...

中部大学工学部情報工学科 卒業論文 Saliency Detection結果を用いた

by user

on
Category: Documents
15

views

Report

Comments

Transcript

中部大学工学部情報工学科 卒業論文 Saliency Detection結果を用いた
中部大学工学部情報工学科
卒業論文
Saliency Detection 結果を用いたレベルセット法
による効率的な線虫検出
石野 将寛
2010 年 3 月
指導教授 藤吉弘亘
A Graduation Thesis of College of Engineering, Chubu University
The Efficient C. elegans Detection by Level Set Method
using Saliency Detection Result
Masahiro Ishino
はじめに
線虫 (C.elegans) は神経,筋肉,消化管,表皮,生殖巣といった多様な組織・器官を持っ
ている.そのため,線虫はモデル生物とされており,バイオセンサの研究において顕微鏡
下の線虫観測が行われている.モデル生物とは,生物学などの分野で普遍的な生命現象を
研究するために用いられる生物である.モデル生物は,生命現象が観察しやすく,大量に
培養 (飼育) 可能である生物がよく用いられる.
投薬実験など線虫に対して影響を与える実験の投薬効果がどのように出ているか調べ
るには,大量に培養された線虫の各個体に対して長時間の観測が必要となる.線虫は無色
透明であるため,観測するには照明光を照射して得られる,線虫にできた陰影から観測を
行う.しかし,陰影のみから線虫を観測するには多大な労力が必要となる.そのために線
虫の観測をしやすくするために遺伝子操作を行う場合もある.(例えば解毒酵素であるグ
ルタチオン S-トランスフェーゼ (GST) と蛍光タンパクの融合遺伝子を導入し,解毒作用
が機能しているときに発光させるなど).
遺伝子操作は,線虫の寿命に影響与える可能性があり,線虫の正確な寿命を知るために
は,遺伝子操作などを行わない線虫で観測する必要がある.
そこで,我々は顕微鏡を用いてカメラから画像を取得し,Saliency Detection により線
虫の大まかな領域を求め,推定した線虫領域に,輝度勾配により領域の境界線を収束さ
せるレベルセット法を適応する.レベルセットにより収束した領域にラベリングを行い,
セグメンテーションを行う.このような手法により線虫の自動検出を目的とする.
各章の構成
本論文は 5 つの章から構成される.第 1 章は線虫の概要について述べる.第 2 章は動的
輪郭モデルによる従来法と問題点について述べ,第 3 章は提案手法による効率的な線虫検
出法について述べる.第 4 章は評価実験行い提案手法の有効性を示す.
iii
目次
第 1 章 線虫の概要
1
1.1
線虫について . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
1
1.2
線虫の繁殖
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
2
1.3
線虫の体構造 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
4
第 2 章 動的輪郭モデルによる領域分割
7
2.1
線虫の検出手法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
7
2.2
Active Contour Model . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
7
2.3
レベルセット法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
8
2.4
再初期化をしないレベルセット法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
8
2.5
2.4.1
再初期化をしない曲線展開の変分レベルセット法 . . . . . . . . . . 10
2.4.2
再初期化をしない Active Contour の変分レベルセット法 . . . . . . 11
問題点 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13
第 3 章 効率的な線虫の検出
15
3.1
手法の流れ
3.2
Saliency Detection . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16
3.3
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15
3.2.1
スペクトル剰余モデル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16
3.2.2
Saliency Map から物体領域の検出 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 19
Saliency Detection 結果を用いた高速な検出 . . . . . . . . . . . . . . . . . 20
第 4 章 評価実験
21
4.1
データベース . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21
4.2
実験概要 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 22
4.3
検出率の評価 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 22
v
4.3.1
処理時間の評価 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 22
おわりに
25
謝 辞
27
参考文献
29
vi
図目次
1.1
C. elegans 成虫の構造 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
2
1.2
C. elegans の生活史 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
3
2.1
顕微鏡下で撮影された線虫の陰影画像
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
8
2.2
Active Contour Model . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
9
2.3
レベルセット法の概念 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
9
2.4
補助関数 ϕ の展開 (上:補助関数 ϕ 下:zero level set) . . . . . . . . . . . 13
3.1
提案手法の流れ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15
3.2
Saliency Map . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 19
3.3
閾値処理をした Saliency Map . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20
4.1
検出に用いるデータベース . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21
4.2
検出の成功例 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23
4.3
検出の失敗例 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23
vii
表目次
4.1
線虫の検出率 [%] . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 22
4.2
検出時間 [s] . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 24
ix
第1章
線虫の概要
本章では本研究で用いる線虫 (C. elegans) について述べる [1].
1.1
線虫について
記録によると,C. elegans は 100 年以上前の 1900 年,MAUPAS によってアルジェリア
で最初に採取され,Rhabditiselegans と命名された.その後 1946 年に STANILAND が,
イギリスのブリストルで同じ種を腐食した茸から再び採取している.これを遺伝学研究の
モデル実験動物として最初に提唱したのは DOUGHERTY と彼の同僚たちである.また,
彼らによって実験室での飼育条件や生活史が明らかにされた.NIGON と彼の同僚たちに
よって生殖系の発生や配偶子形成の研究が進められ,発展した.1960 年代の半ばから 1970
年頃にかけて,分子生物学の発展に大きく貢献した BRENNER や VON EHRENSTEIN
は行動の問題に分子遺伝学的な考察をするため線虫を用い始めた.
