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第 1 章 会社総則

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第 1 章 会社総則
第1章 会社総則
第1章
会社総則
第1節 会社とは何か
・会社法を学ぶ準備として,会社とは何かを確認しておく。
・試験で直接問われることはないが,会社法を学習する基礎として重要
である。
1 会社の性質
会社とは,営利社団法人である。つまり,営利性と社団性を持つ法人という
ことである。この「営利性」「社団性」「法人」という会社の基本性質について
簡単にみていこう。
⑴ 営利性
営利性とは,お金儲けをすることを目的としているということであるが,
会社の場合,儲けた利益を出資をした者に分配するという意味を含んでいる。
株主が配当を受け取ったり,株価の上昇によって利益を得たりするのは,会
社が営利性を持っているからである。剰余金の配当や残余財産の分配が認め
られていない一般社団法人とは,この点において異なる。
なお,会社が営利を直接の目的としない行為をすることは基本的に問題な
く,慈善活動や寄付などを行っている企業は現実にたくさん存在している。
⑵ 社団性
社団性とは,人が集まることによって成立しているということである。財
産の集まりである財団ではないということで,財団法人は会社にはなれない。
なお,人が集まるといっても,会社法上の会社では,合資会社を除き,1名
のみで会社を設立し,成立・維持させることが可能である。
⑶ 法人性
法人については,主として民法の範囲であり,ここでは詳しく触れない。
会社は法人であるので,権利義務の主体となり,大規模で永続的な事業を営
むことが可能になっている。法人ではなく自然人が営業を営むことももちろ
ん可能であるが,会社以外の商人については,商法総則・商行為法で詳しく
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第1節 会社とは何か
学ぶことになる。
2 会社の種類
会社法上の会社には,株式会社,合名会社,合資会社,合同会社の四つがあ
る。このうち,合名会社,合資会社,合同会社の三つは,持分会社と総称され
る。
株式会社
合名会社
持分会社
合資会社
合同会社
➡ この四つの会社の種類の詳細な違いについては,後の章で詳しく学ぶ。
用語解説
【会社】
株式会社,合名会社,合資会社又は合同会社をいう(会§2①)。
外国会社は,会社法上の会社に含まれない。
会社法上の会社以外の会社(保険業法に基づく相互会社など)も含めて「会
社」とよばれることもあるが,本書では,単に「会社」というときは,会社法
上の会社をさすものとする。
3 社 員
会社に出資し,会社を構成する者を社員という。法律用語としての「社員」は,
会社に雇用されて勤務する会社員(「従業員」「使用人」ともよばれる。)とは
異なり,会社に出勤したり,会社から給料を貰ったりはしない。
会社の社員は,自然人に限られない。他の会社や法人も,会社に出資し,社
員となることができる。
4
4
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株式会社の株主も社員の一種であるが,本書では,単に「社員」というとき
は,持分会社の社員のみをさすこととし,株主は含まないものとする。
4 法人格否認の法理
会社は法人であるから,権利義務の主体となることができ,その社員や株主
とは独立して権利を有し,義務を負う。つまり,会社が負担する債務と社員や
株主が負担する債務は明確に区別される。
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第1章 会社総則
しかし,会社が実質的に個人の所有であり,会社とその社員や株主を明確に
区別することが不当な結果を招く場合など,法人と社員との分離原則が濫用さ
れる場合には,法人格を否認し,会社とその社員や株主を同一視することが判
例上認められている(最判昭44.2.27)。法人格が否認される結果,社員や株主は,
会社名義でなされた行為について,直接責任を負うことになる。
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第2節 会社に共通する構成要素
第2節 会社に共通する構成要素
・会社に共通する構成要素を把握する。
・支配人とは何かを理解する。
1 商 号
(商号)
第6条 会社は,その名称を商号とする。
2 会社は,株式会社,合名会社,合資会社又は合同会社の種類に従い,それ
ぞれその商号中に株式会社,合名会社,合資会社又は合同会社という文字を
用いなければならない。
3 会社は,その商号中に,他の種類の会社であると誤認されるおそれのある
文字を用いてはならない。
自然人の氏名にあたるものが会社の商号であり,会社を特定するために用い
られる要素の一つである。ただし,同姓同名の自然人が存在するように,同一
の商号の会社が存在することもあるので,商号だけで完全に会社を特定するこ
とはできない。
株式会社は,その商号中に「株式会社」という文字を用いなければならない。
また,逆に株式会社でない会社は,その商号中に「株式会社」という文字を
用いることができない。他の種類の会社についても同様である。
「株式会社」という文字も含めて商号であるから,「早稲田商事株式会社」と
いう商号と「早稲田商事合名会社」という商号は別個の商号になる。また,「株
式会社」の文字は,商号中のどの位置に用いてもよく,「早稲田商事株式会社」
と「株式会社早稲田商事」も別個の商号である。さらに,「株式会社」の文字
を商号の真ん中に用いることも許容されている。
