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3.『日本語教育でつくる社会』要旨

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3.『日本語教育でつくる社会』要旨
3.
『日本語教育でつくる社会』要旨
日本語教育振興法法制化 WG 最終報告書
を重ねてきた。そのすべての機会において、ワーキンググループの複数のメンバーが文書の作成に関
わり、面談にも同席した。
なお、本ワーキンググループの今村と宮崎は、同時期に日本語教育学会内に開設された「看護・介
護の日本語教育」ワーキンググループにも参加し、両ワーキンググループ間の調整に努め、特に省庁
への働きかけにおいては、緊密な連携を図った。
2.5 マスメディアへの働きかけ、出版
朝日新聞、読売新聞、東京新聞などの大手新聞やブラジルのニッケイ新聞に働きかけて取材を受け
たが、記事に至ったものは多くない。一方、業界誌の『月刊日本語』には複数回、上記イベントの予
告や報告が掲載され、法制化関連の特集記事が 2 回組まれている。そのほか、2010 年 10 月には、ワ
ーキンググループで検討中の内容をまとめて単行本『日本語教育でつくる社会~わたしたちの見取り
図~』
(ココ出版)として刊行した。
3.
『日本語教育でつくる社会』要旨
はじめに
第1章
外国人と共に生きる社会
なぜ「日本語教育振興法」が必要なのか
第2章
地域日本語教育システム(1)コーディネーターと地域日本語教育専門家
第3章
地域日本語教育システム(2)地域日本語教育センター
第4章
日本語教育政策のマスタープランと国立日本語教育研究所
第5章
義務教育のあり方と日本語教育
第6章
言葉にかかわる権利を考える
第7章
日本人と日本社会に対する日本語教育の貢献
第8章
年少者(児童・生徒)に対する日本語教育
第9章
企業・大学・行政・地域をつなぐ日本語教育
教育基本法・教員免許制度
言語学習権(日本語・母語)
第 10 章 地域力を育む日本語学校
座談会
日本語教育には何ができるのか
第1章 外国人と共に生きる社会~なぜ「日本語教育振興法」が必要か
日本社会では、日本人と外国人が共に自らの生き甲斐を求めながら生活している。人は帰属する社会か
ら種々の支援を受けながら、自らも社会に参加、貢献し、それが評価されることで自己肯定感を得ることが
できる。この国に生活する外国人を含めすべての人々は、対等・平等に社会参加していると実感できるとき、
さらに社会のために尽力しようとするのではないだろうか。日本で社会参加をするためには、現状では日本
語という言語コミュニケーション能力が必要不可欠であり、外国人生活者にその学習の機会を保障すること
が重要である。そのための法律の制定が求められている。
日本社会は少子高齢化が進み、人口減少社会に突入しており、今後、生産年齢人口も急速に減少すると
されている。そのため、労働移民の受け入れについても議論され、ニューカマーも今では 180 万人にも上
っており、これらの人々の十全な社会参加に資するための制度、システムの整備は喫緊の課題となっている。
震災等の危機的情況では外国人住民も大人として自分や家族の生命・財産を守らなくてはならない。し
かし、日本語が不自由なことから情報弱者となり安全確保に困難を来すことがある。これを改善するために
は母語や「やさしい日本語」での情報の授受が必要だが、すべての外国人の母語に対応することは難しく、
日本語習得が不可欠である。現在これら外国人の日本語学習は多くが地域住民ボランティアに支えられてお
り、早急に外国人生活者に対する日本語教育専門家による日本語教育が保障される必要がある。
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『日本語教育でつくる社会』要旨
日本語教育振興法法制化 WG 最終報告書
一方、人格形成期にある子どもにとっては、母語や日本語等の習得がより重要な課題である。生後まも
なくから学校教育期間に至るまで、生活言語はもちろん学習言語の日本語習得が求められる。それによって
教科内容をしっかりと習得し、十全な社会参加を果たす能力を獲得してほしいと思う。また、それによって
本人にも日本社会にも利益がもたらされると考える。
