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参加型学習を取り入れた国際理解教育に関する研究

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参加型学習を取り入れた国際理解教育に関する研究
参加型学習を取り入れた国際理解教育に関する研究
―
中・高等学校における国際理解教育の実践に向けて
企
画
―
部
東内清孝
研究の要約
1 ねらい
21世紀に国際社会に生きる日本人を育成するためには国際理解教育が重要であると言われている。
本研究では,国際理解教育の考え方を整理し,現在その学習法として注目を集めている参加型学習と
は何かを考え方,理論的背景及び進め方を示すことにより明らかにし,さらに中学校及び高等学校で
参加型学習を実践するとすればどのような形態になるのか事例を通して探る。
2 成果の概要
研究を通して,国際理解教育にはユネスコの国際教育勧告を基調とする「万人の教育」という世界
的な潮流と,「国際社会に生きる日本人の育成」を目指した臨時教育審議会答申に基づく日本独自の
流れがあることが明らかになった。また今日の環境・エネルギー問題,人口・食料問題等の地球的規
模の課題解決を目指して行う国際理解教育の教育理念には,欧米で起こった開発教育,グローバル教
育が多大な影響を与えていることも分かった。さらにその学習法としては,学習者が主体的に参加し,
グループ内で仲間とコミュニケーョンを取りながら体験的な活動を行う参加型学習が適していること
も,文献及び実践事例で明らかになった。
目
次
はじめに
146
(2) ファシリテーターの役割
Ⅰ
研究の概要
146
Ⅲ
1
研究の目的
146
2
研究の内容と方法
146
1
3
研究計画
147
2 参加型学習で伝える12のものの見方・考え方
156
Ⅱ
研究の基本的な考え方
147
Ⅳ
参加型学習を取り入れた国際理解教育の実際
157
1
国際理解教育の考え方
147
1
事例1:大竹市立小方中学校
158
(1) ユネスコ型国際理解教育
147
2
事例2:県立広高等学校
160
(2) 臨教審型国際理解教育
147
3
事例3:県立三原東高等学校
162
(3) 開発教育・グローバル教育
149
4
三校の実践から分かったこと
164
2
151
Ⅴ
参加型学習を取り入れた国際理解教育
参加型学習の考え方
154
参加型学習を取り入れた国際理解教育
の実践に向けて
学習者の基本的な学習活動
156
156
(1) 参加型学習とは
151
(2) 参加型学習の理論的背景
153
1
指導計画について
165
3
154
2
評価について
165
154
おわりに
参加型学習の進め方
(1) ワークショップとプログラムデザイン
についての提言
- 145 -
165
166
はじめに
新学習指導要領が実施され,新たに総合的な学
習の時間が創設された。そのねらいの一つには国
際化社会,情報化社会,福祉社会といった現代の
目まぐるしく変わる社会の変化に対応できる人材
の育成がある。そのため国際理解,情報,環境,
福祉・健康が教科の枠にとらわれない横断的・総
合的な課題が学習内容として例示されている。
この総合的な学習の時間は ,「生きる力」の育
成を基本的なねらいとして,自ら問題を発見し,
自ら考え判断し解決する力,自分の考えや思いを
的確に表現する力などを育成するために行われる
が,その学習形態として体験型学習あるいは参加
型学習が注目を浴びている。
これまでも教科学習(社会科,地歴科及び公民
科等)では調べ学習がよく行われてきたが,新学
習指導要領になり,なお一層児童生徒に主体的に
主題や課題を選ばせ,個人やグループで資料を収
集させ,調査・研究をさせ,討論させ,さらにプ
レゼンテーションをさせるといった学習形態が増
えてきている。
一方,社会教育の分野においても,国際理解教
育,開発教育,人権教育等の研究会やセミナーで ,
学習者の主体的な活動や行動を促す学習・研修の
方法として参加型学習がもてはやされている。
いずれの場合も指導者が一方的に講義形式で知
識の詰め込みを行うのではなく,学習者が集団の
中で ,様々な協働的学習活動や体験的活動を行い ,
自ら課題を発見し,自己と他者との関係に気付き ,
自ら課題解決していこうとする学習形態である。
このように,参加型学習は子どもから大人まで有
効な学習法だと考えられているのである。
そこで,参加型学習を取り入れた国際理解教育
を推進する上で,まず国際理解教育及び参加型学
習の概念を明らかにしておくことが肝要であると
考える。
Ⅰ
研究の概要
1
研究の目的
新学習指導要領の改訂の基本方針の一つに「豊
かな人間性,国際社会に生きる日本人としての自
覚を育成すること」とあり,21世紀に国際社会に
生きる日本人を育成するためには国際理解教育が
重要であると指摘している。さらに「自ら学び,
自ら考える力を育成すること」とあり,体験的,
問題解決的学習を取り入れた教育の必要性を指摘
している。
国際理解教育の教育内容を創造し,実践してい
くには,平成12年発刊の「国際理解教育指導事例
集(小学校編 )」でも言及のある開発教育,グロ
ーバル教育,多文化教育等で盛んに用いられてい
る参加型学習の学習活動を参考にして取り入れて
いくことが,先の二つの基本方針に合うことだと
考える。しかし,この事例集では国際理解教育と
参加型学習の概念を明らかにしていない。
平成14年の広島県教育委員会の調査( 注 1)によ
ると,広島県で総合的な学習の時間で国際理解教
育を実施している小学校は367校(そのうち302校
が内容として英語活動を実施)で,中学校は75校
である。高等学校は平成15年度に向けての先行実
施なので7校にとどまっている。この数字から見
ると小学校は積極的に国際理解教育に取り組んで
いることになるが,実際には8割を越える学校が ,
国際理解教育の一環として英語活動を実施してい
る状況である。この傾向はさらに続くし,また現
在は英語活動を実施していない学校も将来的に実
施することが予想される。
そこで本研究は,校種にとらわれず国際理解教
育と参加型学習の理論的な整理を行い,実践事例
については国際理解教育で扱う地球的規模の課題
の難しさと小学校の関心が英語活動に移ってきた
ことを考慮し,中学校及び高等学校向けの実践事
例に特化して研究することとする。
2
研究の内容と方法
(1) 研究の内容
ア 参加型学習を取り入れた国際理解教育の進め
方についての調査研究及び文献研究
イ 参加型学習を取り入れた中・高等学校におけ
る国際理解教育の進め方に関する研究協力校の
実践事例の分析及び考察
ウ 参加型学習を取り入れた中・高等学校におけ
る国際理解教育の進め方についての提言
(2)
ア
イ
ウ
- 146 -
研究方法
文献研究
授業実践による研究
実態調査による研究
3
研究計画
研
○
○
○
○
○
○
○
究
内
容
期
研究計画書の作成
第1回研究協力員会議
参加型学習についての理論研究
研究協力校における実践と考察
研究のまとめ
第2回研究協力員会議
報告書の作成
Ⅱ
研究の基本的な考え方
1
国際理解教育の考え方
間
4月
6月下旬
6∼7月
7∼11月
12月
1月上旬
1∼2月
(1) ユネスコ型国際理解教育
日本における国際理解教育の考え方には二つの
大きな流れがある。一つは世界的な潮流であるユ
ネスコの考え方に基づくもの(以下「ユネスコ型
国際理解教育 」)で,もう一つは臨時教育審議会
答申及び中央教育審議会答申を受けて文部科学省
が推し進める日本独特の考え方(以下「臨教審型
国際理解教育 」)である。
そもそも国際理解教育は歴史的に見ると,第二
次世界大戦後に設立されたユネスコに起源を見る
ことができる。1951年に公布されたユネスコ憲章
前文の冒頭部分「戦争は人の心の中に生まれるも
のであるから,人の心の中に平和の砦を築かなけ
ればならない 。」に,ユネスコが提唱する国際理
解教育の理念が示されている。そして,この理念
に基づき,国際理解教育が世界のユネスコ加盟各
国で実践されるようになったのである。
日本においても,この流れをくむ国際理解教育
が1950年代からの「ユネスコ共同学校計画」によ
って全国の実験学校において始められた。また,
学校のユネスコ・クラブや社会科や英語科の教科
学習でも取り上げられた 。しかし,この計画は「他
国の研究 」「人権の研究 」「国連の研究」といっ
た知識・理解を深めていくことに主眼が置かれた
こと,学習指導要領に位置付けられることがなか
ったことを理由に衰退していった。
その後,ユネスコにおいても1950∼60年代の東
西冷戦時代,70年代の南北対立の時代という時代
の流れの中で,大きな情勢の変化があったので,
1974年の第18回ユネスコ総会で採択された「国際
理解,国際協力及び国際平和のための教育並びに
人権及び基本的自由についての教育に関する勧
告」(以下「ユネスコ国際教育勧告」)において,
教育政策の主要指導原則を次のように充実させて
いった。
(a)
すべての段階及び形態の教育に国際的側面
及び世界的視点をもたせること。
(b)
すべての民族並びにその文化,文明,価値
及び生活様式に対する理解と尊重
(c)
諸民族及び諸国民の間に世界的な相互依存
関係が増大していることの認識
(d)
(e)
他の人々と交信する能力
権利を知るだけでなく,個人,社会的集団
及び国家にはそれぞれ相互の間に権利のみ
ならず負うべき義務もあることを認識する
こと。
(f)
国際的な連帯及び協力の必要性についての
理解
(g)
個人がその属する社会,国家及び世界全体
の諸問題の解決への参加を用意すること。
国際理解,国際協力及び国際平和のための教育並びに
人権及び基本的自由についての教育に関する勧告の教育
政策の主要指導原則
この勧告により,ユネスコ型国際理解教育は知
識・理解中心のものから,広範な領域と指導原則
をもつ「国際教育 」(すべての領域を包含した名
称)へと大きく変化していった。日本においても
基本的には国際理解教育はこのユネスコ型国際理
解教育の理念・方向で推進されている。
- 147 -
(2) 臨教審型国際理解教育
日本は世界共通の「万人の教育」を目指すユネ
スコ型国際理解教育を推進してきたその一方で,
別の流れもつくり出した。それは前述のユネスコ
国際教育勧告と同年の昭和49年に出された中央教
育審議会答申や昭和62年の臨時教育審議会答申に