商号は,法人である会社を特定するためのものであるから,1個の会社が複
数の商号を用いることは認められない(商号単一の原則)。自然人の戸籍上の
氏名が1個に限られていることと同じである。
不正の目的で,他の会社であると誤認されるおそれのある商号を使用するこ
とは許されない(会§8Ⅰ)。したがって,大企業と似たような商号を勝手に
用いて不当に利益を得ることは許されない。このことは,不正競争防止法など
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第1章 会社総則
によっても解決されている。
商号は,法人を特定するものであると同時に,一種のブランドであり,商号
それ自体に財産的価値が認められ(商号権),譲渡の対象にもなる。
2 本 店
(住所)
第4条 会社の住所は,その本店の所在地にあるものとする。
会社の本店は,自然人の住所に該当する。商号とともに,会社を特定するた
めに用いられる。
特に不動産登記などにおいては,商号と本店の所在場所によって会社が特定
される。そのため,商号と本店の所在場所が同一の会社の登記を認めないこと
として(商登§27),混乱が起きないようにされている。
➡ 同一の本店の所在場所における同一の商号の使用の禁止については,商業
登記法であらためて学ぶ。
3 支 店
会社は,本店のほかに支店を設けることができる。本店から独立してある程
度の事業を行うことができないと,支店とは認められない。
4 支配人
(支配人)
第10条 会社(中略)は,支配人を選任し,その本店又は支店において,その
事業を行わせることができる
(支配人の代理権)
第11条 支配人は,会社に代わってその事業に関する一切の裁判上又は裁判外
の行為をする権限を有する。
2 支配人は,他の使用人を選任し,又は解任することができる。
3 支配人の代理権に加えた制限は,善意の第三者に対抗することができない。
特定の本店・支店の事業について一切の代理権を与えられた者が支配人であ
H18─31
る。具体的な業務を行う者であるから,支配人は自然人に限られると考えてよ
いだろう。
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第2節 会社に共通する構成要素
支配人は,通常,会社と雇用関係にある者であり,支配人は使用人である。
プラス
アルファ
会社法中,いくつかの場所で「支配人その他の使用人」という表現が使わ
れている。この表現は,支配人が使用人に含まれることを前提としている。
4
4
4
4
一般に,法律上の「Aその他のB」という表現は,Bに含まれるもののう
ち代表的なものとしてAを例示しているのであり,AはBに含まれるものの
一つである。
4
4
4
一方,
「A,Bその他C」という表現は,AとBとCが並べられているの
であって,BはCに含まれない。
➡ 民事訴訟法3条の2が典型的な例。
支配人の代理権は,その置かれた本店・支店の事業の全部に及ぶ。また,裁
判外の行為だけでなく,裁判上の行為についても代理することができる。つま
り,
その権限の範囲が特定の本店・支店に限られているということを除いては,
ほとんど会社の代表者に近い権限を持っているといえる。
➡ 代表者についての規定と比較すると理解が深まる。
外国会社や会社以外の商人も支配人を置くことができ,商法にも同様の規定
が置かれている(商§20~24)。
(支配人の競業の禁止)
第12条 支配人は,会社の許可を受けなければ,次に掲げる行為をしてはなら
ない。
一 自ら営業を行うこと。
二 自己又は第三者のために会社の事業の部類に属する取引をすること。
三 他の会社又は商人(中略)の使用人となること。
四 他の会社の取締役,執行役又は業務を執行する社員となること。
2 支配人が前項の規定に違反して同項第2号に掲げる行為をしたときは,当
該行為によって支配人又は第三者が得た利益の額は,会社に生じた損害の額
と推定する。
支配人は非常に広範な権限を持つため,その職務に専念することが要求され, H24─35
自分自身が営業を行ったり,他の会社のために職務を行ったりすることが禁止
されている。
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第1章 会社総則
また,会社にとって不利益となる行為をされては困るので,会社の事業と競
合する事業(競業)を行うことも禁止されている。
重 要
使用人や取締役,執行役,業務を執行する社員となることが禁止される「他の
H18─31
会社」は,競業を行う会社に限られない。つまり,どのような会社であっても対
象となる。
(表見支配人)
第13条 会社の本店又は支店の事業の主任者であることを示す名称を付した使
用人は,当該本店又は支店の事業に関し,一切の裁判外の行為をする権限を
有するものとみなす。ただし,相手方が悪意であったときは,この限りでない。
支配人は,非常に広範な権限を持つため,本当は支配人ではない者を支配人
と思い込んで取引してしまった相手方をある程度保護する必要がある。
➡ 民法その他の法律でもおなじみの権利外観法理の一種。
一般的に,会社法・商法の扱う分野では,頻繁で定型的な取引が想定されて
いるため,民法よりも外観に対する保護が厚い。
支配人ではないのに支配人であるかのような外観を持つ者を表見支配人とよ
び,相手方が悪意である場合(支配人でないことを知っていた場合)を除き,
相手方の信頼が保護される。
重 要
表見支配人が有するものとみなされる権限は,一切の裁判外の行為であって,
裁判上の行為をする権限については,有するものとみなされない。
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第1節 株式会社とは何か