これまでの移民の受け入れ政策の貧困を打破するために、今こそ移民と「共に生きる」社会をつくる決
断をする必要がある。国には、地域や学校などによって受け入れ対応にある格差を是正し、すべての外国人
移民等に自己実現を追求する権利を保障するとともに、この国のあり方に責任を果たしてもらうという政策
転換をしてほしい。
これらの実現のためには、制度の整備と併せて、日本語母語話者の意識を変えることが重要である。マ
ジョリティである日本人が既得権益の独占を放棄し、移民等のマイノリティも含めて対等・平等に再配分す
る方向に向かって努力する必要がある。そうしてこそ、外国人も自らを律し、この社会への貢献の志を深め
ることと思われる。日本人住民と外国人住民が互いに尊重し、信頼関係ができてはじめて、真の多文化共生
社会に近づくことができる。制度の整備の礎である日本語教育振興法(仮称)には、この精神が盛り込まれ
なくてはならないと考える。
第2章 地域日本語教育システム(1) 地域日本語教育専門家とコーディネーター
1990 年代から日系人や日本人との国際結婚移住者など、外国人住民が増加した。彼らが地域社会で支
障なく暮らしていくためには、日本語習得支援が最も必要かつ重要である。外国人住民の日本語習得支援は
「地域日本語教育」と呼ばれている。地域日本語教室では、日本語学習支援はもとより、国際交流や相談(健
康・医療、就労、法律等)など多様な活動が日常的に行われているが、それらはほぼ全面的に「日本語ボラ
ンティア」と呼ばれる人たちに頼っている。
しかしながら、日本語学習支援を行うにも国際交流や相談を行うにも専門的な素養が不可欠で、それら
をボランティアに頼っている状況は適切とは言えない。地域日本語教育を十全に機能させるためには 2 種
類の専門家が必要であり、その配置を提案する。
1 つは、外国人住民に対する本格的な日本語教育を行う「地域日本語教育専門家」である。地域日本語
教育では、大学や日本語学校での「学校型日本語教育」よりは、各地域の実状に応じて外国人住民の言語生
活を基盤とした日本語学習支援を目指す「社会型日本語教育」のほうが求められる。したがって、それに対
応できる日本語教育専門家が必要である。
もう 1 つは、地域日本語教育の多様な側面に対応し、
「企画・調整役」
「つなぎ役」としての役割を担う
「コーディネータ」である。
「コーディネータ」には大きく分けて 2 種類ある。1 つは「システム・コーデ
ィネータ」で、外国人を取り巻く生活支援システムの中での日本語教室の位置付けを考え、教室とその他の
生活支援機関を接続する役割を担う。たとえば、日本語教室で学習者から生活相談があった場合、その問題
の本質を見極め、解決を図れる他の専門関係機関につなぐ、などソーシャル・ワーカー的な役割も果たす。
もう 1 つは「日本語教育コーディネータ」で、地域日本語教育の現場で日本語教育専門家や日本語ボラン
ティアと協働して地域日本語プログラムを実施するまとめ役である。たとえば、日本語教育専門家による教
室活動をコーディネートし、ボランティアに日本語学習支援方法を助言する。また、これらの学習支援のみ
でなく、ボランティアや学習者などすべての教室参加者が快適に活動を行えるよう配慮し、参加者の異文化
対応能力やコミュニケーション能力を高める教室づくりやプログラムを考えることも重要な役割である。
このように、地域日本語教育専門家やコーディネータには、日本語教育の知識をはじめ、ファシリテー
ション力、ネットワーク力、課題の把握・分析・設定能力、情報の収集・編集・発信力、デザイン・プログ
ラム力、プレゼンテーション力などさまざまな能力が必要とされる。こうした人材の研修・養成・配置が喫
緊の課題である。ボランティアに頼るのではなく、コーディネータと地域日本語教育専門家を専門職として
日本語教育機関に正規に位置付けることが重要である。それによって、これらの仕事が正当に評価され、プ
ロとしての能力の向上が保障されることになり、ひいてはそれが地域日本語教育の質的向上につながる。外
国人住民の学習環境の充実と保障、そして地域日本語教育システムが維持される共生社会の構築には、コー
ディネータと地域日本語教育専門家の存在が欠かせない要件となる。
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『日本語教育でつくる社会』要旨
日本語教育振興法法制化 WG 最終報告書