見られる「国際社会に生きる日本人の育成」を目
指した日本人としての主体性の確立,国際交流の
推進,外国語能力の育成,そして日本の文化伝統
を重視する日本独自の臨教審型国際理解教育であ
る。これは,1970年代,80年代の日本の経済発展
に伴う国際化への認識と課題を反映したものであ
ると考えることができる。
高野剛彦はこの二つの国際理解教育の違いを次
の図1−1,図1−2( 注 2)を使って説明してい
る。
図1−1
図1−2
る必要が出てくるところに相違点が見えてくる。
その後,日本におけるグローバル化が顕著にな
った1990年代に入ると,この臨教審型国際理解教
育も変化の兆しが出てくる。
平成7年に出された中央教育審議会第一次答申
を見るとその変化が読み取れる。答申には「広い
視野を持ち,異文化を理解するとともにこれを尊
重する態度や異なる文化を持った人々と共に生き
ていく資質や能力の育成を図ること 」「多様な異
文化の生活・習慣・価値観などについて“違い”
を“違い”として認識していく態度や相互に共通
している点を見つけていく態度,相互の歴史的伝
統・多元的な価値観を尊重し合う態度などを育成
していくこと 」「一つの見方や考え方にとらわれ
て,異なる文化・生活・習慣などを断片的に評価
することはあってはならない」等の記述がある。
さらに,平成14年に出された中央教育審議会中
間報告(注3)では
国際社会に生きる教養ある日本人の育成
「国際社会は,グローバル化が一層進展する中,様
々な摩擦を引き起こしながらも相互依存を深めてい
る。我が国もこのような国際社会の一員であり,我が
国の今後の教育の在り方を考える上でも,国際社会で
生きる日本人という観点はきわめて重要である。自分
たちとは異なる文化や歴史に立脚する人々と共生して
いくためには,豊かな教養を身に付けるとともに,自
国のみならず諸外国の文化も大切にする姿勢が重要で
ある。(後略)」
臨教審型国際理解教育の概念図
ユネスコ型国際理解教育概念図
この二つの図を用いて異文化理解の側面から二
つの国際理解教育の考え方を比較してみる。当初
の臨教審型国際理解教育では,これから海外進出
をしようとしたり援助をしようとすると,まずは
相手国のことを理解しなければならない点に力点
が置かれている。しかしユネスコ型国際理解教育
では,グローバル社会の中では,国家の枠を越え
て人・もの・金・情報が頻繁に移動するようにな
るので,お互いの国同士がお互いのことを理解す
とあり,グローバル化が進展する中,日本人が「環
境・エネルギー問題 」「人口・食料問題」等の地
球的規模で人類が直面する問題を世界の人々と共
に考え,解決に向けて積極的に参画し,国際社会
に貢献するための教育の必要性を訴えるまでにに
なり,ユネスコ型国際理解教育の観点を大幅に取
り入れたものに変化してきている。
そうした変化の要因の一つには,1970年代から
様々な背景をもつ外国人が日本に流入し始め,80
年代,90年代とその数が急増し,現在でも増え続
けている結果として,日本国内において「内なる
国際化」の現実が,学校教育にも影響を与えてき
たことが考えられる。
このような状況下で国際理解教育は実践されて
いるが,実践事例を調査した高野は次のような共
通する実施上の問題点( 注4)を指摘している。
- 148 -
①
表面的異文化理解と交流中心の活動
②
生徒のステレオタイプ認知の固定化・再生産
③
日常生活や地域的課題との乖離
④
学習内容と学習方法の不一致
この四つを基に考察・解釈してみると,
①「異文化理解学習と称して体験的・活動的な国際交
流イベントを企画するが,楽しさを追求するあまり
学習の深まりに欠けることはないか 。」
②「文化的偏見やステレオタイプ認知を排除するため
に行う異文化理解であるが,どうしても自分たちの
価値観や文化的心情から考えてしまうので,他国に
対してマイナスイメージや自文化に対しての優越感
をもたせてしまうことになり,結果的にステレオタ
イプ認知の固定化・再生産につながっていないか。」
③「国際理解教育で取り上げる地球規模の諸課題は,
マスコミでも大きく取り上げられ,途上国における
貧困,低開発,紛争の場面を目にすると一時的に共
感は与えるが,学習が終わってしまうと現実の自分
たちの生活とのギャップから,興味・関心が薄れて
しまうことはないだろうか 。」
④「国際理解教育で扱う問題は,社会的公正や異文化
との共生など社会的価値観にかかわるものであるが ,
これらは知識として教え込まれただけでは効果がな
い。その学習過程の中で生徒が主体的に活動し,生
徒の内面にせまるような取り組みをしているか 。」
といったことになるのではないだろうか。
実は,これらの問題を解くヒントとして現在注
目を集めているのが,開発教育やグローバル教育
の考え方や手法なのである。
(3) 開発教育・グローバル教育
戦後,ユネスコ型国際理解教育以外にその時代
の世情を反映して,様々な地球的な規模の課題を
解決しようとする新たな教育が生まれてきた。例
えば平和教育(軍縮教育),人口教育,開発教育 ,
開発のための教育,環境教育,人権教育,ジェン
ダー教育,ワールドスタディーズ,グローバル教
育,地球市民(を育てる )教育,異文化理解教育,
異文化間教育,多文化教育(多民族教育 ),メデ
ィア教育等である。その中で日本の国際理解教育
に最も影響を与えているのが開発教育とグローバ
ル教育である。
開発教育(Development Education, Educational
Development)は南北問題が世界的な話題となっ
た1960年代末に欧米諸国のNGO(非政府組織,
民間海外援助団体)によって提唱された。開発教
育のねらいは,当初は開発途上国の貧困,栄養不
良,保健や教育の遅れ等の現実を知らせたり,援
助の必要性を訴えることに主眼が置かれていた。
言い換えれば,この時期の開発教育はチャリティ
ー思想に基づいた「開発途上国への援助教育」で
あった。1970年代後半から欧米各国では,政府や
国際機関が開発教育を支援するようになり,学校
教育でも取り上げられるようになった。このころ
から,ねらいは開発途上国が直面している低開発
状況を歴史的・構造的に理解しその原因を追求
し,その責任の一端は先進諸国にもあるという認
識に立ち,問題解決のため相互連帯・協力してい
こうとする関心や態度を養うことに変わっていっ
た。つまり「南北問題教育」としての開発教育に
なったのである。
1980年代後半以降,平和,環境,人口,貧困,
人権等の地球的規模の諸課題が開発をめぐる問題
と密接に関係があることが明らかになり,これら
の課題を解決するためには,地球社会に暮らす人
が「北」の人と「南」の人を問わず協力して,す
べての国・地域で貧困や格差,抑圧のない新しい
地球社会を創っていくことを目指すようになっ
た。この結果,開発教育は地球社会全体の「開発
のあり方を考える教育」となったのである。
日本では,外務省及びJICA(国際協力事業
団)は国際理解教育ではなく開発教育の名称を用
い,学校教育におけるその普及・支援の強化を図
っている。しかし,開発教育の普及には市民運動
の果たした役割は大きく,開発教育に取り組む民
間団体も多く存在している。
一方のグローバル教育(Global Education)は,
1970年代末からアメリカにおいて社会科のグロー
バル学習(Global Studies)から 発達したもので
あり,その理念は教育における「グローバル・パ
ースペクティブ(地球的視野 )」に注目し ,「グ
ローバル・シティズンシップ(地球市民性 )」の
育成を目指すものである。
このグローバル教育を中心的に推進してきたN
CSS(全米社会科協議会)のウエッブページを
検索すると,リー・アンダーソン(Lee Anderson)
の考えたグローバル教育の視点( 注 5)を引用して
いる。
・人類が経験していることは人々が超国家的,異文
化間的,多文化的,多民族的相互作用の影響を絶
えず受けづけている,また勢力を増しているグロ
ーバル化現象なのであること
・世界という舞台で演じている人々の多様性
・人類は世界環境の欠くことのできない一部分であ
ること
・現在の社会的,政治的,生態学的現実と二者択一
的な未来の間にある関連性
・世界的な仕事への市民参加
※著者日本語訳
イギリスにおいても,このグローバル教育の影
響を受けながら,それまでに展開していた多文化
- 149 -
教育,開発教育,平和教育等の成果を生かしてカ
リキュラム開発や教材開発を行ったワールド・ス
タディーズ(World Studies)が1970年代から80年代
に発展していった。その中でS.フィッシャー
(Simon Fisher)とD.ヒックス(David Hicks)に
よって進められた「World Studies 8-13」プロジ
ェクトが国際理解教育の分野で初の体系化したカ
リキュラムとして世界中で評価された。その指導
書である「ワールドスタディーズ−学びかた・教
えかたハンドブック」において,ワールド・スタ
ディーズは「多くの文化が存在し,人々が相互に
依存し合う世界で,責任ある生き方をするのに不
可欠な知識,姿勢,技能を身につけるための学習
であり教育である」(注6)と定義されている。
厳密に言えば,アメリカのグローバル教育とイ
ギリスのワールド・スタディーズは背景,理念,
目的に多少の違いはあるものの,教育内容や手法
に類似点が多くあり,1990年代に入ると,このワ
ールド・スタディーズもグローバル教育と呼ばれ
るようになってきた。以後,本論文ではこの両者
表1
の総称としてグローバル教育と呼ぶこととする。
これまで見てきたように,開発教育もグローバ
ル教育も地球規模の諸課題の理解と解決への参加
を目指しており,その学習過程の中で参加に必要
な技能や地球市民としての態度・価値観を形成し
ようとしているので,知識伝達よりも問題解決型
学習がふさわしいと考えられている。つまり,正
解を提示するより,学習過程そのものを学びとす
る学習法である。そのために共通して用いられる
手法が参加型学習である。
高野は新学習指導要領に基づいて行われる総合
的な学習の時間の目標と開発教育・グローバル教
育の目標を表1( 注 7)のように比較・検討してい
る。この表を見ると表現の違いが若干はあるもの
の,総合的な学習の時間の目標と開発教育・グロ
ーバル教育の目標は符合するところが多く,総合
的な学習の時間において国際理解教育の教育内容
を構想する場合,開発教育・グローバル教育の考
