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4.能力開発 - 海外職業訓練協会

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4.能力開発 - 海外職業訓練協会
4.能力開発
4 能力開発
事例4-1 保全要員の能力開発
関連情報
1.企
業
の
業
種
製造業
2.問 題 の あ っ た 時 期
1999 年 4 月頃
3.体験の際の職種・職務
現地法人社長
4.場 所 ( 州 又 は 都 市 )
タンゲラン県
A.困難事例の概要
機械工場では設備保全が大きな課題である。そして保全要員の能力開発は生産
要員よりもはるかに困難である。そのため、社内での訓練だけではなく、日本の
親会社へ出張させたり、設備メーカーでの研修に参加させたりするなど、時間と
お金をかけて育成している。
そのような状況の中、せっかく育てた保全員が突然転職してしまった。給料が
2 倍も高いからとのことであった。
B.対処概要
優秀な保全員は高い給料で転職しやすいということは聞いていたので、注意し
ていたが、研修などで他社の友人ができて情報が入ってきたようである。辞めた
彼は保全のリーダーであったので、その代わりとなる者を取引先の自動車会社に
頼んで来てもらうことにした。数人の候補者の中から一番優秀な人を推薦しても
らって採用した。結果的には「インドネシアには数十人に一人、ずば抜けて優秀
な人材がいる。
」と言われるとおりの人材であった。日本の親会社で研修させたと
ころ、親会社の保全員が驚くほど優秀であった。以後、彼をリーダーとして保全
員の教育を社内で行っている。
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4 能力開発
C.教訓(知っておくべき情報・教訓など)
製造工場にとって設備保全の良否が大きなウエイトを占めている。優秀な人材
を採用できたため、短時間で育成でき、今まで設備の長時間停止はない。
1.
「インドネシアには数十人に一人の割合で非常に優秀な人材がいる。
」と言わ
れるが、取引先など多くのところに声をかけて、その人材を探し出すと良い。
2.せっかく育成した人が転職してしまうのは、ある程度は仕方がない。しかし
中核となるような人は、会社として工夫して離さないようにする。手段として
は給料、ボーナス、職位などのほかに、日本人駐在員が十分にコミュニケーシ
ョンを図ることが重要である。また「結婚して家を持つと落ち着く。
」と言われ
ているので、「ある職位以上の者には家の購入に際し、会社から頭金を貸し出
す。
」という制度を作って持ち家保有率を上げた。
3.保全員の能力開発は、インドネシア人のリーダーを中心に訓練計画を作り、
できるだけ社内で訓練できるようにした。社内だけでは無理な場合のみ、先生
に来てもらうようにした。
56
4 能力開発
事例4-2
役職者の責任追及と社員教育
関連情報
1.企
業
の
業
種
製造業
2.問 題 の あ っ た 時 期
2005 年 1 月
3.体験の際の職種・職務
ディレクター
4.場 所 ( 州 又 は 都 市 )
パスルアン
A.困難事例の概要
赴任した際、工場内の職位そのものは 8 種類、職位保有者は約 40 名であり、120
名足らずの全従業員数に対し、あまりにも多過ぎた。一応「年功序列的」職位授
与・昇進が行われてきたように思われるが、それまでの昇進制度・給与体系そし
て能力査定があまりにも不明確で、雰囲気に依存し過ぎていると考えられた。
また、赴任当初、在庫帳簿残高と棚卸残にあまりにも大きな差異があり、在庫
違算について、当時の役職者は誰一人として納得のいく説明ができる者はいなか
った。このことは「能力」の問題というより、不正行為が行われていることを物
語っており、当時のマネージャークラスを追及する原点となった。何事において
も、判断が「勘定」ではなく、
「感情」によって支配されていたのである。当然、
是正する必要があった。
しかし、あからさまな解雇・降格を希望するわけでも、また、できるわけでも
なかったため、時間を要することは必至と考えながら、当時の各職位保有者の「能
力開発」と「能力」に見合った昇格・配置転換などと合わせ、職位数・職位保有
者の削減をもくろむこととなった。
案の定、各職位保有者から様々な形で反発を得ることとなった。職位高位者の
中には曖昧な態度で沈黙を保つ者がおり、中級者には他の徒党と共に一種デモの
ような行為を試みようとするグループが発生した。下位職位者や一般ワーカーら
は、上位者の人気投票、下馬評に忙しいといった体たらくであった。長い間、非
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4 能力開発
常に混乱した時期があり、中には感情的に P4D(地方労働紛争終了委員会)
、P4P
(中央労働紛争終了委員会)へ訴状を上げる者も現れたが、多くの職位保有者が
自己都合退職を表明し、それに伴って職位数そのものを減らすことができた。3
