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血友病における現在の上肢整形外科治療の概要

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血友病における現在の上肢整形外科治療の概要
Original Article (Orthopaedics) − Full Translation
血友病における現在の上肢整形外科治療の概要
An outline of the current orthopaedic management of haemophilic disease of the upper
limb
M. Z. B. Choudhury, H. A. Mann, N. J. Goddard and C. A. Lee
The Royal Free Hospital, London, UK
要 約:上肢血友病性関節症の症状に関する報告
るが,上肢の罹患も一般的にみられる。松葉杖など
は比較的少ない。血友病は様々な臨床症状を呈し,
の移動補助具を使用する場合には,肘関節や肩関
しばしば整形外科関連の合併症を引き起こす。この
節に部分的にではあるが体重負荷がかかるため,上
ような合併症は,関節構造を累積的に破壊する関
肢の罹患はこのような機械的負荷によって生じる。
節内血腫の繰り返しの発症に端を発する。下肢は
体重負荷がかかるため下肢関節の罹患が大多数であ
Key words:血友病性関節症,血友病,肩,上肢
緒 言
における一連の生物学的変化を惹起する。これらの
変化については,既によく研究されている。第二に,
肩や肘,手関節における血友病性関節症の罹患に
成長期の患者においては,血管増生によって不均整
関する報告は比較的少ない。現時点では情報が得ら
な骨端成長が惹起されうる(2)。この変化は関節のバ
れたとしても,そのほとんどが単一患者の症例報告
イオメカニクスを変化させ,疼痛や拘縮,機能障害
や小規模研究に限定される。これまでの多くの研究
を増悪させる。また,靭帯と関節嚢の線維化が生じ
では,肘関節は血友病性関節症で 2 番目に頻度の高
る。蝶番関節における軽度の回旋・屈曲の歪みは,
い罹患関節であることが示されている。屈曲や伸展
肘関節などの蝶番関節における関節内出血頻発の重
の初期の制限は良好に代償されるため,破壊的変化
要な発症メカニズムの 1 つである。関節内出血が一
(1)
。上肢関節は,驚く
旦発症し始めると,滑膜炎の悪循環サイクルが確立
ほど機能が重複している。特に肘関節は,その可動
してしまう。さらに,肘関節は本来蝶番関節として
制限が肩関節の運動によって代償されるため,機能
機能するため,炎症滑膜の“pinching”が生じ,増
障害につながることは稀である。興味深いことに,
悪へとつながる。現在この進行過程を抑制すること
代償が困難な唯一の動作は前腕の回内運動と回外
を目的とした研究が進められているが,これまでの
運動である。
成果は残念ながら限定的である(3)。一部の研究では,
は目立たない状態で進行する
血友病性関節症の一義的問題は,関節内出血で
小児期早期に凝固因子製剤による補充療法を開始す
ある。関節内出血は,滑膜増殖を引き起こし,関節
ることの有益性が示されているが,症例数が少ない
ために未だ経験が限られており,効果的なレジメン
Correspondence: Mr. Z. Choudhury, MRCS, 27 Lydford Rd,
London, NW2 SQX.
Tel.: 0208 459 3538;
e-mail: [email protected]
Accepted after revision 17 April 2007
Haemophilia( 2007),13,599–605
©Blackwell Publishing Ltd.
� 2007 The Authors
Journal compilation � 2007 Blackwell Publishing Ltd
16
が決定されるには至っていない(4)。
鎮痛薬,理学療法,装具などの保存的治療体系
が一般的に使用されているが,今回我々は現在の外
科的選択肢に焦点を当てる。
血友病における現在の上肢整形外科治療の概要
評 価
の進行を抑制することが困難になるため,外科的介
入が必要となる。段階的アプローチによる長期治療
血友病性関節症の X 線学的評価には,Pettersson
(5)
スコア
と Arnold-Hilgartner(AH)スコア
が使用
されている。後者については,スコアリングシステム
から治療上意義がないとの理由で「ステージ II」を省
略し,4 段階で評価する改訂 AH スコアリングシステ
ムのほうが現在ではより一般的に使用されている。
Modified AH Classification [7].
Grade
Description
I
Soft-tissue fullness indicating effusion and synovial
thickening
Also features juxta-articular osteopaenia
Epiphyseal widening, irregular surfaces: small erosions
Normal cartilage interval or joint space
Narrowed cartilage interval. Extensive joint surface
erosions
Presence of bony cysts
As stage III + complete loss of cartilage interval.