第2章
株式会社
第1節 株式会社とは何か
・株式会社の概要を把握する。
・株式会社をめぐる登場人物と,その性格を理解する。
1 株式会社の概要
株式会社は,日常生活の中で最も頻繁に目にする会社であり,いわゆる上場
企業は基本的に株式会社である。また,大企業ばかりでなく,中小企業,零細
企業の多くも株式会社であったりする。株式会社がこれだけたくさんあるのは,
それだけ株式会社という制度にメリットがあるからだろう。
ケーススタディ
Aは,画期的なビジネスのアイデアを思いついた。「これは絶対儲かる!」
と確信したAであるが,悲しいことにそのアイデアを実現する資金がない。
また,担保になるような資産もない。
Aが自分でこのビジネスを行い,アイデアを実現するにはどのような方法
があるだろうか。
解決策は無限にあるだろうが,その一つとして,出資者を集め,株式会社を
設立することが挙げられる。
Aのアイデアを評価し,このビジネスが儲かることに同意した人は,Aの設
立する株式会社に出資して株主となればよい。株主は,Aのビジネスが成功す
れば,配当を受け取ったり,株式を売却したりして出資した資金を回収するこ
とができる。Aのビジネスが失敗したとしても,その損害は最初に出資した財
産に限るので,リスクは制限される。
一方,Aは,株主からの出資が得られれば,お金を借りることなく資金を集
め,ビジネスを行うことができる。借金ではないから,返済を迫られることは
ない。
……このように書くと,いいことずくめのようであるが,世の中そんなに甘
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第2章 株式会社
くはない。これだけでは,出資した株主が不利すぎるのである。株主は,直接
出資した財産を回収できず,株式会社が利益を上げてくれないと困るのである
から,Aが真面目に株式会社の利益のために動いてくれるようにAをコントロ
ールしなければならない。場合によっては,Aに替えてもっと有能な人材に任
せることも可能であった方がいい。また,Aが私腹を肥やさないように監視す
ることも必要だろう。そういったことが制度的に保障されていなければ,Aの
ビジネスに出資する人は現れない。
株式会社をめぐる人間関係の基本は,株式会社に出資する株主と,実際に株
式会社を経営する経営者との関係である。そこに,経営者を監視する人や,株
式会社と取引をする人などが加わり,様々な利害の対立が生まれる。そのため,
法律によって利害関係を調整する必要が生じているのである。
2 株 主
株式会社に出資をする者が株主である。株式会社の財産は元をたどれば株主
が出資したものだから,株主は実質的な株式会社の所有者であるといえる。
株主は,株式会社に対して,
・利益を上げて,配当をしてくれること
・利益を上げて,株式会社の財産を増やしてくれること
などを求める。
(株主の責任)
第104条 株主の責任は,その有する株式の引受価額を限度とする。
株主が負担する経済的義務は,株主となる際にした出資に限られるのが基本
である。一方で,株式会社の経営は,経営者に任せることになる。このように,
お金を出す人と実際に経営する人が分かれていることを所有と経営の分離とい
う。もっとも,株主と経営者が同一人物であっても問題はなく,実際に株主と
経営者が一致している株式会社も少なくない。
3 経営者
現実に株式会社を経営していく人である。
経営者は,株主の要求に対して,利益を上げるために努力しなければならな
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第1節 株式会社とは何か
い。一方で,経営者は,株式会社の財産から報酬を得ることになる。経営努力
の対価として報酬を得るのは,労働の対価として賃金を得る従業員に近いが,
株式会社との関係は,雇用関係ではなく,委任関係である。
株式会社内部の役割としては,業務の執行に携わり,対外的には,株式会社
を代表して具体的な行為を行う。
株式会社
業務執行
代 表
取引相手
なお,「経営者」という用語は,法律上の用語ではなく,誤解を招くおそれ
もあるので,今後は,できるだけ「業務執行者」や「代表者」といった表現を
用いて説明していく。
4 債権者
株式会社と取引をし,株式会社に対する債権を持っている者である。
株式会社の財産に対して,株主と債権者は対立関係にある。株主は,配当と
して株式会社の財産が自分に分配されることを望むが,配当は,債権者にとっ
ては,株式会社の財産が減少し,債権の弁済を受ける可能性が減少することを
意味する。
株主と債権者との関係で重要な役割を果たすのが資本金である。
資本金に相当する金銭や財産が株式会社に存在することは保障されないが,
資本金の額が大きいと利益の配当がしづらくなり,債権者は,資本金の額が大
きいと弁済を受けやすいものと期待する。
➡ 詳しくは,計算について学ぶ際に扱う。
5 監督者
業務執行者がちゃんとやっているかをチェックする者である。基本的には,
株主の利益を守るため,株主からの委任を受けて職務を行う。この監督者が行
うチェックを監査とよび,今後は,監督ではなく監査という用語を用いていく。
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第2章 株式会社
第2節 定 款
・定款とは何かを理解する。
・定款で定めなければならない事項にはどのようなものがあるかを把握
する。
1 定款とは何か
株式会社に出資する株主は,その株式会社がどのような株式会社であるかを
知らなければ安心して出資できない。また,株式会社が勝手なことをしないよ
