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液体バイオ燃料の次世代革新技術

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液体バイオ燃料の次世代革新技術
Journal of Environmental Biotechnology
(環境バイオテクノロジー学会誌)
Vol. 12, No. 2, 87–95, 2012
総 説(特集)
液体バイオ燃料の次世代革新技術
Innovation Technologies of the Next Generation for Liquid Biofuels
坂 志 朗
Shiro Saka
京都大学大学院エネルギー科学研究科 〒 606–8501 京都市左京区吉田本町
TEL/FAX: 075–753–4738
E-mail: [email protected]
Graduate School of Energy Science, Kyoto University, Yoshida-honmachi, Sakyo-ku, Kyoto 606–8501, Japan
キーワード:リグノセルロース,油脂,バイオエタノール,バイオディーゼル,酢酸発酵
Key words: Lignocellulosics, Oils and Fats, Bioethanol, Biodiesel, Acetic Acid Fermentation
(原稿受付 2012 年 9 月 28 日/原稿受理 2012 年 10 月 7 日)
1. は じ め に
2. バイオエタノール
温暖化で代表されるエネルギー・環境問題が 21 世紀
に入って地球レベルで深刻化してきた。その結果,化石
資源から得られる化学物質や燃料を循環型,更新型バイ
オマス資源から造り出そうとする動きが活発化し,バイ
オマス資源によるポスト石油化学が注目されている。さ
らに,2011 年 3 月の未曾有の東日本大震災により福島
原発の原子炉が被災したことを受けて,バイオマス資源
の有効利用の気運がさらに高まってきている。このよう
な背景のもと,我々は環境負荷の小さい超臨界流体技術
を用いた独自の液体バイオ燃料の創製について検討を加
えてきた。そこで本講では液体バイオ燃料の次世代革新
技術として,加圧熱水・酢酸発酵・水素化分解によるリ
グノセルロースからのバイオエタノールや超臨界カルボ
ン酸エステルや超臨界中性エステルによる油脂類からの
バイオディーゼルの次世代を担う新規な製造プロセスに
ついて紹介する。
エタノールには,バイオマスからの発酵バイオエタ
ノールと化石資源由来のエチレンを原料とする合成エタ
ノールがあるが,地球の温暖化防止の観点から二酸化炭
素削減に寄与し得るのは前者である。このバイオエタ
ノールには,一般によく知られている糖蜜やデンプン資
源を用いた酵母による第一世代バイオエタノールとセル
ロース系資源を用いた酵母による第二世代バイオエタ
ノール,さらには,現在研究開発中の次世代バイオエタ
ノールとして,リグノセルロースを用いた酢酸発酵によ
るバイオエタノールなどがある。以下にそれらについて
解説する。
2.1
酵母による第一世代及び第二世代バイオエタノー
ル
酵母を用いたバイオエタノールには,図 1 に見られる
ように種々の生産形態があり,原料となるバイオマス資
源に依存している。
サトウキビなどで見られる糖蜜資源は,主成分がグル
図 1.酵母を用いた第一世代及び第二世代バイオエタノールの生産形態
88
坂
コース(ブドウ糖),フルクトース(果糖),スクロース
(ショ糖)であり,Saccharomyces cerevisiae(酵母)や
Zymomonas mobilis(細菌の一種)によって容易に発酵
してエタノールになる。また,トウモロコシで見られる
デンプン資源は,アミロペクチンとアミロースから構成
され,アミラーゼによって糖化されてグルコースとなり
発酵が容易である。これらは第一世代バイオエタノール
と呼ばれており,バイオマス資源の炭素の利用効率が高
いが食糧資源を用いるためエネルギー利用は好ましくな
い。そこで非食糧資源である木材などを構成するセル