Marked irregular surface. Reactive sclerosis and
subluxation
II
III
IV
選択肢を考慮する必要があると考えられる。
(6)
Rodriguez Merchan ら(8)は,Manco-Johnson ら(9)
によって報告された Colorado Physical Examination
(PE)スケールと世界血友病連合(WFH)によって承
認されている関節スコアリングシステムの長所を統
合した臨床評価システムを開発した。この臨床評価
滑膜浄化術
この治療法は,事実上の“非観血的”または“化
学的”な滑膜切除によって滑膜増殖を抑制すること
を目的としている。実際には,この治療法は「滑膜
切除術(synovectomy)」という言葉ではなく,その
(11)
原理を表すために「滑膜浄化術(synoviorthesis)」
という言葉で呼称されている。滑膜浄化術には,リ
ファンピシン(12 ,13)やオキシテトラサイクリン(14),放
射性物質が使用される。作用機序としては,充血し
た滑膜に栄養を供給する滑膜下血管叢の線維化を
導く蛋白質分解作用が考えられている。
放射性滑膜切除術には,b 放射体が使用される。
放射される粒子は 4 ∼ 6 mm の厚みを貫通し,滑膜
を破壊する。結果は,概して良好である。
Isotopes used in radiation synovectomy (isotope)
Gold
Yttrium[15]
Rhenium[16]
Dysprosium
Phosphorus[17,18]
Au-198
Y-90
Re-186
Dy-66
P-32 (chromic phosphate)
システムは,基本的に膝関節手術を基にしているが,
客観的,かつより重要なことに,再現性の優れた評
しかし,この治療法は軽度の罹患関節に対する予
価ツールであることが強調されている。一方,Royal
防的処置であり,活動期の出血関節に対しては明ら
Free Hospital( 英国)の患者集団の観察に基づく, かに適切ではないことに留意すべきである。
X 線学的評価と臨床評価とを統合したスコアリング
システムが Ribbans(10)によって報告されている。
滑膜切除術
関節内血腫の治療
この治療法は,直接的に滑膜増殖を抑制すること
ができ,有用な外科的処置である。この治療により,
血友病性関節症の発症では,滑膜における細胞増
主に 3 つの利益が得られることが証明されている。
殖,炎症,出血が主要な役割を果たす。現在の急
第一に,炎症組織の切除により鎮痛効果が得られる。
性期治療は,凝固因子製剤による補充療法と補助
第二に,この処置を行った関節では出血が減少する。
的な鎮痛薬であり,これによって止血が得られるま
第三に,少数例を対象とした研究では,追跡期間
で維持するアプローチである。その後,機能障害や
中に再出血が認められていない(一部の症例の追跡
可動制限を避けるための集中的理学療法を行う。し
期間は数年に及ぶ)
。一部の患者では再治療が必要
かし,これらの治療戦略には限界があり,関節破壊
になるが,興味深いことに,この処置は血友病性関
17
Full Translation: M. Z. B. Choudhury, et al.
節症の進行を遅延させるとの説が提唱されている。
研究によって様々である。MacDonald らの研究(23)で
滑膜切除術(または滑膜浄化術)後の外科的治療
は,41 例中 16 例に症状が認められた。16 肩関節中
についてはいくつかのアプローチがあり,これらにつ
いては後述する。これらの外科的治療では考慮すべ
8 関節で肩回旋腱板断裂のエビデンスが認められる
とともに,2 関節では上腕二頭筋腱炎のエビデンス
き点がいくつかあるが,最も重要な点は出血とその
が認められた。肩回旋腱板断裂の信頼性の高い臨床
コントロールである。以前の研究は 1980 年代初頭に
的予測因子は,インピンジメントサインおよび可動
報告されたレジメンの改善を目的としたものであり,
制限を伴う疼痛であった。これらの症例において影
しばしばタイプの異なる一連の手術を材料に検討さ
響が顕著であった領域は,肩関節の骨自体ではなく,
(19)
れた
。これらの治療オプションは,いずれについ
ても血液学部門と密に連携できる専門施設で施行さ
れなければならない。
むしろ軟部組織(肩回旋腱板病変)であった。
X線学的評価における最も有力な罹患予測因子は,
関節面不整と上腕骨頭の上方移動であった。関節内
への自然出血は,物理的に亜脱臼を引き起こし,
肩関節
機械的に肩関節を破壊する(24)。一部の症例では,
関節内出血の繰り返しにより肩関節の構造が破壊さ
血 友 病 患 者 において 肩 関 節 は,
「the neglected
れる。関節窩と上腕骨骨頭は破壊されて歪み,物理
(20)
的なロッキング状態となる(25)。
joint(無視される関節)」と呼ばれている 。113 例