うに,あらかじめ約束事を決めておく必要がある。この株主と株式会社間の約
束事が定款である。
➡ 株主間の約束事という面もある。
定款は,株式会社にとって最も基本的な規則であり,特に株式会社の内部の
機関を拘束するものである。定款では,一定の事項を定めなければならず,ま
た,様々な事項を定めることができる。
プラス
アルファ
最近は,多くの有名企業がインターネットで定款を公開している。機会を
みつけて閲覧しておくと,理解が深まるだろう。
プラス
アルファ
定款は株式会社に特有のものではなく,持分会社や,各種の法人において
も定款が作成される。
また,従来,定款は書面で作成していたが,近年は定款を電磁的記録(具
体的にはPDFファイル)で作成することも認められ(会§26Ⅱ),実際に電
磁的記録による定款も普及している。電磁的記録で定款を作成する場合,書
面の定款と違って収入印紙(4万円)が不要となり,定款作成に関する費用
を抑えることができる。ただし,電磁的記録による定款には,電子署名が必
要であり(会§26Ⅱ後段),電子署名をすることができるソフトウェアを持
っていない場合には,その分のコストが発生する。
本書では,特に断りのない限り,書面に代えて電磁的記録の作成が認められ
ている場合でも,電磁的記録ではなく書面で作成されているものとして話を進
める。商業登記法記述式の試験が書面の資料を前提としているからである。電
磁的記録についての知識は,書面について十分理解してから身につければよい。
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第2節 定 款
2 必ず定款で定めなければならない事項
定款では,必ず一定の事項を定めなければならず,一定の事項を定めていな
い定款は無効となる。この必ず定款で定めなければならない事項を絶対的記載
事項(必要的記載事項)という。
絶対的記載事項には,次のような事項がある。
⑴ 目 的
株式会社は,必ずその定款で目的を定めなければならない(会§27①)。
つまり,株式会社の定款には,必ず目的が記載されている。
法人は,その目的によって権利義務の範囲が制限される(民§34)。会社
においては,行うことのできる事業の範囲が定められる。
営利法人である会社においては,行うことができる事業の範囲は比較的緩
く解釈され,目的に記載されていない事業を行った場合でも,ただちに無効
となることはあまりない。また,ほとんどの会社の定款には,「関連する一
切の業務」や「関連する一切の事業」などが目的として掲げられており,目
的外の事業が問題となることは少ない。
➡ 登記事項であり,商業登記法を学ぶ際にもう一度触れることになる。
⑵ 商 号
商号も必ず定款で定めなければならない事項である(会§27②)。
➡ 登記事項であり,どのような商号が許容されるかは,商業登記法の論点
ともなる。
⑶ 本店の所在地
本店の所在地とは,具体的な本店の所在場所(○県○市○町一丁目1番1
4
4
4
4
号)ではなく,本店を置く最小行政区画である市町村(○県○市)である。
東京特別区の場合には区まで定めなければならないが,政令指定都市の場合
には市まで定めればよい。もっとも,具体的な所在場所を定めても問題はな
い。
このように,本店の所在地と本店の所在場所は,様々な場面で区別される
ので要注意である。
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第2章 株式会社
⑷ 設立に際して出資される財産の価額又はその最低額
⑸ 発起人の氏名又は名称及び住所
この二つの事項は,通常の設立に際して定款で定めなければならないとさ
れているが(会§27④⑤),もっぱら設立手続において問題となる事項であり,
いったん株式会社が成立してしまえば,それほど重要な意味はない。
また,通常の設立手続ではなく,組織再編行為によって設立された株式会
社の定款には,これらの事項は定められていない。つまり,この二つの事項
は,絶対的記載事項ではあるものの,全ての株式会社の定款に必ず定められ
4
4
4
4
ている事項ではない。
⑹ 発行可能株式総数
株式会社が発行することができる株式の上限である(会§37Ⅰ)。
発行可能株式総数は,通常の設立手続で最初に作成する定款では定めなく
てもよいが,その場合でも設立手続中で定めなければならず,成立後の株式
会社の定款には必ず記載されている。そのため,厳密には絶対的記載事項で
はないが,絶対的記載事項に限りなく近い事項であるといえる。
3 定款以外では定めることができない事項
株式会社にとって基本的な一定の事項は,定款で定めなければならない。し
かし,絶対的記載事項とは違って,その定めがなくても定款が無効となること
はない。つまり,定めても定めなくてもいいが,定めるときは必ず定款で定め
なければならない事項である。このような事項を相対的記載事項という。
相対的記載事項は,非常に多岐にわたり,全てを列挙して覚えておく必要は
ない。ここでは次の一つだけを説明する。
4 公告方法
(会社の公告方法)
第939条 会社は,公告方法として,次に掲げる方法のいずれかを定款で定め
ることができる。
一 官報に掲載する方法
二 時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙に掲載する方法
三 電子公告
2 外国会社は,公告方法として,前項各号に掲げる方法のいずれかを定める
ことができる。
3 会社又は外国会社が第1項第3号に掲げる方法を公告方法とする旨を定め
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第2節 定 款
る場合には,電子公告を公告方法とする旨を定めれば足りる。この場合にお
