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公会計における財産管理
吉田 : 公会計における財産管理 商学論集 第 79 巻第 4 号 2011 年 3 月 【 論 文 】 公会計における財産管理 ── 米国初期公会計における「財産勘定」の利用 ── 吉 田 智 也 1 は じ め に 本稿は,公会計(政府会計)における「資本的資産(capital assets)」の取扱いに関して,米国公 会計における複数の学説を取り上げ,勘定記録の面から分析・検討することによって,当該事項に 関するわが国の公会計改革への示唆を得ることを目的とする。 近年,わが国の公会計制度に関する問題点として, 「決算情報としてのストック情報の不備」が 指摘されることが多い(たとえば,財務省,2003) 。ただし,この問題は,すでに昭和 37 年 3 月の 地方財務会計制度調査会の答申において, 「現金の収支に比べ財産・物品・債権債務の管理が不当 に軽視されており,かつ日々の記録が不完全で会計責任が果たされていない」と指摘されていたよ うに,わが国の公会計制度に古くから存在する問題といえよう。そして,それが今なお問題として 指摘されていることは,その後の制度改正においても,問題の根本的解決には至っていないという ことである。 わが国の地方政府における会計システムは,いわゆる単式簿記に基づく現金収支会計がとられて おり,現金・財産の二分法によるそれぞれの独立した増減計算,さらに財産は,公有財産,物品, 債権,基金に分類されることから,5 項目の増減のてん末が独立して並列的に示される,というも のである1(原田,1992,217 頁) 。そのうち,財産に関する記録は,決算の添付書類として「財産 に関する調書」(地方自治法施行令 116 条 2 項)を作成するために必要なデータを提供すれば十分 とされる。そして「財産に関する調書」は,各財産の前年度末残高,決算年度中増減高並びに決算 年度末現在高を,主に物量単位で表示する2。もちろん,経済主体が負う「伝統的な会計責任(会計 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 情報に関する説明責任) 」は,財産数量計算次元の顛末報告責任と,金額計算次元の状況報告責任 に分けることができる(原,2007,65 頁) 。それゆえ,それらの「財産」が物量単位で表示される ことが問題なのではなく,金額単位での表示がなされていないことが問題となろう。 それでは,政府の所有する「財産」 ,さらにその中核となるであろう「資本的資産」を,収支管 理が行われるのと同じ水準で,金額単位により,どのように記録すべきかを考えなくてはならない。 原田(1992,217 頁)も指摘するように,「財産」に含まれるのは積極財産だけであり,地方債といった消極 1 財産は決算書にあらわれない。 有価証券,出資金,債権などの一部の財産は金額で表示されるが,大部分の財産は物量単位で表示される。 2 財産の金額よりも物量による管理が重視されていることが,フロー情報に比べストック情報が不当に軽視さ れていることを含意するものであるとの意見もある。 ― 33 ― 商 学 論 集 第 79 巻第 4 号 特に,企業会計とは異なり,収益獲得のために利用されるわけではない「資本的資産」の管理を, どのように行うのかは重要な問題である3。本稿では,この問題を検討するにあたり,20 世紀初頭 より,その会計システムに複式簿記を導入し,現金を含む諸資源・諸負債を「基金(fund) 」とい う会計単位に集約し管理してきた米国公会計を素材とする。そのなかでも,「資本的資産」の管理 において,重要な役割を果たしたとされる「財産勘定(property account) 」に焦点をあてて,論を 進めることとする。 2 米国における「資本的資産」管理の必要性 20 世紀に入るまで,米国の政府会計実践においても,単式簿記による現金収支のみの管理が広 く行われていた(James, 1950, 308 頁) 。しかし,① 政府の財務取引が現金取引に限られなくなっ たこと,② 公共サービスの提供には恒久的財産(permanent property)も利用しなければならず, その管理の必要性が生じたこと,③ 恒久的財産の取得には公債発行といった手段がとられ,その 管理の必要性が生じたこと,④ 租税徴収業務の管理の必要性が生じたこと,⑤ 財政支出統制の必 要性が生じたことといった様々な理由によって,会計管理の対象は,現金から諸資産・諸負債に拡 大していった(James, 1950, 309 頁) 。そして,現金以外の諸資産や諸負債を記録・報告するために, 現金の収支から離れて, 財務取引を認識する必要があった。 それは, 「現金主義と多少なりとも異なっ た全ての会計手続き」という意味において, 「発生主義(accrual basis) 」と呼ばれる(James, 1950, 310 頁)。つまり,「会計記録が現金(収支)に加えて何か他のものに関して管理されていたら,そ の記録は発生主義に基づいている」 (Paton, 1943, 1300 頁)からである。 このように,それまで現金収支しか管理していなかった政府会計に,諸資源・諸負債の管理の必 要性が生じてきた。ただし,諸資源の管理の必要性が生じてきてもなお,米国の会計実践において は,資本的資産(公共事業のために利用されるものは除く)を帳簿に記載しないことがかなり頻繁 に見受けられたとされる(Hackett, 1937, 64 頁) 。それにはいくつかの理由が挙げられている。 まず,① 政府が「資本的資産」を取得する際に,その取得資金は主に公債発行によって調達さ れていたが,それらの公債に対する保証は,都市の一般的信用(general credit)によるものであっ たこと。つまり,公債権者の保証(担保)となるのは,取得された資本的資産ではなく,都市政府 のもつ課税権(taxing power)であった。