ロース及びヘミセルロースからのエタノール生産が第二
世代バイオエタノールとして注目されている。しかし,
セルロースは結晶構造を有し,かつリグニンで取り囲ま
れているため,グルコースにまで糖化するためには前処
理が不可欠である。その前処理として脱リグニン後の酵
素糖化法 1),濃硫酸や希硫酸を用いた多糖類の酸加水分
解法 2) 及び超臨界水などの水熱反応 3) が利用できる。
さて,図 1 に示すいずれの場合においても D- グル
コースがアルコール発酵の主原料となり,酵母などの微
生物によって反応 1 に示すように嫌気性条件下,1 モル
の糖質は 2 モルのエタノールに変換されるが,2 モルの
二酸化炭素を同時に発生し,重量ベースで糖質の約半分
が二酸化炭素と化している。これに加え,糖質の数%は
酵母により消費されるため,炭素源の利用効率は高くな
い。本来,このプロセスは糖からの酒造のためのアル
コール発酵であり,二酸化炭素を排出するためバイオ燃
料製造には適していない。特に,セルロース系資源の場
合には前処理が不可欠であるため,得られたエタノール
の利用による二酸化炭素排出の削減効果は,後述のよう
に糖蜜やデンプン資源に比べてさらに低く,その効果は
期待できない。しかし,世界各地でリグノセルロースか
らの第二世代バイオエタノールの開発が進められてい
る。
2.2
酢酸発酵による次世代バイオエタノール
酢酸発酵によるリグノセルロースからの次世代バイオ
エタノール製造では,図 2 に示すように,加圧熱水によ
りリグノセルロースを加水分解して得られた分解生成物
を Clostridium aceticum などの真正細菌目のバチルス科
に属する嫌気性の胞子形成細菌で酢酸に変換し,さらに
酢酸を酢酸エステルとしてエタノールに変換する 4)。こ
の変換プロセスには,
(1)加圧熱水分解物の生産と,
(2)
それらの酢酸発酵による酢酸の生産,(3)得られた酢酸
のエステル化及び水素化分解によるエタノール生産の 3
ステップが関与している。究極のバイオ燃料とするため
には,3 段階目での水素化分解にバイオ水素を用いるこ
とが必要となる。
第一世代及び第二世代の酵母によるバイオエタノール
製造に比べ,出発原料の糖はヘキソース(6 炭糖;C6)
のみならずペントース(5 炭糖;C5),酸性糖であるウ
ロン酸,さらにはリグニン由来物質を含むその他の分解
生成物もエタノールに変換できる点が有利である。これ
によって,たとえば反応 2 に示すように,1 モルの糖質
(D-グルコース)が二酸化炭素を排出することなく 3 モ
ルのエタノールに変換され,酵母によるアルコール発酵
に比べ,バイオマス資源の炭素の利用効率が高く,した
がって,エネルギーの回収率も高いプロセスとなる 4)。
現在このプロセスの研究(図 2)は,NEDO バイオマ
スエネルギー先導技術研究開発プロジェクト(2007.7 ∼
2011.3)5) か ら JST 先 端 的 低 炭 素 化 技 術 開 発 事 業
(ALCA)(2011.3 ∼)6) へと引き継がれており,これま
でに得られた成果を以下に紹介する。
2.3
バイオエタノール利用による二酸化炭素削減効果
バイオエタノールの利用は地球の温暖化の元凶である
二酸化炭素排出の削減効果を期待したものであることは
図 2.加圧熱水・酢酸発酵・水素化分解によるリグノセルロースからの次世代バイオエタノール製造プロセス 4)
液体バイオ燃料の革新技術
自明である。しかし,上述の如く,用いるバイオマス種
とエタノールへの変換技術の組み合わせにより,その削
減効果に大きな差があることが指摘されている。
図 3 には種々のバイオエタノール生産形態におけるバ
イオマスの炭素利用効率を示している。第一世代バイオ
エタノールでは,生産プロセスが単純であるため,アル
コール発酵で二酸化炭素を排出しても比較的多くがバイ
オエタノールに変換される。特に糖蜜資源でのエタノー
ルへの炭素変換効率は 66.7%と高い 7)。デンプン資源の
場合も 34.8%と比較的高い値を示している 8)。一方,第
二世代バイオエタノールにおいては,図 1 でも明らかな