いては,事故その他やむを得ない事由によって電子公告による公告をするこ
とができない場合の公告方法として,同項第1号又は第2号に掲げる方法の
いずれかを定めることができる。
4 第1項又は第2項の規定による定めがない会社又は外国会社の公告方法は,
第1項第1号の方法とする。
外国会社については,本書では扱わず,商業登記法で扱う。
この公告方法についての規定は,株式会社だけでなく,持分会社についても
適用される。公告方法は,会社の種類にかかわらず同じなのである。
公告方法は,官報,新聞,電子公告の三つから選択して定款で定めることが
できる。定款で定めなかった場合には,官報に掲載する方法となる。その意味
で,公告方法は相対的記載事項である。
公告方法を定める場合において,「A又はB」のように選択的(択一的)に
定めることはできない。一方,「A及びB」のように常に複数の方法で公告す
る旨を定めることは可能である。
時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙というのは,普通の新聞を想定すれ
ばよい。全国紙である必要はない。
電子公告というのは,公告すべき内容をインターネットで公開する方法によ
る公告である。電子公告については,具体的な公告の方法や公告期間などが定
められている(会§940~959)。
電子公告を公告方法とした場合には,事故その他やむを得ない事由があった
場合の代替の公告方法を定めることができる。電子公告ができない場合には官
報に掲載する方法で公告する旨を定めたりできるのである。
会社の公告は,公告方法に従って行わなければならない。ただし,会社法で
官報に掲載する方法による公告が義務づけられている場合には,別な公告方法
を定款で定めていても,官報に掲載する方法によって公告しなければならない。
株式会社では,株主に対する公告は基本的に公告方法に従って行い,債権者
に対する公告は会社法に従い官報に掲載する方法で公告することが多い。
➡ 本書でも,官報に掲載する方法で公告しなければならない場合には,その
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第2章 株式会社
都度明記する。逆に,特に明記していなければ会社の定める公告方法で行う
公告である。
5 定款でも定められる事項
相対的記載事項とは異なり,定款で定めてもいいが,定款で定めなくてもい
い事項がある。このような事項を任意的記載事項という。任意的記載事項は,
定款以外でも定めることができるが,定款で定めた場合には,通常定款の規定
が優先される。
6 定款で定めてはいけない事項
法令に違反する事項,公序良俗に反する事項などは,定款で定めてはいけな
い。もし仮に定めたとしても,そういった事項は無効である。そのような事項
を無益的記載事項とよぶこともある。
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第3節 機 関
第3節 機 関
・株式会社の機関には,どのようなものがあるかを概観する。
・置かなければならない機関と置くことができる機関を区別する。
・公開会社について,簡単に理解する。
1 必ず置かなければならない機関
全ての株式会社が必ず置かなければならない機関は,株主総会と取締役であ
る。厳密には,清算中の株式会社には取締役が置かれないが,それ以外に例外
はなく,どのような規模の株式会社も株主総会と取締役だけは置かなければな
らない。
株主総会と取締役以外の機関は,一定の場合には置かなければならないこと
もあるが,全ての株式会社において設置義務があるわけではない。
株主総会は,株主が意思を決定する会議であって,通常,株主は,株主総会
を通じて,株式会社をコントロールする。
一方,取締役は,株式会社からの委任に基づき,株式会社の業務執行の決定
に携わる者である。取締役は,株式会社の手足となって働く者であるともいえ
る。
株主
株主
株主
株主
株 主 総 会
委任
取締役
取締役のうち,特に株式会社を代表することができるものを代表取締役とい
う(会§47Ⅰ)。代表取締役でない取締役は,業務の執行に関与することはあ
っても,株式会社を代表することはできない。取締役の一部が代表取締役とな
ることもあるし,取締役の全員が代表取締役となることもある。
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第2章 株式会社
2 公開会社とは何か
機関についての話を進める前に,機関の設置義務と重要な関係のある公開会
社という言葉について理解しておく必要がある。
株式会社は,定款で定めることによって,株式の譲渡を制限することができ
る。小規模な株式会社では,株式会社と無関係な者が株主となることを望まな
い場合もあるからである。
用語解説
【譲渡制限株式】
株式会社がその発行する全部又は一部の株式の内容として譲渡による当該
株式の取得について当該株式会社の承認を要する旨の定めを設けている場合
における当該株式をいう(会§2⑰)。
譲渡を完全に禁止することはできず,制限することができるにすぎない。
また,譲渡による取得について承認が必要となるのであって,譲渡に際して
あらかじめ許可が必要となるものではない。
株式会社は,その株式の全部を譲渡制限株式とすることも,その株式の一部
のみを譲渡制限株式とし,残りの株式を譲渡制限株式ではない株式とすること
もできる。
➡ 譲渡制限株式については,株式について学ぶ際に詳しく取り扱う。
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4
そして,譲渡制限株式ではない株式,つまり譲渡の自由な株式を発行するこ