え方が大いに参考となるであろう。
総合的な学習の時間と開発教育・グローバル教育の目標比較
総合的な学習の時間
開発教育・グローバル教育
○知識・技能の深化・発展
○知識と生活との結び付き
知識 ○知の総合化・統合化
・
理解
○地域と地球のつながりと相互依存(構造的理解)
○これまでとられてきた問題の解決方法
○さまざまな問題,出来事,動向の相互関係(関係的理解)
○様々な問題に関する幅広い見方(多面的理解)
○オルターナティブな視点(肯定的未来予測)
○自己認識,自己概念
○さまざまな問題や異文化に対する共感的理解
○偏見・ステレオタイプについての認知
○課題発見・設定能力
○情報収集・活用能力
○問題解決能力
○論理的思考力・判断力
技能 ○表現力
○社会の変化への主体的対応・行動
○情報の収集・活用
○意思伝達
○批判的思考
○創造的思考
○個人的判断・意思決定
○分析・評価能力
○自己評価
○冷静な判断力
○エンパワーメント
○討論・自己主張などの意思表明能力
○自ら学ぶ意欲
○他人を思いやる心
○豊かな感性
態度 ○ボランティア精神
・ ○正義・公正を重んじる心
価値 ○社会生活上のルールや基本的モラル
などの倫理観
○自己の生き方についての自覚
○自分の能力と可能性への信頼(自己肯定感・自己有能感)
○人間としての尊厳
○興味・関心
○異文化の受容・尊重
○連帯意識
○社会参加
○変化への適応における柔軟性
○正義と公平を求める姿勢
○他人との協力,目的遂行への意欲
○多様性・多様なものの見方への積極的価値
○あいまいさ・不確実さへの寛容
- 150 -
2
参加型学習の考え方
(1) 参加型学習とは
現在,参加型学習は図2(注8)のように学校教育
参加型学習の広がり
福祉教育・ボランティア学習
地球市民教育・開発教育
国際理解教育・人権教育
心理学・サイコセラピー
グローバル教育・ワールドス
タディーズなど
市民活動・NPO
社会教育・成人教育
環境教育
小集団学習・討議法
自然体験活動・社会
YMCA・スカウト
参加活動・研修
レクリエーション
美術(館)教育
医学教育・看護教育
まちづくり・地域づくり
チュートリアルシステム
都市計画・社会開発計画
企業内教育・職業訓練・研修
学校教育(班活動・体験学
習・総合的な学習など)
演劇
大学教育・FD
(FD:Faculty Development
教授能力の開発・改善)
図2
参加型学習の広がり
表2
に限らず社会教育の場でも用いられる手法となっ
ている。
ちなみに参加型学習という用語は人によって定
義が多少異なっており,参加・体験型学習とか体
験的参加型学習と呼ばれることもある。また,こ
の参加型学習の手法では,様々なアクティビティ
ーを組み合わせたワークショップ(協働学習会,
参加型学習会)形式で行われることが多いので,
そのワークショップと同義語として用いる場合も
ある。
次に,参加型学習の特徴を表2(注9)で示すが,
この表を見て分かることは,参加型学習は万能の
学習法ではなく,導入には利点もあれば欠点もあ
るということである。
参加型学習は英語では「Participatory Method」
「Active Learning」または「 Cooperative Learning」
といわれるものであるが,1970年代末頃から日本
の教育現場に導入され始めた,欧米の開発教育・
グローバル教育及び人権教育等を主たる分野とす
るの教育手法である。参加・体験・ネットワーク
・対話・問題解決・社会的行動といった言葉で特
徴付けられる学習形態は,ロールプレイやシミュ
レーションといった心理学の理論を応用したゲー
ムやアクティビティーを基本とし,学習者主体の
活動を学習の中心に据えた教育方法である。さら
に表2で示しているように,これまでの教師と学
参加型学習の特徴
【 社 会 と の 関 係 】
【 方 法 】
・ 現 実 の 問 題 に 向 き 合 い , 自 ら が 課 題 解 決 の 主 体 と な る
・ 学 習 者 の 主 体 的 な 参 加 が 基 本
こ と を 目 指 す
・ 学 習 者 が 経 験 か ら 主 体 的 に 学 ぶ 方 法
・ 学 習 者 と フ ァ シ リ テ ー タ ー と の 対 等 な 関 係 の 中 で
・ 生 涯 学 習 社 会 , 市 民 社 会 を 形 成 す る 担 い 手 と な る 「 社 会
参 加 」 力 を 育 む
す す め ら れ る
・ 学 習 者 の 行 動 と 発 見 を 軸 に す す め る
・「 気 づ き 」 を 入 り 口 に し て 自 ら の 行 動 変 容 と 社 会 参 加 を 促 す
・ 学 習 者 間 の 対 話 や 交 流 を 核 と し た 相 互 学 習 で , 相
・ 社 会 の 中 で の 対 等 で 豊 か な 関 係 を 築 く
・ 参 加 型 の 組 織 や 社 会 の 形 成 を 促 す
互 作 用 に よ る 学 び 方 を 重 視 し た 方 法
・ ネ ッ ト ワ ー キ ン グ の 発 展 に つ な が る
・「 気 づ き 」 と 「 ふ り か え り 」 を 重 視
・ 社 会 に 対 す る 責 任 能 力 を 形 成
参 加 型 学 習
【注 意す べ き点】
【 技 能 】
・ 多 様 な 価 値 観 に 対 し て 公 平 に 接 す る こ と の で き る
・ 全 体 の 流 れ を 考 え る こ と な く ,講 義 だ け で は つ ま ら な い
技 能
・ 他 者 の 意 見 に 真 摯 に 耳 を 傾 け , 信 頼 関 係 を 築 い て
一 定 の 立 場 に と ら わ れ る こ と , 自 由 に 発 想 し
発
言 し , 合 意 形 成 へ と 導 く 技 能
・ 問 題 を あ り の ま ま に 受 け 止 め る こ と が で き る 感 性
や 態 度
・ 学 習 者 自 ら が 課 題 を 立 て て , 解 決 に 向 か っ て , 必
要 な 能 力 を 高 め て い く 技 術
か ら と い う 理 由 だ け で 取 り 入 れ る
・教 室,会場 の中 だけ の「 参 加」で社 会参 加や 社会 と の
い く 技 能
・
・ 楽 し さ を 重 視 す る あ ま り ,単 な る ゲ ー ム に 終 始 す る
関 係 が 視 野 に 置 か れ て い な い
・ 権 威 主 義 的 な ,強 制 的 な 参 加 の 押 し つ け
・ 進 行 役 が 結 論 を 指 示 誘 導 し て ,参 加 者 の 考 え を 無 視 す る
・ス ト レ ス 解 消 の ガ ス 抜 き と し て 利 用 す る
・現 実 の 行 動 に つ な が ら な い
( 系統 的知 識の 吸収 には 向 かな い方 法で ある )
- 151 -
習者という固定的な関係を対等な「共同探求者」
として見直し,教師の指導観をインストラクター
(伝授者)からファシリテーター(学習の推進者)
へと見直している。
表3
類型①
特
徴
活動例
類型②
特
参加型学習で用いられるゲームやアクティビテ
ィーなどの活動を岡崎裕(注10)と高野(注11)の分類
を参考に類型 化すると表3のようになる。
参加型学習の活動基本類型
アイスブレーキング型(コミュニケーション重視型)アクティビティー
・主たるプログラムや活動に先立ち,参加者や生徒の緊張を解きほぐし雰囲気を和らげるための活動で,
他者とのコミュニケーションそのものを主目的とする。
自己紹介ゲーム,他己紹介ゲーム,誕生日チェーン,グローバル・ビンゴ等のコミュニケーション・
ゲーム
ブレインストーミング型(抽象概念具体化型)アクティビティー
徴
・特定の話題について一定のルールに基づいて活動や話し合いを通して抽象的な概念を具体化
・明確化させ,さらに出された意見等をランク付けしたりして参加者や生徒が共有することを目的とす
る。
・また,その過程において論理的・分析的な思考力や意思決定能力,意思伝達能力などを育成すること
を目的とする。
活動例
ラベルトーク,ブレインストーミング,ウエビング,KJ法,SWOT分析,各種ディスカッション,
ランキング等
類型③
特
徴
活動例
類型④
特
徴
活動例
類型⑤
特
徴
活動例
ロールプレイング型(価値ジレンマ型)アクティビティー
・参加者が設定された異なる立場・視点をもつ人物の中から一つを選びその役割を演じたり(ロールプ
レイ ),特定の社会事象を選び,その現象を類推・解析する(シミュレーション)ことにより,グルー
プ内での価値の合意形成をめざすことを目的とする。
・活動を通して参加者は様々な視点・価値観を知ることになるが,課題そのものがもつジレンマ構造及
び演ずる役割のもつ視点・価値観と参加者本人のもつ視点・価値観の相違からくるジレンマの二重の
ジレンマを体験する。そこから自分のもっていた偏見や先入観に気づき,視点・価値観を見直すよう
になる。
ロールプレイ,シミュレーション,貿易ゲーム,難民ゲーム,ロールプレイ・ ディベート等
オブジェクト型(具体物提示型)アクティビティー
・視覚に訴える特定の対象物を提示し心理的な壁を取り除くことにより,参加者がもつ視点
・価値観を引き出しやすい状況をつくり,参加者の対話を円滑にすることを目的とする。
フォトランゲージ,タイムライン,フィルムフォーラム,ポスターセッション 等
インテグレート型(発展統合型)アクティビティー
・活動の要素には①から④までの活動が統合的に組み合わさっており,模擬的な参加から実践的な参画
をめざしている。
PCM手法,ネイチャーゲーム,デザインゲーム,フィールドワーク,スタディツアー,アクション
リサーチ等
こ こ で 例 示 した アクティビティーは国 際 理解 教
育で用いられるものの一部である。また,類型は
あくまで基本的なものであり,用い方により上記
の類型のようにならないことは留意する必要があ
る。いずれにしてもこれらのアクティビティーは
参加者や生徒の話し合いや協働作業を前提として
おり,言い換えれば疑似体験的手法を用いた民主
主義のための教育と見ることができる。これは
参加型学習の理論的背景にJ.デューイ ( John Dewey )
の進歩主義教育運動の影響があるからである。
(2) 参加型学習の理論的背景
岡崎は参加型学習の理論的背景について「一般
に進歩主義教育として位置づけられるJ.デュー
イなどによる実践は,児童中心主義の思想に立脚
した経験型あるいは解決型の教育活動であり,学