年後、全従業員数は当時と同様 120 名で、職位 4 種類、職位保有者約 20 名となっ
た。
単に役職者や職位数を減らせたということだけでなく、今では赴任した当時に
比べて、風通しが非常に良くなり、情報の流れなどは、少なくとも前よりは会社
らしくなったのではないかと考えている。
親会社にとっては初めての工場であり、
日本人管理者は一人だけ、かつ技術系出身でないということなどを考えると、他
の会社であれば、もっと早く、もっと確実に達成されることと思われる。
B.対処概要
第一 職位の意義、昇進・降格の時期など
1.不正が行われていることは確実であったが、問題は首謀者を知る証拠がない
ことであり、ほとんどの者が沈黙を維持しているため、究明は不可能であると
考えられた。そこで、会計諸表と現実との差異を質していくという正攻法を取
ることとし、上位者から在庫問題について質問攻めにした。シニアマネージャ
ーが損益計算書上に示される在庫金額の意味すら把握しておらず、プロダクシ
ョンマネージャーが材木のロス量の計算をしたことがないなど、上位者が職務
を果たせていないことを徹底追及した。結果、立て続けに基幹と思われていた
上位職位者が退職して行った。
2.「何も知らないのに、新任ディレクターは役職者、それも経験のある現地管
理者を立て続けに辞めさせている。狂人だ!」と、周辺の日系企業の人事担当
者、ローカル運転手なども言っていたことを後になって知ることになるが、そ
の情報を流布させたのは、辞めていった者、あるいは彼らに同調する内部の職
位保持者であった。そのことを知った後でも「狂人というのは多分本当であろ
うが、辞めさせているというのは事実ではない。彼らが自分で辞表を出してい
58
4 能力開発
るだけだ。
」と多方面で情報修整を行った。もちろん「辞表を出すのも無理はな
い、毎日ディレクターがおっかない顔で『違算の理由は?』
、
『役職者が知らな
いですむか!?』と追求し続けるのだから。
」ということには触れることはなか
った。
3.在庫違算問題から役職者の責任を追及することで、それまでに存在していた
問題点を明確にし、各役職者の義務を認識させようとした。役職者が退職する
ことは工場運営問題をはらんでいることを意識してはいたが、役職者辞任によ
る生産の問題は驚くほど少なく、役職者の存在とは別に、一般ワーカー・現場
リーダーらが予想以上に職務遂行力を持っていることに痛く感心することとな
った。このことから役職者を単に年功序列的に決定したり、語学力だけで判断
したりするのでなく、もっと広範囲に現場の人間を引き上げられるよう、現場
への滞留時間を長くするように意識した。原因も結果も現場にあり、関与する
者の態度・能力などは言葉をへずとも認知できる部分が多くあった。
4.昇進・降格の判断については、人事と何度も打合せを繰り返し、必要に応じ
て関係者あるいは当人のインタビューなども試みた。昇進させたい場合、
「単に
給料が上がるだけでなく、それに応じて義務・責任が増えること。役職者の意
味、何を期待されているのか?」など時間をかけて教示した。また降格の場合、
大きなミスといえども、数回のミスで降格するのでなく、回数を繰り返すごと
に、怒鳴り方のトーンを強くしながら、ミスから生じる想定損失金額を周囲に
公表し、やむを得ず降格することを周知させた。上げるにも下げるにも時間を
かけることに意義があると思っていた。
第二 社員教育、能力開発
1.ディレクターは日本人がこの会社に一人しかいないことから、日本語が話せ
る役職者らに対する評定は当初から甘かったといえる。しかし、日本語が話せ
るということと、日本語を理解するということには大きな差異があることを学
習し始めた後は、しいて日本語を社内で使わないように努めた。
59
4 能力開発
ディレクター(私)が特定のローカルスタッフと日本語で話すのを聞いてい
ると、日本語を話せない者たちがいたずらに劣等感を抱くようになると考えた
のである。
2.赴任して数年が経つと、当社では誰もお客様にあいさつをしないことが意識
されてきた。製品はすべて日本へ輸出していることからも、大半のお客様は日
本人であったため、日本での新人教育のように、お辞儀の仕方から教育し始め
た。会釈・あいさつ・最敬礼の意味を教え、
「第一印象だけでも良くしよう。
」
と励ました。また工場清掃・トイレの掃除などには全員が参加することとし、
例外は認めなかった。文句が挙がっても、ディレクター(私)が目の前で便器
の洗い方などを実演するため、皆も黙って従うほかなかった。
3.役職者には「社に必要なもの。Uang(お金), Barang(物、品), Orang(人)
の3ng である。
」から始まり、基礎的な財務諸表の見方を教えたり、マーチャ
ンダイザーとバイヤーの意義の違いを説いたりして、
「ディレクターは営業出身
の管理者であるが、少しは教示できる。
」ことを示し続けた。
専門知識に限らず、ものの考え方などについても言及していったが、人と機
械の違い、コンピュータは文房具の一種であること、自分と神様だけには嘘を
