが巻かれたプローブに一次交流電流を流して交流磁場を発生させ,
その磁場中に鉄筋が存在した場合に生じる二次電流から,発生した電圧の変化を把握し,RC
6
構造物中の鉄筋位置とかぶりを評価する方法である.鉄筋位置はプローブコイルに誘導され
た電圧がピークになった位置の直下にあると判断し,鉄筋のかぶりは,出力電力とかぶりの
検出曲線をもとに推定する.磁束の振幅の変化を読み取り,鉄筋径を推測することも可能で
ある.
ただし,空洞,ジャンカ,塩ビ管のような非磁性体の存在は測定不能である.鉄筋の最小
間隔が 10cm 以下になると測定誤差が大きくなる傾向がある.
c.放射線法
放射線透過法(X線法)は,医療分野で使われているX線と同様のものであり,コンクリ
ート構造物に放射線を透過させ,鉄筋により生じる影を解読する方法である.
ただし,実際の使用にあたっては法的な規制等の特殊性があり,取扱いには資格を必要と
する.放射線の被曝防止のため,照射時間の数十秒間は半径5メートル以内の立ち入りが制
限される.
d.自然電位法
電気探査法の一種である自然電位法と原理は同じであるが,測定方法と結果解釈が異なっ
ている.鉄筋腐食状況を推定するための自然電位法とは,鉄筋が腐食することによって変化
する鉄筋表面の電位から鋼材の腐食進行を推定するものである.コンクリート中の鉄筋腐食
は,電荷の移動を伴う電気化学的反応であり,腐食を起こしている箇所をアノード域,その
周りをカソード域と呼ぶが,鉄筋が腐食しているとき,電子は鉄筋中をアノード域からカソ
ード域へ流れ,アノード部(腐食部)の電位は卑側(-側)に変化する.この現象により,自然電
位が発生する.
コンクリート中の鉄筋は,コンクリートの細孔溶液に接する金属なので自然電位を有して
いるが,
コンクリート中に存在するため鉄筋表面の電位を直接測定することは,
困難である.
そのため,電位計の一端を直接接続する目的で,鉄筋端部をはつり出す局部破壊作業が行わ
れている.また,自然電位法は,鉄筋の腐食状況のみでなく,酸素の供給状態やコンクリー
トの乾燥状態など,種々の要因に影響されるため,以下に示す分極抵抗法や交流インピーダ
ンス法と併用される場合が多い.
e.分極抵抗法
分極抵抗法とは,コンクリート表面に当てた外部電極から内部鉄筋に電位差ΔE を負荷し
たときに生じる電流変化量ΔI から,腐食速度(腐食電流密度)と反比例の関係にある分極
抵抗を求める方法である.この方法で,内部鉄筋の腐食状況を推定することが可能であり,
健全鉄筋に比べ腐食鉄筋の分極抵抗が小さくなることが知られている.
分極抵抗 Rp( Ωcm2 )と腐食電流密度 Icorr ( A/cm2 ) は以下の式で表される.
ΔE =ΔI・Rp
(1-1)
Icorr = K/Rp
(1-2)
ただし,K:金属の種類や環境によって異なる比例定数.
7
分極抵抗法では,一定時間,直流電流を RC 構造物に入力し,鉄筋のコンデンサー効果消失
後の分極抵抗を測定することで,鉄筋の腐食状況を推定する.しかし,RC 構造物の抵抗値は
鉄筋の腐食状況のみでなく,コンクリートの湿潤状態などにも影響されるため,明確には鉄
筋の腐食状況を判断できないことが知られている.
f.交流(AC)インピーダンス法
交流インピーダンス法は,1mHz~100kHz 程度の交流電流を入力し,周波数毎の抵抗値とと
もに,鉄筋とコンクリート界面の二重層容量や溶液抵抗(コンクリートの抵抗)に関する測
定値を得ることができ,これらの測定値から鉄筋の腐食状況を推定する.低周波数時におい
て,健全鉄筋部に比べ腐食鉄筋部の「抵抗値」
,
「電流と電位の位相差の絶対値」とも小さく
なること知られており,低周波数時の抵抗値は,前述の分極抵抗法で得られる分極抵抗値と
一致する.
ただし,交流インピーダンス法は,RC 構造物専用に開発された非破壊検査手法ではなく,
電気化学分野で開発され発展した材料分析手法である.例えば数種の成分が含有されている
金属材料等の場合は各成分が特定周波数で反応するが,RC 構造物の場合は低周波数のみでし
か健全鉄筋と腐食鉄筋の差異が現れないことが知られている.また,交流インピーダンス法
では,交流電流を入力し,周波数毎に安定した電流と電位を測定する必要があるが,10m~
0.1Hz あるいはこれ以下の低周波数までの測定に長時間必要な点が実用上問題となっている.
1.4 研究の目的
電気探査法として一般的な直流比抵抗法1),2)と,鉱床探査に実績の多い強制分極法1),2)を応
用して見掛け比抵抗1),2)と見掛け充電率1),2)の分布状況を算出し,簡便的かつ即時的にRC構造
物の健全性を非破壊で明らかにすることが本研究の目的である.具体的には,鉄筋等の存在
と腐食状況を推定する基礎的研究を測定と解析の両面から実施している.
測定は,高精度化と現場適用性の両面を考慮し,新たに開発した携帯型電気測定装置を用
いて行った.そして,鉄筋等の存在と腐食状況に加えて,コンクリートの打ち込み方向の差
異,粗骨材の有無,鉄筋腐食要因の差異が,RC構造物の電気的性質である見掛け比抵抗と見
掛け充電率に与える影響について比較検討した.解析では,測定電位を入力値として三次元
有限要素法の電界プログラムを用いた逆解析を行い,比抵抗の解析値を算出して測定結果の
妥当性を検証した.
以下,RC 構造物の内部推定を目的として,電気探査法を用いる際に留意した点について述
べる.
(1) 電極使用時の留意点
「避雷針」や「電化製品のアース」の存在からも明らかなように,地盤には比較的電気が
流れ易いことが以前から知られている.一方,RC 構造物は比抵抗が比較的高いため,RC 構造
8
物の内部推定に電気探査法を用いる場合,電極に工夫が必要である.
RC 構造物で発生している電位を得るため,環境によらず一定した電位をもつ電極を対極と
して電池を構成させ,
その起電力を電位計で測定する方法が知られている.この対極としては
標準水素電極があるが,この電極は製作上や使用上不便がある.そのため,実際には比較的
一定した電位を有する飽和カロメル電極,飽和塩化銀電極,飽和硫酸銅電極などの照合電極
を用いることが多い.
電極接地位置の RC 構造物表面を傷付けることなく任意位置を測定できる点が長所である
が,照合電極面の湿潤状態により測定値にバラツキが発生するため,その解決策なる埋め込
み型の電極を「4.2 節」に示している.
(2) 見掛け比抵抗適用時の留意点
見掛け比抵抗の理論(2章参照)は,均質な半無限地盤を前提として構築されている.ゆえ
に,地盤物性推定の手段として電気探査法を用いた場合,見掛け比抵抗の二次元と三次元分
布が一般的に利用されている.
一方,直方体,床版状,円筒状等の様々な形状を有するRC構造物には,有限境界が存在す
るため,均質な半無限地盤を前提とした「見掛け比抵抗」理論の有用性が不明であった.見
掛け比抵抗理論の有用性確認は,
「4.3節」に示す.
(3) 三次元有限要素法(FEM)適用時の留意点
地盤物性推定の手段として電気探査法を用いた場合,その「測定結果解釈の一手法」とし
て二次元と三次元有限要素法が用いられることがあるが,点電流源に対応した球状の電位分
布を正確に表現できるのは三次元有限要素法である.そのため,RC 構造物の内部推定にも三
次元有限要素法は有用と判断できるが,一般的な地盤物性推定と異なり,RC 構造物特有の以
下の問題点が存在する.
a.アース点の問題
地盤物性推定の目的で三次元有限要素法を用いる場合に扱う電位は,任意の 2 点間の電位
差ではなく,遠方地盤(電位=零 V)を基準とした絶対電位である.一方,有限境界を有する
RC 構造物を三次元モデル化する場合は,アース点(電位=零 V)を設ける必要があり,アース
点位置を変化させた三次元有限要素法モデルのケーススタディーを「4.4.1 節」に示す.
b.ひび割れ有無の問題
RC 構造物は,鉄筋腐食,地震被害,乾燥収縮,基礎の不同沈下等の原因により,ひび割れが発
生する.ひび割れ幅が 0.2mm 程度以上の場合は目視による確認後,そのひび割れを考慮した三
次元のモデル化が可能であるが,
現状ではひび割れ有無による RC 構造物の電気的性質の影響
が不明である.ひび割れ有無の三次元有限要素法モデルを用いた,電気的性質の影響確認の
ケーススタディーを「4.4.2 節」に示す.
9
c.コンクリート部細分化の問題
材質区分(逆解析の物性領域)を11や13にした場合は,材質区分を6や8にした場合に比
べ,極端に逆解析精度が低下した.ゆえに,目視や他の試験法などでコンクリート領域が
明らかな場合,必要以上にコンクリート領域を細分化しない方が,精度の良い逆解析結果
が得られると考えられる(4.4.3節参照)
.
d.電極位置の問題
電極位置を考慮して,モデル表面と表面から5㎜直下の両方の節点に電流と電位を設定
した場合と,モデル表面の節点に電流と電位を設定する場合の逆解析精度には,大きな差
異は認められなかった.そのため,電極の埋め込み深さ(5㎜以下程度)を考慮せず,コ
ンクリート表面に電極が有ると仮定しモデル化しても,解析上の問題は発生しないと判断
できた(4.4.3節参照)
.
1.5 論文の構成
本論文の構成を以下に示す.本論文は以下の8章からなっている.
第1章は「序論」であり,
本研究の背景と目的,関連分野の現状,および本論文の目的と構成を明らかにしている.関
連分野は,物理探査法(電気探査法,弾性波探査法など)と,RC 構造物の内部推定に関する
既存非破壊検査法(電磁波レーダ法,自然電位法,分極抵抗法,交流インピーダンス法など)
の現状を示している.
第2章は「RC 構造物に電気探査法を適用する際の基礎検討」であり,
電気探査法(直流比抵抗法と強制分極法)の概要,携帯型電気測定装置の開発経緯,電気探
査法と既存測定法の比較検討,を示している.
第3章は「三次元有限要素法(FEM)による直流比抵抗法の解析に関する検討」であり,
直流比抵抗法の順解析理論と逆解析理論,開発した逆解析コードの検証,を示し以下の章で
適用可能なことを明らかにしている.
第4章は「電気探査法を RC 構造物に適用する際の実際的諸問題に関する検討」であり,
コンクリート用の電極開発,半無限地盤の理論を RC 構造物に適用する際の留意点,三次元有
限要素法を RC 構造物に適用する際の工夫,を示している.
第5章は
「見掛け比抵抗および見掛け充電率に及ぼす諸要因の影響に関する検討」
であり,
”鉄筋径,鉄筋腐食の有無,空洞に関する検討結果 ”,”打ち込み方向,粗骨材の有無,鉄筋
10
の有無に関する検討結果 ”,”鉄筋腐食要因の差異に関する検討結果 ”,を示している.また,
電気探査法との差異を検討するため,既存測定法(自然電位法,分極抵抗法)の実験結果を
明らかにしている.
第6章は「見掛け比抵抗と見掛け充電率を用いた鉄筋腐食状況等の推定」であり,
RC 供試体の測定結果験と既存 RC 構造物の”見掛け比抵抗および見掛け充電率”と,”鉄筋等の
存在および腐食状況” との関係をグラフ化して,一般の RC 構造物の鉄筋腐食状態を推定する
際にも利用できるよう示している.
第7章は「既存 RC 構造物への適用例」であり,
マンションの屋上パラペット部,逆 T 型擁壁の鉛直壁,埋設型浄化槽の頂版部,の非破壊検
査結果を各々示している.特に,埋設型浄化槽の頂版部は,局部破壊を行って,非破壊検査
結果の妥当性を確認している.
第8章は「結論」であり,
以上の研究結果をまとめて本研究の結論を示している.
11
第2章 RC 構造物に電気探査法を適用する際の基礎検討
2.1 概要
本章では,2種類の電気探査法すなわち直流比抵抗法と強制分極法を用いて,RC構造物の内
部(鉄筋位置,鉄筋腐食状況,空洞位置等)を推定することが可能かを明らかにすることを
目的とした.この目的のためには,ⅰ)直流比抵抗法のRC構造物の内部推定に関する適用性,
ⅱ)強制分極法のRC構造物の内部推定に関する適用性,ⅲ)電気探査法と既存測定法の長所
短所,ⅳ)既存RC構造物を精度良く測定する目的で開発した携帯型電気測定装置の実用性,
を明らかにしておく必要がある.
本章では,上記ⅰ)∼ⅳ)の課題を,以下の順に検討している.
ⅰ)「2.2 直流比抵抗法」では,電気探査法の内,直流比抵抗法(ウェンナ配置)を用いて
見掛け比抵抗を測定することで,RC 構造物の内部(鉄筋等の存在,腐食状況)推定が可
能かを,明らかにすることを目的に検討した.
ⅱ)「2.3 強制分極法」では,電気探査法の内,強制分極法(=IP 法,ウェンナ配置)を用
いて見掛け充電率を測定することで,RC 構造物の内部(鉄筋等の存在,腐食状況)推定
が可能かを,明らかにすることを目的に検討した.
ⅲ)「2.4 電気探査法と既存測定法の解析上の比較検討」では,RC 構造物の鉄筋腐食度推定
を行う電気探査法と既存測定法(分極抵抗法,交流インピーダンス法)の電気的挙動の
類似性と差異を明らかにする目的で,解析上の比較検討を行った.測定ではなく解析上
で検討したのは,
「測定誤差」と「RC 供試体の湿潤状態による電気的挙動の差異」を発
生させないためである.
ⅳ)「2.5 携帯型電気測定装置の開発」では,RC 構造物の電気探査測定のために開発した携
帯型電気測定装置の実用性を明らかにすることを目的に検討した.具体的には,
「RC 供
試体」,「実物の等価回路」,「解析上の等価回路モデル」の各々に直流電流を通電し,「RC
供試体の等価回路の妥当性」および「携帯型電気測定装置の実用性」を検討した.
2.2 直流比抵抗法
直流比抵抗法については,文献1)に述されている.この文献によれば,電気探査法の一種
である直流比抵抗法は,直流の電流を一対の電極(+と−)を通して地盤やRC構造物に流し,
その出力(電位差)を別の一対の電極(+と−)で測定する.各種の電極配置が提案されて
いるが,どの電極配置でも地表やRC構造物表面には計 4 本の電極棒を設置する.
これらの入力電流と出力電位差から見掛け比抵抗値を算出するが,4 本の電極棒を水平移
12
動することで水平方向の見掛け比抵抗分布,4 本の電極棒の電極間隔を拡大することで深さ
方向の見掛け比抵抗分布を,各々得ることができる.この見掛け比抵抗分布から鉄筋位置,
鉄筋腐食状況,空洞位置等を推定することが可能となる.
2.2.1 測定目的
地盤を測定対象として直流比抵抗法を用いる場合,得られる見掛け比抵抗値は,1Ωm程度
(頁岩等)から 106Ωm程度(新鮮な火成岩類等)と広範囲になり,同じ岩質・同じ岩級であ
っても 10 倍以上,値が増減することが知られている.すなわち,見掛け比抵抗は地盤変質の
度合いや含水率の差異を反映するため,比較的増減幅が小さい密度や弾性係数の分布状況と
は異なり,土質性状や岩盤状態に関する有用な情報となっている.
ゆえに本節では,直流比抵抗法を用いて RC 構造物の内部(鉄筋位置,鉄筋腐食状況,空洞
位置等)推定が可能かを,明らかにすることを目的に検討した.
2.2.2 測定方法
(1) 見掛け比抵抗と電極配置係数
Z
Y
C
ρ
X
図2-1 点電流源まわりの半球面状の等電位面
図2-1に示すように,均質等方の半無限媒質の表面に点電流源Cがあり,その点電流源から
電流I[A]が全ての方向に流れ出ているものとする.媒質の比抵抗をρ[Ωm]とすると,Cを
中心とする半径r[m]の半球面上の電位φ[V]の理論解は,
φ=
ρI
2πr
(2-1)
で表される.
電流を入力する電極C1,C2と,電位差を測定する電極P1,P2間の距離を図2-2に示すように
r11,r12,r21,r22と表すと,電流電極C1とC2の2本による電位電極P1とP2の電位φ1,φ2
は,式(2-1)と重ね合わせの原理によって,
13
φ1 =φ11 +φ21 =
ρI ⎛ 1
1 ⎞
−
⎟
⎜
2π ⎝ r11 r 21 ⎠
(2-2)
I
V
C1
P1
P2
C2
r11
φ11
r22
φ22
r12
φ12
r21
φ21
図2-2 4本の電極を用いた電極配置例(ウェンナ法)
φ2 =φ12 +φ22 =
ρI ⎛ 1
1 ⎞
−
⎟
⎜
2π ⎝ r12 r 22 ⎠
(2-3)
となる(記号と位置は図2-2参照).ゆえに,式(2-2)と式(2-3)から,P1とP2間の電位差V[V]
は,
V =φ1 −φ2 =
ρI ⎛ 1
1
1
1 ⎞
−
−
+
⎜
⎟
2π⎝ r11 r12 r 21 r 22 ⎠
(2-4)
と表される.比抵抗ρが未知の場合は,式(2-4)から,
ρ= K
V
I
1
1
1 ⎞
⎛ 1
K = 2π⎜
−
−
+
⎟
⎝ r11 r12 r 21 r 22 ⎠
(2-5)
−1
(2-6)
として求めることができる.ただし,媒質が半無限で均質な場合を仮定した理論解なので, 不
均質な実地盤での測定値(VとI)を式(2-5)と式(2-6)に入力することで得られるρは,見掛
け比抵抗と呼ばれている.なお,式(2-6)のK[m]は,図2-2に示す4本の電極間隔を反映した
変数であるため,電極配置係数と名付けられている.特に,C1-P1,P1-P2,P2-C2間隔をa[m]
と等しくした場合は,ウェンナ(Wenner)法と呼ばれ前述のr11,r12,r21,r22は式(2-7),K は
式(2-8)となる.
14
r11 = r 22 = a, r12 = r 21 = 2a
(2-7)
K = 2πa
(2-8)
ゆえに,ウェンナ(Wenner)法の場合,式(2-5)の比抵抗ρは式(2-9)となる.
ρ= 2πa
V
I
(2-9)
一般的に,地盤は均質ではなく不均質なので,比抵抗ρは見掛け比抵抗と呼ばれており,
電気探査結果を視覚的かつ簡便的に検討する方法の一つとして,見掛け比抵抗ρが用いられ
ている.
RC構造物の場合は半無限地盤と異なり,有限な部材寸法や境界が存在する.しかし,電極
配置(図2-2参照)規模が,有限な部材寸法や境界までの距離に比べて小さい場合は,近似的に
半無限媒質(式(2-9))を前提とした見掛け比抵抗ρを用いることで内部推定が可能と予想で
きる.その理由で,提案されている各種の電極配置のうち,電極配置規模が最も小さいウェ
ンナ(Wenner)法を採用した.
図2-3 探査深度と探査範囲の比較例(参考文献1)に一部加筆)
ウェンナ(Wenner)法以外にも数種の電極配置があり,探査深度,探査範囲,感度(入力電
流に対する出力電位の割合)等に応じて選択することが可能である(図2-3と表2-1参照).
ⅰ)地盤探査の場合は,他の電極配置に比べ深い探査深度と広い探査範囲が得られる二極法
配置が主に用いられている.ただし,入力電極C2と出力電極P2を測定位置(入力電極C1と
出力電極P1)から遠方(具体的には電極間隔aの10∼50倍以上遠方)に設定する必要があ
るため,有限境界を有するRC構造物には適していないと判断した.
15
ⅱ)RC構造物の電気探査を行っている本研究の場合は,最も歴史があるウェンナ法を用いて
いる.全ての電極配置において入力電極C1,C2間の電位差が最大となるため,出力電極
P1,P2を入力電極C1,C2間に配置するウェンナ配置は,他の電極配置に比べ出力電位が大
きくなる傾向がある.一般的な地盤探査に比べて高比抵抗のRC構造物の場合は,入力電
流,出力電位とも小さくなる傾向があるため,全ての電極配置のうちでウェンナ配置が
最も適しているといえる.
入力電極C1,C2は左側,出力電極P1,P2は右側と分離している二極法配置,ポール・ダ
イポール配置,ダイポール・ダイポール配置では,入力電極と出力電極の中間位置に探
査位置を設定しているが,その物理的根拠が不明瞭である.一方,ウェンナ配置は電極
位置(左からC1,P1, P2,C2の配置順)と探査位置(P1,P2 の中間位置)の関係が明確で分
かり易い.
表面の測線長を一定(=24m)とした場合,
「二極法配置では最大電極間隔:a=24m」
,
「ダ
イポール・ダイポール配置では最大電極間隔:a=(n+1)×b/2=(10+1)×2/2=11m」
,
「ウェ
ンナ配置では最大電極間隔:a=24/3=8m」となる.ゆえに,
「二極法配置では最大深度
=24m」
,
「ダイポール・ダイポール配置では最大深度=11m」
,
「ウェンナ配置では最大深度
=8m」となり,他の測定法に比べてウェンナ法の探査深度は浅いが,1.0m2断面程度のRC
部材の鉄筋かぶりでも5∼20cm程度と深くないため,問題無いと考えられる.
表2-1 電気探査法の電極配置一覧(参考文献1)に一部加筆)
16
(2)
見掛け比抵抗の算出
図2-4 電流I1,一次電位VRと二次電位VS(t)
ρ= 2πa
VR
I1
(2-10)
ここに,a[m]:電極間隔,VR [V]:安定した一次電位,I1[A]:安定した電流,Vs(t)[mV]:電
流I1切断後の二次残留電位.
表2-1に示すウェンナ法の電極配置を用いて入力電流と出力電位を測定すると,
無筋供試体
の場合は矩形の入力電流に対して矩形の出力電位が確認できたが,RC供試体の場合は矩形の
入力電流に対して図2-4に示すように時間遅れを有する出力電位が観察できた
(この現象は既
存文献10)にも示されている)
.式(2-10)に示す見掛け比抵抗ρは,安定した一次電位VR[V]と
安定した電流I1[A]の比に,電極係数2πaを乗じた値として算出した.なお,電位安定後の抵
抗値は分極抵抗(2.4.2節参照)と呼ばれることが以前から知られている.
上記の検討から,直流比抵抗法(ウェンナ配置)を用いて見掛け比抵抗を測定することで,
RC 構造物を内部推定できる可能性が高いことが明らかになった.
2.3. 強制分極法
2.3.1 測定目的
地盤の電気探査の場合,金属鉱物を含む地盤に電流を流すと,鉱物の表面と周辺の間隙水
との間に電荷が蓄えられる.そして,電荷の蓄積が完了すると電界は定常状態(一次電位)
になり,その後,電流を切断するとその瞬間から電荷の放出に伴う電流(二次電位)が流れ
17
る(図2-5参照).このような現象を誘導分極(Induced Polarization)といい,誘導分極効果を
測定して内部構造を探査する手法を強制分極(IP)法と呼ぶ.強制分極法1),2)は,本来,金属
鉱物の存在を推定するための地盤の電気探査法であり,その電極配置は見掛け比抵抗測定時
の図2-2と同じである.
RC構造物の場合,コンクリート中では正負のイオンが均等に分布しているが,鉄筋とコン
クリートの界面では厚さ数十Å(オングストローム,1Å=10(-10)m)の範囲で正負の電荷が分
離している.この電気二重層と呼ばれる領域は,正負の電荷が向き合った状態であり,電気
回路素子のコンデンサーに似た電気的挙動が認められることが知られている.
コンクリートは電気を通し難く(高比抵抗)
,鉄筋は電気を通し易い(導体)ため,前節の
直流比抵抗法で得られる見掛け比抵抗だけでも,RC構造物内の鉄筋位置を推定可能と期待で
きる.ただし,本研究の主目的は,RC構造物内の鉄筋位置,大きさ,腐食状態等の高精度な
推定である.ゆえに,直流比抵抗法と強制分極(IP)法の両方を用いて,より精度の良いRC
構造物内の内部推定を目指している.
図2-5 一次電位分布と二次電位分布(参考文献1)を一部修正)
2.3.2 測定方法
誘導分極現象を数量で表すため,一次電流切断後の一定時間(t4-t3)[sec]の二次電位の積
分値と一次電位との比を用いる.具体的には,図2-6に示すように,一次電位をVR[V],二次
電位をVS(t)[V]として誘導分極現象を表している.
図2-6 誘導分極現象
18
M =
1
VR (t 4
−t )∫
3
t4
t3
(2-11)
VS (t ) dt
ここに,M [mV/V]:見掛け充電率,VR [V]:安定した一次電位,I1[A]:安定した電流,Vs(t)[mV]:
電流I1切断後の二次残留電位.
OK
0.8
i [mA]
i [mA]
4
3
電流[mA]と電位[V]
電流[mA] と 電位[V]
5
v [V]
2
1
0
0.6
v [V]
0.4
0.2
0
-0.2
-1
0
5
10
15
20
時刻 (sec)
25
30
35
0
40
(a) 無筋供試体の測定例(誘導分極なし)
5
10
15
20
時刻 (sec)
25
30
35
40
(b) RC供試体の測定例(誘導分極あり)
図2-7 誘導分極が無い場合と有る場合の測定例
前節にも述べたように表2-1に示すウェンナ法の電極配置を用いて入力電流と出力電位を
測定すると,無筋供試体の場合は矩形の入力電流に対して矩形の出力電位が確認できた(図
2-7(a)参照)が,
RC供試体の場合は矩形の入力電流に対して時間遅れを有する出力電位が観察
できた(図2-7(b)参照).
ゆえに,式(2-11)に示す見掛け充電率M [mV/V]は,安定した一次電位VR [V]と電流I1切断後
の二次残留電位Vs(t)[mV]の両者を,
(t4-t3)[sec]区間で積分した値の比となっている.
なお,
この値の単位は[(Vsec)/(Vsec)] であるが絶対値が小さいので実用上は1000 倍して
[(mVsec)/(Vsec)]= [mV/V]として用いている1).
見掛け比抵抗と見掛け充電率を算出する際の測定時間の内訳一覧を,表 2-2 と表 2-3 に示
す.無筋コンクリート部に比べ鉄筋部では見掛け充電率が大きくなるので,鉄筋部では収束
時間も長くなる傾向がある(図 2-7 参照)
.
表 2-2 見掛け比抵抗と見掛け充電率算出時の測定時間の内訳一覧
(a) 測定時間45秒(矩形波13.80秒)の内訳
サンプリング
1) X 2)
※
1) 時間間隔 2) 個数 抽出時間
区間
(sec)
(個)
(sec)
(t 1−0)
9
3.11
(t 2−t 1)
40
13.80
0.345
(t 3−t 2)
6
2.07
(t 4−t 3)
10
3.45
(45−t 4)
65
22.43
小計 130
44.85
※ t 1∼t 4は,図2-6参照.
(b) 測定時間40秒(矩形波20秒)の内訳
サンプリング
1) X 2)
※
1) 時間間隔 2) 個数 抽出時間
区間
(sec)
(個)
(sec)
(t 1−0)
600
8.0
(t 2−t 1)
1500
20.0
0.01333
(t 3−t 2)
150
2.0
(t 4−t 3)
270
3.6
(40−t 4)
480
6.4
小計 3000
40.0
(c) 測定時間100秒(矩形波50秒)の内訳
サンプリング
1) X 2)
※
1) 時間間隔 2) 個数 抽出時間
区間
(sec)
(個)
(sec)
(t 1−0)
600
20.0
(t 2−t 1)
1500
50.0
0.03333
(t 3−t 2)
60
2.0
(t 4−t 3)
108
3.6
(100-t 4)
732
24.4
小計 3000
100.0
ゆえに,
オシロスコープ画面で目視して測定電位が安定するまでに 10 秒程度必要な場合は,
45 秒(矩形波 13.80 秒)間と 40 秒(矩形波 20 秒)間の測定を行った.また,オシロスコー
プ画面で目視して,測定電位が安定するまでに 40 秒程度必要な場合は,100 秒(矩形波 50
19
秒)間の測定を行った.
表 2-3 測定時間等の諸元一覧
※1
分類
(a)
(b)
測定
時間
(sec)
44.85
矩形波
時間
(sec)
13.8
サンプリング
間隔
(sec)
0.345
ナイキスト
40.0
20.0
0.01333
37.5
※2
振動数
(Hz)
1.4
測定例を
示した「章」
5章2節
5章3節
5章4節
7章2節
7章3節
7章4節
(c)
100.0
50.0
0.03333
15.0
※1 表2-2参照.
※2 ナイキスト振動数=1/2/(サンプリング間隔).
上記の検討から,強制分極法(ウェンナ配置)を用いて見掛け充電率を測定することで,
RC 構造物の無筋位置と鉄筋位置を区別できることが明らかになった.
2.4 電気探査法と既存測定法の解析上の比較検討
既存 RC 構造物の鉄筋腐食度判定手法には,自然電位法,分極抵抗法,交流インピーダン
ス法がある.本節の目的は,電気探査法と上記の内の 2 方法(分極抵抗法,交流インピーダ
ンス法)の解析上の比較検討を行い,それぞれの長所短所を明らかにすることである.
なお,電気探査(ウェンナ)法で用いた等価回路の詳細は,
「2.5 節 携帯型電気測定装置の
開発」に述べることにする.
2.4.1 電気探査(ウェンナ)法
図 2-8 電気探査(ウェンナ)法の配置(参考文献6)一部修正)
P1
P2
R1
C1
R3
R2
Rs4 Cs1
48V : 矩形波入力
図 2-9 電気探査(ウェンナ)法の等価回路
20
C2
図 2-8 は電気探査(ウェンナ)法の配置を,図 2-9 はこの等価回路を,各々示している.
図 2-9 において,C1 とC2:電流入力点,P1 とP2:電位(差)の測定点,R1:鉄筋部とコンクリ
ート部の抵抗,R2とR3:周辺コンクリート部の抵抗,Rs4:電気二重層」6)に関する抵抗,Cs1:
電気二重層に関するコンデンサー容量,図中の水色部:既存測定 2 方法(分極抵抗法と交流
インピーダンス法)と共通する鉄筋とコンクリートの測定部を,各々表している.
本研究の研究成果を要約する目的で,既報告の 3 測定例34)(無筋位置,健全鉄筋位置,腐
食鉄筋位置)の測定例を以下に示す.図 2-10 は,長さ 34cm,高さ 10cm,奥行き 24cm(材齢
224∼242 日)の 3 供試体位置を電気探査(電極間隔 4cmのウェンナ法)した際の測定値とモ
デル化19),33)を示している.さらに,図 2-10 のモデル化を図 2-9 の等価回路で表現した場合の
物性値を表 2-4 に示している.この表 2-4 中の見掛け比抵抗と見掛け充電率を,図 2-11(供
試体 12 個の測定実績)上にプロットすることで,簡便に鉄筋の存在や腐食状態を推定可能で
ある(6 章参照)
.
0.25
電流[mA]と電位[V]
I [mA]モデル化
V [V]測定値
0.15
V [V]モデル化
0.1
0.05
0
I [mA]モデル化
0.6
0.5
V [V]測定値
0.4
V [V]モデル化
0.3
0.2
0.1
0
-0.1
-0.05
0
10
20
時間 (sec)
30
0
40
1) 無筋位置の測定値とモデル化
0.25
10
20
時間 (sec)
30
40
3) 塩害腐食鉄筋位置の測定値とモデル化
I [mA]測定値
0.2
電流[mA]と電位[V]
I [mA]測定値
0.7
0.2
電流[mA]と電位[V]
0.8
I [mA]測定値
I [mA]モデル化
V [V]測定値
0.15
V [V]モデル化
0.1
0.05
0
-0.05
0
10
20
時間 (sec)
30
40
2) 黒皮付きの健全鉄筋位置の測定値とモデル化
図 2-10 電気探査(ウェンナ)法による測定値とモデル化
上記の検討から,物理探査法の一種である電気探査法1),2)を用いて,はつり作業を行わずRC
構造物表面から見掛け比抵抗1)と見掛け充電率1)を測定することで,無筋位置,塩害腐食鉄筋
21
位置,健全鉄筋位置を簡便かつ精度良く判定できることが明らかとなった.また,電気探査
法で得られた測定結果(図 2-10 参照)を,開発した等価回路で模擬することもできた(図
2-9 と表 2-4 参照)
.
表 2-4 電気探査法による等価回路の抵抗値とコンデンサー容量
抵抗等
R1[Ω]
見掛け比抵抗
[Ωm]
※1
状態
無筋
健全鉄筋
腐食鉄筋
凡例 ※1
※2
784
197
709
178
567
143
R2
[Ω]
R3
[Ω]
Rs4
[Ω]
125,592
125,592
無し
107,998
107,998
3,992
35,580
35,580
6,655
Cs1[μF]
見掛け充電率
[mV/V] ※2
無し
1,500
88
500
51
R1と電極間隔(4cm)から「見掛け比抵抗」を算出.
コンデンサー性能から「見掛け充電率」を算出.
見掛け充電率 [mV/V]
1000
黒皮付きの健全鉄筋
100
塩害腐食鉄筋
強 − 腐食状態 − 弱
10
無筋コンクリート
1
10
100
1000
見掛け比抵抗 [Ωm]
10000
図 2-11 見掛け比抵抗と見掛け充電率の関係
2.4.2 分極抵抗法
図 2-12 は分極抵抗法の配置を,図 2-13 はこの等価回路を,各々示している.この分極抵
抗法の等価回路は,鉄筋端部をはつり出す交流インピーダンス法の等価回路(図 2-16 参照)
と同様であるが,電位の測定点 P2 位置がそれとは異なっている.なぜなら,分極抵抗法は,
コンデンサー(Cs1)充電後の分極抵抗(R1)を求めることが目的の測定法であるためである.
さらに,この等価回路の物性値一覧を表 2-5 に示す.分極抵抗法と鉄筋端部をはつり出す交
流インピーダンス法の測定時の境界条件(R2 と R3)が同一であるため,表 2-5 の物性値一覧
は交流インピーダンス法の物性値一覧(表 2-8 参照)で同じである.これらの物性値を用いた
分極抵抗法の模擬解析結果を図 2-14 に示す.この図に示す電流と電位は,測定時にはバラツ
キが生じると予想できるが,本節は解析上の検討なので当然バラツキの無い直線関係となっ
た.
22
図 2-12 分極抵抗法の配置(参考文献6)一部修正)
P1
P2
R1
C1
R3
R2
C2
Rs4 Cs1
10∼100V
矩形波入力
図 2-13 分極抵抗法の等価回路
表 2-5 分極抵抗法による等価回路の抵抗値とコンデンサー容量
抵抗等
R1[Ω]
R2[Ω]
※1
R3[Ω]
※2
Rs4[Ω]
Cs1[μF]
無筋
784
0
3,100
無し
無し
健全鉄筋
709
0
3,100
3,992
1,500
腐食鉄筋
567
0
3,100
6,655
500
状態
凡例 ※1 露出鉄筋部の抵抗値を零と仮定.
※2 溶液抵抗値(周辺コンクリートの抵抗値)を測定結果の平均値と仮定.
25
V [V]
15
電位
20
10
無筋
5
健全鉄筋
腐食鉄筋
0
0
5
10
15
電流 I [mA]
20
25
図 2-14 分極抵抗法による解析結果
23
30
安定した電流と電位を(オシロスコープ等で目視確認することなく)確保することを想定
して,矩形波 100 秒を 10Vキザミで 10∼100Vまで負荷して,得られた電流(I)と電位(V)
の勾配から分極抵抗値(R1)を算出した.そのため,分極抵抗値(R1)を得るために 1000(=100
秒×10 ケース)秒程度が必要であった.
既存文献6)に示された分極抵抗値の次元と一致させるため,分極抵抗値(R1)に測定した
鉄筋断面積(D2.4,断面積=5.07cm2)を乗じている.表 2-6 と表 2-7 を比較すると,健全鉄
筋(不動態)の分極抵抗の方が,腐食鉄筋(活性腐食)のそれより大きい傾向は類似してい
るといえる.
ただし,交流インピーダンス法に比べると短いが,1 測定点毎に 17 分(≒1000 秒)間程度以
上の長時間が必要である.また,電気探査法や交流インピーダンス法に比べて,コンデンサ
ー効果に関する測定値が無いため,分極抵抗値(R1)のみから鉄筋の腐食状態等を推定する
必要である.例えば,550Ωと 750Ωが測定された場合,550Ω位置は腐食鉄筋と推定できる
が,750Ω位置を健全鉄筋または無筋コンクリートのどちらかと推定することが困難である.
また,図 2-12 に示すように鉄筋端部をはつり出す局部破壊作業も必要なので,分極抵抗法に
比べ電気探査法の方が,理論面,実用面でも優れていると考えられる.
表 2-6 分極抵抗法の模擬解析で得られた分極抵抗値
表 2-7 既存文献6)による分極抵抗値
鋼の
表面状態
腐食状態
R1' [Ωcm2]
さびを含む
ミルスケール付き
不動態
105∼106
研磨
活性腐食
104∼105
2.4.3 交流インピーダンス法
交流インピーダンス法は,0.001Hz∼100Hz 程度の交流電流を鉄筋に負荷し,周波数毎の「抵
抗値」と「電流に対する電位の位相差」から腐食度を判定する検査方法であり,実績も豊富
である.しかし,RC 構造物から鉄筋端部をはつり出す局部破壊作業が必要であり,測定時間
の長さや測定結果解釈の難解さ等が実用上問題となっている.
24
図 2-15 交流インピーダンス法の配置(参考文献6)一部修正)
P1
P2
R1
C1
R2
C2
R3
Rs4 Cs1
±48V : 正弦波入力
図 2-16 交流インピーダンス法の等価回路
表 2-8 交流インピーダンス法による等価回路の抵抗値とコンデンサー容量
抵抗等
低周波時
R1 R2[Ω] R3[Ω] Rs4
※1
※2
[Ω]
[Ω]
Cs1 R1+R3
[μF] [Ω]
状態
784
0
3,100
健全鉄筋 709
0
3,100 3,992 1,500
腐食鉄筋 567
0
3.100 6,655
無筋
無し
無し
500
高周波時
(R1*Rs4)/(R1+Rs4)
+R3 [Ω] 無筋以外
位相差 [度]
R1+R3=3,884Ωで一定 ※3
位相差=0度で一定 ※3
3,809
3,702
文献6)等を参照
3,667
3,622
文献6)等を参照
凡例 ※1 露出鉄筋部の抵抗値を零と仮定.
※2 溶液抵抗値(周辺コンクリート部の抵抗値)を測定結果の平均値と仮定.
※3 コンデンサー効果が無いため,抵抗値,位相差ともに一定.
図 2-15 は交流インピーダンス法の配置を,図 2-16 はこの等価回路を,各々示している.
交流インピーダンス法は,図 2-16 と表 2-8 のように,測定時の境界条件(R2とR3)が電気探
査(ウェンナ)法と異なっている.具体的には,R2は露出鉄筋部の抵抗,R3は溶液抵抗 6) (交
流インピーダンス法による鉄筋測定部の直上のコンクリート部の抵抗)
を,
各々表している.
電気探査(ウェンナ)法と交流インピーダンス法の測定箇所を考慮すると,R1,Rs4,Cs1は,
同じ箇所を測定するので,表 2-4 に示す電気探査法の抵抗値とコンデンサー容量とを一致さ
25
せた.R2は,露出鉄筋の抵抗値であるため,近似的に零と仮定した.R3は,鉄筋測定部の直
上のコンクリート部の抵抗(溶液抵抗)であり電気探査法では測定していないので,5.4.7
節の分極抵抗法実施時に測定した溶液抵抗(18 箇所)の平均値を用いた.
