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共創
Vol.15
IGPI レポート 2014 夏号
持続する企業をめざして
企業を取り巻く環境は日々変化しています。企業の持続的成長の
ために考えるべき戦略や体制とは?世代交代の時期を迎えて
いかに事業を継承し、後継者へのバトンタッチを進めていく
のでしょうか、後継の経営者がまず取り組むべき課題とは何
でしょうか?
今号では企業の持続性について、いくつかの視点で考えます。
Contents
03 企業のガバナンスを戦略的に考える
楠原 茂 経営共創基盤(IGPI)パートナー 取締役 CFO
07 社長が世代交代を考え始めたら
津田 敬介 経営共創基盤(IGPI)ディレクター
10 後継の経営者が取り組むべき課題とは
垂水 隆幸 経営共創基盤(IGPI)ディレクター
発行:株式会社 経営共創基盤(IGPI)
Industrial Growth Platform, Inc. http://www.igpi.co.jp Cover Design & Illustration : 中嶋ハルコ Layout Design : 安久津みどり
企業のガバナンスを
戦略的に考える
楠原 茂 経営共創基盤(IGPI) パートナー 取締役 CFO
ガバナンスとは?
アクセル
経営陣によるチャレンジを後押しする役割。
優れた企業とはどのような会社でしょうか?
未踏の地に挑むリスクや組織改革の苦しみ
優れた経営者や社員がいる企業、優れた製品や
を乗り越えて、スピードと機動力をもって
商品を持つ企業、優れた技術やビジネスモデル
経営にあたる経営陣に対して、自らの企業
を持つ企業、いろいろあると思いますが、筆者
経営の経験をベースに力強く応援する等
は少し視点を変えて、優れたガバナンス構造を
持つ企業もその一つだと考えてみることにしま
2000 年代まで多くの企業に取り入れられてい
す。
たガバナンスは、取締役の大半が社内出世の頂
そもそもガバナンスとは、何なのでしょうか?
点である生え抜き人材で占められ、社外役員は
ガバナンスを、企業がその価値を向上させるた
大学教授・弁護士・公認会計士・税理士といっ
めの統治メカニズムと定義すると、下記のブレー
た職業専門家役員のみ、というブレーキ重視の
キとアクセルの二つ役割があると考えています。
ガバナンスでした。
ガバナンスというと、ブレーキの部分だけに
一方、新世代の企業ガバナンスは、会社法の
フォーカスがあたることが多いですが、それだ
委員会設置会社ではない企業組織であっても、
けでは片手落ちで、ブレーキとアクセルの2つ
取締役会、監査役会に加え、任意の委員会(指
が揃って、はじめてその役割を全う出来るもの
名委員会、報酬委員会)を設置するなどの構造
なのです。
が以前と異なります。また、より本質的な人材
面については、職業専門家に加え、他の企業の
ブレーキ
社長経験者を社外役員に積極的に招聘すること
経営陣による暴走を抑止するために経営陣
で、ブレーキとアクセルを備えたガバナンス構
を律する役割。たとえば、権力構造の在り
造へと徐々にシフトしてきています。
方に時には修正をかけさせる、あるいは、
重要な意思決定に対して牽制をかける等
I G P I R E P O RT
03
ブレーキ
アクセル
企業の持続的成長とガバナンス
営に取り入れることを促すものになっています。
ガバナンスを担うことをミッションとする投
IGPI においても、上場・非上場にかかわらず、
資家(株主)も存在します。
成長支援からスタートアップベンチャー投資ま
この株主は、競争力のある事業、良い経営者又
で、100 %の議決権を保有するものからマイノリ
は開かれた経営者のいる企業、事業の本質的なバ
ティ投資まで、数多くの投資を事業として行って
リューアップの余地のある企業に投資の可能性
いますが、いずれについても企業の持続的成長に
を見出します。
貢献できるようブレーキとアクセルを備えたガ
また、過度に金融的手法を駆使する投資家や、
バナンスを実践し続けています。
自らの短期的な利益追求に忠実義務を負ったい
04
わゆるアクティビストとは一線を画し、企業の持
一方、企業から見て逆の視点(連結企業グルー
続的成長のために、時間をかけた経営陣との信頼
プの親会社としての視点)に立った場合には、ど
関係の構築・恊働を重視し、建設的・友好的にエ
うでしょうか?
