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1.はじめに
−なぜ、オリンピックのテーマソングなのか?−
今回のオリンピックの競技の「裏」で注目されたのは、各テレビ局のテーマソング
だろう。朝の情報ワイド番組では、各局のオリンピックのテーマソングが出揃ったと
ころで特集が組まれた。その過熱ぶりは、新聞の投書欄には「選手よりもテーマソン
グを目立たせるような手法はどうだろうか?」と批判された。
そうした批判の発端は、朝のワイド番組からだけ発していたわけではない。
たとえば、 NHK。 NHK は普段は全くテレビに出ない坂井泉水が「サンデースポー
ツ」の中で VTR 出演すると、それに応える形で、彼女のその曲を約4分間フルコー
ラスでかけた。スポーツ番組でビデオクリップをかけるという、こうしたことは通常
考えられないことである 。しかし 、こうした「 共依存 」的大型タイアップは 、何も NHK
に限ったことではない 。TBS は高橋金メダルの時のダイジェスト等をはじめ 、随所に "
モーニング娘。 "を起用。またテレビ朝日は、取材記者に福山雅治使って、オリンピ
ックの盛り上げを狙った。
こうした破格の強力タイアップの背景には 、「A級のタレントを使って、オリンピ
ックを盛り上げ 、視聴率を稼ぎたい 」もしくは「 スポンサーウケを良くしておきたい 」
というテレビ局側の意向と 、
「 宣伝効果抜群のオリンピックを使って CD を売りたい 」
というプロダクション・レコード会社側の思惑が一致することに起因する 。(「 オリ
ンピックを生で見たい」という歌手の私的要望にも一致するから、ということもいえ
なくはないが)
ところで、オリンピックのテーマソングは、破格のタイアップ効果、すなわち、売
上に対する貢献度が高いと考えられるが望める。その理由はタイアップの3要素を兼
ね備えているからである。
1.TV等のメディアへのオンエア回数が多い
( ド ラ マ の 場 合 、 番 組 宣 伝 用 CM の オ ン エ ア も 含 む )
2.タイアップ先の内容が魅力的であり、高い話題性を有している
3.視聴者に、楽曲とタイアップとの一体性を感じさせる
この3点について、もう少し具体的に考えてみよう。
①について 。数多いオンエアが 、楽曲の認知度 、浸透度を高める効果があることは 、
容易に想像できるであろう。そして、これが売上に対して有利に働くであろう、とい
うこともまた容易に想像できる。ドラマの場合、決まった時間に放送されるドラマ本
編の他に 、CM として流される部分もある 。これは 、ドラマタイアップが「 本編+ CM」
のタイアップの二重性を有しているということを意味する。この分、ドラマタイアッ
プは 、CM 単体より有利であるといる 。また 、上で例として挙げた時間帯のドラマは 、
各テレビ局の看板番組であり、 CM として流される量も多い。これから、①は優良タ
イアップの一つの条件であるといえるであろう。
②について。例え、ドラマの時間帯が良かろうとも、その放送されるドラマの中身
-1-
自体がダメならば、あまりタイアップの効果が期待しにくくなるであろう。これは、
③の要素を阻害するからであるし、内容が悪ければテレビ局もあまり期待しなくなる
から CM を減らし①の効果を減じるからかもしれない 。ところで 、ここではあえて「 内
容 」「話題性」といった抽象的な語を用いた。この点について少し触れておく必要が
あろう 。「内容 」「話題性」をより具体的に数値化したものとして、考えられるもの
に「視聴率」というものが考えられる。②を 、「視聴率の高い番組ほど、タイアップ
効果が高い」と書換えてはダメなのか。その方が明快ではないか、という疑問が沸い
てくるのは当然のことだろう。私の結論からすれば、必ずしも正しいとは言えないよ
うに思われる。確かに、高いタイアップ効果を有する番組は、高視聴率なことが少な
くない。しかし、高視聴率が高いタイアップ効果を有する、とは必ずしも言えない。
その好例が、 NHK の朝の連続テレビ小説である。ご存じの通り、朝の連ドラは毎週
の高視聴率番組ベスト5の常連で紛れのない高視聴率番組である。その反面、タイア
ップ効果はさほどなさそうである(過去に「晴れたらいいね 」「春よ、来い」のミリ
オンセラーを出したが、前作比から察するとそれらはタイアップ効果というより歌手
自身のパワーに依存しているように思われる )。その一因は、話題性の無さ、である
といえよう。朝の連ドラの視聴層は、家事を終えて一段落している主婦であり、その
視聴の理由は、一種の惰性であるといえる(であるから、朝の連ドラは、内容の如何