第3章 地域日本語教育システム(2) 地域日本語教育センター
地域日本語教育体制を充実させるためには、その核となる「場」である「地域日本語教育センター」
(以
下、センターと呼ぶ)が必要である。
地域日本語教育システムにおいてセンターが果たす役割は 4 つある。1. 外国人への日本語学習支援、
2. 日本語教育(支援)関係者への支援、3. 外国人への情報提供および相談窓口、4. 地域交流・多文化教
育の場、である。
これらの「役割」は具体的には次のような「事業」によって遂行される。1、2 の役割を担う「日本語
学習支援センター」としての事業には、(1)外国人住民のための日本語教室、(2)親子の日本語教室&児童・
生徒向けのことばの教室、(3)企業と連携・協働した日本語教室の開設・運営、(4)地域日本語教育専門家の
養成研修、ブラッシュアップ講座の企画・実施、(5)日本語ボランティアと学習者の日本語交流、(6)中学生・
高校生等と外国人住民・日本語学習希望者との日本語交流、(7)外国人母親との交流の場の設置・運営、(8)
日本語交流員の養成研修、ブラッシュアップ講座、(9)地域日本語教育センターのネットワーク会議の設置・
運営、がある。これらの事業によって、多様な日本語学習の機会や交流の場の提供、それらを支える地域日
本語教育専門家や日本語ボランティア等の人材の育成、外国人住民への情報発信やネットワーク構築、セン
ターの持続・発展と関係者のネットワーク構築、等の効果が期待できる。
3 の「相談業務や相談体制の充実」へ向けた事業には、(1)役所(自治体)との連携・協働による相談、(2)
専門相談員による多言語での対応、(3)地域在住外国人住民による相談、(4)外国人母子保健相談、入園・入
学前健康相談、(5)子どもの教育に関する多言語対応相談、がある。これらの事業によって、外国人に対す
る多言語相談体制や関係機関の連携・協働の拡充、通信システムによる効率的な相談体制導入の可能性が探
れる。
4 の「地域づくり」の事例としては、ある町の交流団体が外国人の悩みを調査し、そのニーズから日本
語教室を立ち上げ、外国人と日本人が日本語学習のみならず「ごみ分別ルール」の看板作りから設置までを
協働して行い、仲介したというケースがある。このように人と人をつなぎ、協働を支え、地域づくりを進め
るのがまさにセンターの役割である。
これらの役割を担うセンターの構築は、システム・コーディネータ、日本語教育コーディネータと地域
日本語教育専門家の育成・確保、支援者研修プログラムや日本語教室の充実、関係機関・関係者のネットワ
ークの構築などと補完関係にあり、セットになった課題である。
予算上の問題は大きいが、センター構築に向けた場所の確保には、学校の空き教室等の活用も含めてさ
まざまな工夫ができる。現時点では、ここで述べたセンターに近い存在は残念ながらまだほとんどないが、
将来は、各都道府県や外国人集住地域に少なくとも一つずつの地域日本語教育センターが必要である。まず
は、全国の政令指定都市を中心とした 7~10 の地域で、ここで述べた機能や役割を有する地域日本語教育
センターを構築することを提案する。
第4章 日本語教育政策のマスタープランと国立日本語教育研究所
現在、日本語教育を一手に引き受ける専門の官庁、部署は存在せず、以下のように、対象ごとに担当す
る官庁は違い、法律も未整備である。
・地域の外国人住民は文化庁、自治体、総務省
・学齢期外国人児童生徒と大学の一般留学生は文部科学省
・外国人技術研修生、高度人材資金構想で受け入れる留学生は経済産業省
・日系ブラジル人の再雇用対策としての日本語教育は厚生労働省、総務省、自治体
・経済連携協定(EPA)で来日した看護師・介護福祉士候補者に対する日本語教育は経済産業省、
外務省、厚生労働省
・海外の日本語教育は外務省
このような状況下、全体を調整・統括する仕組みとしての司令塔が存在しないかぎり、包括的で整合性
のある政策を打ち出すことは困難である。そのため、緊急事態が起こるたびに対症療法的な手立てを打つ
ことが日本語教育政策では常態化している。
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日本語教育振興法法制化 WG 最終報告書
事前に問題の発生を予測し、それを防ぐ手立てを打ったり、問題の発生に備えた体制を整備したりす