4000
抵抗値
(Ω)
3900
R 1 +R 3
R 1 +R 3
無筋
健全鉄筋
腐食鉄筋
R 1 +R 3
3800
(R 1 *Rs 4 )/(R 1 +Rs 4 )+R 3
3700
R 1 +R 3
(R 1 *Rs 4 )/(R 1 +Rs 4 )+R 3
3600
0.001
0.01
0.1
測定周波数
1
(Hz)
10
100
1) 周波数と抵抗値の関係
電流に対する電位の位相差
(度)
0.2
0.0
-0.2
無筋
健全鉄筋
腐食鉄筋
-0.4
-0.6
-0.8
-1.0
0.001
0.01
0.1
測定周波数
1
(Hz)
10
100
2) 周波数と位相差の関係
図 2-17 交流インピーダンス法による解析結果
上記の抵抗値とコンデンサー容量を用いて実施した模擬解析結果である表 2-8 と図 2-17
から,「低周波数(0.001∼0.00316Hz)における抵抗値が「R1+R3」となること」,「高周波数
(0.316∼100Hz)における鉄筋モデルの抵抗値が「R1+R3」から「(R1×Rs4) / (R1+Rs4) +R3」に低下
すること」
,
「遷移周波数(0.01∼0.1Hz)における鉄筋モデルの位相差が変化すること」等,解
析結果は交流インピーダンス法による測定実績 6)と傾向が類似(図 2-17 の「周波数と抵抗値
(位相差)の関係」の表示方法は文献 6)からの引用)する.ゆえに,得られた「R1+R3」,「(R1×
Rs4) / (R1+Rs4) +R3」,「電流に対する電位の位相差」から,鉄筋腐食状態を推定可能である.
10∼100 サイクル程度の安定状態の電流と電位を測定する交流インピーダンス法の場合,1
測点毎の測定時間は 80 分以上(例えば 0.001Hz 正弦波 5 サイクルは 1/0.001×5=5,000 秒)必
要である.
一方,
コンデンサー効果の充電状態を目視確認する電気探査(ウェンナ)法の場合,
1 測点毎の測定時間は 40∼100 秒程度(本研究の実績値:電極間隔 5cm 時は 40 秒,10cm 時は
26
100 秒程度)で済むため,今後の活用が期待できる.
図 2-18
20 年経過した建物スラブの交流インピーダンス測定例 6)
図 2-18 に「20 年経過した建物スラブの交流インピーダンス測定例 6)」を示す.この図に
着目すると,10000Hz→0.001Hz と低周波数に近づくに従い,腐食試片の抵抗値(Z)が未
腐食試片のそれより,小さくなっている.また,10000Hz→0.001Hz と低周波数に近づくに
従い,未腐食試片の電流と電位の位相差・絶対値(|th.|)が未腐食試片のそれより,大きく
なっている.
上記の傾向は,本節で解析を行った「腐食試片(腐食鉄筋)と未腐蝕試片(健全鉄筋)
」の
「抵抗値と位相差の関係」
(図 2-17 参照)と類似しているので,電気探査法と交流インピー
ダンス法は,RC 構造物の同じ電気的性質(抵抗値とコンデンサー効果)を測定していること
が明らかである.
ただし,交流インピーダンス法は,測定時間の長さと鉄筋端部をはつり出す局部破壊作業
が必要であり,電気探査法の優位性が確認できたといえる.
27
2.5 携帯型電気測定装置の開発
2.5.1 開発目的
RC 構造物の既存の鉄筋腐食度判定手法には,自然電位法,分極抵抗法,交流インピーダン
ス法の 3 方法がある.
これら 3 方法とも RC 構造物から鉄筋端部をはつり出す局部破壊作業が
必要であり,特に分極抵抗法と交流インピーダンス法は測定時間の長さや測定結果解釈の難
解さ等が実用上問題となっている.
これに反し,物理探査法の一種である電気探査法1),2)では,はつり作業を伴わずRC構造物表
面から測定を行える.安定後の入力電流と測定電位から見掛け比抵抗を算出することで,分
極抵抗が明らかになり,電流入力直後から測定値安定までの遷移電流と遷移電位を数値積分
し見掛け充電率を算出することで,コンデンサー効果が推定できる.ただし,上記の遷移過
程を数値積分するためには,入力電流と測定電位を時系列上で正確に把握する必要がある.
上記の理由で,地質探査用の電気探査法(直流比抵抗法および強制分極法)を,既存RC構
造物の鉄筋腐食推定に関して簡便かつ精度良く利用できるように,携帯型電気測定装置を開
発した.なお,電極配置は,測定感度の高さと,電極配置の簡便さからウェンナ法1),2)を採用
した.RC構造物表面から測定できる電流と電位(図2-6参照)を用いて,本研究では,見掛け
比抵抗ρ[Ωm]と見掛け充電率M [mV/V]から,鉄筋位置と腐食状態を推定している.
式(2-10)に示す見掛け比抵抗と式(2-11)に示す見掛け充電率を正確に測定する目的で,デ
ータ・サンプリング間隔を比較的短時間(最小間隔は1.0秒/75区間=0.01333秒間)に設定で
きるオシロスコープを採用した.さらに,劣化した既存RC構造物の非破壊検査に用いる目的
で,電気測定装置を携帯型として開発した.
図2-19 二次残留電位の数値積分の一例
28
データ・サンプリング間隔(⊿t)を細かくするほど,図 2-19 に示すように二次残留電位
(Vs(t))との近似度が高くなり,見掛け充電率を精度良く数値積分できるようになる.具体
的には,データ・サンプリング間隔として 0.345,0.03333,0.01333 秒の 3 種類を設定した
ので,それに伴いナイキスト振動数(分解能の上限)も 1.4 Hz(=1/2/0.345)から 37.5 Hz
(=1/2/0.01333)と高精度化した(表 2-3 参照)
.
2.5.2 携帯型電気測定装置の構成
直流電源
シ
ャ
ン
ト
抵
抗
携帯型
オシロ
スコープ
差動
プローブ
その1
USB
差動
プローブ
その2
可変
抵抗器
ノート・パソコン
+
−
RC構造物
図 2-20 携帯型電気測定装置の概要
写真 2-1 携帯型電気測定装置を用いた測定風景
29
開発した携帯型電気測定装置の回路概略図と測定風景を,各々図 2-20 と写真 2-1 に示す.
以下の理由で,
「携帯型」と「パソコン上での測定システム」機能を有する電気測定装置を開
発した.
見掛け比抵抗(2.2節参照)を測定現場にてリアルタイムで算出するためには,入力電流と
出力電位が安定していることを目視確認する必要があり,見掛け充電率(2.3節参照)を測定
現場にてリアルタイムで算出するためには,入力電流と出力電位の遷移状態を目視確認後,
数値積分する必要がある.さらに,複数個所測定後には,見掛け比抵抗分布図と見掛け充電
率分布図を表示し確認する必要もあった.
START
Ⅰ.測定の準備
①電極測点の設置
②アース点の設置
Ⅱ.測定の実施
①入力電流と出力電位の
目視確認
②上記データの記録
Ⅲ.図化ファイルの作成
①図化ファイル作成コードの
起動
②見掛け比抵抗と
見掛け充電率の計算と記録
③コンデンサー容量の算出
Ⅳ.分布図の表示
①EXCELコードの起動
②図化ファイルの読込み
③見掛け比抵抗マクロと
見掛け充電率マクロの起動
④コンデンサー容量マクロの
起動
Ⅴ.測定結果評価
①見掛け比抵抗分布と
見掛け充電率分布の検討
②コンデンサー容量の検討
③空洞部、無筋部、鉄筋部、
腐食鉄筋部の推定
END
図 2-21 鉄筋腐食度推定システムの流れ
30
範囲が,携帯型
電気測定装置の使用箇所
を示す.
図化ファイル作成コードは
Fortran言語で作成.
マクロは
Excel・VBA言語で作成.
図 2-22 オシロスコープのパソコン出力画面
見掛け比抵抗マクロ
見掛け 比抵抗
2008
7
200
55
150
35
220
44
210
51
190
35
Ωm
見掛け充電率マクロ
テスト データ
26
610
550
620
600
620
33
15
20
30
5
見掛け 充電率
2008
7
50
233
20
220
35
210
20
250
3
230
200
150
220
210
190
見掛け比抵抗 (Ωm)
mV/V
26
50
20
35
20
3
テスト データ
301
320
330
480
320
33
15
20
30
5
見掛け充電率 (mV/V)
S1
S1
600-700
S2
500-600
S2
400-500
400-500
300-400
300-400
S3
S3
200-300
100-200
S4
200-300
100-200
0-100
S4
0-100
1
2
3
4
S5
5
1
2
3
4
S5
5
図 2-23 見掛け比抵抗分布と見掛け充電率分布
上記の問題点を解決するため,オシロスコープはノートパソコン画面で電位波形が確認出
来る携帯型(SDS200A,softDSP社製,電源はノートパソコンのUSB)を採用した.RC構造物に入
力する電流は,48Vの矩形(直流)波とした.入力電流は,図 2-20 に示すシャント抵抗(1.0kΩ)
で電位換算し差動プローブPP13),14)(Model700925,横河電機社製,電源は 6V電池)を経て,
上記オシロスコープのチャンネル 1 で測定と記録を行った.差動プローブは,任意な 2 点間
の電位差を精度良く測定するためのオシロスコープ付属装置である.
31
RC 構造物の出力電位は,可変抵抗器(自作)と差動プローブ(電流部と同製品)を経て,
上記オシロスコープのチャンネル 2 で測定と記録を行った.可変抵抗器の選択範囲は 4∼
100MΩ であり,接地抵抗の比較的大きな乾燥した RC 構造物(具体的には 2MΩ 程度)の電位
測定時にも 50 倍程度の内部抵抗が確保出来るよう自作した.
所定箇所の入力電流と出力電位
を測定後,同じノートパソコン上の鉄筋腐食度推定コード(Fortran 言語と Excel VBA 言語
で開発,図 2-21∼図 2-23 参照)を起動することで,見掛け比抵抗分布図,見掛け充電率分
布図を得ることができ,鉄筋等の存在と腐食状態をパソコン画面で瞬時に推定することが可
能である.
図 2-23 に示す見掛け比抵抗分布図,見掛け充電率分布図から,
『無筋コンクリート,黒皮
付きの健全鉄筋,塩害腐食鉄筋位置の順に,見掛け比抵抗が小さくなり』
,
『健全鉄筋,塩害
腐食鉄筋,無筋コンクリート位置の順に,見掛け充電率が小さくなる』ことを考慮して,RC
構造物の内部推定を実施するが,無筋コンクリート,健全鉄筋,塩害腐食鉄筋の推定手順の
詳細は 6 章に詳述している.
各構成機器の大きさと重さの概要を以下に示す.
・携帯型オシロスコープ
:15×12×5cm, 0.3kgf
・差動プローブ 2 台分
:20×7×6cm, 0.9kgf
・ その他(直流電源,シャント抵抗,可変抵抗器) :20×15×10cm,1.3kgf
ノートパソコンを含めても 5kgf 以下と軽量なので,RC 構造物の野外測定も手軽に行える
ようになった.
2.5.3 携帯型電気測定装置の検定
(1) 電気解析理論の概要
RC構造物の地震時挙動が運動方程式(微分方程式)で表せるように,電気挙動も微分方程
式で表されることが以前から知られている.一例として,コイル,抵抗,コンデンサーが直
列に繋がれた電気回路を図2-24に示す.同図において,LはコイルのインダクタンスでVL は
コイルでの電位降下,Rは抵抗値でVR は抵抗での電位降下,Cはコンデンサー容量でVC は
コンデンサーでの電位降下を各々示している.さらに,VとI は入力電位と入力電流を各々表
している.
VL
VR
VC
L
R
C
V
I
図2-24 コイル,抵抗,コンデンサーの直列回路
32
VL = L
dI
dt
(2-12)
(2-13)
VR = RI
VC =
1
C
(2-14)
t
∫ Idt
まず電気理論の定義から上記の3式が導かれ,さらにキルヒホッフの第二法則から式(2-15)
が得られる.式(2-16)は式(2-15)を時間微分したものであり,電気挙動が微分方程式で表され
ることが明らかである.
L
dI
1
+ RI +
dt
C
∫ Idt = V
(2-15)
L
d 2I
dI I
dV
+R
+ =
2
dt
dt C
dt
(2-16)
t
(2) 等価回路の作製
写真2-2 RC供試体を模擬した実物の等価回路(電源部を除く)
C1
I1
P1
( I1 - I 2 )
P2
R1
I1
C2
R3
R2
Rs4 Cs1 I2
V : 矩形波
図2-25 RC供試体を模擬した解析上の等価回路モデル
33
開発した携帯型電気測定装置の実用性を検証する目的で,RC供試体の電気挙動を模擬した
実物の等価回路(写真2-2参照)を作製した.さらに,この等価回路の電気挙動を連立微分方
程式で解析する目的で,解析上の等価回路モデル(図2-25参照)も構築した.
写真2-2と図2-25において,C1とC2:電流入力点,P1とP2:電位差の測定点,V[V]:等価回
路全体の電位,I1[A]:矩形の入力電流,(I1-I2)[A]:抵抗R1を流れる電流,I2[A]:抵抗Rs4と
コンデンサーCs1を流れる電流を,各々表している.
(2-17)
R2 I1 + R1 ( I1 − I 2 ) + R3 I1 = V
R1 ( I1 − I 2 ) = Rs 4 I 2 +
1 t
I 2 dt
Cs1 ∫
(2-18)
式(2-18)はP1,P2点間の電圧の均衡を各々示している.
式(2-17)はC1,C2点間の電圧の合計V,
ここで,式(2-18)の最後尾に示す積分記号を消去するため,式(2-19)に示す変数Q2を導入し
式(2-17)と式(2-18)に代入すると,式(2-20)と式(2-21)が得られる.
Q2 =
∫
t
I 2 dt または
( R1 + R2 + R3 ) I1 − R1
R1 I1 − ( R1 + Rs 4 )
dQ2
= I2
dt
(2-19)
dQ 2
=V
dt
(2-20)
dQ 2 Q2
−
=0
dt
Cs1
(2-21)
さらに,式(2-20)と式(2-21)を変形すると,式(2-22)と式(2-23)が得られる.
dQ 2 ( R1 + R2 + R3 )
V
=
I1 −
dt
R1
R1
(2-22)
dI 1
R1
dQ 2
1 dV
=
−
dt
Cs1 ( R1 + Rs 4 ) RR dt
RR dt
(2-23)
ただし, RR =
R12
− ( R1 + R2 + R3 )
( R1 + Rs 4 )
式(2-22)と式(2-23)は,2変数Q2とI1の連立微分方程式であり,微分方程式の数値解法とし
て一般的なルンゲ・クッタ・ギル法を用いて図2-26の3)に示す等価回路の解析解を算出した.
34
(3) 携帯型電気測定装置の実用性確認
a.等価回路(実物と解析モデル)による確認
電流[mA] と 電位[V]
0.8
供試体
測定電流
[mA]
供試体
測定電位
[V]
I1
I0
0.6
0.4
VR
0.2
V0
0
-0.2
0
10
20
時間 (sec)
30
40
1) RC供試体の測定電流と測定電位
電流[mA] と 電位[V]
0.8
検定回路
測定電流
[mA]
検定回路
測定電位
[V]
I1
I0
0.6
0.4
VR
0.2
V0
0
-0.2
0
10
20
時間 (sec)
30
40
2) 等価回路(実物)の測定電流と測定電位
電流[mA] と 電位[V]
0.8
I0
0.6
I1
検定回路
解析電流
[mA]
VR
検定回路
解析電位
[V]
0.4
0.2
V0
0.0
-0.2
0
10
20
時間 (sec)
30
3) 等価回路(解析モデル)の解析電流と解析電位
図2-26 電流と電位の比較検討
35
40
既報告のRC供試体の1測点PP34)に48Vの直流矩形波を負荷した場合の電流と電位を模擬して,
式(2-24)から式(2-28)に示すように,
「実物の等価回路」
(写真2-2参照)と「解析上の等価回
路モデル」
(図2-25参照)の抵抗とコンデンサー容量を定めた.
ⅰ) 鉄筋部とコンクリート部の抵抗
R1 = VR / I1 = 0.2131/(0.5608 ×10−3 ) = 380.0 [Ω]
(2-24)
ⅱ) 周辺コンクリート部の抵抗
R 2 = R 3 = ( 48 . 0 / I 1 − R1 ) / 2 = 42600 [Ω]
(2-25)
ⅲ)矩形波・立ち上り時のP1,P2間の抵抗
R0 = V0 / I 0 = 0.08457 /(0.5782 × 10 −3 ) = 146.3 [Ω]
(2-26)
ⅳ)電気二重層6)に関する抵抗
Rs4 = ( R1 × R0 ) /( R1 − R0 ) = 237.9 [Ω]
(2-27)
ⅴ)電気二重層に関するコンデンサー容量
(2-28)
Cs1 = 9000 [μF]
「実物の等価回路」と「解析上の等価回路モデル」に示すC1,C2点間に48Vの直流を流すと,
図2-26の2)と3)に示す安定状態での電流I1[A],P1,P2点間の電位VR[V]は,各々式(2-29)と式
(2-30)の値となった.これらの値は,図2-26の1)に示すRC供試体の安定状態での測定電流
I1[A],P1,P2点間の電位VR[V]と近似した.
I 1 = 48. /( R1 + R2 + R 3 ) ≒ 0.5608 × 10 −3 [ A] = 0.5608 [ mA]
(2-29)
VR = R1I1 ≒ 0.2131 [V]
(2-30)
「RC供試体」
(図2-26の1)参照)に示す測定電流には,I0>I1の傾向が観察される.この
傾向を確認するため,
「RC供試体」,「実物の等価回路」,「解析上の等価回路モデル」の三者
の電流を図2-27に重ね書きしたところ,
「実物の等価回路」の測定電流はノイズのためI0とI1
の大小関係が明確ではないが,
「解析上の等価回路モデル」の解析電流には「RC供試体」と同様,
I0(=0.562mA)>I1(=0.561mA)の傾向が観察された.
36
0.59
電流 [mA]
0.58
0.57
I0
0.56
I1
0.55
供試体
測定電流
[mA]
等価回路
測定電流
[mA]
等価回路
解析電流
[mA]
0.54
0.53
0
10
20
時間 (sec)
30
40
図2-27 電流の比較検討
上記の検討から,「RC供試体」,「実物の等価回路」,「解析上の等価回路モデル」の三者の
電流と電位(図2-26参照)は各々近似しており,
「RC供試体の等価回路(実物と解析モデル共)
の妥当性」および「開発した携帯型電気測定装置の実用性」が検証できた.
b.コンデンサー容量のケース・スタディによる検定
コンデンサー容量の変化に対する携帯型電気測定装置の追従性を検証する目的で,図2-25
に示すコンデンサーCs1の容量を100,1000,10000,33000[μF]に切り換え可能な等価回路
を作製し,携帯型電気測定装置を用いて電流と電位を測定した.その後,それら測定値を,
ルンゲ・クッタ・ギル法による解析電流および解析電位と比較検討し,100∼33000[μF]間
で各々が近似しているかを検証した(表2-9と図2-28参照)
.コンデンサーCs1容量以外の変数
は,V=48[V],R1=380[Ω],R2= R3=42600[Ω],Rs4=238[Ω] (各変数は図2-25参照)で,一
定とした.
その結果,表2-9と図2-28に示すように『実物の等価回路』の測定電位と『解析上の等価回
路モデル』の解析電位は近似した.
以上の検討結果から,開発した携帯型電気測定装置(図2-20参照)は十分実用可能と判断
し,次章からの測定に用いている.
表2-9 等価回路での測定電位と解析電位の相関係数一覧(図2-28参照)
コンデンサー容量
[ μF ]
100
1,000
10,000
33,000
100秒間データの
相関係数
0.996
0.997
0.997
0.995
37
電流[mA] と 電位[V]
0.8
測定電流 [mA]
100μF時の測定電位 [V]
0.6
1000μF時の測定電位 [V]
0.4
10000μF時の測定電位 [V]
33000μF時の測定電位 [V]
0.2
0
-0.2
0
20
40
60
時間 (sec)
80
100
1) 等価回路(実物)の入力電流と測定電位
電流[mA] と 電位[V]
0.8
解析電流 [mA]
100μF時の解析電位 [V]
0.6
1000μF時の解析電位 [V]
0.4
10000μF時の解析電位 [V]
33000μF時の解析電位 [V]
0.2
0.0
-0.2
0
20
40
60
時間 (sec)
80
100
2) 等価回路(解析モデル)の解析電流と解析電位
図2-28 電流と電位の検定
2.6 まとめ
本章では,電気探査法を用いた RC 構造物の内部推定が可能であることと,開発した携帯型
電気測定装置の実用性を,以下の順に明らかにした.
1.
「2.2 直流比抵抗法」では,以下のことが明らかとなった.
ウェンナ法の電極配置を用いて入力電流と出力電位を測定すると,無筋供試体の場合は矩
形の入力電流に対して矩形の出力電位が確認できたが,RC供試体の場合は矩形の入力電流に
対して時間遅れを有する出力電位が観察できた.ゆえに,見掛け比抵抗は,安定後の電流と
電位から得られる抵抗値に,電極係数2πaを乗じた値として算出した.電位安定後の抵抗値
は分極抵抗と呼ばれることが以前から知られている.
全ての電極配置において入力電極C1,C2間の電位差が最も大きくなるので,出力電極P1,P2
を入力電極C1,C2間に配置するウェンナ配置は,他の電極配置に比べ出力電位が大きくなる
傾向がある.ゆえに,高比抵抗が原因で,入力電流と出力電位の両方が小さくなる傾向があ
るRC構造物の測定には,ウェンナ配置が適しているといえる,表面の測線長を一定とした場
合,他の測定法に比べてウェンナ法の探査深度は浅めであるが,1.0m 2 断面程度のRC部材の鉄
筋かぶりでも5∼20cm程度と深くないため,問題無いと考えられる.
38
本節の検討から,直流比抵抗法(ウェンナ配置)を用いて見掛け比抵抗を測定することで,
RC 構造物を内部推定できる可能性が高いことが明らかになった.
2.
「2.3 強制分極法」では,以下のことが明らかとなった.
強制分極法は,直流比抵抗法と同じ電極配置で,同時に測定可能である.また,RC 供試体
の場合は矩形の入力電流に対して時間遅れを有する出力電位が観察できたので,見掛け充電
率は,安定した一次電位と入力電流切断後の二次残留電位の両者を,一定の時間間隔で積分
した値の比として算出した.
「無筋→塩害腐食鉄筋→健全鉄筋」の順に見掛け充電率が大きく
なるので,この順に収束時間も長くなる傾向がある.オシロスコープ画面で目視して測定電
位が安定するまでに 10 秒程度必要な場合は,45 秒(矩形波 13.80 秒)間と 40 秒(矩形波 20
秒)間の測定を行った.また,オシロスコープ画面で目視して,測定電位が安定するまでに
40 秒程度必要な場合は,100 秒(矩形波 50 秒)間の測定を行った.
本節の検討から,強制分極法(ウェンナ配置)を用いて見掛け充電率を測定することで,
RC 構造物の無筋位置,塩害腐食鉄筋位置,健全鉄筋位置を区別できることが明らかになった.
3.
「2.4 電気探査法と既存測定法の解析上の比較検討」では,以下のことが明らかとなっ
た.
電気探査(ウェンナ)法では,等価回路の物性値(鉄筋部と周辺コンクリート部の抵抗,
電気二重層に関する抵抗,コンデンサー容量)を,入力電流と測定電位から定めることが可
能である.さらに,電気探査法で得られた等価回路を用いて,分極抵抗法と交流インピーダ
ンス法の模擬解析も実施可能であることが明らかとなった.
分極抵抗法の場合,交流インピーダンス法に比べると短いが,電気探査法の 10 倍程度以上
の長時間測定が必要であった.また,電気探査法や交流インピーダンス法に比べて,コンデ
ンサー効果に関する測定項目が無いため,分極抵抗値のみから鉄筋の腐食状態を推定する必
要があるうえに,鉄筋端部をはつり出す局部破壊作業も不可欠である.ゆえに,電気探査法
の方が理論面,実用面でも,分極抵抗法より優れていると考えられる.
同じく鉄筋端部をはつり出す局部破壊作業が必要な交流インピーダンス法の場合,鉄筋部
の分極抵抗とコンデンサー効果を測定するため,電気探査法と同等の成果を期待できる.た
だし,低周波数時の測定時間が電気探査法の 50 倍程度以上と長くなる欠点が明確になった.
4.
「2.5 携帯型電気測定装置の開発」では,以下のことが明らかとなった.
「RC 供試体」,「実物の等価回路」,「解析上の等価回路モデル」各々に,48V の直流電流
を通電または解析上の通電を実施した.これらの検討から,「RC 供試体」,「実物の等価回路」,
「解析上の等価回路モデル」の三者の電流と電位は各々近似しており,
「RC 供試体の等価回
路(実物と解析モデル共)の妥当性」および「開発した携帯型電気測定装置の実用性」が検
証できた.
39
第3章 三次元有限要素法(FEM)による直流比抵抗法の解析に関する検討
3.1 概要
直流比抵抗法を用いて得られる RC 供試体と RC 構造物の電気的な挙動をシミュレーション
する目的で,三次元 FEM 解析コード(順解析と逆解析とも)を開発した.解析によりシミュ
レーションできない測定値は,偶発的に得られた可能性を否定できないため,大量に実験を
行って規則性や関連性を明らかにする必要がある.しかし,RC 構造物は,柱,梁,壁,床版,
円筒,アーチ,マス構造等,無数の形状と寸法が存在するので,これら全てに対応する実験
を行うことは,現実的には困難である.
一方,適切な解析方法によりシミュレーションできた測定値は,必然的に得られた測定値
と考えられるため,
比較的少ない測定結果から規則性や関連性を検討することが可能である.
さらに,FEM 解析コード自体の妥当性も検証できたと考えられるため,実験を行わず,FEM
解析コード単独で,RC 供試体と RC 構造物の電気的な挙動をシミュレーションすることも可
能となる.
具体的には,本章にて,ⅰ)入力電流とコンクリート部,鉄筋部,空洞部等の抵抗値を入
力値とし,出力電位を明らかにすることを目的にした三次元有限要素法(FEM)による直流比
抵抗法の順解析コードと,ⅱ)入力電流と出力電位(測定値でも順解析値でも良い)を入力
値とし,コンクリート部,鉄筋部,空洞部等の抵抗値を明らかにすることを目的にした三次
元有限要素法(FEM)による直流比抵抗法の逆解析コードの構築を試みた.ⅲ)さらに,構築
した順解析コードと逆解析コードの検証を行う必要があった.
上記ⅰ)~ⅲ)の課題を,以下の順に検討している.
ⅰ)「3.2 直流比抵抗法の順解析理論」では,比抵抗が明らかな RC 構造物表面に直流電流を
入力した際の,電位分布を算出する三次元有限要素法の順解析理論を示した.
ⅱ)「3.3 直流比抵抗法の逆解析理論」では,比抵抗が不明で RC 構造物表面の入力電流と出
力電位分布が明らかな際の,比抵抗分布を算出する三次元有限要素法の逆解析理論を明らか
にした.さらに,逆解析理論のメインとなる比抵抗算出コードとして採用した拡張カルマン
フィルタの理論も示した.
ⅲ)
「3.4 開発した逆解析コードの検証」では,順解析で指定した入力電流と,順解析で得
られた RC 供試体表面の出力電位分布を,改めて入力値として逆解析を実施し,順解析時に設
定した比抵抗分布が逆解析で得られることを検証した.逆解析コードの中身は,順解析コー
ドと拡張カルマンフィルタの組合せであるので,逆解析コードの検証は,これら順解析コー
ドと拡張カルマンフィルタ自体の検証も意味することになる.
40
3.2
直流比抵抗法の順解析理論
三次元有限要素法(FEM)による直流比抵抗法の順解析コードは,入力電流と,コンクリー
ト部,鉄筋部,空洞部等の抵抗値を入力値とし,出力電位を算出することを解析の目的とし
ている.また,このコードにより,解析上の見掛け比抵抗も得ることができる.
三次元ポアソン方程式に支配される三次元線形静電場理論については,文献 21)が詳しい.
この文献に従い,図 3-1 に示すように微小領域において電流の連続を考える.ここで,φ
(x,y,z)は電位ポテンシャル,ρ(x,y,z)は比抵抗を示す.微小領域 dx, dy, dz に流入する電
流は,
1 ⎛ ∂ 2φ ∂ 2φ ∂ 2φ ⎞
+ ⎜⎜ 2 + 2 + 2 ⎟⎟dxdydz
ρ⎝ ∂x
∂y
∂z ⎠
(3-1)
となる.
−
−
−
1 ⎛ ∂φ ∂ 2φ ⎞
dz ⎟
+
⎜
ρ ⎝ ∂z ∂z 2 ⎠
1 ∂φ
ρ ∂y
−
−
1 ∂φ
ρ ∂x
1 ⎛ ∂φ ∂ 2φ ⎞
⎜
dy ⎟
+
ρ ⎜⎝ ∂y ∂y 2 ⎟⎠
1 ⎛ ∂φ ∂ 2φ ⎞
+
dx ⎟
⎜
ρ ⎝ ∂x ∂x 2 ⎠ 1 ∂φ
−
ρ ∂z
z
y
x
図 3-1 微小領域での電流の流れ
三次元静電場では,領域Ω内に電荷が存在する場合,単位領域に流入する前述の電流は以
下のポアソン方程式によって支配される.
1 ⎛ ∂ 2φ ∂ 2φ ∂ 2φ ⎞
⎟ = −q
⎜
+
+
ρ⎜⎝ ∂x 2 ∂y 2 ∂z 2 ⎟⎠
(3-2)
ただし,qは電荷密度を表す.静電場問題はこれらの支配方程式を次の境界条件で解くこと
に帰着する.
41
境界Γ1上でφ = φ0 (固定境界条件)
境界Γ2上で
∂φ
=0
∂n
(3-3)
(自然境界条件)
(3-4)
ただし,φo は既知電位, ∂ / ∂n は外向き法線方向の微係数を表し,領域Ωを囲む全領域は
Γ=Γ1 +Γ2である.
支配方程式の有限要素法への定式化は,汎関数の極値をとる方法 21)で行った.電位ポテン
シャルφを未知数とすると汎関数£は次式となる.
2
2
2
1
1 ⎡⎛ ∂φ ⎞ ⎛ ∂φ ⎞ ⎛ ∂φ ⎞ ⎤
£ = ∫∫∫ ⎢⎜ ⎟ + ⎜⎜ ⎟⎟ + ⎜ ⎟ ⎥ dxdydz
Ωρ ∂x
2
⎢⎣⎝ ⎠ ⎝ ∂y ⎠ ⎝ ∂z ⎠ ⎥⎦
(3-5)
− ∫∫∫ qφ dxdydz
Ω
分割した要素eの汎関数£e は,
£e
T
T
T
1 1 1 1 T ⎛⎜ ⎧ ∂N ⎫⎧ ∂N ⎫ ⎧ ∂N ⎫⎧ ∂N ⎫ ⎧ ∂N ⎫⎧ ∂N ⎫ ⎞⎟
{φ }e⎜ ⎨ ⎬⎨ ⎬ + ⎨ ⎬⎨ ⎬ + ⎨ ⎬⎨ ⎬ ⎟
=
∂z
∂x
∂x
∂y
∂z
∂y
2ρe ∫−1 ∫−1 ∫−1
⎝ ⎩ ⎭⎩ ⎭ ⎩ ⎭⎩ ⎭ ⎩ ⎭⎩ ⎭ ⎠
× J {φ }edε dζ dη − qe∫
=
T
{φ }e{N } J dε dζ dη
−1 ∫−1 ∫−1
1
{φ }eT [S ]e{φ }e − qe{φ }eT {Q}e
2ρe
1
1
1
(3-6)
上式のように局所座標系で与えられる.ここで,N,[S]e,{Q}eは各々,要素eの内挿関
数,物性(静電)行列,節点電荷ベクトルを表し, J は全体座標系 x,y,z から局所座標系
ε,ζ,η に座標変換する際のヤコビアン行列の行列式に対応している.また,上付き文字 T
は転置ベクトルか転置行列を意味する.このように要素eの汎関数£e が求まれば,系全体
の汎関数£は全要素についての総和として
⎛ 1
⎞
{φ }eT [S ]e{φ }e − {φ }eT {Q}e⎟⎟
£ = ∑£e = ∑ ⎜⎜
e ⎝ 2ρ
e
e
⎠
1 T
T
= φ Sφ − φ Q
2
(3-7)
となる.ただし,{φ }e,[S ]e ,{Q}e は要素eの節点ポテンシャルベクトル,物性(静電)行
列,節点電荷ベクトルで,φ ,S,Q は系全体の節点ポテンシャルベクトル,物性(静電)行
42
列,節点電荷ベクトルである.したがって,系全体の電位ポテンシャルφ は,式(3-7)の汎関
数を停留させることで,以下に示す連立方程式の解として求められる.
Sφ = Q
(3-8)
3.3 直流比抵抗法の逆解析理論
3.3.1 逆解析の概要
本研究では,カルマンフィルタに関する優れた文献である片山徹氏の著書「応用カルマン
フィルタ」22)を参考にして,拡張カルマンフィルタ法を用いた三次元有限要素法の逆解析コ
ードを開発した.その文献中のカルマンフィルタに関する紹介文を以下に引用する.
カルマンフィルタの普及は 1960 年代における米国アポロ計画を中心とする宇宙開発計画
等において,多くの研究者が最適制御理論の応用に努めたことが大きな要因となっている.
現在カルマンフィルタの応用は宇宙工学,制御工学,通信工学にとどまらず,土木工学,経
済学,統計学,オペレーションズ・リサーチなど多くの分野に見られる.
原因から結果を求めようとするのが順解析問題で,それとは逆に結果から原因を推定しよ
うとするのが逆解析問題であるといわれている.数値モデルに有限要素法を用いた場合,そ
の方程式の形式は以下に示す連立方程式(式(3-8)と同じ)となる.
Sφ = Q
(3-9)
電気探査法を模擬した順解析の場合,物性値 S マトリックスと節点電荷 Q ベクトルが既知
であり,節点ポテンシャルφ ベクトルが同定される未知ベクトルである.
一方,逆解析の場合は,節点ポテンシャルφ ベクトルと節点電荷 Q ベクトルから未知な物
性値 S マトリックスを同定する.逆解析の物性値同定アルゴリズムは,逆定式化法 23),出力
誤差法 23)および最小分散推定法 23)に大別できるが,拡張カルマンフィルタ法では最小分散推
定法を用いている.最小分散推定法は,推定パラメータを確率ベクトルとみなし,推定誤差
の最小分散推定値を与える方法である.
3.3.2 拡張カルマンフィルタを用いた逆解析理論
三次元有限要素法(FEM)による直流比抵抗法の逆解析コードは,入力電流と出力電位(測
定値でも順解析値でも良い)を入力値とし,コンクリート部,鉄筋部,空洞部等の抵抗値を
明らかにすることを解析の目的としている.
測定時の入力電流と出力電位を入力値として,このコードを用いた場合は,①得られた抵
抗値からコンクリート部,鉄筋部,空洞部等の存在や,鉄筋の腐食状況を推定することが可
43
能であり,②得られた抵抗値と入力電流を入力値として再度,順解析を行い,解析上の出力
電位から解析上の見掛け比抵抗を算出し,測定時の見掛け比抵抗と比較検討することも可能
である.
順解析時の入力電流と出力電位を入力値として,この逆解析コードを用いた場合は,順解
析時の比抵抗値と,逆解析時に得られた比抵抗値を比較し逆解析コードの妥当性を確認する
ことが可能である.
(1)拡張カルマンフィルタの理論概要
前節は既知の比抵抗値から解析電位を得る目的の順解析の理論概要であるが,既知の入力
電流と電位測定値から解析比抵抗値を得る目的で逆解析 22)の機能も追加構築した.逆解析手
法としては,近年,理工学の多くの分野で盛んに用いられている拡張カルマンフィルタ法 22),
23)
を採用した.拡張カルマンフィルタ法は,以下に示す非線形観測方程式と非線形システム
状態方程式から構成される.
yt = ht( xt) + vt
(3-10)
xt+1 = ft( xt) + wt
(3-11)
ここで,yt は観測ベクトル, ht( xt) は xt で微分可能な観測ベクトル関数,vt は観測雑音ベ
クトル,xt は状態ベクトル, ft( xt) は xt で微分可能な状態ベクトル関数,wt はシステム雑音
ベクトル,t は逆解析 t 回目を示す指標である.
ht と ft を状態量の推定値 x̂ t / t −1 と x̂ t / t のまわりに線形化した後,高次の項を無視すると,
式(3-10),式(3-11)は各々,式(3-12),式(3-13)となる.
yt = Htxt + vt + ht( xˆt/t−1 ) − Htxˆt/t−1
xt+1 = Ftxt + wt + ft( xˆt/t) − Ftxˆt/t
(3-12)
(3-13)
ただし,
⎛ ∂h ⎞
Ht = ⎜⎜ t ⎟⎟
⎝ ∂xt ⎠ xt = xˆt/t−1
(3-14)
⎛ ∂f ⎞
Ft = ⎜⎜ t ⎟⎟
⎝ ∂xt ⎠ xt = x̂t/t
(3-15)
ここで,Ht は観測マトリックス,Ft は状態遷移マトリックス,x̂t/tは逆解析(t-1)回目に得ら
れた x̂t/t−1に修正分を加えて得られた値を各々,表している.
RC 構造物の物性値を同定するために以降は,状態ベクトル xt を物性ベクトルと読み替える.
44
三次元静電場を考慮すると,
ht( xt) = φt( xt)
(3-16)
とおける.ここで,φt( xt) は電位ベクトルである.
式(3-16)を式(3-12)と式(3-13)に代入すると,各々
yt = Htxt + vt + φt( xˆt/t−1 ) − Htxˆt/t−1
(3-17)
⎛ ∂φ ⎞
Ht = ⎜⎜ t ⎟⎟
⎝ ∂xt ⎠ xt = xˆt/t−1
(3-18)
となる.いま,式(3-9)を逆解析 t 回目の連立方程式と仮定し,両辺を xt で偏微分すると
∂St
∂φ ∂Q
φt + St t =
∂xt
∂xt ∂xt
(3-19)
⎛ ∂Q ∂St ⎞
∂φt
⎟⎟
= St−1 ⎜⎜
−
∂xt
⎝ ∂xt ∂xt ⎠
(3-20)
と表せる.節点電荷ベクトル Q と物性ベクトル xt は独立であることから
∂φt
∂S
= − St−1 t φt
∂xt
∂xt
(3-21)
となり,式(3-21)を用いて式(3-18)を計算することで,観測方程式である式(3-17)が求めら
れる.また,システム状態方程式である式(3-13)は,物性ベクトルxtが時間的に変化せず,
システム雑音も無視することができる.したがって,
xt+1 = ft( xˆt/t)
(3-22)
となり,式(3-17)の観測方程式で得られた x̂ t / t を逆解析(t+1)回目の物性ベクトル xt+1 として
用いることを示している.t 回目の逆解析に必要な観測マトリックスと観測方程式は各々,
式(3-21),式(3-17) で得ることができる.したがって,(t+1)回目の電位ベクトル φt+1 は,
φt+1 = St−+11 Q
(3-23)
45
で求められる.式(3-23)は,(t+1)回目の三次元有限要素法の順解析を示しており,その後,
順次,(t+n)回目の電位ベクトルを求めた物性ベクトルが収束条件を満足するまで,繰り返し
計算を行う.
以上が,拡張カルマンフィルタを用いて,既知の電流と電位測定値から比抵抗値を得る逆
解析手法の概要である.