とができる株式会社が公開会社である。
用語解説
【公開会社】
その発行する全部又は一部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得
について株式会社の承認を要する旨の定款の定めを設けていない株式会社を
いう(会§2⑤)。
全部の株式の内容として譲渡制限を設けていない株式会社も,一部の株式
の内容として譲渡制限を設けていない株式会社も,公開会社である。つまり,
4
4
4
全部の株式が譲渡制限株式である株式会社以外の株式会社は,公開会社であ
り,株式Aと株式Bのうち,株式Aのみが譲渡制限株式であるなら,その株
式会社は公開会社である。
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第3節 機 関
プラス
アルファ
会社法上の用語としての「公開会社」は,株式を証券取引所等で公開して
いるということとは無関係で,いわゆる上場企業以外にも,公開会社は存在
する。もっとも,公開会社でないと証券取引所に上場できないから,上場企
業は全て公開会社である。
3 置くことができる機関
(株主総会以外の機関の設置)
第326条 (略)
2 株式会社は,定款の定めによって,取締役会,会計参与,監査役,監査役会,
会計監査人,監査等委員会又は指名委員会等を置くことができる。
取締役会,会計参与,監査役,監査役会,会計監査人,監査等委員会,指名
委員会等は,一定の場合にのみ設置が義務づけられている機関である。
これらの機関を置く場合には,その旨を定款で定めなければならない。つま
り,機関の設置に関する定めは,定款の相対的記載事項である。
プラス
アルファ
機関の設置に関する定款の定めは,次のようなものが一般的である。
(機関)
第○条 当会社は,株主総会及び取締役のほか,次の機関を置く。
⑴ 取締役会
⑵ 監査役
⑶ 監査役会
⑷ 会計監査人
プラス
アルファ
機関の設置に関する定款の定めは,「取締役会を置く」のように確定的な
ものでなければならず,
「必要に応じて取締役会を置く」のように実際に置
くのか置かないのかわからないような定めは認められない。
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第2章 株式会社
⑴ 取締役会
取締役会は,主に取締役によって構成される会議体である。
取締役会を置いた場合には,株式会社にとって重要な事項は,取締役会に
おける話し合いによって決定されることになる。
⑵ 会計参与
会計参与は,取締役と共同して,貸借対照表などの計算書類を作成する(会
§374Ⅰ)。
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➡ 計算書類を作成するのであって,監査をするわけではないことに注意。
どちらかといえば監査される側である。
⑶ 監査役
監査をする機関である。
➡ 何を監査するのかが重要なのだが,それについてはあらためて取り扱う。
⑷ 監査役会
監査役によって構成される会議体である。
⑸ 会計監査人
計算書類の監査を行う会計監査のスペシャリストである。公認会計士か監
査法人でないと会計監査人にはなれない。
⑹ 監査等委員会
監査等委員である取締役によって構成される会議体である。ここでは,と
りあえず名前だけ把握しておけばよい。
⑺ 指名委員会等
指名委員会,監査委員会,報酬委員会の三つの委員会をいう。ここでは,
とりあえず名前だけ把握しておけばよい。
4 取締役会設置会社
(取締役会等の設置義務等)
第327条 次に掲げる株式会社は,取締役会を置かなければならない。
一 公開会社
二 監査役会設置会社
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第3節 機 関
三 監査等委員会設置会社
四 指名委員会等設置会社
重 要
公開会社は取締役会を置かなければならない。
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公開会社でない株式会社は,取締役会を置かなくてもいい。
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公開会社でない株式会社であっても,取締役会を置かなければならない場合が
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ある。
用語解説
【取締役会設置会社】
取締役会を置く株式会社又は会社法の規定により取締役会を置かなければ
ならない株式会社をいう(会§2⑦)。
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取締役会を置かなければならない 株式会社は取締役会設置会社であるか
ら,取締役会を置く旨の定款の定めを設ける前であっても,取締役会の設置
義務が生じた時点で取締役会設置会社となる。
監査役会設置会社,会計監査人設置会社という言葉の意味も,取締役会設置
会社と同様に考えていい。
➡ 監査等委員会設置会社と指名委員会等設置会社は,やや特殊な機関設計の
パターンなので,独立して取り扱う。しばらくはこの二つを除外して話を進
める。
監査役会設置会社は,公開会社ではない場合であっても,取締役会を置かな
ければならない。
4
4
理 由 監査役会があるのに取締役会がないのはバランスが悪いから。
株式会社についての規定は,公開会社かどうか,また,取締役会設置会社か
どうかによって大きく異なる。公開会社かどうか,取締役会設置会社かどうか
は,株式会社の性格を決定する重要な要素である。
そして,公開会社は取締役会を置かなければならないから,全ての株式会社