るためには、日本語教育のさまざまな分野に目を配り、長期的な視野に立った政策の裏付けとなる「日本
語教育政策のマスタープラン」が必要である。日本語教育政策について国が基本的な理念や方針を決めれ
ば、日本語教育政策を専門に扱う政府機関の設置が可能になる。
ただ、そうした役所ができても、それだけで具体性のあるマスタープランがすぐ立案できるわけでは
ない。日本語教育の現状を把握し、分析し、課題をあぶり出し、解決法を見つけ出す必要がある。その際、
日本語教育のさまざまな分野を長期にわたって総合的に調査研究し、データを蓄積し、広い視野に立った
政策を提案できる公的なシンクタンクが欠かせない。
2009 年 9 月まで国のシンクタンク機能を果たしつつあった独立行政法人国立国語研究所の旧「日本
語教育基盤情報センター」は、同年 10 月に廃止・移管され、現在は以前の機能を大きく縮減されている。
となれば、新たに国立日本語教育研究所の設立を考えなくてはならない。国立日本語教育研究所に求めら
れる主な機能は以下のようにまとめられる。
(1) 日本語教育や日本語使用に関する長期的で大規模な実態調査
(2) 実態調査に基づいた研究開発
(3) 実態調査と研究開発で得られた資料をもとにしたデータベースの構築・保守・公開
(4) (1)、(2)、(3)を支える理論研究
(5) 個々の日本語教育施策や包括的な日本語教育政策の立案に資する情報と論点の提供
(6) (5)を支える言語政策研究
(7) 日本語教育研究、政策研究に関わる人的ネットワークの構築
(8) 人的ネットワークに裏打ちされた研究コーディネートと政策コーディネート
第5章 義務教育のあり方と日本語教育
教育基本法・教員免許制度
教育基本法は 2006 年の 12 月に改正された。そこには、これまでの教育基本法が「過剰な個人主義」
や「公共」についての過小評価を招いたとして、これを是正しようとする思いが込められている。また、
環境や経済、情報だけでなく人の移動という意味で国際社会の相互依存性が高まった時代を背景に、日本
社会の変化にも対応することが必要としてこの改正がなされている。この改正教育基本法の「前文」には
「公共の精神を尊び、豊かな人間性と創造性を備えた人間の育成を期する」とある。日本語教育は、公共
精神の下、国語・外国語教育をはじめ、あらゆる教科目の教育活動の基幹となる、公共的言語の教育を行
っている。
日本語教育は、日本語を媒介として他者との対話を実現し、新しい自分との出会いや新たな世界との
対話を可能にする協同学習である。自分自身と他者との違いは「他者と共に生きる」ための学びの対象と
なる。
「特別支援教育領域」を含み、学校教育法第一条が定める幼稚園、小学校、中学校、高等学校の「教
育職員」を養成する「教職課程」のカリキュラムに、日本語教育学を取り入れることの意味は大きい。外
国人にだけでなく、むしろ日本人にとって、人間同士が「共に生きる」ことへの理解を深め、その理解を
基盤に自らの成長を育む力を身につける。<共生力>育成の重要性は今後さらにその重みを増す。次代を
築く<共生力>の育成は、日本語教育が、日本人/日本社会に貢献できる最も大きな役割のひとつである。
「21 世紀を生きる子どもたちの教育の充実を図る」ことを目的に改訂された新「学習指導要領」は、
「海外から帰国した児童や外国人の児童の指導」の一項が設けられ、
「外国での生活や外国の文化に触れ
た体験を、本人の各教科等の学習に生かすようにするとともに、他の児童の学習にも生かすようにするこ
とが大切である」と記している。また、
「言語に関する関心や理解を深め、言語に関する能力の育成を図
る上で必要な言語環境を整え、児童の言語活動を充実すること」とも記している。
2010 年4月1日現在、日本国内 28 都市(2001 年第1回会議開催時 13 都市)が加盟する外国人集住
都市会議は、2009 年 11 月に「緊急提言」を発表した。そこでは特に、
「外国人の子どもの就学の義務化」
や「外国人の子どもを受け入れる公立学校への十分な人的・財政的措置」と「外国人学校の法的位置づけの
明確化」が唱えられている。1989 年 3 月 25 日の第4回ユネスコ国際成人教育会議で採択されたユネス
コ学習権宣言は、
「学習権は、人間の生存にとって不可欠な手段である」と説いている。基本理念のもつ意
味を、今、吟味する必要がある。