(2) 演算時間と記憶容量の低減に関する工夫
拡張カルマンフィルタ法を用いた三次元有限要素法の逆解析コード開発当初,解析上のケ
ーススタディを実施したところ,逆解析性能に問題は無いが,予想以上に演算時間が必要で
あることが明らかとなった.
そのため,
逆解析時の演算時間を低減している文献調査を行い,
佐々木氏らの論文 24)~26)(拡張カルマンフィルタ法ではなく,平滑化制約付き最小二乗法を用
いた二次元有限要素法の逆解析理論)を参考にした.
逆解析時において,式(3-21)から観測マトリックス Ht(式(3-18)参照)を同定する必要が
ある.ところが,St(物性値マトリクッス)および∂St / ∂xt (物性値の偏微分マトリクッス)は
バンドマトリックスであるが,St-1 はフルマトリックスとなる.逆解析に限らず,フルマトリ
ックスを含む連立方程式を解くためには,バンドマトリックスのそれに比べて相当量の演算
時間と記憶容量が必要となることが以前から知られている.
そのため,前述の佐々木氏の論文に従って式(3-21)を変形すると,
St
∂φt
∂S
= − t φt
∂xt
∂xt
(3-24)
となる.ここで,∂φt / ∂xt はマトリックスではなく式(3-25)に示すような逆解析物性毎のベク
トルである.
(3-25)
46
ゆえに,式(3-26)に示すように逆解析物性毎に∂φint / ∂xit を計算して重ね合わせにより,観測
マトリックス Ht(式(3-18)参照)を作成している.
St
∂φint
∂S
= − it φt
∂ x it
∂xit
(3-26)
ここで,i は逆解析物性番号,n は節点番号,t は逆解析回数,を各々示す.
式(3-26)の右辺を事前に計算することで,式(3-9)に示す有限要素法の順解析と同様に St-1
を計算することなく,St をバンドマトリックスとしたまま観測マトリックス Ht = ∂φt / ∂xt を効
率的に計算することが可能となった.
上記の開発コード改良後,加川氏らの参考図書 21)に示された三次元モデル(節点数 195,
バンド幅 15,図 3-2 参照)を用いて比抵抗同定の逆解析(収束回数 26 回)を実施したとこ
ろ,St-1 のフルマトリックスを用いた改良前コードの逆解析結果に比べて,演算時間と記憶
容量は各々約 1/3 と約 1/12(
「Windows 機」+「OS は Linux」+「フォートラン・コンパイ
ラーは f77」使用)に低減したにも関わらず,改良前コードと改良後コードの計算結果は全
て一致した.
図 3-2 逆解析コード検証モデル(参考文献 21)一部修正)
このケーススタディ結果と同様のケーススタディ結果から,佐々木氏らの論文 24)~26)に従う
ことにより改良した逆解析コードの演算時間と記憶容量が低減できることを確認した.
(3)マルチソースを用いた精度向上に関する工夫
拡張カルマンフィルタ法を用いた三次元有限要素法の逆解析コード開発当初のケーススタ
ディにおいて,電流を流す電流電極に近いほど,電位電極で得られる電位絶対値が大きくな
るため,逆解析で得られる比抵抗の推定精度が向上する傾向が明らかであった.その理由か
ら,電流電極を移動させた複数電場(以降,マルチソースと呼ぶ)の電位分布を同時に用い
て,RC 構造物の比抵抗分布を逆解析できる精度向上機能を逆解析コードに追加した.
拡張カルマンフィルタ法に限らず,連立方程式の解法において,i 個の未知数を得るため
には i 個以上の連立方程式を準備する必要がある.一つの電位場の場合(以降,シングルソ
ースと呼ぶ)
,検討する電場数を 1,電場の出力電位数を j とすると逆解析手法で得られる比
47
抵抗値は j 個(以下)であるが,マルチソースを用いた場合,検討する複数電場数を i,電
場毎の出力電位数を j とすると逆解析手法で得られる比抵抗値は i×j 個(以下)と増加で
きる.さらに,複数の電場を適切に配置することにより,幾何学的な精度の偏りが無い比抵
.
抗分布を得ることが可能である(3.4 章参照)
ここで,マルチソース理論を明確にする目的で,観測雑音ベクトル vt = 0 と仮定して,式
(3-12)を変形すると式(3-27)となる.
yt − ht( xˆt/t−1 ) = Ht( xt − xˆt/t−1 )
(3-27)
上式の左辺は「観測電位ベクトル」と「逆解析電位ベクトル」との差であり,右辺は,
「観
測マトリックス」と「逆解析 t 回と t+1 回の物性値の差ベクトル」の積である.ただし,観
測マトリックスは物性値(比抵抗値の逆数)の変化に関する解析電位の勾配マトリックスで
ある.したがって,式(3-27)は式(3-28)のように書ける.
∆φ= ∂φ/ ∂x × ∆x
(3-28)
ここで,
∆φ
:観測電位と t 回目の逆解析電位との電位差ベクトル
∂φ/ ∂x :物性値(比抵抗値の逆数)の変化に関する解析電位の勾配マトリックス
∆x
:(t+1)回目と t 回目の物性値の差ベクトル
∂φ/ ∂x について有限要素を用いる解析上での意味を考えると,ある要素の物性の変化が,
各節点の電位の変化にどのような変化を与えるかということになる.これを影響係数マトリ
ックスと呼ぶ.式(3-28)を具体的な例について示すと次のようになる.
シングルソースの場合,観測電位数を 5 個,逆解析するべき物性値を 4 個とすると,Δφ,
∂φ/ ∂x ,Δx の関係式は式(3-29)で示される.
⎡ ∂ φ11
⎢ ∂x
1
⎢
∂
φ
12
φ
∆
⎡
⎢
11 ⎤
⎢ ∆ φ ⎥ ⎢ ∂ x1
12 ⎥
⎢
⎢ ∂ φ13
⎢ ∆ φ13 ⎥ = ⎢
⎢
⎥ ⎢ ∂ x1
φ
∆
14
⎢
⎥ ⎢ ∂ φ14
⎢⎣ ∆ φ15 ⎥⎦ ⎢ ∂ x
1
⎢
∂
φ
15
⎢
⎢⎣ ∂ x1
∂ φ11
∂x 2
∂ φ12
∂x 2
∂ φ13
∂x 2
∂ φ14
∂x 2
∂ φ15
∂x 2
∂ φ11
∂x 3
∂ φ12
∂x 3
∂ φ13
∂x 3
∂ φ14
∂x 3
∂ φ15
∂x 3
∂ φ11 ⎤
∂x 4 ⎥
⎥
∂ φ12 ⎥
∂ x 4 ⎥ ⎡ ∆ x1 ⎤
∂ φ13 ⎥ ⎢⎢ ∆ x 2 ⎥⎥
⎥×
∂x 4 ⎥ ⎢ ∆ x3 ⎥
∂ φ14 ⎥ ⎢ ∆ x ⎥
⎣ 4⎦
∂x 4 ⎥
⎥
∂ φ15 ⎥
∂ x 4 ⎥⎦
(3-29)
マルチソースの場合として電場数が 2,各々に対する観測電位数を 5 個,逆解析するべき
48
物性値を 4 個とすると,Δφ, ∂φ/ ∂x ,Δx の関係式は式(3-30)となる.
⎡ ∂φ11
⎢ ∂x
⎢ 1
⎢ ∂φ12
⎢ ∂x1
⎢ ∂φ
⎡ ∆φ11 ⎤ ⎢ 13
⎢ ∆φ ⎥ ⎢ ∂x1
⎢ 12 ⎥ ⎢ ∂φ14
⎢ ∆φ13 ⎥ ⎢
⎥ ⎢ ∂x1
⎢
∆
φ
⎢ 14 ⎥ ⎢ ∂φ15
⎢ ∆φ15 ⎥ ⎢ ∂x1
⎥ = ⎢ ∂φ
⎢
⎢ ∆φ21 ⎥ ⎢ 21
⎢ ∆φ22 ⎥ ⎢ ∂x1
⎥ ⎢ ∂φ22
⎢
⎢ ∆φ23 ⎥ ⎢
⎢ ∆φ ⎥ ⎢ ∂x1
⎢ 24 ⎥ ⎢ ∂φ23
⎢⎣ ∆φ25 ⎥⎦ ⎢ ∂x
1
⎢ ∂φ
⎢ 24
⎢ ∂x1
⎢ ∂φ25
⎢ ∂x
⎣ 1
∂φ11
∂x 2
∂φ12
∂x 2
∂φ13
∂x 2
∂φ14
∂x 2
∂φ15
∂x 2
∂φ21
∂x 2
∂φ22
∂x 2
∂φ23
∂x 2
∂φ24
∂x 2
∂φ25
∂x 2
∂φ11
∂x3
∂φ12
∂x3
∂φ13
∂x3
∂φ14
∂x3
∂φ15
∂x3
∂φ21
∂x3
∂φ22
∂x3
∂φ23
∂x3
∂φ24
∂x3
∂φ25
∂x3
∂φ11 ⎤
∂x 4 ⎥
⎥
∂φ12 ⎥
∂x 4 ⎥
∂φ13 ⎥
⎥
∂x 4 ⎥
∂φ14 ⎥
∂x 4 ⎥
⎥
∂φ15 ⎥ ⎡ ∆x1 ⎤
⎢
⎥
∂x 4 ⎥ ⎢ ∆x 2 ⎥
×
∂φ21 ⎥ ⎢ ∆x3 ⎥
⎥
∂x 4 ⎥ ⎢ ∆x 4 ⎥
⎣
⎦
∂φ22 ⎥
∂x 4 ⎥
⎥
∂φ23 ⎥
∂x 4 ⎥
∂φ24 ⎥
⎥
∂x 4 ⎥
∂φ25 ⎥
∂x 4 ⎥⎦
(3-30)
ただし,
∆φ11 ~ ∆φ15 , ∂φ11 / ∂x1~∂φ15 / ∂x 4
: 電場 1 に関する値
∆φ21 ~ ∆φ25 , ∂φ21 / ∂x1~∂φ25 / ∂x4
: 電場 2 に関する値
∆x1 ~ ∆x 4
:電場に独立な物性値(比抵抗値の逆数)に関する値
影響係数マトリックス ∂φ/ ∂x の逆マトリックスを式(3-30)の両辺の先頭にかけ合わせる
ことにより,2 つの電場に関する情報を考慮したΔx を得ることが可能となる.このように電
場が増えれば,Δφおよび影響係数マトリックス ∂φ/ ∂x の行成分を増加させればよい.
上記の例はΔx を,複数電場を考慮した逆解析手法(拡張カルマンフィルタ法)を用いて
得る際の基本概念を述べたものである.複数電場を考慮した逆解析手法(拡張カルマンフィ
ルタ法)の流れを図 3-3 に示す.
図 3-3 において,最大 800 個の複数電場を同時に考慮した逆解析(拡張カルマンフィルタ
法)が可能である.逆解析結果を検証する場合,①測定電位(コード検証の場合は順解析電
位)と逆解析電位の比較,②順解析時に設定した比抵抗と逆解析で得られた比抵抗分布の近
似度の確認(コード検証時のみ)
,③測定で得られた見掛け比抵抗分布と逆解析で得られた見
掛け比抵抗分布の近似度の検討(RC 構造物の測定時のみ)
,を行っている.
49
START
比抵抗の初期値を仮定する
※電場数
が,3つ
の場合.
1つ目の電場
に関する
順解析 ※
YES
2つ目の電場
に関する
順解析 ※
3つ目の電場
に関する
順解析 ※
測定電位と解析電位は近似しているか?
NO
開発コード検証の場合(3.4節参照)
1) 順解析電位と逆解析電位を比較する.
2) 順解析時に設定した比抵抗分布と
逆解析で得られた比抵抗分布の
近似度を確認する.
複数個の順解析から得られた情報から
拡張カルマンフ ィルタを用いて
比抵抗値を修正する.
RC構造物の測定結果の場合(5章参照)
1) 測定電位と逆解析電位を比較する.
2) 逆解析で得られた比抵抗分布自体を
検討する.
3) 測定で得られた見掛け比抵抗分布と
逆解析で得られた見掛け比抵抗分布
の近似度を検証する.
END
図 3-3 複数電場(3つ)を考慮した逆解析手法の流れ
3.4 開発した逆解析コードの検証
図 3-4 数値シミュレーション用の三次元モデル
50
3.3.2 節の後半で,
「マルチソースを用いた精度向上に関する工夫」を行ったため,開発し
た逆解析コードは,電流電極を移動させた複数電場(マルチソース)の電位分布から RC 構造
物の比抵抗分布を逆解析できる機能を有している.その解析手法と逆解析コード自体の妥当
性を検証するため,以下の数値シミュレーションを行った.
(1)検証の手順
RC モデル(節点数 2717,要素数 2160,高さ 8cm,奥行き 9.2cm,長さ 16cm,図 3-4 参照)
を作成し,モデル底面中央にアース(電位=0.V)点を設ける.アース点が必要な理由は,有
限要素法の逆解析時に,各電極間の電位差ではなく,各電極の絶対電位(以下,電位)が検討
対象として必要なためである.図中,Ⅰ領域は 150Ωm,Ⅲ領域は 1000Ωm,Ⅴ領域は 50Ωm,
ⅡとⅣとⅥ領域は 100Ωm と設定し,以降はこれらを「順解析時に設定した比抵抗」と呼ぶ.
なお,ⅠとⅤ領域は腐食程度の異なる鉄筋,Ⅲ領域は空洞,ⅡとⅣとⅥ領域は無筋コンクリ
ートを模擬している.
モデル上に測線を定め,その測線上に電流電極と電位電極(図 3-4 中の p1~p8)を設定す
る.その後,電流電極から単位電流 1.0[A]を流し,各電位電極位置の電位V[V/A]を順解
析により求める.
つぎに,図 3-4 に示す RC モデルの比抵抗を未知数とし,順解析時に流した電流と得られた
電位を入力データとし,逆解析によってその比抵抗を推定する.
最後に,
「順解析時に設定した比抵抗」と「逆解析で得られた比抵抗」の比較検討により,
逆解析コードの検証を行う.
(2)検証結果
「順解析時に設定した比抵抗」と,
「逆解析で得られた比抵抗」の比較による逆解析結果の
精度の判定は,以下に定義する残差rを用いた.
r=
1 n ⎛ Ri − R0i
∑⎜
n i =1 ⎜⎝ R0i
⎞
⎟ × 100.
⎟
⎠
(% )
(3-31)
ここで,i はI領域からⅥ領域(図 3-4 参照)に相当する 1 から 6 の数字,n はその最大値
,Ri は比抵抗領域 i 番目の
である 6,R0i は比抵抗領域 i 番目の「順解析時に設定した比抵抗」
「逆解析で得られた比抵抗」である.
51
表 3-1 「電場数1のケース」の電流位置と電位観測位置
p1
p2
p3
p4
p5
p6
p7
p8
電場1 +I入力 V観測 V観測 V観測 V観測 V観測 V観測 -I出力
(備考:電流位置2ヶ所、電位観測位置6ヶ所)
表 3-2 「電場数3のケース」の電流位置と電位観測位置
p1
p2
p3
p4
p5
p6
p7
p8
電場1 +I入力 V観測 V観測 -I出力 未使用 未使用 未使用 未使用
電場2 未使用 未使用 +I入力 V観測 V観測 -I出力 未使用 未使用
電場3 未使用 未使用 未使用 未使用 +I入力 V観測 V観測 -I出力
(備考:電流位置6ヶ所、電位観測位置6ヶ所)
表 3-3 「電場数5のケース」の電流位置と電位観測位置
p1
p2
p3
p4
p5
p6
p7
p8
電場1 +I入力 V観測 V観測 -I出力 未使用 未使用 未使用 未使用
電場2 未使用 +I入力 V観測 V観測 -I出力 未使用 未使用 未使用
電場3 未使用 未使用 +I入力 V観測 V観測 -I出力 未使用 未使用
電場4 未使用 未使用 未使用 +I入力 V観測 V観測 -I出力 未使用
電場5 未使用 未使用 未使用 未使用 +I入力 V観測 V観測 -I出力
(備考:電流位置10ヶ所、電位観測位置10ヶ所)
逆解析した 3 ケースの電流位置と電位観測位置を表 3-1~表 3-3 に示す(表中の p1~p8
.電位観測点は,3 ケースとも各電流入出力点に挟まれた観測点位置と
位置は図 3-4 を参照)
,電
したので,例えば,表 3-3 の「電場数 5 のケース」では,電流位置は 10 ヶ所(=2×5)
位観測位置も 10 ヶ所(=2×5)となる.
「電場数1のケース」
,
「電場数 3 のケース」
,
「電場
数 5 のケース」ともⅠ~Ⅵ領域(図 3-4 参照)の逆解析開始時の比抵抗を全て 100,000.Ωm
と仮定し,得られた逆解析回数と残差rの関係を図 3-5 に示す.
シングルソースの「電場数 1 のケース」と,マルチソースの「電場数 3 のケース」
,
「電場
数 5 のケース」の逆解析(比抵抗値の残差)結果から,構築した解析手法と逆解析コード自
.
体の妥当性が明らかとなったが,以下のことが考えられる(図 3-5 と表 3-4~表 3-6 参照)
「電場数 1 のケース」と「電場数 3 のケース」(電位観測点は共に 6 個)は,逆解析回数 15
で比抵抗値の残差rが 1.0%以下となり,その後,逆解析回数 40 まで 1.0~0.1%の範囲で変
動している.
「電場数1のケース」に比べ「電場数 3 のケース」の方が観測電位の感度が良い
はずであるが,この章での検討は順解析で得られた誤差の無い電位を用いた逆解析のため,
同様の解析精度になったと推定できる.
52
「電場数5のケース」(電位観測点は 10 個)は,逆解析回数 15 で比抵抗値の残差rが
0.021%となり,その後,逆解析回数 40 まで 0.01%付近で変動している.そのため,前述の
2ケースに比べて電位観測点が 4 個多い分,逆解析の精度が向上していると考えられる.逆
解析 15 回目を例とすると,得られたⅠからⅥ領域までの 6 組の「逆解析で得られた比抵抗」
の有効数字 4 桁は,全て「順解析時に設定した比抵抗」と一致した.
残差 r (%)
100000
10000
電場数1のケース
1000
電場数3のケース
100
電場数5のケース
10
1
0.1
0.01
0.001
0
5
10
15
20
25
30
35
40
逆解析回数 (回)
図 3-5 逆解析回数と残差rの関係
表 3-4 「電場数1の逆解析ケース」の比抵抗と残差
逆解析
回数
0
10
15
20
40
Ⅰ領域
Ωm
1.00E+05
457.0
150.9
150.3
149.3
Ⅱ領域
Ωm
1.00E+05
161.8
100.0
100.0
100.0
Ⅲ領域
Ωm
1.00E+05
742.1
1013.6
1004.5
989.7
Ⅳ領域
Ωm
1.00E+05
166.1
100.0
100.0
100.0
Ⅴ領域
Ωm
1.00E+05
246.5
50.2
50.1
49.8
Ⅵ領域
Ωm
1.00E+05
138.7
99.9
100.0
100.1
残差
r %
9.60E+04
131.7
0.428
0.142
0.324
表 3-5 「電場数3の逆解析ケース」の比抵抗と残差
逆解析
回数
0
10
15
20
40
Ⅰ領域
Ωm
1.00E+05
208.3
151.2
149.8
150.5
Ⅱ領域
Ωm
1.00E+05
143.1
99.6
100.1
99.8
Ⅲ領域
Ωm
1.00E+05
446.6
1025.9
994.8
1011.2
Ⅳ領域
Ωm
1.00E+05
120.9
99.3
100.2
99.7
53
Ⅴ領域
Ωm
1.00E+05
143.0
50.5
49.9
50.2
Ⅵ領域
Ωm
1.00E+05
153.8
99.9
100.0
100.0
残差
r %
9.60E+04
66.3
0.909
0.189
0.394
表 3-6 「電場数5の逆解析ケース」の比抵抗と残差
逆解析
回数
0
10
15
20
40
Ⅰ領域
Ωm
1.00E+05
180.7
150.0
150.0
150.0
Ⅱ領域
Ωm
1.00E+05
173.0
100.0
100.0
100.0
Ⅲ領域
Ωm
1.00E+05
298.3
1000.6
1000.1
1000.3
Ⅳ領域
Ωm
1.00E+05
172.9
100.0
100.0
100.0
Ⅴ領域
Ωm
1.00E+05
113.9
50.0
50.0
50.0
Ⅵ領域
Ωm
1.00E+05
155.9
100.0
100.0
100.0
残差
r %
9.60E+04
70.0
0.021
0.005
0.011
3.5 まとめ
本章では,三次元有限要素法(FEM)の順解析コードと,逆解析コードを構築した.これら
の理論と検証結果を,以下の順に示している.
1.
「3.4.2 直流比抵抗法の順解析理論」では,以下のことを明らかにした.
比抵抗が明らかな RC 構造物表面に直流電流を入力した際の,
電位分布を算出する三次元有
限要素法理論を示した.この理論により,入力電流とコンクリート部,鉄筋部,空洞部等の
抵抗値を入力値とし,出力電位の解析値と,見掛け比抵抗の解析値を算出することを目的に
した三次元有限要素法(FEM)による直流比抵抗法の順解析コードを構築した.
2.
「3.4.3 直流比抵抗法の逆解析理論」では,以下のことを明らかにした.
比抵抗が不明な RC 構造物表面の入力電流と出力電位分布が明らかな際の,
比抵抗分布を算
出する三次元有限要素法理論と,逆解析手法として採用した拡張カルマンフィルタの理論を
示した.さらに,
「演算時間と記憶容量の低減に関する工夫」と「マルチソースを用いた精度
向上に関する工夫」の理論も各々明らかにした.これらの理論により,入力電流と出力電位
(測定値でも順解析値でも良い)を入力値とし,コンクリート部,鉄筋部,空洞部等の抵抗
値を算出することを目的にした三次元有限要素法(FEM)による直流比抵抗法の逆解析コード
を構築した.
3.
「3.4.4 開発した逆解析コードの検証」では,以下のことを明らかにした.
「電場数 5 のケース」は,
「電場数 1 のケース」
「電場数 3 のケース」に比べて逆解析の精度
が向上した.逆解析 15 回目を例とすると,得られたⅠからⅥ領域までの 6 組の「逆解析で得
られた比抵抗」の有効数字 4 桁は,全て「順解析時に設定した比抵抗」と一致した.これら
の逆解析結果から,構築した逆解析コードと,マルチソースと演算時間短縮を目的にした改
良の,有効性が明らかになった.逆解析で得られた収束時の比抵抗と入力電流を,入力値と
して順解析を実施し,順解析と逆解析時の電位が一致したことより,順解析コードの精度の
検証も行えた.
54
第4章 電気探査法を RC 構造物に適用する際の実際的諸問題に関する検討
4.1 概要
電気探査法を応用し,RC 構造物内の鉄筋等の存在ならびに腐食状況を推定する場合,実際
上,以下の諸点が問題となる.
ⅰ)電極として何を用いるか,どのようにコンクリート表面に接地するか.ウェンナ法を一
例とする四極法(2 つの電流電極と 2 つの電位電極を用いる測定法)は接地抵抗の大小
に関わらず電流と電位を測定できるのが特徴であるが,入力できる電流(と電位)には
限界があるので,比較的大きな出力電位を得るためには,接地抵抗をできるだけ小さく
することが重要である.
ⅱ)RC 構造物は有限境界を有するため,半無限境界を前提とする見掛け比抵抗が適用可能か
不明であった.
ⅲ)FEM 逆解析に関して,アース点の設置位置,ひび割れ有無による電気的挙動の差異,コ
ンクリートの材質分割規模,電極の埋め込み深さの問題も,本研究の開始当初は不明で
あった.
本章では,上記ⅰ)~ⅲ)の課題を,以下の順に検討している.
ⅰ)
「4.2 コンクリート用の電極開発」では,以下のことを示した.
本研究開始時点,既往研究 9),15),16)を参照し,銀ペーストを主材料とした導電性接着剤を試
用した.しかし,施工性と経済性の問題が明らかになったため,本研究でクリームハンダを主
材料にした導電性電極の開発を試みた.
ⅱ)
「4.3 見掛け比抵抗適用時の留意点」では,以下のことを示した.
RC供試体や既存RC構造物は有限形状であるため,
「見掛け比抵抗」と「比抵抗」は異なった
値となる.ただし,RC供試体や既存RC構造物の形状を拡大するに従い,
「見掛け比抵抗」は「比
抵抗」に近似することが予想される.
「見掛け比抵抗」と「比抵抗」が近似すれば,両者を区
別する必要性がなく,一般論として「比抵抗」と「鉄筋等の存在や鉄筋腐食状況」の関係を
検討することが可能である.
「見掛け比抵抗」
と
「比抵抗」
の近似程度を
「無筋直方体モデル」
,
「無筋直方体2倍モデル」
,
「無筋直方体4倍モデル」
の寸法を変化させた3モデルを用いて解析
上で検討した.
ⅲ)
「4.4 三次元有限要素法(FEM)を RC 構造物に適用する際の工夫」
「4.4.1 アース点と絶対電位測定の必要性」では,以下のことを示した.
「底面中央アース点モデル」
,
「側面下部アース点モデル」
,
「側面上部アース点モデル」の
3 モデルを用いて,アース点位置で電位分布が変化するか否かを検討した.
55
「4.4.2 ひび割れ有無の検討」では,以下のことを示した.
「ひび無し無筋モデル」
,
「ひび無し RC モデル 」
,
「ひび割れ RC モデル 」の 3 モデルを用
いて,ひび割れ有無の解析上の比較検討を実施した.
「4.4.3 コンクリート部細分化と電極位置の検討」では,以下のことを示した.
コンクリートはモルタルと粗骨材からできた不均質な材料であるが,
逆解析の精度向上の
ためには,コンクリートを出来るだけ細分化するべきか否かが,不明であった.そのため,
材質区分(逆解析の物性領域)を 6,8,11,13 区分数にした三次元 FEM モデルを作成し逆解
析の精度を検討した.
さらに,電極はRC供試体表面から約5mm埋め込んでいるが,この5mm分を考慮するべきか否
かも,不明であった.そのため,モデル表面と表面から5㎜直下の両方の節点に電流と電位を
設定した三次元FEMモデルと,モデル表面の節点に電流と電位を設定した三次元FEMモデルを
作成し,逆解析の精度を検討した.
4.2 コンクリート用の電極開発
RC 構造物の比抵抗は一般的な地盤に比べて高いため,鋼棒を RC 構造物表面に接触させた
だけでは接地抵抗が極端に大きくなり通電は困難である.そのため,RC 構造物表面と鋼棒間
の接地抵抗を低減できるとともに両者を繋ぐ導電性の接着剤が必要である. 本研究開始時点,
導電性の接着剤として銀ペーストを用いた研究論文 9),15),16)が存在したので,
実際に試用した.
また導電性の電極も新たに開発した.
(1)導電性接着剤 27)(銀含有率は 75~85%,主剤と硬化剤の混合式)試用時の経緯
抵抗やコンデンサーを商う電機販売店に在庫が無く,納品までに約1ヶ月を要した.常
温で硬化するため,納品時は冷蔵トラックで搬送された(24℃時:8 時間で硬化)
.
また,施工時以外は冷蔵庫等で冷却保存する必要があり,施工性が悪いと思えた.主剤
と硬化剤を同重量で混合した後の抵抗値をテスターで測定すると零であり,2 時間程度で
十分な接着力が得られたので,導電性と接着性は良好であった.
約 50 個の電極作成に 25gf 程度必要(約¥12,000/50 電極)であったので,経済性は悪
かった.
(2)導電性電極(主材料はクリームハンダ 28))開発の経緯
抵抗やコンデンサーを商う電機販売店に,クリームハンダとエポキシ樹脂の在庫が豊富
である.生のクリームハンダには接着性が無いため,電極棒とコンクリートの接着には,
エポキシ樹脂を用いたが,施工性は良いと思えた.生のクリームハンダの抵抗値をテスタ
ーで測定すると零であり,2 時間程度で十分な接着力が得られたので,導電性接着剤と同様,
導電性と接着性は良好であった.
約 50 個の電極作成に 10gf 程度必要(約¥1,000/50 電極)であったので,経済性は良か
った.
56
表 4-1 コンクリート用の電極性能比較一覧
比較項目
導電性接着剤
(主材料:銀ペースト)
導電性電極
(主材料:クリーム・ハンダ)
断面図
主材料
単価
約\12,000/50電極
(経済性が悪い)
約\1,000/50電極
(経済性が良い)
主材料
抵抗値
0.0Ω/gf
0.0Ω/gf
接着性と
施工性
・銀ペーストに接着性がある.
・主剤と硬化剤を混合する.
・施工時以外,銀ペーストを
冷蔵庫等で冷却保存する
必要がある.
(接着性が良い)
(施工性は悪い)
・クリームハンダを生のまま
用いるため接着性は無く
エポキシ樹脂で接着.
・直射日光が当たらない
場所であれば保存可能.
(接着性が良い)
(施工性も良い)
研究
グループ・例
野口貴文※1・黄光律
鹿毛忠継・曹健
(東京大学・建築学科)
本研究で開発
主材料
製造元・例
Emerson & Cuming
Microwave Products, Inc.
(米国:エマーソン & カミング)
太洋電機産業(株)
※1 参考文献 15)参照
表 4-1 に導電性接着剤と導電性電極の性能比較一覧を示す.経済性と施工性で,導電性電
極が導電性接着剤を上回っていることが明らかである.
4.3 見掛け比抵抗適用時の留意点
見掛け比抵抗理論1).2)によれば,均質な半無限地盤においては「見掛け比抵抗」と」
「比抵
抗」が同じ値になることが示されている.ところが,RC供試体や既存RC構造物は有限形状で
あるため,
「見掛け比抵抗」と「比抵抗」は異なった値となると考えられる.
「見掛け比抵抗」
57
と「比抵抗」が異なれば,RC供試体や既存RC構造物で測定した「見掛け比抵抗」は,その構
造物固有の値であり,一般的な「比抵抗」ではない点に留意する必要がある.
ただし,RC供試体や既存RC構造物の形状を拡大するに従い,
「見掛け比抵抗」は「比抵抗」
に近似することが予想される.
「見掛け比抵抗」が「比抵抗」に近似する構造物の大きさを理
解しておけば,構造物を測定する時点で「見掛け比抵抗」を一般的な「比抵抗」と検討可能
か否かを判断することができるため,以下の解析的検討を行った.
まず,図 4-1 に示す 3 モデルを用いて見掛け比抵抗を検討した.同図のように,各モデル
とも,底面中央にアース点(電位 0.V)を設けた.また,無筋直方体 2 倍モデルと無筋直方
体 4 倍モデルは,各々,無筋直方体モデルの横幅と奥行きを 2 倍または 4 倍としたが,深さ
は 10cm で一定とした.深さ方向を一定としたのは,たとえば,電極とアース点間・距離の長
短でも電位分布が変化するなどの検討対象外の現象を生じさせないためである.
図 4-1 見掛け比抵抗検討用の 3 モデル一覧(比抵抗は全て 165.7Ωm 均質)
図 4-1 に示すように,
3 個のモデルには各々,白線で描いた C 測線を設け,
この C 測線上に,
手前から奥行き方向に従い,2cm 間隔で 10 個の測点を設けた.三次元有限要素法を用いて,
これらの測点に表 4-2 に示す電流(48V,1A)を入力したときの出力電位を算出した.
58
表 4-2 入出力電流と電位測点一覧
(1) 電極間隔 a= 2cm の場合 (電場数5)
測点 P
1
2
3
4
電場01
- +I
電場02
V
- - +I
5
6
7
8
(2) 電極間隔 a= 4cm の場合 (電場数2)
9
10
測点 P
1
3
4
5
V
ーI - - - - -
電場01
- +I -
V
V
V
ーI - - - -
電場02
- - +I -
電場03
- - - +I
V
V
ーI - - -
電場04
- - - - +I
V
V
ーI - -
電場05
- - - - - +I
V
V
±I は電流の入出力点.
6
7
8
9
10
-
V
- ーI - -
V
-
V
- ーI -
(3) 電極間隔 a= 6cm の場合 (電場数1)
ーI -
測点 P
電場01
備考:
2
V は電位の測点.
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
+I - -
V
- -
V
- - ーI
- は未使用の測点.
このときの入力電流 I と得られた出力電位 V から算出した解析上の見掛け比抵抗(ρ=2
πaV/I,a は電極間隔)の分布図と平均値を各々,図 4-2 と図 4-3 に示す.これらから以
下の検討結果が得られた.
① 間隔 a に関わらず,無筋直方体モデル,無筋直方体 2 倍モデル,無筋直方体 4 倍モデルの
順に,見掛け比抵抗は各モデルとも共通の比抵抗(165.7Ωm)に近づいたので,予想通り,
モデル形状が大きくなるほど,
見掛け比抵抗が比抵抗に近づくことを確認できたといえる.
特に,136×96×10cm サイズの無筋直方体 4 倍モデルにおいて,95%以上の精度で見掛け
比抵抗と比抵抗が近似したので,1m オーダ以上の既存 RC 構造物の測定において,
「見掛け
比抵抗≒比抵抗」と判断できる.ゆえに,1m オーダ以上の既存 RC 構造物で測定した「見
掛け比抵抗≒比抵抗」から,
「一般的な比抵抗」と「鉄筋等の存在と腐食状況」の関係を検
討することが可能と考えられる.
② 34×24×10cm サイズの無筋直方体モデルにおいて,
電極間隔 a=6cm の見掛け比抵抗は 238
Ωm(比抵抗 165.7Ωm)と比抵抗に比べ約 1.4 倍の大きな値が得られたが,136×96×10cm
サイズの無筋直方体 4 倍モデルにおいて,電極間隔 a=6cm の見掛け比抵抗は 174Ωm(比抵
抗 165.7Ωm)と比抵抗に比べ約 1.05 倍と近似した.ゆえに,34×24×10cm サイズ程度の
RC 供試体を測定した際に,測定深度が深い(電極間隔が長い)ほど見掛け比抵抗が大きく
なる現象は,測定深度が深いほど比抵抗が増加しているわけではなく,供試体サイズの影
響であることが明らかである.
59
250
250
a=6cm
a=2cm
200
a=6cm
225
a=4cm
見掛け比抵抗(Ωm)
見掛け比抵抗(Ωm)
225
166Ωm
175
150
125
a=4cm
a=2cm
200
166Ωm
175
150
125
0
5
10
15
無筋直方体モデル・C測線(cm)
20
0
25
(a) 無筋直方体モデルの見掛け比抵抗
5
10
15
無筋直方体4倍モデル・C測線(cm)
20
25
(c) 無筋直方体 4 倍モデルの見掛け比抵抗
250
a=6cm
見掛け比抵抗(Ωm)
225
a=4cm
a=2cm
200
166Ωm
175
150
125
0
5
10
15
無筋直方体2倍モデル・C測線(cm)
20
25
(b) 無筋直方体 2 倍モデルの見掛け比抵抗
見掛け比抵抗・平均値 [Ωm]
図 4-2 3 モデルの見掛け比抵抗(解析)値分布
260
240
a=2cm
220
a=4cm
a=6cm
200
180
160
140
(a) 無筋直方体モデル
(b) 無筋直方体2倍モデル
(c) 無筋直方体4倍モデル
入力した比抵抗:166Ωm
図 4-3 見掛け比抵抗平均(解析)値と入力した比抵抗
4.4 三次元有限要素法(FEM)を RC 構造物に適用する際の工夫
3.1 節で有限要素法の利用目的を示したように,電気探査法の測定結果解釈の一手段とし
て二次元と三次元有限要素法を用いることがあるが,点電流源に対応した半球状の電位分布
を表現できるのは三次元有限要素法だけである.そのため,本節では三次元有限要素法を RC
構造物に適用する際の工夫を以下に示す.
4.4.1 アース点と絶対電位測定の必要性
地盤物性推定の目的で三次元有限要素法を用いる場合に扱う地表電位は,任意 2 点間の電
位差ではなく,
地盤深部や検討範囲から遠く離れた位置を基準とした絶対電位である.その理
60
由から,有限形状を有する RC 構造物及び RC 供試体を三次元モデル化する場合も,アース点
(絶対電位 0.V)位置を正しく設定する必要があると予想される.
図 4-4 モデル形状と材質分布
表 4-3 入出力電流と電位測点一覧
C測線上の電極間隔 a= 2cm (電場数1)
測点 No.
1
2
3
電場01
V
V
V +I
備考:
4
5
6
7
8
9
10
V
V
ーI
V
V
V
±I は電流の入出力点.
V は電位の測点.
アース点位置の相違が電位分布の解析結果に及ぼす影響を検討するため,図 4-4 に示す三
次元モデルを構築した.また,表 4-3 は,モデル上に設定した C 測線上の電流入出力点及び
出力電位測点の位置を示すものであり,図 4-4 上の手前から測点 No.1~No.10 で,電極間隔
は a=2cm である.
61
図 4-5 アース点位置に関する電位分布の差異
アース点位置による電位分布の差異を検討するために構築した三次元モデル上に,得られ
た電位分布を示せば,各々図 4-5(a)~(c)のようである.
この図中の(a)は,底面中央にアース点を設けた三次元モデルの電位分布を表示している.
これには手前と奥側で綺麗な対称形状で±電位分布が現れていることが示されている.
62
(b)は,側面底部にアース点を設けた三次元モデルで得られたの電位分布である.三次元モ
デルの手前だけ赤色部の+電位領域が存在し,対称性が保たれていない電位分布が現れてい
る.
(c)は,側面上部にアース点を設けた三次元モデルの電位分布を表示している.これにはモ
デルの手前側の上部だけに赤色部の+電位領域が現れている.また,アース点付近に絶対電
位 0.V 範囲(図中の黄緑部)が現れていることが分かる.
上記(a)~(c)は,
アース点位置が異なると結果が大きく異なることを示している.
ゆえに,
有限形状の RC 構造物モデルの場合は地盤やマスコンクリートと接する位置が,
現実的には最
も電位が低いと推定できるので,これらの位置にアース点を設けると良いと考えられる.ま
た,RC 供試体モデルの場合は+電位領域と-電位領域が対称に分布している状態が妥当と考
えられるため,測定面の反対側中央にアース点を設けることが良いと推定できる.
4.4.2 ひび割れ有無の検討
ひび割れ有無が RC 構造物の電気的性質に及ぼす影響を明らかにするため,図 4-6(a)~(c)
に示すひび割れ有無の 3 個のモデルを用いて,三次元有限要素法の順解析を行い,表 4-4 に
示す測点の電位を算出し,ひび割れ有無が三次元モデルの電気的性質に及ぼす影響を検討し
た.
表 4-4 入出力電流と電位測点一覧(B,C,D 測線共)
(1) 電極間隔 a= 2cm の場合 (電場数5)
測点 P
1
2
3
4
V
V
5
6
電場01
- +I
電場02
- - +I
電場03
- - - +I
電場04
電場05
- - - - - +I
V
7
8
(2) 電極間隔 a= 4cm の場合 (電場数2)
9
10
測点 P
ーI - - - - -
V
ーI - - - -
V
V
ーI - - -
- - - - +I
V
V
V
3
4
5
電場01
- +I -
V
電場02
- - +I -
ーI -
測点 P
電場01
備考:
±I は電流の入出力点.
2
6
7
8
9
10
-
V
- ーI - -
V
-
V
- ーI -
(3) 電極間隔 a= 6cm の場合 (電場数1)
ーI - -
V
1
V は電位の測点.
3
4
5
6
7
8
+I - -
1
2
V
- -
V
- - ーI
9
10
- は未使用の測点.
解析結果の見掛け比抵抗分布を図 4-7~図 4-9 に,見掛け比抵抗の電極間隔別の平均値を
表 4-5 に,各々示す.これらの図表より,以下の考察を行った.