線虫は土壌中をすみかとし,細菌を食して自力で生活している線虫 (食菌性土壌自活性
線虫) である.世界中のどこにでも見られる最も普遍的な土壌線虫である.現在世界中の
研究室で最も普通に使われているのは,前述の STANILAND が採取し,DOUGHERTY
らが飼育条件などを確立したブリストル株 (C.elegans var. Bristol) に由来する通称 N2 と
呼ばれる株である (図 1.1).最近はフランスで採取されたバーゲラック株 (C.elegans var.
Bergerac) もかなり用いられるようになってきた.両株は形態上大きな違いがなく,交配
して生殖可能な子孫を生じるが,繁殖適正温度に数℃の差,トランスポゾンの数に大きな
差があることがわかっている.
1
第 1 章 線虫の概要
図 1.1: C. elegans 成虫の構造
成虫の体長は 1mm あまり,体幅はおよそ 0.1mm である.虫体は 5 倍から 50 倍程度の実
体顕微鏡下で容易に観察することができる.かみついたり,逃げ回ったり,飛んで行って
しまったりしないので安心して実験を進められる.また当面実験の必要がない場合は-196
℃の液体窒素で生きたまま永久凍結保存できるので,株などの管理維持費や時間が著しく
少なくて済む.実験室では大腸菌など細菌を餌として 13 ℃から 25 ℃の範囲で簡単に飼育
することができる.必要に応じて合成培地でも飼育が可能である.飼育は固形地でも液体
中でもよく,いずれの場合も培地中での動きは活発で規則正しい.寒天培地など固形地で
は S 字型に体を波動させて進む.
世代時間は飼育温度によって変化し 25 ℃,20 ℃,16 ℃で,それぞれ約 2,3,5 日であ
る.胚発生 (受精からふ化まで) に要する時間は 25 ℃,20 ℃,16 ℃で,およそ 11,16,19
時間である.ふ化後,幼虫は 4 回の脱皮で区切られる L1,L2,L3,L4 の各幼虫期を経て
成虫となる (図 1.2).寿命は 20 ℃だと 2 週間ほどである.幼虫期に食物が不足すると 2 回
目の脱皮後,耐久型幼虫 (DL 幼虫) になって飢えを凌ぐこともできる.DL 幼虫の寿命は
平均 10 週間にもなる.その間に食物に巡り合えば脱皮して L4 幼虫期に入り,正常な成長
過程に戻り成虫となる.
1.2
線虫の繁殖
線虫は通常雌雄同体が自家受精,つまり自己の体内で作った精子と卵子が融合をして繁
殖する.20 ℃で雌雄同体 1 個体から約 300 頭の子孫が生まれるので,1 頭が 1 週間後には
およそ 10 万頭に増える.自家受精繁殖するので,親 (F0) の生殖細胞に生じた変異は劣勢
2
1.2. 線虫の繁殖
図 1.2: C. elegans の生活史
変異でも,交配などの人為的操作を加えずに F2 世代においてホモ接合体として分離し,
変異形質が表現されるので自然にホモ変異体 (以下,変異個体は変異体と略す) が得られ
る.また同じ理由で,得られたホモ変異体から同質の遺伝子型をもった個体 (クローン) を
たやすく大量に得ることもできる.染色体構成は雌雄同体で 5AA+XX である.性染色体
(X 染色体) の不分離によって約 1/700 の頻度で出現する雄は 5AA+XO である.この雄を
交配して容易に詳細な遺伝子分析ができる.このように線虫は遺伝学的考察を行う上で多
くの利点を備えている.
線虫の DNA は 8 × 107 塩基対で大腸菌のおよそ 20 倍,酵母の 3 倍強でしかない.動物
ではショウジョウバエの約 1/2,マウスやヒトのおよそ 1/40 である.DNA を扱う研究も
時勢を反映して盛んに行われており,線虫のもつ全塩基配列は 1998 年に読み取りが完了
した.
3
第 1 章 線虫の概要
1.3
線虫の体構造
線虫は簡単な構造とほぼ透明な体を有し,受精卵も透明であるため,生きたままノマ
ルスキー微分干渉装置を着装した光学顕微鏡下で細胞が同定,追跡できる.ドイツ,イギ
リス,およびアメリカのグループにより受精から成体に至るまでの細胞系譜および発生
過程での個々の細胞分裂,行動が完全に明らかにされている.体は成虫でも雌雄同体が
959 個,雄は 1031 個の体細胞 (細胞融合のため正確には核の数) からできている.個々の
細胞の分裂パターン,行動は厳密に制御され,個々の細胞がもつ時間的,空間的特徴に個
体差の差異はほとんど認められない.また各々の細胞の運命も決まっている.虫体は下皮
(hypodermis:表皮ともいう),神経系,筋肉系,消化系,生殖器官 (somatic gonad) など
の組織,器官が分化している.たとえば,雌雄同体の成虫では生殖器官を構成する細胞は
143 個,神経細胞は 302 個である.線虫の体は浸透圧で調整される高い流体静力学的内圧
で維持されている.体表は巨大多核細胞からなる下皮とそれが分泌したその上のクチク
ラ層で構成され,その内側には体壁の筋がある.体壁筋は 4 列に並んだ総数 95 個の細胞
が四方から消化器官,生殖器官を取り囲むように咽頭から尾部へ縦走している.口は咽
頭から腸へつながり,腸は直走して体の後端近くの肛門に終わっている.咽頭には前後 2
つの食道球があり,後の食道球で摂取したバクテリアなどの食物を細かく砕いて腸へ送り
込む.