つけないことなどの話には特に大半の者が強く感心を抱いていたようである。
4.「ディレクターの妙な説法は終業後に行われるが、望まない者には教示しな
い。
」と明確に示すと、意外と「残業代を出してほしい。
」という者は発生しな
かった。ただ、教わったことを他の下級者に必ず伝達することを条件とした。
5.生産現場担当者の多くは文字でレポートを作成することができず、すべてを
口頭での報告に頼っていた。後になると、
「ディレクターはまだインドネシア語
(英語)を良く知らないから誤解があったのでしょう?」と主張されることが
多かった。
そのため、
「報告は文書とともに行うこと!」
を徹底しようと努めた。
ディレクター(私)のインドネシア語能力は、インドネシア語の報告書を読む
にはお粗末過ぎたが、文字にしなければならないことが義務付けられてからは
「そんなことは言っていません。
」という者はいなくなった。
60
4 能力開発
6.文書提出を習慣付けると、今後はワープロを使いたいと言う者が多くなった。
特に現場責任者らの多くは高卒でコンピュータのスイッチを入れたこともない
者が多くいたため、休日を使ったコンピュータ基本知識の習得、ワープロ作法
の基本学習などを認めた。もちろんそのための残業代も出さないし、昼食の配
給もないことを周知させた上でのことであった。先生役は人事と経理担当の女
性二人であり、彼らも同じ条件で教授役を務めてもらった。
この勉強会はその後、かなり不定期になりながらもエクセル・メーラー・フ
ォトショップなどを対象とし、現在も続けられている。まれにではあるがディ
レクター(私)が先生になることもある。
7.社員の方から「学びたい」といってきた場合は、できる限り実現してやって
きた。その前に目的・計画を文書で作らせ、事後、結果をやはり文書で提出さ
せた。結果報告書内で反省点を書くよう指示されているため、今後はどうすべ
きかについて書く必要がある。これらの記述は、彼らの考え方の訓練のために
用意されたものであった。特にスタッフ以上にはすべての報告様式をこの形式
に合わせるよう指示しており、
社内ドキュメント様式の統一、
報告形式の統一、
考え方の統一に役立っている。この様式以外の報告は、ディレクター(私)が
受け付けないからである。
8.会社は組織体の一つであり、報告・相談・確認のできないものは会社には
必要なく、阻害原因となること、我々はチームで活動していることを絶えず
教示し続けた。
そしてころ合いを見て、生産・人事・経理の三大筆頭者を明確にし、彼らに
は情報をすべてオープンにし、すべてにおいて彼らの意見を聞き、問題があれ
ば彼らに解決を求めた。彼らが当社の次席者であり、その他の社員の先生役で
ある。
C.教訓(知っておくべき情報・知識など)
1.
「一度鯛を食い始めれば、メザシに戻ることはできない。
」のは日本だけでは
61
4 能力開発
なく、インドネシアも同じである。問題は、役職を与えれば頑張るだろう、役
職を与えれば能力が向上するだろうと考えたマネージメント側にあると思われ
る。それを新任ディレクターが来た途端に「役職者の責任とは?必要能力と
は?」
などと、
それまで聞いたこともないようなことをわめき始めたのである。
「狂人だ!」と言われるようなるのは必至であったが、鯛を食える責任とメザ
シを食う責任・職務の差を明確にしなければならない。
2.昇格の決定に時間をかけることは、その後の結果を見ても意義のあること
と思われたが、降格に時間をかけるのは、場合によっては当事者を増長させ、
反旗を翻す時間を与えることにもなった。そのことを理解した後、降格人事
はスピーディに行うべきであることを意識し、容赦しなくなった。
3.日本語を話せるという理由で雇われたローカルスタッフが必ずしも日本的業
務遂行方法を知っているわけではないということは明らかであった。ディレク
ターがホームシックにならないようにするお飾りにしかなっていないのであり、
やはり現地語あるいは英語を少しでも多く習得する必要があった。
4.相手がやる気のない者でない限り、時間と手間をかければそれなりの成果が
発生するものと考えられる。本当の誤解も実際にあり、明らかに言葉の違いか
ら発生している場合や、日本的業務プロセスを知る者と知らない者との間で発
生する場合など様々である。
「部下が上司に従うのは当たり前だ。
」というだけ
ではどうしようもない時があり、教育的指導、技と道の両方の教示が必要であ
る。
「甘い、甘い。
」と感じる時、部下の作ったコーヒーの砂糖のさじ加減を怒鳴
るより、自分の教え方が足りないというさじ加減の甘さを自戒すべき時が多く
あった。
5.当社のような小企業では、外部の専門講師を呼んで新人教育・スタッフ教育
をしてもらうほどの余裕はない。可能な限り、外部でのセミナーなどに参加さ
せてやろうと考えて半強制的に各種セミナーへの出席を何度か指示したが、そ
の時はレポートなどによる報告・説明はなされるが、半月も過ぎると忘れ去ら
62
4 能力開発
れるようであり、今のところ外部機関の講習は実を取れていない。
6.