ンゲージメント(対話)を実行する株主でもあり
当該企業には、適切なガバナンスが講じられて
ます。
いても、連結グループ全体で考えた場合には、各
この企業と株主との間の適切な緊張感のある
連結子会社に対して、適切な株主ガバナンスを講
エンゲージメントとガバナンスが、企業の持続的
じられていないケースが数多く見受けられます。
成長を促すと考えられはじめ、昨今、欧米で注目
例えば、連結子会社同士の事業領域が重なって
をされている投資スタイルとなっています。
いて非効率を生むなど、個別最適の集合体が全体
我が国においても、上場企業のガバナンスに関
最適になっていないケース、そもそも株主ガバナ
する動きとして、
「日本版スチュワードシップコー
ンスが効果を生んでいないため、経営そのものの
ド」の制定(2 月、金融庁)
、
「持続的成長への競争
レベルや規律が低くなってしまっているケース、
力とインセンティブ∼企業と投資家の望ましい
などです。
関係構築∼プロジェクト(
「伊藤レポート」
)
」
(4 月
連結子会社については、既に自らが重要なス
中間報告、経産省)
、社外取締役に関する会社法
テークホルダーとしてガバナンスを担う立場に
改正(6 月、法案成立)などがあげられますが、い
あるのですから、IGPI のような外部の力をうま
ずれも、機関投資家に受託者責任を全うすること
く使いつつ構造改革に乗り出すことは可能です
を促すものであったり、企業の持続的成長のため
ので、まずは自らの連結企業グループのガバナン
に株主と企業とのエンゲージメントを促すもの
ス構造の分析をすることに着手してみてはいか
であったり、外部のガバナンスを積極的に企業経
がでしょうか?
IGPI RE PORT
株主
行政
社員持株会
顧客
取引先
企業
外部諮問機関
社員
社外役員
非上場企業のガバナンス
重要なことは、株式市場に代替する適切なガ
ところで、企業にとって、上場することが持
ダーに偏よらないガバナンス構造を構築するこ
続的成長を意味するとは限りません。
とだと考えます。
バナンス体制を持つこと、特定のステークホル
もちろん上場には資金調達等の面で一定のメ
リットがありますが、非上場企業の中には、議
例えば、取引先(又は取引先持株会)や社員
決権が散逸してしまった、相続税の負担に耐え
持株会に株式を保有させ、適切なガバナンスを
られない、オーナー一族で企業を抱えきれなく
供与する株主としての役割を担わせることはど
なったなど、やむを得ず上場を選択する企業も
うでしょうか。
少なくありません。
取引先も社員も当該企業の企業価値向上の利
本来、上場は相続対策的に行われるべきもの
益を享受する重要なステークホルダーです。
ではなく、企業の成長を株式市場に約束し、代
特に、社員持株会は、自己の企業のことをよ
わりに資金を市場から調達する、というように
く理解している(もっとも自社のファンである)
間接金融から直接金融へとシフトすることを、
社員が株主となりますから、適切なガバナンス
大きな目的として行われるべきものです。
の供与者として機能する可能性が高く、一方、
ということは、例えば、単一事業を営む企業で、
経営の観点で見た場合、社員持株会との付き合
その事業の結果が出るまで(利益が出るように
い方は、労働組合とのそれに非常に似ているた
なるまで)に 10 年単位というような企業は、株
め、労使の関係が良好な企業においては、安定
式市場に成長を約し或いは成長を求められ、そ
株主としての長期的な貢献が期待できます。
のモニタリングとして四半期開示にさらされる
また、配当政策を工夫することにより、業績
上場には、事業特性上、向かない企業もあると
に連動した還元を賞与とは別に行うこともでき
いうことになります。
ます。人事制度と関連をつけて
(あるいは並列に)
設計することにより、新しいインセンティブ体
では、非上場企業の場合には、経営者を応援し、
系も導入できます。