咽頭の周囲には神経細胞や神経繊維が集まり,神経環を形成している.神経環は線虫の
中枢神経系であり,脳である.この神経環から体壁筋を支配する運動神経のある腹部およ
び背側神経索が後方に伸び,前者は尾部に位置する肛門前神経節 (小さな脳) で終わって
いる.神経環から前方に走る感覚神経は,口の周りに開いている頭部感覚器官につながっ
ている.
成熟した雌雄同体の生殖系は,体の中央部にある陰門を中心に前後点対象に延びた 2 つ
の U 字型をした生殖器官と生殖細胞からなる.それぞれの生殖器官は遠腕部,曲腕部,近
腕部からなり,卵巣・輸卵管とそれに続く貯精嚢および子宮で構成される.子宮は腹部に
位置する陰門に繋がり体外に開いている.
雌雄同体の生殖細胞は遠腕部で同数分裂 (mitosis),遠腕部から曲腕部にかけて減数分
裂 (meiosis) が進み,輸卵管にあたる近腕部を通過しながら卵母細胞に成熟する.成熟し
て,減数分裂のディアキネシス期に停止している卵母細胞 (卵子) は貯精嚢を通過する際,
精子と融合し受精がおこる.精子は卵母細胞が成熟を始める前に成熟を完了し,貯精嚢で
卵母細胞の通過を待機している.受精した卵母細胞 (受精卵) は途中で停止していた減数
4
1.3. 線虫の体構造
分裂を,精子侵入地点から真反対の位置で再開し,第 1,第 2 極体を放出してこれを完了
する.受精卵は貯精嚢をあとに子宮に降りる.卵は 55 × 35µm の楕円球形である.若い成
虫では,子宮に降りた受精卵は普通 30 細胞期ぐらいまで発生して体外に産み落とされる.
雄は 1 つの U 字型をした生殖系をもち,精巣は輸精管から尾部の交尾器につながる.生
殖細胞は近腕部,曲腕部と徐々に成熟し精嚢に至って精子となる.精子は精嚢に貯えら
れ,交尾時に輸精管を通じ総排出腔 (肛門) から放出される.
5
第2章
動的輪郭モデルによる領域分割
線虫は照明光を照射して得られる陰影から輪郭を観測することができる.本章では観測さ
れた線虫の輪郭領域を求める手法について述べる.
2.1
線虫の検出手法
図 2.1 に検出対象となる顕微鏡下で撮影された線虫の画像を示す.図 2.1 の陰影画像に
は線虫以外にも,線虫の通った軌跡が残っている.そのため,図 2.1 から線虫の領域を見
つけるために,ノイズに対して頑健な境界線追跡手法である Active Contour Model[14] を
採用する.
2.2
Active Contour Model
図 2.2 左のような閉領域 Ω と境界線 C が存在するとしたとき,図 2.2 右のように Ω が変
形し,新たな閉領域 Ω′ が生成された場合に,境界線 C も閉領域 Ω′ に合わせて境界線 C ′
のように変形するが,境界線 C ′ を新たに閉領域 Ω′ から求めるのではなく,境界線 C が変
化したものとして求めるのが Active Contour Model である.Active Contour Model の代
表的な手法として Snakes とレベルセット法があるが,Snakes は局所的なノイズに対して
頑健であるが,境界線の分離や結合が困難という問題が存在する.本研究で検出対象とし
ているのは複数の線虫であるため,Snakes を用いることができない.そこで本手法では
レベルセット法を用いて線虫検出を行う.
7
第 2 章 動的輪郭モデルによる領域分割
図 2.1: 顕微鏡下で撮影された線虫の陰影画像
2.3
レベルセット法
このセクションではレベルセット法について記述する.レベルセット法は,輝度勾配に
より物体領域の境界線を収束させる手法である.レベルセット法では図 2.3 に示すように
2 次元の対象空間に対して,1 つ次元の高い 3 次元空間を仮定する.境界線 C に囲まれた
Ω(図 2.3(a)) は,3 次元空間で定義された補助関数 ϕ の zero level set ϕ = 0 の断面領域と考
える (図 2.3(c)).時間経過にともない補助関数 ϕ を正方向へ移動させることで (図 2.3(d)),
断面領域が収束し複数の閉領域の境界線 C を表わす (図 2.3(b)).
補助関数 ϕ は次式で表わされる.
∂ϕ
= −F |∇ϕ|
∂t
(2.1)
F は境界線の法線方向への成長速度を表わす.