「合すれど議せず、議すれど決せず、決すれど行わず、行えども徹せず。
」と
は、かつて大先輩が「この意味が解れば一人前だ!」と教えてくれた文句であ
るが、残念ながらいまだこの意味を解しかねている。が、今はむしろ「議せず
とも合さねばならぬ、
決せずとも議せねばならぬ、
行わずとも決せねばならぬ、
徹せずとも行わねばならぬ。
」とうそぶいている。いろいろ教えた後はやらせて
みて、問題があれば修正・変更などを行う。そして、またもう一度繰り返す。
芸がないが、この方法が実効力のある方法ではないかと思っている。
63
4 能力開発
事例4-3
セミナーの励行
関連情報
1.企
業
の
業
種
建設業
2.問 題 の あ っ た 時 期
1984 年 2 月頃
3.体験の際の職種・職務
プロジェクトマネージャー
4.場 所 ( 州 又 は 都 市 )
ジャカルタ
A.困難事例の概要
電気工事屋は免許がないと電気工事の仕事をしてはいけない。これは日本での
話である。当地インドネシア共和国においては、だれでも電気屋になることがで
きる。免許制度はない。非常に怖い話である。スタッフは知識が乏しく、作業員
には知恵がない。未だに火災の原因は八割方が漏電事故と聞く。多少の知識、そ
して器用さだけで作業をしているからだろう。
B.対処概要
1970 年ごろの日本の現場では、ツールボックスミーティングなるものがあり、
昼休みの終わり 15 分を利用し、コーラやジュースを用意して全員を集合させ、電
気の知識を指導していた時代があった。
これを当地の作業員に活用し(コーラは高いので、テーボトル[ビン入りのお
茶]にした。
)
、一週間に一回、勤務時間外に講師をそれぞれの各部署から出して
交代でセミナーを行った。また、図面、書類等をフォーマット化し、スタッフに
徹底活用させた。
C.教訓(知っておくべき情報・知識など)
「若いときの苦労は買ってでもしろ。
」
「苦労を重ねて経験したものを知恵とい
、
い、
売ることも買うこともできない無形の財産である苦労は忘れてはいけない。
」
、
64
4 能力開発
よく聞いた言葉だが、すべてではないが当地の人はどういう訳か忘れるのが好き
なようだ。人間はたくさんいるが、人材がいない。これを頭に置き地道に人材育
成を進める必要がある。
65
4 能力開発
事例4-4
能力開発
関連情報
1.企
業
の
業
種
製造業
2.問 題 の あ っ た 時 期
2001 年 3 月~2005 年 9 月頃
3.体験の際の職種・職務
アドバイザー
4.場 所 ( 州 又 は 都 市 )
ブカシ県
A.困難事例の概要
日系進出企業、現地独立資本企業を問わず、従業員の構成は同じと考える。ど
の企業も同一地域出身者で構成されるというのはまれであり、ほとんどの企業は
インドネシア全域からの出身者で構成されている。したがって就業姿勢、労働観
は宗教、地域の習慣により様々であり、企業が能力開発をどの層に行うかを絞る
必要がある。
従業員を分類すると下表のようになる。以下の内容は、主として現地独立資本
企業(以下、
「現地企業」という。
)における現状について限定して述べる。
表
直接作業者
従業員の分類
間接作業者
管理職
h.アシスタント・
a.有期雇用契約工員
c.フォアマン(班長)
(3 ヵ月~6 ヵ月)
d.グループリーダー(組長)
マネージャー
b.無期雇用契約工員
e.スーパーバイザー(職長)
i.マネージャー
(満 55 歳定年まで勤務
f.スタッフ(営業、財務、購買、
j.ジェネラル・
可)
生産管理、品質管理、技術、倉庫、
生産技術、設備、総務)
g.契約スタッフ(職掌は同上)
66
マネージャー
4 能力開発
能力開発というのは、意欲のある人に対してその人の資質をさらに広げ、向上
させるために行われるべきであり、現状に甘んずる人々に対して行うのは双方に
とってロスである。この分類表からみると、契約工員は例外を除き、企業にいる
期間が長くても1年間程度であるので、
能力開発プログラム
(新規プロジェクト、
外部団体からの期間限定指導など)への参加を考慮されることは少ないのが現状
となっている。中には契約工員、契約スタッフであっても、企業が見込みありと
判断した場合は、こういったプログラムに加えられることもある。通常、企業が