時には厳しく律するガバナンス手段は無いので
しょうか。
銀行など金融機関というステークホルダーに
非上場企業の場合には、株式市場からの監視
よるデッドガバナンスも忘れてはいけません。
の目がないため、一般的に透明性が低くガバナ
一言にデッドガバナンスというと、経費の削
ンスを講じにくいと言われますが、そんなこと
減、事業の縮小・売却・廃止などにより、
利益の確
はありません。
保を要請するなど経営者にとって、ブレーキの
I G P I RE P O RT
05
一方、投資事業も行っている 150 億円を超える
連結純資産を有する企業という側面も持っていま
すので、一定のガバナンス構造も必要とされます。
詳しくは割愛しますが、IGPI の場合には、パー
トナーシップ制と種類株式の導入によりオー
ナーシップを失わずに企業経営を行い、経営諮問
多彩なガバナンス
委員会という外部の目を取り入れることによっ
てガバナンス機能を保有するという、現時点で私
側面のみのイメージを持つ方が多いようです。
たちが考えうる最良の手法を取り入れています。
しかし、本来、金融機関が有する機能には、企
業の新規事業への挑戦・成長分野への投資につい
て、その事業性を分析し、それらに対する融資や
おわりに
M&A 資金の供与を実行するなどのアクセルの機
企業の変革や成長のタイミングおいては、過去
能を備えています。
のしがらみや雰囲気により、社内の人だけではな
従って、デッドガバナンスも企業の持続的成長
かなか一歩を踏み出すことができないものです。
のためのブレーキとアクセルを備えたガバナン
一方、株主や外部の目は、こういったものにとら
スと成り得ますので、うまく活用をしていきたい
われずに大胆な提言や変革・成長を促すことがで
ものです。
き、非常に重要な役割を果たさせることが期待
できますので、上場企業・非上場企業を問わず、
あるいは、社外役員だけでなく、アドバイザ
皆様の会社におかれましても、事業の持続的発展
リーボードや経営監視委員会のような外部諮問
のために、このような中長期的な目線を持ったガ
機関の目を導入することはどうでしょうか。
バナンスの構造を再考してみてはいかがでしょ
今日の会社法は、定款に定めることにより、多
うか?
彩なガバナンス手法を取り入れることが出来ます。
ちなみに IGPI も非上場企業ですが、いわゆる
プロフェッショナルファームですので、弁護士事
務所や会計事務所と同様に、パートナーと呼ばれ
る経営者が議決権の全てを保有することが、経営
上、最も効率が良い事業体です。
楠原 茂 経営共創基盤(IGPI)パートナー 取締役 CFO
アーサーアンダーセン ( 現 KPMG) 税務部門にて、組織再編・M&A のアドバイザリー業務や大手不動産ファンド・事
業再生ファンド等の投資スキームの組成・運営のアドバイザリー業務を数多く経験。独立系事業再生ファンドに転身後、
複数のファンドの設立・管理運営、事業再生業務に関わる。後に、グループ会社の代表取締役就任。IGPI 設立後は、コー
ポレートを統括する一方、組織再編、資本政策、買収防衛、事業承継などの案件を手がける。
東京理科大学理学部数学科卒、税理士
06
IGP I REP ORT
社長が世代交代を考え始めたら
津田 敬介 経営共創基盤(IGPI) ディレクター
先日まで、毎週日曜日夜に放送のドラマ『ルーズヴェルト・ゲーム』
(池井戸潤氏原作)が話題となっ
ていました。急速な景気低迷と競合他社の攻勢により会社存亡の危機に直面する中堅電子部品メーカー
を舞台に、先代から代表者ポストを譲り受けた新鋭細川社長の奮闘する姿を中心に話は展開されてゆき
ます。筆者としては“会社の危機的状況下でも、経営判断は細川社長に任せ、我関せずと野球部のグラ
ンドで草むしりする創業オーナー”の、隠居の身としての大胆に割り切った姿が何よりも印象的でした。
今回はこのドラマにあるような、今まさに世代交代の時期を迎えつつある又は世代交代直後のオーナー