に拠らず、常に高視聴率を稼ぐことができるのである )。こうした場合、主婦同士が
今日の内容について評論することもあまりなく、今後の展開について議論することも
少ないだろうと思われる。そうなると特定の思い入れを抱くことも少ない。こうした
状況では、主題歌のヒットは出にくいのである。つまり、数字の高低ではタイアップ
の効果性は判断しがたく、数字に頼る安易な判断はここでは避けたい、ということで
ある。
③について 。「一体性」とは何を指しているか説明が必要であろう。ここでいうド
ラマと楽曲の一体性とは 、「あのドラマといえば、あの曲 」、または 、「あの曲を聴く
と、あのドラマのあのシーンを思い出す」といった状況を創り出している、というこ
とである。良い例が 、「3年 B 組金八先生」と海援隊『贈る言葉』である 。『贈る言
葉』を聴くと、ドラマのことを思い出す人もいれば、中学時代に習った良き先生のこ
とを思い出したり、自分の息子の3年間を思い出して感慨に耽ることもあろう。こう
した 、
「 映像と音楽の結合 」、もしくは 、
「 ドラマを触媒とした実体験と音楽との結合 」
こそが、③の一体性である。もしも、こうした一体性を築けたならば、それは、とて
も強固なものとして消費者の内部に残ることになり、③がうまくいくことが、タイア
ップの成否を分ける最大のポイント、ともいえるであろう。
しかし、である。オリンピックのテーマソングは、この3条件をきちんと満たして
いるにも関わらず、その周囲の期待に反して CD の方は思ったように売れないのであ
る。こうした事態は、実は今回始まったことではなく、前回・前々回の時からあった
傾向であった。我々は今回もこうなるのではないかと事前に予測していて、実際にそ
うなってしまった。オリンピックのテーマ曲は日本中の誰もが口ずさめるほどに浸透
しているはずである。なのに売れないのは何故か?また、同じようなことは巨人戦を
-2-
中継する「劇空間プロ野球」でも言える。こうしたことは、スポーツ固有の問題であ
るのだろうか?
であるならば、これは由々しき問題である。なぜなら、スポーツがタイアップ先と
して不向きと判断されるなら、タレントたちは、スポーツ産業から遠ざかることにな
るだろう。そうすれば、他のグループの発表の際に出るであろう「広告費を使ってプ
ロモーション活動をする」というようなことがますます難しくなる(誰も出てくれな
くなる)という恐れがあるし、スポーツの広告効果が薄いとなれば、多額の資金を出
してくれているスポンサーが撤退することだってあり得るのではないか?
こうした意見には、次のような反論も考えられる 。「オリンピックのテーマソング
が売れようと、売れまいと関係ない 」「オリンピック関連の番組にタレントは必要な
い 」。確かにそのように見えるかもしれない。しかし、実際のテレビ局の事情を見る
と、この反論は少し無責任のように思われる。
というのは、今回のシドニーオリンピックでも、そうした「超然主義」的テレビ局
が在京キー局でも1局だけあった。テレビ東京である。テレビ東京は、タレントを使
うこともほとんど少なく、過剰演出を避け自社のアナウンサー中心に放送を行った。
また 、テーマソングも自分の局の ASAYAN で推している小林幸恵の歌う「 SUKIYAKI」
を場所や枚数を限定で発売した。このことによって、テレ東は他5社との競争に巻き
込まれることなく独自の路線で戦うことが可能になった。しかし、それも結局のとこ
ろ 、「資金難のための苦肉の策 」、もしくは「無い袖は振れなかった」というような
事情がうかがえた。結局のところ、テレビ東京はマイナー競技の中継や、録画映像の
再放送のみを担当させられ 、今回の調査でも敢えてテレ東の小林幸恵の「 SUKIYAKI」
は資料から除外しておいたのだが「何故載せない」の意見が1通のこないところをみ
ると、認知度・注目度は相当低かったと言わざるを得ない。当然スポンサーサイドと
しては、盛り上がっているオリンピック競技でCMを流して欲しいし、オリンピック
を全社をあげて盛り上げようとしているテレビ局にCMを出したい。そうなると、や
はり、その本気度を示すためにも、タレントの起用や何らかの盛り上げ策は必要であ
り 、「テレ東よりも他の局に」となってしまうのである。
2.11の仮説と、それに関する議論
我々の班では、講義の中で今回のレポートに関するアンケートを実施した。また、
中間発表・最終レポートの際にも数多くの意見をいただいた 。その結果を踏まえると 、
それをまとめると、次の11の点に絞られる。
1.オリンピックのテーマソングは本当に売れなかったか?
2.タイアップは実は、関係ないのではないか。?