の関節内血腫 366 件を評価した Duthie の研究では,
肩関節の主な治療法は,凝固因子製剤による速
約 2%で肩関節内出血が認められている。Gilbert ら
やかな薬理学的治療,そしてそれに続く体系的なリ
の研究でも同等の頻度(2%)が報告されている。肩
ハビリテーションであることに変わりはない。凝固因
関節の治療においては,従来から出血の広がりを最
子製剤の定期的投与が奏効しない滑膜炎に対して
小限に抑えるために非手術的アプローチがとられてき
は,関節面骨びらんや関節線維化が生じる前に,放
た。しかし,放射性または化学的滑膜浄化術が既に
射性コロイドまたは関節鏡を使用しての滑膜切除術
実施されており,現在ではオープン手術または鏡視
を施行するべきである。慢性滑膜炎が生じる前のス
下手術を問わず,滑膜切除術が一般的になりつつあ
テージ(初期症状を呈している段階)では,関節可動
る。肩関節固定術は,疼痛および拘縮のある関節に
域訓練と筋力強化訓練が特に有用である(4)。
おいて,
疼痛のみを解消するうえで有用である。また,
関節置換術も有用である。
肩関節は,体重負荷のかかる関節ではないため,
一部の患者では肩の慢性疼痛が残り,長期疼痛
治療または,最悪の場合,肩関節半置換術や関節
固定術が必要になる。肩関節半置換術を行った 3 例
血友病性関節症による影響を比較的受けにくい。膝
について Luck と Kasper により報告されている。6 年
関節や肘関節といった蝶番関節とは異なり,肩関節
間の追跡で,2 例では疼痛の解消が持続し,1 例で
の関節内血腫は,成人期に発症する傾向があり,強
は最小限度の疼痛が残った。肩関節半置換術の報告
い疼痛,重度機能障害,可動制限,筋力低下を呈
はほとんどなく,リハビリテーションの過程について
しうる。これらは関節機能の低下へつながる。
いくらかでも考察した報告はさらに少ない。肩関節
上肢の関節はそれぞれの機能が高度に重複し,1
半置換術が適切と考えられ,術後にリハビリテーショ
つの上肢関節の機能は他の上肢関節の旋回運動に
ンが行われた 2 例について Dalzell ら(26)によって報告
よって代償されうるため,可動域を注意深くかつ客
されている。
観的に評価しない限り,変化を見いだすことが困難
であり,一部の症例では慢性的変化も見逃される可
(21)
能性がある
関節固定術は,長期予後が良好であるとともに,
術後深部感染のリスクが低い。烏口上腕関節,関節
。実際に,一部の研究では,患者記
窩上腕関節および肩峰上腕関節の三平面固定では
録の詳細な後方視的分析によってのみ変化が見いだ
単一平面固定に比べてさらに良好な union rate の改
(22)
されている
18
。肩関節に症状をもつ患者の割合は,
善が認められている。機能的に理想的な肩関節の位
血友病における現在の上肢整形外科治療の概要
置は屈曲(前方挙上)30°,外転(側方挙上)20 ∼ 30°,
(27)
内旋 30 ∼ 40° である
上肢の血友病性関節症への罹患が,どの程度の
。肩関節固定術を受けた患者
障害をもたらすかを推測することは困難である。血
では,有意な旋回障害が生じるが,機能的には頭部お
友病患者では下肢の問題がしばしばみられるが,こ
よび仙骨部に手を届かせることが概して可能である。
れまでのデータのレビューそして患者の臨床評価では,
最大 87%の患者で肘関節の罹患が認められることが
肘関節
示されている(29)。
罹患肘関節では可動域が徐々に減少する。特に,
血友病との関連において,肘関節は幾分興味深い
回内運動と回外運動の可動制限を伴って伸展域が
領域である。肘関節は体重負荷のかかる関節ではな
徐々に減少する。これは,不安定性をもたらすとと
いにもかかわらず,機能的に 2 番目に血友病性関節
もに,しばしば遅発性尺骨神経麻痺につながる。橈
症の影響を受けやすい関節であることがしばしば報
骨頭の肥大が一般的にみられ,これは遅発性尺骨神
告されている。これについては,部分的にではあるが,
経麻痺発症に寄与する。進行した症例では,上腕骨
この関節にしばしば体重負荷がかかることを考慮しな
の肘頭へのはまり込みと,橈骨切痕の拡大がみられ
ければならない。血友病における下肢疾患は,松葉
る。関節内血腫の繰り返しが肘関節および手関節の
杖や他の移動補助具の必要性を余儀なくする。Heim
可動性に与える影響について検討した Gamble らの
(28)
によって報告されているように,血友病患者に
研究では(29),最初の有意な変化が回内運動可動制
は特異的な様々な問題が生じる。軟部組織の重度拘
限であることが見いだされるとともに,年齢の高い
縮と関節コンポーネントの変形が一般的にみられる。
患者(26 歳以上)では若年の患者に比べて可動制限
ら
(a)
(b)
Fig. 1. The radiograph shows advanced
degenerative joint disease in the shoulder.