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日本語教育振興法法制化 WG 最終報告書
2008 年 6 月の改正教育職員免許法の成立によって、2009 年 4 月より導入された教員免許更新制
度は、教員として必要な資質能力が時代の変化に対応して保持されるよう、定期的に最新の知識技能を身
に付ける加算的なものとして捉えるべきである。教員養成のあり方も含め日本国内の教育改革は、人間の
異質性を尊重する多文化共生社会の実現にも焦点を合わせ再編成される必要がある。現在の教免講習更新
制度は、
「学問」重視の大学側と、
「現場対応」重視の教員側のニーズのずれが顕著化している。
「第二言語としての日本語(JSL)」の習得を必要とする児童生徒に対する日本語の学習権の保障は、基
本的人権に直結する課題である。公教育に関わる教員全員が、日本語教員のもつ資質・能力を習得する必
要がある。「日本語がわからない子どもたち」の教育問題は、帰国子女が抱える問題を含め、日本社会全
体で取り組むべき緊急の課題である。
教員免許状(とくに小学校教員課程)のなかに、第二言語としての「日本語教育学」科目の単位取得
を義務付けて、具体的な職業として社会的要請に対応できる日本語教員像(資質・能力と待遇)の確立は急
務である。この日本語教員の社会的地位の確立抜きで、日本の「21 世紀を生きる子どもたちの教育の充
実を図る」ことは不可能であろう。
第6章 言葉にかかわる権利を考える 言語学習権(日本語・母語)
真の共生を目指すのならば、外国人にも日本人とともによりよい社会を築くパートナーとなってもら
う必要がある。そのためには、生活者としての権利である行政サービスが日本人と同様に受けられ、十全
な社会参加が保障されるべきであろう。
しかし、住民税を徴収されながら外国人には地方参政権も義務教育の機会も与えられていない。また、
生活面でも就労面でもいまだに外国人に対する差別があるという話を聞く。それに、日本語が完全とはい
えない多くの外国人は、言語の壁によって社会参加を阻まれている。
言語権には、自らの母語を継承し、使用する権利と、当該地域の公用語を学習、習得する権利がある。
近年、一部、多言語で行政サービスを行う自治体も増えているとはいえ、学校で母語を習得する機会
はほとんど保障されていない。旧植民地出身者とその子孫である「在日」といわれる人々には、朝鮮・韓
国語が不自由な人が多いといわれる。親戚等とのコミュニケーションができないだけではなく、祖国との
つながりがうすれる一方、日本社会では日本人と対等・平等な扱いが受けられない場合もある。そのため
アイデンティティの揺らぎを感じている人も少なくない。日本社会は、彼らが2つの言語と文化を持った
存在として、朝鮮半島との架け橋となって活躍できるよう母語や母文化の学習機会を提供すべきではない
だろうか。そうすることによって、彼らの能力は、本人はもちろん日本社会や国際社会にとっても貴重な
財産となる。現在でも、ニューカマーの外国人には、親たちは日本語の習得が不十分で、子どもたちは母
語を忘れていくなど、親子間の意思疎通に困難を感じている人がいる。母語・母文化を親から子へ受け継
いでいけるように、一刻も早く母語・継承語教育を制度として導入すべきである。
一方、主流言語である日本語を学ぶ権利も、母語学習よりは考慮されているとはいえ、公的な施策が
十分とはいえない。日本語を学べるのは高額な授業料を払わなければならない日本語学校か、ほとんど費
用はかからないかわりにボランティアなどが教えている日本語教室くらいしかない。公的な日本語教育機
関は、いわゆる「夜間中学」や中国とサハリンからの引揚者が対象の中国帰国者定着促進センター、難民
対象のRHQ支援センターくらいで、一般の外国人が学習できる場はほとんどない。ヨーロッパの国々で
は、社会統合政策の中に「統合コース」といって、移民が英語、ドイツ語、オランダ語等当該国の主流言
語について一定の能力を身につけるための仕組みがある。
外国人の日本語習得を保障するには、地域日本語教育に関する専門能力を持った教員を育成し、入国
直後の集中的言語学習の機会を提供することが不可欠であろう。併せて、ボランティアによる日本語教室
も、相互理解を促進する生涯学習の場としてこれまで以上に規模を拡大し継続していくべきである。そこ
