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イントロダクション - リクルートワークス研究所

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イントロダクション - リクルートワークス研究所
イントロダクション
的に進む形となった。
これらの問題への解答を求め
日本は、
外国人労働者を受け入れるべきか。
これは、
者問題研究会」
を発足し、
検討を行った。
同研究会は、
少子高齢化によって近い将来、
日本の労働力が不足す
(1) 人的交流の促進は国際的に貢献する、
(2) 外国企
るということが避けられない事実であるとわかって
業の日本進出、
わが国企業の海外進出に伴い人材確保
以来、
繰り返されてきた議論である。
国内で労働力が
の必要性がある、
(3) 開発途上国援助の一環として、
確保できないなら、
国外から労働力を補う必要があ
研修生の受入れ、
技能労働力の養成が重要である、
る、
というのが外国人労働者の受入れを支持する意見
(4) 労働力不足の改善といった点を理由に、
基本的に
だ。
また、
IT技術者や高い専門知識を持つ外国人を、
外国人労働者の受入れを肯定しているが、
受入れの範
より積極的に受け入れる政策が必要だという声もあ
囲を外国人労働者の職種・技能・経験等をもとに限定
る。
し、
不法就労の取り締まりを強化する必要があると述
各地方公共団体の特区構想の中にも、
外国人の活用
べた。
を謳ったものがいくつかある。
仙台市の国際知的産業
その後、
1988 年からは雇用対策基本計画に単純労
特区(就労希望の外国人へのビザ発給の迅速化要請)
働の外国人労働者受入れについての方針が明記され
や、
愛知県の環境・エネルギー・国際交流特区(外国
るようになったが、
この時点では、
他の労働者の就業
人の居住・就労条件の緩和)
などがその例である。
機会を減少させるおそれがある、
労働市場の二重構造
2006 年、
このような流れを受けて国は出入国管理お
化を生じさせるといった消極的な意見が多かった。
よび難民認定法を改正し、
構造改革特別区域法による
1990 年6月出入国管理および難民認定法が施行
特例措置にもとづく活動については在留期間の上限
され、
ブラジルやペルーからの日系人に対して、
活動
を3年から5年に伸長している(平成 18 年5月 24
に制限のない在留資格が与えられ(
「定住者」
または
日法律第 43 号)
。
て、
1987 年、
労働省(現厚生労働省)
は、
「外国人労働
*1
*2
*3
「日本人の配偶者等」
)
、
専門的な技術・知識・技能を生
これまで、
外国人労働者問題は、
何回か議論の波を
かして職業活動に従事する外国人等の整備が行われ
経 験 し て き た。
最 初 は、
労働力の需要が増大した
たが(創設された 10 の在留資格のうち「法律・会計
1970 年代の高度経済成長期であった。
このときは、
事務」
「医療」
「研究」
「教育」
「人文知識・国際業務」
「企
「日本人にはできない特殊な技能を持つ外国人につい
業内転勤」
の6つが就労に関する在留資格)
、
単純労働
てのみ入国を認める」
という姿勢を維持した。
次の波
者に係る在留資格は設けられなかった(外国人雇用
は、
1980 年代後半のバブル期に起こったが、
労働力
問題研究会 2002)
。
一方、
不法就労外国人の増加を抑
需要の増大による人手不足を解消するために外国人
制するために、
不法就労助長罪が設けられ、
不法就労
労働者を受け入れるべきだという議論と、
していた外
者を雇った者には、
3年以下の懲役または 300 万円
国人の不法就労を何とかすべきだという議論が、
並行
の罰金が科される。
その後 1993 年には、
研修により
*4
*1: 1987 年12 月12 日職業安定局内に発足。座長は小池和男京都大学経済研究所所長(当時)。
*2:この点については、次のような問題を孕んでいると指摘している。(1) 経済情勢が悪化した場合に外国人の単純労働者が最も影響を受けやすく、失業の発生につながりやすい、
(2) 労働力不足には雇用機会の質的改善での対応が先行すべき、(3) 労働
力不足の解消は、労働力需給調整の円滑化や職業能力開発の推進等によることが最重要。
*3:この日系人に対する措置により、南米日系人の滞在者数は、1988 年の約8,450 人から1997 年には約23 万4,126 人に大幅に増加している(外務省推計)
。
*4:罰金の額は2006 年より200 万円から300 万円に引き上げられた(平16・6・2 法73 号)。
01
発行・監修:株式会社リクルートホールディングス リクルートワークス研究所/発行日:2011 年 1月21 日 更新日:2012 年 7月17 日
一定水準以上の技術等を修得した外国人について、
研
政府は 2008 年にインドネシア(同年7月1日)
お
修修了後、
研修を受けた機関との間で新たに雇用契約
よびフィリピン(同年 12 月 11 日)
と経済連携協定
を結び、
研修で修得した技術等をより実践的に修得す
を結び、
インドネシアからは 2008 年度より、
フィリ
ることができるようにする技能実習制度が新設され
ピンからは 2009 年度より、
一定の要件を満たす看護
た。
師・介護福祉士候補者の入国を認めている。
1990 年代のバブル崩壊とともに、
外国人労働者問
これらの協定により、
2008 年から 2011 年までに
題の議論は一時その勢いを失ったが、
1999 年頃から
2009 年にフィ
インドネシアから 791 名の候補者が、
再び活発化する。
これは、
人口構造の少子高齢化が深
リピンから 310 名の候補者が来日したのを皮切り
刻化するなかで、
経済審議会が経済計画「経済社会の
に、
2011 年までに合計 569 名、
両国計で 1,360 名が
あるべき姿と経済新生の政策方針」
において、
当初、
外
来日している。
しかし、
日本における看護師・介護福
国人労働者の導入を正面から検討すると発表したこ