①図 4-7 に示す B 測線に着目すると,
「ひび無し無筋モデル 」で電極間隔 a=6cm とした時の
見掛け比抵抗は 296Ωm(コンクリート比抵抗 198Ωm の 1.49 倍)と高くなった.この現象
は 4.3 節で示したように,モデルが有限境界を有するため見掛け比抵抗が高くなったと考
えられる.一方,
「ひび無し RC モデル 」の電極間隔 a=6cm 時の見掛け比抵抗は 214Ωm(コ
ンクリート比抵抗 198Ωm の 1.08 倍)と低くなった. この現象は,D25 鉄筋の比抵抗 15Ωm
63
と低いため見掛け比抵抗が低くなったと考えられる.上記の傾向は,
図4-8に示すC測線と,
図 4-9 に示す D 測線にも認められる.
図 4-6 ひび割れ有無の検討用モデル
64
②図 4-7 に示す「ひび割れ RC モデル 」の電極間隔 a=2cm 時の左端の見掛け比抵抗は 265Ωm
(コンクリート比抵抗 198Ωm の 1.34 倍)と高くなった. この現象は,B 測線上のひび割
れ(長さ×深さ×幅=8×1×1cm サイズ)の存在が原因と考えられる.ひび割れの存在を極
端に比抵抗が大きい絶縁体と仮定すると,ひび割れ発生後に見掛け比抵抗が高くなること
は,妥当と考えられる.
ゆえに,モデルサイズ(横幅×奥行き×厚さ=34×24×10cm)に比べて小規模ひび割れ
(長さ×深さ×幅=8×1×1cm)が発生した場合,ひび割れ発生位置以外の見掛け比抵抗は
比較的正確に測定できると考えられる.また,ひび割れ深さ(1cm)に比べて探査深度が深
い場合(電極間隔 a=4~6cm)の見掛け比抵抗も比較的正確に測定可能と推定できる.
③ひび割れの存在で見掛け比抵抗が高くなる上記の傾向は,図 4-8 に示す C 測線と,図 4-9
に示す D 測線にも認められる. 特に,モデルサイズ(横幅×奥行き×厚さ=34×24×10cm)
に比べて大規模なひび割れ(長さ×深さ×幅=24×4×1cm)が D 測線上に生じた場合,コ
ンクリート比抵抗198Ωm に比べて電極間隔a=2~6cm 時の見掛け比抵抗が2.0~1.7 倍と高
くなった.
ゆえに,モデルサイズ(横幅×奥行き×厚さ=34×24×10cm)に比べて小規模ひび割れ
(長さ×深さ×幅=8×1×1cm)が発生した場合,ひび割れ無しの三次元モデルでも,ひび
割れ発生位置以外の解析的検討は比較的正確にできると考えられる.しかし,モデルサイ
ズに比べて大規模ひび割れ(長さ×深さ×幅=24×4×1cm)が発生した場合は,ひび割れ
有りの三次元モデルを作成し直して解析を行うべきと,考えられる.
450
a=6cm
見掛け比抵抗(Ωm)
見掛け比抵抗(Ωm)
450
a=4cm
350
a=2cm
198Ωm
250
150
8
16
ひび無し無筋モデル・B測線(cm)
a=2cm
198Ωm
250
24
0
8
16
ひび無し無筋モデル・C測線(cm)
24
450
450
a=6cm
見掛け比抵抗(Ωm)
見掛け比抵抗(Ωm)
a=4cm
150
0
a=4cm
350
a=2cm
198Ωm
250
150
a=6cm
a=4cm
350
a=2cm
198Ωm
250
150
0
8
16
ひび無しRCモデル・B測線(cm)
24
0
8
16
ひび無しRCモデル・C測線(cm)
24
450
450
a=6cm
見掛け比抵抗(Ωm)
見掛け比抵抗(Ωm)
a=6cm
350
a=4cm
350
a=2cm
198Ωm
250
150
a=6cm
a=4cm
350
a=2cm
198Ωm
250
150
0
8
16
ひび割れRCモデル・B測線(cm)
24
0
図 4-7 3 モデル B 測線の見掛け比抵抗
8
16
ひび割れRCモデル・C測線(cm)
24
図 4-8 3 モデル C 測線の見掛け比抵抗
65
表 4-5 測線別・見掛け比抵抗一覧
見掛け比抵抗(Ωm)
450
a=6cm
a=4cm
350
a=2cm
モデル名
198Ωm
a=2cm
a=4cm
a=6cm
(a) ひび無し無筋モデル
210.3
(1.06)
223.6
(1.13)
295.7
(1.49)
(b) ひび無しRCモデル
202.3
(1.02)
184.6
(0.93)
214.0
(1.08)
(c) ひび割れRCモデル
215.9
(1.09)
186.2
(0.94)
214.2
(1.08)
250
150
0
8
16
ひび無し無筋モデル・D測線 (cm)
24
B測線・電極間隔:a 別
見掛け比抵抗・平均値 Ωm
(物性値との比)
※1
物性値
Ωm
197.9
(1.0)
見掛け比抵抗(Ωm)
450
a=6cm
a=4cm
350
a=2cm
モデル名
198Ωm
a=2cm
a=4cm
a=6cm
(a) ひび無し無筋モデル
209.7
(1.06)
219.5
(1.11)
283.8
(1.43)
(b) ひび無しRCモデル
201.3
(1.02)
177.6
(0.90)
195.1
(0.99)
(c) ひび割れRCモデル
351.1
(1.77)
250.1
(1.26)
264.7
(1.34)
250
150
0
8
16
ひび無しRCモデル・D測線(cm)
24
C測線・電極間隔:a 別
見掛け比抵抗・平均値 Ωm
(物性値との比)
※1
物性値
Ωm
197.9
(1.0)
見掛け比抵抗(Ωm)
450
a=6cm
a=4cm
350
a=2cm
モデル名
198Ωm
D測線・電極間隔:a 別
見掛け比抵抗・平均値 Ωm
(物性値との比)
a=2cm
a=4cm
a=6cm
(a) ひび無し無筋モデル
210.3
(1.06)
223.6
(1.13)
295.7
(1.49)
(b) ひび無しRCモデル
202.3
(1.02)
184.6
(0.93)
214.0
(1.08)
(c) ひび割れRCモデル
399.8
(2.02)
340.8
(1.72)
355.6
(1.80)
※1
物性値
Ωm
250
150
0
図 4-9
8
16
ひび割れRCモデル・D測線(cm)
24
3 モデル D 測線の見掛け比抵抗
197.9
(1.0)
※1 逆解析により算出したコンクリート比抵抗(5.4.6 節参照).
4.4.3 コンクリート部細分化と電極位置の検討
(1)検討の目的
RC 供試体の比抵抗分布を FEM 逆解析で求める際に, ①コンクリートはモルタルと粗骨材
からできた不均質な材料であるが,逆解析の精度向上のためにはコンクリートを出来るだけ
細分化するべきか否か,②電極は RC 供試体表面から約 5mm 埋め込んでいるが,この 5mm 分を
考慮するべきか否か,の2点が逆解析手順として不明であった.
この2点について以下に示すケーススタディを行った.
前述の目的を達成するため,図 4-10(a),(b)に示す 7875 節点モデルと 8750 節点モデルを
作成した.8750 節点モデルの表(上)面から 5mm の深さに節点を追加したので,7875 節点モデ
ルに比べて節点数が 875(=35×25)個,増加した.
66
(2)検討用モデルとケーススタディ一覧
(a) 7875 節点モデル
(b) 8750 節点モデル
図 4-10
7875 節点モデルと 8750 節点モデル
a.コンクリート部の細分化の検討ケース
図 4-11
A 測線と p1~p16 測点(全モデル共通)
67
表 4-6
逆解析用の電流と電位測定位置(全モデル共通)
図 4-12 コンクリート部を細分化したモデル(正面)の一覧
以下に示す検討ケースに共通な逆解析用の電位測定位置を,図 4-11 と表 4-6 に示す.これ
ら図表から明らかなように電位の全測定個数は 21 個(=3 電場×7 測点)となる.そのため,
逆解析可能な材質区分の最大値が 21 個になることを考慮して,材質 6,8,11,13 区分(逆
解析の物性領域の個数)の 4 組を検討対象とした.モデル正面から見た材質区分の一覧を,
図 4-12 に示す.
b.電極位置の検討ケース
以下に示す 3 組を検討対象とした.
1)入力電流,出力電位とも解析モデルの「表面の節点」を用いた場合(通常の仮定).
2)入力電流,出力電位とも解析モデルの「表面から 5mm 直下の節点」を用いた場合.
3)入力電流,出力電位とも解析モデルの「表面の節点」と,
「表面から 5mm 直下の節点」
の両方に同じ値が作用していると仮定した場合.
68
c.ケーススタディ一覧
前述の「コンクリート部の細分化」と「電極位置」を考慮して,表 4-7 に示す 13 個のケー
ススタディを実施した.
表 4-7 ケーススタディ一覧
ケース名
節点数
電極位置
物性領域数 材質区分モデル
1) 7875-0-06
(5.2.6節参照)
7875
表面
6
図4-12 (a)
2) 8750-0-06
3) 8750-5-062
4) 8750-05-06
5) 8750-0-08
6) 8750-5-08
7) 8750-05-08
8) 8750-0-11
9) 8750-5-11
10) 8750-05-11
11) 8750-0-13
12) 8750-5-13
13) 8750-05-13
8750
8750
8750
8750
8750
8750
8750
8750
8750
8750
8750
8750
表面
表面下5mm
表面&表面下5mm
表面
表面下5mm
表面&表面下5mm
表面
表面下5mm
表面&表面下5mm
表面
表面下5mm
表面&表面下5mm
6
6
6
8
8
8
11
11
11
13
13
13
図4-12 (b)
図4-12 (b)
図4-12 (b)
図4-12 (c)
図4-12 (c)
図4-12 (c)
図4-12 (d)
図4-12 (d)
図4-12 (d)
図4-12 (e)
図4-12 (e)
図4-12 (e)
(3) 検討結果
「測定で得られた電位(5.2.6節参照)」と,
「逆解析で得られた電位」の比較による逆解析結
果の精度の判定は,式(4-1)に示す残差の二乗和平均rを用いた.
r=
1 n
∑ (Vi − V0i )× (Vi − V0i )
n i =1
(4-1)
ここで,iは電位測定位置(表4-6参照)に相当する1から21(=3電場×7)の数字,nはその最大
値21であるが,表面と表面下5mm位置に電極を設定した場合は,iは1から42,nはその最大値
42となる.また,V0iは電位測定位置i番目の「測定で得られた電位」
,Viは電位測定位置i番
目の「逆解析で得られた電位」である.
残差の二乗和平均一覧と逆解析で得られた比抵抗を各々,表4-8と表4-9に示す.これらの
表から以下のことが考えられる.
①逆解析の領域数を11や13にした場合の残差の二乗和平均rは,逆解析の領域数を6や8に
した場合に比べ極端に増加した(表4-8参照)
.ゆえに,目視や他の試験法などでコンクリ
ート領域が明らかな場合,必要以上にコンクリート領域を細分化しない方が,精度の良い
逆解析結果が得られると考えられる.
69
②逆解析の領域数が6,8,11,13の4組とも,電極位置を解析モデル表面と表面から5㎜直下
の両方の節点に電流と電位を設定した場合のrが最も小さな値になったが,電極位置をモ
デル表面と設定した場合のrと大きな差異は生じなかった(表4-8参照)
.ゆえに,電極棒
の埋め込み深さ
(5mm以下程度)
を考慮せず,
コンクリート表面に電極が有ると仮定しても,
解析上の問題は発生しないことが明らかとなった.
表4-8 残差の二乗和平均一覧
ケース名
逆解析時の状況
残差の二乗和平均 r
( x1.0E+5 )
残差の
小さい順
1) 7875-0-06
(5.2.6節参照)
逆解析11回目に負の比抵抗が発生
1.297 (逆解析10回目)
3
2) 8750-0-06
逆解析11回目に負の比抵抗が発生
1.482 (逆解析10回目)
4
3) 8750-5-06
逆解析11回目に負の比抵抗が発生
1.154 (逆解析10回目)
2
4) 8750-05-06
逆解析11回目に負の比抵抗が発生
1.057 (逆解析10回目)
1
5) 8750-0-08
逆解析11回目に負の比抵抗が発生
1.668 (逆解析10回目)
7
6) 8750-5-08
逆解析11回目に負の比抵抗が発生
1.498 (逆解析10回目)
6
7) 8750-05-08
逆解析11回目に負の比抵抗が発生
1.495 (逆解析10回目)
5
8) 8750-0-11
逆解析9回目に負の比抵抗が発生
46.9 (逆解析8回目)
11
9) 8750-5-11
逆解析9回目に負の比抵抗が発生
39.0 (逆解析8回目)
10
10) 8750-05-11
逆解析9回目に負の比抵抗が発生
35.9 (逆解析8回目)
8
11) 8750-0-13
逆解析8回目に負の比抵抗が発生
226.1 (逆解析7回目)
13
12) 8750-5-13
逆解析8回目に負の比抵抗が発生
191.2 (逆解析7回目)
12
13) 8750-05-13
逆解析9回目に負の比抵抗が発生
37.5 (逆解析8回目)
9
表4-9 逆解析で得られた比抵抗 (単位Ωm)
①
②
③
④
⑤
健全鉄筋
コンクリート
空洞
コンクリート
腐食鉄筋
1) 7875-0-06
(5.2.6節参照)
370
232
1677
184
31
170
―
―
―
―
―
―
―
10
2) 8750-0-06
348
221
1224
103
56
162
―
―
―
―
―
―
―
10
3) 8750-5-06
329
258
1762
110
67
169
―
―
―
―
―
―
―
10
4) 8750-05-06
319
277
2104
125
61
173
―
―
―
―
―
―
―
10
5) 8750-0-08
494
208
891
102
54
158
153
165
―
―
―
―
―
10
6) 8750-5-08
462
230
803
101
77
169
147
173
―
―
―
―
―
10
7) 8750-05-08
471
236
750
107
78
174
144
178
―
―
―
―
―
10
8) 8750-0-11
516
454
1461
403
261
346
554
465
388
427
489
―
―
8
9) 8750-5-11
469
481
1406
419
273
320
574
493
369
444
489
―
―
8
ケース名
⑥
⑦
⑧
⑨
⑩
⑪
⑫
⑬
コンクリート コンクリート コンクリート コンクリート コンクリート コンクリート コンクリート コンクリート
逆解析
回数
10) 8750-05-11
460
502
1401
442
262
322
564
499
365
456
489
―
―
8
11) 8750-0-13
1057
780
1467
824
554
908
685
2655
872
733
724
1046
680
7
12) 8750-5-13
1029
791
1425
824
576
965
688
2746
922
712
736
994
756
7
13) 8750-05-13
565
425
1524
484
207
483
374
4453
560
328
361
617
362
8
70
4.5 まとめ
地盤探査に用いられる電気探査法を応用し,RC 構造物内の鉄筋等の存在ならびに腐食状況
を推定する場合,実際上,本章で示した数種の問題点が予想された.本章では,これら問題
点の解決策を以下の順に明らかにした.
1.
「4.2 コンクリート用の電極開発」では,以下のことを示した.
本研究開始時点,導電性接着剤として銀ペーストを用いた研究論文
15)
が存在したので,
実際に試用した.しかし,性能的には良好であるが施工性と経済性の問題が明らかになっ
た.その理由から,本研究ではクリームハンダを主材料にした導電性電極を新たに開発し,
上記の問題点を解決した.
2.
「4.3 見掛け比抵抗適用時の留意点」では,以下のことを示した.
RC供試体や既存RC構造物は有限形状であるため,
「見掛け比抵抗」と「比抵抗」は異なっ
た値となる.ただし,RC供試体や既存RC構造物の形状を拡大するに従い,
「見掛け比抵抗」
は「比抵抗」に近似すると予想した.この問題を明らかにするため,
「無筋直方体モデル」
の横幅と奥行きを2倍または4倍した「無筋直方体2倍モデル」と「無筋直方体4倍モデル」
の3モデルを作成し,RC供試体の形状を拡大するに従い,
「見掛け比抵抗」が「比抵抗」に
近似することを解析上,確認した.ゆえに,1m規模以上のRC構造物やRC供試体であれば,
「見掛け比抵抗≒比抵抗」と近似的に見なせることが明らかとなった.
3.
「4.4 三次元有限要素法(FEM)を RC 構造物に適用する際の工夫」
3.1「4.4.1 アース点と絶対電位測定の必要性」では,以下のことを示した.
「底面中央アース点モデル」
,
「側面下部アース点モデル」
,
「側面上部アース点モデル」の
3 モデルを用いて,アース点位置で電位分布が明確に変化することを確認した.
上記の解析的検討結果から,
有限形状の RC 構造物の場合は地盤やマスコンクリートと接
する位置,RC 供試体の場合は測定面の反対側中央位置など,絶対電位が最小と予想され
る位置に,適切にアース点を設ける必要があると考えられる.
3.2「4.4.2 ひび割れ有無の検討」では,以下のことを示した.
「ひび無し無筋モデル」
,
「ひび無し RC モデル 」
,
「ひび割れ RC モデル 」の 3 モデルを
用いて,ひび割れ有無の解析上の比較検討を実施した. その検討結果から,モデル規模(横
幅×奥行き×厚さ=34×24×10cm)に比べて小規模ひび割れ(長さ×深さ×幅=8×1×1cm)
の場合,ひび割れ発生位置以外の見掛け比抵抗は比較的正確に解析できた.そのため,実際
の RC 構造物においても,構造物寸法の 1/10 以下程度深さの小規模ひび割れが発生した場
合,ひび割れ発生以前と同様,見掛け比抵抗を測定することは可能と考えられる.
一方, モデル規模(横幅×奥行き×厚さ=34×24×10cm)に比べて大規模ひび割れ(長
71
さ×深さ×幅=24×4×1cm)の場合,ひび割れ発生以前に比べて 2 倍程度高い見掛け比抵
抗が解析で得られた.ゆえに,RC 構造物自体を分断するような大規模なひび割れが生じた
場合,そのひび割れ周辺の見掛け比抵抗を測定し内部推定を行うことは困難と考えられ
る.解析においても,大規模ひび割れが発生した場合は,ひび割れ有りの三次元モデルを
作成し直して解析を行うべきと考えられる.
3.3「4.4.3 コンクリート部細分化と電極位置の検討」から,以下のことが明らかとなった.
材質区分(逆解析の物性領域)を11や13にした場合は,材質区分を6や8にした場合に比
べ,極端に逆解析精度が低下した.ゆえに,目視や他の試験法などでコンクリート領域が
明らかな場合,必要以上にコンクリート領域を細分化しない方が,精度の良い逆解析結果
が得られると考えられる.
電極位置を考慮して,モデル表面と表面から5㎜直下の両方の節点に電流と電位を設定
した場合と,モデル表面の節点に電流と電位を設定する場合の逆解析精度には,大きな差
異は認められなかった.そのため,電極の埋め込み深さ(5㎜以下程度)を考慮せず,コ
ンクリート表面に電極が有ると仮定しモデル化しても,解析上の問題は発生しないと判断
できた.
72
第5章 見掛け比抵抗および見掛け充電率に及ぼす諸要因の影響に関する検討
5.1 概要
本研究の主目的は鉄筋等の存在と腐食状況の推定であるが,ⅰ)「鉄筋径の大小,鉄筋腐食
の有無,空洞の大小」
,ⅱ)「コンクリートの打ち込み方向,粗骨材の有無,鉄筋の有無」
,ⅲ)
「鉄筋腐食要因の差異」によってもRC構造物の電気的性質である見掛け比抵抗と見掛け充電
率は変化することが予想される.RC構造物の電気的性質から,鉄筋等の存在と腐食状況を精
度良く推定するには,上記の要因による見掛け比抵抗と見掛け充電率の変化の傾向も明らか
にしておく必要がある.
本章では,上記ⅰ)∼ⅲ)の課題を,以下の順に検討している.
ⅰ)「5.2 鉄筋径,鉄筋腐食の有無,空洞の有無の影響に関する検討」では
RC 構造物の鉄筋径,鉄筋腐食の有無,空洞位置を非破壊で推定することを目的としてお
こなった電気探査法(直流比抵抗法と強制分極法)を用いた実験ならびに逆解析手法を用
いた三次元有限要素法解析について述べた.
ⅱ)
「5.3 打ち込み方向,粗骨材の有無,鉄筋の有無の影響に関する検討」では
RC 構造物におけるコンクリートの打ち込み方向,粗骨材の有無,鉄筋(黒皮無しの健全
鉄筋)の有無が見掛け比抵抗および見掛け充電率に及ぼす影響を明らかにすることを目的
として行った電気探査法を用いた実験と,逆解析手法を用いた三次元有限要素法解析につ
いて述べた.
ⅲ)
「5.4 鉄筋腐食要因の差異の影響に関する検討」では
RC 構造物の鉄筋等の存在と腐食状況を非破壊で推定することを目的に,黒皮付きの健全
鉄筋とコンクリート打ち込み以前に塩化ナトリウム 3.5%溶液によって腐食させた鉄筋を
有する供試体(以後,事前腐食供試体)
,黒皮付き鉄筋と黒皮除去鉄筋を配し,15kgf/m3
の塩化ナトリウムを混入したコンクリートを打ち込んだ供試体(以後,塩分混入供試体)
,
黒皮付き鉄筋と黒皮除去鉄筋を有する供試体を電食した供試体(以後,電食供試体)につ
いて,電気探査法を用いた実験と,逆解析手法を用いた三次元有限要素法(FEM)解析を行
った結果について述べる.
5.2 鉄筋径,鉄筋腐食の有無,空洞の有無の影響に関する検討
5.2.1 検討目的
本節では,コンクリート中に健全鉄筋,腐食鉄筋,空洞の各々が存在する場合の電気的な
性質を明らかにするための基礎研究29)を行った結果について述べる.鉄筋の腐食にはさまざ
まな原因があるが,ここで述べる腐食鉄筋とは,供試体作製以前に約一ヶ月間,塩化ナトリ
73
ウム3.5%溶液に浸けて腐食させたもの(以後,事前腐食鉄筋と呼ぶ)である.
5.2.2 実験概要
(1)使用材料,配合ならびに圧縮強度
供試体コンクリートに用いたセメントは,太平洋セメント(株)・高知県土佐工場製の普通
ポルトランドセメントである.粗骨材は,最大寸法20mmの兵庫県飾磨郡家島町西島産の砕石
で,岩種は流紋岩質安山岩である.材齢28日のコンクリート圧縮強度は表5-1に示すようであ
る.
表 5-1 配合と 28 日圧縮強度
W/C
単位量 (kg/m3)
σ28
(%)
水
セメント
細骨材
粗骨材
(N/mm2)
40
169
422
750
1024
48.2
(2)供試体の概要
表 5-2
供試体の概要一覧
供試体
W/C
鉄筋太さ
かぶり
鉄筋腐食状況
空洞直径
名称
(%)
(mm)
上面から(mm)
左側
右側
(mm)
D00WC40
40
無し
無し
無し
無し
無し
D10WC40
40
D10
25
健全
腐食
10
D16WC40
40
D16
22
健全
腐食
16
DddWC40
40
3XD16
14
健全
腐食
34
備考 : 鉄筋はJIS G3112 SD295A規格品
作製した 4 供試体は,全て長さ 34cm,奥行き 24cm,厚さ 8cm の直方体であって,実験因子
の概要は表 5-2 に示すようである.表中の「腐食」とは,鉄筋表面の汚れや付着物を鉄ブラ
シで除去した後,塩化ナトリウム濃度 3.5%(海水と同等)の塩水で常時湿らせた状態で約1ヶ
月間,気中放置して強制的に腐食させた鉄筋の状態を表している.
つぎに,無筋の1体(D00WC40)を除く 3 供試体の立体図を図 5-1 に示す.図中の,①左側の
円形が「健全鉄筋」
,②真ん中の円形が「円形空洞」
,③右側の円形が「事前腐食鉄筋」を各々,
示している.また,図中の各供試体上面の小さな白丸は,2cm 間隔で設置した電極位置を示
しており,図のように,供試体横方向に A 測線(34cm),左側縦方向に B 測線(24cm),中央縦方
向に C 測線(24cm),右側縦方向に D 測線(24cm)を 6cm 間隔で設定した.
74
図 5-1 3 供試体の鉄筋・空洞・電極位置
(3)供試体の湿潤状態を一致させるための工夫
RC 構造物の電気的性質は,その含水状態により変化する 6)ことが以前から知られているの
で,見掛け比抵抗と見掛け充電率の測定実験日について,全ての供試体が同一の含水状態で
試験できるように,以下の工夫を行った.
表 5-1 に示す配合を用いた同一バッチで 4 供試体(表 5-2 参照)を作製したが,正確な測
定を目指したので,これら 4 供試体を 1 日毎に実験することにした.この理由から,各々の
供試体について,水中養生日数を供試体ごとに 1 日ずつ増やした後,電極作製時を含む気中
放置日数を 2 日間に定めて,測定実験を実施した(表 5-3 参照)
.なお,測定実験時は供試体
を透明ラップ材(市販品)で覆った後,電極の頭部だけを露出させ出来る限り含水状態が変化
しないよう留意した.
表 5-3 測定実験時の 4 供試体材齢の内訳
供試体
名称
D00WC40
D10WC40
D16WC40
DddWC40
型枠設置
湿潤養生
(日数)
7
7
7
7
脱型後
水中養生
(日数)
20
21
22
23
75
電極作成
気中放置
(日数)
2
2
2
2
実験時の
材齢
(日)
29
30
31
32
(4)測定方法
見掛け比抵抗と見掛け充電率の測定共,ウェンナ法を用いて実施した.ウェンナ法を用い
たのは,ウェンナ法が,2.4.1 節で述べたように,①実績が豊富,②流した電流に対して比
較的大きな電位差が測定できる,③配線が単純で分かり易い,等の長所を有しているからで
ある.また,ウェンナ法で電極間の電位差を測定するにあたっては,絶対電位が必要な逆解
析時の境界条件と一致させる目的で供試体底面中央にアース(電位=0.V)点を設けた.
測定電流,測定電位ともパソコン画面にそれらの波形を図化出力できるデジタルマルチメ
ータ(市販品)を用いて,電磁カップリング(電流回路と電位回路が干渉して測定誤差が生
じる)現象等の測定誤差が発生せず安定状態であることを確認しながら実験を行った.2.2
節と 2.3 節でも示したように,見掛け比抵抗値ρと見掛け充電率 M は,図 5-2 に示す電流と
電位から各々,式(5-1)と式(5-2)を用いて算出した.
図5-2 電流I1,一次電位VRと二次電位VS(t)
ρ= 2πa
M =
VR
I1
1
VR ( t 4
(5-1)
−t )∫
3
t4
t3
(5-2)
VS (t ) dt
ここに,a[m]:電極間隔,VR [V]:安定した一次電位,I1[A]:安定した電流,M[mV/V]:
見掛け充電率,Vs(t)[mV]:電流I1切断後の二次残留電位.
無筋コンクリート位置では電流,電位とも綺麗な矩形形状の波形が測定されたが,鉄筋位
置付近では図 5-2 に示すような曲線部を有する電位波形が測定され安定状態に達するまでに
10 秒程度必要な場合もあった.この点に関して,データ抽出時間の差異による測定電位の変
動を避ける目的で図 5-2 に示す(t2-t1)区間を 13.80 秒(表 5-4 参照)と定めた.また,電流
76
及び電位の測定に当たっては,同一の電極で電流の正負を入れ替え,正負両者から得られた
見掛け比抵抗が近似していることを確認した後,両者を平均して見掛け比抵抗を算出した.
次に,式(5-2)を用いた見掛け充電率の算出手順を以下に示す.
まず,見掛け比抵抗算出時にも使用したデジタルマルチメータの最速能力を考慮し,デー
タ取得(以下,サンプリングと呼ぶ)間隔は0.345秒(表5-4参照)とした.電位が急降下す
る(t3-t2)区間が1.0秒以下の場合は,見掛け充電率の測定値にバラツキが生じ易かった.逆
に,(t3-t2)区間を3.0秒以上に設定すると測定電位が小さくなるため見掛け充電率の絶対値
も小さくなった.ゆえに,(t3-t2)区間を2.07秒(表5-4参照)に設定した.また,二次電位
を積分する (t4-t3)区間を10.0秒以上に設定しても測定電位が数秒で零に漸近し,
3.0秒程度
として計算した見掛け充電率と近い値を示したので,3.45秒(表5-4参照)に設定した.
表 5-4 測定実験時のデータ抽出時間
区間
(t2−t1)
(t3−t2)
(t4−t3)
サンプリング
①時間間隔
②個数
(sec)
(個)
0.345
40
0.345
6
0.345
10
①X②
抽出時間
(sec)
13.80
2.07
3.45
電源は交流100Vを安定した直流に変換できるスイッチング電源(市販品,最大能力:48
V,2.2A)を使用した.
5.2.3 見掛け比抵抗の測定結果
(1)測定と図化の手順
図 5-3(a)∼(d)は,4 供試体の実験で得られた見掛け比抵抗を,図 5-1 に示した A∼D 測線
毎にまとめて図化したものである.表 5-5 は,この 4 測線の電極番号と電極座標を表形式で
示しており,A 測線は供試体横方向,B,C,D 測線は縦方向の測線である.また,図 5-4 の(a)
は,電極間隔 a のウェンナ法を用いた場合の見掛け比抵抗ならびに見掛け充電率の測定探査
位置のイメージを示したものであり,通常はこの表示位置を測定探査深度として検討が行わ
れている.この表示方法を用いると,D16WC40 供試体 A 測線の見掛け比抵抗の測定探査位置
は図 5-4 の(b),同じく,B,C および D 測線の見掛け比抵抗の測定探査位置は図 5-4 の(c)の白
丸位置となる.測定実験と,測定実験を行った後に図 5-3(a)∼(d)を作成した手順の概要を,
A 測線を例にして以下に示す.
表 5-2 に示した 4 供試体とも,A 測線の見掛け比抵抗ρ(式(5-1)参照)を算出する際は,
表 5-5 に示した p1∼p15 の電極を用いて,図 5-4(b)に示す 34 電場(電極間隔 a=2cm が 13 電
場,a=4cm が 10 電場,a=6cm が 7 電場,a=8cm が 4 電場の計 34 電場)の測定を行った.その
後,A 測線の測点座標を X 軸,得られた見掛け比抵抗を電極間隔 a の大きさ別に Y 軸に図化
77
している.
B 測線∼D 測線の手順は,上記 A 測線のそれと同様である.
(2)見掛け比抵抗の測定結果
図 5-3(a)を例とすると,図中右上の凡例「2∼8 cm」は,前述の電極間隔 a を示している.
また,図中に記載された B,C,D の点線は,他の測線との相対的な位置関係を表している.以
下,図 5-3 に示した見掛け比抵抗の測定結果と考察を示す.
ⅰ) 見掛け比抵抗の傾向
まず,4 供試体の A 測線(図 5-3(a)参照)に着目すると,無筋供試体 D00WC40 と鉄筋量
の少ない D10WC40,
D16WC40 の 3 供試体の見掛け比抵抗分布はよく似た分布形状を示してい
る.しかし,最も鉄筋量の多い DddWC40 供試体の場合,特に空洞位置で見掛け比抵抗が大
きくなっており,例えば,電極間隔 a=6cm の場合,D00WC40 では最大 88Ωm であったが
DddWC40 では最大 178Ωm まで増加している.
また,健全鉄筋位置である B 測線(図 5-3(b)参照)に着目すると,4 供試体(D00WC40,
D10WC40,D16WC40,DddWC40)とも特に大きな差異は認められなかった.
空洞位置である C 測線(図 5-3(c)参照)に着目すると,DddWC40 供試体は,他の 3 供試
体に比べて大きな見掛け比抵抗を示しており,特に,a=2cm の場合,D00WC40 では最大 72
Ωm であったが,DddWC40 では最大 197Ωm まで増加している.a=4cm の場合も他の 3 供試
体(D00WC40,D10WC40,D16WC40)に比べて見掛け比抵抗が増加しているが,a=6cm の場合
は,他の 3 供試体と DddWC40 の見掛け比抵抗は類似している.このことから,DddWC40 の
場合,高比抵抗な物体が 2∼4cm 区間(実際はφ34mm の空洞が表面から 1.3∼4.7cm に存在
する)に位置することが探査できていると考えられる.ただ,DddWC40 の場合より空洞が
小さい場合には,探査は困難と言わざるを得ない.
腐食鉄筋位置である D 測線(図 5-3(d)参照)に着目すると,DddWC40 供試体は,他の 3
供試体に比べて小さな見掛け比抵抗を示しており,特に,a=6cm の場合,他の 3 供試体が
55∼99Ωm であるが,DddWC40 は 12∼14Ωm と極端に小さくなった.このことから,空洞の
場合と同様,その面積比が大きければ,おおきな低比抵抗な物体が 2∼6cm 区間(実際は 3
本の D16mm 腐食鉄筋が表面から 1.4∼4.4cm に存在する)
に位置することが探査できている
といえるが,面積比が小さい場合は探査困難と考えられる.
以上のように,測定結果を用いて見掛け比抵抗だけを算出し,空洞や腐食鉄筋位置を探
査することは可能であるが,
空洞断面積や鉄筋比が比較的大きい RC 構造物に限定されると
考えられる.また,健全鉄筋の見掛け比抵抗は,無筋コンクリートの見掛け比抵抗と近似
する可能性が高いため,見掛け比抵抗だけで健全鉄筋位置を探査することも比較的困難と
推定できる.
78
(a) A 測線(横方向)
(c) C 測線(空洞位置)
(b) B 測線(健全鉄筋位置)
(d) D 測線(腐食鉄筋位置)
図5-3 4供試体の見掛け比抵抗分布
79
表 5-5 A,B,C,D 測線の電極番号一覧
A測 線
p1 p2 p3 p4 p5 p6 p7 p8 p9 p10 p11 p12 p13 p14 p15 p16
2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24 26 28 30 32
B測 線
C測 線
D測 線
p28
p27
p26
p25
p24
p23
p22
p21
p20
p19
p18
p17
p40
p39
p38
p37
p36
p35
p34
p33
p32
p31
p30
p29
p52
p51
p50
p49
p48
p47
p46
p45
p44
p43
p42
p41
23
21
19
17
15
13
11
9
7
5
3
1
a
23
21
19
17
15
13
11
9
7
5
3
1
a
a/2
23
21
19
17
15
13
11
9
7
5
3
1
備考:
枠内の
数字は、
各測線の
原点からの
距離
(単位:cm)
a
a/2
a
(a) 電極間隔a の場合の測定探査位置のイメージ
備考: はD16健全鉄筋,
p1 p2
p4
p6
はφ16空洞,
p8
p10
はD16腐食鉄筋.
p12
p1 4
p1 6
電場数13
a=2cm
a=4cm
80
電場数10
mm
電場数7
a=6cm
電場数4
a=8cm
340. mm
(b) A測線の測定探査位置
備考:
p17 p18
はD16健全鉄筋.
p20
C,D測線もB測線と同様.
p22
p24
p26
電場数9
a=2cm
コンクリート
打設時
上面
p2 8
コンクリート
打設時
底面
電場数6
電場数3
a=4cm
a=6cm
80
mm
240. mm
(c) B測線の測定探査位置
図 5-4 A 測線と B,C,D 測線の測定探査位置
80
ⅱ) ブリージングの影響についての検討
4 供試体の A 測線(図 5-3(a)参照)に着目すると,それらの見掛け比抵抗分布の左右で
特筆すべき傾向は認められない.しかし,4 供試体の B,C,D 測線(図 5-3(b)∼(d)の順に参
照)に着目すると,それらの見掛け比抵抗は全て緩やかな右肩上がりの増加傾向が認めら
れる.各 B,C,D 測線グラフの X 軸 0cm 位置(左側)がコンクリート打ち込み時の上面,X
軸 24cm 位置(右側)がコンクリート打ち込み時の底面である.含水比が小さいほど比抵抗
が高くなる傾向 6)は以前から知られているので,コンクリート打ち込み時に発生するブリ
ージングの影響が見掛け比抵抗にも表れていると考えられる.この点に関しては 5.3 節で
も検討している.
5.2.4 見掛け充電率の測定結果
図 5-5(a)∼(d)には,実験で得られた見掛け充電率を,A,B,C,D 測線(図 5-1 参照)の順に
図化している.各図の書式などは,前述の図 5-3(a)∼(b)と同様である.以下,図 5-5(a)∼
(d)に示した見掛け充電率の測定結果と考察を示す.
ⅰ) 見掛け充電率の傾向
見掛け比抵抗と同様,まず,4 供試体の A 測線(図 5-5(a)参照)に着目すると,無筋供
試体 D00WC40 と鉄筋量の少ない D10WC40,
D16WC40 の 3 供試体の見掛け充電率は全て 25mV/V
程度の比較的小さな値となった.ただし,最も鉄筋量の多い DddWC40 供試体の場合は,特
に腐食鉄筋位置で見掛け充電率が比較的大きくなり,例えば,電極間隔 a=6cm の場合,最
大 87mV/V まで増加した.
健全鉄筋位置である B 測線(図 5-5(b)参照)に着目すると,無筋供試体 D00WC40 に比べ
て,RC 供試体 D10WC40,D16WC40,DddWC40 の見掛け充電率は明らかに増加しており,特に,
a=6cm の場合,D00WC40 は最大 32mV/V であったが,DddWC40 は最大 400 mV/V と大きくなっ
たので,
見掛け充電率を用いて健全鉄筋の有無や大小を探査することが可能と考えられる.
空洞位置である C 測線(図 5-5(c)参照)に着目すると,例えば DddWC40 の a=6cm の場合,
最大 120 mV/V の見掛け充電率が測定されている.ただし,健全鉄筋中心と空洞中心,腐
食鉄筋中心と空洞中心は各々,水平距離で 6cm(図 5-1 参照)と短いため,健全鉄筋と腐
食鉄筋で発生した見掛け充電率の一部が,空洞位置でも測定されたと推定できる.なお,
このことを確認する目的でφ40mm の空洞だけを有する予備の無筋供試体でも測定実験を
行ったが,見掛け充電率は予想通り零であった.
腐食鉄筋位置である D 測線(図 5-5(d)参照)に着目すると,B 測線と同様,無筋供試体
D00WC40 に比べて,RC 供試体 D10WC40,D16WC40,DddWC40 の見掛け充電率は鉄筋量の増加
とともに増加しており,特に,a=6cm の場合,D00WC40 は最大 15 mV/V であったが,DddWC40
は 559 mV/V と極端に大きくなった.大きくなる程度は,前述の健全鉄筋より顕著であっ
て,見掛け充電率によれば,腐食鉄筋の有無や大小を探査することは健全鉄筋の場合より
81
容易であると考えられる.
以上より,測定結果を用いて見掛け充電率だけを算出し,健全鉄筋や腐食鉄筋位置を探
査することが可能であり,鉄筋比が比較的小さい RC 構造物にも適用可能といえる.ただ
し,空洞は見掛け充電率と無関係である可能性が高いため,見掛け充電率だけで空洞位置
を探査することは困難と考えられる.
ⅱ) ブリージングの影響についての検討
見掛け比抵抗で存在した右肩上がりの増加現象がブリージングによるとすると,4 供試体
の B,C,D 測線(図 5-5(b)∼(d)の順に参照)には,右肩上がりの増加現象が認められないこ
とより,見掛け充電率はブリージングの影響を受けていないと推定できる.
82
(a) A 測線(横方向)
(c) C 測線(空洞位置)
(b) B 測線(健全鉄筋位置)
(d) D 測線(腐食鉄筋位置)
図 5-5 4 供試体の見掛け充電率分布
83
5.2.5 RC 構造物の内部推定のための実用化の検討
前節までの検討結果から,RC 構造物の内部推定に関する見掛け比抵抗と見掛け充電率の定
性的な傾向が明らかとなったので,本節では,それら見掛け比抵抗と見掛け充電率を回帰式
で表すとともに定量的な傾向について検討を行った.