そして,実際に公債の償還・利息の支払いは,租税によっ てなされていた。それゆえ,未解決の負債の保証を示すためには,債権者保護目的で換金価値を持 つすべての資産が記録され(貸借対照表に計上され)る企業とは異なり,資本的資産を帳簿に記載 する必要が(また,そうすることを公債権者から要求されることも)なかったとされる(Hackett, 1937, 64 頁)。 また,それは ② 資産の価値下落(declining value of the asset)を会計帳簿で認識(および測定) する必要が無かったからであるとも言われる(Hackett, 1937, 64 頁)。価値下落を認識しておけば, 米国政府会計審議会(GASB)の概念書においても,政府が「収益を生み出さない資本的資産(Non Revenue 3 - - Producing Capital Assets)」に巨額の投資を行い,それを維持する責任があることについて述べている(GASB, 1987, par. 26 27)。 - ― 34 ― 吉田 : 公会計における財産管理 資本的資産の取替えの時期を,ある程度,予測することができ,財政状態に与える影響を低減させ ることができる。しかし,政府では,資産が使用不能になればそれを処分し, (起債制限に達して いない限り)新しい公債を発行して資金を調達することにより,新しい資産を獲得することができ るため,帳簿上で資産の価値減少を記録していく必要性を欠いていたわけである。 しかし,優れた完全な会計記録(good and complete accounting records)のためには,そして,適 切な統制のためには, 「資本的資産」が勘定記録として示されるべきであった(Hackett, 1937, 65 頁) 。 もちろん,小売業における商品管理のように頻繁な棚卸し等によって,それらの資産を統制するこ とは可能であろうが,それとて適切な会計に代わるものではないだろう。つまり,もし「資本的資 産」に関して適切な勘定が保持されていなければ,それに対する統制はなされていないも同然であ るとさえいえるかもしれない。それでは, 「資本的資産」を勘定に記録するとして,それはどこに, どのように示されるべきかを考えなくてはならない。次節において,米国公会計の発展過程に沿っ ていくつかの学説を取り上げ,この問題に関して,分析・検討する。 3 「財産勘定」による管理への変遷 3.1 Cleveland 学説における資本的勘定による管理 米国公会計に「基金会計(fund accounting) 」概念を導入したとされる(菊池,1977,115 頁) , Cleveland の学説から検討する。 「資本的資産」に関する勘定記録による説明の方法として,まず考 え出されたのは,Cleveland が中心となって主張した「資本的勘定(Capital Account) 」によるもの であった(Potts, 1976, 216 頁)からである。 Cleveland の考えた会計システムにおいては,資本的資産は, 「複式貸借対照表(Double Balance - - Sheet)」と呼ばれる計算書の「資本的勘定」において,取得原価で計上された。複式貸借対照表は 「経常的勘定(Current Account) 」と「資本的勘定」という 2 つの区分に分けられていたが,これは 自治体の当期費用(current expense)の資源調達に関連している諸資源と諸債務と,経済性と効率 性を保持して都市の機能を遂行していくために必要な恒久的な財産・設備の取得に関する諸資源と 諸債務を区別するためであったとされる(Cleveland, 1909, 144 頁) 。 このような区別が必要とされるのは,諸勘定に記録される業務データを行政の問題(problems of administration)と結び付けたためであるが,究極的には,諸資源と諸負債に付随する事務官の責任 (official responsibility)の違いにある(Cleveland, 1909, 143 148 頁)。つまり,経常的勘定に含まれ - る諸資産は,当期の消費(current consumption)を対象としたものであり,運営と保全(operation and maintenance)の費用に利用される。そして,行政官の忠実性は,その総額が経済的に利用され, 資金の未使用残高が説明されることで確かめられる。一方,財産や設備の取得のために調達された 資金は,他の目的に消費されてはならない。それらは,都市の経常的な運営において行われる継続 的もしくは恒久的な利用を対象とした土地,建物,機械,およびその他の器具を購入するために, 慎重に保全・蓄積されるべきである。そのように費消されることで,財産や設備は,価値を損なう ことにならぬ状況で維持されることになるだろう。そして,維持のための費用は,たとえば運営費 ― 35 ― 商 学 論 集 第 79 巻第 4 号 用として,経常的勘定の資源によって支払われるべきである。 このような処理の結果として, 「都市政府の貸借対照表における恒久的財産は,都市に対して, 私的法人に対する資本(capital)と同様の関係にある。そして,地方自治体の事務官はその財産の 管理・維持に関して, 私的法人の資本の保護に関する経営者の責任と同様の責任を持つ。 」 (Cleveland, 1909, 145 頁)とまでいわれている。このような彼の思考からは,政府の資本的資産もまた,資本 の運用形態として,企業会計でなされているのと同じように,認識・測定されるべきであるという ことになろう。 4 4 4 4 4 さらに,彼は,政府の資本的資産に関する行政の問題として,次の諸点を挙げている(Cleveland, 1909, 148 149 頁)。 - ① 都市政府の資本や設備(municipal capital and equipment)のために生じた負債額のうち,未 解決なものはいくらか。 ② それらの負債が満期を迎えることに関する契約は何か。支払期日の到来したそれらを支払う ためになされる減債基金条項(provisions)はどんなものか。それらの減債基金契約(contracts) は実行されているか。 ③ 建設目的もしくは投資目的で獲得された資金の未費消残高はいくらか。それらの残高は損な われずにいるか,またそれらは他の目的に向けられたことがないか。それらの残高に対して存 在する未完了の契約もしくは他の支出負担はいくらか。それらの基金が提供されて建設の途中 にある財産の状況はどんなものか。 ④ 政府の各機能に提供された財産や設備の原価はいくらになっているか。それらは次期に保持 される財産か,もしくはそうではないならば,それらを減価すること(to depreciate)が認め られてきているのはいくらか。 ⑤ 都市政府の信用に基づく借入れによる資金によって獲得されてきた各行政目的のための財産 や設備の金額はいくらか。減債基金の分割払込金(installments)を通じて直接的もしくはそ れらの目的のために生じた負債の支払いによるもののいずれかで収入からの歳出予算によって 代表される金額はいくらか。 ⑥ 都市によって所有されている公営事業(municipal enterprises)はどんな種類があるか。そ れぞれの種類の財産や設備の原価はいくらになっているか。各種の財産は適切に保持されてい る財産か,もしくはそうではないならば,各種の財産や設備を減価することが認められること になるのはいくらか。 ⑦ 都市は,株式,債券,不動産もしくは他の財産もしくは権利(そこには列挙されてきた他の 分類の諸勘定は含まれない)など何に投資してきたか。それらの投資はどのようにして獲得さ れたか。それらはどのようにして管理されているか。 つまり,上記の諸問題を解決するような会計情報が,資本的資産の勘定から得られなければなら ない。ここで,Cleveland による「複式貸借対照表」の資本的勘定を示し( [表 1] ),これを検討し てみる。 ― 36 ― 吉田 : 公会計における財産管理 [表 1] Cleveland による「複式貸借対照表」の資本的勘定 資本的勘定 I. 現 金 2,325 I. 即時現金需要額 未払給料 II. 恒久的財産・設備 土地原価* 改良設備原価 建設仮勘定 恒久的財産・設備合計 2 判決・賠償債務 5,400 2 支払命令書未払金 24,800 11 現金需要合計 460 30,660 15 II. 公 債 25,200 III. 恒久的財産の負債超過額 資本的資産合計 32,985 7,770 資本的負債 ・ 剰余合計 32,985 * その価値は 19,500 (出典)Cleveland,1910,419 頁 まず,① の政府の所有する恒久的財産の(取得の)ために生じた負債の未解決額は,資本的勘 定の貸方の「I. 即時現金需要額(Immediate demands for cash) 」および「II. 公債(Bond) 」によっ て示されている。そして,② の情報は,資産取得のために調達された資金がどのように返済され ていくのかを表すものであり,これも貸方の「II. 公債」として示されている。もちろん, 「複式 貸借対照表」に計上されるのは,当期末における公債の未償還額だけであるが,公債勘定に関する 補助簿(公債売上記録簿(Register of bond sales)4)を利用すれば,公債の種類,有効期間,償還方 法等の情報も得られるだろう。 また ③ および ④ の情報は,資本的勘定の借方「I. (資本的)現金」および「II. 恒久的財産・ 設備(Permanent property and equipment) 」の金額として表されている。 ⑤ から ⑦ までの情報については,彼が論文で示した設例からは,それらの詳細にまで言及され ることはなかった。ただ,⑤ の情報は,資産取得のための資金調達を,公債ではなく借入れによっ て場合に,公債に関する会計記録と同様に処理されることになるだろう。また,⑥ の情報について, 都市の所有する公営事業であっても,自治体を 1 つの法人として捉えて「複式貸借対照表」を作成 する立場からは,その事業に利用される恒久的財産も資本的勘定のうちに包含されることになろう。 ⑦ については,それらの財産自体を行政目的に利用するというよりは,余裕資金の運用先として それらの財産を所有している意味合いが強いと思われる。そのように,投資対象として所有される 財産であっても,⑥ の場合と同様, 「複式貸借対照表」には計上されることになる。明瞭性の観点 から言えば,おそらく,借方の内訳項目として,それらが列挙されることになるだろう。 このように, 「資本的勘定」は,借方に,主に設備取得に充てられる現金や既に取得された設備 の原価を計上し,貸方に,現金によって支払われるべき負債と,公債の発行額5 を計上して,貸借 差額として「恒久的財産の負債超過額(Excess of permanent properties over debt) 」の金額を計算 彼は,この「公債売上記録簿」を,複式貸借対照表を作成するために合計転記する各種の帳簿の中に含めて 4 いる(Cleveland, 1910, 412 頁)。 なぜ公債の債務額ではなく発行額なのかは不明であるが,彼の示した設例の資本的勘定において,期首に 5 25,000 の「公債」が計上されており,期中発行額の 200 が加算された金額が期末の金額 25,200 となっている(償 還額 1,155 は無視されている)ため,これが発行額であると考えた。(Cleveland, 1910, 412 419 頁) - ― 37 ― 商 学 論 集 第 79 巻第 4 号 する。ここで,借方に計上される「現金」が主に設備取得に充てられるということを考えれば,借 方に「恒久的財産」の金額(購入予定分も含める)を,その設備等の期末の時価ではなく取得原価 で計上し6,貸方にはその原資を計上していると考えられる。