習者の参加と体験を前提としており,その意味に
おいて参加・体験型学習の草分けであった。1921
- 152 -
年に結成され ,現在も活動を続けている「 W o r l d
Education Fellowship」はこうした新教育運動
を世界に広げるための国際的フォーラムであり,
地球市民性の育成の基本方法論として経験型の学
習を挙げている。」(注12)と述べており,参加型学
習とJ.デューイとの明確な関係に触れている。
学校教育で参加型学習が用いられるようになっ
た理論的背景は以上のとおりJ.デューイによる
ところが大きいが,参加型学習が学習者の態度や
価値観の変容をねらいとするようになった背景は
ブラジルの教育者P.フレイレ(Paulo Freire)の思
想と実践に強い影響を受けている。P.フレイレ
は,従来の教師による一方的な情報伝達型の教育
を 「銀行型教育」(Banking Education)と 呼び , こ
のような教育形態では学習者は一方的に文化,価
値観,世界観が注入されることにより,声を挙げ
図3
なくなり ,「沈黙の文化」に閉じこもってしまうと
警鐘を鳴らしている。そしてブラジルをはじめと
するいくつかの国々で社会教育,特に識字教育に
かかわる中で,学習活動を単なる知識の伝達機会
としてとらえず,学習者の生活を担う力(生きる
力)場であるととらえている。つまり,学習過程
で教師と学習者が対話を行い,身近な事柄を学習
者が問題化し ,それを教師と学習者がともに学び ,
必要があれば教師は学習者の問題発掘・認識をよ
り意味のあるものとするため,きっかけづくり行
うのである。その学習過程を通して学習者は自ら
の力で問題の意識化ができ ,「沈黙の文化」から
自らを解放するようになり,ひいては社会変革へ
と向かうようになるというのである。このような
学 習 形 態 を P.フレイレ は 「 問 題 提 起 教 育 」
(Problem-Posing Education)と呼んでいる。( 注13)
ワークショップの歴史
その後,P.フレイレの唱えたこの参加型学習
理論は,参加を理念として訴えるだけで具体的な
指導法を持たなかった初期の開発教育・グローバ
ル教育の方法原理に大きな影響を与えることにな
- 153 -
った。また彼の考え方は「人間解放」という視点
で人権教育の分野でも大きな足跡を残している。
さらに現在では実際の開発援助においても,この
考え方に基づくPCM手法(参加型計画手法)を
用いた「参加型開発」が当たり前となっている。
つまり開発プロジェクトを企画する段階から開発
を受ける人々との対話を通してニーズを確認する
など,相手の立場で援助を行うようになってきた
のである。
次に参加型学習の行われる形態に目を移してみ
ると,参加型学習は学校教育だけでなく社会教育
の様々な分野で用いられるが,それはワークショ
ップ(学習会,研究集会)という形式で行われる
ことが多い。高田研は図3( 注 14)を用いてワーク
ショップの歴史を紹介している。前出の図2「参
加型学習のひろがり」とこの図3「ワークショッ
起
承
転
結
導
入
プの歴史」を比較してみると,双方で例示されて
いる分野が重なっていることがわかる。1940年代
以降70年代にアメリカを中心として,それぞれの
分野でワークショップが行われるようになり,そ
の学習法として参加型学習が用いられていること
が容易に想像できる。
3
参加型学習の進め方
(1) ワークショップとプログラムデザイン
「ワークショップ」(workshop)は元々は「作業
場」という意味であったが,様々な分野で参加型
学習が行われるようになり,
「 学習会 ,研究集会」
の意味をもつようになった。また最近では,参加
型学習の同義語として学習方法そのものを表す使
い方も出てきている。
こころをほぐそう
開かれた雰囲気をつくることが相互交流の基本である。プログラムの入り口として,緊張をほぐし,学習者同士,学習者と学習
支援スタッフが相互に心をほぐして話し合えるようなプログラムを用意する。最初は皆不安であり,不安な心をやさしく包むこ
とが大切である。
【学習者の動き】:緊張がほぐれる,興味・関心をひく,やる気がおきる
【学習者相互の関係】:知り合う,コミュニケーション
【学習課題】:気づく,意欲がわく
展 開1
ひきつけよう
学習者の興味・関心を喚起する。レディネスを考慮しながら,これまでの常識な視点とは異なった視点,興味をくすぐる体験を
提供する。そのことによって「直接やってみたい」「かかわりたい」という気持ちが学習者に芽生え,主体的な参加が促される。
【学習者の動き】:学習への集中,自分と向き合う
【学習者相互の関係】:相互理解を図る
【学習課題】:知る,体験する
展 開 2
未知との出会い
ひきつけた関心を集中させ,抽象化し,心に残る体験へと導く。また学習の過程で芽生えた様々な疑問や意見を話し合いを通し
て自分の意思として高めていく。グループワークや直接体験などが効果的である。学習者相互の関係性の中で認知していけるよ
うに支援する。
【学習者の動き】:学習への熱中,自分と向き合う
【学習者相互の関係】:信頼感を育てる,協力して成し遂げる
【学習課題】:理解を深める,課題意識をもつ
シェアリング
(ま と め)
学習の統合と発展
導入,展開で得られた学習を自分のものとして定着させることが目的である。一人一人が自分の学習プロセスを「ふりかえる」
ことと,自らの体験や変容を共有する「わかちあい」のための時間を確保することが重要である。知性と感性と体感を通して
得られた情報を一つに統合し,心の深い部分へと問いかけるように配慮する。
【学習者の動き】:ふりかえり,自己の再発見,行動変容へ
【学習者相互の関係】:わかちあい,この人に会えてよかった,一緒に何か始めよう
【学習課題】:学ぶから実行へ,「わかる」から「かわる」へ
図4
学習者の変容プロセスを考えたプログラムデザイン
日本のワークショップで用いられる参加型学習
の教材は,1980年代から海外のNGOなどが作成
したものを日本語に翻訳して用いていたが,1990
年代になると日本オリジナルの教材も作成される
ようになった。学校教育で用いられる代表的なも
のに日本ユニセフ協会編「ユニセフの開発のため
- 154 -
の教育−地球市民を育てるための実践ガイドブッ
ク 」,国際理解教育センター(ERIC)編「地球家族
−フォトランゲージ版 」,開発教育協議会編「い
い貿易ってなんだろう∼一杯のコーヒーから考え
る世界の貿易∼」等が優れた教材例としてある。
ワークショップで参加型学習をどのように展開
していくのかを考えるのがプログラムデザインで
ある。目標実現のための年間プランニング及び個
別のワークショップ用の学習プログラム立案であ
る。これを学校教育に当てはめると,年間指導計
画,シラバス,学習指導案づくりになると考える 。
これが面白そうだからと場当たり的にアクティビ
ティーを投げ入れるのではなく,またアクティビ
ティーをやりっぱなしにするのではなく,年間の
目標達成に向けて学習者の変容プロセスを考えな
がら流れのあるプログラムを組み立てていく必要
がある。図4(注15)は起承転結の流れのある学習
プログラムの組み立て例である。
特に学校では国際理解教育は各教科,総合的な
学習の時間,道徳の時間,特別活動とあらゆる学
校活動の中で取り組むことができるので,それぞ
れの学習目標,指導計画も考慮しながら,プログ
ラムを組み立てる必要がある。
(2) ファシリテーターの役割
参加型学習を組み立てるためには,指導者(教
師)はどのような役割をする必要があるだろうか 。
まずプログラム実施に当たっては「 プ ラ ン ナ ー
(planner:企 画 者 ) 」 , 「 コ ー デ ィ ネ ー タ ー
(coordinator:調整者 )」及び「チューター(tutor
:運営者 )」の三つの役割がある。ここでは実際
の指導を行うチューターの役割に注目して,説明
することにする。
基本的にはチューターとしての役割には図5(注16)
のような役割があると言われている。
フ ァ シ リ テ ー タ ー
イ ン タ ー プ リ タ ー
イ ン ス ト ラ ク タ ー
( 伝
授
者 )
( 解
説
( 促
者 )
進
者 )
参 加 型 学 習 な ど
自 然 観 察 会 な ど
知 る 知 識 や 技 術 を
学 習 者 自 身 の 気 づ き を
情 報 を 解 釈 し
伝 授 す る 役
促 す 役
伝 え る 役
図5
チューターとしての役割
このチューターの三つの役割のうち参加型学習
の場合,学習者の主体性を引き出すファシリテー
ター(促進者)としての役割が特に重要視される 。
ただし,他の二つの役割をしなくてもよいのでは
なく,状況によって三つの役割を演じ分ける必要
がある。ファシリテーターの中心的役割は主役で
ある学習者の主体的な学びの姿勢を引き出すこと
にあるので,特に教師がファシリテーターとなる
場合は普段の授業と同じように,知識を教え込も
うとしたり,自分の思いを誘導したり,問題に対
する理想の答を出そうとしないように注意しなけ
ればならない。学習過程のなかで,学習者がある
程度の混乱や葛藤することは理解を深める上で重
要なことであり,ファシリテーターは学習者を見
守るため,常に一歩下がっておく必要がある。
日本で体験学習法を環境教育に位置付けた西田
真哉は「ファシリテーターであるために望ましい
条件 」( 注17)を次のように示している。
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
⑨
⑩
主体的にその場に存在している。
柔軟性と決断する勇気がある。
他者との枠組みで把握する努力ができる。
表現力の豊かさ ,参加者への反応の明確さがある。
評価的な言動は慎むべきとわきまえている。
プロセスへの介入を理解し,必要に際して実行で
きる。
相互理解のための自己開示を率先できる,開放性
がある。
親密性,楽天性がある。
自己の間違いや知らないことを認めることに素直
である。
参加者を信頼し,尊重する。
ファシリテーターであるために望ましい条件
この条件は指導者と参加者とのコミュニケーシ
ョンや信頼関係を前提にしており,参加型学習に
限らず,学習の場における教師と生徒の人間関係
づくりの基礎になるものだと確信している。
- 155 -
Ⅲ
参加型学習を取り入れた国際理解教育
の実践に向けて
1
学習内容づくり
(1) 学習者の基本的な学習活動
参加型学習のアクティビティーに含まれる基本