2.4
再初期化をしないレベルセット法
このセクションでは geometric active contour のための符号付き距離関数に近似するこ
とを補助関数 ϕ に強いる新しい変分定式,つまりコストの高い再初期化手順を完全に取り
除いた手法 [19] を示す.この変分定式は符号付き距離関数から逸脱する補助関数 ϕ にペナ
8
2.4. 再初期化をしないレベルセット法
C'
C
C
Ω'
Ω
図 2.2: Active Contour Model
C
C2
Ω
(a)収束前
φt
Ω
φ
(c)収束前
Ω2
φt+∆t
C1
Ω1
(b)収束後
φ Ω2
Ω1
(d)収束後
図 2.3: レベルセット法の概念
ルティを与える内部エネルギー項と望ましい画像特徴の方 (例えばオブジェクトの境界線)
へ zero level set 動きを促進する外部エネルギー項から成る.結果として生じる補助関数
ϕ の展開は,全体的なエネルギー関数を最小にする勾配フローである.提案された変分レ
ベルセット法は従来のレベルセット法より勝る 3 つの主な利点がある.1 つ目は,かなり
の時間ステップが数値的に展開偏微分方程式を解くのに使うことができ,そのため曲線展
開の速度を上げることができる.2 つ目は,補助関数 ϕ はより効率的な構造で,広く用い
られている符号付き距離関数より実行する上で使いやすい一般的な関数で初期化される.
3 つ目は,このレベルセット法は単純な有限差分スキームにより簡単に実行ができ,計算
的にもより効率的である.
9
第 2 章 動的輪郭モデルによる領域分割
2.4.1
再初期化をしない曲線展開の変分レベルセット法
■ ペナルティエネルギーをもつ一般的な変分レベルセット法
展開補助関数 ϕ を展開の間維持することは (特に zero level set 付近では) 近似符号付き
距離関数として重要である.よく知られているように,符号付き距離関数は |∇ϕ| = 1 の
特性を満たさなければならない.逆に,|∇ϕ| = 1 を満たすいくつかの関数 ϕ は符号付き
距離関数に定数を加えたものである [15].これより
P(ϕ) =
∫
Ω
1
(|∇ϕ| − 1)2 dxdy
2
(2.2)
関数 ϕ に近づけることで特徴づけられる距離関数のように Ω ⊂ R2 に従う符号付き距離関
数である.この距離関数は変分レベルセット法のキーとなる.
前式で定義された汎関数 P(ϕ) を用いて
E(ϕ) = µP(ϕ) + Em (ϕ)
(2.3)
このとき µ > 0 は符号化距離関数から逸脱している ϕ に課すペナルティーの影響をコン
トロールしているパラメーターであり,E(ϕ) は ϕ の zero level set の動きを促進するエネ
ルギーである.
本手法では,関数 E の Gateaux 導関数 (もしくは第一変分) を
∂E
∂ϕ
=−
∂t
∂ϕ
∂E
∂ϕ
によって示す.
(2.4)
前式は関数 E(ϕ) を最小にする勾配フローである.ϕ の項で明確に定義されている特殊汎
関数 E(ϕ) のために,Gateaux 導関数は関数 ϕ とその導関数の項で計算され表現すること
ができる [16].
画像セグメンテーションのために active contour へ式 (3.3) の変分定式の適応させるこ
とに焦点を合わせる,そのため ϕ の zero level set は画像の目的とする特徴へ展開するこ
とができる.この目的のために,エネルギー Em は画像データによって決まる汎関数のよ
うに定義される,そのためエネルギー Em を外部エネルギーと呼ぶ.従って,エネルギー
P(ϕ) は ϕ だけの関数なので関数 ϕ の内部エネルギーと呼ぶ.
汎関数 (3.3) を最小化する勾配フロー (3.4) による ϕ の展開の間,zero level set は外部エ
ネルギー Em によって動かされる.一方,ペナルティを加える内部エネルギーの影響のた
10
2.4. 再初期化をしないレベルセット法
め,展開関数 ϕ は式 (3.4) による展開の間,近似符号付き距離関数のように自動的に維持
される.従って,再初期化は完全に取り除かれる.このコンセプトは active contour の状
況でより一層示される.
2.4.2
再初期化をしない Active Contour の変分レベルセット法
画像セグメンテーションで,active contour はオブジェクト境界線の方へ向かう動的な
曲線である.これを満たすために,zero level set をオブジェクト境界線の方へ動かす外部
エネルギーを明確に定める.I は画像であり,g は次式によって定義されるエッジインジ
ケーター関数である.
g=
1
1 + |∇Gσ ∗ I|2
(2.5)
ここで Gσ は標準偏差 σ のガウシアンカーネルである.関数 ϕ(x, y) のために外部エネ
ルギーを次式のように定義する.
Eg,λ,ν (ϕ) = λLg (ϕ) + νAg (ϕ)
(2.6)
ここで λ > 0 であり,ν は定数,そして Lg (ϕ) と Ag (ϕ) は以下のように定義される.