このように考えるならば,資本的勘定 は,貸方で資本調達額(調達源泉)を示し,借方で資本投下額(運用形態)を示しているものとい えよう。ただし,この場合,貸借差額が資本調達額としての性格を持ちうるのかは,問題として残 る。 3.2 Eggleston の会計理論における「資本基金」による管理 「資本的勘定」による管理は,Cleveland の導入した「基金会計」概念が会計実践へ浸透していく につれ,「資本基金(capital fund) 」による管理に代わっていった。当時の会計実践は「二重勘定シ ステム(dual account system) 」と呼ばれ(Morey, 1927, 18 頁) ,その後の政府会計実践に多大なる 影響を与えたとされる『都市会計ハンドブック(Handbook of Municipal Accounting) 』においても, 採用されていた(伊藤,2003,34 頁) 。 「二重勘定システム」では, 「流動基金(Current Fund) 」, 「資 本基金(Capital Fund) 」 , 「減債基金(Sinking Fund) 」, 「信託基金(Trust Funds) 」という 4 つの基 金が,金銭を消費する権限,いいかえれば資金を利用する目的にしたがって,会計実体として設定 されていた。その各基金の総勘定元帳に含まれる諸勘定は,特定目的に金銭を割当てる目的で記録 する「基金勘定(fund accounts) 」グループと,所有者としての都市の持分関係(city’s interest)を 記録する「所有勘定(proprietary accounts) 」グループに区別されて記録されていた(Eggleston, 1921, 28 頁)。 『都市会計ハンドブック』を理論的に精解したものとされる Eggleston7 の 1914 年の著書『都市会 8 計(Municipal Accounting) 』および 1915 年の著書『理論と実践における都市会計の諸勘定(Municipal 9 Accounts in Theory and Practice) 』によれば, 「資本的資産」に関わる取引を記録するのは,主に「資 本基金」である。 「資本基金」 (の勘定組織)は,(a)恒久的施設整備(permanent improvements) のために資金提供するためになされた権限付与額(authorizations)や, authorizations)や, )や, (b)資本的負債(capital b)資本的負債(capital )資本的負債(capital capital liabilities)の削減のために利用可能な現金その他の資産,および(c)恒久的施設整備勘定や,資本 的資産(capital assets)から支払われる諸負債から構成される(Eggleston, 1921, 4 6 頁) 。(a)の勘 - 定は「基金勘定グループ」に, (b) ・ (c)の勘定は「所有勘定グループ」にそれぞれ記録される。 財務諸表として作成される資本基金の貸借対照表は,次のようなものとなる( [表 2] )。 複式貸借対照表の資本的勘定における「恒久的財産・設備」の項目において,土地のみが注記の形で,「その 6 価値(おそらく時価)は $19,500」と記載されている。これは,土地を売買できる市場が存在し(時価評価の 実行可能性),誰が所有しても(土地そのものの)価値が変動しないため(客観的な測定),価値情報が注記 されているとも考えられる。 Eggleston は,『都市会計ハンドブック』を公刊したニューヨーク市の都市調査局の中心的メンバーであり, 7 ニューヨーク市の財務官も務めている(詳しくは,菊池,1970,59 頁)。なお,Eggleston の会計理論が,先 に取り上げた Cleveland の学説を継承するものであることは,菊池(1977)第 6 章において詳述されている。 本書は,「各基金に要求される仕訳記入の完全な説明と,それによって作成される具体的な財務諸表を初めて 8 網羅したもの」と評価されている。(GASB, 1985, 55 頁) なお,初版は 1915 年に公刊されているが,筆者は 1921 年版を使用した。 9 ― 38 ― 吉田 : 公会計における財産管理 [表 2] Eggleston による「資本基金」の貸借対照表 資本基金 恒久的施設整備要求額 500,000 恒久的施設整備権限付与額 現 金 250,000 資本支払請求準備額 土地・建物 700,000 公 債 1,000,000 備 品 350,000 剰 余 0 合 計 1,800,000 合 計 400,000 400,000 1,800,000 (出典)Eggleston, 1921, 5 頁 上記の貸借対照表は, 「基金勘定グループ」と「所有勘定グループ」の諸勘定を 1 つの貸借対照 表に収容しているが,勘定グループごとにそれぞれの貸借対照表を作成することも行われていた (Eggleston, 1921, 256 頁) 。勘定グループを区分するとすれば,点線のようになるが,ここで考察の 対象とするのは,「所有勘定グループ」に帰属する諸勘定である(上記では網掛けの部分) 。ここで は,その借方に,「現金」のほかに, 「土地・建物」 ,「備品」といった「資本的資産」が計上されて いる。一方,貸方には,それらへの投下資金の源泉となったであろう「公債」が計上されている。 資本基金は,恒久的施設整備のため,すなわち行政活動に利用される資本的資産の取得・維持の ために,資金を利用する権限が与えられたものであり(Eggleston, 1921, 40 頁) ,公債はその資金調 達手段の一つである。それゆえ,資本基金では, 「公債」を債務としてではなく収入として見てい ると考えられる10。