祉士の国家資格取得への道は、
語学習得も含めて、
非
とから始まり、
当時の経済企画庁長官だった堺屋太一
常に険しい。
候補者は、
3年から4年の在留期間内に
氏の「日本は移民国家であり、
移民を受け入れる国に
国家試験に受からないと、
日本で正式に就職すること
ならなければならない」
という発言が火に油を注ぐ形
ができず、
帰国しなければならない。
となった。
堺屋氏ら賛成派に対して、
保守派の論客は、
こうした問題を受け、
厚生労働省は 2011 年 2 月に
外国人労働者による犯罪の増加や外国人同士の民族
行われた看護師国家試験において、
難解な漢字へのふ
争い、
新たな差別問題の発生を懸念し、
「労働鎖国」
論
りがな付記や疾病名を英語表記にするなど、
日本語を
を唱えた。
母国語としない看護師候補者にとってもわかりやす
我が国の少子高齢化は深刻だ。
2006 年6月公表の
い文章となるよう対応がとられた。
国勢調査抽出速報集計結果によると、
65 歳以上の老
協定が結ばれた以上、
看護師・介護福祉士候補者が
年人口の割合が 21.0%で世界最高となる一方、
15 歳
国家試験に合格し、
正式に就職することができるよう
未満の年少人口は 13.6%で最低となっており、
少子
にする必要がある。
また、
政府は、
彼ら・彼女らが外国
高齢化が世界で最も深刻な状態となった(総務省
人であるということを理由に労働条件などの面で差
2006)
。
数字から判断するならば、
日本は外国人労働
別されることのないよう、
十分に配慮しなければなら
者の受入れに最も真剣に取り組まなければならない
ない。
のに、
実際は最も対応が遅れている国になっている。
少子高齢化を見据えると2つの観点から外国人労
<参考資料>
総務省 2006 総務省統計局「平成 17 年国勢調査抽出速報集計結果の概要」
2006 年6月 http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2005/sokuhou/01.htm
外国人雇用問題研究会 2002 厚生労働省・外国人雇用問題研究会報告書 2002 年7月
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/fta/j_asean/philippines/index.html
読売新聞 2010 年7月9日付け
http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=27818
働者の受入れが必要となってくる。
1つはマクロ的に
減少する労働力を埋めるため、
もう1つは高齢者の増
加により需要が高まる看護・介護人材を補うためだ。
これまで、
外国人労働者の受入れに対しては、
女性や
<ここで引用したもの以外の参考資料>
山崎隆志「看護・介護分野における外国人労働者の受入れ問題」
『リファレンス 2006.2』2006 年
高齢者の労働市場再参入をより積極的に図れば外国
人労働者は必要ないのではないかという反論があっ
たが、
予想を超える厳しい少子高齢化の現状からもは
や外国人に労働力を頼るのは避けられないという見
方が強まっている。
02
発行・監修:株式会社リクルートホールディングス リクルートワークス研究所/発行日:2011 年 1月21 日 更新日:2012 年 7月17 日
1.外国人労働者受入れの意義と問題点
に大量の失業が発生するおそれがある。
したがって、
国内の労働力需給状況と経済動向を把握し、
かつ、
民
(1)
なぜ外国人労働者が必要なのか
族バランスを図りながら、
質と量をコントロールした
少子高齢化に伴う労働力の不足に対応するため。
こ
上で、
外国人労働者受入れを検討する必要がある(三
れが、
上記の問いに対する答えだろう。
日本の人口は
好 2002)
。
2006 年にピークを迎え、
その後減少に転じると予測
以下、
外国人労働者を受け入れた場合の具体的なリ
されている。
そして、
2050 年には約1億人、
2100 年
スクについて検討してみたい。
には約 6,400 万人にまで減少すると見込まれている
① 不法就労者問題
(国立社会保障・人口問題研究所 2002)
。
減少する労
働力を外国人でカバーしようというのが、
外国人労働
不法就労者は、
a 不法に入国して就労する者、
b在
者の受入れを肯定する理由だ。
地域や産業、
あるいは
留資格ごとに認められている活動の範囲を超えて就
職種によっては、
すでに労働力が不足しているところ
労する者、
c 在留期間を超えて就労する者、
を意味す
があり、
日系人労働者に頼っている地域もある。
しか
る。
現在、
日本は、
中間技能職や単純労働に従事する外
し、
なぜ日系人は無制限に受け入れるのに他の外国人
国人の労働者としての受入れは認めていないが、
在留
は受け入れないのか、
日系人だけでは数が足らないの
資格要件を満たす者については量的コントロールを
ではないか、
という疑問を投げかけ、
国や民族にかか
一切せずに受け入れている。
そのため、
在留期間や資
わらず外国人労働者を活動の制限なしに受け入れる
格を超えて就労する不法就労者が多い。
不法就労者は
べきだという主張も少数派ながら存在している。
不法に滞在しているという理由から、
悪質な労働ブ
しかし、
こういった「移民開放」
案に対しては、
少子
ローカーに搾取される、
極端に低い賃金で雇用される
高齢化対策として、
高齢者の能力や経験をより積極的
おそれがある。
これまでの不法就労者対策が一向に功
に活用できるよう定年の時期を 60 歳から 65 歳へ延
を奏していない状況で、
ロースキルやミドルスキルの
長し(あるいは定年をなくし)
、
かつ、
現在、
労働市場
外国人労働者を合法的に受け入れることが、
不法就労
に参入していない女性を労働力として確保すること
者数にどのような変化を与えるのか、
まったく不透明
を、
まず実現すべきだという意見が根強い。
国内で十
である。
この点を調査・分析し、
量的コントロールを
分に活用されていない潜在的労働力を最大限に活用
行わないと、