で養われる相互理解こそ外国人が地域社会の構成員として認められ、貢献していくための契機となるはず
である。そのためには専門のコーディネータを配置し、日本人と外国人がともに「学び」を創り上げてい
ける環境を作るべきだと考える。
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『日本語教育でつくる社会』要旨
日本語教育振興法法制化 WG 最終報告書
政府は 2007 年7月に文化審議会国語分科会に日本語教育小委員会を設置した。翌年1月に発表され
た報告には、地域日本語教育のための国の予算措置、正規の公務員等の資格をもったコーディネータの設
置等、公的な日本語学習保障に向けた条件整備が提言されている。しかし、文化庁の事業ではようやく
2010 年度から地域日本語教育コーディネータ研修が始まったばかりで、この報告に基づいた予算措置は
いまだ十分とはいえない。
第7章 日本人と日本社会に対する日本語教育の貢献
日本語教育は外国人学習者の日本語能力を高めることによって、在住外国人が多様な職業に就いて日
本社会の国際化と活性化を促進することに貢献し得る。学習言語能力の育成が不十分なために不就学にな
っている外国人子女に十分な日本語能力育成の機会を保障すること、および近年の看護・介護福祉士候補
者に対する日本語能力養成は喫緊の課題である。また、海外における日本語教育が日本語学習者の日本語
力を高めることによって海外の知日派が増えることは、日本の外交面での安全保障にも通じている。
教育実践においてたえず異文化間コミュニケーションにさらされている日本語教育者は、日本語を客
観的・総体的にとらえており、コミュニケーション能力の養成を基盤とした総合的・実践的な授業力を有
している。この特長は、大学における日本人学生を対象とした「日本語表現法」クラスで日本語教育者が
数多く活躍している点にも現れている。
外国人児童生徒の学習言語能力を育成するためには、初等中等教育担当教員に日本語教育の素養が必
要である。日本語教育の素養をそなえた教員のクラス運営によって、外国人児童生徒と日本人児童生徒の
間の異文化間コミュニケーションが活性化する。
在住外国人に日本語を教える地域日本語教室では、日本語を媒介とした外国人との交流活動が行われ
ている。そこでは、日本語教育の経験と知識が日本語ボランティアの人たちの異文化間コミュニケーショ
ン力に生かされているといえる。
日本語教育は、日本語はもとより英語を含めた世界の諸言語を相対化し、かつ、通時的にも共時的に
も、日本語自体がもつ多様性への認識を深化させる。さらに、日本語教育は、日本人がもつべき国際標準
の「学力」の獲得に貢献できる実践力をもっている。
学びにおいて大切なことは、まず、他者の声に耳を澄まし、自分と異なった考えと向かい合い、他者
との共感を発達させる対話的コミュニケーションをもつことである。その面で経験と知見を蓄積してきた
日本語教育は「人間が共に生きる力」の育成に貢献できる。
2006 年 12 月に成立した「観光立国推進基本法」
。観光事業の推進は、日本の成長戦略の大きな柱で
ある。日本政府は、
「世界に開かれた国」として、外国の人々が「訪れたい」
「学びたい」
「働きたい」
、そ
して「住みたい」日本となる必要性を説く。さらに、
「異なる文化価値を尊重する」文化交流が展開され
れば、世界における安全保障に大きく貢献するとも指摘している。世界の人々との交流による地域社会の
活性化と発展。それら施策や活動の推進役として日本語教育が担うことのできる役割はきわめて大きい。
第8章 年少者(児童・生徒)に対する日本語教育
多くの言語には、具体的な概念の伝達に使用されるものと抽象的な概念の伝達に使用されるものとが
ある。前者は「生活言語」といわれ、実際の行動や実際にある物、人の感覚、感情などを表現する。一方、
後者は「学習言語」といわれ、多くの場合抽象的概念を表したり、抽象的な物事を考える概念操作に使わ
れ、小学校に入学して教科の内容を学ぶ過程で習得すると考えられている。例えば、買物では「全部でい
くら?」と聞くが、算数の文章題では「合わせて何円ですか」という表現になる。学習言語の習得と教科
学習内容の理解は一体の関係にある。
多くの国々は子どもに教育を受けさせることを社会や大人側の義務としている。それは、子どもが十