3.オリンピックのテーマソングが多すぎはしないか?
4.競技中に流れない、印象に残らない使い方など、テレビ局の使い方に問題があっ
たのでは?
5.逆にテレビ局が使いすぎたて、聴取者が飽きたのでは?
-3-
6.曲調が若者向きで、年輩者がついていけないのでは?
7 . オ リ ン ピ ッ ク よ り ON 対 決 の 方 に 視 聴 者 の 興 味 が 集 中 し て い た の で は ?
8.オリンピックは、短いのが原因ではないか?
9.発売時期が悪かったのでは?
10.詞がよくないのでは?
11.曲が良くないのでは?
これら意見は、我々が事前に寄せられるであろうと予想していた仮説とほぼ一致し
た。この11の仮説を、それが原因として考えるに妥当であるかどうかを議論、検討
していくことを、我が班の意見として本論は進めていくこととする。
(1)オリンピックのテーマソングは本当に売れなかったか?
今回のレポートのテーマに対する、一般からの第一の疑問は 、「オリンピックのテ
ーマソングは本当に売れなかったか?」の点であろう。アンケートでは 、「売れたと
いう印象」を 、「売れた5−1売れない」で評価してもらうアンケートも行ったが、
その結果が、モー娘4.0点、福山3.6点、ZARD3.2点と、主要3楽曲は3
点をはっきりと超えた。特に、モー娘は4点台の高得点である。
ところで、実際の数値を見る前に、CDの売上の評価法を、確認しておきたい。C
Dの売上は次の2項目で評価するのが一般的である。
①同じ歌手内の前後作との売上比較
②同一時期の他の楽曲との売上の比較
①では同一歌手内の売上を比較しているので 、「アーティストがよくない」という
意見に対応できる。また、②を調べることによって、今巷で言われているような「不
景気で全体にCDが売れてない」といった意見についても対応できるのである。
さて、ここで 94 年以降の主なオリンピック関連楽曲の売上がどうなっているのか
をみてみよう。表1が売上一覧表(別紙参照)である。これを見る限り、オリンピッ
ク楽曲が同じ歌手内でも、別段売れるわけでないということが言えるだろうし、その
前後で売り上げが回復しているので 、その時期だけが別段不景気だったということは 、
言えそうもないであろう。微増があっても大爆発がないこと、同一歌手内でも売上が
減っている歌手が多いことからも、オリンピックのテーマソングの売上が芳しくない
ということは、十分に言えそうである。
注1.
96 年の大黒摩季, 98 年の J-FRIENDS が売れていないというのには、注が必要であろう。
大黒摩季の「熱くなれ」は大黒摩季自身の記録の中で第7位で彼女の中で、別段売れた部類に入れるのは適当でないように思
われる。
また、 J-FRIENDS に関しては 、「結合の法則 」「アイドルの法則」のいずれと照らし合わせても 、「特別に売れた」と判断する
-4-
のに躊躇する 。「結合の法則」とは 、「名前のある複数のアーティストが結合して1つの楽曲を発売した場合、売上は複数のアー
ティストの売上の合計にならず、そのうちの最大売上のアーティストの売上値に近似することが多い」というものである。
J-FRIENDS の場合、 KinKi Kids, TOKIO ,V6の3組の結合体であるから、3組内の売上値最大の KinKi Kids の売上と比較するの
が適当である。この場合、 KinKi の当作以前2作の平均売上が171万枚、次作が93万枚だから、それらと比較してもあまり
大きく上回っているとは言えない。また 、「アイドルの法則 」、すなわち 、「既に名前の売れているアーティストが歌手としてデ
ビューした場合、デビュー曲が最大売上作になることが多い」ということを踏まえると、同作は売上が高く出やすい傾向にあっ
たと言える。それらを総合して考えると、同楽曲を「オリンピックのタイアップで大売れした」と評価するのはあまり歓迎でき
ないのである。
(2)タイアップは実は、関係ないのではないか。
最近の音楽業界では、 90 年代前半ほど「タイアップ至上主義」が叫ばれなくなっ
た。今回のアンケートでも購買に踏み切らする要素としてみんなが挙げたのは「楽曲
の良さ」と「アーティスト」であった。だが、だからといって、 2000 年現在、タイ
アップが全く効果を失ってしまったとは言い難い。
というのは、 2000 年にも神通力を発揮した超優良タイアップがあるからである。
ここでは、例としてTBSの「未来日記」テーマソングと、大塚製薬「ポカリスエッ
ト 」のCMソング 、
「 九州沖縄サミット 」のテーマソングを取り上げる 。次の表2( 別
紙参照)がそれである。
これらのデータを見ると、同楽曲がタイアップの影響を受けて、数字が跳ね上がっ
ている可能性が高そうなことがうかがえるだろう。表1で掲載したオリンピックの方
と比較してみると、一目瞭然である。このデータから見ると 、「タイアップは売上に
全く関係なくなった」という結論に持っていくのは、早計のように思われてしまう。
注2
上の2つは必ず 100%のヒットを保証しているわけでない。数多の楽曲の中には数字が伸びなかったものもあった。だが、あ
る特定のタイアップの楽曲が非常に高い確率でヒットを飛ばしている、という事態があるということである。こうしたタイアッ
プ先は他にアニメの「スラムダンク」や「名探偵コナン」などがある。
(3)オリンピックのテーマソングが多すぎはしないか?