(1) 見掛け比抵抗と見掛け充電率の回帰式の作成
見掛け比抵抗や見掛け充電率と鉄筋比あるいは空洞面積比との関係を表す回帰式が作成出
来れば,
RC 構造物の任意の鉄筋比や空洞面積比を推定することが可能となる.
図 5-6(1)∼(3)
および表 5-6(1)はこれを試みたもので,鉄筋比または空洞面積比と見掛け比抵抗の比の関係
を図化あるいは回帰式を作成したものである.
図 5-6(1)∼(3)に示す Y 軸は,B(健全鉄筋位置,図 5-3(b)参照)
,C(空洞位置,図 5-3(c)
参照)
,D(腐食鉄筋,図 5-3(d)参照)測線上の電極間隔 a=2,4,6cm の見掛け比抵抗の平均値
を,同じく無筋供試体の B,C,D 測線上の電極間隔 a=2,4,6cm の見掛け比抵抗の平均値で除し
た,無筋部に対する見掛け比抵抗の比(以後,見掛け比抵抗比と呼ぶ)を表している.同様
に,図 5-6(1)∼(3)に示す X 軸は,鉄筋(D10 等)と供試体断面積(34×8cm)との鉄筋比,
または空洞(φ10 等)と供試体断面積との空洞面積比を表しているので,X 軸座標の 0.0 は,
無筋供試体であることを示している.
また,図 5-7(1)∼(3)は見掛け充電率について,図 5-6(1)∼(3)の見掛け比抵抗と同様なこ
とを行ったもので,Y 軸は,B,C,D 測線上の電極間隔 a=2,4,6cm の見掛け充電率の平均値を,
同じく無筋供試体の B,C,D 測線上の電極間隔 a=2,4,6cm の見掛け充電率の平均値で除した,
無筋部に対する見掛け充電率の比(以後,見掛け充電率比と呼ぶ)を表している.そして,X
軸は,図 5-6(1)∼(3)と同様,鉄筋比を表している.
84
無筋部に対する見掛け充電率の比
(無次元)
無筋部に対する見掛け比抵抗の比
(無次元)
3.0
2.5
2.0
健全鉄筋 -実験値
1.5
健全鉄筋 -回帰式
空洞 -実験値
1.0
空洞 -回帰式
0.5
腐食鉄筋 -実験値
腐食鉄筋 -回帰式
0.0
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
3.0
鉄筋比または空洞面積比 ( % )
3.5
4.0
25.
20.
健全鉄筋 -実験値
15.
健全鉄筋 -回帰式
10.
腐食鉄筋 -実験値
5.
腐食鉄筋 -回帰式
0.
0.0
4.5
0.5
2.0
2.5
鉄筋比 ( % )
3.0
3.5
4.0
4.5
125.
3.0
2.5
2.0
健全鉄筋 -実験値
健全鉄筋 -回帰式
空洞 -実験値
空洞 -回帰式
腐食鉄筋 -実験値
腐食鉄筋 -回帰式
1.5
1.0
0.5
0.0
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
3.0
鉄筋比または空洞面積比 ( % )
3.5
4.0
100.
健全鉄筋 -実験値
75.
健全鉄筋 -回帰式
50.
腐食鉄筋 -実験値
25.
腐食鉄筋 -回帰式
0.
4.5
0.0
0.5
(2) 見掛け比抵抗比 ( 電極間隔 a=4cm )
健全鉄筋 -実験値
3.0
健全鉄筋 -回帰式
2.5
空洞 -実験値
2.0
空洞 -回帰式
腐食鉄筋 -実験値
1.5
腐食鉄筋 -回帰式
1.0
0.5
0.0
0.0
0.5
1.0
1.0
1.5
2.0
2.5
鉄筋比 ( % )
3.0
3.5
4.0
1.5
2.0
2.5
3.0
鉄筋比または空洞面積比 ( % )
3.5
4.0
125.
100.
健全鉄筋 -実験値
75.
健全鉄筋 -回帰式
50.
腐食鉄筋 -実験値
25.
腐食鉄筋 -回帰式
0.
0.0
4.5
0.5
(3) 見掛け比抵抗比 ( 電極間隔 a=6cm )
1.0
1.5
2.0
2.5
鉄筋比 ( % )
3.0
3.5
4.0
(3) 見掛け充電率比 ( 電極間隔 a=6cm )
図 5-6 見掛け比抵抗比
図 5-7 見掛け充電率比
表 5-6 回帰式の一覧
(1) 見掛け比抵抗比の回帰式
区分
適用範囲
(%)
見掛け比抵抗比の回帰式 (無次元)
電極間隔 a=2cm 時
電極間隔 a=4cm 時
電極間隔 a=6cm 時
健全鉄筋部
0≦ps≦2.2
ρ/ρo = 0.182*ps+1.0
ρ/ρo = 0.131*ps+1.0
ρ/ρo = -0.00819*ps+1.0
空洞部
0≦pc≦3.3
ρ/ρo = 0.450*pc+1.0
ρ/ρo = 0.279*pc+1.0
ρ/ρo = 0.0533*pc+1.0
腐食鉄筋部
(事前腐食鉄筋)
0≦ps≦2.2
ρ/ρo = -0.0791*ps+1.0
ρ/ρo = -0.271*ps+1.0
ρ/ρo = -0.388*ps+1.0
(2) 見掛け充電率比の回帰式
区分
適用範囲
(%)
健全鉄筋部
0≦ps≦2.2
空洞部
0≦pc≦3.3
腐食鉄筋部
(事前腐食鉄筋)
0≦ps≦2.2
備考:
ps は鉄筋比,
4.5
(2) 見掛け充電率比 ( 電極間隔 a=4cm )
無筋部に対する見掛け充電率の比
(無次元)
無筋部に対する見掛け比抵抗の比
(無次元)
1.5
(1) 見掛け充電率比 ( 電極間隔 a=2cm )
無筋部に対する見掛け充電率の比
(無次元)
無筋部に対する見掛け比抵抗の比
(無次元)
(1) 見掛け比抵抗比 ( 電極間隔 a=2cm )
1.0
見掛け充電率比の回帰式 (無次元)
電極間隔 a=2cm 時
電極間隔 a=4cm 時
電極間隔 a=6cm 時
M/Mo = 1.61*ps+1.0
M/Mo = 17.8*ps+1.0
M/Mo = 7.78*ps+1.0
見掛け充電率≒0.0
M/Mo = 6.39*ps+1.0
M/Mo = 56.03*(ps)
pc は空洞面積比.
ρo とMo は各々,無筋コンクリート部の見掛け比抵抗と見掛け充電率.
85
0.4
M/Mo = 78.34*(ps)
0.3
4.5
(2) 回帰式
以下に,図 5-6,図 5-7,表 5-6 に示す回帰式を利用した RC 構造物の内部推定方法を順
に示す.
① 内部推定の対象となる RC 構造物の表面に数本の測線を定め,その測線上に例えば探査深
度 4cm の場合は電極間隔 4cm で,必要個数の電極(図 5-1 参照)を作製する.
② 測定開始時に内部推定の原点となる無筋コンクリート部の見掛け比抵抗と見掛け充電率
を明らかにする必要がある.具体的には,見掛け比抵抗が平均的な値で,見掛け充電率が
ほとんど零の位置が無筋コンクリート部と推定できる(図 5-6,図 5-7 参照)
.
③ 健全鉄筋部の見掛け比抵抗比の回帰式(図 5-6 参照)に着目すると,無筋コンクリート部
に比べて,比較的小さな増加傾向が認められるが,無筋コンクリート部と健全鉄筋部の見
掛け比抵抗は近い値になることが明らかである.一方,健全鉄筋部の見掛け充電率を測定
した場合は,無筋コンクリート部に比べて,顕著な増加傾向(図 5-7 参照)が確認できる.
すなわち,
表 5-6 に示す健全鉄筋部の見掛け比抵抗比の回帰式
(一例として電極間隔 a=4cm
時)に着目すると,鉄筋比 2.2%の場合でも,無筋コンクリート部に比べて 1.3 倍高くな
る程度であるが,健全鉄筋部の見掛け充電率比の回帰式に着目すると,同じく鉄筋比
2.2%の場合,無筋コンクリート部に比べて 40.2 倍見掛け充電率が高くなっている.
上記の検討から,無筋コンクリート部と見掛け比抵抗が類似していて,無筋コンクリー
ト部の見掛け充電率に比べて 1∼40 倍程度高い場合は,健全鉄筋が存在する可能性が大き
いと推定できる.
④ 空洞部を測定した場合,無筋コンクリート部に比べて見掛け比抵抗は大きく(図 5-6 参照)
なるが,見掛け充電率はほとんど零になる.表 5-6 に示す空洞部の見掛け比抵抗比の回帰
式(一例として電極間隔 a=4cm 時)を用いると,3.3%の空洞面積比の場合,無筋コンク
リート部に比べて 1.9 倍,見掛け比抵抗が大きくなっている.
上記の検討から,無筋コンクリート部の見掛け比抵抗に比べて 1.∼2.5 倍高く,見掛け
充電率がほとんど零の場合は,空洞が存在する可能性が大きいと推定できる.
⑤ 事前腐食鉄筋部を測定した場合,無筋コンクリート部に比べて,見掛け比抵抗は低く(図
5-6 参照)なるが,見掛け充電率は健全鉄筋部より,さらに高くなった(図 5-7 参照)
.
表 5-6 に示す腐食鉄筋部の見掛け比抵抗比の回帰式(一例として電極間隔 a=4cm 時)を
用いると,鉄筋比 2.2%の場合,無筋コンクリート部に比べて 0.4 倍と見掛け比抵抗は低
くなるが,腐食鉄筋部の見掛け充電率比の回帰式を用いると,同じく鉄筋比 2.2%の場合,
無筋コンクリート部に比べて 79.3 倍と極端に見掛け充電率が大きくなっている.
上記の検討から,無筋コンクリート部の見掛け比抵抗に比べて 0.2∼1.0 倍と低く,無
筋コンクリート部の見掛け充電率に比べて 1∼100 倍高い場合は,
事前腐食鉄筋が存在する
可能性が大きいと推定できる.
⑥ 図 5-6,図 5-7,表 5-6 に示す回帰式は,水セメント比 40%(表 5-1 参照)
,コンクリー
ト材齢 29∼32 日(表 5-3 参照)
,供試体表面から鉄筋や空洞図心位置まで 3cm(図 5-1 参
86
照)
,電極間隔 a=2,4,6cm と,測定条件が限定されている.さらに,
「事前腐食鉄筋」は供
試体作製以前に約一ヶ月間,
塩化ナトリウム 3.5%溶液に浸けて人為的に腐食させたもので,
実際の RC 構造物では有り得ない腐食鉄筋である.
見掛け比抵抗は材齢の相違(5.2.6 節参照)で,また,見掛け充電率は塩分の存在(5.4.4
節参照)で,各々大きく変化する.ゆえに,本節で得られた回帰式は,一般の場合に対し
ては,単に,見掛け比抵抗および見掛け充電率の変化の傾向を示すものであり,既設 RC
構造物の鉄筋の存在と腐食状況を推定ことは困難である.
既設 RC 構造物についての推定法
は,ここで得られた傾向をもととして,他の実験結果も加え,6 章に述べている.
なお,腐食要因の影響を検討することを目的とした,健全鉄筋,事前腐食鉄筋,事前に塩
分を混入したコンクリート中の鉄筋(内的塩害を想定)
,電食を実施した鉄筋(外的塩害を想
定)を有するRC供試体の測定実験結果は,後述(5.4節)している.
5.2.6 測定結果解釈のための FEM 逆解析
(1) RC 供試体の見掛け比抵抗および見掛け充電率の測定結果
逆解析手法により RC 構造物内部の比抵抗分布を明らかにできるかを検証するため,
見掛け
比抵抗の絶対値が最も大きかった DddWC40 供試体(図 5-1 参照)を検討対象として,三次元
FEM 逆解析を行った.
RC 構造物の比抵抗は,含水率により変化することが既存文献 6)に示されていることより,
材齢でも変化することが予想される.表 5-7 に示すように,本節で述べる測定は,前節の見
掛け比抵抗ならびに見掛け充電率を測定した材齢(表 5-3 参照)から気中放置して 45 日後に
行ったので,①見掛け比抵抗,②見掛け充電率,③逆解析用の電流と絶対電位,の測定を新
たに実施した.また,任意断面の測定データから健全鉄筋,空洞,事前腐食鉄筋の比抵抗を
算出することが目的であるので,本節では上記①∼③項目とも,A 測線(図 5-1 参照)のみ
を測定した.
表 5-7 逆解析のための供試体材齢の内訳
供試体
名称
DddWC40
型枠設置
湿潤養生
(日数)
7
脱型 後
水中養生
気中放置
(日数)
(日数)
23
47
実験時の
材齢
(日)
77
図 5-8 は見掛け比抵抗を比較したもので,これに示すように,A 測線の全 34 電場(電極間
隔 a=2cm が 13 電場,a=4cm が 10 電場,a=6cm が 7 電場,a=8cm が 4 電場の計 34 電場)で測
定した材齢 77 日の見掛け比抵抗の平均値は 275Ωmとなり,材齢 32 日の見掛け比抵抗平均
値 114Ωmの約 2.4 倍と大きな値となった.しかし,平均値はこのように変化したにも関わ
らず,
材齢32 日と材齢77 日における見掛け比抵抗のA 測線沿いの曲線形状はよく似ている.
87
図 5-8 見掛け比抵抗の比較
図 5-9 見掛け充電率の比較
(A 測線,材齢 32 日と 77 日)
(A 測線,材齢 32 日と 77 日)
この分布形状の類似から,コンクリート,健全鉄筋,空洞,腐食鉄筋の各々の材齢 32 日
が材齢 77 日に増加したことによる見掛け比抵抗の増加率は,同程度と推定できる.
一方,材齢 32 日と材齢 77 日の見掛け充電率は図 5-9 のようであった.A 測線の全 34 電場
で測定した材齢 77 日の見掛け充電率の平均値は 44.0 mV/V となり,材齢 32 日の見掛け充電
率平均値 36.4 mV/V の約 1.2 倍となったが,特に電極間隔 6cm と 8cm の場合,材齢 32 日と材
齢 77 日の見掛け充電率に大きな差異は認められないことが分かる.従って,材齢の増加によ
り,見掛け比抵抗は高くなる(材齢 32 日から材齢 77 日で約 2.4 倍)なるが,見掛け充電率
の変化は比較的少ない(材齢 32 日から材齢 77 日で約 1.24 倍)といえる.含水率が減少する
と見掛け比抵抗が増加 6) するという既往の知見を考えれば,上記の現象は,見掛け比抵抗は
含水率の影響を受け易く,
見掛け充電率は含水率の影響を受け難いことが原因と考えられる.
(2)RC 供試体のモデル化と測点配置
図 5-10 DddWC40 供試体の三次元モデル
88
表 5-8 逆解析用・測定時の電流と電位測定位置
逆解析を行うため作成した三次元モデル(34×24×8cm,節点数 7875,要素数 5528)は図
5-10 に示すようである.このモデルにおいては,見掛け比抵抗や見掛け充電率の測定結果か
ら,図 5-10 に示すⅠ∼Ⅴの領域に鉄筋か空洞が存在すると仮定して,全物性領域を「Ⅰ∼Ⅵ」
としている.この三次元モデルに,DddWC40 供試体の A 測線で測定した電流と絶対電位を入
力し,Ⅰ∼Ⅵ領域の比抵抗が上手く逆解析できるかを検討した.
表 5-8 は,測定した電流入出力点と絶対電位測定点の一覧であり,表中の p1∼p15 は図
5-10 に示す電極番号と対応している.なお,表 5-8 に示す絶対電位測定点と,DddWC40 供試
体の底面中央に設置したアース点(0.0V)間の電位(差)を,絶対電位と見なして測定した.
(3) 逆解析結果
逆解析時に得られた比抵抗の収束状況と,主な比抵抗値を,各々図 5-11 と表 5-9 に示す.
図 5-10 に示すⅠ∼Ⅵ領域の比抵抗の初期値を全て 100,000.Ωmとして,
逆解析を始めると 1
回目から 8 回目までは順調に比抵抗が低下していたが,9 回目に空洞部の比抵抗が増加に転
じ,その後,11 回目には物理的に意味の無い負の比抵抗値(-734Ωm,表 5-9 参照)を算出
して,逆解析は中断した.
100000
Ⅰ: 健全鉄筋
比抵抗 (Ωm)
10000
Ⅱ: ⅠとⅢの間
Ⅲ: 空洞
1000
Ⅳ: ⅢとⅤの間
Ⅴ: 腐食鉄筋
100
Ⅵ: 他のコンクリート
10
0
5
10
逆解析回数 (回)
15
図 5-11 逆解析時の比抵抗の収束状況
89
20
既に図 3-3 に示したように,測定電位に近似した逆解析電位が得られるまで,比抵抗分布
を変化させるのが逆解析フローなので,逆解析収束時には,収束した逆解析電位と収束した
比抵抗分布が得られることになる(表 5-9,図 5-12 参照)
.
流した電流Iを 1.0A と換算した測定電位(V/I)と,逆解析電位(V/I)の相関を,図 5-12 に
示す.この図中の逆解析 10 回目に着目すると,逆解析電位は測定電位に良く一致している
ことが明らかである.0 回目からスタートして,逆解析回数が増すに従い「逆解析電位」は
「測定電位」に順調に近づいている.
表 5-9 逆解析で得られた比抵抗分布(単位Ωm)
逆解析
Ⅰ
回数
Ⅱ
健全鉄筋 ⅠとⅢの間
Ⅲ
空洞
Ⅳ
Ⅴ
ⅢとⅤの間 腐食鉄筋
Ⅵ
他のコンクリート
0
100000
100000
100000
100000
100000
100000
9
390
308
2279
261
95.0
264
10
370
232
1677
184
31.1
170
11
330
239
-734
106
17.0
129
備考:
-734 は,逆解析が中断した原因の負の比抵抗値.
20000
逆解析電位 (V/I)
10000
0
6回目
8回目
10回目
系列1
-10000
-20000
-20000
-10000
0
10000
測定電位 (V/I)
20000
図 5-12 測定電位と逆解析電位の相関
「測定電位」と「逆解析 10 回目の電位」の近似程度(図 5-12 参照)から明らかなように,
表 5-9 に示す逆解析 10 回目の比抵抗は,決して無意味な値ではなく,正解に漸近し始めた近
似値と見なすことが可能である.具体的に逆解析 10 回目の比抵抗に着目すると,無筋コンク
リート部であるⅡ,Ⅳ,Ⅵ領域の比抵抗は 170∼232Ωmと比較的近い値を示した.さらに,
電気的には絶縁体である空洞部のⅢ領域は 1677Ωmであり,無筋コンクリート部であるⅥ領
90
域の 170Ωmに比べて約 9.9 倍高い比抵抗となった.また,事前腐食鉄筋部であるⅤ領域は
31Ωmであり,黒皮が電気を通し難い健全鉄筋部であるⅠ領域の 370Ωmに比べて約 11.9 倍
電気を通し易い比抵抗を示した.
電気を通さない空洞部,比較的電気を通し難い健全鉄筋部,電気を通し易い事前腐食鉄筋
部の電気的性質は前節までの見掛け比抵抗測定結果から明らかであったので, 上記の比抵抗
の逆解析結果(空洞部=1677Ωm,健全鉄筋部=370Ωm,事前腐食鉄筋部=31Ωm)は妥当と判断
できる.
このことから,
供試体形状と周辺コンクリートの影響を含む見掛け比抵抗ではなく,
特定位置の比抵抗を直接求めることができる逆解析手法により,空洞部,コンクリート部,
健全鉄筋部,事前腐食鉄筋部の比抵抗を算出できることが明らかとなったといえる.このこ
とから,形状の異なる RC 構造物の比抵抗分布を直接比較検討することや,腐食鉄筋が存在す
る場合の電位分布を解析で予測することも可能で,非破壊検査技術の検討の幅が拡大したと
考えられる.
5.3 打ち込み方向,粗骨材の有無,鉄筋の有無の影響に関する検討
5.3.1 検討目的
本研究の主目的は鉄筋等の存在と腐食状況の推定であるが,
コンクリートの打ち込み方向,
粗骨材の有無,鉄筋の有無によってもRC構造物の電気的性質である見掛け比抵抗と見掛け充
電率は変化することが予想される.それゆえ,RC構造物の電気的性質から,鉄筋等の存在と
腐食状況を精度良く推定するには,上記の要因による見掛け比抵抗と見掛け充電率の変化の
傾向も明らかにしておく必要がある34) と考えられる.
この必要性から,コンクリート打ち込み方向,粗骨材の有無,鉄筋の有無が電気的性質に
及ぼす影響について検討することを目的として,①打ち込み深さ75cmの無筋鉛直供試体,②
厚さ12cmの半分がコンクリート製で残り半分がモルタル製の無筋水平供試体,③黒皮無しで
未腐食の鉄筋(D29mmを1本)を入れたRC水平供試体,を作製し各々の見掛け比抵抗と見掛け
充電率を比較検討した.本章では,この結果について述べる.
5.3.2 実験概要
見掛け比抵抗と見掛け充電率は,5.2節と同様,ウェンナ法で測定した.
(1)使用材料,配合ならびに圧縮強度
供試体コンクリートに用いたセメントは,太平洋セメント(株)・高知県土佐工場製の普通
ポルトランドセメントである.粗骨材は,最大寸法20mmの兵庫県飾磨郡家島町西島産の砕石
で,岩種は流紋岩質安山岩である.材齢91日のコンクリート圧縮強度は表5-10に示すようで
ある.
91
表5-10 配合と91日圧縮強度
単位量 (kg/m 3)
W/C
σ91
(%)
水
セメント
細骨材
粗骨材
(N/mm2)
50
169
338
818
1027
33.1
備考:σ91は無筋鉛直供試体から作成した角柱3個の圧縮強度平均値.
(2)供試体の概要
実験に用いた3供試体は,いずれも高さ75cm,幅10cm,奥行き12cmの直方体であって,同一
バッチのコンクリートを用いて作製した.表5-11は,各供試体の実験要因の概要を示すもの
である.同表中の無筋鉛直供試体は,コンクリート打ち込み方向と見掛け比抵抗の相関関係
を明らかにする目的で作製し,打ち込み高さを75cmとした.
表 5-11 供試体の概要一覧
供試体
W/C
鉄筋直径
かぶり (mm)
鉄筋腐食
名称
(%)
(mm)
電極設置面から
状況
無筋鉛直
50
―
―
―
無筋水平
(二層)
50
―
―
―
RC水平
50
D29
45.5
健全
備考 : 無筋水平供試体は,コンクリート部とモルタル部の二層構造.
備考 : 鉄筋はJIS G3112 SD295A規格品.
無筋水平供試体は,
コンクリート中の粗骨材の電気的性質を明らかにする目的で,
厚さ12cm
の半分がコンクリート製で残り半分がモルタル製とした.モルタルは,目の開きが5mmの金網
を用いて同一バッチのコンクリートをウェットスクリーニングする方法で作製した.
RC供試体では,供試体中の健全鉄筋そのものの電気的性質を明らかにするため,10%クエン
酸二アンモニウム溶液でD29mm鉄筋表面の黒皮を除去したが,供試体作製以前に一定期間,塩
分腐食させる事前腐食は実施しなかった.
3供試体の立体図を図5-13に示す.図中の連続的な小円は,3cm間隔で設置した電極位置(供
試体の1測定面毎に24個=75cm/3cm -1)を各々示している.
92
図5-13 3供試体の形状と鉄筋・電極位置
(3)測定試験時の材齢
3供試体の測定試験時の材齢を表5-12に示す.
表 5-12 測定試験時の 3 供試体材齢の内訳
脱型後
型枠設置
測定試験
供試体
湿潤養生
水中養生
気中放置
時の材齢
名称
(日数)
(日数)
(日数)
(日数)
無筋鉛直
7
21
47
75
無筋水平
(二層)
7
21
48
76
RC水平
7
21
49
77
備考 : 無筋水平供試体は,コンクリート部とモルタル部の二層構造.
(4)測定方法
電極には,前節に述べたものと同じ構成のクリームハンダ電極を用いた.また,見掛け比
抵抗と見掛け充電率の測定も前節と同様,ウェンナ法を用いて実施した.絶対電位が必要な
逆解析時の境界条件と一致させる目的で各供試体底面中央にアース点(電位=0.0V)を設け
たことも,前節と同じである.
見掛け比抵抗 ρ は前節の式(5-1)から算出した.無筋コンクリート位置では電流,電位と
も綺麗な矩形形状の波形が測定されたが,
鉄筋位置付近では図5-2に示すような曲線部を有す
る電位波形が測定され安定状態に達するまでに15秒以上必要な場合もあった.そのため,測
93
定試験時のデータ抽出時間の差異によって見掛け比抵抗が変動するのを低減する目的で,図
5-2に示す(t 2- t 1 )区間を20.0秒(表5-13参照)と定めた.
表5-13 測定試験時のデータ抽出時間
区間
1) x 2)
抽出時間
(sec)
20.0
サンプリング
1) 時間間隔
2) 個数
(sec)
(個)
0.01333
1500
(t 2− t 1)
(t 3− t 2)
(t 4− t 3)
0.01333
150
2.00
0.01333
270
3.60
見掛け充電率の算出に必要な(t3- t 2 )区間と(t4- t 3 )区間(図5-2参照)は,5.2節で問題無く見
掛け充電率が算出できたので5.2節と同じ各々2.00秒,3.60秒と設定した.測定システムは本
研究中に開発した「携帯型電気測定装置」
(2.5節参照)を用いて,電源はスイッチング電源
(市販品,最大能力:直流48V,2.2A)を使用した.
(7)測定の手順
3供試体(無筋鉛直供試体,無筋水平供試体,RC水平供試体,図5-13参照)の見掛け比抵
抗と見掛け充電率を得るため, p1∼p24の電極(3cm間隔毎,図5-14参照)を用いて,電場
数54(電極間隔a=3cmが21電場,a=6cmが18電場,a=9cmが15電場の計54電場,表5-14参照)
の測定を行った.二層構造の無筋水平供試体の場合は,コンクリート側とモルタル側の両側
から54電場ずつ,計108電場の測定を実施した.RC水平供試体の場合は,かぶり45.5mm(表5-11
参照)を考慮して,電場数39(電極間隔a=3cmが21電場,a=6cmが18電場の計39電場)の測定
を行った.
a
a
a/2
a
a/2
a
1) 電極間隔 a の場合の測定探査位置のイメージ
p1
p2
p3
p4
p5
p6
p7
p8
p18 p19 p20 p21 p22 p23 p24
電場数21
a =3cm
電場数18
a =6cm
電場数15
a =9cm
750 mm
2) 測定探査位置
図5-14 供試体の測定探査位置のイメージ
94
120
mm
表5-14 入出力電流と電位測定点一覧
1) 電極間隔 a =3cmの場合(電場数21)
測点 p
1
2
3
4
5
6
7
8
9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24
電場01 +I V V -I ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
電場02 ― +I V V -I ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
省 略 電場20 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― +I V V -I ―
電場21 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― +I V V -I
2) 電極間隔 a =6cmの場合(電場数18)
測点 p
1
2
3
4
5
6
7
8
9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24
電場01 +I ― V ― V ― -I ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
電場02 ― +I ― V ― V ― -I ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
省 略 電場17 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― +I ― V ― V ― -I ―
電場18 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― +I ― V ― V ― -I
3) 電極間隔 a =9cmの場合(電場数15)
測点 p
1
2
3
4
5
6
7
8
9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24
電場01 +I ― ― V ― ― V ― ― -I ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
電場02 ― +I ― ― V ― ― V ― ― -I ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
省 略 電場14 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― +I ― ― V ― ― V ― ― -I ―
電場15 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― +I ― ― V ― ― V ― ― -I
備考:
±I
は電流の入出力点.
V は電位の測定点.
―
は未使用測点.
5.3.3 見掛け比抵抗の測定結果
図5-15は,1)無筋鉛直供試体,2)無筋水平供試体のコンクリート側,3)無筋水平供試体の
モルタル側,4)RC水平供試体の順に,実験で得られた見掛け比抵抗分布を示している.特に,
1)無筋鉛直供試体と,2)無筋水平供試体のコンクリート側では,測定位置による見掛け比抵
抗の回帰式を黒点線で示している.以下,これらの検討結果を供試体別に示す.
(1)打ち込み方向が見掛け比抵抗に与える影響
無筋鉛直供試体と無筋水平供試体のコンクリート側(図5-15の1)と2) 参照)の見掛け比
抵抗の平均値,回帰式,見掛け比抵抗の測定値と回帰式の値との相関係数を,表5-15に示す.
図 5-15 の 1)に着目すると,電極間隔 a=3,6,9cm の見掛け比抵抗が,上面から底面(図上で
は X 軸の左端→右端)に移動するに従い,見掛け比抵抗が大きくなる現象が明らかである.
確認目的で算出した無筋鉛直供試体の見掛け比抵抗の回帰式(図上の黒点線)の傾きも,無
筋水平供試体(コンクリート側)の回帰式(図上の黒点線)の傾きに比べて 2.45∼3.82 倍大
きくなった(電極間隔 a=3,6,9cm の場合とも,表 5-15 参照)
.以前から知られている含水率
が小さいほど比抵抗が高くなる傾向 6)を考慮すると,コンクリート打ち込み時に発生するブ
リージングの影響が見掛け比抵抗にも表れていると考えられる.
95
図5-15 見掛け比抵抗分布
表5-15 鉛直供試体と水平供試体の見掛け比抵抗一覧
電極間隔
統計量
(1)
(2)
無筋鉛直供試体
無筋水平供試体
コンクリート側
回帰式の傾きの比
(1)/(2)
(無次元)
平均値(Ωm)
646.6
435.1
----
9cm
回帰式
Y=1.700X+583
Y=0.453X+418
1.70/0.453=3.75
(15個)
測定値と
回帰式の値
との相関係数
0.374
0.299
----
平均値(Ωm)
321.3
239.9
----
6cm
回帰式
Y=1.134X+279
Y=0.296X+229
1.13/0.296=3.82
(18個)
測定値と
回帰式の値
との相関係数
0.530
0.249
----
平均値(Ωm)
164.6
145.1
----
3cm
回帰式
Y=0.880X+132
Y=0.357X+132
0.880/0.357=2.46
(21個)
測定値と
回帰式の値
との相関係数
0.708
0.290
----
a
(サンプル数)
備考 : 回帰式のXは測定原点からの距離(cm),Yは見掛け比抵抗(Ωm).
96
(2)粗骨材が見掛け比抵抗に与える影響
無筋水平供試体の見掛け比抵抗(図5-15の2)と3) 参照)の平均値と標準偏差一覧を,表
5-16に示す.
表5-16 コンクリート側とモルタル側の見掛け比抵抗一覧
無筋水平供試体
電極間隔 a
統計量
(1)コンクリート側
(2)モルタル側
(1)/(2)
(サンプル数)
(Ωm)
(Ωm)
(無次元)
9cm
平均値
(15個)
標準偏差
6cm
平均値
(18個)
標準偏差
435.1
20.3
239.9
19.0
145.1
22.9
414.8
19.1
199.9
19.8
87.4
10.4
1.05
1.07
1.20
0.96
1.66
2.20
3cm
平均値
(21個)
標準偏差
この表に示すように,コンクリート側の見掛け比抵抗の平均値が,モルタル側の平均値よ
りも1.05∼1.66倍大きくなった.ただし,電極間隔a=6cmと9cmの場合は,コンクリートとモ
ルタル(共に厚さ6cm)の「境界面」と「境界面より3cm深い位置」の測定となるため,コン
クリートとモルタルの差異を検討するのに適していない.それで,特に電極間隔a=3cm(探
査位置3cm)に着目すると,コンクリート側の見掛け比抵抗の平均値とモルタル側の平均値の
比が1.66倍となった.このことより,粗骨材の存在が見掛け比抵抗を増加させていると考え
られる.
また,表5-16に示す無筋水平供試体の電極間隔a=3cm時におけるコンクリート側の見掛け
比抵抗の標準偏差は,モルタル側の標準偏差の2.20倍と大きくなった.このことより,粗骨
材の存在が,見掛け比抵抗のバラツキも増加させていると判断できる.
文献調査で得られた岩石などの比抵抗を図5-1636)に示す.この図によれば,堆積岩の比抵
抗は0.5∼1,000Ωm,火成岩の比抵抗は600∼100,000Ωmと認められる.使用した粗骨材35)(砕
石)は火成岩の一種(流紋岩質安山岩)であるため,モルタル側よりコンクリート側の見掛け
比抵抗の方が大きく測定されたことは,粗骨材が存在する分,妥当と考えられる.
図5-16 岩石などの比抵抗36)
97
(3)鉄筋の有無が見掛け比抵抗に与える影響
表5-17に示す電極間隔a=6cm(探査深度6cm)の見掛け比抵抗の平均値に着目すると,無筋
水平供試体よりRC水平供試体の方が,見掛け比抵抗が小さく0.77倍(=185Ωm/240Ωm)と測
定された.
「黒皮を除去した鉄筋は導体であること」と「鉄筋D29mm鉄筋断面の図心が,探査
深度6cm位置に一致すること」から,D29mm鉄筋の存在が見掛け比抵抗を低下させていると推
定できる.
表5-17 RC供試体と無筋供試体の見掛け比抵抗一覧
(1)
(2)無筋水平供試体
電極間隔 a
統計量
RC水平供試体
コンクリート側
(1)/(2)
(サンプル数)
(Ωm)
(Ωm)
(無次元)
6cm
平均値
(18個)
標準偏差
185.1
27.9
155.4
21.2
239.9
19.0
145.1
22.9
0.77
1.47
1.07
0.92
3cm
平均値
(21個)
標準偏差
なお,
「黒皮を除去した鉄筋の存在により見掛け比抵抗が低下する現象」は,後述する
「5.3.5節 測定結果解釈のためのFEM逆解析」でも同様の傾向を確認している.
5.3.4 見掛け充電率の測定結果
図5-17 見掛け充電率分布
98
図5-17は,1)無筋鉛直供試体,2)無筋水平供試体のコンクリート側,3)無筋水平供試体の
モルタル側,4)RC水平供試体の順に,実験で得られた見掛け充電率を示している.また,表
5-18には測定した全供試体の見掛け充電率の平均値と標準偏差一覧を示している.
表5-18 見掛け充電率の平均値と標準偏差一覧
無筋
無筋水平供試体
RC
電極間隔 a
統計量
鉛直供試体
コンクリート側
モルタル側
水平供試体
(サンプル数)
(mV/V)
(mV/V)
(mV/V)
(mV/V)
9cm
平均値
3.37
3.20
5.66
―
(15個)
標準偏差
9.20
9.39
13.5
―
6cm
平均値
1.87
2.00
8.11
411.7
(18個)
標準偏差
4.30
6.78
17.4
57.7
3cm
平均値
1.98
0.33
0.00
93.6
(21個)
標準偏差
5.97
0.10
0.00
47.6
無筋鉛直供試体,
無筋水平供試体のコンクリート側とモルタル側の計3組の見掛け充電率は,
RC水平供試体のそれに比べて極端に小さな値となった(図5-17と表5-18参照)
.その結果,見
掛け充電率(図5-2に示す電位の残留現象)は,
「コンクリートの打ち込み方向や粗骨材の有
無に無関係であること」と,
「鉄筋の存在のみにより発生していること」が推定できた.
特に,図5-17の4)に着目すると,電極間隔a=3cmから6cmに増加するに従い見掛け充電率も
増加しており,a=6cmの平均値はa=3cmのそれの約4.4倍(=412/94,表5-18参照)と大きく
なっている.このことは,
「鉄筋D29mm鉄筋断面の図心が,探査深度6cm位置に一致すること」
から,
黒皮を除去したD29mm鉄筋の存在が見掛け充電率を増加させることを示していると考え
られる.
さらに,無筋供試体の見掛け充電率に対する,RC供試体の見掛け充電率の増加現象」
(本節
の見掛け充電率分布,図5-17参照)に着目すると,
「無筋供試体の見掛け比抵抗に対する,RC
供試体の見掛け比抵抗の増加現象」
(前節の見掛け比抵抗分布,図5-15参照)に比べて,極端
に大きいことが明らかである.本研究では,見掛け比抵抗と見掛け充電率の両測定値から,
鉄筋位置,鉄筋腐食状況,空洞位置等の精度の高い探査を目的としているが,
「黒皮を除去し
た鉄筋位置の探査」を一方法に限れば,見掛け比抵抗よりも見掛け充電率を測定した方が有
効と考えられる.
5.3.5 測定結果解釈のためのFEM逆解析
見掛け比抵抗理論(2.2節参照)によれば,均質な半無限地盤においては「見掛け比抵抗」
と「比抵抗」が同じ値になることが示されている.ところが,RC供試体や既存RC構造物は有
限形状であるため,
「見掛け比抵抗」と「比抵抗」は異なった値となる.つまり,
「見掛け比
99
抵抗」はRC供試体や既存RC構造物毎の固有の値,一方,
「比抵抗」はRC供試体や既存RC構造物
の有限形状に無関係な絶対値といえる.それで,三次元FEM逆解析手法を用いて「比抵抗」を
得ることと,それらを「見掛け比抵抗」と比較検討する目的で,本節に述べる解析を実施し
た.
(1) 逆解析の概要
「供試体で得られた測定電位」と「FEM逆解析で得られた解析電位(以下,逆解析電位)
」
が近似していれば,
「供試体の比抵抗分布」と「FEMモデルの比抵抗分布」も近似していると
判断できる.それで,拡張カルマンフィルタによるFEM逆解析手法22),23)を用いて,
「供試体で
得られた測定電位」に近似した「逆解析電位」を有する三次元FEMモデルの比抵抗分布を算出
した.作成した1)無筋鉛直モデル,2)無筋水平モデル,3)RC水平モデルの計3個の三次元モデ
ル(3個共,75×12×10cm,節点数7293,要素数5000)を図5-18に示す.
なお,測定電位と逆解析電位の比較による逆解析結果に関する精度の判断材料の一つとし
て,以下に定義する残差 r [%]を用いている.
n
r = ∑ Vi − V0i
i =1
n
∑V
i =1
0i
(5-3)
× 100
ここに,i:電位の測定数に相当する1から始まる数字で n はその最大値,V0i :i番目の測定
電位,Vi :i番目の逆解析電位.
図 5-18 三次元モデルの材質区分と逆解析時の比抵抗収束値
100
無筋鉛直モデルは,逆解析区間を図5-18の1)に示すように上部から15cm毎に5等分割した.
無筋水平モデルは,逆解析区間をコンクリート部とモルタル部に一致させて,左右に2等分割
した(図5-18の2) 参照)
.RC水平モデルは,逆解析区間を図5-18の3)に示すようにコンクリ
ート部と鉄筋部に合わせて2区分とし,鉄筋部断面は,D29mm鉄筋の断面積に一致した正八角
形でモデル化した.
FEM逆解析手法(3.3節参照)を用いて,三次元FEMモデルの比抵抗分布を算出するのが本節
の主目的であるが,逆解析結果から測定結果の妥当性を検証するためには,
「①「測定電位」
と「逆解析電位」を比較する,②逆解析で得られた比抵抗分布自体を検討する,③「見掛け
比抵抗分布の測定値」と「見掛け比抵抗分布の解析値」の近似程度を比較する,の3つの方
法(図5-19参照)が考えられる.ただし,
「測定電位」と「逆解析電位」を比較しただけでは
深い考察は困難であるので,本節と5.4.6節では主に,②逆解析で得られた比抵抗分布自体の
検討と,③「見掛け比抵抗分布の測定値」と「見掛け比抵抗分布の解析値」の近似程度を比
較検討している.逆解析が収束した時点で,収束時の電位分布が得られるので適切な電極間
の電位差(式(5-1)参照)を計算することで「見掛け比抵抗分布の解析値」を算出することが
できる.なお,図5-19は,図3-3に示した逆解析フローから,逆解析が収束した際に,RC構造
物の測定結果を検証する3方法を抜き出したフローである.