不法就労者は著しく増加することになる
できる社会づくりを図り、
そのうえで、
労働力が不足
だろう。
*5
*6
している産業や職種に限定してのみ、
外国人労働者を
受け入れる。
このような考えが現在のところ主流だと
② 失業のおそれと社会的対立
いえるだろう。
労働力が不足したので、
外国人労働者に日本で働い
てもらうことにする。
確かに労働力が不足している
(2) 外国人労働者を受け入れた場合のリスク
間、
彼ら・彼女らは強力な助人になるだろう。
しかし、
労働力の移動は、
受入れ国・送出し国の人口、
民族
経済状態の悪化や企業のリストラクチャリングによ
構成、
文化、
経済状態を変化させることになる。
一時的
り、
労働力不足から労働力過剰に転じたらどうなるだ
に減少している労働力を補完させるためだけに多く
ろうか。
この場合、
多くの外国人労働者が失業するだ
の外国人労働者を流入させると、
経済が悪化したとき
けでなく、
日本人も失業するおそれがある。
そうなる
*5:平成22 年(2010 年)の不法残留外国人は約9万人(法務省入国管理局「本邦における不法残留者数について(平成22 年1月1日現在)」
)
*6:不法就労者の内訳を見ると、男性では工員や建設作業者、
女性ではホステス等接客が多く、いずれも外国人労働者の就労を認めていない職業である(出入国管理局2010)。
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と、
外国人が日本人の仕事を奪っているという意識が
の出稼ぎ労働者を受け入れるという想定において、
日本人の中に芽生え、
日本人と外国人の社会的対立が
「出稼ぎ期」
の外国人が支払う税金や保険料(社会的
生まれるかもしれない。
このような社会的対立は、
犯
便益)
は 3,266 億円、
外国人が享受する国や地方公共
罪の温床にもなりかねず、
社会不安を引き起こす危険
団体のサービスと給付(社会的費用)
は 806 億円で
性も持っている。
事実、
このような問題に頭を抱えて
ある(井口 2001)
。
ところが、
出稼ぎに来た外国人労
いる国もあるということを知っておく必要がある。
働者が定住し、
「定住期」
に入ると、
この数字は大きく
*7
変化する。
試算では、
「定住期」
の社会的便益は 3,166
③ 社会コストの負担
億円、
社会的費用は 6,530 億円となっている(前掲
外国人労働者を受け入れる国は、
さまざまな社会コ
井口)
。
もし、
外国人労働者が家族を本国から呼び寄せ
ストを負担しなければならない。
1992 年に労働省
(現
たなら、
社会的費用はもっと大きくなるだろう。
厚生労働省)
の研究会が行った試算によると、
50 万人
<参考資料>
国立社会保障・人口問題研究所 2002 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口 2002 年1月推計」2002 年
http://www.ipss.go.jp/pp-newest/j/newest02/newest02.asp
出入国管理局 2010 法務省入国管理局「平成 21 年における入管法違反事件について http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/press_100309-1.html
井口 2001 井口泰『外国人労働者新時代』ちくま新書 2001 年
三好 2002 三好博昭「わが国の外国人労働者受入れ政策の方向性」、岩崎信彦、ケリービッチ、宮島喬、ロジャー・グッドマン、油井清光編『海外の日本人、日本における外国人 −人の移動と文化的交錯』昭和堂 2002 年
<ここで引用した以外の、参考資料>
依光正哲「日本における外国人労働者問題の歴史的推移と今後の課題」 一橋大学経済研究所世代間利害調整プロジェクト・ディスカッションペーパー No.52 2002 年1月
http://www.ier.hit-u.ac.jp/pie/Japanese/discussionpaper/dp2001/dp52/text.pdf
山脇啓造、近藤敦、柏崎千佳子「移民国家日本の条件」明治大学社会科学研究所ディスカッションペーパー No.J-2000-6 2000 年 11 月
http://www.kisc.meiji.ac.jp/~yamawaki/etc/migration.pdf
佐野哲「外国人研修・技能実習制度の構造と機能」 一橋大学経済研究所世代間利害調整プロジェクト・ディスカッションペーパー No.53 2002 年1月 http://www.ier.hit-u.ac.jp/pie/Japanese/discussionpaper/dp2001/dp53/text.pdf
社団法人日本経済調査協議会「外国人労働者受入れ政策の課題と方向∼新しい受入れシステムを提案する∼」2008 年9月
http://www.nikkeicho.or.jp/report/kono080916_all.pdf
*7:この数字には公的年金保険料が入っていないので、
注意。年金収支は、
外国人労働者が高齢期になって初めて悪化するので、それまでの数十年間は年金収入のみのため、社会的便益が大きいとされる(前掲井口)。
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(2) 各国の取組
2.諸外国の取組と誤算
ヨーロッパの国々は、陸続きに国境があるため、
(1)
なぜ外国人労働者が必要なのか
古くから人の移動が盛んであったが、最近はEU域
先進国の多くは、外国人労働者や移民を積極的に
内の地域統合が進んでおり、円滑な労働移動の促進
受け入れているが、その受入れ制度、調整手段はさ
が図られている。たとえば、域内においては、自分
まざまである。たとえば、アメリカ、ドイツ、フラ
がEU加盟国の国民であるということを証明するも
ンス、イギリス、スイスなどでは、労働市場におい
の(パスポート等)を提示するだけで、他のEU加
て調達可能でないことを審査して証明した場合に受
盟国に自由に出入国し、滞在許可証を発行してもら