Lg (ϕ) =
Ag (ϕ) =
∫
∫
gδ(ϕ)|∇ϕ|dxdy
(2.7)
gH(−ϕ)dxdy
(2.8)
Ω
Ω
ここで δ は一変量 Dirac 関数であり,H はヘビサイド関数である.以上より,エネル
ギー汎関数 E(ϕ) を次式で定義する.
E(ϕ) = µP(ϕ) + Eg,λ,ν (ϕ)
(2.9)
外部エネルギー Eg,λ,ν は zero level set をオブジェクト境界線方向へ促進し,内部エネル
ギー µP は展開の間符号付き距離関数から ϕ の逸脱した部分にペナルティを課す.
エネルギー Lg (ϕ) の幾何平均を理解するために,ϕ の zero level set は微分可能なパラ
メータ化された曲線 C(p),p ∈ [0, 1] によって表わされると仮定する.式 (3.7) のエネル
11
第 2 章 動的輪郭モデルによる領域分割
ギー汎関数 Lg (ϕ) は共形距離関数 ds = g(C(p))|C ′ (p)|dp 内の ϕ の zero level set の長さを
算出することは,よく知られている [17] 式 (3.8) のエネルギー汎関数 Ag (ϕ) は曲線展開
の速度上昇のために導入される.関数 g が 1 だった場合,式 (3.8) のエネルギー汎関数は
−
Ω−
ϕ = (x, y)|ϕ(x, y) < 0 の領域である [?].式 (3.8) のエネルギー汎関数 Ag (ϕ) は Ωϕ の重
み付き領域として見ることができる.物体への初期輪郭に関連する位置に従い,Ag の係
数 ν は正か負になる.例えば,もし初期輪郭が対象物の外側に配置されるなら,重み付き
領域項の係数 ν は正の値をとる,そのため輪郭はより速く収束する.もし初期輪郭が対象
物の内側に配置されるなら,係数 ν は拡大速度の上昇のために負の値をとる.
変分法 [?] によって,式 (3.9) の汎関数 E の Gateux 導関数 (最初の変分) は次式で表わさ
れる.
∂E
∇ϕ
∇ϕ
= −µ[∆ϕ − div(
)] − λδ(ϕ)div(g
) − νgδ(ϕ)
∂ϕ
|∇ϕ|
|∇ϕ|
(2.10)
ここで ∆ はラプラシアン演算子である.従って,この汎関数を最小にする関数 ϕ はオイ
ラーラグランジェ方程式
∂E
∂ϕ
= 0 を満たす.汎関数 E を最小化する最急降下法は次式の勾
配フローである.
∂ϕ
∇ϕ
∇ϕ
= µ[∆ϕ − div(
)] + λδ(ϕ)div(g
) + νgδ(ϕ)
∂t
|∇ϕ|
|∇ϕ|
(2.11)
この勾配フローは提案手法の補助関数の発展方程式である.
式 (3.10) の右側の第 2 項と第 3 項はそれぞれエネルギー汎関数 λLg (ϕ) と νAg (ϕ) の勾
配フローと一致し,これらはオブジェクト境界の方へ zero level set を促進する要因にな
る.第 1 項の効果を説明するために,内部エネルギー µP(ϕ) と関連付ける,これにより
第 1 項も勾配フローとわかる.
∆ϕ − div(
拡散率のような因数 (1 −
1
)
∇ϕ
1
∇ϕ
) = div[(1 −
)∇ϕ]
|∇ϕ|
|∇ϕ|
(2.12)
を持つ.|∇ϕ| > 1 の場合,拡散率は正であり,この項の効
果は通常の拡散である,すなわち,ϕ はより均一に,つまり勾配 |∇ϕ| を減らす.|∇ϕ| < 1
の場合,この項は逆の拡散効果を持つ,すなわち,勾配を上昇させる.
式 (3.12) による ϕ の変化を示すため,図 2.4 で示すような円形物体の画像を用いる.図
2.4 の上段左端は ϕ の最初の補助関数を示し,下段左端は最初の zero level set の断面を示
す.上段は補助関数 ϕ の変化を示し,下段は補助関数 ϕ と対応する zero level set を示す.
右端は最終的な結果を示す.この結果より補助関数 ϕ が輪郭上に収束しているのがわかる.
12
2.5. 問題点
図 2.4: 補助関数 ϕ の展開 (上:補助関数 ϕ 下:zero level set)
2.5
問題点
Level Set Evolution Without Re-initialization[19] を用いることにより,従来のレベル
セット法よりも再初期化の計算コストを削減できるが,画像全体から線虫領域のみを検出
するためには,やはり高い計算コストがかかる.この問題を解決するために,大まかな物
体領域を検出することができる Saliency Detection を採用する.
13
第3章
効率的な線虫の検出
本章では効率的な線虫検出について述べる.
3.1
手法の流れ
前章で述べた領域輪郭を求めるレベルセット法による線虫検出は,画像全体から線虫の
領域を求めようとするため,処理コストが高いという問題がある.そこで,提案手法では
大まかな物体領域を短時間で求めることができる Saliency Detection により,あらかじめ
線虫を検出する領域を制限し処理時間を短縮する.提案手法の流れを図 3.1 に示す.