また 「剰余」 は, その著書で示された公債償還の際の仕訳を分析すれば (Eggleston, 1921, 203 頁),他の基金の資産(たとえば減債基金の現金)によって,資本基金の負債が減少した (もしくは他の基金から資産が振替えられ,資本基金の資産が増加した)ときに,貸方に記入され るため,(当該基金の純資産を増加させる)収入として考えることができる。 一方,借方の「建物」は,形態としては「資本的資産」であるが,同時に支出である。また, 「現 金」も,都市が自由に利用できる現金として計上されているのではなく, 「恒久的施設整備」 ,「資 本基金負債の決済手段」に支出されていると考えることができる11。このように考えると,資本基 金の貸借対照表における所有勘定グループは, 「建物」 ,「公債」を計上しているのではなく, 「建物 4 4 4 4 4 4 への支出額」, 「公債からの収入額」を計上していると考えられる。それゆえ, 「所有勘定グループ」 のみを取り出して考えれば,その貸方には当期までの累積的な収入が,借方には当期までの累積的 な支出がそれぞれ計上され,差額として累積的な資本的収支余剰を計算しようとしていると考えら れる([表 2 2]参照) 。 - しかし,このような「資本基金」によって恒久的財産を管理する方法には限界があった。それは, 基金を 1 つの会計単位とし,資本基金では,恒久的財産の取得のための資金の利用を説明しようと することから,管理の中心が資金の収支(支出権限責任の解除)におかれたことによるものである。 つまり,「資本的資産」の管理についても,財そのものを管理するのではなく,それらに投下され た累積的な資金額がいくらなのかを明らかにし,その金額を毀損しないように維持することで管理 公債の償還のために減債基金が設けられることからも,その思考がうかがえる。 10 ただし,このように考えると,資本剰余がバランシング ・ ファクターの機能を併せ持つことになる可能性が 11 ある(新田,1998,109 110 頁)。 - ― 39 ― 商 学 論 集 第 79 巻第 4 号 されていたことになる。 [表 2 2] 「資本基金」の所有勘定グループの貸借対照表 - 資本基金 現 金 250,000 公 債 1,000,000 土地・建物 700,000 剰 余 300,000 備 品 350,000 合 計 合 計 1,300,000 1,800,000 換言すると,政府の諸勘定は,ある明確な目的をもった「基金」に帰属しているが,それらはい ずれも「資本的資産」を記録・管理するという新たな目的を合わせもつことができないものだった といえよう。 「資本基金」に,恒久的財産に関する諸勘定が算入されたのも,それを取得するため の資金がその基金から支出されるということに起因している。ただし, その考えを敷衍するならば, 公債に関する諸勘定は,公債を返済するために設定される「減債基金」に算入するということもあ りえたかもしれない。 3.3 「財産勘定」による管理 上述のような問題に対し,恒久的財産に関する諸勘定を, 「基金」とは別の会計実体である「財 産勘定」として記録・表示することが考え出された(Potts, 1977, 61 頁)12。まず,基金とは別の会計 実体を設定する前段階として, その勘定によって記録される恒久的財産を確定しなければならない。 それは以下のような手順で行われる(Hackett, 1937, 66 頁) 。 もし,過去においていかなる記録もなされていないならば,さまざまな恒久的財産について,そ の価額を決定しなければならない。慎重に査定(assessment)を行った後,政府の所有する財産に ついて,できるだけ正確な一覧表(すなわち「財産目録」)が作成され,各財産に関連する詳細情 報を明らかにする補助記録(すなわち「固定資産台帳」)が作成されなければならない。この補助 記録が,総勘定元帳に「財産勘定」を設定するための基礎となる。 個々の資本的資産の金額が決定されると, いよいよ「財産勘定」を設定することになる。つまり, 問題はこれらの数値をどのように表示(計上)するかということに移る。これについては,論者に よってその主張が異なっている。 4 4 まず,先ほどの Eggleston によれば,恒久的財産のみが「財産勘定」を構成する。彼によれば, 政府の財産目録である「財産勘定貸借対照表(property account balance sheet) 」には,土地,建築 物(construction) construction) ) ,設備(equipment) equipment) ) ,仕掛品(work work in process) ) ,および土地改良(land land improvement)といった欄が設定されなければならない(Eggleston, 1914, 194 頁) 。 そして,諸財産の勘定は,新しい財産が取得されるとその原価(cost price)で借記され,財産 が手放されると原価で貸記される(Eggleston, 1914, 230 頁) 。それらの取引を記録する際,諸財産 Potts によれば,財産勘定を基金に含めるよりも,むしろ会計実体として,財産勘定に関する分離したグルー 12 プ(separate group)を加えることを考え出したのは Eggleston であるという。実際に, 『都市会計』において, 「財産勘定」の説明がなされている。 ― 40 ― 吉田 : 公会計における財産管理 の勘定の相手勘定となるのは, 「財産勘定剰余(property account surplus) 」と呼ばれる勘定である。 さらに,彼の主張が特徴的であるのは,償却性の財産である建築物や設備に関して,期末に減価 償却を行う点である。これらの諸財産に関する減価償却は, 準備金(reserve)として計上され, 個々 の資本的資産の勘定からは控除されない(Eggleston, 1914, 194 頁) 。