今回のオリンピックでは、NHK,民放の6局がそれぞれにテーマソングを決め、
自分たちの放送する番組のオープニングやエンディングに使用した 。このことにより 、
オリンピックの楽曲の注目が分散してしまったというのが、第3の点である。この点
を検証するのは難しい。ただ、これも決定打とするには、至らないように思われる。
というのは、次のような反論が可能であるからである。
まず 、第一の反論は「 分散 」の結果起こることが予想されるのは 、
「 知名度の低下 」
である。実際に、日テレの松任谷やフジの久保田の方は知名度において、かなりの遅
れが見られている。もしも、彼らがNHKのテーマソングを担当し、他局がテーマソ
ングを設けなければ彼らが今回のオリンピックのテーマソング担当者として社会に認
知され得ただろう。だが、他の楽曲に関しては知名度において、別段の低さを見せな
-5-
かった。むしろ、アンケートにおいては80%以上の高い認知度(認知度3以上)を
得たのである。これは、オリンピック効果と説明するのが妥当な高数値である。分散
が低売上の決定打ならば、起こっても良かったはずの知名度ダウンがないということ
は、分散が最大の原因ではなさそうなことを意味しているように思われる。
第二の反論は、この説が前回の長野オリンピックにおいて、ほぼ知名度や印象にお
いて、オリンピックのテーマソングの独占的地位を獲得した F-BLOOD「 SHOOTING
STAR」の売上不振を全く説明できない点である。
これらの二点を考えると 、「分散」説もどうも決定打と言い難い、といえるのでは
なかろうか。
(4)競技中に流れない、印象に残らない使い方など、
テレビ局の使い方に問題があったのでは?
(4)の指摘は、テーマ曲の使い方である。テーマソングは通常、番組CMや番組
内のCM前、放送の開始・終了前後に放送される。しかし、それらはドラマタイアッ
プのクライマックスシーンに流すのに比べて、インパクトに欠けるのではないか。よ
って、タイアップの法則の(3 )「楽曲とタイアップとの一体性を感じさせる」を弱
めている、という仮説である。
そこで、その仮説調べるためのアンケート結果が、次の「オリンピックのテーマ曲
を聞いてオリンピックのあるシーンを思い出すことがあるか」の回答である。それに
よると 、「はい」と答えた割合は、45%に達する。この数値をどうとらえるかは難
しいのだが、この種の質問の回答にしては低いとは言えないように思われる。
注3
ただ、この質問も、曖昧である 。「MISIAの『EVERYTHING』を聞いて、ドラマ『やまとなでしこ』を思い出す
か?」の問いをたてれば数値は低くなるが 、「あるドラマの主題歌を聞いて、そのドラマのあるシーンを思い出したことがある
か」という問いに書き換えたなら、数値は急激に上昇するだろう。本来なら、今回のオリンピックのテーマソング各曲について
その質問をぶつけるべきであったが( ex.「『 I WISH 』を聞いて、オリンピックのあるシーンを思い出すことがあるか )、アンケー
トの質問数これ以上増やせないとの判断からやむなく中止した経緯があった。
(5)テレビ局が使いすぎて、聴取者が飽きたのでは?
(4)では原因を 、「楽曲を効果的にあまり流さないこと」に求めた仮説であった
が、今度の(5)は全くその逆で、流しすぎて飽きたのではないか、という意見であ
る。確かに、 1999 年の「だんご3兄弟」のように、流しすぎてあっという間にブー
ムが去ってしまい、ぱったり売上が止まる現象がみられないでもない。しかし、その
ような現象は、本当に一般的だろうか。例えば、 2000 年の年間1,2位の『TSU
NAMI 』『桜坂』は、我々は、確かに飽きるほど聞いたが、しかし、今でも少なく
ない枚数が売れ続けている 。「飽きて買わない」ということは、あるのだろうか。そ
の点を調べるため、アンケートでは 、「レンタルをしたのに、買わなかった」人にア
ンケートを取って 、「飽きたため」に買わなかった人がどのくらいいるのかを調査し
た。その結果、飽きたためと答えたのは、16人中2人であった。レンタルした人の
-6-
理由の多くは 、「金銭的な理由」や「買うほど好きでなかった」という予想通りの理
由であった。レンタルさえしなかった人は、飽きたからというよりも 、「借りるお金
ももったいない」ほど興味がなかったのだろう。そう考えてみると、これも断定はで
きないのだが、通常「聞き飽きたので買わない」という比率は、我々が思っている以
上に少ないように思われるのである。
(6)曲調が若者向きで、年輩者がついていけないのでは?