ように前処理及び糖化工程で有効な単糖の収率が低下す
るため,木材の炭素のエタノールへの変換効率は 18.0%
と極めて低くなっている 9)。その第一の理由は,第一世
代及び第二世代のバイオエタノール生産が酵母を用いた
アルコール発酵に依存しているためであり,反応 1 に示
すように基質となる単糖の炭素の約 50%を二酸化炭素
として排出する点にある。
したがって,バイオマス資源からの効率的なエタノー
ル生産を見い出すには,根本となる原理・原則を見直
し,二酸化炭素排出削減に寄与し得るエタノール生産に
結び付ける必要がある。そこで,著者らはペントース
(C5)やヘキソース(C6)といった単糖に限定せず,よ
り広範なバイオマス由来の化合物をエタノールへと変換
することを試みた結果,上述の酢酸発酵による次世代バ
イオエタノールの生産にたどり着いた 4)。このプロセス
は反応 2 に示すように発酵の過程で二酸化炭素を排出し
ない。さらに酢酸発酵の基質としてヘキソース(C6)
のみならず,ペントース(C5),酸性糖であるウロン酸
や,セロオリゴ糖,キシロオリゴ糖,さらにはこれらの
過分解物や有機酸,そしてリグニン由来物質をも酢酸へ
と変換でき,水素化分解によりさらにエタノールへと変
換できることが見い出された 4)。結果としてバイオマス
を構成している炭素の 65.1%がエタノールへと変換され
得ることが明らかとなっており 10),今後の研究の進展い
かんで,この変換効率はさらに向上することが期待でき
る。
2.4
89
バイオエタノールの政策とゆくえ
バイオエタノール生産に適する資源は,上述の通り,
糖質・デンプン資源及びセルロース系資源であるが,前
者は現在,宮古島などでのさとうきびからの廃糖蜜や北
海道での規格外小麦が利用の対象となっている。しか
し,食糧問題との関連で,長期的に利用可能な資源は後
者のセルロース系資源であり,森林資源,林産廃棄物,
農産廃棄物などが含まれるが,その利用可能量は年間約
3,000 万トン,そこから得られるエタノールは約 840 万
k と推定される 11)。
日本政府は 2003 年 6 月にバイオエタノールを 3%混
合したガソリン(E3)の使用を解禁した。3%と低濃度
であるためエンジンの腐食の問題はなく,現在の自動車
をそのまま利用することができる。沖縄,宮古島では,
全島上げての E3 ガソリン利用が府省庁連携のプロジェ
クトとして 2007 年度からスタートしている。この E3
ガソリンの利用は将来 E10 ガソリンへと伸びることを
想定したものであり,現在わが国で利用されるガソリン
約 6,000 万 k のうち 600 万 k をバイオエタノールで代
替することを示唆している。今後この量をどのようにし
て確保するかが課題であると同時にバイオエタノールの
利用が地球の温暖化の元凶である二酸化炭素排出の削減
につながることが不可欠である。
さらに近年,バイオ燃料技術革新計画に基づく,リグ
ノセルロース系資源からのバイオエタノール製造の技術
革新が推進されている。バイオマス・ニッポン総合戦略
では製造コスト 100 円/ に対し,この技術革新ケース
では 40 円/ を目指している。そのために,経済的かつ
多量,安定的なエタノール生産を可能とするバイオマス
の利用が不可欠であり,高収量の草木系(被子植物,単
子葉類)の多年生植物エリアンサス(Erianthus)やネ
ピアグラス(Pennisetum purpureum)などを用いた技
術の開発が求められている 12)。しかし,これらの植物は
高収量であるが,セルロースやヘミセルロースなどの炭
水化物含量は他のバイオマスと比較して高含量のもので
はなく,また,C5 糖を多く含みエタノール生産原料と
して必ずしも優れたものとは言えない 13)。
図 3.種々のバイオエタノール生産形態におけるバイオマスの炭素利用効率 7–9)
90
坂
一方,ガソリンへのバイオエタノール混合にはいくつ
かの問題点がある。その一つはエタノールとの共沸現象
により混合ガソリンの蒸気圧が上昇し,蒸発ガスが増加
する点にある。さらに,吸水しやすいエタノールの添加
による水分の混入が混合ガソリンの相分離を招き,燃料