的な学習活動は,学習形態(教科・総合的な学習
の時間・学校行事 ),学習のねらい,アクティビ
ティーの種類,対象とする学習者の年齢レベル,
活動時間の長さ等の要因によって当然変化する
表4
学習活動
が,基本的には表4(注18)ような学習活動を含む
と考えられている。
これらの基本的な学習活動は,一人一人が無言
で作業をしたのでは参加型学習の意味はなくなっ
てしまう。グループでコミュニケーションをとり
ながら作業をしていくことではじめて,それぞれ
の学習者のものの見方・考え方が見えてくるの
で,ファシリテーターは作業の進行状況を見なが
ら,学習者同士がコミュニケーションを図る支援
をする必要がある。
参加型学習のアクティビティーに含まれる基本的な学習活動
活
動
内
容
読
む
資料や新聞や雑誌記事など短い文章を一定時間の間に読むことによって,課題やテーマに具体性を
与え,学習者に共通した情報を的確に伝えられるので,その後の話し合いや協議の素材とすることが
できる。5分から10分程度で読めるものがよい。
聴
く
講師の講義や講演を直接聞く他,一定時間,テープなどを聴くことも考えられる 。「聴き方」のポ
イントについてアドバイスがあると,さらに効果的である。特に課題意識を明確にして聴くことが大
切。
視
る
動
く
現地での見学や実物を持ち込むことが基本である。 スライド,VTR,衛星通信による映像,テ
レビの利用も考えられる。
身体を動かしたり,視る位置や聴く姿勢を変えたりすることなどの工夫によって学習に集中できる。
触 れ る
手に触れるなど実物に直接,身体の一部を接触させることによって実感を高めることができ,理解
を促進することができる。
書く(描く)
「書く」ことは,自分の考えを合理的にまとめたり,あいまいであったものを明確にすることを助
けてくれる。学習の記録としても有効。また絵や図で表現することも積極的に取り入れていきたい。
話
す
表現力を豊かにするとともに,自己の把握や豊かなコミュニケーションのためにも,人前で話す練
習は重要である。スピークアウトなどのように感想や意見を順に発表し合うことも検討したい。
つ く る
グループでプログラム,チラシ,事業計画などをつくることは総合力が養われるとともに成就感,
達成感が期待できる。作業を通して,学習の楽しみが広がることも魅力である。
調 べ る
言葉の意味や表現を図書館や文献あるいはインターネットなどから直接調べたり,簡単なヒアリン
グやアンケートなどを取り入れることも考えられる。
考 え る
一定の時間をかけて課題について考える時間や機会を持つことにより,冷静で的確な判断力をつく
る。
(2) 参加型学習で伝える12のものの見方・考え方
参加型学習は表2でも指摘したように楽しさを
重視するあまり,単なるゲームに終始しないよう
にしなければならないが,実際の展開を見るとゲ
ームそのものの持つゲーム性や物珍しさからアク
ティビティーのねらいに至らないことがある。参
加型学習はあくまでも学習であり,レクリエーシ
ョンではないのであるから,プログラムデザイン
をする段階から,実践しようとするアクティビテ
ーはどのようなものの見方・考え方を想定してい
るのか理解する必要がある。
表5は参加型学習を使って国際理解教育,人権
教育,環境教育等に取り組んでいる国際理解教育
センター(ERIC)のまとめた参加型学習で伝えるも
のの見方・考え方を表したものである。( 注 19)
実際には,人のものの見方や考え方は12に限定で
きないが,長年にわたる実践から検討されたもの
であり,学校教育の他の教科・領域でも十分応用
できるものと考える。
- 156 -
表5
参加型学習で伝える12のものの見方・考え方
見方・考え方
ポ
イ
ン
ト
1 全体像を
つかむ
一人一人が持っているイメージや理解は様々である。分析的・要素的に捉える前に,緩やかに相
互理解を促進する,あるいは自分自身の捉え方を見つめるためのアプローチ。分析的・要素的に捉
えた後,立ち戻るものとしても大切。
2 対比させ
て考える
「○○でないもの」を考えることによって○○が何であるかが明確になる。対比させることによ
って対象を明確に捉えるための方法。何を,どのように,対比させるかがポイント。
3 2次元軸
で捉える
男と女,先進国と途上国,など対になる概念についての理解が一元的な対立の図式・理解に陥っ
てしまわないためにも,もう一つげつの軸を想定してみる方法。新たな観点を考え出すインセンテ
ィブにもなる。
4 分類する
普段の生活でも,私たちは人,モノ,事象に「ラベル」を貼って理解している。他の人々と共有
することによって,自分のラベルの特徴に気づき,囚われることなく,より多様な視点からものの
見方・考え方に気づく。
5 因果関係
を考える
人と人,経済,情報がグローバルなつながりに広がっていく中で,見える関係から見えない関係
にまで理解を深めることが求められている。身近な因果関係を見つめ,共有する中で広げることに
よって,より大きな因果関係についても視る目が育つ。
6 優先順位
を考える
ある行為の裏には,必ず「優先順位」の判断が潜んでいることを意識している人は少ない。自分
自身が「当たり前」のこととしている判断を問い直してみる,あるいはどのような判断を持ってい
るかを明確にすることが,新たな価値観が求められる時代には必要となってくる。
7 量的に
捉える
一般化した言い方には,偏見や相手の個性の無視を伴うことが多い。感覚的に判断基準に取り入
れることを改めて数値化してみる,量的に捉えてみることで,自分自身の理解の仕方に気づくこと
ができる。統計の罠に陥らないためにも,常に数字に親しむことが役立つだろう。
8 時間的に
捉える
時間も私たちが日常意識しないけれども,重要な意味を持つものの一つである。その時々を生き
ている時に,時の重みを測ったり,50年100年の単位で流れを見てみることは新たな視点を提供して
くれる。違う時代を生きた人たちとの接点にもつなげられる。
9 空間的に
捉える
3次元のものを2次元に表した地図を読み取る能力は,私たちが身につけている技能の一つであ
るが,もっと多様な空間認知を表すのに地図を活用することで,様々な情報の共有化が可能になる。
10 指標で
捉える
具体的に捉えられるもので変化を測定するものが指標である。量的なものでも,質的なものでも
構わない。目的の明確化と優先順位の確認の後,行動,政策,方針などを具体化するための方法と
して活用できる。
11 モデル・
シミュレ
ーション
で捉える
ある典型的な場面や関係の在り方をシミュレートしてみることで,そこでの人間の関わり方,感
情の動きなどを含めて捉えることができる。自分自身にも関わる個別の事象の裏に潜む共通項・構
造を考えることで,現実を見る目が育つ。
12 計画する
相互理解・現実についての共通認識,優先順位の確認,目標の有利などの過程を経て始めて,行
動計画を共同作業で考えていくことができる。時間を充分とれない場合は,「一人でできること」な
どを一人一人が考えるだけにすることもできる。
Ⅳ
参加型学習を取り入れた国際理解教育
の実際
前述したように,小学校の国際理解教育の取組
みが英語活動にシフトしていることと,国際理解
教育で扱う地球的規模の課題の難しさも考慮し,
本研究では中学校と高等学校の実践事例を紹介す
ることとする。
なお本来は総合的な学習の時間での実践例を考
えていたが,そのような例を把握できなかった。
そこで今回は,中学校は大竹市立小方中学校の第
3学年の選択社会,高等学校は県立広高等学校の
国際文理コース第2学年の英語Ⅱ及び県立三原東
高等学校の第3学年の選択地理Bにおいて実践さ
れた事例を示すこととする。
それぞれの事例では教科内容に関連させて国際
理解教育の分野でよく用いられるアイスブレーキ
ング,フォトランゲージ,タイムライン,ランキ
ング,シミュレーション等のアクティビティーが
組み込まれている。
- 157 -
事例1:国際理解教育のための参加型学習を取り入れた選択社会科の授業
「カンボジアに移住した日本人から,小方中学校の生徒へ届いた一通の手紙」から考えてみよう
大竹市立小方中学校 学級数 7 生徒数250 実施対象 第3学年 3学級 96名
1
授業の構想
2
本校では,生徒の国際理解を進めるために,発
達段階に応じて学習を実施してきた。
まず第1学年の段階では,地球上には様々な国
が存在し,その中には環境・経済・文化などそれ
ぞれの特性と同時に差異が存在していることを体
験的に学習するために社会科の地理的分野で「貿
易ゲーム」を行ってきた。そうした均衡・非均衡
のある国際社会において他国(カンボジア)に移
住し,日本人として,また地球市民として自分に
できることは何であるかを問い続け,実際に行動
している日本人(西本さん)からの手紙をもとに
第2学年では道徳で国際協力について学習を行い
たい。
そして第3学年において ,「国際的な連帯と協
力の必要性を理解し,他の人々と交信する能力
(注1)」を育成するために,第2学年同様に西本さ
んの住むカンボジアについて,調べ学習を行い,
その知識を基に実際にカンボジア人留学生と交流
を行いたい。
活動の実際
●クラスのメンバーに国際
理解に通じる質問を行いア
イスブレイキングする
ワークショップ
「こんな人いませんか?」
国際理解に通じる学習のねら
いの説明
カンボジアからの手紙(西本さんから小方中の生徒へ)
●学習前にカンボ
カンボジアってどんな国?
ジアについてアン
ケートを行う
カンボジアってどんな国?2
●夏にカンボジアを訪
れた指導者撮影ビデオ
フォトランゲージ
からの学習
カンボジアを知ろう!
●カンボジアについ
てグループで課題を
設定し,調べ学習を
行う
カンボジア人留学生
との交流発表会
●学習の振り返り
カンボジアに手紙を書こう!(小方中の生徒から西本さんへ)
図6
授業の流れ
西本さんからの手紙
突然空が黒暗くなって大雨が降り出す。今カンボジアは
雨季です。私はカンボジアの大地にそしてカンボジアの子
どもたちの目の輝きにひかれて日本から移り住んだ74歳
の日本人のおばあさんです。中略
カンボジアにはお菓子を食べたことのない子どもたちも
多いのです。日本に住む中学生の皆さんはそんな経験ない
でしょうが,どうか勉強してくださいとは言いませんが,
一日一日を大切に生きてください。そしてカンボジアとい
う国があること,そしていろいろな人々が様々に暮らして
いることを知ってください。
ソサバイキアテ!チョムリアップリア!
