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Sussex Consortium
Sussex Consortium
報告:峯
1. Sussex Consortium
勇人
とは
Sussex Consortium とは、デラウェア州の南部のサセックス郡に数か所設立
されている、幼児教育から高等学校での教育までの学校群の総称である。そ
の中で自閉症の特別支援教育プログラム(デラウエア自閉症プログラム※)
として2歳代~21歳までの200名の自閉症の生徒が通っている。デラウ
ェア州の南部地域に住む自閉症児の多くはここに通ってきている。この学校
のうわさを聞き、他の州や外国からデラウェア州に移り住んだ家族もいる。
通常学校の中に自閉症クラス、部分統合クラス、完全統合クラスなど、多
様なクラスが存在し、生徒ひとり1人に合ったクラス設定がされている。2
002年には全米自閉症協会(ASA)より、
「その年表彰すべき自閉症プラ
グラム」として、ウェンディミラー賞を受賞された。地域との密着も強く、
地域の理解も深い。
※デラウェア自閉症プログラム(DAP)は、北部、中部、南部の3地域にわかれて運営されているが、
サセックス郡の南部のプログラムが最も優れていると言われている。
2. 教育システムと、スタッフについて
自閉症の教育と研究で世界的に有名な、アンディ・ボンディ博士が、デラ
ウェア州の自閉症プログラム(Delaware Autism Program; DAP)でディレクタ
ーをしていたこともあり、この学校では、彼が開発した絵カード交換式コミ
ュニケーションシステム(PECS)や、ピラミッド教育アプローチと呼ばれる
応用行動分析(ABA)を基盤にした指導法を体系化した教育指導法が採用さ
れていて、現在も定期的に博士のコンサルテーションを受けている。
基本的に各教室は生徒4~5名に対して、担任教師が1人、アシスタント
教師が1人つくように配置されている。行動問題が多い生徒や、医療的ケア
が必要な生徒には1対1で担当につく場合もある。
3. 実際の教室の様子について
●プリスールの様子
3歳~6歳まで4つの教室があり、それぞれ教室に応じて色分けされ、区
別がつけやすくなっている。遊びの際には、他の教室に移動しても良いこと
になっている。
基本的に仕切りやついたてなどの物理的構造は尐
なく、教室環境の中の活動エリアは、机や棚の配置、
マットやビニールテープなどごく自然な手がかりで
視覚的に境界を示しわかりやすくしてある。生徒は、
強化の原則により、適切な行動が指導されているの
で、逸脱や混乱、不適切な行動は非常に尐ない。
生徒ひとり1人に合わせて指導計画が立てられて
おり、個別の視覚的なスケジュールや、コミュニケ
ーションシステムがある。PECS もその1つではある
が、「カードを取って、相手に渡す」ということが、
発達的に難しいレット症候群の生徒には、絵カードの交換ではなく、好きな
ものを見せて直接取ってもらうという方法がとられていた。
また、そこのクラスの担任の先生より、攻撃行動や逸脱行動など「状況に
合わない行動」への対処のプログラムを考える時に重要なことは、ただ、そ
の行動をやめさせるのではなく、その機能を満たす、代わりとなる行動を教
えてあげることであり、その代わりの行動が増えてくれば、自然と状況にそ
ぐわない行動も減っていくと学ぶことができた。それを記録したデータをパ
ソコン画面上で見せてもらうこともできた。要求の機能を持っている攻撃行
動は、要求のコミュニケーションの頻度が上昇するにつれて、攻撃行動が減
尐する様子がグラフで確認できた。
見学をさせていただいた時にちょうど、2
人の生徒同士でコンピューターのゲームの
「順番を待つ」という行動の指導がされてい
た。タイマーを使い、音がなったら順番を変
わる。スムーズに変われたら生徒に好子をあ
げる、という方法がとられていた。
そのため各生徒は、自分の順番が来るまで、一方の生徒がパソコンを操作
している様子をみたりしながら、大人しく待っていられた。
●小・中学校の様子
プリスクールと同じように、自然にある壁や机などを使ってエリアごとの
境界が明確にしてあり、物理的構造化は最小限である。物理的構造が尐ない
ことで、生徒同士が自然に相互作用する機会が保障されている。基本的なエ
リアは、学習、遊び、食事、休憩である。
生徒が、今、遊べるおもちゃと遊べないおもちゃが視覚的に示されていた
り、蛍光灯から目に入る刺激に弱い子がいたりするとのことで、カバーをし
て間接照明にするなど、様々な工夫が見られた。
間接照明で刺激を緩和!