能力開発の対象
(新プロジェクト、新製品生産準備への参加、
社外講習会への出席)
にしているのはフォアマン(班長)以上の人々となっている。
概して現地企業では、大小を問わず企業が率先して社内で能力開発を行うケー
スは少ない。
なぜならば経営者は即戦力を常に念頭に置いた経営指向であるため、
長期的視野に立ち、企業全体のレベルアップを図ることについては意欲が乏しい
のが現状であるからだ。新事業を立ち上げる際は、他企業からのトレードや、他
企業の定年退職前のエキスパートなどを雇用するのが常である。
上表と学歴は関係がなく、管理職以外で、学歴が高校卒業者で、かつ学習意欲
の旺盛な人は次のステップとして D1 から D3(diploma1,3(ディプロマ 1、3)
:短
大、専門学校卒)を目指し、さらに次の S1(Sarjana1(サルジャナ 1)
:大学卒
業者)へと移行していく。また S1 に満たない人でも学習意欲(高学歴志向)のあ
る人は、学資をためて夜学に通い、S1 を取得して他企業へ移るケースもよく見ら
れる。なぜならインドネシアは学歴社会、階層社会であり、学歴がないと高賃金
を得る機会に恵まれないのが実情であるからだ。しかし、同一企業内で同一層、
または層別間内での競走意識はなぜかほとんどみられない。
また、能力開発の一環として社外講習会への出席をした後に、習得した知識を
社内に持ち帰って水平展開をすることは少なく、ほとんどは個人の財産として保
有されるのが現状である。この傾向は近隣国でも同様であったと記憶している。
67
4 能力開発
B.対処概要
企業が能力開発を行う場合、永続して企業に貢献できる間接作業者、管理職の
中で意欲のある人を選んで実施されると思うが、前記した知識の水平展開が自然
に図られない環境下では、個人ベースで講習会に出席させるのではなく、社外か
らエキスパートを招聘し、関係者に一斉に学習と技能習得の機会を与え、社内、
現場での同一技術の標準化を図り、定期的にその知識・技能の定着を目的として
全対象者に対して展開していく必要があると考えている。
C.教訓(知っておくべき情報・知識など)
社外講習や学習会に出席させる場合は、一定期間、その企業を離れないような
仕組み(刺激と優遇政策)を企業が制定し、知識・技能の定着を考える必要もあ
る。社内での学習、技能講習会に出席し、修了した人にも社内技能検定制度など
を取り入れ、知識・技能の標準化と向上を図る意味で、社外からの引き抜きに対
処することも求められる。
68
4 能力開発
事例4-5 ローカル社員の能力開発の計画的な実行
関連情報
1.企
業
の
業
種
製造業
2.問 題 の あ っ た 時 期
2001 年 7 月頃
3.体験の際の職種・職務
全社社員
4.場 所 ( 州 又 は 都 市 )
バンテン州
A.困難事例の概要
1.当時、当社は営業開始後約 4 年を経過していたが、社員の能力開発計画は試
行錯誤の段階であり、かつ中東地域へ毎年 15~20 人の社員が引き抜かれていた
こともあり、社内では社員の能力開発を行うことに否定的な意見もあった。
2.一方、各部単位では主として社員の希望に応じて外部セミナー出席等の機会
を与えていた。ただし、当該教育受講に関するリポート、評価はなされていな
かった。
3.
当時から社員各人の報酬・昇格の基礎となる業績評価制度を運用していたが、
そこで上司と合意した能力開発ニーズが、実際の実行にまでつながっていなか
った。
4.オペレーターの統一的な能力開発計画がなかった。
B.対処概要
1.ローカル社員を含む幹部社員間で徹底議論を行い、当社の競争戦略上の必要
性に照らし、社員の能力開発を計画的に強化すること、また、社員の引き抜き
は別の対応策で減少させる方針を決定した。
2.年間計画で全社重点能力開発方針(領域、達成目標、支出予算等)を策定し、
その全社方針に基づき各部が具体計画を策定し、実施する。
3.各部の計画は、業績評価制度の上司・部下間の話し合いを通じ合意されたも
69
4 能力開発
ののうち、全社の方針に沿うものを重点的に取り上げる。
4.TPM(Total Productive Maintenance:全員参加の生産保全)教育を実施する。
5.