上下の写真とも生徒の学習風景
- 158 -
3
まとめ
−成果と課題−
国際理解を目的とした,本学習を通じて,生徒
たちは題材であるカンボジアという国について意
欲的に追究しようとした。
学習に入る前に行ったアンケートでは,地理・
歴史・公民(カンボジアの社会・経済)的な質問
事項(例 カンボジアの首都はどこですか?,カ
ンボジアという国が現在抱えている問題をあげる
ことができますか?など)について約95%の生徒
が『全く知らない 』『ほとんど知らない』と回答
していた。学習が進むにつれ,インターネットや
書籍,新聞などから意欲的に情報収集しようとす
る姿が見られたのは,導入を参加型学習の手法で
行ったことが大きかったのではないかと考えられ
る。
生徒感想より
のか,カンボジアの歴史的背景とはどのようなも
のであるのかという探求課題が現れる。
以下に各グループの探求テーマを示したが,上
記した探求課題の設定になっているかどうかが,
生徒たちに自覚できていればより学習が深められ
たと考えられる。
各グループの追究課題
●
カンボジアの歴史(2)
●
カンボジアの衣・食・住(6)
●
カンボジアの国旗の意味(3)
●
カンボジアにおける地雷の状況(3)
●
カンボジア語(1)
●
カンボジアの子どもたち(2)
●
カンボジアの学校
また調べ学習の段階で,今年度小方中学校が取
り組んでいるNIE学習と関連付けて実践を行っ
た。各紙新聞紙上にカンボジアに関する記事が少
なかったため,短期的ではなく長期的に記事を調
べていく必要性を感じた。
●自分たちで調べることでニュースや教科書に載っ
てないことが分かる。
●他の国のことや人とはなかなか関わることがなか
ったのでためになった。
上記した生徒感想のほかにも ,「カンボジアに
ついて調べることが楽しかった」という意見が見
られるのは,調べる行為そのものに対する関心と
同時に調べる動機が生徒の中で重要性を増したか
らではないだろうか。
そこには,参加型学習での導入の他にも,実際
にカンボジアに移住し井戸や学校を作っている西
本さんからいただいた直筆の手紙や,スクリーン
越しに「本当の豊かさとは何であるか」を問いか
けてくるカンボジアの子どもたちの映像によって
生徒たちはこの学習に対して臨場感を得ることが
できたと考える。
カンボジアに移住し,カンボジアの子どもたち
に囲まれながら生きる西本さんからの手紙を切り
口に学習を進め,本実践の最終段階で生徒たちは
実際にカンボジアの西本さんに返事の手紙を書
く。この最終段階へと続く一連の学習の中で『ど
うして西本さんはカンボジアに移住したのだろう
か?』という問いが生徒たちの前に常にあり,西
本さんが最初にカンボジアに井戸を掘り,学校を
作ったところは難民キャンプであったことなどか
らは,なぜ難民キャンプがカンボジアに存在する
西本さん:写真中の一番右
最後に,本実践を進めていく上で,西本さんを
はじめカンボジアで内戦について語ってくださっ
た方,広島大学大学院留学生シデットさんなど多
くの方と出会い,実践のヒントをたくさん頂いた
ことに心から感謝したい。
さらに学習の最終段階で生徒が実際にカンボジ
アに返事を書くという行動が,国際社会に生きる
日本人の一人として,また地球市民としての自覚
を持って生きるために不可欠な「国際社会を理解
すること」の第一歩となることを期待したい。
( 注 1) 1974年ユネスコ総会における国際教育につ
いての決議
- 159 -
事例2:国際理解教育のための参加型学習を取り入れた外国語科(英語)の授業
「Future Energy Resources(これからのエネルギー資源)
」
県立広高等学校 学級数19 生徒数716 実施対象 国際文理コース第2学年40名
1
単元の構想
本単元は科目「英語Ⅱ」の中の第6課で,エネ
ルギー問題について,これまでの経緯と現状を踏
まえつつこれからの展望を考える内容となってい
る。グローバルな視点で世界の様々な地域の置か
れているそれぞれの状況を理解しながら,エネル
ギー問題に迫っていく,という展開である。当然
スポットライトは,現在注目されている「クリー
ンエネルギー」に当てられ,生徒一人一人の環境
問題への意識も問われてくる。
そこでこの単元については,生徒各自による調
べ学習をまずその導入として位置付けることを考
えた。さらにそれをグループ単位でまとめてプレ
ゼンテーションという形に高めることで,知識の
共有のみならず課題への興味関心 ,仲間との協調 ,
相互評価などの視点を取り入れてみた。また,発
表における使用言語は英語とし,資料の読み取り
や原稿作成から発表練習,さらに他グループの発
表内容の聞き取り及び評価に至るまで,英語によ
る実践的コミュニケーション能力の育成もねらっ
た。
なお調べ学習に関しては,本校に今年度新設さ
れた「語学情報実践室」をはじめとして,ようや
く校内で利用環境の整ってきたインターネットを
フルに活用させた。生徒のコンピュータ操作であ
るが,昨年度の「コンピュータ・LL演習」や今
年度履修中の「インターネット英語 」(いずれも
国際文理コースのみの設定科目)を通して,ほと
んどが一定程度の能力を身に付けている。
2
(1) 学習の展開
次のような流れで生徒に計画を示し,実行した 。
9/27(金)
○参加型学習の趣旨説明
○NHKニュース視聴(約5分)
※ドイツの風力発電に関するもの
○「天声人語」黙読
※太陽光発電に関するもの
○思いつくエネルギー資源名についてブレインス
トーミング
○担当するエネルギー資源およびグループ決定
○情報収集開始(インターネット等)
<この間,調べた内容をワークシートに整理>
9/30(月)
○個人ワークシート提出
<この間,グループ毎に発表用原稿のまとめ>
10/3(木)
○グループ発表内容の検討最終段階
○発表原稿および資料提出
10/4(金)
○プレゼンテーション(グループ発表)
※校内で公開とした(ALTも参加)
○グループ評価
10/5(土)
○事後アンケート・自己評価
活動の実際
この学習活動は,生徒たちのエネルギー資源に
関する予備知識を整理させ,そのうちの一つにつ
いて調べ学習をした後グループ毎に発表をする,
というものである。ただし,あくまでも本課に入
る前の「導入」として位置付けたため,あまり時
間をかけすぎないように注意し,後述するように
1週間余りで終了する計画を立てた。
「語学情報実践室」での情報収集
(2) プレゼンテーションに向けて
個人ワークシート完成の後,グループ毎に原稿
を英語でまとめてくことになるが,発表に含める
べき内容を次のように指導した。
① そのエネルギー資源の起こり・しくみ・特徴
② 現在の利用状況(発電量)・地域性
- 160 -
③ 今後の課題・展望・可能性
④ 「タイムライン」の作成(①②③のまとめ)
さらに,メンバーの役割分担を明確にすること ,
他グループの発表時には示された観点別に評価を
すること,後日自己評価もすること,等を付け加
えた上で,3日間のグループ作業に入り,プレゼ
ンテーションに備えさせた。
(3) プレゼンテーション当日
えられるが,扱われているトピックの特性や授業
時間等の制約から,読解主体の「講義」調になり
がちなのが実態である。しかし本実践では,教科
書の内容を「資料」の一部として生徒が主体的に
活用し,インターネット等で自ら教材探しをする
という全く発想を変えた取組みができたのではな
いかと思う。以下は生徒の意見である。
○教科書に入りやすいし,何より身近なものとして
受け入れられる 。教科書でやっただけだったら「 ふ
ーん 」って程度だけど ,調べたりると頭に残るし ,
今後にいかせると思う。
○文章をまとめ,英訳して発表することで,英語を
身近に感じた。
○みんなに英語で内容を伝えることの難しさを知っ
た。けれど頑張って英訳や資料集めをしたのは自
分の勉強になった。
会場には,やはり本年度新設された「国際交流
室 」(舞台・視聴覚機器完備)を充て,1グルー
プの持ち時間を5∼7分として実施した。発表原
稿については,事前に冊子としてまとめたものを
配布し,聞く側の便宜を図った。また ,「タイム
ライン」の発表方法は自由としていたが,模造紙
・ハンドアウト・パワーポイントなど,グループ
によって様々な工夫がみられた。
模造紙を使ったタイムライン
相互評価については,内容・態度(発音等も含
む )・協調性・アピール度の4観点で記入させ,
また最後には ,ALTに全体的なコメントを求め ,
調べた内容を他者に伝えることのすばらしさと難
しさを指摘していただいた。
3
まとめ
(1) 外国語科からみた成果
「英語Ⅱ」の指導形態は工夫次第でいろいろ考
特に,英語を「実践的コミュニケーション」の
手段として実感した生徒が多かったのは,来年度
からの新学習指導要領を視野に入れた授業構築に
資するところが大きいと言える。
(2) 研究主題からみた成果と課題
「自ら学び,自ら考える力を育成する」ための
実践をするに当たり,今回は使用教材のテーマ―
これからのエネルギー資源―に大いに助けられた
感がある。ありきたりなテーマではあるが,いざ
調べてみると分かっているつもりで実はよく分か
っていなかったり,意外な発見があったりと,生
徒にとって非常に刺激となる内容であった。また
地域による特徴を生かした様々な発電方法,さら
に日本の置かれている状況にふれることは,まさ
に国際理解の一端をなす学習になりうる。ただ,
逆の言い方をすれば,テーマによっては同じ切り
口では参加型学習がうまく機能しない可能性もあ
る。
本実践を通して感じたことは,扱う教材の内容
によってその「料理」の仕方も変わってくるとい
うごく当たり前のことである。しかし,そのごく
当たり前のことをきちんと一つ一つ実践していく
ことが,まず必要なのではないかと思う。最後に
生徒の意見を一つ紹介する。
参加型学習は個人の学習と違って多くの人がかかわ
るので,一人一人の役割をきちんと守らなければ進ま
ないことを学びました。反対に,みんなが協力したと
きに,人数以上の力が出るということも学びました。
- 161 -
事例3:国際理解教育のための参加型学習を取り入れた地歴公民科地理の授業
「貿易ゲームを活用した産業の国際化と情報化の参加型学習」
県立三原東高等学校 学級数17 生徒数656 実施対象 第3学年 選択地理B29名
1
単元の構想
科目「地理B」で国際理解教育にかかわる小項
目として「産業の国際化と情報化」がある。この
小項目では国際貿易について学習する。通常の授
業では,国際貿易の歴史を知る→垂直貿易と水平
貿易等の国際分業体制を知る→貿易の拡大を目指
す国際機関の役割を知るという流れで学習する。
このような講義形式の授業では,先進国・垂直
水平貿易,IMF等の国際貿易にかかわる語句や
国際貿易の現状についての知識を獲得できるが,
国際貿易の現状からみた問題点を解決するための
方策を生徒が主体的に考察する展開に結び付けに
くい。国際貿易の問題点を改善するためには,国
際貿易の構造をつかみ,全体で解決策を提案し,
吟味し,よりよい解決策に高める必要がある。
そこで,通常の授業に+αという形で,開発教
育の手法を用いた学習をさらに2時間実践した。
具体的には,生徒が水平貿易と垂直貿易から成り
立つ国際貿易の構造を理解し,世界の国々の経済
格差にかかわる南北問題を解決するためにクラス
全体の生徒が参加し,地理における既習の知識が
さらに深まるような参加型学習とする。
2
を共感的に理解することをねらいとして導入し
た。具体的に地理の学習に適合した内容となるよ
うに次のように設定した。
六つの国は,先進国と新興国と発展途上国で,
それぞれ資源に恵まれている国と資源に恵まれ
ていない,アメリカ合衆国・日本・ブラジル・
タイ・インド・エチオピアとする。具体的に各
国のイメージがふくらむように『地球家族』T
OTO出版の写真を用意する。また,ランキン