今回のオリンピックのテーマソングを歌っているのは、主として10代から20代
の歌手 。当然 、ターゲットも 、彼ら 、彼女らの世代に向けた楽曲 、ということになる 。
となれば、年輩者がついてこれないということは、十分予想できることである。しか
し、それは「タイアップによる、熟年層の上積み」がなかったことを、示すことがあ
っても、前作よりも減った理由を説明できない。逆に、熟年にも受ける曲を作ろうと
して、若者の層をつかみ損ねた可能性の方がむしろありそうである。よって、これも
理由としてあげるに不十分である。
注4
後者の仮説を検証するためには、同一歌手の前作と今作の支持度を調べる必要がある。さらにそれを、若者と熟年層に調べ、
しかも、熟年層は前作を知らない可能性が高い、となってしまうと調査は非常に困難である。説としても可能性が薄く、重要性
も低いように思われるので、それに関しては今回調査はしなかった。
( 7 ) オ リ ン ピ ッ ク よ り ON 対 決 の 方 に 視 聴 者 の 興 味 が 集 中 し て い た の で は ?
これは、巨人ファンの意見だろうと思われる。巨人ファンにとっては 、「オリンピ
ックよりも、長島監督の胴上げ」であっただろう。ところで、この仮説は「オリンピ
ックの注目度が低かった」ということに置き換えられるだろう。しかし、テレビのオ
リンピック視聴率を調べてみると、開会式の視聴率が30%を超えたほか、
高橋尚子が金メダルを獲得した女子マラソンや、男子サッカーの準々決勝の視聴率が
40%を超えたこと、また、柔道等の注目種目で20%を超えたものが少なくなかっ
たことをみてみる限り、注目度が低かったということは言えなかったように思う。
注5
視聴率は次の、ビデオリサーチ社の「シドニーオリンピック関連番組視聴率(関東地区)」を参照
http://www.videor.co.jp/a_rate/ra_topic/vrd/00sidney.html
(8)オリンピックは、短いのが原因ではないか?
通常、ドラマ等のタイアップでは3ヶ月間オンエアされる。 CM に関しても一定の
ある程度の長さにおいてオンエアされる。それに比べると、オリンピックの開催期間
は2週間と短い 。その期間の短さに売り上げ不振の原因を見出そうとするのが 、
( 8)
の説である。しかし、この説もどうも怪しいと言わざるを得ない。まず、もし今回の
オリンピックのテーマソングが( 8 )の理由で絶対枚数が多く売れないなら 、普通は 、
1週目の売上だけが顕著に大きく、その後、急速に落ち込むという売上形態をとるは
-7-
ずである。しかし、今作においては、1週目さえも出なかったのである。
また、かつてのオリンピックのテーマソングの売上のロングヒット指数を調べるた
めにRP(ランキング・ポイント*注6参照)を取ってみたところ 、、かつての『熱
くなれ 』『遥かな人へ』は、むしろロングヒットの傾向を示していることが明らかに
なった。このことからも、オリンピックのタイアップのその開催期間の短さとロング
ヒットしなかったこと、というのはあまり関係なさそうであることがいえる。
表3
過去・今回のオリンピック楽曲、比較のための2000年度の楽曲のPR一覧
楽曲
歌手
遙かな人へ
高橋真梨子
熱くなれ
大黒摩季
水・
陸・そら無限大
登場週数
RP
7
630
10
1300
19
4
350
I WI
SH
モーニング娘。
5
630
Get U're Dream
ZARD
4
360
HEY!