企業について、筆者が日頃感じていることを皆さんと一緒に考えてみたいと思います。
事業承継の手順
創業オーナー社長が引退を考え始めた際に
うやく最近では 事業そのもの の承継について
は、何をどのように進めればいいのでしょう
の議論も活発化し、以下のような手順も随分と
か?以前は事業承継といえば 株式 の承継に絡
巷に浸透してきたようです。
む相続税の話が議論の中心のようでしたが、よ
1
外部環境と経営課題を整理し、
事業のあるべき将来像を整理する
創業一族の事業への関わり方を考える
5 (事業、オーナーシップ、親族の関係を
整理)
2
後継者を選ぶ
6
3
後継者及び経営幹部の育成を踏まえた
事業承継プランを策定し実行する
後継者へ事業の現状と将来ビジョンを
説明し、承継を説得する
7
時期をみて経営者を交代する
後継者のサポート体制等を考える
4 (必要に応じて外部人材の招聘も検討
する)
I G P I RE P O RT
07
しかしながら、中堅企業オーナーの方々から
の資質に疑問を感じる場合は、直ぐに新たな候
は『後継者選びをどうしたらよいか?』『事業承
補者を探すことが必要だと思います。
継したものの後継者が頼りなくて。。。』といった
ご相談を頻繁に頂戴します。事業承継は後継者
創業者と 2 代目の違い
の気持ちの整理やその後の能力開発の問題もあ
るため右往左往するのは致し方ないとも思いま
創業オーナー社長から『後継者は同じ血を引
すが、詳しくお伺いしますと理由はそれだけで
くものなので、今直ぐには難しくても、もっと
はなく創業オーナーのお考えにも一因があるよ
経験を積めば立派な経営者になれるはず。』と
うに感じられます。
いうお話も頂戴します。
しかしながら、映画『 ALWAYS 三丁目の夕
後継者の資質と事業の将来性
日 』に描かれている物的に今ほど充たされてい
ない時代に、将来の成功を夢見て全身全霊を傾
創業オーナー社長は事業の将来を一番に考え
け事業経営に取り組んできた創業者と、2 代目
て後継者を選ぶのでしょうか?それとも特定の
としてある程度恵まれた環境で育った後継者と
後継者を念頭に置いて、将来の事業を考えるの
では、どんなに自己研鑽に努めてきたとしても、
でしょうか?
それは生活に何ら危機的影響を及ぼさない世界
どちらが正しいとはいえませんが、後者の場
の話でしかなく、命を懸けて取り組んできた先
合は将来の事業に 一定の制約 が生じることを
代経営者とは開発される能力・意識のレベルが
強く認識すべきです。 企業は人なり とはよく
全く違うことを深く理解すべきです。
言ったもので、当然ですが後継者の能力によっ
勿論 2 代目であっても幼少の頃より継ぐこと
て将来の事業のあり様が決まってしまいます。
を強く意識し、長年の自己鍛錬の結果それなり
ブランドが確立された老舗の和菓子屋さんや貸
の資質が備わっている方々も中にはいらっしゃ
しビル業のように比較的安定している事業なら
います。しかし多くの場合は時代背景や置かれ
ともかく、多くの企業は冒頭のドラマのように
ている立場の違いからそうなる確率は限定的で
外部環境の変化が激しく、その都度迅速な経営
あり、過度な期待を持たず予め決めた時間軸
判断が求められるため、やはり優秀な後継者が
に従って冷静に判断することが重要だと思いま
必要です。勿論これは一人でできなくても後継
す。
者にリーダーシップがあれば、ヨーロッパの社
歴の長いファミリー企業のように 一族ガバナン
ス+内部人材+外部人材+外部アドバイザー
等のチームで機能分担して経営を行うことでも
08
事業の発展を考えた場合の
必要な割り切り
構いません。
なぜ創業者は『社内外問わずベストな後継者
もし、十分に時間をかけて後継者候補をトレー
を選ぶ』ことの重要性を言葉では理解できても、
ニングしたものの、依然として後継者のこれら
実際行うことは容易では無いのでしょうか?