け入れる方法(労働市場テスト制)を基本的に採用
うことができる。もちろん、合法的に働くことも可
し、部分的に、全体の受入れ人数の上限を設定して
能だ。
おくという数量割当制によって管理している。この
また、ドイツ、フランス、オランダ、イギリスな
ほかに、各企業における外国人労働者の構成割合に
どは、旧植民地からの移民も協定などに基づき大量
上限を設定し、外国人を雇用するごとに、雇用主か
に受け入れている。しかし、フランスなどでは、失
ら税金を徴収するという雇用率・雇用税制(シンガ
業率が高くなると、「外国人がフランス人の仕事を
ポール、マレーシア等)、判断に必要な要素をポイ
奪っている」という批判がなされ、最近では、外国
ント化して一定以上のポイントを得た者を受け入れ
人の就労に関して規制が強化されている。
るというポイント制(カナダ、オーストラリア)な
かつては、柔軟な移民政策を採用していたイタリ
どがある。
アも、規制を強化しつつある。もともと、移民送出
多くの国が採用している労働市場テストである
し国であったイタリアが移民受入れ国へと変わった
が、入国管理行政と労働行政にまたがった審査が必
のは 1970 年代。当初は、一時的に滞在する「腰掛
要な上、事務手続きが煩雑となりかねないという欠
け労働者」が多かったが、徐々に定住を目的とする
点があるため、欧州各国では、特定の職種や資格に
者が増え、闇労働市場における外国人労働者の存在
属する人材は自動的に就労を許可する旨を事前に両
も顕在化するようになった。1998 年に政府は移民
行政間で取り決める、あるいは、受入れ企業がその
問題解決のために 1998 年 40 号法を制定し、移民
他の人材では代替できない旨の証明を行った場合は
の基本的人権の認知、移民の就労・社会サービス利
労働市場テストを省略するというように簡便化して
用支援、外国人のアイデンティティ保護などを奨励
いる(井口 2001)。数量割当は、状況を見ながら数
したが、量的コントロールは成功しなかった(佐藤
量を上下することができるという利点を持つが、関
2001)。そこで、政府は、不法移民を厳しく規制す
係業界の思惑に左右される危険性もある。年齢、技
る姿勢を打ち出し、2002 年7月、新移民法の制定
能、職歴、学歴等をポイント化して判断するという
に踏み切った。これは、不法移民、不法就労、テロ
ポイント制は、入国要件に関する透明性が高く、注
リスト対策を念頭に置いたもので、EU域外の外国
目されている。
人に指紋押捺を義務づけている。また、オーストリ
次に、各国の外国人労働者政策(移民政策)の問
アにおいても、外国人労働者の就労規制を強化する
題点について検討する。
新移民法が成立している(2002 年)。
一方、アメリカ、カナダ、オーストラリアにおい
ても、人口規模を確保するために、積極的に定住移
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発行・監修:株式会社リクルートホールディングス リクルートワークス研究所/発行日:2011 年 1月21 日 更新日:2012 年 7月17 日
民を受け入れる政策を採用してきた。しかし、これ
られるアメリカと、最近IT技術者の取込に熱心な
らの国は、移民の量に重点を置いてきたために、移
ドイツの例を紹介する。
民の質(言語力や職業能力)をコントロールするの
に苦労している(アメリカについて詳細後述)。こ
(3)
アメリカの場合
*8
の「質」の問題を解決するために、カナダやオース
① アメリカの移民政策
トラリアでは、移民の語学力、職業能力、経験、学
もともとアメリカは移民国家であった。建国から
歴などをベースにしたポイント制を採用し、移民を
1870 年代までは、積極的に移民を受け入れた 1880
選別している。これにより、ある程度の質は維持さ
年代になって、建国当初 400 万人足らずだった人口
れているとも言われ(井口 2001)
、ポイント制の評
が 5,000 万人を超えたため、連邦議会は無制限に移
価が高まっており、イギリスにおいても、2002 年
民を受け入れるのを改め、鉄道建設の労働力として
から、特に高度な技術・経験を有する労働者の受入
受け入れていた中国人の移民を停止するとともに、
れ促進のための制度としてポイント制を導入してい
「犯罪者、精神障害者、働けず公共の負担になる者」
る(外国人雇用問題研究会 2002)。
の入国を拒否する移民法を制定した。その後、反移
シンガポールは、労働力人口の5分の1が外国人
民運動が活発化したこともあり、アメリカの移民は
労働者であると言われるが、雇用率・雇用税制とい
減少し、1960 年代にジョンソン政権が新移民法を
うユニークな制度に基づき、シンガポール経済に貢
制定するまで、移民制限の時代が続くこととなった。
献し、国際競争力向上に資するような優秀な人材を
1965 年制定の新移民法にもとづき、アメリカは「離
積極的に受け入れる一方、シンガポール人が就きた
散家族の統合」の原則で定住移民を受け入れるよう
がらない職業に従事する未熟練労働者については必
になった。1986 年の改正移民法は、不法就労者を
要最低限となるよう数量調整を行いつつ受け入れて
雇用した使用者に対する罰則や、一定要件を満たす
いる(外国人雇用問題研究会 2002)。雇用税は、外
場合の不法移民の合法化措置導入を盛り込んだもの
国人労働者の需給を政府が管理することを目標とし
であった。また、1990 年の移民・国籍法で移民受
て導入された制度であり、外国人を雇用する者が外
入れ枠として「雇用目的」の移民を創設して熟練労
国人を雇用する毎に一定額の税金を払う仕組みであ
働者の受入れ拡大を図る一方、非移民については専
る。雇用率は、外国人労働者の受入れ数を制限する
門職業に関するビザ細分化を行い、未熟練労働者の
ことを目的としており、当該企業労働者に占める外
受入れ枠を縮小した(井口 2001)。1994 年には、N
国人労働者の割合に上限を設定している。 AFTAの批准に伴い、米加自由貿易協定に伴う専
しかし、近年、建設部門の外国人労働者依存度が
門職労働者のビザに替えて、NAFTA専用に専門