能力開発の結果はリポートさせるとともに、
上司はその評価を必ず実施する。
6.職務ごとに業務必要能力表を作成し、それに照らした能力評価・開発の必要
性を定期的にレビューする。
7.実際の結果を見ると、計画は必ずしも当初の計画通りには進んでいない。社
員数減少に伴い時間的余裕がないこと、上司・部下間の話し合いが不十分なこ
と、評価者に十分な能力がないこと等が原因であろう。評価者の一層の能力開
発が緊急課題である。
C.教訓(知っておくべき情報・知識など)
1.社員一律ではなく、階層グループごとの能力開発目標設定が必要。
2.限られた人員・時間の中で完璧な制度運用は無理。重点化が必要。
3.能力開発の実施者・評価者の能力開発が肝要。
70
4 能力開発
事例4-6
日本に研修出張させたが
帰国日に姿を消してしまった
関連情報
1.企
業
の
業
種
製造業
2.問 題 の あ っ た 時 期
98 年 10 月頃
3.体験の際の職種・職務
現地法人の社長
4.場 所 ( 州 又 は 都 市 )
タンゲラン県
A.困難事例の概要
ある日、日本の親会社から電話があり、
「研修で来ていた P 君が、朝早く寮を出
たまま帰ってこない。彼の部屋はきれいに片付けられていて何も残っていない。
」
ということであった。
「しまった!あれほどよく話をしていたのに!」
と思ったが後の祭りであった。
P 君は工場設立時に採用した人達の一人で、将来は製造課長にするつもりで育
成していた。その時、本人は既に現場のフォアマンの一人であった。彼とは日頃
からコミュニケーションを密にして、十分な信頼関係を築いていたつもりであっ
た。
日本へ出張させたインドネシアの人が、日本で「行方をくらます」という事例
は以前から聞いていたので、それなりに手を打ってきたつもりであったが、
「まさ
か自分のところで起きるとは!」という驚きであった。
B.対処概要
現地及び日本でそれぞれ関係機関への届出を行った。
C.教訓(知っておくべき情報・知識など)
1.日本出張者に対しては親会社側に責任者を決めてもらい、マンツーマンでき
71
4 能力開発
め細かく面倒をみてもらうようにした。
2.寮の管理人に聞くと「2 度ほど友人だと名乗るインドネシア人が訪ねて来た。
」
とのこと。
日本での仕事探しを手伝うようなので注意が必要である。
彼は以前、
日本のある会社で 2 年間現場研修をした経験があるので、日本語はかなり上手
であった。
3.P 君は当然「不法滞在者」になってしまうので、関係部署・機関に多大な迷
惑をかけてしまうことをよく認識する必要がある。
72
4 能力開発
例4-7 新入社員教育をどのように実施すれば
効果が上がるのか分からない
関連情報
1.企
業
の
業
種
製造業
2.問 題 の あ っ た 時 期
2004 年頃
3.体験の際の職種・職務
現地法人の社長
4.場 所 ( 州 又 は 都 市 )
ブカシ県
A.困難事例の概要
新入社員教育をどのように実施すれば効果が上がるのか分からない。
B.対処概要
新入社員といっても、高卒と大卒では、別の教育を行うべきである。
1.高卒
高卒の場合、多くはオペレーターとして採用されているので、まずは社会人と
しての基本的な教育が必要である。
例えば、社会人としての基本姿勢・仕事に対するモチベーション・チームワー
クの重要性に加えて、会社規則・労働協約などの基本的なルールを教える必要が
ある。
2.大卒
大卒の場合、多くはリーダー、アシスタント・スーパーバイザー又はスーパー
バイザーとして採用されている。しかしながら、大卒とはいえ、社会経験という
点では、日本と比較にならないほどレベルが低いため、高卒と同様に社会人とし
ての基本的な教育(社会人としての基本姿勢・仕事に対するモチベーション・チ
ームワークの重要性)が必要である。また、会社規則・労働協約といったものも
教えるとともに、リーダーシップのトレーニングを行う。
73
4 能力開発
C.教訓(知っておくべき情報・知識など)
74
4 能力開発
4 能力開発(ローカルスタッフの研修) 関連解説
1990 年に従来の研修制度が改正されて、日本が技術移転により開発途上国にお
ける人材育成に貢献することを目指して、より幅広い分野における研修生受入れ
が可能となりました。
具体的には、従前の企業単独型の受入れに加えて、中小企業団体等を通じて中
小企業等が研修生を受け入れる団体監理型の受入れが認められました。これによ
り開発途上国にとっては、そのニーズにあった汎用性の高い技術・技能等が移転
されやすくなりました。同時に、日本の中小企業にとっても外国との接点が生ま
れ、事業の活性化等に役立つようになりました。
(出典) http://www.jitco.or.jp/contents/seido_enkakuhaikei.htm
4.1