(a)入力画像
(b)Saliency
Detection (c)レベルセット法 (d)セグメンテーション
図 3.1: 提案手法の流れ
15
第 3 章 効率的な線虫の検出
3.2
Saliency Detection
視覚特徴を検出する人間の視覚システムの能力は並外れて高速かつ信頼性がある.この
基本的な知的行動のコンピュータによるモデリングは依然として課題である.本章では視
覚特徴検出のためのシンプルな手法,Saliency Detection について記述する.
Saliency Detection のモデルは物体に対する特徴,カテゴリや他の既存の知識とは違い,
入力画像の対数スペクトルの分析によって,スペクトル領域から画像のスペクトル剰余を
抽出し,空間領域に対応する Saliency Map を構成する手法である.
3.2.1
スペクトル剰余モデル
高能率符号化は視覚処理の多くのメカニズムを解明できる一般的なフレームワークで
ある.Barlow[2] は最初に感覚入力内の過剰部分除去をした高能率符号化の仮説を提案し
た.視覚システムの基本原則は高頻度で生じる特徴に対する反応を抑制すると同時に,平
均から外れる繊細な特徴を維持する.[3] そのため,特徴的な信号だけ後の処理まで送ら
れる.
情報理論の視点から,高能率符号化は画像情報 H(Image) を 2 つのパーツに分けること
ができる.
H(Image) = H(Innovation) + H(P riorKnowledge)
H(Innovation) は新規性の要素を示し,H(P riorKnowledge) は符号化システムによって抑
制されるべき余分な情報である.画像統計の分野においては,前述の H(P riorKnowledges)
は Saliency Detection においては統計的不変性に相当する.これらの特性は自然画像統計
に関連する文献で議論されている [4, 5, 6, 7] 現在,自然画像の特性はランダムではない
と広く知られている,自然画像の特性は予測可能な分布に従う.
以下のセクションで,画像の“ innovation ”パートが統計に基づく余分な要素の除去に
よって近似する手法を示す.
■ 対数スペクトル表現
大量の自然画像のから得た統計値の不変要因のうち,スケールの不変性は最も有名で広
く研究されている特性である [8, 6].この特性は 1/f の法則としてよく知られている.自
16
3.2. Saliency Detection
然画像の集合体の平均フーリエスペクトル振幅 A(f ) は次の分布に従う.
E{A(f )} ∝ 1/f
(3.1)
両対数スケール上で,自然画像の集合体の振幅スペクトルは,ほぼ直線状に位置する.両
対数スペクトルは理論上は成熟し広く用いられているが,単一画像の解析には有効ではな
い.なぜなら:(1) スケール不変特性は自然画像の統計値上に存在するものであり単一画
像内に存在するとは思われない;(2) 全てのサンプリングポイントは均整がとれず,低周
波数領域の範囲がわずかに両対数平面上に存在する,高周波数領域は両対数平面に近くな
る一方でノイズに悩まされる [5].
両対数で表現する変わりに,本論文では,画像の対数スペクトル表現 L(f ) を採用する.
対数スペクトルは L(f ) = log(A(f )) によって得られる.
対数スペクトル表現は統計のシーン解析に関連する一連の文献に用いられている [9, 10,
11, 12].以下のセクションでは,Saliency Detection で対数スペクトルの指数を利用する.
異なる画像の対数スペクトルは統計的特異点を含むにも関わらず共有する似たような傾
向があることを発見した.この結果は平滑化された対数スペクトルの局所的な線形性を提
示する.
■ スペクトル剰余から Saliency Map まで
相似は余剰を示す.余剰の視覚情報の最小化を目的とするシステムのためには,大量の
入力画像の相似部分は既知である.そのため,異なる対数スペクトルにおいて多数の形状
相似が観測される,注目すべきは,多数の画像の平均曲線から飛び出ている情報である.
スペクトル内に含まれる統計的特異点は画像内の物体の存在する特異な領域に対しての
反応と思われる.
入力画像が与えられた時,対数スペクトル L(f ) は 64 × 64 に縮小された画像から計算
される.入力サイズの選択は視覚スケールに関連する.視覚スケールと視覚特徴との関係
は 2.2.1 にて記述する.
L(f ) が与えられた時,次式が得られる:
H(R(f )) = H(L(f )|A(f ))
(3.2)
A(f ) は一般的な対数スペクトルの形状を表す,これは事前情報として与えられる.R(f )
17
第 3 章 効率的な線虫の検出
は入力画像特有の統計的特異点を示す.本手法では,R(f ) を画像のスペクトルの剰余と
して定義する.
複数の自然画像の平均曲線は局所的線形性を示す.これより,A(f ) の近似形状の局所
的平滑化フィルター hn (f ) を採用する.経験則より n = 3 とする.hn (f ) のサイズを変え
ても結果は僅かにしか変わらない.平滑化スペクトル A(f ) は入力画像の畳み込みによっ
て近似される:
A(f ) = hn (f ) ∗ L(f )
(3.3)
hn (f ) は次式のように定義された n × n の行列である:

 1 1 ···


1 1 ···
1 
hn (f ) = 2 
 .. .. . .
n  . .