現在使えるものは左、使えな
いものは右上のマークの所に
貼り付け、視覚的に示す。
教室から体育館など別の場所に移動する時は、教室の生徒全員が一列に並
んで歩いて行くようになっている。教室の入り口には、一列に並ぶための手
がかりとして絵や図形が並べられている。順番が固定してこだわりにならな
いように並ぶ順番はランダムに変えている。どんな場面でも“自立”を重視
しているために先生は、生徒の後ろをついて行くだけである。社会的なマナ
ーの指導は厳しく、途中で走ろうとする生徒には、先生が尐し距離を元に戻
して再び歩くように指導していた(バックステップエラー修正)。
体育の授業では、専門の先生が体育館に在駐していて、体育館でこれから
行う活動のスケジュールを提示していた。1列に並ぶ、コーンの周りを歩く
などが絵カードで示されていて、スケジュールを提示して、見通しを持たせ
ながら行われていた。
「列に並ぶ」「輪の中を歩く」などの絵カードの指示に
従う時には、言語指示は出さない。言語指示に従うレッスンは別に行われて
いた。
人の近くを通り過ぎる時には、
“Excuse me!”
(すいません)と言いながら通
ることや、初対面の私たちにあいさつをするときに“How are you?”
(元気で
すか?)という言葉を付け加えるなどの対人スキルを、常に機能的場面(実
際に使用する場面)で指導していた。話し言葉のある生徒は話し言葉で、無
発語の生徒には PECS を使って文章で表現するように指導している。
PECS も視覚スケジュールの絵カードも最初は絵と文字の併記だが、可能な
生徒は徐々に文字だけのスケジュールに移行していくようにしていく。
●高校の様子
1400人の生徒が通っている、設立3年の最新鋭の高校を見学させても
らうことができた。全校生徒が3交代で一度に集える巨大なカフェテリアや、
数十台設置されているパソコンルーム、楽器を演奏し、音楽を録音・編集で
きる教室、TV 局のような放送室などがあり、日本では大学にしかないような
機器や設備が完備されておりとてもきれいであった。
ここで学ぶ内容は様々で、国語、数学など5つの主要科目の他に、JOCT プ
ログラムと呼ばれる、生徒に規律とリーダーシップを育成するような授業科
目もある。この日は、ちょうど軍服を着た生徒がおり、軍関係者から学んで
いるとのことだった。
発達障害を持つ生徒は、特別支援学級に通う生徒や、部分的に普通クラス
に入る生徒、完全に普通クラスに入る生徒と、その生徒のニーズにあったク
ラス編成になっている。知的障害の重い重度の生徒から、高機能やアスペル
ガー症候群と呼ばれる生徒までさまざまであるが、割合的には重度の生徒が
比較的多いそうだ。これは、プリスクールから一貫して生徒を普通級に戻す
ことを目指しているために、上に行くほど支援級の生徒は、重度の人が残る
傾向があるためではないかと思われる。
校舎の中には、洗濯、掃除、食事や余暇など、機能的な活動を指導する部
屋も設置されている。そこで、将来の自立に向けて、様々なことを学ぶこと
ができる。
統合学級のアスペルガー症候群の生徒が、試験の合間にもかかわらず、日
本から来た訪問者のためにわざわざ廊下まで挨拶に出てくれた。彼は世界地
理に詳しく日本の地名もよく知っていて「日本は島国で、北にあるのは北海
道だよ!」と誇らしげに教えてくれた。別れ際に「“Good by”は日本語でな
んて言うの?」と聞いたので教えてあげると、
「サヨナラ」と言いながら深々
とお辞儀しながら見送ってくれた。
4. まとめ
プリスクールから高校までのどの学年でも、そしてどの教室にも共通に見
られたことがいくつかある。個別のスケジュールとコミュニケーションシス
テムは言うまでもないが、まず印象に残ったのが、生徒を強化する(賞賛す
る・好子を与えるなど)ことを忘れないための音源のシステム(ARRT※)が
ほとんどのクラスで使用されていたことである。強化の原理、重要性を再確
認でき、アンディ・ボンディ博士が、生徒の指導をするときに、1番大切な
ことは「強化」とおっしゃっていたのがよくわかった。
※ARRT とは、Audio Reinforcement Reminder Tone の略である。設定した時間間隔(1 分から 15 分まで
様々)ごとに音を鳴らし、その時間中に生徒が問題となっている行動を起こすかどうかを観察する。も
しその行動が観察されなかったら生徒を強化する。生徒の問題行動を改善しようとする人たちにとって
役立つ。
また、どの教室にも生徒の好子(好きなもの・活動)や、指導のポイント、
注意する点などをリストにした表が壁に貼られていて、いつ何時先生が変わ
るような事態が起きようとも、安心して代わりの先生が指導を行えるような
工夫がされていた。これらは、すべてアンディ・ボンディ博士が開発した、
ピラミッド教育アプローチに基づく指導の考え方であり、すべての教室で統
一して実践されている。これが小・中と一貫していることにより、本当の意
味での「一貫した指導」がなれているのだなと感じることができた。
高校でも将来の自立のために、機能的な活動(生活に実際に役立つ活動)
を教えることが重要視されていた。
校長先生がおっしゃっていた言葉でとても印象に残っているものがあるの
でそれでこの報告を締めくくることにしよう。
「小・中・高、すべてに共通し
て、障害を持つ生徒と持たない生徒が一緒に教育を受けることによって、障
害を持たない生徒が、障害を持つ生徒を助けてあげようとする心が育ってい
るのが見えてうれしい。」
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