外国人研修制度
外国人研修制度は、諸外国の青壮年労働者を日本に受け入れ、1年以内の期間
に、我が国の産業・職業上の技術・技能・知識の修得を支援することを内容とす
るものです。
入管法上の在留資格は「研修」です。
(1)研修生要件
研修生は、次の①及び②のいずれにも該当する者です。
①いずれの研修型態にも共通の研修生要件
・18 歳以上の外国人
・研修修了後母国へ帰り、日本で修得した技術・技能を活かせる業務に就く予定
がある者
・母国での修得が困難な技術・技能を修得するため、日本で研修を受ける必要が
ある者
②研修型態による個別の研修生要件
a.企業単独型研修の受入れの場合
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4 能力開発
・送出し国の国又は地方公共団体、あるいは、これらに準ずる機関の常勤の職員
であり、かつ、その機関から派遣される者
・受入れ機関の合弁企業又は現地法人の常勤の職員であり、かつ、その合弁企業
又は現地法人から派遣される者
・受入れ機関と引き続き 1 年以上の取引実績、又は過去 1 年間に 10 億円以上の取
引の実績を有する機関の常勤の職員であり、かつ、これらの機関から派遣され
る者
b.団体監理型研修の受入れの場合
・現地国の国・地方公共団体からの推薦を受けた者
・日本で受ける研修と同種の業務に従事した経験がある者
(2)研修生を受け入れることのできる受入れ機関
次の①及び②のいずれかに該当する企業
①企業単独型研修の受入れの場合
海外の現地法人、合弁企業、又は外国の取引先企業の常勤職員を研修生とし
て受け入れる日本の企業
②団体監理型研修の受入れの場合
日本の公的な援助・指導を受けた商工会議所・商工会、事業協同組合等の中
小企業団体、公益法人などが受入れの責任を持ち、その指導・監督の下に研修
生を受け入れる会員・組合員企業
(3)受入れ可能な研修生の人数
原則として、受入れ企業の常勤職員 20 名に付き、研修生 1 名の受入れが可能で
す。ただし、商工会議所や協同組合等を通じて受け入れる団体監理型研修は、受
入れ可能な人員の枠が緩和されます。
(4)研修の対象となる業務
修得しようとする技術・技能等が、同一の作業の反復(単純作業)のみによっ
て修得できるものではない業務です。
76
4 能力開発
(5)滞在期間
原則として 1 年以内です。
(6)研修期間
研修は、実務研修を伴う場合は、原則研修期間を非実務研修(研修生を集めた
集合研修[1 ヵ月 160 時間]を含む)と実務研修を 1:2 の割合で行わなくてはな
りません。
(出典)http://www.jitco.or.jp/contents/seido_kenshu.htm
4.2
技能実習制度
技能実習制度は、研修期間と合わせて最長3年の期間において、研修生が研修
により修得した技術・技能・知識が、雇用関係の下、より実践的かつ実務的に習
熟することを内容とするものです。
入管法上の在留資格は「特定活動」です。
(1)技能実習生の要件
次の条件をすべて満たす者です。
・技能実習を実施できる職種・作業について研修を修了した者
・技能実習修了後母国に帰り、我が国で修得した技術・技能を活かせる業務につ
く予定がある者
・在留状況等からみて、技能実習制度の目的に沿った成果が期待できると認めら
れる者
・雇用契約に基づき技能実習を行い、さらに実践的な技術・技能を修得しようと
する者
(2)技能実習生を受け入れることのできる機関
技能実習を実施できる機関は、次のすべての要件を満たす企業等です。
・技能実習内容が、研修活動と同一の種類の技術・技能等であること。
・技能実習が、研修活動が行われている受入企業等と同一のものが行うこと。
・技能実習希望者と受入企業等との間に、日本人従業員と同等以上の報酬を受け
77
4 能力開発
ることを内容とする雇用契約が締結されること。
・受入れ企業等が技能実習生用の宿泊施設を確保し、技能実習生の帰国旅費の確
保等帰国担保措置を講ずること。
・技能実習実施機関又はその経営者もしくは管理者が過去 3 年間に外国人の研修・
技能実習その他就労に係る不正行為を行ったことがないこと。
(3)技能実習を実施できる職種・作業
職業能力開発促進法に基づく技能検定の対象職種、又は JITCO が認定した技能
評価システムによる職種で、農業、漁船漁業、建設業、製造業等の産業分野にお
ける 62 職種(114 作業)です。
(4)滞在期間
研修と技能実習の期間の合計は、最長 3 年となっています。技能実習期間は、
研修期間のおおむね 1.5 倍以内で認められます。ただし、研修期間が 9 ヵ月を超
える場合は、この限りではありません。研修期間が比較的短いもの(6 ヵ月未満)
は、技能実習は認められません。
(5)研修から技能実習への移行評価