高いことを懸念し、政府は、1998 年にプロジェク
職のビザが導入された。なお、1996 年には「不法
ト の タ イ プ と 規 模 に 応 じ た 採 用 枠(Man Year
移民改革および移民責任法」が施行され、不法移民
Entitlement, MYE)を導入し、毎年MYEを基準
抑制のために国境警備を強化し、過去に 10 年以下
にして採用枠を縮小している(マレーシアを除く)。
の期間、アメリカ国内に不法に滞在した者には今後、
このように各国とも、多様な方法により外国人労
入国許可を行わないとした(以上、前掲井口)。
働者の受入れを規制しつつも、積極的に受け入れて
このように見ると、最近のアメリカは専門職種に
いるが、その量的・質的コントールには苦労してい
ついてのみ受入れを拡大する政策を導入しているよ
るのがわかる。次に、世界最大の移民国家として知
うだ。2001 年度から始まった H-1B ビザ(専門職
*8:アメリカの移民政策については、自治体国際化協会1997 を参考にした。
06
発行・監修:株式会社リクルートホールディングス リクルートワークス研究所/発行日:2011 年 1月21 日 更新日:2012 年 7月17 日
としてアメリカ国内で就労する場合に発行される)
保障料を支払っていない不法移民に対しても、アメ
の拡充で、この傾向は強まっているといえる。また、
リカ人や合法移民と同様の社会給付を行っていた
2006 年5月、上院議会は H-1B ビザ発給数を拡大
が、アメリカ人の反発が強いために、給付の停止を
する法案を可決したが、この法案が成立すれば現行
検討しているところや、すでに停止しているところ
の年間6万 5,000 件から 11 万 5,000 件に増えるこ
もある。
とになる。
また、アメリカ人に占めるヒスパニック系やアジ
ア系の割合は増えつつあり、英語を話せないアメリ
② アメリカの移民問題
カ人が数多く存在することも問題となっている。
アメリカは長い間移民問題に頭を悩まされてい
さらに、受入れ枠を拡大した H-1B ビザであるが、
る。非移民については専門職に限って受入れを行い、
2000 年以降のIT不況のために、H-1B ビザにより
質的コントロールを試みているが、近隣諸国からの
入国した技術者がレイオフされ、出国を余儀なくさ
不法入国は後を絶たず、現在、少なくとも 400 万人
れたというケースも少なくないようだ。つまり、ア
の外国人がアメリカに不法に滞在していると見積も
メリカは、外国人技術者の取込には成功したものの、
られ、カリフォルニア州だけで、年間 20 億ドルが
経済予測と労働市場コントロールに失敗し、海を
不法移民の子どもの教育に費やされているという
渡ってやってきた外国人労働者がそのリスクを負わ
されたわけだ。
(自治体国際化協会 1997)。一部の州は税金や社会
人種別アメリカの人口構成(2000 年および 2009 年)
人 口(人)
(2009 年 7 月 1 日)
人 種
人 口(人)
(2000 年センサス)
(%)
(%)
人口合計
307,006,550
100.00%
281,421,906
100.00%
単一人種
白人
244,298,393
79.6
211,460,626
75.1
黒人
39,641,060
12.9
34,658,190
12.3
3,151,284
1.0
2,475,956
0.9
14,013,954
4.6
10,242,998
3.6
578,353
0.2
398,835
0.1
5,323,506
1.7
6,826,228
2.4
不明
不明
15,359,073
5.5
48,419,324
15.8
35,305,818
12.5
アメリカインディアンおよびアラスカ原住民
アジア
ハワイアンおよび他の太平洋島原住民
2 種以上の混血
その他
ヒスパニックおよびラテン
(出所 U.S. Census Bureau, National Population Estimates, http://www.census.gov/popest/national/asrh/NC-EST2009-srh.html)
07
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(4) ドイツの場合
しかし、目標の2万人には程遠く、政府は優秀な技
ドイツも日本と同じく深刻な少子高齢化問題に直
術者を確保するための新たな政策を迫られた。
面している。ドイツが連邦と州の共同で実施した第
なぜ、ドイツに外国からIT技術者が来ないのか。
9回「2050 年までの人口予測調査」によると、ド
これは、1つには言葉の問題、そして、もう1つは、
イ ツ の 人 口 は、こ の ま ま で 推 移 す れ ば、現 在 の
ドイツ労働市場の硬直性の問題があると考えられる
8,200 万人から 2050 年までに 5,900 万人に減少す
(Kettmann2001)。IT技術者の大量送り出し国と
るという(田中 2001)。人口の減少は労働市場に重
なっているインドだが、技術者に人気のある国はド
大な影響を及ぼすことから、移民政策の見直しが迫
イツではなくアメリカである。インドの公用語はヒ
られている。国連が実施した「人口維持のための移
ンディー語だが、英語は準公用語であり、教育を受
民受入れ」のモデル計算によれば、ドイツの場合、
けた者の多くは流ちょうな英語を話す。アメリカの
65 歳以上人口の 15 ∼ 64 歳の年齢層に対する比率
労働市場はドイツと比べると自由かつ柔軟で、能力
を現状で維持するためには、年間約 340 万人の移民
や技術の高いIT労働者であれば、高給を手にする
の受入れが必要という結果が出ている(前掲田中
ことができる。そのため、技術者のほとんどは、言
2001)。
葉に苦労せずに高給を得ることができるアメリカに
ドイツは、欧州の中で最も多くの移民を受け入れ
行くことを選ぶのだ。
ている国で、1959 年から 1998 年までの 40 年間に
抜本的な対応を迫られ、連邦議会は新移民法の制
国内に流入した移民の数は約 3,000 万人に達してい
定を打ち出し、移民法案が 2002 年3月2日に可決、