IGP I REP ORT
ファミリービジネスの世界は、 事業 と オー
族にも会社と個人的財産には一線を画すように
ナーシップ と 親族 の問題(利害)が絡み合っ
よく諭しておくべきです。
た 寄せ鍋 の状態で議論が繰り返されます。な
更には、創業者ご自身が『事業はあくまでも
ぜなら、会社内の事業に関る事柄が親族の財産
事業であって、一つの物に過ぎない』と割り切っ
に何らかしらの影響を与えることが少なくない
て考え、事業承継後は『優秀な後継者によって
ため、ファミリー企業の場合は経営会議で事業
事業が更に発展してゆく様を好々爺として眺め
の話をしていても親族の財産の話にも話題が及
ながら、自分はまた新しい世界で違った人生を
びがちになるからです。この為、後継者を選ぶ
謳歌することが楽しみ』くらいの、極端な話、
際には『利害を同じくする親族から選ぼう』と
後は人任せの感覚で丁度良いようにも思います。
なるのはある意味自然といえば自然であるよう
優秀な後継者に託すのであれば、きっと次世代
に思います。
にあった形へ事業全体を適正化し、事業を発展
一方、創業者にとって『事業は人生そのもの』
させながら何代にもわたって事業継続できる体
であるという考えが強過ぎることも事業承継を
制に導いてくれるはずです。もし、血族内に目
難しくしているようです。この為に第三者に事
ぼしい後継者が見当たらない場合に、結果とし
業を一部でもコントロールされることは本能的
て所有と経営を分離し、以後は株主としてのみ
に抵抗を感じるのでしょうし、ましてや血の繋
事業に関わるとの判断に至ったとしても、これ
がらない人物となるとなお更だと思います。
は決して責任放棄でも何でもなく、むしろ創業
しかしながら、経営者の機能論から考えれば、
者ご自身が活力のあるうちにベストな後継者を
親族の内外を問わずなるべく多数の候補者の中
選定し、しっかりと次世代への筋道を付けると
からベストな人材を選ぶほうが良いのは明白で
いうことで経営者としての最後の責任を全うし
す。その為には、先ずは親族の財産に影響を及
ているように思います。
ぼす事項は創業者の責任として極力整理し、親
津田 敬介 経営共創基盤(IGPI)ディレクター
税理士法人山田&パートナーズの事業部門責任者として、グループ組織再編・企業
買収・M&A のスキームの立案・実行フォロー、オーナー企業事業承継支援、独立
行政法人年金・健康保険福祉施設整理機構による年金施設売却プロジェクトの総合
アドバイザー、各種タックスプランニングに従事。
IGPI 参画後は、プリンシパル投資案件の検討・実行、事業戦略立案・中期経営計画
策定、中堅食品メーカーの抜本的経営改革、中堅電炉メーカーの事業承継等に従事。
獨協大学法学部卒、税理士
I G P I RE P O RT
09
後継の経営者が取り組むべき課題とは
垂水 隆幸 経営共創基盤(IGPI) ディレクター
●
応してしまっている組織の行動様式」に関す
後継者が苦戦する原因は
るものです。カリスマ的なリーダーに依拠し
「力量不足」のみにあらず
創業者など、個性的なトップの強力なリー
てきた会社は、多くの場合、明確なビジョン
ダーシップに依拠してきた会社が、経営者交
を持った指導者とその指導者の指示に基づき
代を機に苦境に直面するケースは多く見られ
忠実に動く組織という組み合わせで、主に事
ます。そういったケースでは、「後継者の力量
業の生成期から成長期の成功を勝ち取ってき
不足」が衰退の原因として挙げられるケース
た歴史を有しています。
が多いように思いますが、そのような単純な
リーダーの号令に基づき、忠実に動くタイプ
解釈は多くの場合適切ではありません。偉大
の組織を、
ここでは仮に「権威順応型組織」と呼
な経営者から経営を引き継いだ後継者には、
びますが、
「権威順応型組織」は、優秀な司令
自身の経験不足を補いつつ、経営能力を高め
塔の号令に即応し、忠実かつ確実に指示内容
ることとは別に、取り組むべき重要な2つの
を成し遂げるスタイルを得意とする反面、個々
課題があるからです。
の組織ユニットが多様な顧客ニーズ、様々な
業務上の課題に創意工夫を凝らして対応して
●
潜在的に進行していた経営スタイルと
いくことを不得手とする傾向があります。こ
事業環境の不適合
の特性を持つが故に、例えば営業の部門でい
1つ目の課題は、「潜在的に進行していた経