分なリテラシーと知的能力を身に付けることによって、将来十全な社会参加を果たすことができ、それに
よって社会への貢献が期待できるからである。日本政府は、締約国となっている複数の国際人権法に従っ
て、国籍のいかんにかかわらず、すべての子どもを義務教育対象者とし、日本の公教育あるいは外国人学
校等で適切な教育を保障すべきである。そして、児童・生徒に必要な日本語教育を行うことが求められる。
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『日本語教育でつくる社会』要旨
日本語教育振興法法制化 WG 最終報告書
子どもの言語習得過程は、子どもの人間形成に大きな影響を与える。それ故に、もし家族、学校、地
域、行政等が適切かつ十分な責任を果たせない場合、その言語環境の下で育った外国につながる子どもた
ち(外国籍、あるいは外国にルーツを持つ子ども)は、ダブルリミテッド(両方の言葉が年齢相応に発達
しておらず、特に、抽象的な思考が十分にできない状況)になってしまう可能性が高くなる。子どもの人
間形成を支える役割を担っている家族、学校、地域、行政等は、子どもの言語発達に対して目に見えない
大きな責任を負っているのである。
子どもの健全な人間形成を視野に入れつつ、母語にも配慮した施策や政策を展開しようとするなら、日
頃の子どもたちの言語生活の充実を意識した言語教育実践の展開を支える、総合的で俯瞰的な(対症療法的
ではない)政策の構築が必要になる。たとえば、バイリンガルを意識した育成を図っていくためには、いわ
ゆる移民受け入れ先進国(スウェーデン、英国、豪州、米国等)の試行錯誤を参照しながら、子ども自身が、
彼らの根っこである母語・母文化のアイデンティティや自尊感情を受容・確認しながら、言語生活を送れる
ような環境の整備が必要である。そのためには、家族、地域、関連機関の連携・協働を強化できるような教
育システムを構築し、持続していけるような「総合的言語教育政策」の確立が不可欠であろう。
第9章 企業・大学・行政・地域をつなぐ日本語教育
外国人住民、地域日本人住民、大学、自治体間で、課題への取り組みに対する認識にズレがあり、豊
かな多文化共生社会の創出につながっていない現状を踏まえ、就労の領域を代表とする「産業」
、教育・
研究を代表とする「大学」
、行政領域を代表とする「官」
、そして、住民の生活領域を代表とする「地域」
の間には、強固な組織連携と地域連携の複合的「産・学・官・地」協働連携が必要である。
そうした連携を推進する上で必要な支援として、
「住む」領域では、在住外国人と地域の日本人住民と
の交流促進や、在住外国人の住宅の確保に係る支援、
「働く」領域では、在住外国人の適正な雇用環境の
確保、そして、
「学ぶ/育てる」領域では、在住外国人およびその子どもに対する日本語教育の提供等が
考えられる。外国人の日本語習得が、常に日本語教師の管理によって問題解決しているわけではなく、日
本語教育を主業務としない関係者に対して、日本語教育関係者は、どのような支援ができるかという問題
提起も浮かび上がってくる。
具体的には、戦争や経済的理由で義務教育を受けられなかった日本人の中高齢者や元不登校者などの
他に、中国帰国者とその家族、さらには、在日韓国・朝鮮人、ニューカマーなどが在籍する夜間中学校で
の日本語教育、EPA(Economic Partnership Agreement:経済連携協定)の就労・就学コースで来
日したインドネシア・フィリピンの看護師・介護福祉士候補者に対する日本語教育、さらには、刑務所に
服役している触法外国人受刑者に対する矯正教育からも考えるべき課題があるだろう。
第二言語話者が異文化適応のプロセスの中で経験するさまざまな問題は、単に「ことばの問題」とし
て捉えるのではなく、自己や社会を成長させる公共的教養の点から考える、市民リテラシーの態度を醸成
させることにもつながる。
第 10 章 地域力を育む日本語学校
これまで日本語学校に関しては「予備教育機関」としての役割が強調されてきた。しかし、実際には
日本語学校では、留学生だけではなく、さまざまな国・地域から来たビジネスマン、定住外国人配偶者、
語学研修生などが学んでおり、まさに「多言語多文化共生の場」であるといえる。また、地域社会に密着
した存在であることも日本語学校の大きな特徴の一つである。
日本語学校の「多文化共生社会づくり」における貢献に関しては、次の3つの<場>がある。