る。うち約 2,100 万人は流出したが残りの約 900
同年3月 22 日に連邦参議院でも可決した(海外労
万人はそのままドイツ国内に留まっている(前掲田
働時報 2002)。
中 2001)。
同法案は、(1)難民認定審査を迅速化し、滞在
しかし、ドイツで働く外国人労働者の多くは低賃
許可条件を緩和する、(2)一定の要件を満たす外
金のサービス業に従事しており、なかでもドイツに
国人労働者に無期限の滞在・労働許可を附与する、
*9
流入したトルコ人は 400 万人を超えているが、タク
(3)ドイツ語のできない外国人に基礎ドイツ語の
シー運転手などロースキルで、賃金の低い職業に甘
習得やドイツ文化の学習を義務づける、(4)移民
んじている者が少なくない。
が呼び寄せられる子どもの年齢制限を 16 歳以下か
このように外国人労働者とドイツ人との賃金格差
ら 12 歳以下に引き下げる、という4点を柱とする
(毎日新聞 2002 年3月 20 日付)。
が社会問題となる一方、ドイツはIT(情報技術)
労働者不足という問題も抱えている。
同法案は両院を通過したものの、バーデンビュル
そこで、シュレーダー首相は、2000 年にITを
テンベルク、バイエルン、ヘッセン、ザールラント、
専門とする労働者の確保をめざした独自の「グリー
ザクセンおよびチューリンゲン州の各州政府が憲法
ンカード計画」を発表した。これにもとづき、政府は、
に違反するものとして連邦憲法裁判所に違憲提訴
同年7月に2万人のIT専門労働者に特別労働許可
し、同裁判所は 2002 年 12 月 18 日に違憲判決を下
証を発行して受け入れるグリーンカード制度を導
した(田中 2002)。その後、2004 年7月に新移民
入、2001 年8月までの1年間にインド、中・東欧
法が 2004 年7月に連邦参議院で可決し、8 月に成
諸国などから 8,600 人のIT技術者を受け入れた。
立し、2005 年1月に発効した。その内容は基本的
*9:ドイツの労働市場は独自のデュアルシステムという職業訓練制度をベースとするが、
転職が難しく、柔軟性に欠けると指摘されている。
08
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には違憲と判断された旧法案の内容を引き継いだも
一部の欧州諸国では外国人に対する不信感が強まっ
のだが、①従来5種類あった在留許可の種類を期限
ており、世論は外国人の流入に難色を示している。
付きの滞在許可と期限のない定住許可の2種類に整
しかし、ドイツが近い将来労働力不足に陥ることは
理し、②移民のドイツ社会への統合を促進するため
確実で、国外から労働力を確保しなければならない
に統合コースおよび統合プログラムの規定を設けた
現実がある。今後、ドイツがこのジレンマにどのよ
うな結論を出すか、注目されるところだ。
(田中 2004)。
アメリカの同時多発テロ以降、
ドイツを始めとする
<参考資料>
自治体国際化協会 1997 財団法人自治体国際化協会ニューヨーク事務所「海外の行政施策 米国における移民政策の動向」
http://www.clair.or.jp/j/forum/forum/gyosei/082/INDEX.HTM
井口 2001 井口泰『外国人労働者新時代』ちくま新書 2001 年
田中 2001 田中伸世「ドイツの人口問題と移民政策」
ITI四季報 Winter2001/No.46
http://www.iti.or.jp/kiho46/46tanakan.pdf
Kettmann2001 Steve Kettmann「ドイツのIT労働者不足、原因はどこに?」Hotwired Japan 2001 年4月 11 日 海外労働時報 2002 日本労働研究機構『海外労働時報』2002 年6月
外国人雇用問題研究会 2002 厚生労働省「外国人雇用問題研究会報告書」2002 年7月
http://www.mhlw.go.jp/topics/2002/07/tp0711-1.html
佐藤 2001 佐藤康夫「イタリアにおける移民問題」Japan-Italy Business On-Line, Special Report, 2000 年 12 月−2001 年2月 田中 2002 田中伸世「ドイツの新移民法に違憲判決」財団法人国際貿易投資研究所フラッシュ 41 2002 年 12 月 20 日
http://www.iti.or.jp/flash41.htm
田中 2004 田中伸世「生産年齢人口の減少に歯止めをかけられるか∼ドイツ『新移民法』の概要」財団法人国際貿易投資研究所フラッシュ 72 2004 年 11 月 16 日
http://www.iti.or.jp/flash72.html
*ドイツ新移民法概要については、厚生労働省「ドイツ新移民法概要」2002 年7月を参照
http://www.mhlw.go.jp/topics/2002/07/dl/tp0711-1m3.pdf
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3. 国際人材交流の可能性と展望
可決し、
外国籍のIT技術者や一般の外国人永住権資
格を大幅に緩和するなど(IT技術者は、
今後居住年
(1) 不法就労者対策と専門技術労働者の受入れ
数にかかわらず審査に合格すれば永住権を取得でき
どの先進国も不法就労者・不法移民対策を強化し、
るようになり、
一般の外国人も台湾に7年以上居住
単純労働に従事する外国人の数を制限しつつも、
高い
し、
毎年の居住日数が 183 日を超えているケースに
専門性を持つ技術者の取り込みには積極的である。
こ
ついては、
永住権を申請できる。
以上、
台北経済日報
れまでのところ、
アメリカは、
技術者の取り込みには
2002 年5月 15 日付)
、
積極的な政策を導入している
成功したが、
不法就労者・不法移民対策は難航してい
国が少なくないにもかかわらず、
である。
る感がある。
ドイツは、
グリーンカード計画によりI
もっとも、
2010 年に策定された第4次出入国管理
T技術者を国外から確保しようとしたが、