福山雅治
4
590
愛情
小柳ゆき
10
1280
HOTEL PACI
FI
C
サザン・オール・
スターズ
9
1260
NEVER END
安室奈美恵
9
960
RP=オリコン
注6
1位 =200 点、2位 =190 点… 20 位 =10 点で計算
RP(ランキングポイント)
ランキングポイントは、オリコンチャートの順位を点数化したもので、1位 =200 点、2位 =190 点… 20 位=10 点といった計算
を行う集計技法であり、本グループのリーダーの大野の命名したものである。一般にこの技法が使われているか、また、そのと
きどんな名前なのかは、わからない。この数値の利用法はいくつかある。一つは、絶対的な大きさの比較。数値が大きいほどロ
ングヒットしたといえる。もう一つは、売上との相対比較である。我々は、経験からPRとCD売上(千枚単位)が、近似する
ことを知っているのだが、その時、CDの売上がRPを大きく上回るとき集中的なヒット、RPがCDの売上を大きく上回ると
きロングヒットと言える(この数値のみで比較するのは危険であるが参考にはなる )。ちなみにこの数値を検討することで、ア
ーティストの固定ファン比率や、新規ファンの開拓比率といったものをある程度推測できる。
(9)発売時期が悪かったのでは?
今回のオリンピックでは、福山雅治の「HEY!」が、オリンピック終了1週間後
に発売された 。その結果は芳しいものではなかったのは 、
( 1 )で述べた通りであり 、
この意見は主としてそうした結果を知った上で同楽曲に浴びせた質問ではないか、と
思われる。しかし、結果はともあれ、今回のオリンピックに関しては、各レコード会
社とも「発売日政策」に関しては十分工夫済みであったといえる。福山「HEY!」
も例外ではない。
今回のオリンピック期間は、9月 15 日∼ 10 月1日の約2週間であった。レコード
会社はの考えとしては 、歌番組に注目が行かない 、ど真ん中の時期をずらすとすると 、
次の3つの発売パターンをとることが考えられる。
-8-
①事前発売型・・・大会前からじわじわ普及させて、大会中に爆発させる
7 月 5 日発売
水・陸・そら無限大
②直前発売型・・・歌番組がある直前に発売して大会期間中にヒットにつなげる方法
9 月 6 日発売
I
WISH/ Get U're Dream
③大会終了後発売型・・・大会終了後、一般に浸透してから発売。ライバルが少ない
隙を狙う方法。
10 月 12 日
HEY!
つまり、各レコード会社はそれぞれに少しずつ時期をずらして発売し、結果的にい
ろいろな発売日政策を試してくれた。福山の「HEY!」に関して 、「もう少し早け
れば」の声はあるし、早く出せばどうなったか、それは分からないが、全部ダメだっ
たところ見ると早く出してもあまり変わらなかったような気がする。それよりも、今
回の「HEY!」の意味は 、「後ろに持ってくる」という前例の無かった“最後の切
り札”も効かないことが分かっただけでも意味があった。ゆえに、その関して批判す
るのは、少々気の毒な気がする。とにかく、今回すべての発売日政策がいずれも、思
ったような結果は得られなかったわけで、つまり、発売日政策に、少なくとも今回に
関しては原因を求めるのはどうだろうかと思う。
(10)
詞がよくないのでは?
(11)
曲が良くないのでは?
音楽において、一番重要なのは、はやり何といっても「楽曲のよさ」である。アン
ケートでも「楽曲のよさ」を購買の条件に挙げた人は、95%にのぼった。もし、楽
曲がよくなければ売れないのは当然である。しかし、オリンピックのテーマソングが
本当に楽曲が良くないのか。当初、我々はその仮説自体はあげていたものの、その真
偽に関しては懐疑的であった。今回のオリンピックのテーマソングに関しては、グル
ープのメンバーが好きな楽曲もあり 、そんなに悪い印象を持たなかったからである( も
し持っていたら、今回の研究をしていなかったであろう )。
しかし、アンケートを取ってみると、思わぬ結果が出た。その結果が表4である。
この結果『I
WISH』を除く3曲に関しては3点を超えており、比較的好意的
に受け入れられているということがいえる。しかし、4,5をみると、全体の好感度
に対して詞,曲の好感度は相対的に劣るようである。特に、詞に対する好感度は 0.4
ポイント近くも落ち込んでいるのである。このような結果を突きつけられてみると、
詞が悪いのと我々が感じることが、売れない理由の1つであるであることは間違いな
い。ただし、曲に関しては差が小さく因果関係に関しては慎重に考える必要があるよ
うに思われる。
-9-
表4
今回のオリンピックテーマの好感度系調査結果
1.全体好感度 2.詞好感度
3.曲好感度
4.(1-2) 5.(1-3)
水・陸・そら無限大
19
3.19
3.03
3.13
-0.16
-0.06
Get U're Dream
ZARD
3.29
2.91
3.17
-0.38
-0.12
I WI
SH
モーニング娘。
2.84
2.45
2.81
-0.39
-0.03
HEY!