START
逆解析計算が収束した場合
RC構造物の測定結果を検証する場合
1) 測定電位と逆解析電位を比較する.
2) 逆解析で得られた比抵抗分布自体を
検討する.
3) 測定で得られた見掛け比抵抗分布と
逆解析で得られた見掛け比抵抗分布の
近似度を検証する.
END
図5-19 逆解析収束後のRC構造物の測定結果検証フロー
101
(2) 逆解析結果
100000
比抵抗 (Ωm)
1番上
2番目
10000
3番目
4番目
1000
1番下
100
0
5
10
15
20
逆解析回数 (回)
25
30
1) 無筋鉛直モデル
100000
コンクリート
比抵抗 (Ωm)
10000
モルタル
1000
100
10
0
5
10
15
20
逆解析回数 (回)
25
30
2) 無筋水平モデル
100000
コンクリート
比抵抗 (Ωm)
10000
鉄筋
1000
100
10
1
0
5
10
15
20
逆解析回数 (回)
25
30
3) RC水平モデル
図5-20 逆解析時の比抵抗の収束状況
逆解析電位 ( V/I )
2000
1000
0
10回目
11回目
15回目
22回目
-1000
-2000
-2000
-1000
0
1000
測定電位 ( V/I )
注)
測定電位と
逆解析電位
の相関関係
の一例.
2000
図5-21 RC水平モデルの測定電位と逆解析電位の相関関係
102
逆解析時の比抵抗の収束状況を図5-20に,測定電位と逆解析電位の相関関係の一例を図
5-21に,逆解析で得られた比抵抗を表5-19に,各々示す.
表5-19 逆解析で得られた比抵抗と電位の残差
1) 無筋鉛直モデル
逆解析
回数
1番上
Ωm
2番目
Ωm
3番目
Ωm
4番目
Ωm
1番下
Ωm
残差
r %
0
10
11
15
22
90,000
90,000
90,000
90,000
90,000
68,304
147.5
111.9
100.6
100.6
163.1
131.0
123.3
123.3
173.2
143.1
136.7
136.7
174.9
145.0
138.9
138.9
176.8
147.4
141.6
141.5
28.7
7.6
6.5
6.5
2) 無筋水平モデル
3) RC水平モデル
逆解析 コンクリート モルタル
Ωm
回数
Ωm
0
10
11
15
22
残差
r %
90,000
90,000
123,524
143.7
107.7
96.0
96.0
116.2
75.2
54.5
54.5
78.8
31.3
21.9
21.9
逆解析 コンクリート
Ωm
回数
0
10
11
15
22
鉄筋
Ωm
残差
r %
90,000
90,000
104,051
148.9
113.0
101.2
101.2
48.8
26.3
17.9
17.9
61.4
21.0
14.8
14.8
a.打ち込み方向に従い見掛け比抵抗が変化する傾向の検討
無筋鉛直供試体における,
見掛け比抵抗の測定値分布と解析値分布比較を図5-22に示した.
ここで,図5-22の2)は,逆解析で得られた比抵抗の収束値(101∼142Ωm,表5-19の1)参照)
を有する三次元モデル(図5-18の1)参照)の見掛け比抵抗の解析値分布である.
図5-22から,以下のことがいえる.
a=3cmと9cm時に比べて,a=6cm時の見掛け比抵抗の測定値分布と解析値分布が最も近似
している理由は,電極間隔a=6cm時のみの絶対電位(測定電位)を用いて逆解析を実施した
ためと考えられる.
この無筋鉛直モデルでは,上部から下部に順に101,123,137,139,142Ωmと比抵抗が増
加する逆解析結果となった(図5-18の1)参照)
.図5-20の1)に示すように逆解析回数12∼22
回目で比抵抗が安定している点,表5-19に示すように逆解析回数22回目の測定電位と逆解析
電位の残差が5.5%(式(5-3)参照)と比較的小さい点,の2点から推定して,妥当な見掛け比
抵抗の測定値分布(図5-22の2)参照)と判断できる.この判断から,打ち込み上面ほど見掛
け比抵抗が低下する傾向は,三次元FEM逆解析手法からも検証できたといえる.
103
1) 見掛け比抵抗の
測定値分布
2) 見掛け比抵抗の
解析値分布
(図5-18の1)参照)
図5-22 無筋鉛直・供試体とモデルの見掛け比抵抗分布
b.粗骨材の有無で見掛け比抵抗が変化する傾向の検討
無筋水平モデルでは,コンクリート部が95Ωm,モルタル部が55Ωmの比抵抗(逆解析結果,
図5-18の2)参照)になり,見掛け比抵抗(表5-16参照)と同様,モルタル部よりコンクリ
ート部の比抵抗が大きくなった. 図5-23と図5-24に,
「コンクリート側の無筋水平供試体測
定値と無筋水平モデル解析値」
と,
「モルタル側の無筋水平供試体測定値と無筋水平モデル解
析値」を各々示す.
1) 見掛け比抵抗の
測定値分布
2) 見掛け比抵抗の
解析値分布
(図5-18の2)参照)
図5-23 無筋水平供試体とモデルのコンクリート側の見掛け比抵抗分布
104
1) 見掛け比抵抗の
測定値分布
2) 見掛け比抵抗の
解析値分布
(図5-18の2)参照)
図5-24 無筋水平供試体とモデルのモルタル側の見掛け比抵抗分布
これらの図表から,以下のことがいえる.
a=6cmと9cm時に比べて,a=3cm時の見掛け比抵抗の測定値と解析値が最も近似している
(図5-23と図5-24参照)理由は,コンクリート側,モルタル側とも,電極間隔a=3cm時のみ
の測定電位(絶対電位)を用いて逆解析を実施したためと考えられる. また,表5-19に示す
逆解析22回目の残差は21.9%であり,
無筋鉛直モデルの6.5%の3.4倍と大きな値となったので,
精度の良い逆解析結果(コンクリート部が95Ωm,モルタル部が55Ωm,図5-18の2)参照)
が得られたとは断定できないが,無筋鉛直モデルのコンクリート最上部の逆解析値(101Ωm)
や,図5-20に示す比抵抗の滑らかな収束状況から判断して,モルタル部,コンクリート部と
も妥当な見掛け比抵抗の測定値分布(図5-23の1)と図5-24の1)参照)と判断できる.上記
の検討から,粗骨材が存在しないと見掛け比抵抗が低下する傾向は,三次元FEM逆解析手法か
らも検証できたといえる.
c.鉄筋の有無で見掛け比抵抗が変化する傾向の検討
RC水平モデルでは,コンクリート部が101Ωm,鉄筋部が18Ωmの比抵抗(逆解析結果,図
5-18の3)参照)になった.図5-25の1)∼3)に,
「RC水平供試体の見掛け比抵抗分布(測定値)」
,
「無筋水平モデルの見掛け比抵抗分布(無筋と仮定した解析値)」, 「RC水平モデルの見掛け比
抵抗分布(解析値)」を各々示す.
105
1) 実際に鉄筋が有る
見掛け比抵抗の
測定値分布
2) 鉄筋無しと仮定した
見掛け比抵抗の
解析値分布
(図5-18の3) 参照)
3) 鉄筋有りの場合の
見掛け比抵抗の
解析値分布
(図5-18の3) 参照)
図5-25 RC水平供試体,無筋水平モデル(仮定),RC水平モデルの見掛け比抵抗分布
これらの図表から,以下のことがいえる.
図5-25の1)と図5-25の3)に着目すると,a=3cmと6cm時の見掛け比抵抗の測定値と解析値は
比較的近似していることがわかる.これは,電極間隔a=3cmと6cm時の測定電位78個
(=(21+18)電場×2個,絶対電位)を用いて逆解析を実施したためと考えられる.
同バッチの3供試体(表5-10参照)なので,無筋鉛直モデルのコンクリート最上部の逆解
析値(101Ωm)と,無筋水平モデルのコンクリート側の逆解析値(95Ωm)から推定して,RC
水平モデルのコンクリート部の逆解析値(101Ωm)は妥当と推定できる.
逆解析で得られた比抵抗を用いた
「コンクリート部が101Ωmで無筋と仮定した水平モデル」
と「コンクリート部が101Ωm,鉄筋部が18ΩmのRC水平モデル」の見掛け比抵抗分布を,各々
図5-25の2)と図5-25の3)に示している.その結果,
「コンクリート部が101Ωmの無筋水平モ
デル」の見掛け比抵抗分布に比べて,
「コンクリート部が101Ωm,鉄筋部が18ΩmのRC水平モ
デル」の見掛け比抵抗分布の方が,図5-25の1)に示す「RC水平供試体」の見掛け比抵抗分布
に近似していることが明らかであるから,RC水平モデルの鉄筋部の逆解析値(18Ωm)も妥
当と考えられる.
106
5.3.5節のまとめを以下に示す.
①「打ち込み方向に従い見掛け比抵抗が変化する傾向」とは,コンクリート打ち込み上面
ほどを下面に比べ見掛け比抵抗が小さくなる傾向であった.さらに,②「粗骨材の有無で見
掛け比抵抗が変化する傾向」とは,粗骨材(流紋岩質安山岩)が無いモルタルではコンクリ
ートに比べ見掛け比抵抗が小さくなる傾向であり,③「鉄筋の有無で見掛け比抵抗が変化す
る傾向」とは,黒皮無しの健全鉄筋はコンクリートに比べ見掛け比抵抗が小さくなる傾向で
あった.
ただし,これらの傾向を検討した供試体はいずれも1体ずつ(計3体)であり,偶発的な測
定で得られた見掛け比抵抗分布である可能性を否定できなかった.
上記の問題点を解析的に解決するのが本節の目的であり,上記①∼③ケースとも,測定で
得られた見掛け比抵抗分布と,解析で得られた見掛け比抵抗分布は各々,良く一致した. 解
析モデルは各々,測定電流と測定絶対電位を用いた三次元FEM逆解析結果から,①コンクリー
ト打ち込み上面(101Ωm)ほどを下面(142Ωm)に比べ比抵抗を小さくした三次元モデル,
②モルタル部の比抵抗(55Ωm)をコンクリート部(96Ωm)に比べ小さくした三次元モデル,
③鉄筋部の比抵抗(18Ωm)をコンクリート部(101Ωm)に比べ小さくした三次元モデルとな
った.これらのモデルによる解析で得られた見掛け比抵抗分布と,測定で得られた見掛け比
抵抗分布が近似したので,測定結果は決して偶発的なものではなく,必然的に得られたもの
であることが明らかとなった.
上記の解析的検討結果から,
① コンクリート打ち込み上面ほど下面に比べ見掛け比抵抗が小さくなる傾向,
② 粗骨材(流紋岩質安山岩)が無いモルタルではコンクリートに比べ見掛け比抵抗が小さ
くなる傾向,
③ 黒皮無しの健全鉄筋部はコンクリート部に比べ見掛け比抵抗が極端に小さくなる傾向,
の3点はコンクリート構造物とRC構造物に必然的に発生する,見掛け比抵抗の分布傾向であ
ることが明らかとなった.
5.4 鉄筋腐食要因の差異の影響に関する検討
5.4.1 検討目的
RC構造物の電気的性質である見掛け比抵抗と見掛け充電率から,鉄筋等の存在と腐食状況
を精度良く推定するには,鉄筋腐食要因の差異が電気的性質に及ぼす影響を明らかにしてお
く必要がある.
本章では,鉄筋腐食要因の差異が電気的性質に与える影響について検討することを目的と
して,1)無筋供試体,2) コンクリート打ち込み以前に,鉄筋表面の黒皮を10%クエン酸二ア
ンモニウム溶液で除去した後,塩化カルシウム濃度3.5%(海水と同等)の塩水で常時湿らせ
た状態で28日間,気中放置して強制的に塩分腐食させた鉄筋を配したRC供試体(以下,事前
107
腐食供試体)
,3)塩化カルシウム15kgf/m3をコンクリートに混入したRC供試体(以下,塩分混
入供試体)
,4)38日間,電食を施したRC供試体(以下,電食供試体)の,計4供試体における
見掛け比抵抗と見掛け充電率の測定値ならびに解析値について比較検討した.
5.4.2 実験概要
(1) 使用材料,配合ならびに圧縮強度
供試体コンクリートに用いたセメントは,太平洋セメント(株)・高知県土佐工場製の普通
ポルトランドセメントであり,粗骨材は,最大寸法20mmの兵庫県飾磨郡家島町西島産の砕石
で,岩種は流紋岩質安山岩である.コンクリートの配合および標準養生した材齢28日の圧縮
強度は表5-20に示すようである.
表5-20 配合と28日圧縮強度
3
W/C
σ28
単位量 (kg/m )
(%)
水
セメント
細骨材
粗骨材
(N/mm2)
45
171
380
759
1022
42.2
(2) 供試体の概要
図5-26 3供試体の鉄筋・空洞・電極位置(3供試体とも同型)
表5-21 供試体の概要一覧
108
同バッチのコンクリートを用いて作製した3供試体(全て長さ34cm,高さ10cm,奥行き24cm
の直方体)の立体図を図5-26に示す.3供試体とも右側のD25mm鉄筋は,全て10%クエン酸二ア
ンモニウム溶液で黒皮を除去している.
上記3供試体と同バッチのコンクリートを用いて作製
した3供試体と同じ外形の無筋供試体を含めた4供試体の概要を表5-21に示す.
図5-26に示す左側の円形が「供試体作製時黒皮付き鉄筋」
,真ん中の円形が「空洞」
,右側
の円形が「供試体作製時黒皮除去鉄筋」を各々示している.また,各供試体上面の小さな白
丸は,2cm間隔で設置した電極の位置を示しており,
「左側縦方向にA測線(18cm)」∼「右側縦
方向にE測線(18cm)」の計5測線を設定した.これらの測線は,これに沿う電気的性質の変化
について検討するためのものである.
(3) 測定試験時の材齢等
4供試体の測定試験時の材齢を表5-22に示す.表中の塩分混入供試体は他の3供試体とは別
の水槽で水中養生を行った.電食試験を38日目で終了した理由は,鉄筋腐食から1mm幅以上の
ひび割れが発生し電解液(0.5%NaCl水溶液)を一定水位に保つことが困難になったためであ
る.
表5-22 測定試験時の4供試体材齢の内訳
供試体
型枠設置
脱型後
湿潤養生 水中養生
気中放置 電食試験 気中放置
(日数)
測定試験
その2
(日数)
時の材齢
名称
(日数)
(日数)
その1
(日数)
無筋
7
21
156
―
58
242
事前腐食
7
21
156
―
59
243
塩分混入
7
21
156
―
60
244
電食
7
21
118
38
61
245
(日数)
備考:電食供試体だけは,電食試験中とその直前直後も,表面と裏面の測定を行った.
電食試験終了から58∼61日後に,4供試体とも測定試験を実施したが,特に電食供試体に関
しては電食試験直前直後と,電食試験中も週に3∼4回の割合(電解液の交換時)で測定試験を
行った.なお,電食試験終了から61日目においても,無筋供試体,事前腐食供試体,塩分混
入供試体には,ひび割れが発生しなかった.
(4) 電食試験の概要
電食試験の回路図を図 5-27 に示す.RC 供試体上面に 0.5%濃度の NaCl 水溶液を満たしたの
ち銅メッシュ板を水没させ,D25mm 鉄筋(左右 2 本共,図 5-26 参照)を陽極,銅メッシュ板
を陰極とした.
12V の直流電流を 38 日間通電し,電流を連続的に測定管理した際の通電量の経時変化を図
図 5-28 に示す.図中で,1∼5 日に 1 回の割合で通電量が零 mA に戻っているのは,電解液の
交換,銅メッシュ板の洗浄,電食供試体の見掛け比抵抗と見掛け充電率の測定(表面,裏面共)
109
を実施したことを示している.
12V直流電源
銅メッシュ電極 ( 陰極 )
0.5%NaCl水溶液
電流
測定
D25鉄筋 (陽極)
図5-27 電食回路(奥行き方向断面)
通電量 ( mA )
125
100
75
50
25
0
0
7
14
21
28
電食日数 ( 日 )
35
42
図5-28 通電量の経時変化
写真5-1 電食試験終了直後(電食38日目)の電食供試体
電食試験 20),34)終了直後に銅メッシュ板と配線を除去した状態の電食供試体を写真 5-1 に示
す.
この写真のように,
B 測線手前側と D 測線奥側に鉄錆が析出しており,
B 測線は 0.3∼1.0mm
幅,D 測線は 0.5∼1.5mm 幅のひび割れが共に,供試体手前から奥行き方向(全 24cm)に貫通し
た状態が観察できた(図 5-29 の 1)参照).
供試体前面の鉄筋位置から錆汁が滲み出る状態(写真 5-1 参照)は対称位置の供試体背面
でも同様であるが,NaCl 水溶液を満たした供試体表面と対称位置の供試体裏面は幅 0.1∼
0.2mm,全長約 9cm のひび割れが 1 本発生しただけの比較的きれいな状態であった(図 5-29
の 2)参照)
.
110
図5-29 ひび割れ分布のスケッチ(電食38日目)
(5) 測定方法
測定方法は,5.3節と同じである.
(6) 測定の手順
備考:
はD25鉄筋かφ25空洞,
は探査位置
p 1 p 2 p 3 p 4 p 5 p 6 p 7 p 8 p 9 p 10
a /2
a /2
a /2
a /2
a /2
a /2
a =4cm
a /2
a /2
a /2
37.5
電場数4
25
37.5
240 mm
図5-30 A∼E測線の測定探査位置(電極間隔a=4cm)
表5-23 入出力電流と電位測定点一覧
電極間隔 a =4cm (電場数4,A∼E測線共)
測点 p
1
2
3
4
5
6
7
8
9
電場1
+I
―
V
―
V
―
-I
―
―
―
電場2
―
+I
―
V
―
V
―
-I
―
―
電場3
―
―
+I
―
V
―
V
―
-I
―
電場4
―
―
―
+I
―
V
―
V
―
-I
備考:
±I
は電流の入出力点.
V
は電位の測定点.
―
10
は未使用測点.
各供試体とも,見掛け比抵抗と見掛け充電率は,図5-30に示した2cm間隔毎のp1∼p10の電
極を用いて,電場数20(電極間隔a=4cmでA∼Eの5測線毎に4電場,表5-23参照)の測定を行
った.ただし,電食供試体(写真5-1参照)だけは,電食表面と電食裏面の両側から20電場ず
つ,計40電場の測定を実施した.
111
5.4.3 見掛け比抵抗の測定結果
p7
p7
350 -400
250 -300
p6
300 -350
200 -250
250 -300
p6
200 -250
150 -200
150 -200
100 -150
p5
p5
100 -150
50 -100
50 -100
0 -50
A
(203)
B
(196)
C
(188)
D
(180)
p4
E
(224)
0 -50
A
(222)
単位 Ωm
1) 無筋供試体
B
(173)
C
(301)
D
(154)
p4
E
(231)
単位 Ωm
4) 電食供試体(表面)
p7
p7
300 -350
200 -250
250 -300
p6
150 -200
p6
150 -200
100 -150
p5
200 -250
p5
50 -100
100 -150
50 -100
0 -50
A
(206)
B
(175)
C
(213)
D
(145)
p4
E
(173)
0 -50
A
(227)
単位 Ωm
2) 事前腐食供試体
B
(178)
C
(267)
D
(165)
p4
E
単位 Ωm
(206)
5) 電食供試体(裏面,透視図)
p7
200 -250
150 -200
p6
100 -150
p5
50 -100
0 -50
A
(184)
B
(112)
C
(162)
D
(125)
p4
E
(147)
単位 Ωm
3) 塩分混入供試体
図5-31 見掛け比抵抗分布(電極間隔a=4cm時)
表5-24 供試体別と測線別の見掛け比抵抗平均値一覧(単位:Ωm)
測線
A
B
C
D
E
平均値
供試体
測線 測線 測線 測線 測線
無筋
事前腐食
塩分混入
電食表面
電食裏面
203
206
184
222
227
196
175
112
173
178
188
213
162
301
267
180
145
125
154
165
224
173
147
231
206
198
182
146
216
208
平均値
208
167
226
154
196
190
図5-31は,1)無筋供試体,2)事前腐食供試体,3)塩分混入供試体,4)電食供試体の表面,5)
電食供試体の裏面の順に,材齢242∼245日目(表5-22参照)の実験で得られた測定探査深度
112
4cm位置(鉄筋や空洞の最上部,図5-30参照)の見掛け比抵抗の水平分布を示しており,X
Y軸のp4∼p7表示は 電場1∼4の測定
軸の( )内の数字はA∼E測線の見掛け比抵抗の平均値を,
探査位置を各々表している.
また,表5-24は供試体別および測線別の見掛け比抵抗平均値一覧を示している.これらの
検討結果を以下に示す.
図5-31の1)に示す無筋供試体(鉄筋,空洞ともに無し)B,C,D測線の平均値に着目すると,
180∼196Ωmと比較的見掛け比抵抗値の変化が少ない.この点を考慮して,事前腐食供試体,
塩分混入供試体,電食供試体(表面裏面とも)のB,C,D測線を比較検討した.ただし,B測線
は供試体作製時黒皮付き鉄筋の位置であり,C測線は空洞位置,D測線は供試体作製時黒皮除
去鉄筋位置である.また,事前腐食供試体の供試体作製時黒皮除去鉄筋(D測線下)は供試体
作製以前に約1ヶ月間塩分腐食させた鉄筋である.
まず,事前腐食供試体,塩分混入供試体,電食供試体(表面裏面とも)のC測線の見掛け比
抵抗は,これ以外のA,B,D,Eすべての測線の見掛け比抵抗より高い値となったので,3供試体
ともこの位置に絶縁体とみなせる空洞が存在することの探査はできていると考えられる.こ
のことは,既存RC構造物においても,見掛け比抵抗を測定することで,空洞の存在を推定す
ることは可能であることを示している.
さらに,事前腐食供試体,電食供試体(表面裏面とも)のD測線の見掛け比抵抗は,B測線
の見掛け比抵抗より低い値となった.事前腐食供試体のB測線下は健全鉄筋,D測線下が供試
体作製以前に約1ヶ月間塩分腐食させた鉄筋であった.また,電食供試体の場合,図5-29に
示すひび割れ状況から,供試体作製時黒皮付き鉄筋(B測線下)より供試体作製時黒皮除去鉄
筋(D測線下)の方が,腐食が激しいことは明らかである.これら2つの事実から,外的塩害
が生じている既存RC構造物においても,塩分腐食が激しい方が,見掛け比抵抗は低くなると
いえるものと考えられる.一方,内的塩害を想定した塩分混入供試体では,上記の傾向は得
られず,比抵抗から塩分腐食の程度を推定することは困難と思われた.また,この供試体で
は,表5-24に示すように他の3供試体に比べて見掛け比抵抗の平均値が最も低くなった.こ
れは,塩分の影響で,コンクリートの導電性が良くなったためと考えられるのであって,実
構造でもこの傾向を示す可能性があると考えられる.
5.4.4 見掛け充電率の測定結果
図5-32は,1)無筋供試体,2)事前腐食供試体,3)塩分混入供試体,4)電食供試体の表面,5)
電食供試体の裏面,の順に材齢242∼245日目(表5-22参照)の実験で得られた鉄筋や空洞の
最上部(測定探査深度4cmの位置,図5-30参照)の見掛け充電率の水平分布を示しており,見
掛け比抵抗の場合と同様,X軸の( )内の数字はA∼E測線の見掛け充電率の平均値を,Y軸の
p4∼p7表示は 電場1∼4の測定探査位置を各々表している.また,表5-25には供試体別および
測線別の見掛け充電率平均値一覧を示している.これらの検討結果を,以下に示す.
113
p7
p7
75 -100
25 -50
p6
p6
25 -50
0 -25
p5
50 -75
p5
0 -25
A
(8)
B
(0)
C
(15)
p4
D
(0)
E
(17)
A
(0)
単位 mV/V
B
(28)
1) 無筋供試体
C
(12)
D
(40)
p4
E
(30)
単位 mV/V
4) 電食供試体(表面)
p7
p7
125 -150
100 -125
100 -125
p6
p6
75 -100
75 -100
50 -75
50 -75
p5
p5
25 -50
25 -50
0 -25
0 -25
A
(35)
B
(112)
C
(37)
D
(167)
E
(0)
p4
A
(5)
単位 mV/V
2) 事前腐食供試体
B
(78)
C
(11)
D
(37)
E
(4)
p4
単位 mV/V
5) 電食供試体(裏面,透視図)
p7
125 -150
100 -125
p6
75 -100
50 -75
p5
25 -50
0 -25
A
(16)
B
(62)
C
(16)
D
(53)
p4
E
(10)
単位 mV/V
3) 塩分混入供試体
図5-32 見掛け充電率分布(電極間隔a=4cm時)
表5-25 供試体別と測線別の見掛け充電率平均値一覧(単位:mV/V)
測線
A
B
C
D
E
平均値
供試体
測線 測線 測線 測線 測線
無筋
事前腐食
塩分混入
電食表面
電食裏面
8
35
16
0
5
0
112
62
28
78
15
37
16
12
11
0
167
53
40
37
17
0
10
30
4
8
70
31
22
27
平均値
13
56
18
60
12
32
図5-32の1)に示す無筋供試体(鉄筋,空洞ともに無し)の見掛け充電率に着目すると,0
∼17mV/Vと極端に小さい値となった.この点を考慮して,事前腐食供試体,塩分混入供試体,
電食供試体(表面裏面とも)の見掛け充電率を比較検討した.ただし,B測線は供試体作製時
黒皮付き鉄筋の位置であり,C測線は空洞位置,D測線は供試体作製時黒皮除去鉄筋位置であ
る.また,事前腐食供試体の供試体作製時黒皮除去鉄筋(D測線下)は供試体作製以前に約1
114
ヶ月間塩分腐食させた鉄筋である.
まず,事前腐食供試体,塩分混入供試体,電食供試体(表面裏面とも)のB,D測線の見掛け
充電率の平均値は,無筋供試体に比べ高い値となったので,3供試体とも鉄筋の探査はできて
いると考えられる.従って,既存RC構造物においても,見掛け充電率を測定することで,鉄
筋の存在を推定することは可能と考えられる.
一方,事前腐食供試体,塩分混入供試体,電食供試体(表面裏面とも)のB,D測線の見掛け
充電率の平均値に着目すると,事前腐食供試体は「D測線167mV/V>B測線112mV/V」
,塩分混入
供試体は「B測線62mV/V>D測線53mV/V」
,電食供試体表面は「D測線40mV/V>B測線28mV/V」 ,
電食供試体裏面は「B測線78mV/V>D測線37mV/V」となり,腐食の程度と見掛け充電率の間に
一定した傾向は得られなかった.このことから,既存RC構造物において,見掛け充電率によ
って,鉄筋の腐食状況を推定することは困難と考えられる.
また,塩分混入供試体(B測線62mV/V,D測線53mV/V)と電食供試体(表面はB測線28mV/V,D
測線40mV/V,裏面はB測線78mV/V,D測線37mV/V)の比較から,見掛け充電率を測定することで,
既存RC構造物の内的塩害と外的塩害を判定することも困難と考えられる.
つぎに,事前腐食供試体のB,D測線の見掛け充電率の平均値(112mV/Vと167mV/V)に着目す
ると,他の3供試体の見掛け充電率(78mV/V以下)に比べて極端に大きい.D測線下は供試体
作製以前に塩分腐食させた現実には有り得ない鉄筋であるが,
B測線は黒皮付きの健全鉄筋で
あるので,既存RC構造物においても,見掛け充電率を測定することで,黒皮付きの健全鉄筋
を推定することは比較的容易と考えられる.
さらに,供試体作製時黒皮付き健全鉄筋位置であるB測線だけに着目すると,事前腐食供試
体(B測線112mV/V)に比べ,塩分混入供試体(B測線62mV/V)
,電食供試体表面(B測線28mV/V)
,
電食供試体裏面(B測線78mV/V)の見掛け充電率は全て小さい値になった.電食供試体の供試
体作製時黒皮付き健全鉄筋(B測線下)は,写真5-1と図5-29から電食後は錆びていることは
明らかである.一方,事前腐食供試体と塩分混入供試体を比較すると,見掛け充電率の全測
線A∼Eの平均値は事前腐食供試体(70mV/V)と塩分混入供試体(31mV/V)で39mV/V低下して
いる主な原因は塩分の存在と判断できる.ただし,供試体作製時黒皮付き健全鉄筋位置であ
るB測線の平均値は,事前腐食供試体(112mV/V)と塩分混入供試体(62mV/V)で50mV/V低下
しているので,塩分の存在以外に,供試体作製時黒皮付き健全鉄筋が錆び始めている可能性
が考えられるが,錆び汁やひび割れは観察できなかったので断定はできない.
5.4.5 電食試験中とその前後の測定結果
前節では電食試験終了後61日目(電食開始後99日目)の見掛け比抵抗と見掛け充電率の水平
分布を検討したが本節では,これらの履歴を検討した.具体的には,電食試験開始4日前と,
電食試験中(小計16回)
,電食試験終了1日後,9日後,61日後の合計20回の見掛け比抵抗履歴
とその平均値一覧を,各々図5-33と表5-26に,同じく見掛け充電率履歴とその平均値を,各々
115
図5-34と表5-27に示している.その検討結果を,以下に列記する.
(1) 電食試験中とその前後の見掛け比抵抗
電食開始16日目に黒皮除去鉄筋位置の表面(D測線)で,電食開始19日目には黒皮付き鉄筋
位置の表面(B測線)で,各々目視観察により,ひび割れ発生を確認できた.そして,電食終
了直後(電食38日目)のひび割れは図5-29に示すように,裏面に比べ表面のひび割れが激し
い状態となった.
裏面側に比べて,
表面側は見掛け比抵抗値が大きい側に変動しているので,
その主な原因は絶縁体であるひび割れの発生と考えられる(図5-33の1)と2)参照)
.
また,表面側,裏面側とも,供試体作製時黒皮除去鉄筋位置(D測線下)
,供試体作製時黒
皮付き鉄筋位置(B測線)
,他の測線の順に見掛け比抵抗平均値が大きくなる(表5-26参照)
ので,外的塩害進行中(電食試験中)
,外的塩害休止状態(電食試験終了後の気中放置状態,
5.4.4節参照)とも,腐食が激しい鉄筋の方が,見掛け比抵抗が小さいといえる.
ただし,表面側,裏面側とも,電食試験開始後99日目(電食終了後61日目)での空洞位置(C
測線)の見掛け比抵抗は他の測線より大きく(図5-33参照)測定されているが,電食試験中
の空洞位置の見掛け比抵抗平均値(119Ωm,C測線,表5-26参照)は無筋位置(AとE測線)よ
り小さい値であり, 外的塩害進行中(電食試験中)と外的塩害休止状態(電食試験終了後の
気中放置状態)における空洞部の見掛け比抵抗の傾向に差が生じた.この原因は不明である
が,空洞部もひび割れ部もともに絶縁体であり,既設RC構造物におけるひび割れ進展中の空洞
部の探査は比較的困難と推定される.
(2) 電食試験中とその前後の見掛け充電率
電食試験4日前に着目すると,表面側,裏面側とも,鉄筋位置(B,C測線)の見掛け充電率
は高く(75mV/V以上,図5-34参照)
,その他の測線は低い(38mV/V以下)傾向が明らかである.
しかし,電食開始直後(具体的には1日後)には,表面側,裏面側とも,鉄筋位置(B,C測線)
の見掛け充電率が50mV/V以下まで大きく低下する現象が認められる.この現象により,外的
塩害は,鉄筋位置の見掛け充電率を大きく低下させ,鉄筋位置と他の測線との見掛け充電率
の差異が小さくなる.これは,塩分の存在が鉄筋部のコンデンサー効果を減少させるためと
考えられる.ただし,電食試験中の見掛け充電率は表5-27に示すように,供試体作製時黒皮
付き鉄筋位置(26mV/V,B測線)
,供試体作製時黒皮除去鉄筋位置(32mV/V,D測線)とも他の
測線の見掛け充電率平均値より大きいので,外的塩害進行中(電食試験中)と外的塩害休止
状態(電食試験終了後の気中放置状態,5.4.4節参照)における,鉄筋位置の見掛け充電率は,
無筋位置や空洞位置の見掛け充電率より大きいという傾向は一致している.つまり,外的塩
害休止状態のRC供試体(5.4.4節参照)で得られた見掛け充電率に関する電気的性質(具体的
には,①黒皮無し健全鉄筋部,黒皮付き健全鉄筋部,腐食鉄筋部,無筋コンクリート部と空
洞部の順に見掛け充電率が低下する,②鉄筋腐食状況の判定は見掛け充電率では困難)は,
外的塩害進行中の既設RC供試体にも適用できる可能性が大きいと考えられる.
116
表5-26 電食試験中の見掛け比抵抗一覧
表5-27 電食試験中の見掛け充電率一覧
(単位:Ωm,電食38日間)
(単位:mV/V,電食38日間)
測線
供試体
A
測線
B
測線
C
測線
D
測線
E
測線
平均値
電食表面
171
105
138
129
80
105
142
96
119
103
79
91
146
96
121
138
91
115
電食裏面
平均値
測線
供試体
A
測線
B
測線
C
測線
D
測線
E
測線
平均値
電食表面
15
11
13
26
26
26
21
15
18
33
31
32
17
6
12
22
18
20
電食裏面
平均値
125
電食期間
300
38日間
250
A-無筋部
B-黒皮付き鉄筋
200
C-空洞部
150
D-黒皮除去鉄筋
100
E-無筋部
50
0
-14
0
14
28
42
56
電食開始時からの日数
70
84
(日)
98
表面−見掛け充電率 ( mV/V )
表面−見掛け比抵抗 ( Ωm )
350
A-無筋部
38日間
C-空洞部
D-黒皮除去鉄筋
E-無筋部
50
25
0
1) 表面から測定した見掛け比抵抗履歴
28
42
56
電食開始時からの日数
70
84
(日)
98
112
125
電食期間
300
38日間
250
A-無筋部
B-黒皮付き鉄筋
200
C-空洞部
150
D-黒皮除去鉄筋
100
E-無筋部
50
0
14
28
42
56
電食開始時からの日数
70
(日)
84
98
裏面−見掛け充電率 ( mV/V )
裏面ー見掛け比抵抗 ( Ωm )
14
1) 表面から測定した見掛け充電率履歴
350
0
-14
B-黒皮付き鉄筋
75
0
-14
112
電食期間
100
2) 裏面から測定した見掛け比抵抗履歴
A-無筋部
38日間
B-黒皮付き鉄筋
75
C-空洞部
50
D-黒皮除去鉄筋
E-無筋部
25
0
-14
112
電食期間
100
0
14
28
42
56
電食開始時からの日数
70
(日)
84
98
112
2) 裏面から測定した見掛け充電率履歴
図5-33 電食供試体の見掛け比抵抗履歴
図5-34 電食供試体の見掛け充電率履歴
(電極間隔a=4cm時)
(電極間隔a=4cm時)
5.4.6 測定結果解釈のためのFEM逆解析
(1) 逆解析の概要
図5-35は,作成した「無筋モデル」
(節点数9525,要素数8150,34×24×10cm)と「事前
腐食,塩分混入,電食モデル」
(節点数9500,要素数8054,34×24×10cm)を示すものであ
る.この図に示すように本節では,鉄筋部と空洞部の位置と形状を既知とした三次元モデル
について,主に,供試体作製時黒皮付き鉄筋部と供試体作製時黒皮除去鉄筋部の比抵抗の差
異に着目し解析を行った.表5-23に示す電位測定点と,電極配置面(図5-26参照)と反対側
の裏面の中央に設置したアース点(電位=零V)間の電位差を,絶対電位と見なして逆解析を
実施した点は,5.2.6節,5.3.5節と同様である.
117
無筋モデル,事前腐食モデル,塩分混入モデル,電食モデル(表面裏面とも)は各々,表
5-23に示す電極間隔a=4cm時の絶対電位40個(5測線×4電場×2個)を用いて逆解析と残差算
定(式(5-3)参照)を行った.
逆解析のフローは図3-3に,また,逆解析収束後のRC構造物の測定結果検証フローは図5-21
に,それぞれ示してあるものと同様である.
図5-35
鉄筋腐食要因の影響検討用三次元モデル
(2) 逆解析結果
逆解析時の比抵抗の収束状況を図5-36に,逆解析で得られた比抵抗を表5-28に,測定電位
と逆解析電位の相関関係の一例を図5-37に,各々示す.これらの図表から,以下のことが推
定できる.
無筋モデルでは,コンクリート部の比抵抗として166Ωmの逆解析結果が得られた.この結
果は,図5-36の1)に示す比抵抗の収束状況や,表5-28の1)に示す比較的小さな残差(逆解析
22回目で10.7%)から判断して,妥当な結果といえる.
表5-24に示すように,無筋供試体の見掛け比抵抗測定値の平均値は,B,C,D測線における値
(196,188,180Ωm)に比べ,AとE測線の値(203,224Ωm)が大きくなった.この原因は,供試体
端部である幾何学的な影響と推定したが,
この現象を確認するため,
コンクリート部を166Ωm
(表5-28の1)と図5-36の1)参照)とした「無筋モデル」の見掛け比抵抗の解析値を算出し
た.その結果,166Ωmの均質比抵抗をモデルに与えたにも関わらず,測定結果と同様,モデ
118
ル端部のAとE測線の見掛け比抵抗の解析値は大きくなった
(A,E測線とも215Ωm,
図5-38参照)
ので,供試体端部の影響で見掛け比抵抗が増加するとの仮定は正しかったと考えられる.
100000
100000
比抵抗 (Ωm)
比抵抗 (Ωm)
コンクリート
10000
コンクリート
1000
10000
黒皮付き鉄筋
黒皮除去鉄筋
1000
100
10
100
0
5
10
15
20
逆解析回数 (回)
25
0
30
5
10
15
20
逆解析回数 (回)
30
4) 電食モデル(表面)
1) 無筋モデル
100000
100000
コンクリート
コンクリート
黒皮付き鉄筋
10000
比抵抗 (Ωm)
比抵抗 (Ωm)
25
黒皮除去鉄筋
1000
100
10
0
5
10
15
20
逆解析回数 (回)
25
10000
黒皮付き鉄筋
黒皮除去鉄筋
1000
100
10
30
0
2) 事前腐食モデル
5
10
15
20
逆解析回数 (回)
25
30
5) 電食モデル(裏面)
100000
比抵抗 (Ωm)
コンクリート
10000
黒皮付き鉄筋
1000
黒皮除去鉄筋
100
10
1
0
5
10
15
20
逆解析回数 (回)
25
30
3) 塩分混入モデル
図5-36 逆解析時の比抵抗の収束状況
事前腐食モデルでは,コンクリート部が157Ωm,黒皮付き健全鉄筋部が731Ωm,事前腐食
鉄筋部が11Ωmの逆解析結果(表5-28の2)参照)となり,
「黒皮付き健全鉄筋部の比抵抗はコ
ンクリート部より大きいこと」
,
「事前腐食鉄筋部の比抵抗はコンクリート部より小さいこ
と」とも,5.2.6節に示した事前腐食モデルの解析値と傾向が一致した.
塩分混入モデルでは,コンクリート部が134Ωm,供試体作製時黒皮付き鉄筋部が12Ωm,供
試体作製時黒皮除去鉄筋部が9Ωmの逆解析結果(表5-28の3)参照)となった.無筋モデル,
事前腐食モデル,電食モデルで得られたコンクリート部の比抵抗に比べて,塩分混入モデル
のコンクリート部の比抵抗が17∼48%(表5-28参照)小さい傾向は,表5-24に示す見掛け比抵
抗でも同様であったので,塩化物の存在が比抵抗を小さくする傾向を確認できたといえる.