えば、市場の成熟局面において商品・顧客ニー
営スタイルの環境不適合への対処」です。偉
ズの多様化に対処する課題解決能力の不足が
大な経営トップから経営を引き継ぐ後継者の
ネックとなり、次第に個々の顧客接点におけ
代においては、当該企業がこれまで培ってき
る局地戦で負けが込んでいくことになります。
た経営スタイルを進化させる必要性に直面す
る場合が少なくありません。
●
うまく変革が進まない2つのケース
企業組織は、組織の大規模化・複雑化、市
複雑化する事業環境に真に適応していくた
場の成熟、製品と顧客ニーズの多様化、そし
めには、個々の人・組織が各々の持ち場にお
て競争の激化と、複雑さを増していく環境に
いて自律的に課題を発見し、解決していく行
対していかに適応していくかという課題にさ
動パターンを備えた組織(以下では「自律思
らされています。カリスマ的なリーダーに依
考型組織」と呼びます。
)への脱皮が不可欠と
拠してきた会社は、そのような環境変化に対
なります。ところが、「権威順応型組織」から
し、リーダーの個人的な能力で乗り切ってき
「自律思考型組織」への脱皮が経営スタイル変
た場合が多く、組織自体の環境適応が十分に
革の重要論点であることがわかったとしても、
進んでいない場合が多いのです。
変革は容易に進みません。
うまく変革が進まないケースとして、「①掛
●「強い指導者」と「権威順応型組織」で乗り切る
10
け声・啓発中心の取り組み」、「②とりあえず
スタイルの限界への直面
裁量を持たせる取り組み」の2つを見かけま
2つ目の課題は、「従来の経営スタイルに適
す。①の具体的な取り組みとしては、トップ
IGP I REP ORT
の継続的な訓示や研修などがあろうかと思い
ければ、学習効果が上がらない性質があるよ
ますが、このような取り組みによって一時的
うに思われます。その特質に配慮して、行動
に社員が啓発されることはあっても、日常の
パターンはできるだけ明確に定義して標準化
業務・マネジメントが依然として「権威順応
する必要があります。
型」で構築されていれば、簡単に従来のパター
ンに回帰してしまいます。
●
変革推進のカギ「②統合化された情報に
「②とりあえず裁量を持たせる取り組み」
基づく PDCA の設計・導入」
も、残念ながら満足な成果をあげるには至り
二つ目のカギは「②統合化された情報に基
ません。②の施策は、往々にして裁量さえ与
づく PDCA の設計・導入」です。自律的な思
えれば、組織は自律的思考を展開できるとい
考は「情報の探知」㱺「課題の発見」㱺「解
う誤った前提に立っています。組織の生活習
決方法の導出」というプロセスを経ることに
慣の改善は 考える環境 を与えれば自然と脱
なります。つまり、自律的な思考を促すため
皮できるほど容易ではないのが実態です。
には、その契機となる良質な情報が、適切な
組織の体質を「権威順応型組織」から「自
形で提供されることが不可欠です。それらの
律思考型組織」に転換させていくためには、
情報は、複雑な環境変化を洞察するために、
その橋渡しとなるような仕掛けが不可欠で
多様で、かつ、統合された情報になっている
す。具体的には、
「①自律思考パターンの標準
必要があります。「権威順応型組織」のマネジ
化」と「②統合化された情報に基づく PDCA
メントにおいては、標準的・画一的行動の実
の設計・導入」の2点が重要なポイントにな
現が主眼に置かれるために、情報は極めて単
ります。
純化される傾向があります。情報が単純化さ
れたままでは、自律的な思考の組織化が進む
●
変革推進のカギ
「①自律思考パターンの標準化」
ことはありません。例えば、営業部門の結果
指標では、単月の総売上だけではなくて、商
「権威順応型組織」の内部においても、くま
品別の売上・商品別の利益・それらの時系列
なく見渡してみれば、顧客のニーズ、競合の
推移…、顧客の情報であれば商談先との直近
同行を独自に分析して、業務課題を創造的に
の商談内容だけではなくて、これまでの商談
解決し続けている個人・組織は必ず存在して
経緯、顧客内シェア、その他周辺情報などを
いるものです。そういった個人・組織を探索・
俯瞰できる情報基盤を整えることができれば、
分析して、当該企業の各部門における「自律
自律的な思考の契機としての「課題発見」の
思考型組織」の行動パターンを見出し、可能