(a) Anteroposterior (AP) and (b) lateral
radiographs of the elbow showing joint
destruction because of haemophilia. Note:
the lateral view shows a patient who has
had a radial head excision.
Fig. 2. Lateral X-ray of the elbow showing destruction of the
radial head.
Fig. 2. Lateral X-ray of the elbow showing destruction of the
radial head.
19
Full Translation: M. Z. B. Choudhury, et al.
が有意に重症であると結論している。また,最も変化
が著しかったのは,肘伸展域の減少であった。
このスケールでは 0(X 線学的所見なし)∼ 13(重
症関節症)のスコアで関節を評価する。このスケール
肘関節の外科的治療選択肢は広く,次のものが挙
げられる。
は,WFH によって承認され,広く使用されている。
以前我々の中の 1 名が,血友病性重症肘関節症を
もち Royal Free Hospital の血友病部門を受診した
1 滑膜切除術
2 橈骨頭切除+滑膜切除術
3 切除関節置換術
4 関節固定術
5 シリコン挿入関節形成術
6 全肘関節置換術(TER)
26 例を対象に,臨床的評価および X 線学的評価を
行った(33)。全例の半数以上は,機能性の関節可動
域を維持しており,通常の日常活動が可能であった。
Hospital for special surgery rating system(34)を使用
して,全例に主観的および客観的評価が行われた。
6 例は重症の肘関節可動制限が認められたが,手術
滑膜切除術は肘関節で一般的に使用されており , を拒否した。全例の 25 %で他関節の罹患が認めら
疼痛の解消や可動域の改善,さらなる出血の予防と
れた。26 例中 4 例では重度の肘関節機能障害または
いう点で良好な結果が得られている。同様に,先に
完全な可動域の喪失が認められた。2 例では進行し
(30)
も述べたが,滑膜浄化術も使用されている。
た関節症がみられ,重度屈曲・伸展制限が認められ
疼痛解消のための選択肢としてシリコン挿入関節
(31)
形成術も施行されており,Butler-Manuel ら
た。1 例では両側肘関節の罹患がみられた。
によ
認められた X 線学的変化は,主に 3 つのパターン
り 13 例での経験が報告されている。しかし,13 例
に分類することができた。最初のグループは,主に
中 2 例は感染症のために,そして 1 例は挿入の不成
腕尺関節の罹患を呈し,内側骨棘形成,腕尺関節
功のために再挿入が必要とされた。また,初期の研
狭小化,上腕骨内側顆上稜における骨新生が認めら
究ではあるが,Smith らによって,シリコンゴムを留
れた。これらの所見の認められた患者では,尺骨神
置する関節置換術により良好な結果の得られた 6 例
経障害の頻度が高かった。
が報告されている。
第二のグループは,肘関節外側の罹患が優位で,
肘関節における屈曲変形それ自体は,外科手術の
橈骨頭肥大と上腕骨外側顆上稜における骨新生に
適応にはならない。先に論じたように,可動域両端
よって特徴づけられた。臨床的には,前腕の回旋制
の可動制限は,慢性の適応によって代償される。し
限と後外側疼痛がこのグループの主な症状であった。
かし,
安静時疼痛を伴う機能障害がみられる場合には,
この患者群では橈骨頭切除および滑膜切除術が有益
決定的な治療が必要である。従来から遠位上腕骨置
であった。
(32)
換術が使用されているが
,血友病性関節症におけ
第三のグループはびまん性骨棘,関節裂隙狭小化,
る成績は良好ではなく,この治療は外傷性の肘関節
軟骨下嚢胞など,全般的な関節炎性の変化を呈して
病変に限定して使用すべきことが示唆されている。
いた患者集団である。結果として,この集団では,
Pettersson らにより次の 8 つの要素に基づく X 線
学的評価スケールが提唱されている。
1 骨粗鬆症
2 終板の肥厚
3 関節裂隙狭小化
4 軟骨下骨表面不整
5 軟骨下嚢胞
6 関節の骨びらん
7 関節面不整
8 関節変形
20
肘関節のすべての運動に可動制限がみられ,関節拘
縮を呈していた。しかし,一部の患者は,全般的な
可動制限があったにもかかわらず,機能障害はほと
んどみられなかった。
臨床所見と X 線学的所見との相関については,議
論の余地がある。Pettersson らの研究では両者の良
好な相関が認められているが,Malhotra らの研究で
はほとんど認められていない。肘関節について AH ス
テージと可動域とを比較した研究では,合理的と考
えられる相関が認められている。
血友病における現在の上肢整形外科治療の概要
AH stage
Mean arc of movement (º)
3
4
5
たは前腕の血友病性病変を認め,手関節または手の
関節内血腫は 10 例に認めたのみであった。これらの
127
100
78
うち最も問題となったのは,前腕掌側コンパートメン
トにおける出血であった。他の研究で筋膜切開術を
Source: Johnson et al. [35].