119
表5-28 逆解析で得られた比抵抗と電位の残差
1) 無筋モデル
逆解析
回数
コンクリート
Ωm
残差
r %
0
10
11
15
22
90,000
195.0
169.5
165.7
165.7
54,468
19.7
10.8
10.7
10.7
2) 事前腐食モデル
逆解析
回数
コンクリート
Ωm
黒皮付き
鉄筋
Ωm
黒皮除去
鉄筋
Ωm
残差
r %
0
10
11
15
22
90,000
188.6
161.4
156.9
156.9
90,000
485.9
796.4
730.8
730.6
90,000
26.7
14.7
11.4
11.4
59,982
24.9
13.1
12.1
12.1
3) 塩分混入モデル
逆解析
回数
コンクリート
Ωm
黒皮付き
鉄筋
Ωm
黒皮除去
鉄筋
Ωm
残差
r %
0
10
11
15
22
90,000
173.8
142.2
134.3
134.3
90,000
26.9
15.0
12.0
12.0
90,000
23.6
12.4
9.0
9.0
75,069
36.7
16.6
14.0
14.0
4) 電食モデル(表面)
逆解析
回数
コンクリート
Ωm
黒皮付き
鉄筋
Ωm
黒皮除去
鉄筋
Ωm
残差
r %
0
10
11
15
22
90,000
223.7
201.0
197.9
197.9
90,000
27.9
18.5
16.9
16.9
90,000
23.8
15.9
14.8
14.8
50,592
28.1
23.2
23.1
23.1
5) 電食モデル(裏面)
逆解析
回数
コンクリート
Ωm
黒皮付き
鉄筋
Ωm
黒皮除去
鉄筋
Ωm
残差
r %
0
10
11
15
22
90,000
211.2
187.4
184.0
184.0
90,000
68.7
52.9
50.9
50.9
90,000
30.4
19.5
17.5
17.5
52,482
24.7
17.3
17.0
17.0
120
逆解析電位 ( V/I )
1000
500
0
10回目
11回目
-500
注)
測定電位と
逆解析電位
の相関関係
の一例.
15回目
22回目
-1000
-1000
-500
0
500
測定電位 ( V/I )
1000
図5-37 電食モデル(裏面)の測定電位と逆解析電位の相関関係
p7
250 -300
p6
200 -250
150 -200
100 -150
p5
50 -100
0 -50
A
(203)
B
(196)
C
(188)
D
(180)
p4
E
(224)
単位 Ωm
1) 無筋供試体の見掛け比抵抗(測定値)
p7
200 -250
p6
150 -200
100 -150
p5
50 -100
0 -50
A
(215)
B
(190)
C
(186)
D
(190)
p4
E
(215)
単位 Ωm
2) 無筋モデルの見掛け比抵抗(166Ωm均質時の解析値)
図5-38 見掛け比抵抗の測定分布と解析分布(電極間隔a=4cm時)
測定電位と逆解析電位の残差が23.1%(表5-28の4)参照)と比較的大きいので精度の良い
逆解析結果とは言えないが,
電食モデル表面
(電解液の湛水側)
では,
コンクリート部が198Ωm,
供試体作製時黒皮付き鉄筋部が17Ωm,
供試体作製時黒皮除去鉄筋部が15Ωmの逆解析結果
(表
5-28の4)参照)となった.0.1∼1.5mm幅のひび割れが生じた電食供試体(図5-29参照)を,
図5-35の2)に示す(ひび割れを無視した)連続体モデルで逆解析したにも関わらず,塩分混入
モデルや電食モデル裏面と同様の比抵抗分布(供試体作製時黒皮除去鉄筋部<供試体作製時
黒皮付き鉄筋部<<コンクリート部)が算出された.このことより,ひび割れが生じたRC構
121
造物の比抵抗を,
ひび割れを無視した三次元FEMモデルを用いて逆解析により算出することは,
実用上は可能と推定できる.
0.1∼0.2mm幅,全長約9cmの細いひび割れが1本生じただけ(図5-29の2)参照)の電食モデ
ル裏面では,コンクリート部が184Ωm,供試体作製時黒皮付き鉄筋部が51Ωm,供試体作製時
黒皮除去鉄筋部が18Ωmの逆解析結果(表5-28の5)参照)となった.黒皮除去鉄筋部の比抵
抗は,事前腐食モデルや塩分混入モデルと同様の比較的低い値(18Ωm)となったが,黒皮付
き鉄筋部の比抵抗は,黒皮除去鉄筋部の約2.8倍(=51Ωm /18Ωm)となり鉄筋腐食状況で差
が生じたと考えられる.5.2.3節と5.4.3節のRC供試体の測定例でも明らかであったが,鉄筋
腐食が激しいほど,見掛け比抵抗の測定値が小さくなる傾向は,三次元FEM逆解析の比抵抗分
布でも検証できたといえる.
以上のFEM逆解析結果から,以下のことが考えられる.
事前腐食モデルの逆解析結果から,黒皮付きの健全鉄筋部の比抵抗(731Ωm)は,事前腐
食鉄筋部(11Ωm)やコンクリート部(157Ωm)に比べ極端に大きくなった.事前腐食供試体
の見掛け比抵抗の測定値(175Ωm,図5-31の2)参照)では,周辺コンクリートの影響で極端
に大きな見掛け比抵抗は得られなかったが,逆解析結果から,電気を通し難い黒皮の存在が
認識できた.
内的塩害を想定した塩分混入モデルのコンクリート部(134Ωm)と鉄筋部(12Ωmと9Ωm)
の比抵抗は各々,無筋モデル,事前腐食モデル,電食モデルに比べて,最も低い値(表5-28
参照)となった.塩分混入供試体の見掛け比抵抗測定値も無筋供試体,事前腐食供試体,電
食供試体に比べて低い値(5.4.3節参照)であったので,塩化物の存在が電気を通し易くして
いることを逆解析結果からも確認できたといえる.
外的塩害を想定した電食モデル(表面裏面とも)の黒皮付き鉄筋部と黒皮除去鉄筋部の比
抵抗の比較(表5-28の4)と5)参照)からも,電食供試体の見掛け比抵抗の測定結果(5.4.3
節参照)と同様,鉄筋腐食が激しいほど低い比抵抗が得られた.
5.4.7 既存測定法(自然電位法,分極抵抗法)による検討
(1) 自然電位法を用いた RC 供試体の鉄筋腐食度推定
a.自然電位法の概要
自然電位法と分極抵抗法の測定装置(東方技研(株)製)は,自然電位と分極抵抗を同時に
測定できるタイプを採用した.図 5-26 に示す 3 供試体を測定対象として,自然電位法の有用
性を検討した.なお,図 5-39 は自然電位法測定時の配置概要を示している.この図に示すよ
うに,RC 構造物から鉄筋端部をはつり出す局部破壊作業を行った後,測定するのが一般的な
自然電位法である.さらに,写真 5-2 は自然電位法と分極抵抗法の同時測定風景を示してい
る.また,表 5-29 には既存文献 6)による自然電位の事例を示している.この表に示すように,
鉄筋腐食度が激しいほど負電位の絶対値は大きくなることが,以前から知られている.
122
図 5-39 自然電位法測定時の配置概要(参考文献 6)一部修正)
写真 5-2 自然電位と分極抵抗の同時測定
表 5-29 既存文献 6)による自然電位の事例
※ 表中の「CSE」は照合電極が飽和硫酸銅電極であることを意味する.
b.測定結果
自然電位法による自然電位の測定結果一覧を図 5-40 に示す.
事前腐食供試体だけは正の自
然電位が得られたが,塩分混入供試体と電食供試体(表面裏面とも)は負の自然電位が得ら
123
れた.しかし,供試体作製時黒皮付き鉄筋位置,供試体作製時黒皮除去鉄筋位置で,自然電
位が大きく変化する測定結果は得られなかった.また,大きなひび割れが発生(図 5-29 参照)
した電食供試体表面でも大きな絶対値の負の自然電位が得られることはなかった.
文献調査からも,RC 構造物を適切な湿潤状態に保つ必要性 6)が指摘されているが,全ての
RC 構造物を自然電位法の測定前に湿潤状態にできるとは限らないので,自然電位法の実用性
は高くないと考えられる.自然電位法には,鉄筋端部をはつり出す必要性もあり,自然電位
法に比べ電気探査法の実用性の方が高いと判断できた.
100
50
電食供試体表面
自然電位 mV
0
電食供試体裏面
-50
塩分混入供試体
-100
事前腐食供試体
-150
-200
-250
-300
-350
コンクリート
黒皮付き鉄筋
空洞
黒皮除去鉄筋
コンクリート
図 5-40 自然電位の測定結果一覧
(2) 分極抵抗法を用いたRC供試体の鉄筋腐食度推定
a.分極抵抗法の概要
分極抵抗とは,RC 構造物中の鉄筋の安定状態における抵抗を意味する.分極抵抗法は,RC
構造物の分極抵抗を求めることが目的の測定法であり,
図 5-41 は測定時の配置を示している.
図 5-41 分極抵抗法・測定時の配置概要(参考文献 6)一部修正)
124
表 5-30 既存文献 6)による分極抵抗値
鋼の
表面状態
腐食状態
R1 [Ωcm2]
※
さびを含む
ミルスケール付き
不動態
105∼106
研磨
活性腐食
104∼105
※ R1 は分極抵抗値に鉄筋断面積を乗じた値.
表 5-30 は既存文献 6)による分極抵抗値 R1 の事例を示している.この表に示すように,腐
食鉄筋の方が健全鉄筋に比べ分極抵抗が小さくなることが,以前から知られている.分極抵
抗法の測定風景は写真 5-2(自然電位法と同じ)に示している.
分極抵抗 kΩcm2
b.測定結果
300
電食供試体表面
250
電食供試体裏面
塩分混入供試体
事前腐食供試体
200
150
100
50
0
コンクリート
黒皮付き鉄筋
空洞
黒皮除去鉄筋
コンクリート
図 5-42 分極抵抗の測定結果一覧
分極抵抗法による分極抵抗の測定結果一覧を図 5-42 に示す.
事前腐食鉄筋供試体と内的塩
害を想定した塩分混入供試体には顕著な傾向は認められないが,
電食供試体の表面裏面とも,
空洞位置の分極抵抗が鉄筋位置やコンクリート位置より大きくなり,供試体作製時黒皮除去
鉄筋(塩害腐食鉄筋)の分極抵抗が空洞位置やコンクリート位置より小さくなる傾向が認め
られた.また,最も腐食程度が激しい電食供試体の表面では,供試体作製時黒皮除去鉄筋(塩
害腐食程度が激しい鉄筋)の分極抵抗が供試体作製時黒皮付き鉄筋より小さくなっている.
この傾向は,表 5-30 に示す既存文献 6)による分極抵抗値の傾向とも一致している.
上記検討結果から,鉄筋端部をはつり出す局部破壊作業(図5-41参照)が必要であるが,
分極抵抗法を用いて外的塩害の鉄筋腐食状況を判断することは,
可能と考えられる.
ただし,
電気探査法の見掛け充電率に関する測定が無く,分極抵抗(安定状態の抵抗)のみから鉄筋
125
の存在と腐食状況を推定する必要があるため,分極抵抗法に比べ,電気探査法の方が理論面
でも実用面でも鉄筋等の存在と腐食状況の探査能力が優れていると考えられる.
5.5 まとめ
「鉄筋径の大小,鉄筋腐食の有無,空洞の大小」
,
「コンクリートの打ち込み方向,粗骨材
の有無,鉄筋の有無」
,
「鉄筋腐食要因の差異」によってもRC構造物の電気的性質である見掛
け比抵抗と見掛け充電率は変化することが予想されるので,鉄筋等の存在と腐食状態を精度
良く推定するには,上記の要因による見掛け比抵抗と見掛け充電率の変化の傾向も明らかに
しておく必要があった.本章では,これらの測定および検討結果を以下の順に示している.
1.
「5.2 鉄筋径,鉄筋腐食の有無,空洞に関する検討」では,
RC 構造物の鉄筋径,鉄筋腐食の有無(黒皮付き健全鉄筋と供試体作製以前に塩分腐食させ
た鉄筋,この腐食鉄筋を事前腐食鉄筋と呼ぶ)
,空洞位置を非破壊で推定することを目的に,
電気探査法を用いた実験と,逆解析手法を用いた三次元有限要素法解析を行って,以下の結
論を得た.
鉄筋比が比較的大きい(実験では 2.2%)場合は,見掛け比抵抗を測定することで,事前
腐食鉄筋の位置と大きさを推定することが可能である.同様に,空洞と供試体断面の面積比
が比較的大きい(実験では 3.3%)場合は,見掛け比抵抗を測定することで,空洞の位置と
大きさを推定することが可能である.しかし,乾湿の状態により変化する無筋コンクリート
位置の見掛け比抵抗が,黒皮付き健全鉄筋位置の見掛け比抵抗と前後するため,黒皮付き健
全鉄筋の存在を見掛け比抵抗だけで推定することは比較的困難である.鉄筋比の大小に関わ
らず(実験では 0.25∼2.2%)
,見掛け充電率を測定することで,黒皮付き健全鉄筋と事前腐
食鉄筋の位置と大きさを推定することが可能である.ただし,空洞位置の見掛け充電率はほ
とんど零であるため,空洞の存在を見掛け充電率だけで推定することは困難である.
上記の理由から,見掛け比抵抗と見掛け充電率の両方を測定することで,黒皮付き健全鉄
筋,事前腐食鉄筋,空洞の位置と大きさを,より正確に推定することが可能である.また,
鉄筋比が比較的大きい(実験では 2.2%)場合,FEM 逆解析を実施して比抵抗分布を得ること
で,黒皮付き健全鉄筋,事前腐食鉄筋,空洞の位置と大きさを推定することも可能である.
2.
「5.3 打ち込み方向,粗骨材の有無,鉄筋の有無に関する検討」では,
RC構造物の打ち込み方向,粗骨材の有無,鉄筋の有無を非破壊で推定することを目的に,
電気探査法を用いた実験と,逆解析手法を用いた三次元有限要素法解析を行って,以下の結
論を得た.
高さ75cmの無筋鉛直供試体の見掛け比抵抗分布とFEM逆解析結果(最上部=101Ωm,最下部
=142Ωm)から,コンクリートの比抵抗は,打ち込み方向の影響を受ける(具体的にはコンク
リート打ち込み上面ほど比抵抗が小さい)ことが明らかとなった.また,コンクリートとモ
126
ルタルが半分ずつの無筋水平供試体の見掛け比抵抗分布とFEM逆解析結果(コンクリート部
=95Ωm,モルタル部=55Ωm)から,コンクリート(粗骨材の岩種は流紋岩質安山岩)に比べ
モルタルの方が,比抵抗が低いことが明らかとなった.また,黒皮を除去した健全鉄筋を有
する水平供試体(以下,RC水平供試体)を作製し,このRC水平供試体の見掛け比抵抗分布と
FEM逆解析結果(コンクリート部=101Ωm,黒皮の無い健全鉄筋部=18Ωm)から,黒皮が無い
健全鉄筋は見掛け比抵抗,比抵抗とも,低い値になることが明らかとなった.また,見掛け
充電率分布は高い値(無筋鉛直供試体=2mV/V,RC水平供試体=412mV/V)になることも明らか
となった.
3.
「5.4 鉄筋腐食要因の差異の影響に関する検討」では,
RC 構造物の鉄筋等の存在と腐食状況を非破壊で推定することを目的に,5.3 節と同様,電
気探査法を用いた実験と,逆解析手法を用いた三次元有限要素法解析を行って,以下の結論
を得た.
事前腐食供試体の事前腐食鉄筋位置の見掛け比抵抗は,黒皮付き健全鉄筋位置より小さい
ことが確認できた.また,事前腐食供試体の事前腐食鉄筋位置と黒皮付き健全鉄筋位置の見
掛け充電率は,塩分混入供試体,電食供試体(表面裏面とも)に比べて大きい値となった.
事前腐食鉄筋は供試体作製以前に塩分腐食させた現実には有り得ない鉄筋であるが,見掛け
充電率を測定することで,黒皮付きの健全鉄筋位置を推定することは比較的容易と考えられ
る.
内的塩害を想定した塩分混入供試体だけは,①供試体作製時黒皮除去鉄筋の方が,供試体
作製時黒皮付き鉄筋に比べて高い見掛け比抵抗を示した.さらに,②供試体全体の見掛け比
抵抗は,他の供試体に比べて最も低い値となった.①の原因は不明であるが,②の現象は,
塩化物の存在が,電気を通し易くしていることが原因と考えられる.塩分混入供試体の見掛
け充電率に着目すると,鉄筋位置で見掛け充電率がおおきくなっており,供試体作製時黒皮
付き鉄筋位置の方が,供試体作製時黒皮除去鉄筋位置に比べて高い見掛け充電率を示した.
この傾向は,事前腐食供試体や電食供試体の表面側とは逆なので,塩分混入供試体の鉄筋腐
食状況を見掛け充電率から判定できるかは不明であるが,鉄筋位置の判定は容易と考えられ
る.
外的塩害を想定した電食供試体(表面裏面とも)の見掛け比抵抗に着目すると,鉄筋位置
の見掛け比抵抗は他の測線より低い値であり,さらに,供試体作製時黒皮除去鉄筋の方が,
供試体作製時黒皮付き鉄筋に比べて低い見掛け比抵抗を示した.上記の理由から,見掛け比
抵抗を測定することで,電食供試体(表面裏面とも)の鉄筋等の存在と腐食状況を判定する
ことが可能と考えられる.また,電食供試体(表面裏面とも)の見掛け充電率に着目すると,
鉄筋位置で見掛け充電率がおおきくなっているが,鉄筋腐食状況に関する見掛け充電率の値
は,電食供試体の表面と裏面で逆の傾向を示した.ゆえに,前述の事前腐食供試体,塩分混
入供試体と同様,電食供試体(表面裏面とも)においても,電食供試体の鉄筋腐食状況を見
127
掛け充電率から判定することは困難であるが,鉄筋位置の判定は容易と考えられる.
事前腐食供試体の黒皮付き健全鉄筋位置と事前腐食鉄筋位置,電食供試体の供試体作製時
黒皮付き鉄筋位置と供試体作製時黒皮除去鉄筋位置を比べると,両供試体とも塩分腐食が激
しい方が見掛け比抵抗は低くなった.一方,塩分混入供試体では,供試体作製時黒皮付き鉄
筋位置と供試体作製時黒皮除去鉄筋位置を比べると,塩分腐食が激しいと思える方の見掛け
比抵抗が約 10%高くなり,事前腐食供試体や電食供試体とは逆の結果となった.ただし,FEM
逆解析結果では,事前腐食供試体,塩分混入供試体,電食供試体とも,塩分腐食が激しい鉄
筋の比抵抗が,各々低くなったので,塩分混入供試体では測定誤差が発生した可能性がある
と考えられる.なお,本節の供試体の場合,見掛け比抵抗は 4 測点毎の平均値で評価してい
るが,FEM 逆解析時では,20 測点の絶対電位から比抵抗を算出している.
電食供試体の塩分腐食鉄筋位置と,
塩分混入供試体の塩分腐食と推定される鉄筋位置では,
事前腐食供試体内の黒皮付き健全鉄筋位置に比べ,見掛け充電率が低くなった.一方,事前
腐食鉄筋位置では,事前腐食供試体内の黒皮付き健全鉄筋位置に比べ,見掛け充電率が高く
なったので,供試体作製以前に塩分腐食させた事前腐食鉄筋の見掛け充電率は,電食供試体
の塩分腐食鉄筋や,
塩分混入供試体の塩分腐食と推定される鉄筋とは異なった傾向を示した.
つまり,見掛け充電率を測定することにより,鉄筋の存在を推定することは比較的容易であ
るが,鉄筋腐食状況の推定は困難と考えられる.
128
第6章 見掛け比抵抗と見掛け充電率を用いた鉄筋腐食状況等の推定
6.1 概要
前章までで得られたⅰ)見掛け比抵抗および見掛け充電率と鉄筋等の存在および腐食状況と
の関係をまとめ,それらをⅱ)実構造物の鉄筋の存在や腐食状況を推定する際に利用できるよ
うにすることが本章の目的である.
本章では,上記ⅰ)とⅱ)の課題を,以下の順に示している.
ⅰ)「6.2 見掛け比抵抗および見掛け充電率と鉄筋等の存在および腐食状況との関係」
では,
電気探査法で測定した「見掛け比抵抗および見掛け充電率」と,
「鉄筋等の存在および腐食状
況との関係」をまとめ,鉄筋腐食状況等の推定時の基礎データ作成を試みた.
ⅱ)
「6.3 鉄筋等の存在および腐食状況の推定方法」では,電気探査法による鉄筋等の存在
と腐食状況の推定フローの作成を試みた.この推定フローは既設RC構造物を測定対象とした.
表 6-1 12 供試体の概要
大きさ cm x cm x cm
W/C
材齢
鉄筋の
供試体の
個数
長さ
奥行き
幅
%
日
有無
34
24
8
60
315
D16
1
(内,電食供試体1)
34
75
34
24
10
24
8
12
10
40
50
45
29~32
75~77
無し
1
D10, D16, 3xD16
3
無し
2
D29
1
無し
1
D25
3
(内,電食供試体1)
242~245
供試体
グループ名
W/C60%電食供試体
(※)
事前腐食供試体
(5.2節参照)
(図6-2参照)
柱状供試体
(5.3節参照)
(図6-3参照)
腐食要因比較供試体
(5.4節参照)
(図6-4参照)
※ 論文 20)として報告済みであるが,測定概要を図 6-1,写真 6-1,表 6-2 に示す.
なお,電極間隔 a でも見掛け比抵抗,見掛け充電率とも変化するので,本章では「電極間
隔 a ≒ 鉄筋や空洞のかぶり」と設定した時の測定値を用いた.本章で用いた 12 供試体の概
要を表 6-1 に示す.
表 6-1 内の供試体グループ名の概要を以下に示す.
『電食供試体』とは,供試体作製時黒皮付き健全鉄筋と,供試体作製時黒皮除去鉄筋の,
2 種類の鉄筋を埋設した後,外的塩害を想定して電食を施した RC 供試体(図 6-1 参照)を
129
指す.
『事前腐食供試体』とは,供試体作製時黒皮付き健全鉄筋と,供試体作製以前に塩分腐
食させた鉄筋の,2 種類の鉄筋を埋設した RC 供試体(図 6-2 参照)を示す.
『柱状供試体』とは,
「無筋供試体」と「鉄筋供試体」の総称である.その内の,
「無筋
供試体」とは,75cm の鉛直方向にコンクリートを打ち込んだ供試体と,コンクリートとモ
ルタルを半分ずつ(厚さ 6cm 毎)打ち込んだ供試体である.また,
「鉄筋供試体」とは,供
試体作製時黒皮除去健全鉄筋を埋設した RC 供試体(図 6-3 参照)を指す.
『腐食要因比較供試体』とは,
「無筋供試体」
,
「事前腐食供試体」
,
「塩分混入供試体」
,
「電食供試体」の総称である.その内の,
「塩分混入供試体」とは,供試体作製時黒皮付き
健全鉄筋と,供試体作製時黒皮除去健全鉄筋の,2 種類の鉄筋を 15kgf/m3 の塩分を混入し
たコンクリートに埋設(内的塩害を想定)した RC 供試体(図 6-4 参照)を指す.
表 6-1 に示した水セメント比 60%のコンクリートを用い電食を施した供試体(以降,水セ
メント比 60%電食供試体と呼ぶ)の形状,電食(約 14 日間)直後の供試体上面,測定平均
値一覧を各々,図 6-1,写真 6-1,表 6-2 に示す.写真 6-1 に示すように,この供試体の B
測線(供試体作製時黒皮付き鉄筋位置)上には 0.1~0.2mm 幅,D 測線(供試体作製時・黒皮
除去鉄筋位置)上には約 1.0mm 幅のひび割れが,ともに,供試体手前から奥行き方向(全 24cm)
に向かって貫通していた.また,D 測線上には,さび汁が供試体手前から奥行き方向に認め
られる.さらに,表 6-2 より,A,C,E 測線に比べ,鉄筋が存在する B 測線と D 測線の見掛け
比抵抗が小さく,見掛け充電率が大きい傾向も認められる.
図6-1 水セメント比60%電食供試体の形状
写真6-1 電食直後の供試体上面
表6-2 電食後134日目の測線別・測定平均値一覧(電極間隔a=4cm)
A測線
分類
無筋
コンクリート
見掛け比抵抗 [Ωm]
見掛け充電率 [mV/V]
436
9.6
B測線
供試体作製時
黒皮付き
鉄筋
171
30.8
130
C測線
円形空洞
532
10.9
D測線
供試体作製時
黒皮除去
鉄筋
135
31.3
E測線
無筋
コンクリート
362
23.3
図 6-2 事前腐食供試体の形状(無筋供試体以外の形状)
図 6-3 柱状供試体の形状
131
図 6-4 腐食要因比較供試体の形状(無筋供試体以外の形状)
6.2 見掛け比抵抗および見掛け充電率と鉄筋等の存在および腐食状況との関係
見掛け充電率 [mV/V]
1000
100
凡例
・赤色三角:
10
腐食鉄筋(腐食度-強)
・ピンク色三角:腐食鉄筋(腐食度-弱)
1
10
100
1000
見掛け比抵抗 [Ωm]
10000
・黒色三角:
円形空洞
・灰色三角:
無筋コンクリート
図6-5 W/C60%電食供試体(1体)の場合
凡例
見掛け充電率 [mV/V]
1000
100
・水色ひし形:
黒皮付きの健全鉄筋
・黒色ひし形:
円形空洞
・灰色ひし形:
無筋コンクリート
ただし,
10
供試体作製以前に鉄筋を人為的に腐食
させた「事前腐食鉄筋部」は,実際の
1
10
100
1000
見掛け比抵抗 [Ωm]
10000
RC構造物では有り得ないケースなので
左図には加えていない.
図6-6 事前腐食供試体(4体)の場合
132
見掛け充電率 [mV/V]
1000
100
凡例
10
1
10
100
1000
・青色円形:
黒皮無しの健全鉄筋
・白色円形:
無筋モルタル
・灰色円形:
無筋コンクリート
10000
見掛け比抵抗 [Ωm]
図6-7 柱状供試体(3体)の場合
見掛け充電率 [mV/V]
1000
凡例
100
10
・水色四角:
黒皮付きの健全鉄筋
・赤色四角:
腐食鉄筋(腐食度-強)
・ピンク色四角:腐食鉄筋(腐食度-弱)
1
10
100
1000
10000
・黒色四角:
円形空洞
・灰色四角:
無筋コンクリート
見掛け比抵抗 [Ωm]
図6-8 腐食要因比較供試体(4体)の場合
凡例
1)黒皮無しの健全鉄筋
2)黒皮付きの健全鉄筋
3)塩害腐食鉄筋
4)無筋モルタル
5)無筋コンクリート
6)円形空洞
図6-9 見掛け充電率と見掛け比抵抗の関係
133
図6-5に示す水セメント比60%電食供試体(図6-1,写真6-1,表6-2参照)の「見掛け比抵
抗」と「見掛け充電率」は,D16mm鉄筋を埋設したRC供試体1体の値である.図6-6に示す事
前腐食供試体(5.2節参照)の「見掛け比抵抗」と「見掛け充電率」は,無筋供試体1体と,
各々D10mm,D16mm,3×D16mm鉄筋を埋設したRC供試体3体(図6-2参照)の計4体の値である.
図6-7に示す柱状供試体(5.3節参照)の「見掛け比抵抗」と「見掛け充電率」は,鉛直方
向にコンクリートを打ち込んだ無筋供試体1体,無筋コンクリートと無筋モルタルを左右に
分けて水平方向に打ち込んだ供試体1体,黒皮無しの健全鉄筋D29mmを埋設し水平方向にコン
クリートを打ち込んだRC供試体1体の計3体(図6-3参照)の値である.図6-8に示す腐食要因
比較供試体(5.4節参照)の「見掛け比抵抗」と「見掛け充電率」は,無筋供試体,事前腐
食供試体,塩分混入供試体,電食供試体の計4体(図6-4参照)の値である.
図6-9は,値や範囲を限定した図ではなく,前述の図6-5から図6-8までの測定結果を考慮
した「見掛け比抵抗および見掛け充電率と鉄筋等の存在および腐食状況との相対関係」を示
している.
6.3 鉄筋等の存在および腐食状況の推定方法
Start
1) 探査深さ考慮して
電極間隔aを定めた後
数箇所の測定線位置を設定する.
2) クリームハンダ電極を設置した後
電気探査法により
見掛け比抵抗と見掛け充電率を測定する.
2') 逆解析を行う場合は
アース点を基準とした
絶対電位も測定する.
3) 鉄筋腐食度推定システムを用いて
見掛け比抵抗分布と見掛け充電率分布を
パソコン画面に表示する.
図2-22参照.
4) 数箇所の測定線の結果から
見掛け比抵抗と見掛け充電率を考慮して
無筋部(コンクリート,空洞等)を推定する.
5) 主に見掛け充電率を考慮して
健全鉄筋部と腐食鉄筋部を推定する.
箇所が
無筋部,健全鉄筋部,
鉄筋腐食状況の
推定手順.
6) 主に見掛け比抵抗を考慮して
腐食鉄筋部の腐食状況を推定する.
End
図6-10 電気探査法による測定および鉄筋等の存在と腐食状況の推定フロー
134
電気探査法による測定および鉄筋等の存在と腐食状況の推定フローを図6-10に示す.この
図6-10は,前節の見掛け比抵抗および見掛け充電率と鉄筋等の存在および腐食状況との関係
を示す図6-9から導出したもので,図6-10の1)~3)は電気探査法による測定関係,4)~6)が鉄
筋等の存在と腐食状況の推定手順を示している.以下,この内容を具体的に列記する.
ⅰ) 無筋部の推定
図6-9の無筋部の見掛け充電率に着目すると,無筋モルタル,無筋コンクリート,円形空洞
とも10mV/V以下の低い値になっているので,健全鉄筋部や腐食鉄筋部との区別が比較的容易
である.すなわち,適切な数箇所の測定を行えば,全てが鉄筋部または全てが無筋部になる
とは考え難いので,鉄筋部と無筋部が混在することになる.この段階で,見掛け充電率が比
較的低い測定値グループを無筋部と推定可能である(図6-9参照)
.
つぎに,図6-9の無筋部の見掛け比抵抗に着目すると,無筋モルタル,無筋コンクリート,
円形空洞の順に見掛け比抵抗が増加している.これらの数値範囲は重複しており明確ではな
いが,無筋モルタル,無筋コンクリート,円形空洞の順に内部推定することが可能である.
ゆえに,見掛け比抵抗と見掛け充電率を測定し,両者を用いて判定することで,無筋部(無
筋モルタル,無筋コンクリート,空洞)の推定が行えるといえる.
ⅱ) 鉄筋部の推定
上記の無筋部と推定した測線以外が,鉄筋部と判断できる.すなわち,見掛け充電率が比
較的高い測定値グループを鉄筋部と推定する(図6-9参照)
.以下に,健全鉄筋部と腐食鉄筋
部の推定方法を示す.
ⅱ‐1) 健全鉄筋部の推定
図6-9の健全鉄筋部の見掛け充電率に着目すると,黒皮付き無しとも80mV/V以上の高い値
になっているので,健全鉄筋部と腐食鉄筋部の区別が比較的容易である.すなわち,ひび割
れとさび汁だらけの不良構造物は別として,一般的な既存RC構造物の適切なひび割れ位置数
箇所の測定を行えば,全てが健全鉄筋部または全てが腐食鉄筋部になるとは考え難い.従っ
て,この段階で,見掛け充電率が比較的高い測定値グループを健全鉄筋部と推定することが
できる.
同じく図6-9の健全鉄筋部の見掛け比抵抗に着目すると,黒皮無し健全鉄筋部,黒皮付き健
全鉄筋部の順に見掛け比抵抗が増加している.ただ,これらの数値範囲は,無筋部や腐食鉄
筋部とも重複しており明確な区分は得られない.一方,健全鉄筋部の見掛け充電率に着目す
ると,黒皮付き健全鉄筋部,黒皮無し健全鉄筋部の順に見掛け充電率が増加している.ゆえ
に,見掛け比抵抗と見掛け充電率を測定し,両者を用いて判定することで,健全鉄筋部(黒
皮付き無しとも)の推定がより正確になるといえる.
135
ⅱ‐2) 塩分腐食鉄筋部の腐食状況の推定
上記の区分から,残った測定グループが塩害腐食鉄筋といえる.図6-9において,塩分腐
食鉄筋部の見掛け比抵抗に着目すると,腐食度「強」
,腐食度「弱」の順に見掛け比抵抗が増
加している.一方,鉄筋腐食状況に関する見掛け充電率の差異は認められなかった.ゆえに,
鉄筋腐食状況の推定は,見掛け比抵抗(腐食度「強」は見掛け比抵抗「小」
,腐食度「弱」は
見掛け比抵抗「大」
)のみから行うことになる.
6.4 まとめ
本章では,前章までで得られた見掛け比抵抗および見掛け充電率の測定結果を考慮して,実
構造物にも利用可能な「見掛け比抵抗および見掛け充電率と鉄筋等の存在および腐食状況との
関係図」と「鉄筋等の存在および腐食状況の推定フロー」を作成した.これらの成果を,以下
の順に示している.
1.
「6.2 見掛け比抵抗および見掛け充電率と鉄筋等の存在および腐食状況との関係」
では,
電気探査法(直流比抵抗法と強制分極法)用いて 12 個の RC 供試体を測定することで得られ
た「見掛け比抵抗および見掛け充電率」と「鉄筋等の存在および腐食状況」との関係を明ら
かにするとともに,それらを図化して鉄筋腐食状況等の推定時の基礎データとした.
2.
「6.3 鉄筋等の存在および腐食状況の推定方法」では,電気探査法による鉄筋等の存在
と腐食状況の推定フローを示した.この推定フローは,既設RC構造物を測定対象として作成
したものである.
次章では,本章で作成した推定フローを用いて,既設RC構造物の測定および鉄筋等の存在
と腐食状況の推定を行っている.
136
第7章 既存 RC 構造物への適用例
7.1 概要
本章では,電気探査法の実構造物への適用性を検討することを目的に,3 つの既存 RC 構造
物について,電気探査法(直流比抵抗法と強制分極法)を用いた測定と,逆解析手法を用い
た三次元有限要素法(FEM)解析を実施した.それらの鉄筋等の存在と腐食状況を非破壊で推
定した結果について,以下の順に示している.
ⅰ)
「7.2 マンション A の屋上パラペット部」では,築 32 年 RC 造の屋上パラペット部を測
定対象とし,電気探査法の測定と三次元 FEM 逆解析を行った.
ⅱ)
「7.3 逆 T 型擁壁の鉛直壁部」では,築 6 年 RC 造の逆 T 型擁壁の鉛直壁部を測定対象と
し,電気探査法の測定を行った.また,電磁波レーダ法による鉄筋位置の推定も実施した.
ⅲ)
「7.4 埋設型浄化槽の頂版部」では,築 44 年 RC 造の埋設型浄化槽の頂版部を測定対象
とし,電気探査法の測定と三次元 FEM 逆解析を行った.また,頂版の上面をはつり取って,
探査結果を目視観察により検証した.
7.2 マンション A の屋上パラペット部
7.2.1 検討目的
電気探査法の現場適用性と有用性について検討するため,電気探査法(直流比抵抗法と強
制分極法)を用いた測定と,逆解析手法を用いた三次元有限要素法解析を行った.具体的に
は,屋上パラペット部ひび割れカ所の鉄筋等の存在と腐食状況を非破壊で推定できるかを確
かめた.
7.2.2 測定概要
4 階建て賃貸マンション A(築 32 年,RC 造,東京都内)の屋上パラペット部が対象構造物
であり,この屋上パラペット部の鉛直ひび割れ沿いに測定を実施した.屋上の外観や現地測
定風景等を写真 7-1 に示す.
2.5 節に示した携帯型電気測定装置を用い,電極間隔 a=4cm と 6cm のウェンナー法によっ
て見掛け比抵抗と見掛け充電率を測定した.図 7-1 が電極配置であって,B1~B10 測線が鉛
直ひび割れ沿いの測線であり,それから左右に 100mm 離れた位置の鉛直方向に A1~A10 測線
および C1~C10 測線を設けた.そしてこれらの測線上に 20mm 間隔で合計 30(=10×3,白丸
位置)個の電極を配した.図中のピンク色部分が電気探査鉛直面である.
137
写真7-1 屋上の外観
100 mm
A9
A8
A7
A6
A5
A4
A3
A2
A1
100 mm
B10
B9
B8
B7
B6
探査 B5
B4
B3
B2
B1
C10
範囲
C9
C8
C7
C6
C5
C4
C3
C2
C1
20 X 9 = 180 mm
A10
図 7-1 測線と電気探査鉛直面
7.2.3 見掛け比抵抗分布と見掛け充電率分布
図 7-2 には A~C 測線の下 4.0cm 位置(3 測線×4 点=12 測点)の見掛け比抵抗分布と見掛
け充電率分布を示す.同様に,図 7-3 には A~C 測線の下 6.0cm 位置(3 測線×1 点=3 測点)
の見掛け比抵抗分布と見掛け充電率分布を示す.電極間隔 a=4cm と 6cm とも,見掛け比抵抗
は 3100Ωm 以上の比較的高い値が測定された.また,電極間隔 a=4cm と 6cm とも,見掛け充
電率は 26mV/V 以下の比較的低い値が測定された.
初めての現地測定であったが,RC 供試体の測定時に開発したクリームハンダ電極と電気測
定装置を用いて,
問題なく実構造でも見掛け比抵抗と見掛け充電率を測定することができた.
138
p7
900012000
p7
30-40
60009000
p6
30006000
p5
p6
20-30
0-3000
p5
10-20
p4
A
B
C
(3133) (4475) (5828) 単位 [Ωm]
(a)見掛け比抵抗分布
0-10
A
(18.7)
B
(21.5)
p4
C
(15.0) 単位 [mV/V]
(b) 見掛け充電率分布
図 7-2 A,B,C 測線の測定結果(電極間隔 a =4cm)
900012000
30-40
p5.5
60009000
p5.5
20-30
A
(7347)
30006000
B
(4066)
p5.5
C
(11380)
10-20
0-3000
A
(25.3)
B
(11.8)
p5.5
C
(25.6)
0-10
単位 [mV/V]
単位 [Ωm]
(a)見掛け比抵抗分布
(b) 見掛け充電率分布
図 7-3 A,B,C 測線の測定結果(電極間隔 a =6cm)
7.2.4 測定結果解釈のための FEM 逆解析
図 7-4 屋上パラペット部の三次元 FEM モデル
電極間隔 a=4cm 時の 24 個(=3 測線×4 電場×2 測点)と電極間隔 a=6cm 時の 6 個(=3 測
線×1 電場×2 測点)の計 30 個の測定電位を入力値(アース点を基準とした値)とし,図 7-4
139
に示す三次元 FEM モデルを用いて,3.3 節の逆解析手法(拡張カルマンフィルタ法 22))により
比抵抗を算出した.図 7-4 のカラー区分の通り,左側 495cm,中央 10cm,右側 495cm を各々
高さ方向に 2 区分した計 6(=3×2)区分として逆解析を行った.
乾燥状態の RC 構造物では無いにも関わらず,図 7-4 に併記したように高い比抵抗値が FEM
逆解析で得られた.具体的には,左側(3361~8455Ωm)に比べ右側(6865~19226Ωm)の比
抵抗が高い傾向は,図 7-2(a)と図 7-3(a)に示す見掛け比抵抗の傾向と一致した.
逆解析で得られた高い比抵抗値分布(3361Ωm 以上)
,前節の高い見掛け比抵抗分布(3133
Ωm 以上)と低い見掛け充電率(26mV/V 以下)から,築 30 年の RC 構造物であるが,屋上の
露出面であるため乾燥が激しいとは考え難い.これらのことから測定対象としたパラペット
部は,空洞部を有するコンクリートブロック構造と推定した.