は,おおざっぱに,
・公開会社(当然に取締役会設置会社)
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第2章 株式会社
・公開会社でない取締役会設置会社
・取締役会設置会社以外の株式会社
の三つに分類することができる。
➡ この三つの分類とは別に,監査等委員会設置会社,指名委員会等設置会社,
それ以外の株式会社の三つに分類することも考えられる。監査等委員会設置
会社でも指名委員会等設置会社でもない場合について,上の三つの分類があ
ると考えてもよい。
基本的に,公開会社は大規模な株式会社が想定されており,取締役会設置会
社以外の株式会社は家族経営のような小規模な株式会社が想定されている。
取締役会を置かなければならない株式会社があるのとは逆に,取締役会設置
会社が置かなければならない機関もある。
第327条 (略)
2 取締役会設置会社(監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を除
く。)は,監査役を置かなければならない。ただし,公開会社でない会計参与
設置会社については,この限りではない。
監査等委員会設置会社と指名委員会等設置会社を除き,公開会社は取締役会
と監査役を置かなければならない。
理 由 公開会社は大規模な株式会社が想定されるので,監査機関を置く
など充実した機関の設置が必要。株主を保護するためでもある。
また,監査等委員会設置会社と指名委員会等設置会社を除き,公開会社でな
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4
4
4
い取締役会設置会社は監査役か会計参与のどちらかを置かなければならない。
理 由 公開会社でないのであれば,機関の設置はある程度自由でよく,
会計参与が計算書類を作ってくれるなら,監査機関は置かなくても
いい。
5 監査役設置会社
「監査役設置会社」という用語については,特に注意する必要がある。
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第3節 機 関
第2条 (略)
九 監査役設置会社 監査役を置く株式会社(その監査役の監査の範囲を会
計に関するものに限定する旨の定款の定めがあるものを除く。
)又はこの法
律の規定により監査役を置かなければならない株式会社をいう。
(監査役の権限)
第381条 監査役は,取締役(会計参与設置会社にあっては,取締役及び会計
参与)の職務の執行を監査する。(以下略)
(定款の定めによる監査範囲の限定)
第389条 公開会社でない株式会社(監査役会設置会社及び会計監査人設置会
社を除く。)は,第381条第1項の規定にかかわらず,その監査役の監査の範
囲を会計に関するものに限定する旨を定款で定めることができる。
監査役は,業務の監査と会計の監査の両方を行う機関であるが,公開会社で H18─35
もなく,監査役会設置会社でもなく,会計監査人設置会社でもない場合には,
監査の範囲を定款で会計に関するものに限定できる。
そして,監査役設置会社の定義からは,監査役の監査の範囲を定款で限定し
ている株式会社が除外されている。
重 要
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4
4
4
監査役を置く株式会社であっても,監査役設置会社であるとは限らない。
監査役の監査の範囲は,定款で制限できる場合がある。
用語解説
【監査役設置会社】
監査役を置く株式会社と監査役を置かなければならない株式会社のうち,
4
4
監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがない株
式会社である。つまり,業務の監査をする権限がなく会計の監査をする権限
4
4
4
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のみを持つ監査役を置く株式会社は,監査役設置会社ではない。
したがって,監査役設置会社に関する規定は,業務監査の権限がない監査
役のみを置く株式会社には適用されない。
業務監査の権限がない監査役のみを置く株式会社にも適用される規定につ
いては,特に「監査役設置会社(監査役の監査の範囲を会計に関するものに
限定する旨の定款の定めがある株式会社を含む。)」と定められている(会§
436Ⅰ,911Ⅲ⑰等)。
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第2章 株式会社
本書でも,単に「監査役設置会社」というときは,業務監査の権限がない監
査役のみを置く株式会社を除外することとする。一方,業務監査の権限がない
監査役のみを置く株式会社も含める場合には,本書では「監査役を置く株式会
社」ということにする。
前述したように,監査等委員会設置会社と指名委員会等設置会社を除き,公
開会社は監査役を置かなければならず,公開会社でない取締役会設置会社は監
査役か会計参与のどちらかを置かなければならない。
第327条 (略)
3 会計監査人設置会社(監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を
除く。)は,監査役を置かなければならない。
4 監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社は,監査役を置いてはな
らない。
4
また,監査役がいないと監査役会を組織できないから,監査役会設置会社も
監査役を置かなければならない。
そして,会計監査人設置会社と監査役会設置会社は,監査役の監査の範囲を
制限できない。つまり,会計監査人設置会社と監査役会設置会社の監査役は,