品質の劣化を引き起こす恐れがある。このような視点か
ら,バイオ ETBE(エチルターシャリーブチルエーテル)
をガソリンに添加することが検討され,2007 年 4 月 27
日より首都圏中心に 50 のガソリンスタンドで 7% ETBE
(エタノール 3%に相当)添加ガソリンである“バイオ
ガソリン”が販売されだした。さらに,2010 年度以後
に全国に販売を広げ,ETBE84 万 k (エタノール換算;
36 万 k ,原油換算;21 万 k )が利用されようとしてい
る。
今後,バイオエタノールに対する注目は益々大きくな
るものと思われる。とりわけセルロース系資源からのバ
イオエタノール変換技術の確立は,わが国にとって“国
産のエネルギー”を産出する点で極めて重要であり,科
学技術創造立国を自負するわが国に課せられた大きな課
題である。
3. バイオディーゼル
植物油/動物脂及びその廃油脂のバイオディーゼルへ
の変換研究は,欧州,米国,日本など世界各地で行わ
れ,すでに実用化されている。動物脂は固体で,植物油
は粘度が約 50 mm2/s,引火点が 300°C と高く,このま
まではディーゼル燃料として用いることはできない。そ
こで,工業的には常圧下,50 ∼ 60°C にて油脂のトリグ
リセリドにメタノールとアルカリ触媒を加えてエステル
交換し,粘度と引火点の低い脂肪酸メチルエステル
(FAME)に変換して,第一世代のバイオディーゼルと
して用いられる 14,15)。しかし,このプロセスはアルカリ
触媒として水酸化ナトリウムや水酸化カリウムが用いら
れるため環境への負荷が大きい。また,廃食用油に特に
多く含まれる遊離脂肪酸は触媒と反応してアルカリ石鹸
となり,その分離・精製も不可欠であり,触媒が必要以
上に必要となる 14,15)。したがって,数%の脂肪酸を含有
するパーム油や廃油ではアルカリ触媒法は使い難く,多
種多様な油脂類への適用が困難であり,アルカリ触媒法
に替わる新規技術の開発が不可欠であった。
そこで,第二世代及び次世代バイオディーゼル製造に
向けて,超臨界流体技術を駆使した無触媒系での種々の
バイオディーゼル製造法を以下に紹介する。
3.1
超臨界メタノールによる油脂からのバイオディー
ゼル(第二世代バイオディーゼル)
アルカリ触媒法における種々の問題を解決すべく,第
二世代バイオディーゼルとして超臨界メタノール法によ
る無触媒でのバイオディーゼル製造法(一段階超臨界メ
タノール法(Saka 法))(図 4)が著者らの研究によっ
て 10 年余り前に開発された。すなわち,反応 3 で示さ
れるように,原料油脂のトリグリセリドが無触媒で超臨
界メタノール(臨界点;Tc=239°C,Pc=8.1 MPa)とエ
ステル交換して FAME となる 14)。このとき,同時に遊
離 脂 肪 酸 か ら も エ ス テ ル 化 反 応( 反 応 4) に よ っ て
FAME が生成するため,油脂原料中に遊離脂肪酸が多
く含まれていても高収率で FAME が得られ,アルカリ
石鹸などを生成することもない。さらに,無触媒下のプ
ロセス故に反応後の分離・精製が容易である。しかしな
がら,本法では 350°C/43 MPa という過酷な反応条件を
必要とするため,不飽和脂肪酸の分解やトランス型への
異性化が引き起こされ,燃料の低温流動性を悪化させる
などの影響を及ぼす。
そこで,より穏やかな反応条件でのバイオディーゼル
製造法として,二段階超臨界メタノール法(Saka-Dadan 法)(図 4)を 10 年前に開発した 15,16)。この二段階
法 に お い て, 水( 臨 界 点;Tc=374°C,Pc=22.1 MPa)
はプロトン供与性が強く,亜臨界状態で高いイオン積を
有している。そのため一段階目の反応(反応 5)で亜臨
図 4.超臨界メタノールを用いたバイオディーゼル製造プロセス 15,16)
液体バイオ燃料の革新技術
91
反応 3,4 一段階超臨界メタノール法(Saka 法)での油脂の化学反応 15,16)
反応 5,6 二段階超臨界メタノール法(Saka-Dadan 法)での第一段階(加水分解)と第二段階(エステル化反応)の化学反応 15)