グができるように,技術力=ハサミ,簡易機械
=定規,高度機械=コンパス,人材=鉛筆,余
剰資源=B4用紙,資本=お金を用意し,地図
帳の巻末のデータに合うように個数を決定する。
円型(直径13㎝)
500ユーロ
正三角形(1辺7㎝)
300ユーロ
長方形(7×10㎝)
200ユーロ
直角三角形(7×13㎝)
100ユーロ
製品の見本と価格
活動の実際
1時間目は,参加型学習の導入としてフォトラ
ンゲージを用いてグループ分けをし,それぞれの
国名と経済段階を予想させ ,「貿易ゲーム」を活
用して,国際貿易の構造を擬似体験させ,国が富
むための要素をランキングさせる。
2時間目は,再度フォトランゲージによって国
名と経済段階をじっくり読みとらせた後で,先進
国と新興国と発展途上国による国際貿易の擬似体
験の結果により明らかになった南北問題につい
て,その解決策をランキングによって考えさせる 。
(指導案参照)
「貿易ゲーム」については『 新しい開発教育
の進め方』古今書院の事例研究pp.44∼46を参
考にし, 不平等な生産条件のもとでの自由貿易
がどのような結果を生み出すかを体験することに
より,先進国と新興国と発展途上国の人々の立場
ランキングの様子
3
まとめ
(1) 科目「地理B」からみた成果
各国のフォトランゲージでは,既習の地理的知
識を生かして国名と経済段階をグループでほぼ言
い当てている 。「貿易ゲーム」による疑似的な体
験により,地理用語として理解していた先進国と
発展途上国(新興国)との南北問題や,新興国と
発展途上国の南南問題について再認識することが
できた 。「貿易ゲーム」後の生徒の感想から,先
進国・新興国・発展途上国の各立場から述べてい
- 162 -
それぞれの国の立場で解決策を考えていくことが
大切であるということをつかむことができた。
「貿易ゲーム」により生徒は積極的に参加した
が,富を蓄える要素のランキングではお金を軽視
する傾向があった。貿易には必ずお金を用い,物
々交換を禁止するなど実際の国際貿易の形に近付
ける工夫が必要である。また,フォトランゲージ
とランキングを2時間とも入れたため,グループ
ごとの考えを練り合う時間が少なかった。開発教
育の手法を活用場面も再考したいと考えている。
ることがわかる。(ワークシートの分析参照)
(2) 研究主題からみた成果と課題
参加型学習では ,「貿易ゲーム」でグループで
協力して製品を生産し,他グループと交渉を行っ
ていた。フォトランゲージでは協力して色々な情
報を読み取ったり,南北問題を解決するための方
法をランキングで提案することができた。
国際理解では,世界には様々な経済段階の国が
あり,南北問題や南南問題を解決するためには,
地理B小単元:「産業の国際化と情報化」−貿易ゲームを活用した参加型学習指導計画(1限目)
学習テーマ
学習活動
教師の支援
参加型学習
1限目
1 同じ国の仲間を探し,グループをつ ○経済段階の異なる六つの国の写真を フォトランゲージの活用
「自由貿易体験」 くる。
用意し,六つに切りとっておき,一 ①:先進国Ⅰ
(導入)
つの写真として合体させる。
②:先進国Ⅱ
③:新興国Ⅰ
○グループで話し合わせ,予想させる。 ④:新興国Ⅱ
2 写真から国の名前と経済段階を予想
⑤:発展途上国Ⅰ
する。
⑥:発展途上国Ⅱ
(展開)
(まとめ)
○貿易ゲームの説明を黒板にはり,製 貿易ゲーム
品の形と価格に注目せる。
○多くの富を築く。
○製品の形と価格の違い
○国際銀行は教師が担当し,製品は正 ○製品は国際銀行に売る。
確でハサミで切られていないと認め ○封筒の中身は異なる。
ないことを伝える。
○交渉(貿易)は認める。
○時間は20分間
○与えられたものでできるだけ多くの
4 グループで製品を生産する。
富を築けるように製品を作らせる。 ロールプレイ
○封筒の中身を確かめる。
○定規等で鉛筆で書く人
○何を生産するか話し合う。
○交渉可能なことを伝え,生産と貿易 ○ハサミで切る人
○生産に何が必要か考える。
を活性化させる。
○交渉する人
○富を協力して築く。
○国際銀行に売る人
○ワークシートに各グループが築いた
5 貿易内容を整理し,富を蓄えるのに
富と,交換したものを確認させ,与 ランキング
重要な要素という視点でランキングす
えられたもが何に相当するか考えさ ①:ハサミ=技術
る。
せる。
②:定規=簡易機械
○グループに与えられたものの確認
③:コンパス=高度機械
○グループの築いた富の確認
④:鉛筆=人材
○交換したものの確認
⑤:B4用紙=余剰資源
⑥:お金=資本
3
貿易ゲームの方法を知る。
6
貿易ゲームの感想を書く。
・グループの立場で書かせる。
ワークシート分析1限目抜粋(富を蓄えるために重要なものランキング)
グループ
ランキング
①
アメリカ
4名
⑤
③①
②④
⑥
⑤
④①
③②
⑥
⑤
④②
①③
⑥
⑤
①②
④③
⑥
①
②⑤
④③
⑥
⑤
④②
①⑥
③
日
②
5名
本
③
ブラジル
5名
タ
④
5名
イ
⑤
イ ン ド
4名
⑥
エチオピア
6名
第一
第二
第三
第四
第一
第二
第三
第四
第一
第二
第三
第四
第一
第二
第三
第四
第一
第二
第三
第四
第一
第二
第三
第四
①
4
②
4
5
1
4
1
4
4
4
1
5
2
2
3
3
5
3
1
3
3
③
4
4
1
5
④
⑤
⑥
4
4
4
1
5
1
1
2
2
4
な
感
想
4
5
1
4
5
技術などがたくさんあっても,資源がなかったらどうにもな
らないことが分かった。
お金があまりなくても,技術と人材と資源があればうまくで
きた。
5
5
5
主
技術やコンピュータがそろっていても資源がないといけない
と思った。もっと知識があればもっとお金がつくれたと思う。
5
1
4
4
2
5
1
2
1
6
1
2
2
2
2
資源はたくさんあっても技術や人材が少なかったら時間を費
やしてしまったから,技術や人材や機械は大切だということが
分かった。
人材ばかり余るほどあって,技術がないのが一番つらかった。
資源や人材があっても先進国が応じてくれなくて嫌だった。
物がない発展途上国は富を蓄えるのに大変なんだなと思いま
した。
- 163 -
3
三校の実践から分かったこと
1
図7から三校とも60%以上の生徒が参加型学習
は役立つものと考えている。
2 図8及び図9から選択社会で実践した小方中学校
と地理Bで実践した三原東高等学校では参加型学
習は80%以上の生徒が楽しいと考え,また過半
数の生徒が難しいとは考えていない。
3 同じく図8及び図9から,英語Ⅱで実践し活動と
しては英語によるプレゼンテーションを行った広
高等学校では,参加型学習を楽しいと考えている
生徒が50%を切っており,逆に50%を越える
生徒が難しいと考えている。
この研究のため授業実践を行った三校の生徒を
対象に,参加型学習に対する意識を調査するため
に次のような7項目から成る共通の事後のアンケ
ート調査(五段階評定尺度法)を行った。
このアンケート調査の結果のうち,特徴的な結
果の出た項目1,5,7を図7,図8,図9で表
し考察すると,次の三つのことが分かった。
5
三原東高等学校
37
1
広高等学校
18
23
13
27
小方中学校
0
11
40
12
5 2
(人数)
0%
20%
① とても役に立つ
④ あまり役に立たない
40%
60%
② 役に立つ
⑤ まったく役に立たない
図7 アンケート項目1
27
3
広高等学校
0%
33
(人数)
20%
① とても楽しい
④ あまり楽しくない
40%
60%
② 楽しい
⑤ まったく楽しくない
アンケート項目5
三原東高等学校 2
22
広高等学校 0
小方中学校
13
33
図8
12
15
小方中学校
6
2
16
31
80%
100%
楽しいですか
19
13
10
19
20
③ どちらとも言えない
22
8
100%
役に立ちますか
19
三原東高等学校
80%
③ どちらとも言えない
37
4
7
11
0
11
(人数)
0%
20%
① とても難しい
④ あまり難しくない
図9
40%
60%
② 難しい
⑤ まったく難しくない
アンケート項目7
80%
100%
③ どちらとも言えない
難しいですか
この結果を表面的に見れば,社会科の実践では
参加型学習のメリットが出ているが,英語科の実
践ではメリットが出ていないと見えるかもしれな
い。これは英語科の実践が,英語Ⅱの授業で今回
初めて英語によるプレゼンテーションを行い,や
り方に不慣れであったのが原因であったと考え
る。実施回数を増す中で,やり方に慣れてくると
もっと違った結果が現れるのではないかと推測す
る。いずれにしてもこれらの結果を基にして,ま
た生徒の回答に添えて記入された理由も加味して
詳しく分析すると,今回の三校の授業実践によっ
て,次のような参加型学習展開上の利点と問題点
が浮かび上がってきた。
【参加型学習展開上の利点】
1 参加型学習は,実際の問題について自分たちで考える
ので,問題意識が高まる。
2 積極的に自分たちで調べるので,理解が深まる。
3 他の人とコミュニケーションを取りながらするので,
他の人の意見が聞けるし,自分の意見も伝えようと努
力する。
【参加型学習展開上の問題点】
1 参加型学習の意義を理解しないで行うと,抵抗感か
らか,積極的に活動に参加しない生徒が出てくる。
2 活動内容によっては,授業時間外の課題が出され,
他教科やクラブとの兼ね合いで面倒だと思う生徒も出
てくる。
3 日本語でも慣れていない学習法なので,特に英語で
活動を行う場合には,慣れさせるために易しいことか
ら始めるといった段階適用が必要である。
特に英語科の活動に関して言えば,国際理解教
育の観点から外国語コミュニケーション能力の育
成が叫ばれているが,いきなり英語で参加型学習
をするよりは,日本語での活動に慣れてから進め
ていくべきであり,その意味では英語科単独で行
うより国語科や社会科等の教科と連携を図る必要
- 164 -
がある。またこの展開上の利点及び問題点は,教
科学習のみならず総合的な学習の時間においても
共通すると考えられる。指導計画を作成するとき
や実践するときには留意する必要がある。
表6 PDCAサイクルを取り入れた年間指導計画立案
段
階
作 業 手 順
備
考
・計画案の作成(検討委員) ・外部委託か,自主か
Ⅴ
参加型学習を取り入れた国際理解教育
についての提言
・計画案の検討・合意(検討
Plan
(企画)
1
・担当者(担任)が第1回の
・ファシリテーター役
の役割分担(担任)
授業で計画,評価の観点を ・ねらい,評価観点・
生徒に提示・検討
規準の設定・決定
(学年会)
・授業案の作成(検討委員・ ・関係方面連絡・調整
担任)
Do
(実施)
・授業案の検討(学年会)
・情報の収集
・資料収集(視聴覚教
材を含む)
・使用機材の準備
・授業実施(ファシリテーシ ・授業の公開制
ョン)
・検討委員も授業に参加
・チェックのための資
料作成
・授業のまとめの作成(振り ・次回への橋渡し
返り)
・評価の観点・規準に
・各回ごとの振り返りの学年
会(検討委員・担任)
Check
(確認)
・評価のための授業計画・実
施チェックリスト作成
・授業評価(生徒・ファシリ
照らし評価
・生徒,担任,委員,
学校,社会のニーズ
の確認
・次年度の計画検討
テーター)
・年間の授業振り返りの学年
会・委員会
Action
評価について
・関係方面連絡・調整
・学年会で計画案を提示・決 (委員)
定
指導計画について
現在,総合的な学習の時間で環境学習や地域学
習を実施するため体験学習法が話題になってお
り,広島県も平成14年に「体験活動指導者ガイド
ブック」を発刊した。その中で,年間学習計画や
個々のプログラム作成におけるPDCAサイクル
(Plan, Do, Check, Action)の有効性が触れら
れている。(注20) この考え方は国際理解教育の参