業務監査の権限を持つ。
理 由 会計監査人や監査役会といった監査機関を充実させるのに,監査
役の監査の範囲を制限するのは,機関設計として矛盾している。
監査等委員会設置会社と指名委員会等設置会社では,監査役以外の機関が監
査を担当することとなり,監査役を置くことはできない。
まとめると,監査役を置かなければならない株式会社は,監査等委員会設置
会社と指名委員会等設置会社以外の株式会社であって,
・公開会社
・会計参与を置かない取締役会設置会社
・会計監査人設置会社
・監査役会設置会社
である。逆に,監査等委員会設置会社と指名委員会等設置会社以外の株式会
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第3節 機 関
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4
社のうち,監査役を置かなくてもいい株式会社は,公開会社でない株式会社で
あって,
・取締役会と会計参与のみを置く株式会社
・任意に設置できる機関を一切置かない株式会社
・会計参与のみを置く株式会社
である。どちらか覚えやすい方を覚えておけばいい。
6 大会社
会社法上の「大会社」とは,単に規模の大きい会社ということではなく,一
定の要件を満たす株式会社のことである。
➡ 大会社の要件については,事業年度,貸借対照表,定時株主総会といった
知識が必要となるので,株式会社の計算について扱う際に説明する。ここで
は,厳密に要件が定義された「大会社」というものがあることだけを把握し
ておけばよい。もし,前提となる知識に自信があるのであれば,第38節6の
「大会社の要件」を先に参照してしまってもかまわない。
(大会社における監査役会等の設置義務)
第328条 大会社(公開会社でないもの,監査等委員会設置会社及び指名委員
会等設置会社を除く。)は,監査役会及び会計監査人を置かなければならない。
2 公開会社でない大会社は,会計監査人を置かなければならない。
公開会社である大会社と,公開会社でない大会社とでは,置かなければなら
ない機関が異なる。
ここでも監査等委員会設置会社と指名委員会等設置会社を除外して話を進め
ていこう。
公開会社である大会社は,
・取締役会
・監査役
・監査役会
・会計監査人
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第2章 株式会社
を置かなければならない。監査役会を置かなければならない株式会社は,公
開会社である大会社だけである。
そして,公開会社でない大会社は,
H23記述
H18─35
・監査役
・会計監査人
を置かなければならない。大会社だからといって取締役会を置く義務はない。
7 会計参与設置会社
会計参与か監査役のどちらかを置かなければならない場合はあるが,会計参
与のみを置かなければならない場合はない。
また,会計参与を置くことができない場合もない。
さらに,会計参与を置くことによって,他の機関の設置が義務づけられる場
合もない。
このように,会計参与は,その設置に関して,最も自由度が高い。
プラス
アルファ
ここまで,「○○設置会社」というのは,○○を置く株式会社と○○を置
かなければならない株式会社のことであった。しかし,会計参与設置会社に
ついては,単に「会計参与を置く株式会社」とされている(会§2⑧)。こ
れは,会計参与のみを置かなければならない場合はないからであると思われ
る。
8 まとめ
株式会社の機関の設置義務は,このように結構複雑であり,簡単に覚えるの
は難しい。しかし,正確に覚えるのではなく,逆に間違えやすいポイントに注
意すれば労力が省ける。
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以下,監査等委員会設置会社でも指名委員会等設置会社でもない前提である。
・取締役会設置会社であっても,監査役を置かなくてよい場合がある。
・会計監査人設置会社であっても,取締役会を置かなくてよい場合がある。
・会計監査人設置会社であっても,監査役会を置かなくてよい場合がある。
・大会社であっても,取締役会を置かなくてよい場合がある。
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第3節 機 関
それぞれ,どのような場合かを確認しておくとよい。
また,ありがちな機関のパターンを覚えておくのも,特に記述式対策として
有効となる。
中規模の株式会社で最もよくある機関のパターンは,取締役会と監査役を置
くものである。実は,会社法が平成18年の5月に施行される以前の商法では,
取締役会と監査役のみを置く株式会社が原則だった。だから,公開会社であろ
うとなかろうと,取締役会と監査役を置くというのは,最もよくあるパターン
である。
取締役会と監査役を置く機関設計を基本として,監査役会や会計監査人を置
かなければならない株式会社はどのような株式会社かを把握するのが一つのポ
イントだといえる。
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これも監査等委員会設置会社でも指名委員会等設置会社ではない前提である。
・監査役会を置かなければならないのは,公開会社である大会社である。
・会計監査人を置かなければならないのは,大会社である。公開会社かどう
かは関係ない。
典型的な機関設計である取締役会と監査役を置く株式会社の全体像は,次の
ようになっている。
株主総会
株 主
委任
取締役会
委任
監査
監査役
取締役
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