界水(270°C/7 MPa)は油脂類(トリグリセリド)を無
触媒で効果的に加水分解して,脂肪酸とグリセリン(グ
リセロール)に変換する。これらは高温,高圧状態で相
分離して容易に分別できる。二段階目の反応(反応 6)
では,得られた脂肪酸はプロトン供与性の強い亜臨界メ
タノール(270°C/7 MPa)により無触媒にてエステル化
され,FAME となる。またグリセリンは,一段階目で
反応系から除去されるため,二段階目で生成したバイオ
ディーゼルとの逆反応が起こらず,高品位のバイオ
ディーゼルが得られる。結果として,従来法ではアルカ
リ触媒の存在のため純度よく回収できなかったグリセリ
ンが,本法では高純度で容易に分離される。
さらに,本法では反応条件が 270°C/7 MPa と比較的
温和であるため,不飽和脂肪酸の分解等もほとんど起こ
らない。したがって,二段階法は一段階法に比して,よ
り実用化に適したプロセスであると言える。
3.2
超臨界カルボン酸エステルによる油脂からのバイ
オディーゼル(次世代バイオディーゼル)
以上のメタノールを用いた第一世代及び第二世代のバ
イオディーゼルの製造プロセスでは,グリセリンの副生
は避けられない。したがって,近年のバイオディーゼル
生産量の拡大に伴ってグリセリンの生産量も急増してい
る。しかしながらアルカリ触媒法においては,グリセリ
ンはメタノールや水,アルカリ触媒等との混合物として
排出される。このような粗グリセリンの売却価格は,精
製グリセリンの約 $1.3 ∼ 2.0/kg と比較して約 $0.1/kg
と極めて安く,運搬コストなどを考慮した場合には売却
が経済的に見合わないとされている。したがって,今後
グリセリンの有効な利用法が確立されない限り,これが
大きな問題となると考えられる。
このような問題に対し,エステル交換反応の一種であ
るエステル相互反応に着目し,カルボン酸エステルの一
種,酢酸メチル(臨界点;Tc=233°C,Pc=4.7 MPa)を
超臨界状態で用いることでグリセリンを副生しない油脂
からの新規の次世代バイオディーゼル製造法を提案し
た。その結果,350°C/20 MPa の超臨界状態では酢酸メ
チルとトリグリセリドのエステル相互反応が無触媒で進
行し,FAME とトリアセチンが生成することを見出し
た(反応 7)17–19)。
生成したこの二成分は互いに溶解するためトリアセチ
ンが FAME の燃料特性に及ぼす影響について検討した
結果,主要な燃料特性に悪影響を及ぼさないのみなら
ず,トリアセチンの混合はバイオディーゼルの酸化安定
性を向上させ,流動点にも好影響を及ぼすことが判明し
た。 ま た,FAME と ト リ ア セ チ ン を 合 わ せ て バ イ オ
ディーゼルとして定義すると,油脂の超臨界酢酸メチル
処理によって従来の製造法をはるかに上回る 125%の理
論収率でバイオディーゼルが得られることが明らかと
なった 17–19)。
92
坂
反応 7 超臨界酢酸メチルを用いたエステル相互反応による無触媒での油脂からのバイオディーゼル製造(Saka-Isayama 法)18)
反応 8 超臨界酢酸メチルを用いたエステル化反応による無触媒での脂肪酸からのバイオディーゼル製造 18)
反応 9 一段階超臨界炭酸ジメチル法による油脂からのバイオディーゼル製造(Saka-Ilham 法)21)
しかしながら,反応 8 で見られるように,遊離の脂肪
酸が油脂中に存在する場合,酢酸が副産し反応管の腐食
を招く可能性があり,そのための対策が必要である。
3.3
超臨界中性エステルによる油脂からのバイオ
ディーゼル(次世代バイオディーゼル)
上述の対策として,カルボン酸エステルに代わる“中
性エステル”に着目し,反応管の腐食を招かない,より
温和な条件での超臨界法による次世代バイオディーゼル
の製造法を検討した 20–22)。中性エステルとして超臨界炭
酸ジメチル(臨界点;Tc=275°C,Pc=4.6 MPa)を用い
た一段階無触媒バイオディーゼル製造プロセス(反応
9)について検討した結果,350°C/20 MPa の反応条件
で, 原 料 油 脂 の ト リ グ リ セ リ ド 及 び 遊 離 脂 肪 酸 が