要した出血が報告されているが,これらの症例でこ
我々の施設でも臨床所見と X 線学的所見との相関
の処置を要した症例はなかった。しかし,6 例に拘
性について統計学的検討を行ったが,有意な相関は
縮とニューロパシーがみられ,筋膜切開が考慮される
見いだされなかった。
べきであったことが示唆される。同様に,手根偽腫
肘関節置換術は,最近施行頻度が増加しており,
(36)
良好な成績が得られている。Kasten らは
,一連
瘍および出血による手根管症候群の発症が考えられ
るが,これらに関するエビデンスはほとんど報告され
の血友病患者 34 例に一次 TER および再 TER を行っ
ていない。偽腫瘍は,そのほとんどが成人にみられ,
た。一次 TER の結果は良好であったが,再 TER の
近位骨格の大きな骨にみられる。しかし,偽腫瘍は,
結果は比較的良好ではなく,骨折の合併がみられた。
多数の症例において骨格が未成熟の小児の遠位手関
Chapman-Sheath と Kamineni によっても血友病患者
節や遠位足関節に発症する。治療せずに放置すれば,
における肘関節置換術が報告されているが,総症例
近位偽腫瘍は軟部組織を破壊し,骨を侵蝕し,血
数は 14 例にすぎない。これまでの TER の結果は概
管病変や神経病変を引き起こす。外科的切除が第
して有望であるが,適切な患者選択がより良好な結
一選択であるが,この処置は主要な血友病施設で施
果につながることが示されている。実際,TER は,
行されなければならない。合併症発症率は 20%であ
施行しても最大の利益の得られない患者に対しても
る(40)。
血友病における上肢の罹患は,対処困難である。
施行されていると考えられる。
血友病性肘関節症に対する治療のかなめは,速や
一部の患者では下肢の問題が歩行に障害をきたし重
かな凝固因子製剤の投与と鎮痛薬そして集中的な理
大視されるため,上肢の問題が軽視されがちである
学療法による急性出血の抑制である。一部の施設は,
が,他の患者では上肢機能障害が QOL に重大な影
一旦機能障害をもたらす屈曲変形が認められた場合,
響を与えている。残念なことに,上肢の外科的治療
あるいは出血の初回管理において,Flowtron(間欠
選択肢は現時点では技術的にテスト段階にあり,未
的空気加圧装置)や Dynasplint などの装具の使用を
熟である。治療の基本は,現在においても早期発見
(37)
。一方,Heim らは,急性期にはシ
と関節内出血の抑制,そしてリハビリテーションであ
ンプルな支持具で十分であり,装具は後のリハビリ
るが,機能障害を回避するために早期に外科的処置
推奨している
(38)
テーションまで不要であることを示唆している
。
を考慮することも有益である。また,このことは,
早期関節病変をもつ血友病患者に対して集学的医療
手関節
チームが診療に当たることの重要性を強調するもの
といえる。
手関節の血友病性関節症については,これまでの
ところ文献ではほとんど言及されていない。しかし,
一部の研究(34)では,手関節の運動に軽微で検出困
難な変化が生じることが示されている。これらの変
化は非常に軽微であり,手関節の可動制限そしてそ
れによる手の機能障害を患者が訴えることによって
初めて明らかになることが多い。Lancourt ら(39)は
血友病患者 200 例を 7 年間にわたり追跡し,その詳
細を報告した。追跡期間中,200 例中 34 例に手ま
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