目標の数値
基本計画は(法務省 2010)
、
専門的、
技術的分野にお
を達成できず、
不法就労者・不法移民対策も万全では
ける外国人労働者の受入れを促進することを明記し
ない。
しかし、
日本の対応はさらに遅れている。
ているので、
今後進展していくと期待される。
一方、
技術者の取り込みに対してはアメリカやドイ
ツのような積極的対策を導入することもなく、
完全に
(2) 外国人研修・技能実習制度
後れを取っている。
1994 年にアメリカがNAFTA
外国人研修・技能実習制度は、
開発途上国の人材育
の批准に伴うNAFTA専門職労働者ビザを導入し
成強化を目的に創設された制度であるが(外国人研
ていることや、
EUがEU域内の労働移動を自由化
修制度は 1990 年に大幅改善、
技能実習制度は 1993
し、
2006 年 を「労 働 者 移 動 年(European Year of
年創設)
、
技術移転システムの側面と労働力需給シス
Mobility 2006)
」
として域内の労働者移動を促進して
テムの側面を併わせ持っている(佐野 2002)
。
日本
いることを含めて考えると(European Year 2006)
、
が受け入れている研修生・技能実習生は、
年間約4万
日本の外国人労働者政策を含めた労働市場政策の立
8,000 人(1999 年の数字。
前掲佐野 2002)
。
これは
ち遅れはさらに顕著である。
アジア地域を見ても、
台
欧米諸国が研修生の名目で受け入れている外国人数
湾が 2002 年5月に「出入国および移民法改正案」
を
と比べると、
非常に多く(ドイツ2万 5,000 人、
アメ
日本の外国人研修・技能実習制度の概要
研 修
該当在留資格
技能実習
法務大臣の「特定活動」
「研修」
労働者性
労働者性はなく、就労は認められない
労働者として取扱われる
対象となる職種の範囲
入管法令の要件を満たすもの
66 職種 123 作業(2010 年7月1日現在)
処遇条件の明確化
研修時間、研修手当等の条件を定めた処遇
通知書を交付する
労働条件に関する雇用契約書又は労働条件
通知書を交付する
受入れ機関の保障措置
生活の実費としての研修手当を支払う
労働の対価としての賃金を支払う
時間外・休日従事の適否
時間外・休日研修は行えない
時間外・休日労働は行える
外国人に対する保護措置
入管法令に基づく保護を行う
労働関係法令に基づく保護を行う
傷害・疾病への保険
民間保険への加入が義務付けられている
国の社会保険労働保険が強制適用される
10
発行・監修:株式会社リクルートホールディングス リクルートワークス研究所/発行日:2011 年 1月21 日 更新日:2012 年 7月17 日
リカ 3,000 人、
フランス 500 人など)
、
制度として定
他方、単純労働者の受入れについては依然として
着している一方、
研修生・技能実習生の失踪・逃亡や
慎重論が根強い。外国人が増えることで治安が悪化
賃金の搾取といった問題も顕在化している。
しかし、
するのではないかという不安は、特に日系人を多く
外国人技能者の雇用は現行法上、
難しいため、
技能者
受け入れている地域で深刻のようだ。事実、日系人
不足に悩む企業にとっては、
利用価値の高い制度であ
をはじめとする「(在留資格)定住者」による犯罪
る。
手続きの簡素化や期間の延長を行い、
さらに使い
は相当数発生している。そのため、法務省入国管理
やすく改善しつつ、
研修生・技能実習生の生活・健康
局は、2006 年4月より日系人およびその家族が定
面の管理や就労状況の把握を十分に行うことができ
住者の在留資格を取得する要件に「素行が善良であ
るよう、
制度を再設計する必要がある。
ること」を追加することで、資格審査を厳格化して
いる(平成 18 年4月 29 日施行)。
(3)
今後のあり方
深刻な少子高齢化を考えると、外国から労働力を
外国人労働者に対する日本の門戸が開かれつつあ
受け入れる必要があることは否めない。しかし、外
ることは間違いない。専門的、技術的分野において
国人労働者が持ってくるのは労働力だけではない。
外国人労働者を積極的に受け入れていく方向性にあ
日本と異なる文化、風習、言葉、そして直接の労働
るのは間違いなく、世論も政府の方針に強い反対を
力とはならない家族。彼ら・彼女らにとってはどれ
示していない。しかし、実際に日本に来る高度人材
も大切なものだが、日本社会はどこまで許容できる
はあまり増えていない。これは、高度人材にとって
のか。ただ、日本に来た外国人労働者を最初から拒
日本が魅力的な国ではないからだと思われる。賃金・
絶することは避けなければならない。拒絶と排除が
労働条件や社会的な受入れ姿勢をみると、欧米諸国
悲しい結末を迎えることは歴史的にあきらかだ。外
の方が魅力的だ。どのようにして高度人材に来ても
国人労働者の受入れを推進していくと決めた以上、
らうか。在留資格の要件を緩和したり、在留期間を
彼ら・彼女らとどのように共存していくかを真剣に
伸長したりするだけでは十分とはいえないだろう。
考えていく必要がある。
<参考資料>
佐野 2002 佐野哲「外国人研修・技能実習制度の構造と機能」
一橋大学経済研究所世代間利害調整プロジェクト・ディスカッションペーパー No.53 2002 年1月 http://www.ier.hit-u.ac.jp/pie/Japanese/discussionpaper/dp2001/dp53/text.pdf
法務省 2010 法務省入国管理局「第4次出入国管理基本計画」2010 年3月
http://www.immi-moj.go.jp/seisaku/keikaku_101006_honbun.pdf
European Year 2006 European Year of Workers Mobility 2006 (English website),
http://europa.eu/legislation_summaries/internal_market/living_and_working_in_the_internal_market/c11333_en.htm