FAME に変換され,副生成物としてグリセロールカー
ボネート及びシトラマル酸が得られることを明らかにし
た 21)。
しかしながら,この一段階超臨界炭酸ジメチルプロセ
ス(反応 7)には 350°C/20 MPa の高温・高圧条件が不
可欠であり,不飽和脂肪酸の熱分解を招くことになる。
したがって,より低温での反応によるバイオディーゼル
製造を実現するため,超臨界炭酸ジメチルを用いた,二
段階無触媒バイオディーゼル製造プロセス(反応 10 か
ら 12) に 関 す る 検 討 を 行 っ た 22)。 一 段 階 目 で は,
270°C/27 MPa/25 分の反応条件で油脂を亜臨界水処理
して脂肪酸を得(反応 10),ついで二段階目において
300°C/9 MPa/15 分の反応条件で脂肪酸を超臨界炭酸ジ
メチル処理(反応 11)した結果,バイオディーゼルが
97%の収率で得られることが明らかとなった。また,得
られたバイオディーゼルの燃料特性についても問題がな
いことも判明した。一段階目で得られたグリセリンは別
途超臨界炭酸ジメチルと反応させ,付加価値の高いグリ
セロールカーボネートへと変換されることも見い出した
(反応 12)。
この無触媒系での一段階超臨界炭酸ジメチル法(Saka
and Ilham 法)を図 5 に示したが,このプロセスでは,
たとえ原料油脂に不飽和脂肪酸が含まれていても高収率
で FAME が得られ,さらに高付加価値のグリセロール
カーボネートを温和な反応条件で得ることが可能なバイ
オディーゼルの製造プロセスである 23)。
3.4
バイオディーゼルの副産物
メタノールを溶媒として用いた近年のバイオディーゼ
ル製造では,その生産量の拡大に伴って副産物であるグ
リセリンの生産量も急増し,現在世界的に過剰な状況に
ある。これに対し,表 1 の通り,メタノールの替わりに
カルボン酸エステルの一種,酢酸メチルを超臨界状態で
用い,無触媒でのエステル相互反応により油脂から
FAME とトリアセチンが得られることを明らかにし
た 17–19)。
得られたトリアセチンは,すでに述べたように,バイ
オディーゼルの酸化安定性を向上させ,流動点にも好影
響を及ぼすことが判明し,FAME・トリアセチン混合物
をバイオディーゼルとして利用できることが明らかに
なった。その結果,従来の製造法をはるかに上回る最大
125%の収率でバイオディーゼルが得られることが判明
した。さらに“中性エステル”の一つ炭酸ジメチルをメ
タノールの替わりに用いることで,反応管の腐食を招か
ない,より温和な条件での超臨界法によるバイオディー
ゼルの製造が可能となる。同時に,副産物としてグリセ
液体バイオ燃料の革新技術
93
反応 10–12 油脂からのバイオディーゼル製造の二段階超臨界炭酸ジメチル法(Saka-Ilham 法)22)
図 5.油脂からのバイオディーゼル製造の二段階超臨界炭酸ジメチル法(Saka-Ilham 法)23)
ロールカーボネートやシトラマル酸などの付加価値の高
い有用ケミカルスが得られる 20–22)。
グリセロールカーボネートは無色の液体で,その誘導
体とともに,塗料,染料,接着剤,その他高分子材料等
の溶剤として注目されている。またシトラマル酸につい
ても,高純度に精製することにより医薬品の原料等とし
ての利用が期待でき,グリセリンよりも付加価値の高い
化学物質として回収できる。このように超臨界炭酸ジメ
チルを用いたバイオディーゼル製造プロセスでは,本来
の目的であるバイオディーゼルを製造すると同時に,有
用なケミカルスも生産可能であることが明かとなった。
3.5
バイオディーゼルの燃料特性,生産量と政策
得られたバイオディーゼルは,酸性雨の原因となる硫
黄酸化物(SOx)や黒煙が軽油に比べて少なく,浮遊粒
子状物質が減少するため,排ガスのクリーン化効果があ
る。さらにバイオマス起源であるため,地球上の炭素バ
ランスを崩さないが,炭素,水素以外に酸素が含まれ,
軽油と比較して発熱量が低下する。しかし,黒煙が少な
く,軽油に比べより完全燃焼し走行にはそれ程の性能低
下は見られず,環境・安全の観点から法律的にも軽油の
強制規格基準を満足している 14,15)。