それゆえ,財産勘定貸借対照 表の貸方には,「減価償却準備額(Depreciation Reserve) 」の金額を控除して「財産勘定剰余」の 金額があらわされる(Eggleston, 1914, 230 頁) 。 ここで,彼が示した仕訳例(Eggleston, 1914, 207 頁)を示す。ただし,彼は,諸財産を取得した ときになされる仕訳を示しているわけではない点に注意が必要である。その仕訳は,むしろ,棚卸 しによって諸財産の価額を決定したときのものと考えられる。 [棚卸時 ?] [期末] (借)土 地 5,000 (借)建 築 物 7,500 (借)設 備 2,500 (借)仕 掛 品 15,000 (借)土 地 改 良 27,000 (借)財産勘定剰余 625 (貸)財産勘定剰余 57,000 (貸)建築物減価償却準備額 375 (貸)設備減価償却準備額 250 諸財産の勘定残高にしたがって作成される「財産勘定貸借対照表」を示すと, [表 3]のように なる。 [表 3] Eggleston による「財産勘定」貸借対照表 財産勘定貸借対照表 1914 年 1 月 31 日 現在までの原価(Cost to Date) 土 地 $ 5,000 建築物 7,500 設 備 2,500 仕掛品 15,000 土地改良 27,000 $57,000 減価償却準備額 建築物 $ 375 設 備 250 625 純 額 $56,375 財産勘定剰余 $56,375 (出典)Eggleston, 1914, 263 頁 既に述べたように, 「財産勘定」は,基金とは別の会計単位であるため,諸財産の取得時には, その取得のために支出を行った基金において,対応する支出が記録されることに注意しなければな ― 41 ― 商 学 論 集 第 79 巻第 4 号 らない。また,減価償却は,いずれかの基金で財産の取替えのために資金が拘束されない限り, 「財 産勘定」のみで記録される。 3.4 「財産勘定」の多様性 「財産勘定」には,恒久的財産のほかにも,それら財産を取得する際に生じた公債等の債務が計 上される場合がある。このような「財産勘定」をもつ会計システムについて,Lloyd Morey の主 張13 をもとに分析してみる。Morey によれば, 「財産勘定」とは, 「設備資本(Plant Capital) 」もし くは「固定資産・負債(Fixed Assets and Liabilities) 」として知れられるものであり,政府により取 得・保有される「恒久的財産」に関する勘定, 諸資産に含まれる財産の取得により生じた債務の「負 債」勘定,および「純差額(net difference)もしくは剰余(Surplus) 」が含まれる(Morey, 1927, 192 頁)。 そして,彼は,現在保有している財産の取得に,政府がいくら費消しているのかを知るという公 的な有用性(public value)のためと同時に,それら諸財産の管理のために, 「それらの勘定に記入 される数値は原価基準(cost basis)によるべきであり, 決して他の基準で記入されるべきではない。 」 (Morey, 1927, 193 頁)と論じている。 また,財産に関する勘定の相手勘定には「固定資産投資剰余(Surplus Invested in Fixed Assets) 」 という勘定が用いられる(Morey, 1927, 193 頁) 。そして,もし,財産の取得原価の一部が,公債発 行(incurring debt obligations)によって資金調達されていたならば,それらの債務で未払いのまま 残っているものは,財産に関する勘定の反対側の一部となり,相応してこの剰余勘定が減少する。 それでは,彼の提唱した具体的な会計手続をみてみよう(Morey, 1927, 194 195 頁)。ここでは, - 異なる会計実体である他の基金との関係も指摘しておく。すなわち, 「財産勘定」 でなされる記録と, いくつかの基金で対応してなされる勘定への記録がどのような関係にあるかを示す。 まず,恒久的財産の取得(建設)のための資金を調達するために,公債が 100,000 の額面で発行 されたとする。「財産勘定」では,発行された公債の債務額を「公債未払額(bond payable) 」勘定 の貸方に記録するとともに, 「仕掛改良(improvements in progress) 」勘定の借方に記録する。 ①[公債発行時] (借)仕 掛 改 良 100,000 (貸)公債未払額 100,000 この記録に対応して,公債の発行によって生じる資金を説明する「公債基金(Bond Funds) 」に おいて(Morey, 1927, 25 頁) ,公債の発行による現金(100,000)の増加を記録する。また,調達さ れた資金が,公債基金において(もしくは他の適切な基金に振替えられて) ,恒久的財産の取得の ために,予算にしたがって,支出される。 次に,公債によって調達された資金によって進められていた建設工事が終了し,新たな建物(原 価 98,260)が取得されたとする。 主に Lloyd Morey,Introduction to Governmental Accounting,New York,1927 年。 13 ― 42 ― 吉田 : 公会計における財産管理 ②[工事完了時] (借)財 産[建物] 98,260 (借)固定資産投資剰余 1,740 (貸)仕 掛 改 良 100,000 財産はその取得原価で記録され,公債の発行により調達した資金のうち,財産の取得原価となら なかった金額は, 「固定資産投資剰余」 勘定の借方に記録される。公債基金においては, この金額 1,740 が,公債の償還原資として「減債基金(Sinking Funds) 」(Morey, 1927, 25 頁)に振替えられる。そ して,減債基金によって,公債の一部(5,000)が償還されると,次のように記録される。 (もちろん, このとき,減債基金において,公債の償還に関する記録がなされる。 ) ③[公債償還時] (借)公債未払額 5,000 (貸)固定資産投資剰余 5,000 また,恒久的財産の取得は,公債の発行によってのみ,その資金を調達するわけではなく,租税 収入に基づいた支出予算の執行や贈与・寄付などによっても取得されることがある。財産勘定にお けるこのような取得は,どちらも,以下のように記録される(土地 2,000 が寄付により取得された とする)。 ④[その他取得] (借)財 産[土地] 2,000 (貸)固定資産投資剰余 2,000 なお,支出予算に基づく支出によって取得された場合は,その支出を行った基金において,対応 する記録がなされる。一方,贈与・寄付などによって取得した場合は,財産勘定においてのみ記録 がなされる。 政府の諸財産も,それが行政活動のために使用不可能になれば,除却・廃棄される。また,余剰 財産を売却することもある。ここでは,土地(原価 1,000)を 1,200 で売却したとする。 ⑤[財産除却時] (借)固定資産投資剰余 1,000 (貸)財 産[土地] 1,000 除却・廃棄時には,財産勘定において,減少する財産の原価が貸記され,その分の固定資産投資 剰余が減少するため, 「固定資産投資剰余」勘定に借記される。売却による収入(1,200)は,通常, 「一般基金(General Fund) 」において記録される(Morey, 1927, 25 頁) 。 上記のような仕訳に基づいて,各勘定に転記すれば, [表 4]のようになる。 ― 43 ― 商 学 論 集 第 79 巻第 4 号 [表 4] 財産勘定に関する諸勘定 財 産 公債未払額 ②[建物] 98,260 ⑤[土地] 1,000 ④[土地] 2,000 財産勘定 B S 99,260 100,260 ③ 100,000 ① 100,000 95,000 100,260 100,000 仕掛改良 ① 5,000 財産勘定 B S 100,000 固定資産投資剰余 ② 100,000 ② 1,740 ② 5,000 ⑤ 1,000 ③ 2,000 財産勘定 B S 4,260 7,000 7,000 これらの各勘定の期末残高から, [表 5]のような「財産勘定」貸借対照表が作成される。 [表 5] Morey による「財産勘定」貸借対照表 財産勘定貸借対照表 財 産 99,260 仕掛改良 ― 資本目的公債未払額 95,000 固定資産投資剰余 $ 99,260 4,260 $ 99,260 (出典)Morey, 1927, 197 頁 Eggleston による「財産勘定」貸借対照表( [表 3] )と Morey による「財産勘定」貸借対照表([表 5])とでは,その構成要素が異なるほかにも,それぞれの会計思考に基づく重大な違いがある。そ れは,Morey が,財産勘定に関する減価償却を行わないことである。 Morey は,財産勘定に関する減価償却を行わない理由を 4 つ指摘している(Morey, 1927, 196 頁) 。 (1) 政府が保有する財産の価値に基づいて,信用その他の目的のために依存することがないた め,政府財産の現在の価値(current value)を知る特定の状況が存在しない。 (2) 恒久的財産に関する勘定における主要な問題は,“当該財産に政府はいくら支払ったか ?” ということである。 (3) 損益に関するいかなる勘定も記録されないため,減価償却費を費用として会計処理を行う ことのいかなる根拠もない。 (4) 減価償却準備額(reserve for depreciation)は,もしそれが積立てられ,かつ財産を使い果 たしたときに財産の取替えに提供されるように繰り越される場合にのみ,利用されうる。 しかし,それは不可能である。; 第一に,政府の収入のほとんどが財政的な性格のもの(fifinancial nature)であり,それらは財政期間中に費消されなければならない。そして第二に, 公共財産の多くの部分が,公債発行を通じて取得され,公債の元本を返済することに加え, 減価償却に提供するための金額を課税によって調達することは不可能であろう。 もちろん,彼の説明でも,公益事業を説明する基金などにおいては,減価償却を行っているが, ― 44 ― 吉田 : 公会計における財産管理 一般的な行政活動のために利用される財産については,減価償却を行わないとしている14。 上記の Eggleston と Morey の 2 つの「財産勘定」貸借対照表をみても分かるように, 「その勘定 からどんな情報を得ようとしているのか」ということが,その内容を規定することが確認できる。 また,Morey の「財産勘定」貸借対照表の借方には,恒久的財産が一括して計上されているが, これはすべての恒久的な政府財産のために,完全な補助記録が保持されており,総勘定元帳レベル では,その詳細な個々の記録よりも,財産への投資額の大きさを表そうとしているからとも考えら れる。 財産勘定において,恒久的財産の反対側に計上される公債に注目した「財産勘定」貸借対照表を 考案する論者もいる。たとえば,Hackett がその一人である。既に述べたように,恒久的財産は, その取得のために発行された公債の保証とはならず,政府の一般的信用がそれに代用されていた。 それゆえ,公債の債務額と対比されるべきものは,恒久的財産ではなく,一般的信用を生み出す政 府の「課税権」であると考えた(Hackett, 1937, 66 67 頁) 。その「財産勘定」貸借対照表を示せば, - [表 6]のようになる。 [表 6] Hackett による「財産勘定」貸借対照表 財産勘定貸借対照表 固定財産 $1,000,000 将来課税権 300,000 公債未払額 固定資産投資剰余 $1,300,000 $ 300,000 1,000,000 $1,300,000 (出典)Hackett, 1937, 67 頁 ただし,この貸借対照表の借方に計上される「将来課税権(Future Taxing Power) 」勘定は,公 債を払い戻すために租税を徴収する政府の力をあらわすものである。