加型学習でも同様に有効であると考える。その理
論に基づき総合的な学習の時間で実施するための
年間指導計画を立てるシミュレーションをしてみ
ると表6のようになる。
このシミュレーションの特徴は,年間の授業実
践に伴いPDCAサイクルがスパイラルに連続し
ていくようにすることである。そのスパイラルを
通して授業の改善が行われるのである。
これらの計画立案は組織全体の中で,役割分担
をして行われなければならないが,指導者はファ
シリテーターとしての個の技量を高める必要があ
り,校内研修会を実施するとともに,実際に社会
教育の分野で行われている参加型学習ワークショ
ップに参加する必要もある。マニュアルを読んだ
だけでは決してうまくいかず,文字どおり自らが
参加して経験してみて初めて,どんなものなのか
が見えてくるのである。
2
委員会)
の方針決定(委員)
(行動)
佐藤郡衛は総合的な学習の評価の在り方として
・次回へ向けての授業計画修 ・授業案の軌道修正
正(検討委員)
・計画改善の検討
・次回の授業案確認(検討委
員,担任)
①
ジャーナル評価
②
パーフォーマンス評価
③
ポートフォリオ評価
・次年度に向けての提言,計
画立案
の三つを想定し,さらにその評価活動は日常場面 ,
課題解決場面にまで踏み込んで評価すべきである
と述べている。(注21)
総合的な学習の時間のみならず教科において,
社会参加を前提とした「対話」と「意識化」を特
徴とする参加型学習の実践を考えた場合,是非
導入を検討したい評価方法は三番目のポートフ
ォリオ評価である。この評価法は,体験 的な活
動,問題解決学習等を取り入れた総合的な学習の
時間の評価方法として注目を浴び,理論書や実践
- 165 -
例も近年たくさん紹介されるようになってきた。
しかし「評価の観点,評価規準はどのように設定
するのか 」「これまでもワークシートを利用して
いるが,それとの違いは何か」といった戸惑いの
声もよく聞かれる。実践してみたいが,よく分か
らないといったところであろうか。今後の幅広い
実践によって,この評価方法が一般化し,定着す
ることを期待したい。
また評価で留意したい点は,学校教育において
は,回数の限られる社会教育でのワークショップ
や研修会と異なり,ファシリテーターとなる教師
は日々学校という生活の場で,指導の対象となる
生徒と接しており,長期的な展望で指導したり評
価できる強みを持っているところである。評価計
画についても是非,指導計画同様にPDCAサイ
クルの一連のものとしてとらえてもらいたいもの
である。
おわりに
今回の研究では,参加型学習を取り入れた国際
理解教育の理論的整理と中学校及び高等学校にお
ける教科を通しての実践事例を紹介した。新学習
指導要領になり,国際理解教育は総合的な学習の
時間の一分野として例示されてはいるものの,広
島県に限らず全国的に見ても中学校や高等学校の
取組みは小学校ほど多くない。あったとしても,
小学校で取り組まれたものの焼き直しで終わって
いることもある。例えば国際理解教育で用いられ
る典型的な題材は3f(food:食べ物, fashion
:衣服, festival:祭り)だと言われていが,小
・中・高の校種を問わず事例が多く,学習内容も
イベント(非日常)的で似通っている。この3f
の教材を用いるにしても ,参加型学習を取り入れ ,
生徒たち自身の生活とつながった継続的な取組
み,また長期的な展望に立った各学年にふさわし
い取組みを計画していく必要がある。さらに,学
校単独で考えるだけでなく,場合によっては地域
住民との連携,異校種連携,またはNGO(ある
いはNPO)との連携を通して,重複しない系統
だった内容を吟味していく必要があると,今回の
研究を通して強く感じた。
おわりにあたり,本研究の推進のために熱心な
御指導と御助言をいただいた研究指導者の木村一
子先生及び実践研究の推進に御協力いただいた研
究協力員の皆様に心よりから感謝申し上げ,本研
究を閉じることとする。
【研究指導者】
広島大学大学院国際協力研究科
非常勤講師
木 村 一 子
大 竹 市 立 小 方 中 学 校
教
諭
笹 山 有 香
県
校
教
諭
平 木
県 立 三 原 東 高 等 学 校
教
諭
永 田 成 文
【研究協力員】
立
広
高
等
学
- 166 -
裕
【引用文献】
(注 1) 広島県教育委員会 ホットライン教育ひろしま「平成14年度小・中学校における教育課程の編成状
況について」http://www.pref.hiroshima/kyouiku/hotline/05junior/1st/4_hensei/index.htm
(注 2) 高野剛彦『「総合的な学習」における開発教育・グローバル教育の単元モデルの開発−ポートフォリ
オ評価を用いて−』兵庫教育大学修士論文 2002 http://village.infoweb.ne.jp/ fwge4929/
digakuin.ftm
(注 3) 中央教育審議会「新しい時代にふさわしい教育基本法と教育振興基本計画の在り方について(中間報
告)」 平成14年
(注 4) 上掲書(注 2)
(注 5) NCSS DataBank-Resouces for Social Studies Educators http://databank.ncss.org/
article.php?story=20020402120154452
(注 6) サイモン・フィッシャー,デヴィッド・ヒックス 国際理解教育・情報センター(訳)『WORLD STUDIES
学びかた・教えかたハンドブック』国際理解教育・情報センター 1991 p.28
(注 7) 上掲書(注 2)
(注 8) 廣瀬隆人,澤田実,林義樹,小野三津子『生涯学習支援のためのワークショップ 参加型学習のすす
め方「参加」から「参画」へ』ぎょうせい 2000 p.9
(注 9) 上掲書(注 8) p.8
(注10) 中川喜代子,岡崎裕編著『参加型人権教育論−学校における人権教育の実践的課題』明石書店 2000
pp.17-18
(注11) 上掲書(注 2)
(注 2) 上掲書(注 2) p.53
(注 2) パウロ・フレイレ 小沢有作,楠原彰,柿沼秀雄,伊藤周(訳)『被抑圧者の教育学』亜紀書房 1979
pp.80-88
(注14) 高田研 部落解放・人権研究所(編)『人権の学びを創る 参加型学習の思想』解放出版社 2001 p.69
(注15) 上掲書(注 8) p.20
(注16) 上掲書(注 8) p.102
(注17) 西田真哉『野外教育指導者読本』野外教育指導研究会 1999 p.71
(注18) 上掲書(注 8) p.26
(注19) 国際理解教育センター(編)『参加型で伝える12のものの見方・考え方』追加資料 国際理解教育セン
ター 1997
(注20) 広島県教育委員会『体験活動指導者ガイドブック∼「体験学習法」に基づいたプログラム開発・実施
・評価∼』広島県教育委員会事務局 平成14年 p.11
(注21) 佐藤郡衛「学校における国際理解教育の進め方」『教育委員会月報 平成13年11月号 』第一法規出版
平成13年 p.31
【参考文献】
(1) 文部省『国際力亜教育指導事例集 小学校編』東洋館出版社 平成12年
(2) 財団法人 国際協力推進協会『小中学校教員用副読本 開発教育・国際理解教育ハンドブック国際社
会でも活躍できる日本人をめざして』財団法人 国際協力推進協会 2001
(3) 木村一子『イギリスのグローバル教育』勁草書房 2000
(4) 開発教育協議会『開発教育ってなあに?開発教育Q&A集』開発教育協議会 1998
(5) 開発教育協議会『わくわく開発教育 参加型学習へのヒント』開発教育協議会 1999
(6) 開発教育協議会『いきいき開発教育 総合的な学習に向けたカリキュラム』開発教育協議会 2000
(7) 開発教育協議会『つながれ開発教育 学校と地域のパートナーシップ事例集』開発教育協議会 2001
(8) 開発教育協議会『開発教育キーワード51』開発教育協議会 2002
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(9) 中野民夫『ワークショップ 新しい学びと創造の場』岩波新書 2001
(10) グラハム・パイク,ディヴィット・セルビー 中川喜代子( 監) 阿久澤麻理子( 訳)『地球市民を育む学
習 Global Teacher, Global Learner』明石書店 1997
(11) デイヴィッド・ヒックス,ミリアム・スタイナー(編) 岩崎裕保(訳)『地球市民教育のすすめかた ワ
ールド・スタディーズ・ワークブック』明石書店 1997
(12) 魚住忠久『グローバル教育−地球人・地球市民を育てる』黎明書房 1995
(13) 魚住忠久『地球的視野からの展開 共生の時代を拓く国際理解教育』黎明書房 2000
(14) 魚住忠久・深草正博(編)『21世紀地球市民の育成 グローバル教育の探求と展開』黎明書房 2001
(15) 浅野誠 デイヴィッド・セルビー(編)『グローバル教育からの提案』日本評論社 2002
(16) オードリー・オスラー(編)中里亜夫(訳)『世界の開発教育』明石書店 2002
(17) 国際理解教育センター(編)『地球家族 フォトランゲージ版』国際理解教育センター 1995
(18) 国際理解教育センター(編)『人権教育ファシリテーターハンドブック参加型「気づきから築きへ」プ
ログラム』国際理解教育センター 2000
(19) 国際理解教育センター(編)『いっしょにすすめよう!人権 人権教育ファシリテーターハンドブック
実践編』国際理解教育センター 2002
(20) 国際理解教育センター(編)『いっしょに考えて!人権 人権教育ファシリテーターハンドブック 発
展編』国際理解教育センター 2002
(21) 国際開発高等教育機構『PCM 開発のためのプロジェクト・サイクル・マネジメント』国際開発高
等教育機構 1999
(22) 妹尾彰『新聞で総合学習 NIE 新聞を楽しく読んで考えよう ワークシート100例』晩成書房
2002
(23) 鈴木伸男『こうすればNIE 新聞でいきいき授業』白順社 2002
(24) 東京都高等学校国際教育研究協議会(編)『国際理解教育[地球学習]』清水書院 1999
(25) 宇田川晴義(監)小関一也,小島健太郎,尾崎司,浅川和也,桜井高志『地球市民への入門講座 グ
ローバル教育の可能性』三修社 2001
(26) 中村水名子『他民族・多文化共生の明日を拓く社会科授業』三一書房 2002
(27) 「社会科教育平成14年2月号 異文化学習−国際理解の新教材&授業例」明治図書 2002
(28) 金澤孝,渡辺弘(編)『中学校ユニセフによる地球学習の手引き 新しい視点に立った国際理解』教育
出版 1997
(29) 加藤幸治(監)植木武(編)『図と写真で見る総合的な学習 国際理解教育のABC』東洋館出版社 2002
(30) 佐藤郡衛『国際理解教育−多文化共生社会の学校づくり』明石書店 2001
(31) 佐藤郡衛(編)「教職研修7月増刊号 ピンポイント新教育課程実践 No.2 国際をテーマにした学習活
動50のポイント」教育開発研究所 平成14年
(32) 開発教育協議会「開発教育教材シリーズ② いい貿易ってなんだろう 一杯のコーヒーから考える世
界の貿易」開発教育協議会 1999
(33) 開発教育協議会「開発教育教材シリーズ④ 新・貿易ゲーム∼経済のグローバル化を考える∼」開発
教育協議会 2001
(34) 藤原孝章『地球市民教育 参加・体験型学習CD−ROM教材 多文化共生をめざして−「ひょうた
ん島問題」−』デジタルマジック株式会社 2000
(35) 吉田新一郎『会議の技法 チームワークがひらく発想の新次元』中公新書 2000
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