可能性は飛躍的に高まります。情報の統合化
な限り具体化した上で組織の標準形として定
は一筋縄では行かない場合もありますが、
「自
着を図ることが第一歩です。
「権威順応型組
律思考型組織」への脱皮に向けては不可欠の
織」は、明確に定義された行動パターンでな
要素になります。
垂水 隆幸 経営共創基盤(IGPI) ディレクター
アクセンチュアにて、製造業を中心にシステム構築プロジェクトに参画。その後、ベンチャー
企業の企画部門長、営業部門長として組織改革に従事。IGPI 参画後は食品メーカーを中心と
して戦略立案∼実行計画の策定、営業部門の業務・組織改革、及び、営業管理職・営業職員
向け能力開発プログラムの企画・運営に従事。上智大学法学部卒
I G P I RE P O RT
11
Information
Books
新刊 書籍のご案内
『なぜローカル経済から日本は甦るのか
∼ GとL の経済成長戦略』
『非学歴エリート
∼一流大学に入れなかった僕の人生逆転メソッド』
(PHP 研究所)
(飛鳥新社)
著者:IGPI /冨山和彦
著者:IGPI /安井元康
今、日本では、極度の人手不足に苦しむ
人生の「入口」での挫折や
という前代未聞のパラダイムシフトが
ハ ン デ ィ を も の と も せ ず、
起こりつつあります。日本経済の現状
ご く 普 通 の 大 学 を 出 て、
を正しく認識するには、グローバル(G)
小さなベンチャー企業に就
とローカル(L)の経済圏をそれぞれ別
職した著者が実践してきた
のものと認識し、異なるルールとメカ
人生逆転のための働き方・
ニズムで物事を考えていく必要があり
学び方を大公開。
「結果につ
ます。そして、GDP と雇用の7割を占
ながる努力」の方法を伝え
めるローカル企業こそ、日本経済の切
る一冊です。
り札となる可能性を秘めているのです。
新しい視座に立った日本経済復活への
シナリオを明らかにする一冊です。
第 1 章 グローバル(G)とローカル(L)という二つの世界
第 2 章 グローバル経済圏で勝ち抜くために
第 3 章 ローカル経済のリアル
第 4 章 ローカル経済圏は穏やかな退屈と集約化で寡占的安定へ
第 5 章 集約の先にあるローカル経済圏のあるべき姿
第 6 章 G と L の成長戦略で日本の経済・賃金・雇用は再生する
第 1 章 「なりたい自分」の見つけ方
第 2 章 逆転のための羅針盤―どう努力したらいいのか
第 3 章 逆転のための「会社」とのつきあい方
第 4 章 逆転のための「人」とのつきあい方
第 5 章 逆転のための勉強法
News Release
ニュースリリース
●
(株)KP I
ソリューションズへの
資本参加に関するお知らせ
●東京大学との
IGPI は、6月、AD テクノロジーソリューションを提供するベン
グローバル消費インテリジェンスに
関する取り組みのお知らせ
チャー企業、株式会社 KPI ソリューションズ(以下 KPIS)に
IGPI は、4月、東京大学と共にマーケティング領域に
資本参加しました。KPIS は、AD テクノロジー技術をベース
おけるビックデータ解析・活用(グローバル消費イン
にマーケティング・ソリューションサービスの開発と提供を
テリジェンス)に関する取り組みを開始いたしました。
行うソリューション・プロバイダであり、
「ニューラル・マッ
データが急速に増える中で、データの分析を通じて
チング」という独自のトラッキング技術を有しており、今後
消費者を総合的に理解する能力を有する人材育成が
の飛躍が期待されています。IGPI は、KPIS の飛躍を支援して
求められています。この問題意識から、IGPI は東京
いくとともに、KPIS と共に世界市場を見据えた事業展開を推
大学が創設する世界最先端のプラットフォーム「グ
進していきます。
ローバル消費インテリジェンス寄付講座」に参画し、
取り組みを開始致しました。
発行:株式会社 経営共創基盤(IGPI) お問合せ:広報/英(はなぶさ)
・富澤
〒100 - 6617 東京都千代田区丸の内一丁目 9 番 2 号 グラントウキョウサウスタワー 17 階
TEL:03 - 4562-1111 E-mail:[email protected]
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