94
坂
表 1.種々の超臨界流体技術により得られるバイオディーゼルと副産物
溶媒(流体)
メタノール
バイオディーゼル
副産物
FAME(>97%) 純品グリセリン
酢酸メチル
FAME(>97%) トリアセチン
炭酸ジメチル
備考
文献
副産物をケミカルとして使用可,しかし世界的に過剰
14–16)
FAME・トリアシン混合体をバイオディーゼルとして利用可 17–19)
(収率 125%)
FAME(>97%) グリセロールカー
副産物は高付加価値ケミカルス
ボネートなど
バイオディーゼルに対し,EU-27 では 2008 年におい
て 881 万トンの生産量に達しているが,わが国では京都
市を中心に 0.4 ∼ 0.5 万トン程度の利用にとどまってい
る。今後,休耕田を有効に利用して菜種栽培を推進する
か,東南アジアに目を向け,アブラヤシのパーム油やナ
ンヨウアブラギリ(Jatropha curcas)からのクルカス油
を利用するなど原料の確保が課題である 24)。また,廃油
の回収・再利用においてわが国の廃油量は年間 42 ∼ 56
万トンで 11) このうち数万トン程度しか回収が見込めず,
わが国で利用されている軽油約 4,100 万 k (2003 年度)
の 0.1 ∼ 0.2%程度しかまかなうことができない。
さらに,原料の廃油脂には,図 6 に示すようにトリグ
リセリドの他に脂肪酸や水が含まれる。アルカリ触媒法
では前者はアルカリ石鹸となり,後者の水は触媒活性を
低下させるため,水や脂肪酸含量が数%以下の高品位な
廃油脂しか利用できない。また酸触媒法では,10%程度
までの脂肪酸しかバイオディーゼルへの変換が可能でな
い。また,リパーゼ酵素法やイオン交換樹脂法ではわず
かな水の存在で触媒機能が低下し,バイオディーゼル収
率が著しく減少する。しかし前述の二段階超臨界メタ
ノール法や二段階超臨界炭酸ジメチル法では,一段階目
で水を,二段階目で脂肪酸を用いるため,水や脂肪酸を
多く含む低品位の廃油脂でも利用が可能で,わが国で利
用可能なすべての多種多様な廃油脂をバイオディーゼル
に変換して利用できる唯一の技術となっている。
さらに,地球温暖化と連動して,バイオディーゼル
は,EU を中心に税の優遇措置のもと実用化がかなり進
んでいる。またドイツでは非課税であったバイオディー
ゼルに対し,2006 年 8 月より 9%の課税に踏み切り,段
階的に 2012 年までに 45%の税が課せられるところまで
進んでいるが,わが国においてはようやく品質規格が定
められたところで,B100(100%バイオディーゼル)で
ない限り依然として地方税法による課税の対象となって
いる。一日も早く,わが国においても税の優遇措置によ
りバイオディーゼルに市民権が与えられることを強く希
望する。
4. お わ り に
本稿で取り上げた次世代バイオ燃料はいずれも,未来
技術として著者が現在進めている研究に基づくものであ
る。したがって,これらの新規プロセスのエネルギー効
率や経済性については今後の研究に待たねばならない。
しかし,本稿での次世代バイオ燃料は,いずれも従来法
に比べてバイオマスの持つカーボンニュートラル性をよ
り有効にバイオ燃料やバイオケミカルスに反映してい
る。バイオマスからの二酸化炭素の排出はカーボン
ニュートラルと見なされているが,バイオマスのバイオ
20–23)
図 6.多種多様な油脂類に対する適用可能なバイオディーゼル
燃料製造方法
燃料やバイオケミカルスへの変換に際して排出される二
酸化炭素は,極力抑えて有効にバイオ燃料などに保存し
得るプロセスの模索が必要である。そのためには,本稿
で述べたバイオマスの炭素利用効率の高いプロセスを視
野に入れた研究を積極的に進めることが重要である。読
者の方々の新規なバイオ燃料の研究に向けて,一つの指
針としてお役に立てれば幸いである。
文 献
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るリグノセルロースからのエコエタノール生産.pp. 44–
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