11
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参考資料の URL 一覧
資料名
No.
1
事業所規模別外国人雇用事業所の割合
2
産業別外国人雇用事業所の割合
3
在留資格別外国人労働者の割合
4
国籍別外国人労働者の割合
5
在留資格一覧
6
外国人技能実習制度の趣旨
7
外国人技能実習制度の概要
8
不法就労者の就労内容別構成
9
外国人労働者数の推移
10
不法残留者数の推移
11
外国人登録者数・わが国の総人口の推移
12
「研修」の在留資格による主な国籍別(出身地別)新
規入国者数の推移
13
治安問題(来日外国人犯罪)
14
インドネシア人看護師・介護福祉士候補者の受入れ
15
フィリピン人看護師・介護福祉士候補者の受入れ
16
専門・技術的分野における政府の方針について
17
現場労働的分野における政府の方針について
18
看護・介護分野の受入れについて
19
外国人労働者の受け入れに対する行政の取組みにつ
いて
20
外国人労働者の受け入れに対する企業の取組みにつ
いて
出 所
厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況」
(平成 21 年 10 月末現在
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r985200000040cz-att/2r985200000040eq.pdf
厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況」
(平成 21 年 10 月末現在
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r985200000040cz-att/2r985200000040eq.pdf
厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況」
(平成 21 年 10 月末現在
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r985200000040cz-att/2r985200000040eq.pdf
厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況」
(平成 21 年 10 月末現在
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r985200000040cz-att/2r985200000040eq.pdf
東京外国人雇用センター「在留資格一覧表」
http://www.tfemploy.go.jp/jp/data/reside.html
財団法人国際研修協力機構
http://www.jitco.or.jp/system/seido_enkakuhaikei.html
財団法人国際研修協力機構
http://www.jitco.or.jp/system/seido_enkakuhaikei.html
法務省入国管理局「平成 21 年における入管法違反事件について」
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/PRESS_100309-1-1.html
社会実情データ図録
http://www2.ttcn.ne.jp/~honkawa/3820.html
法務省入国管理局「本邦における不法残留者について(平成 22 年 1 月 1 日現在)
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/press_100309-3.html
法務省入国管理局 「平成 21 年末現在における外国人登録者統計について」
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri04_00005.html
法務省入国管理局 「平成 21 年版出入国管理」
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyukan_nyukan90.html
警察庁刑事局組織犯罪対策部国際捜査管理官 「来日外国人犯罪の検挙状況(平成 20 年)
http://www.npa.go.jp/sosikihanzai/kokusaisousa/kokusai6/rainichi.pdf
厚生労働省ホームページ
http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/other21/index.html
厚生労働省ホームページ
http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/other21/index.html
財団法人経済広報センター「外国人労働者の受け入れに関するアンケート結果報告書(2004 年)
http://www.kkc.or.jp/society/network/nwt_21.pdf
財団法人経済広報センター「外国人労働者の受け入れに関するアンケート結果報告書(2004 年)
http://www.kkc.or.jp/society/network/nwt_21.pdf
財団法人経済広報センター「外国人労働者の受け入れに関するアンケート結果報告書(2004 年)
http://www.kkc.or.jp/society/network/nwt_21.pdf
財団法人経済広報センター「外国人労働者の受け入れに関するアンケート結果報告書(2004 年)
http://www.kkc.or.jp/society/network/nwt_21.pdf
財団法人経済広報センター「外国人労働者の受け入れに関するアンケート結果報告書(2004 年)
http://www.kkc.or.jp/society/network/nwt_21.pdf
12
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