技能実習への移行が認められるには、次の三つの評価をすべてクリアしなけれ
ばなりません。
①研修成果の評価
全研修期間の 6 分の 5 程度を経過した時点で、国の技能検定、又は JITCO が
認定した機関の試験を活用した評価システムにより、研修生が一定水準(国の
技能検定基礎 2 級相当)以上の技術・技能を修得していると認められること。
②在留状況の評価
研修状況・生活状況が良好であると認められること。
③技能実習計画の評価
研修生受入れ企業等から提出された技能実習計画が、研修成果を踏まえた適
正なものであると認められること。
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4 能力開発
(6)技能実習実施機関の責務
技能実習生は、受入れ企業との雇用関係の下に報酬を受けるものであり、労働
基準法上の「労働者」に該当することから、通常の労働者と同様、労働関係法令、
労働・社会保険関係法令等が適用されます。受入れ企業はこれを遵守しなければ
なりません。
(出典) http://www.jitco.or.jp/contents/seido_jisshu.htm
4.3
援助機関
(1)財団法人 国際研修協力機構(JITCO)
1991 年に設立された公益法人で、外国人研修制度・技能実習制度の適正かつ円
滑な推進に寄与することを基本として、研修受入機関、研修生・技能実習生、送出
機関等を支援している。
外国人研修制度(1 年)
、技能実習制度(3 年[研修期間と合わせて])
(出典) http://www.jitco.or.jp/contents/seido_kenshu.htm
http://www.jitco.or.jp/contents/seido_jisshu.htm
(2)財団法人 中小企業国際人材育成事業団(IMM Japan)
日本の中小企業の発展と国際社会に貢献することを目的に、中小企業の国際化
への対応に向けた人材育成及び技術・技能者の交流に関する事業を行っている。
外国人研修・技能実習生受入れ事業(研修期間 1 年、技能実習期間 2 年
計 3 年)
(出典) http://www.imm.or.jp/
(3)財団法人 海外技術者研修協会(AOTS)
AOTS は、開発途上国の技術者・経営管理者を対象とする研修事業を行い、円滑
な技術移転による各国産業・経済の発展を支援している。
技術研修・管理研修(1 年[最長 2 年])
(出典) http://www.aots.or.jp/jp/ukeire/gaiyou/gaiyou.html
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4 能力開発
(4)財団法人 日本 ILO 協会
ILO 精神の普及と健全な労使関係の発展等の各種事業に加え、技術協力(海外
からの技能研修生の受入れ)
、
発展途上国等の労働問題に対する協力等の国際協力
事業を実施している。
国際技能開発計画(6~12 ヵ月[日本語研修 3 ヵ月)
(出典) http://www.jilo.or.jp/nsub7.htm
(5)社団法人 日本・インドネシア経済協力事業協会(JIAEC)
日本とインドネシア共和国との政府間協定に基づいて、両国間の経済協力・技
術移転(企業研修生受入事業)を推進している。
研修生受入事業(研修期間 1 年・技能実習期間 2 年)
(出典)http://www.iris.dti.ne.jp/~jiaec/05.html
4.4
日本国査証(区分)と対応する在留資格
(1)研修査証(一般査証)1 年又は 6 月
技術、技能又は知識の習得をする活動(産業上の技術・技能の研修のみならず、
地方自治体等での行政研修や知識を習得するための事務研修も含まれる)を行お
うとする外国人で、研修実施体制等についての一定の要件を満たす研修受入先に
おいて、同一の作業の反復のみによって修得できるものではない技術等を修得し
ようとするものに発行される。
(2)特定活動査証(特定査証)3 年、1 年、6 月又は 1 年以内の指定された期間
外交官・領事官等に私的に雇用される家事使用人として入国しようとする外国
人、ワーキング・ホリデー制度により入国しようとする外国人、企業等に雇用さ
れてアマチュアスポーツの選手として活動しようとする外国人及びその扶養を受
ける配偶者又は子、国際仲裁代理を行う外国弁護士、インターンシップの活動を
行う大学生等に発行される。
(出典)http://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/visa/annai/visa_4.html#chu
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