7.2.5 屋上パラペット部と供試体の比較検討
図7-5(a)には屋上パラペット部(材齢約30年)で測定した見掛け比抵抗と見掛け充電率の
関係を,図7-5(b)には12個のRC供試体(材齢29~315日,6章参照)で測定した見掛け比抵抗
と見掛け充電率の関係を,各々示している.
1)図7-5(a)の検討結果
屋上パラペット部の見掛け比抵抗は3133~11380[Ωm]範囲の大きな値となり,この測定結
果だけでは健全鉄筋,腐食鉄筋等の推定は困難であった.一方,見掛け充電率は11.8~
25.6[mV/V]の比較的狭い範囲となったので,A~C測線(電極間隔a=4cmと6cm)とも,同じ材
質(例えば,全て無筋コンクリートまたは全て空洞)と推定できた.
2)図7-5(a)の図7-5(b)と比較検討結果
屋上パラペット部の見掛け比抵抗は3133~11380[Ωm]の範囲であり,12個のRC供試体の円
形空洞より10倍以上大きな値であった.一方,屋上パラペット部の見掛け充電率は11.8~
25.6[mV/V]で,12個のRC供試体の見掛け充電率と比較しても,無筋部と鉄筋部の中間的な範
囲であり,見掛け充電率からは無筋部か鉄筋部かの判断はできなかった.乾燥したRC構造物
であれば,含水率が低くなり見掛け比抵抗が高くなる場合も予想されるが,雨が当たる屋上
の構造物なので乾燥が原因とは考え難い.
上記検討を踏まえ,屋上パラペット部の測定箇所は,大きな空洞を有する無筋コンクリー
ト構造と推定した.
140
(a) 屋上パラペット部
(b) 12個のRC供試体
図7-5 見掛け比抵抗と見掛け充電率の関係
7.2.6 推定結果の検証
上記の推定結果を裏付ける施工業者の聞き取り調査結果を以下に示す.この聞き取り調査
は,測定から約 2 週間後に実施した.
『原設計は,厚さ20cmのパラペットの内側に,防水立ち上がり部分の保護のため,煉瓦を積
んで,モルタル仕上げして,30cm程度の厚さにするようになっていたが,煉瓦の代わりに軽
量ブロックを積んだ.そのため,厚さが約40cmになり,笠木部分もこれにつれて仕上げたた
め,その分,厚くなった.笠木部分の鉄筋は水平方向だけで,間隔は確かでないが,縦方向
に組立て筋を入れたと思う.水平方向の鉄筋の位置は,原設計通りであるので,表面から見
ると厚さが大きくなった分だけ,中にあることとなる』とのこと.
上記の聞き取り調査から,この屋上パラペット部は,厚さ約40cmの軽量ブロック造といえ
る.現在の一般的な軽量ブロックは,直方体空洞3箇所を含む39×19×10cmの外形寸法なの
で,現状の厚さが約40cmであることと聞き取り調査は合致している.さらに,聞き取り調査
から推定して水平方向と縦方向の組立て筋は,鉛直表面から20cm(40cm厚さの中央)程度の
深い位置にあると考えられる.
以上の検証から,
「大きな空洞を有する無筋コンクリート構造と推定した」電気探査法の
実構造物に対する有用性と適用性は十分あるといえる.
7.3 逆 T 型擁壁の鉛直壁部
7.3.1 検討目的
逆 T 型擁壁の安定性検討の一環として,電気探査法を用いた鉛直壁ひび割れ部の非破壊検
査を実施し,本研究の推定法の現場適用性と有用性について検討した.具体的には,鉄筋等
の存在と腐食状況を推定することを目的に測定を行った.
141
7.3.2 測定概要
逆 T 型擁壁(築 6 年,RC 造,千葉県内)の鉛直壁(高さ約 4.8m,長さ約 80m,壁厚 24.5cm)
が対象構造物であった.この鉛直壁部の外観と現地測定風景を写真 7-2 に示す.
(a) 構造物の外観
(b) 測定風景1
(c) 測定風景2
写真7-2 鉛直壁の外観と測定風景
7.3.3 見掛け比抵抗分布と見掛け充電率分布
(1)27 測線と 34 測線の概要
(a) 27 測線
(b) 34 測線
図 7-6 27 測線位置と 34 測線位置
鉛直方向の型枠跡は幅 90cm で約 80 本あった.その内,比較的ひび割れが目立った 27 測線
(27 番目の型枠跡)と 34 測線(34 番目の型枠跡)に各々,鉛直 2 測線(A と B)を設定し,
142
2.5 節に示した携帯型電気測定装置を用いて見掛け比抵抗と見掛け充電率を測定した後,鉄
筋等の存在と腐食状況を推定した(図 7-6 参照)
.
(2)縦方向:27A と 27B 測線(27 型枠位置)の推定結果
p6.5
p5.5
p4.5
p3.5
27-A
鉄筋
(130)
27-B
無筋
(144)
p6.5
175 -200
150 -175
125 -150
100 -125
75 -100
50 -75
25 -50
0 -25
p5.5
75 -90
60 -75
p4.5
45 -60
30 -45
p3.5
15 -30
0 -15
p2.5
27-A
鉄筋
(39)
単位 Ωm
(a)見掛け比抵抗分布
27-B
無筋
(0)
p2.5
単位 mV/V
(b) 見掛け充電率分布
図 7-7 27A と 27B 測線の結果(電極間隔 a =8cm 時)
27A 測線と 27B 測線(電極間隔 a=8cm 時)の見掛け比抵抗分布と見掛け充電率分布を図
7-7(a)(b)に示す.両図中の 27A と 27B 表記の下側()内の値は,測定線毎の平均値を示してい
る.27A 測線(130Ωm)と 27B 測線(144Ωm)の見掛け比抵抗平均値の差は少ないが 27A 測
線の方が小さくなった.一方,27A 測線と 27B 測線の見掛け充電率平均値の値は各々,39mV/V
と 0mV/V となった.見掛け充電率に差が生じたので,27A 測線を鉄筋位置,27B 測線を無筋位
置と判断した.ただし,この段階では,鉄筋腐食程度の有無は不明であった.
(3)縦方向:34A と 34B 測線(34 型枠位置)の推定結果
p6.5
p5.5
p4.5
p3.5
34-A
無筋
(169)
34-B
鉄筋
(102)
p6.5
175 -200
150 -175
125 -150
100 -125
75 -100
50 -75
25 -50
0 -25
75 -90
p5.5
60 -75
45 -60
p4.5
30 -45
p3.5
15 -30
0 -15
p2.5
34-A
無筋
(0)
単位 Ωm
(a)見掛け比抵抗分布
34-B
鉄筋
(43)
p2.5
単位 mV/V
(b) 見掛け充電率分布
図 7-8 34A と 34B 測線の結果(電極間隔 a =7cm 時)
143
34A 測線と 34B 測線(電極間隔 a=7cm 時)の見掛け比抵抗分布と見掛け充電率分布を図 7-8
に示す.27 測線と同様,両図中の 34A と 34B 表記の下側()内の値は,測定線毎の平均値を示
している.
34A 測線と34B 測線の見掛け比抵抗平均値の値は各々,
169Ωm と102Ωm となった.
一方,34A 測線と 34B 測線の見掛け充電率平均値の値は各々,0mV/V と 43mV/V となった.27
測線と同様,見掛け充電率に差が生じたので,34A 測線を無筋位置,34B 測線を鉄筋位置と推
定した.27 測線と同様,この段階では,鉄筋腐食程度の有無は不明であった.
7.3.4 鉛直壁と供試体の比較検討による鉄筋腐食状況等の推定
(a) 逆 T 型擁壁の鉛直壁
(b) 12 個の供試体
図 7-9 鉛直壁と供試体の比較
34B測線付近には幅0.1mm程度の鉛直方向ひび割れが2本生じていたが,
さび汁や汚れは認め
られなかった.ゆえに,この鉛直方向のひび割れは,鉄筋腐食が原因ではなく,鉛直壁面に
平行で水平方向の長さ変化が拘束され,これによって生じた引張力が原因と考えられる.水
平方向の長さ変化は,コンクリートの乾燥収縮および温度変化が主因といえる.
一方,27A測線では約5cm左側の鉛直エラスタイト沿いに,鉛直方向ひび割れ1本と茶色の
汚れが認められた.ただし,27A測線と34B測線の見掛け比抵抗は各々,130Ωmと102Ωmであ
った(図7-9(a)参照).図7-9(b)の12個の供試体測定例に示すように,塩害腐食鉄筋の腐食程
度が激しいほど見掛け比抵抗が小さくなるので,34B測線より見掛け比抵抗が高い27A測線位
置の鉄筋も未腐食と推定できる.ゆえに,エラスタイト沿いの鉛直方向ひび割れと汚れは,
エラスタイトとコンクリートの施工(接着)不良が原因と考えられる.
144
7.3.5 推定結果の検証
(a) 27 測線の鉄筋位置
(b) 34 測線の鉄筋位置
図 7-10 電磁波レーダ法の測定結果
電気探査法と同日に実施した電磁波レーダ法による27型枠位置と34型枠位置の推定結果
を図7-10に示す.電磁波レーダ法は,鉄筋位置が推定できるだけで,鉄筋腐食程度は推定不
能であるが,27A測線と34B測線が鉄筋位置,27B測線と34A測線が無筋位置であることは,
電気探査法の推定結果と一致した.
電磁波レーダ法と電気探査法による鉄筋位置と無筋位置の推定結果の一致から,実構造物
に対する電気探査法の有用性と適用性は十分あると考えられる.
7.4 埋設型浄化槽の頂版部
7.4.1 検討目的
検討目的は,7.2.1 節と同じである.
145
7.4.2 測定概要
個人住宅(大阪府内)の埋設型浄化槽(築 44 年,横幅×奥行き×深さ=5.4×2.0×2.1m,約
30 年前から未使用)の頂版コンクリート(設計図より厚さ 8.0cm)が対象構造物であった.
表面
保護のため,被覆コンクリート(実測厚さ 6.5cm)が約 6 年前に設置されていたので,その被
覆コンクリートを長方形状(横幅×奥行き=50×55cm)に除去した後,測定を実施した.な
お,この 50×55cm の測定平面内には,ひび割れや錆汁は全く認められなかった.建物の外
観と現地測定風景を写真 7-3 に示す.
(a) 建物の外観
(b) 埋設型浄化槽の測定風景
写真 7-3 建物と埋設型浄化槽の外観
2.5節に示した携帯型電気測定装置を用い,
電極間隔a=6.25cmのウェンナー法によって見掛
け比抵抗と見掛け充電率を測定した.図7-11が電極配置であって,A1~A7測線を水平方向の
測線,B1~B7測線を鉛直方向の測線とした.そしてこれらの測線上に6.25mm間隔で合計49
(=7×7,白丸位置)個の電極を配した.図中のピンク色部分が電気探査水平面である.
(a)A1~A7測線と探査面
(b) B1~B7測線と探査面
図 7-11 測線と電気探査平面
146
7.4.3 見掛け比抵抗分布と見掛け充電率分布
(1)横幅方向:A1~A7 測定線の推定結果
図 7-12(a)には A1~A7 測定線の下 6.25cm 位置(以下,測定線)の見掛け比抵抗分布を示
す.そして,図 7-12(b)には A1~A7 測定線の見掛け充電率分布を示す.両図中の A1~A7 表
記の右側()内の値は,測定線毎の平均値を示している.
図のように,A3 測定線は 558Ωm の見掛け比抵抗,A7 測定線は 530Ωm の見掛け比抵抗とな
り,他の測定線(679~922 Ωm,図 7-12(a))より低い値となった.また,A3 測定線は 295mV/V
の見掛け充電率,A7 測定線は 226mV/V の見掛け充電率となり,他の測線位置(48~115mV/V,
図 7-12(b))より高い値となった.上記の測定結果から,見掛け比抵抗が低く,見掛け充電率
が高い A3 測定線と A6 測定線には,鉄筋が存在すると推定した.
A7 (226)
A7 (530)
1250-1500
300-400
A5 ( 57)
A4 (922)
200-300
A4 ( 48)
250-500
A3 (558)
100-200
A3 (295)
0-250
A2 (705)
0-100
A2 (115)
A1 (740)
Unit : mV/V
A1 ( 60)
B5.5
B4.5
B3.5
Unit : ohm-m
B2.5
500-750
(a)見掛け比抵抗分布
B5.5
A5 (905)
750-1000
B4.5
A6 (102)
B3.5
400-500
B2.5
A6 (679)
1000-1250
(b) 見掛け充電率分布
図 7-12 A1~A7 測定線の結果
(2)縦列方向:B1~B7 測定線の推定結果
図 7-13(a)には B1~B7 測定線の見掛け比抵抗分布を示す.そして, 図 7-13(b)には B1~B7
測定線の見掛け充電率分布を示す.前述の A1~A7 と同様, B1~B7 表記の下側()内の数字は
測線毎の測定平均値を示している.
1250-1500
500-600
A5.5
A4.5
(a) 見掛け比抵抗分布
(b) 見掛け充電率分布
図 7-13 B1~B7 測線位置の結果
147
(44) B7
(107) B6
(64) B4
(106) B5
Unit : mV/V
A2.5
(60) B3
0-100
A3.5
(156) B2
(992) B7
(1031) B6
100-200
(909) B5
A2.5
(728) B4
250-500
(771) B3
200-300
(699) B2
A3.5
(378) B1
500-750
Unit : ohm-m
A4.5
300-400
(440) B1
750-1000
0-250
A5.5
400-500
1000-1250
B1 測定線は 378Ωm の見掛け比抵抗となり,他の測定線の値(699~1031Ωm,図 7-13(a) 参
照)より低い値となった.同じく,B1 測定線は,440mV/V の見掛け充電率となり,他の測定線の
値(44~156mV/V,図 7-13(b)参照)より高い値となった.その結果,前述の A3,A6 測定線
と同様,
見掛け比抵抗が低く,
見掛け充電率が高い B1 測定線にも鉄筋が存在すると推定した.
B6 測定線の見掛け充電率(107mV/V,図 7-13(b) 参照)は,鉄筋の存在を推定した A7,A3,
B1 の各測定線(226~440mV/V,図 7-12(b)と図 7-13(b) 参照)の見掛け充電率に比べて最も
低い.しかし,B6 測定線の見掛け充電率は,B3~B7 の測定線の値(44~107mV/V,図 7-13(b)
参照)に比べて最も高い値となった.ゆえに,B1 測定線が健全鉄筋で,B2~B5,B7 測定線が
コンクリートと仮定すると,6.3 節の「鉄筋等の存在と鉄筋腐食状況の推定フロー」
(図 6-10
参照)で示したように,中間的な見掛け充電率の B6 測定線には塩害腐食鉄筋が存在すると,
推定できる.
7.4.4 測定結果解釈のための FEM 逆解析
図 7-14 三次元 FEM モデル
112 個の測定電位(=(7+7)測線×4 電場×2 測点,ただしアース点を基準とした値)を入力
値とし,図 7-14 に示す三次元 FEM モデルを用いて,3.3 節で示した逆解析手法(拡張カルマ
ンフィルタ法 22))により比抵抗分布を算出した.解析当初は,コンクリート部を 2 区分(被
覆コンクリートと頂版コンクリート)
,鉄筋部を 4 区分(A3,A7,B1,B6 測線)の計 6 区分とし
て逆解析を行ったが,B6 測線下の鉄筋部比抵抗が収束せず安定した解が得られなかった.こ
の理由は B6 測線下の鉄筋部に健全箇所と腐食箇所が混在したためと推定できる.ゆえに,B6
測線下の鉄筋部を区分せず,コンクリート部を 2 区分,鉄筋部を 3 区分の計 5 区分として逆
解析を再実施した.その結果,収束して得られた比抵抗を表 7-1 に示す.
148
表 7-1 比抵抗一覧 〔単位:Ωm〕
被覆コンクリート [実測 6.5cm厚]
432
頂版コンクリート ( 8.0cm厚 )
570
鉄筋部
(かぶり4cm)
A3 測線下
(0.64cm2×5.4m)
7.4
A7 測線下
(0.64cm2×5.4m)
5.5
B1 測線下
(0.64cm2×2.0m)
13.2
B6 測線下
区分せず
( )内は,設計図書による値.
A3,A7,B1 測線下の比抵抗値は各々7.4Ωm,5.5Ωm,13.2Ωm となり,被覆コンクリート
(432Ωm)や頂版コンクリート(570Ωm)に比べて極端に比抵抗が小さいため,鉄筋の存在
が,この FEM 逆解析結果からも推定できた.
7.4.5 局部破壊による推定結果の検証
(1)局部破壊結果
写真7-4(a)には,前述の4本の鉄筋推定位置を黒色テープで示している.写真7-4(b)は,上
面をはつり取った後の状態であり,推定通り4本の鉄筋を確認することができた.2.5節に示
した携帯型電気測定装置を用い,見掛け比抵抗が比較的低く見掛け充電率が比較的高い測線
を鉄筋位置とした推定方法は,実構造物でも有効であることが明らかとなった.
(a) 局部破壊前
(b) 局部破壊と中性化試験
写真 7-4 局部破壊結果
(2)鉄筋腐食の状態
写真7-4で確認した4本の鉄筋を,直径や重量を測定するため,各々約15cmに切断した.そ
の鉄筋から,10%クエン酸二アンモニウム溶液で赤錆や汚れを除去した状態を,写真7-5に
示す.目視観察では,A3, A7,B1の3本は,ほとんど錆の無い健全な鉄筋であり,B6のみが腐
食鉄筋38)であった.なお,これら4本の鉄筋の直径は全て約9mmと測定された.
149
写真7-5 鉄筋の外観
(3)埋設型浄化槽と供試体の比較検討
図7-15(a)には,埋設浄化槽(水セメント比は不明)で測定したA1,A3,A5,A7,B1,B3,B4,
B6位置の見掛け比抵抗と見掛け充電率の関係を示している.ここで,A3,A7,B1,B6は各々,
前述の実構造物における鉄筋部の測定値を示す.ただし,B6は654~1328Ωmと測定幅が広く
なったので,鉄筋腐食箇所であるA4.5(A4とA5の中間)位置の測定値(654Ωm)を採用した.
また,A1,A5,B3,B4は各々,鉄筋部から比較的(12.5cm)離れたコンクリート部の測定値
を示す.一方,図7-15(b)には,6章に示した12個のRC供試体(材齢29~315日)で測定した見
掛け比抵抗と見掛け充電率の関係を示している.
(a) 埋設型浄化槽(材齢44年)
(b) 12個の供試体(材齢315日以下)
図7-15 見掛け比抵抗と見掛け充電率の関係
図7-15(a)と(b)の見掛け比抵抗と見掛け充電率の関係から以下のことが明らかである.
埋設浄化槽の見掛け比抵抗(300~1000Ωm)が,12個の供試体の見掛け比抵抗(100~600
Ωm)に比べて高い.これは,以前から知られているコンクリート構造物の含水率が低いほど,
見掛け比抵抗は高い値である6)事実を考えると,材齢を原因とする含水率が実構造で低かっ
たことによると推定できる.
150
12個の供試体に着目すると,健全鉄筋部の見掛け充電率(100~700mV/V)
,腐食鉄筋部の見
掛け充電率(30~90mV/V)
,無筋部の見掛け充電率(0~10mV/V)の順に見掛け充電率が低下
する傾向が認められる. この傾向から,見掛け充電率を測定することで,コンクリート構造
物内の鉄筋位置と腐食の有無を推定することは可能と考えられ,埋設型浄化槽においても,
見掛け充電率が226~440mV/VのA3,A7,B1測線は健全鉄筋部で,見掛け充電率が107mV/VのB6
測線は腐食鉄筋と推定できる.事実,実際の鉄筋をはつりだした観察結果から,6.3節で作成
した「鉄筋等の存在と腐食状況の推定フロー」による,健全鉄筋部,腐食鉄筋部,無筋部の
推定は正しかったことが示されている.
ゆえに,局部破壊による目視観察結果と,電気探査法による鉄筋位置と鉄筋腐食の推定結
果の一致から,実構造物に対する電気探査法の有用性と適用性は十分あるといえる.
7.5 まとめ
鉄筋等の存在と腐食状態を非破壊で推定することを目的に,電気探査法を用いた既存RC構
造物の測定と,局部破壊による推定結果の検証などを行って,以下の結論が得られた.
1.
「7.2 マンション A の屋上パラペット部」では,
電気探査法による見掛け比抵抗分布と,FEM逆解析による比抵抗分布の大きさから,屋上パラ
ペット部を「大きな空洞を有する無筋コンクリート構造」と推定した.その後,施工業者の
聞き取り調査を行い,この屋上パラペット部は,厚さ約40cmの軽量ブロック造であることを
確認した.
2.
「7.3 逆T型擁壁の鉛直壁部」では,
電気探査法による測定を行い,見掛け比抵抗分布と見掛け充電率分布から,鉄筋位置と無筋
位置を推定した.また,鉄筋は未腐食と推定した.電気探査法と同時に,電磁波レーダ法に
よる鉄筋位置の探査を行った結果は,電気探査法による鉄筋位置の推定結果と一致した.
3.
「7.4 埋設型浄化槽の頂版部」では,
電気探査法による見掛け比抵抗分布および見掛け充電率分布と,
FEM逆解析による比抵抗分布
から,鉄筋4本の位置と,内1本の塩分腐食を推定した.その後,局部破壊による目視確認を
行って,上記推定が正確であることを確認した.
4.2.5節に示した携帯型電気測定装置と,4.2節に示したクリームハンダ電極を用いて,3
つの既存RC構造物(7.2節~7.4節参照)の電気探査法による測定を行った.その後,各々の
方法で検証を行い,開発した携帯型電気測定装置とクリームハンダ電極が,実構造物でも有
用であることが分かった.また,6.3節に示した「鉄筋等の存在と腐食状況の推定フロー」も,
実構造物に十分使えることが明らかとなった.
151
第8章 結論
コンクリート構造物内部における鉄筋等の存在及び腐食状況を推定する既存の非破壊検
査法の欠点を克服し,短時間でこの両者を同時に推定でき,且つ鉄筋端部をはつり出す破壊
作業を必要とせず,さらに結果の解釈も単純な非破壊検査法として,電気探査法(直流比抵
抗法と強制分極法)に着目した.この電気探査法を用いて,RC供試体を測定する基礎的研究
を実施して,鉄筋等の存在及び腐食状況がRC構造物の電気的性質である見掛け比抵抗と見掛
け充電率に与える影響を検討した.また,ポアソン方程式を元に,比抵抗(逆解析)及び見
掛け比抵抗(逆解析後の順解析)を算出できる三次元有限要素法(FEM)コードを開発し,
測定結果の妥当性を検証した.さらに,既設RC構造物についても測定をおこなって本研究の
推定法の現場適用性を確かめた.これらの研究に当たっては,施工性と経済性の両面を満足
するコンクリート用の電極と,現場で使用できる信頼性の高い携帯型電気測定装置を開発し
た.
本研究の範囲内で結論出来る事項を以下に示す.
(1)
コンクリート打ち込み前に塩分濃度 3.5%溶液(海水と同等)で塩害腐食させた鉄
筋(以下,事前腐食鉄筋)
,黒皮を除去しない健全鉄筋(以下,黒皮付き鉄筋)及び
空洞等を設けた RC 供試体(以下,事前腐食供試体)を用い,見掛け比抵抗及び見掛
け充電率を測定した結果,事前腐食鉄筋,黒皮付き鉄筋,空洞の順に見掛け比抵抗が
増加する傾向が得られた.これは,この順に抵抗が大きいことを反映したものと考え
られる.このことは,見掛け比抵抗を測定することで,事前腐食鉄筋,黒皮付き健全
鉄筋,空洞の存在を推定することが可能であることを示すものである.また,見掛け
充電率に関しては,事前腐食鉄筋,黒皮付き健全鉄筋の順にこれが低下する傾向が得
られた.従って,見掛け充電率を測定することでも,事前腐食鉄筋と黒皮付き健全鉄
筋の存在を推定することが可能であるといえる.ただし,空洞位置と無筋コンクリー
トに関しては,この位置の見掛け充電率はほとんど零であって空洞と無筋コンクリー
トの区別を見掛け充電率だけで推定することは困難である結果が得られた.これらの
ことを総合すれば,見掛け比抵抗と見掛け充電率の両方を測定することで,事前腐食
鉄筋,黒皮付き健全鉄筋,空洞の存在を正確に推定することが可能であるといえる.
(2)
コンクリートの配合が見掛け比抵抗及び見掛け充電率に及ぼす影響について検討
するため,水セメント比を 40%~60%に変えた合計 12 体の供試体について測定を行
った結果,水セメント比が見掛け比抵抗および見掛け充電率に及ぼす顕著な影響は認
められなかった.しかし,高さを 75cm と高くした無筋鉛直供試体について,見掛け
比抵抗を測定した結果,コンクリートの見掛け比抵抗は,打設方向の影響を受け,コ
ンクリート打設上面ほど見掛け比抵抗が小さいことが示された.コンクリートの含水
152
率が大きいと見掛け比抵抗が小さくなると言う既往の知見を考えると,この結果は,
ブリージングの影響でコンクリート打設上面ほど含水率が大きくなったことにより,
もたらされたものと考えられる.また,直方体供試体を縦割りした一方をコンクリー
ト,他方をこれから粗骨材を除いたモルタルとした無筋水平供試体の見掛け比抵抗を
測定した結果から,コンクリートに比べモルタルは,見掛け比抵抗が低いことが明ら
かになった.これは,粗骨材の方がモルタルに比べ,比抵抗が大きいことが原因と考
えられるのであって,両者の差は,粗骨材として用いた砕石の比抵抗からおおむね説
明することが出来た.このように,コンクリートの見掛け比抵抗や見掛け充電率は
様々な要因によって変化する.見掛け充電率の場合,配合や含水率による顕著な変化
は認められないが,内的塩分の存在や,外的塩分の進入で見掛け充電率が低下するこ
とが明らかであった.従って,見掛け比抵抗や見掛け充電率から鉄筋等の存在や腐食
状況をこれらの値そのものから推定することはできない.これは,含水率や塩分の存
在でコンクリートの見掛け比抵抗や見掛け充電率が変化するので,鉄筋等の存在やそ
の腐食状況のそれらも変化するためである.ただ,無筋コンクリートの見掛け比抵抗
や見掛け充電率が変動しても,健全鉄筋,腐食鉄筋,空洞などの見掛け比抵抗値や見
掛け充電率の相対的な大小関係は変わらないから,多くの測定点から,無筋コンクリ
ート部分におけるこれらの値を推定できれば,そのほかの部分の推定は可能なのであ
る.
(3)
黒皮付き鉄筋及び黒皮除去鉄筋を配した直方体の供試体を用いて,電食試験を実施
し,その進行中と終了後に見掛け比抵抗と見掛け充電率を測定した結果,鉄筋腐食状
態が激しい黒皮除去鉄筋は,腐食が軽微な黒皮付き鉄筋より,鉄筋位置の見掛け比抵
抗は低い値になることが示された.一方,鉄筋腐食状態が激しい黒皮除去鉄筋と,腐
食が軽微な黒皮付き鉄筋の見掛け充電率の差異はほとんど認められなかった.また,
これとは別に,黒皮無し健全鉄筋,黒皮付き健全鉄筋,塩害腐食鉄筋を配した供試体
及び鉄筋を配しない供試体について見掛け充電率を測定した結果,この順に見掛け充
電率が低下する結果となり腐食をもたらす原因に拘わらず,見掛け充電率により腐食
の有無を推定することが可能であることが示された.ただ,鉄筋腐食状態が激しい黒
皮除去鉄筋と,腐食が軽微な黒皮付き鉄筋の見掛け充電率の差異がほとんどなかった
ので,見掛け充電率によって塩害鉄筋の腐食程度を推定することは困難であった.し
かし,上記のように,見掛け比抵抗により腐食程度を推定することは可能であるから,
見掛け比抵抗と見掛け充電率の両方を測定することで,健全鉄筋,塩害腐食鉄筋,無
筋コンクリートの存在,および塩害による腐食の程度をより正確に推定することが可
能といえる.
(4)
電気探査法(直流比抵抗法と強制分極法)用いて12個のRC供試体を測定することで
153
得られた「見掛け比抵抗および見掛け充電率」と「鉄筋等の存在および腐食状況」と
の相関関係を明らかにした.さらに,電気探査法で得られる見掛け比抵抗および見掛
け充電率を用いて,この相関関係図から,既設RC構造物の鉄筋等の存在と鉄筋腐食状
況を,明らかにする推定フローを示すことができた.推定フローの概要を以下に示す.
①無筋部の見掛け充電率に着目すると,無筋モルタル,無筋コンクリート,円形空
洞とも10mV/V以下の低い値なので,健全鉄筋部や腐食鉄筋部との区別が比較的容易で
ある.すなわち,適切な数箇所の測定を行えば,全てが鉄筋部または全てが無筋部に
なるとは考え難いので,鉄筋部と無筋部が混在することになる.この段階で,見掛け
充電率が比較的低い測定値グループを無筋部と推定可能である.
②健全鉄筋部の見掛け充電率に着目すると,黒皮付き無しとも80mV/V以上の高い値
なので,健全鉄筋部と腐食鉄筋部の区別が比較的容易である.すなわち,ひび割れと
さび汁だらけの不良構造物は別として,一般的な既存RC構造物の適切なひび割れ位置
数箇所の測定を行えば,全てが健全鉄筋部または全てが腐食鉄筋部になるとは考え難
い.従って,この段階で,見掛け充電率が比較的高い測定値グループを健全鉄筋部と
推定することができる.
③上記の区分から,残った測定グループが塩害腐食鉄筋といえる.塩分腐食鉄筋部
の見掛け比抵抗に着目すると,腐食度「強」
,腐食度「弱」の順に見掛け比抵抗が増
加している.ゆえに,鉄筋腐食状況の推定は,見掛け比抵抗(腐食度「強」は見掛け
比抵抗「小」
,腐食度「弱」は見掛け比抵抗「大」
)から行うことが可能である.
(5)
直流比抵抗法を用いて得られるRC 供試体とRC 構造物の電気的挙動をシミュレーシ
ョンする目的で,
三次元FEM 順解析コードおよび三次元FEM 逆解析コードを開発した.
このうち,順解析コードは,入力電流と比抵抗分布を既知として,出力電位を算出す
るもので,ポアソン方程式を用いて構築した.また,逆解析コードは,入力電流と出
力電位を既知として,比抵抗分布を算出するもので,拡張カルマンフィルタ法を採用
した.
逆解析コードの開発当初,解析性能には問題は無いが,予想以上に演算時間が必要
であることが明らかとなった.それで,演算時間が長くなるフルマトリックスを作成
せず,バンドマトリックスの状態で連立方程式を解く工夫を行い,演算時間と記憶容
量を各々,約 1/3 と約 1/12 低減することができた.また,三次元 FEM 逆解析コード
のケーススタディにおいて,電流を流す電流電極に近いほど,電位電極で得られる電
位絶対値が大きくなるため,電流電極を移動させた複数電場(マルチソース)の電位
分布を同時に用いて,RC 構造物の比抵抗分布を逆解析できる機能を構築し,精度向上
を図ることができた.
RC 構造物表面の電流と絶対電位を測定した後,三次元 FEM 逆解析を実施して比抵抗
分布を計算した結果,事前腐食鉄筋(比抵抗小)
,黒皮付き健全鉄筋(比抵抗中)
,空
154
洞(比抵抗大)の位置と大きさを推定できることが明らかとなった.また,高さを 75cm
と高くした無筋鉛直供試体についても,三次元 FEM 逆解析結果(最上部=101Ωm,最
下部=142Ωm)から,コンクリートの比抵抗は,打設方向の影響を受け,コンクリー
ト打設上面ほど比抵抗が小さいことが示された.さらに,電食終了後の RC 供試体を
三次元 FEM 逆解析した際も,見掛け比抵抗と同様,塩害腐食状態が激しい鉄筋の比抵
抗(18Ωm)の方が,塩害腐食状態が軽微な鉄筋の比抵抗(51Ωm)に比べ低い値にな
った.ここに述べた結果は,想定値と全く同様の傾向となった.
上記のように適切な解析方法によりシミュレーションできた RC 供試体と RC 構造物
の測定値は,必然的に得られた測定値と考えられるため,比較的少ない測定結果から
見掛け比抵抗や見掛け充電率の規則性や関連性を検討することが可能となった.さら
に,実験を行わず,三次元 FEM 解析コード単独で,RC 供試体と RC 構造物の電気的挙
動を出力し検討することも可能となった.
(6)
電食後の RC 供試体について,自然電位法ならびに分極抵抗法によって探査した結
果,前者では,塩害腐食鉄筋位置を明確に判定することができなかった.文献調査に
よれば,この方法では RC 構造物を適切な湿潤状態に保つ必要性が指摘されており,
既存 RC 構造物への実用性は高くないといえる.また後者では,塩害腐食鉄筋位置を
不鮮明ながら判定することができた.しかし,この方法ではコンデンサー効果に関す
る測定が無く,分極抵抗(安定状態の抵抗)のみから鉄筋の存在と腐食状態を推定す
る必要であるため,無筋コンクリートと抵抗値が近似した黒皮付き健全鉄筋等の判定
が困難であった.既存の第 3 の方法である交流インピーダンス法については,電気探
査法で得られた等価回路を用いて,解析によって検討を加えた.その結果,交流イン
ピーダンス法と本研究の電気探査法は,鉄筋部の分極抵抗とコンデンサー効果を測定
する点で,同等の電気的性質を測定しているが,低周波数時の測定時間が電気探査法
の 10 倍以上と長くなる欠点が明確になった.また,自然電位法,分極抵抗法,交流
インピーダンス法のいずれも,鉄筋端部をはつり出す破壊作業が必要である.以上の
ように,自然電位法と分極抵抗法に比べ,電気探査法の方が理論面でも実用面でも鉄
筋腐食状態の探査能力が優れているといえる.さらに,交流インピーダンス法は,電
気探査法と同等の電気的性質を測定しているが,測定時間が短い点とはつり作業が無
い点で電気探査法の方が実用面で優れているといえる.
(7)
既存の文献にある電極,すなわち,導電性接着剤として銀ペーストを用いた電極を
実際に試用した結果,電気的性能は良好であるが施工性と経済性に問題のあることが
明らかになった.これらの問題点を解決するため,本研究ではクリームハンダを主材
料にした導電性電極を新たに開発した.その結果,電気的性能,施工性とも良好で,
経済性も 1/10 以下に低減することができた.一方で,デジタル・マルチメータ(通
155
称テスター)を用いても,見掛け比抵抗は安定状態の入力電流と測定電位から算出で
きるが,見掛け充電率は安定状態から減少するまでの過渡電位を数値積分する必要が
あった.この理由から,既存 RC 構造物の鉄筋腐食推定に関して簡便かつ精度良く利
用できるように,小型オシロスコープとノートパソコンを用いた携帯型電気測定装置
および鉄筋腐食度判定システムを開発した.この装置の信頼性を検証するため,電気
探査法で RC 供試体を測定した際の電流と電位時系列を模擬した等価回路を作製する
とともに,この等価回路を,ルンゲ・クッタ・ギル法を用いた解析モデルでも再現し,
携帯型電気測定装置で測定した「RC 供試体」と「実物の等価回路」
,解析モデルから
算出した「解析上の等価回路」の三者の電流と電位を比較した.その結果,これらは
各々良く一致しており,
「RC 供試体の電気的性質」の把握と,
「開発した携帯型電気
測定装置の実用性」を明らかにすることができた.
(8)
3 つの既存 RC 構造物(屋上パラペット部,逆 T 型擁壁の鉛直壁,埋設型浄化槽の
頂版)の鉄筋の存在と腐食状況を,前述の(4)で示した推定フローを用いて想定す
るとともに,各々検証を行い,推定結果の妥当性に検討を加えた結果,本研究成果の
現場適用性と実用性は十分あることが実証できた.既存 RC 構造物の場合,その材齢
は数年から数十年になり,材齢が増すに従い,RC 供試体に比べ見掛け比抵抗が大き
くなる傾向がある.雨風や直射日光を受け易い RC 構造物もあれば,その逆の RC 構造
物もあるのであって,見掛け比抵抗の変動が大きい.また,塩分の存在で見掛け充電
率も大きく低下する.しかし,変動が大きくても,塩害腐食鉄筋,無筋コンクリート,
空洞の順に見掛け比抵抗が大きくなる傾向や,健全鉄筋,塩害腐食鉄筋,無筋コンク
リートと空洞の順に見掛け充電率が小さくなる傾向は,RC 供試体と既存 RC 構造物間
で一致しているので,RC 供試体での知見が既存 RC 構造物にも利用できるといえる.
なお,実構造の探査においても,電気探査法による測定時に本研究で開発したクリー
ムハンダ電極と携帯型電気測定装置を用いたのであって,それらの実用性も実証する
ことができた.
156
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158
謝辞
著者は,昭和 53 年 3 月に埼玉大学工学部建設工学科修士課程(材料研究室,町田篤彦先生)
を修了後,2 年間勤務させて頂いた電力系建設コンサルタント(
(株)ニュージェック)のご
依頼を受けコンクリート構造物(重力式コンクリートダム,アーチ式コンクリートダム,原
子力関連施設)の耐震設計,耐震性バックチェック,健全性評価等の業務を約 20 年間行って
いました.ところが,幸い,平成 8 年から平成 15 年まで,それまでの解析経験が評価され「電
気探査法等を用いたダム建設予定地点の地盤物性評価」というコンクリート関連以外の業務
経験を得ることが出来ました.そのため,平成 16 年 12 月,
「地盤物性評価のための電気探査
法を,RC 構造物の非破壊検査に応用出来ないでしょうか」と町田篤彦先生にご相談しました
ところ,
「興味深いので始めてみなさい」とご快諾を頂戴しました.その後は,懇切丁寧なる
ご指導,ご鞭撻を毎週末に賜り現在に至りました.ゆえに,本論文は,町田篤彦先生にご指
導頂きました平成 16 年から現時点までの知見や研究成果をまとめたものです.
本論文をとりまとめるにあたり,終始懇切なるご指導とご鞭撻,一方ならぬご厚情と絶大
なるご支援を賜りました埼玉大学名誉教授 町田篤彦先生に深く感謝の意を表します.
改めま
して心より御礼申し上げます.
埼玉大学工学部建設工学科建設材料工学研究室教授 睦好宏史先生には,お忙しい中,本論
文の審査を快くお引受け頂きました.厚く御礼申し上げます.
埼玉大学地圏科学研究センター教授の川上英二先生,
岩盤工学研究室准教授の山辺正先生,
建設材料工学研究室准教授の牧剛史先生にも,本論文の審査を快くお引受け頂きました.厚
く御礼申し上げます.
電気探査法を研究する機会を頂いた,(株)ニュージェックの國井仁彦氏(当時,取締役),
浦山克氏,大友譲氏,中村真氏にも,厚く御礼申し上げます.論文作成意欲を与えて頂いた,
竹澤請一郎氏,冨村彰廣氏,平川芳明氏,山田雅行氏,松本敏克氏,西村昇氏,池澤市郎氏,
坂田勉氏,奥野哲也氏,平井俊之氏,八木悟氏,遠藤寛子さんにも心より御礼申し上げます.
終始暖かい業務ご指導を頂いた園田芳久氏,杉本俊明氏,木崎康正氏,道輪徹氏,宮川修三
氏,寺本卓司氏にも,厚く御礼申し上げます.電気測定のご指導を頂いた川田章弘氏,井上
哲男氏,西田健二氏にも,心より御礼申し上げます.
最後に,供試体作製と測定実験を協力してくれた妻 由起子と長男 数真,
長年同じテーブルで勉強してくれた長女 恵理にも深く感謝します.
平成 21 年3月
露口雄次
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