.



1 

1 


.. 
. 
1 1 ··· 1
(3.4)


これよりスペクトルの剰余 R(f ) は次式で得られる:
R(f ) = L(f ) − A(f )
(3.5)
スペクトルの剰余は画像に対する Innovation パートを含み,その領域の圧縮されたデー
タのようなものを与える.逆フーリエ変換を用いると,空間領域において Saliency Map
と呼ばれる出力画像を構築する.Saliency Map は主にシーンの重要な部分を含む.剰余
スペクトルの内容もまた画像の必要とされない部分として解釈できる.従って,Saliency
Map 内の各点の値は 2 乗された時,推定誤差を示す.より良い結果を得るために,ガウ
シアンフィルター g(x)(σ = 8) を用いて Saliency Map を平滑化する.
以上の式をまとめる.入力画像を I(x) と仮定すると:
A(f ) = ℜ (F [I(x)])
(3.6)
P(f ) = ℑ (F [I(x)])
(3.7)
L(f ) = log(A(f ))
(3.8)
R(f ) = L(f ) − hn (f ) ∗ L(f )
(3.9)
S(x) = g(x) ∗ F −1 [exp(R(f ) + P(f ))]2
(3.10)
F と F −1 はフーリエ変換と逆フーリエ変換を示す.P(f ) は画像の位相スペクトルを示
す,これは処理する間維持される.S(x) を図 3.2 に示す
18
3.2. Saliency Detection
図 3.2: Saliency Map
3.2.2
Saliency Map から物体領域の検出
Saliency Map は物体領域の率直な描写であるため,このセクションでは,Saliency Map
の中から物体領域を単純なしきい値セグメンテーションで検出する.画像 S(x) が与えら
れた時,オブジェクトマップ O(x) は次式で得られる:
O(x) = {
1 if S(x) > threshold
(3.11)
0 otherwise
経験則から threshold = E(S(x)) × 3 とする,E(S(x)) は Saliency Map の平均明度であ
る.しきい値の選択は誤検出と未検出のトレードオフ問題である.作成されたオブジェク
トマップ O(x) を用いて,物体領域は入力画像の対応する位置から簡単に抜き出すことが
できる.しきい値処理をした Saliency Map を図 3.3 に示す.
■ 視覚スケールの選択
視覚システムは特定のスケール下で機能する.たとえば,大きなスケールでは,人は家
をオブジェクトとして認識するかもしれないが,小さなスケールでは家の玄関のドアが
オブジェクトとして現れることがある.本手法のスケール選択は,入力画像サイズの選択
と同義である.画像が小さい時は,詳細な特徴は省略され,視覚探索は大きなスケールで
実行される.しかし,最適なスケールでは,突発的な変化が起きた時,大きな特徴は小さ
な特徴に対して優位性がなくなる.スケールを変えると Saliency Map は異なる結果にな
19
第 3 章 効率的な線虫の検出
図 3.3: 閾値処理をした Saliency Map
る.視覚スケールは視覚センサーの能力に密接な関係がある.pre-attentive タスクでは,
不変要因をスケールの推定に採用することは妥当である.pre-attentive 画像での空間分解
能はきつく制限されている [5].人は精査する遅い処理を用いず,フーリエスペクトルの
高周波部分と一致する画像の詳細を把握しないようである.
3.3
Saliency Detection 結果を用いた高速な検出
Saliency Detection 結果を用いて,あらかじめレベルセット法での計算領域を削減する
ことにより,従来より高速な線虫検出を行う.
20
第4章
評価実験
本章では,提案手法の有効性を示すため,線虫を検出対象とした評価実験を行う.
4.1
データベース
図 4.1 に今回用いるデータベースの一部を示す.
図 4.1: 検出に用いるデータベース
21
第 4 章 評価実験
4.2
実験概要
提案手法とレベルセット法のみを用いた手法において,10 シーケンス,各 30 フレーム
(719 頭) に対して検出率,検出時間の比較を行う.検出成功は線虫の輪郭に沿って領域が
推定されていた場合とし,誤検出は線虫の存在しない領域が線虫として推定された状態,
未検出は線虫の輪郭に収束しなかった状態と,線虫のいる領域が検出されなかった状態と
する.
4.3
検出率の評価
線虫の検出率を表 4.1 に示し,図 4.2 に検出の成功例を示す.提案手法はレベルセット
法に比べ 71.9%と高い検出率が得られた.提案手法では,あらかじめ Saliency Detection
により大まかな領域を推定することで,背景の中でも線虫の存在する部分によく似た輝度
の領域を回避することができるため,その後のレベルセット法により物体領域の境界線が
収束し高い検出率が得られたといえる.
表 4.1: 線虫の検出率 [%]
検出
誤検出
未検出
レベルセット法
24.9
125.5
75.1
提案手法
86.8
0.3
13.2
図 4.3 に誤検出と未検出の例を示す.図 4.3(a) は画像上部に誤検出が発生している.こ
の誤検出は,Saliency Detection による推定領域では,隣接する線虫の領域とされたが,レ
ベルセット法を適用すると次第に線虫の領域から切り離され,誤検出となった.図 4.3(a)
の未検出は,Saliency Detection の段階で線虫の大まかな領域が推定できなかったため,
未検出となった.図 4.3(b) の未検出は,線虫とその周辺領域の輝度勾配が似ており,線虫
の形状に収束しないことが原因である.