福山雅治
3.42
3.03
3.19
-0.39
-0.23
(受講者対象のアンケートで有効回答38。
「たいへん良い5−1良くない」の5段階評価で評価してもらった結果)
3.まとめ
今回の研究結果から、すぐに「オリンピックのテーマソングが売れなかった理由は
これである」と決定づけるのは、早急であろう。今のところでは、まだ様々な仮説が
考えられるわけであり、また、要因が複数ありそれが絡み合っていて、本当のところ
が見えにくくなっているのかもしれない。また、ここ数作の不振は、単なる偶然なの
かもしれない、という線も十分に残しておく必要がある。そうしたことを踏まえ、次
回の 2002 年のソルトレーク冬季五輪にも注目し、リサーチを続けていきたい、と思
う。
しかし、今回の結果を踏まえた上で、次回のリサーチにあたって、注意しておくべ
きを事柄を最後に挙げておく。そして、これらを踏まえることによって、次回により
核心に迫った調査が可能になるのではないかと思われる。
<我々が追加すべき
新たな3つの仮説>
(12)スポーツ関係のテーマソングは、歌詞がわざとっぽく聞こえる
2章の(10)で「詞がよくない」というポイントをあげた。しかし、実際にその
楽曲に限って良くないかどうかは、疑わしいように思われる。むしろ、オリンピック
のテーマソングになったことで 、「詞をむりやりオリンピックに結びつけたのではな
いか」とリスナーが推測することで 、「詞を過小評価している可能性」があるのでは
ないか。もしくは、普段は詞に目が行かないファンが、その時だけ詞に注目しその悪
さに気がつく、ということはないか 。「詞が悪い」の評価も、同一アーティスト内の
相対的評価や同時期の他の楽曲の評価がないと判断しづらい。次回の調査は、その点
に絞って「詞のどこがよくて、どこが悪いか」という点まで踏み込んだ上で前作・前
々作から調査が必要であるように思われる。
(13)完全情報、情報過多がむしろ悪い影響を与える
オリンピックのテーマソングは、オンエア回数が多い。それが与える影響は 、「飽
きる」のではなく 、「本当はたいした曲でない」ことがわかってしまうのが原因では
ないか。もし、そうだとしたら悲しいことだが、これの十分考えられることである。
ちなみに 、
「 不完全情報が売上を伸ばす 」というのは 、
『 B1( *注7参照 )は売れる 』
- 10 -
の法則からも、言えることであってもよさそうな話である。
注7
B1
ブレイク後初めて(1枚目)のアルバムのことをいう。また、デビューから売れてしまったアーティストの場合デビュー作が
それになる。ブレイクしたての頃は、リスナーが彼らの曲をあまり知らないため、期待をこめて「とりあえず」買ってしまう。
そのため、ブレイク1枚目は収録曲の善し悪しに関わらず、売れることが多い。ところが、彼らはまだ売れたてで成長途上であ
るがゆえに 、 アルバムは得てして内容に乏しいことも少なくない 。 そのために2枚目では 、「 期待売れ 」 分と 「 前作にがっかり 」
分が減って、売上が大きく落ち込むのが一般的である(それゆえに 、「スポーツ紙などの『デビュー作なのに売れた』的報道は
ある意味正しくない 。『デビュー作だから』に直すべきなのである 」)。ちなみに、 700 万セラーの宇多田ヒカル『 First Love 』も、
一時期歴代1位を記録した Mr.Children 『AtomicHeart 』,globe『globe』も、すべて 、「B1」である。
(14)アーティストが旬を過ぎている
これは 、(1)で消した「アーティストがよくない」に近いのだが、同じわけでは
ない。こちらは、たまたまピークを過ぎた頃にオリンピックを迎えたために、オリン
ピックでは数値が落ちているように見える、ということである。理由は、オリンピッ
クのテーマソングの依頼するにあたっては、相当前にお願いしないといけないことに
よる。少なくとも半年から1年は前に依頼を出しているはずで、移り変わりの激しい
音楽業界だけに、その間の時期に、状況が一変することは考えられる。とはいえ、こ
の結果はモー娘や福山には当てはまっておらず、オリンピックのテーマソング選曲の
難しさを示しても、売れない理由を説明することになるかはどうかわからないが、何
らかの影響を与えていてもよさそうである。
4.各人感想・分担・参考資料
作業スケジュール
この研究は基本的には、大野がふだんから研究している「音楽産業の経営学」のテ
ーマの1つであったため、本論の原稿の構想・執筆は、感想部分を除き全文大野が執
筆した。他の3人のメンバーには、中間・最終発表のレジュメ制作だけでなく、アン
ケートのフォームの作成、データ集計、その分析を共同した。また、大野が中間原稿
を仕上げたときには、問題点の洗い出しや批判的分析、校正を分担してもらった。
全体の感想・評価
「オリンピックのテーマソングの伸び悩み」は、 98 年の段階で気がついていた現