(1) 日本語教育を行う専門家集団としての日本語学校は、定住外国人・定住外国人子弟に対して、豊か
で有効な<日本語学習の場>を提供することができる。また、<進路選択支援の場>として機能する
ことができる。
(2) さまざまな国・地域から来た外国人が学ぶ日本語学校は、日本人にとって多文化社会に不可欠な柔
軟性・寛容性の高い意識・感覚を身につけることができ、<日本人自身の学びの場>として機能する
ことができる。
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4.法案骨子の論点整理
日本語教育振興法法制化 WG 最終報告書
(3) 日本語学校は、日本人と外国の人々が日本社会において共生、協働し、住みやすい地域社会を築き
あげるための<共に学び合う場>を提供することができる。
さらに、地域力アップにつながることとして、以下の3点で日本語学校の貢献が期待できる。
(1) 日本語教育は市民・住民が互いに“ケア”し合う「コミュニティケア」の精神を定住外国人/日本
人の双方に対して育む。
(2) 地域の日本語教育は地域社会の発展に貢献する市民の育成に寄与する。また、定型教育(公教育)
と非定型教育(地域産業の人材育成・生涯学習)との橋渡し役を担う。
(3) 日本語教育は、地域社会の安定と活性化につながる。
現在、日本語学校のあり方や留学生受入れ問題についてさまざまな議論が繰り広げられている。その
解決には「日本語教育の現場で起こっている問題点」を分析・検討し、
「日本語教育政策のマスタープラ
ンの作成」に向けてオールジャパンで臨むことが求められている。地域社会に密着した日本語学校という
たくさんの<点>がマスタープランによって<線>となり、さまざまな人々の力によって<面>となって
いくことが「地域社会にある日本語学校」の願いであり、
「多言語多文化社会づくり」には不可欠なこと
と言える。
最後に、3つの提言を述べる。
(1) 省庁横断的な日本語教育関連の部署を創り、日本語学校も含めた包括的なプランづくりを進める。
(2) 地域に日本語教育専門家を派遣するなどの業務に関して、地域にある日本語教育を実施する機関と
綿密に連絡を取る。
(3) 日本語教育を実施する機関に財政支援を行う。そのために評価基準を明確化し、全体を把握できる
システムづくりを行う。
4.法案骨子の論点整理
日本語教育の様々な分野にわたるニーズを満たし、日本語教育政策を総合的に振興することを考える
ならば、そこで必要とされる法案骨子は多岐にわたる。しかし、それらすべての骨子項目を一つの法律
に盛り込むことはできない。日本語教育政策のマスタープランの根拠となる基本法、個々の日本語教育
施策を支える個別法を起草したり、既存法の一部を修正する改正案を作ったり、さらには地方自治体の
条例を実現するなどを考える必要がある。
表2では、そうした趣旨から、ワーキンググループで検討した項目の仕分けを試みた。法律と条例の
どちらがふさわしいか、法律だとした場合、基本法と個別法のどちらに盛り込むべきか、条例の場合も、
基本条例がいいのか個別条例がふさわしいのか、といった観点から、各項目を分類した。いくつかのも
のは、基本法などで全国共通のナショナルミニマムを規定した上で、それぞれの自治体の事情に合わせ
て条例を作り、さらに具体的には、自治体の長が定める規則で対応することが賢明な場合もある。反対
に、各地で条例を作り、そうした実績を積み上げたのちに国レベルの法律を作る方が賢明である場合も
あるかもしれない。
同表には区分の特定がしやすい項目だけでなく、複数のアプローチが考えられるものがあるほか、文
面、区分、扱いなどに疑問符がつき、見極めがつかないものまで、敢えて一部残してある。
なお、検討が不十分なために表中では記載されていないが、項目によっては、新たな法令がなくても、
現行法の枠内で、省令や政令のレベルでの対応ですむ項目もあるかもしれない。
今後は、基本法や基本条例の雛型を整備することが急務である。そのうえで、状況により、それぞれ
の地域や国政レベルで、骨子項目の実現へ向けた道筋にどのような選択肢がありうるのか、その判断を
支援するようなシミュレーションを複数準備することが有益であろう。
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