4.3.1
処理時間の評価
線虫領域の境界線が収束するまでの時間を計測した結果を表 2 に示す.表 2 より提案手
法はレベルセット法のみの結果に対し,約 81%の処理時間を削減することができた.提案
22
4.3. 検出率の評価
図 4.2: 検出の成功例
誤検出
未検出
(a)誤検出+未検出1
(b)未検出2
図 4.3: 検出の失敗例
手法では Saliency Detection を用いて,あらかじめ線虫を検出する領域制限することで,
レベルセット法における計算コストを大幅に削減できたためである.
23
第 4 章 評価実験
表 4.2: 検出時間 [s]
24
提案手法
レベルセット法
Saliency Detection
0.3
-
レベルセット法
41.5
219.2
合計
41.8
219.2
おわりに
本論文では,Saliency Detection 結果を用いたレベルセット法による効率的な線虫の検出
方法を提案した.提案手法は,Saliency Detection によりあらかじめ大まかな線虫領域を
推定することで,レベルセット法と比べ,高速化と検出率の向上を実現した.今後は,検
出した線虫のトラッキングを用いた検出精度の向上について検討する予定である.
25
謝 辞
本研究を行うにあたり,終始懇切なご指導をいただきました中部大学工学部藤吉弘亘准教
授に謹んで深謝します.次に本研究を進めるにあたり,有意義な御助言,ご指導頂いた清
水 彰一氏,安藤 寛哲氏に心から厚くお礼を申し上げます.最後に,本研究においてアド
バイスや相談等に協力していただいた藤吉研究室の皆様に感謝いたします.
27
参考文献
[1] 三輪錠司, “虫のつくり方 1”, 科学第 56 巻, 岩波書店, pp68-77, 1986.
[2] H. Barlow, “Possible Principles Underlying the Transformation of Sensory Messages”,
Sensory Communication, pages 217-234, 1961.
[3] C. Koch and T. Poggio, “Predicting the VisualWorld: Silence is Golden”, Nature
Neuroscience, 2(1):9.10, 1999.
[4] J. Gluckman, “Order Whitening of Natural Images” Proc. CVPR, 2, 2005.
[5] A. van der Schaaf and J. van Hateren, “Modelling the Power Spectra of Natural
Images: Statistics and Information”, Vision Research, 36(17):2759.2770, 1996.
[6] D. Ruderman, “The Statistics of Natural Images”, Network: Computation in Neural
Systems, 5(4):517.548, 1994.
[7] D. Ruderman, “ Origins of scaling in natural images”, Vision Research,
37(23):3385.3395, 1997.
[8] A. Srivastava, A. Lee, E. Simoncelli, and S. Zhu, “On Advances in Statistical Modeling of Natural Images”, Journal of Mathematical Imaging and Vision, 18(1):17.33,
2003.
[9] A. Torralba and A. Oliva, “Depth Estimation from Image Structure” IEEE Transactions on Pattern Analysis and Ma- chine Intelligence, 24(9):1226.1238, 2002.
[10] A. Torralba and A. Oliva, “Statistics of Natural Image Categories”, Network: Computation in Neural Systems, 14(3):391.412, 2003.
29
参考文献
[11] A. Torralba, “Modeling Global Scene Factors in Attention”, Journal of the Optical
Society of America, 20(7):1407.1418, 2003.
[12] A. Oliva and A. Torralba, “Modeling the Shape of the Scene: A Holistic Representation of the Spatial Envelope”, Interna- tional Journal of Computer Vision,
42(3):145.175, 2001.
[13] J. Intriligator and P. Cavanagh, “The Spatial Resolution of Visual Attention”, Cognitive Psychology, 43(3):171.216, 2001.
[14] S. Osher and J. A. Sethian, “Fronts propagating with curvature dependent speed:
Algorithm based on Hamilton-Javobi formation”, Journal of Computational Physics,
Vol.79, pp. 12-49 (1988).
[15] V. I. Arnold, “Geometrical Methods in the Theory of Ordinary Differential Equations”, New York: Springer-Verlag, 1983.
[16] L. Evans, “Partial Differential Equations, Providence”, American Mathematical Society, 1998.
[17] B. Vemuri and Y. Chen, “Joint image registration and segmentation”, Geometric
Level Set Methods in Imaging, Vision, and Graphics, Springer, pp.251-269, 2003.
[18] S. Osher and R. Fedkiw, “Level Set Methods and Dynamic Implicit Surfaces”,
Springer-Verlag, New York, 2002.
[19] C. Li, C. Xu, C. Gui and M. D. Fox, “Level Set Evolution Without Re-initialization:
A New Variational Formulation”, CVPR, vol. 1, pp. 430-436, San Diego, 2005
30
Saliency Detection 結果を用いたレベルセット法による効率的な線虫検出
石野 将寛
(中部大学工学部情報工学科)
2010 年 3 月
Fly UP