象で 、自分のHPではそのことを指摘し意見を求めていたが 、今回のこの講義を通じ 、
特に商学部の学部生の意見をたくさん聞けたのは、とても嬉しい経験だった。大学生
が講義の中で行う調査は、やはり限界があるが、これだけのまとまった意見を集める
ことは、個人的な研究ではなかなか難しいことであり、今後の研究の財産になるだろ
う。今後もこの研究を続け、できれば2004年のアテネ五輪ではレコード会社の内
部で、こうした研究を継続、もしくは業界関係者として本論を活かしたマーケティン
グをできたら、と思っています。
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中間・最終発表ともに嬉しかったのは、他の受講生の方が少なからず興味を示して
くれたことであり、とてもやりがいのある講義でした。経営学原理で「 SPEED は何
故解散に追いやられたか」をやったときには、全く無反応で困ったので、興味を示し
てくれた他の受講生、および、早川先生に感謝しています。
また 、特殊な研究をしている上級生と組むことになって 、一番面倒なレジュメ作成 、
アンケートの収集やデータ分析を任せたにも関わらず、イヤな顔をすることなく引き
受けてくれ、また、話し合いではさまざまな視点を提供してくれたグループのメンバ
ー 、真田君 、藤沢君 、岸本君にも大いに感謝しています 。ありがとうございました!!
(大野)
オリンピックのテーマソングはなぜ売れないか。これは非常におもしろいテーマ設
定である。その理由として以下のことが挙げられる。
・オリンピックはほぼすべての人が見ている
・音楽という話題は誰もが議論に加わることができる
このような理由により、チーム内でも活発な議論が交わされた。また売れていたと
思っていた曲が、データを見てみると実はあまり売れていなかったり、その歌手にし
てみると売れた方ではなかったりと、驚きの連続でもあった。このテーマはどこで誰
とでも議論できるテーマなので、これからも機会があればいろんな人と議論していき
たいと思う。
(真田)
オリンピックとそのテーマソングの相関関係について考えていくうちに 、「スポー
ツ」というものの他への影響の大きさ(特にオリンピック)を感じました。それと同
時に、あるテーマに沿って作られた疑いかに視聴者に影響するかについても驚かされ
るものがありました。今回の調査では、オリンピックテーマ曲の認知度の高さ、そし
てそれにもかかわらず売上が伸びないという複雑な相関関係に直面し、スポーツ産業
・音楽産業の難しさとともに、プロモーションの大切さ等についても非常に深く学べ
たと思います。
(藤沢)
作曲家を志望している作曲家の卵に聞いた話だが 、スポーツに関する曲を作るのは 、
非常に難しいらしい。恋愛ドラマに関する歌であれば「愛してる」などの愛・恋に関
するワードを組み込めば、その歌を聴くだけで主人公の顔が浮かんだり、ドラマのワ
ンシーンが思い浮かぶかもしれない。しかし、スポーツに関する歌であれば 、「汗」
や「努力」といったスポーツに関するワードを組み込んだとしても、どこか気恥ずか
しいものとなり敬遠されがちだ。中田英寿が所属するセリエAの放送権がスカイパー
フェクトTVのキラーコンテンツになっていることからもわかるように、これからス
ポーツ番組のテレビ局に対する位置付けは高いものになると予想される。そうしたと
きに、これぞスポーツ番組だと強調できるような主題歌があることが望ましい。これ
からは、スポーツ番組専門に曲を提供するとか、スポーツ番組に非常に特化した曲作
りをすることが必要ではないだろうか。そうすれば、今回のオリンピックのように、
ただ人気者を借り出して曲を垂れ流すといった事態は避けられるのではないかと、今
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回調べていく上で思いました。
(岸本)
中間・最終コメントの扱い
これらについては、その部分の解説をレポート本文で、より丁寧に扱うことで対応
した。たとえば 、「オリンピックのテーマソングが売れる重要性」のような問題は、
あまり施策を講じなかったテレビ東京の例をとりあげる、などである。
参考資料
売上データは 、『オリコン年鑑 1994-2000 』及び、各週の『オリコンウイーク・ザ・
一番』を参照。もしくは、次のオリコンの売上枚数検索サイトの数値を引用。
http://www.oricon.co.jp/index.asp
その他の出典は注に明記。
その他
本論は、大野のHPでも掲載させてもらっています。
http://www1.akira.ne.jp/~neverend/univ/study/olympic-main.htm
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