ただし, その金額は貸方の 「公 4 4 4 4 債未払額」勘定の金額によって決まっている15。もし,この貸借対照表のように,貸借それぞれに, 均衡させるだけの目的をもった項目が計上されると,財産勘定は,財産を一覧にして表示するとい う目的は果たしうるものの,その貸借対照表数値には,ほとんど意味がなくなるのではないかとい う危惧さえ抱かせる16。 上記のように,紆余曲折を経ながら, 恒久的財産に関する諸勘定を, 「基金」とは別の会計単位(会 計実体)である「財産勘定」として記録・表示することが,会計実践として定着していくことにな る。 会 計 制 度 と し て は,1934 年 に, 全 国 都 市 会 計 委 員 会(National Committee on Municipal Accounting : NCMA)によって公表された最初の都市会計原則において,資本的資産の扱いについ て,次のように記述されている。すなわち, 「支出もしくは債務の返済に利用できない恒久的財産 ただし,もし(4)の条件が満たされ,減価償却を一般行政目的のために記入するのであれば,減価償却費が, 14 「固定資産投資剰余」勘定に借記され,「減価償却準備額」勘定に貸記される(Morey, 1927, 196 頁)。 それは,政府の持つ徴税権を見積られる将来の税収額を何らかの割引率で計算するといった「将来志向的」 15 な「将来税収」ではないことに注意しなければならない(佐々木,2001, 19 頁)。 当時の政府会計学者のなかには,「資本的資産」の価値は,取得原価や原価に基づいた金額で測定することは 16 できないと考えた者もいる(Oakey, 1921, 222 223 頁)。 - ― 45 ― 商 学 論 集 第 79 巻第 4 号 に関する資産勘定は,他の基金資産から分離されるべきであり,それらによって示される持分(eqeq17 uity)は,いかなる基金の流動剰余(current surplus)にも含めてはならない。 」と。 このように,政府の行政活動に利用される「資本的資産」(そしてその活動に関連して生じる長 期負債)は,基金とは別の会計単位を設定し,そこにおいて勘定記録を利用して管理されることが 会計制度としても確立された。そして,このような財産管理の方法は,今日の米国政府会計におい ても,「一般資本的資産」 (general capital assets), 「一般長期負債」(general long term liabilities) - 勘定を設定することで実践されている 。ただし,今日の「資本的資産」の会計処理については, 18 それらの「一般固定資産・一般長期負債が政府全体の財務諸表(governmental wide financial state- ment)において,どのように報告されるかを規定しているが,それらの資産・負債の会計手続に ついてはなんら定めがない」 (Freeman, 2009, 353 頁)ことから,実践における会計手法は様々であ る19。 4 ま と め 本稿では,「基金」を会計単位とする米国の政府会計において, 「資本的資産」の管理が,会計記 録として,どのように行われてきたのかを明らかにした。 古くは,複数設定される基金のいずれかにおいて,それを管理しようとしていたが,やがて, 「資 本的資産」 (および関連する負債)を 1 つのまとまりとして管理する方法が考え出されるに至った。 これは,政府会計において,特定目的のために調達された資金が,その目的にのみ支出されること を管理統制するために「基金」概念が利用されることと深く関係する。 「基金」概念が当初の目的 を達成するためには,長期にわたって資金を拘束し, (資産取得後には)支出統制の適用を受けな い「資本的資産」が, 「基金」の構成要素として含まれてしまうことには問題がある。それゆえ, 「資 本的資産」に代表される財産を,支出統制とは別に,管理することが必要となってくる。そこで考 案されたのが,基金とは別の会計単位としての「財産勘定」である。 ただ,本稿で分析・検討したように, 「財産勘定」においても,資本的財産に関する諸勘定をど のように記録・表示するかについては,論者によって意見が分かれていた。しかし,諸勘定に記録 されるのであるから,原初認識時に必要となる実地調査の実施や,総勘定元帳における財産に関す る諸勘定を統制勘定として,詳細な情報が補助元帳に記録されるという会計手続に関しては,いず れの方法でもほとんど変わらない。そして何よりも,資産(および負債)勘定の相手勘定を何らか の「剰余」勘定として設定することが,共通してみられた特徴であった。このことは,その計算構 造が,複式簿記によって記帳されるデータを処理することと密接な関係があると考えられる。つま り,各基金もしくは財産勘定を 1 つの会計実体とするためには, 「正味財産」勘定にあたるものの 1934 年に公表された実際の都市会計原則は入手することができなかったため,その解説とされる Morey の論 17 述による(Morey, 1934, 319 320 頁)。 - ただし,現行の会計システムでは,それらの「資本的資産」に対して減価償却を行うことが要求されている 18 (GASB, 2004, 4 頁)。 なお,現行の会計システムについては,陳(2006, 206 210 頁)が詳しい。 19 - ― 46 ― 吉田 : 公会計における財産管理 導入が不可欠であり, それをすべての勘定記録を有機的に結び付けるように導入することで, ストッ ク情報をフロー情報に結び付けて認識・計上することが可能になるからである20。 もちろん, 「基金」から「資本的資産」を取り除き,新たな会計単位を創設することによって, 問題も生じる。それは,区分された会計実体ごとの記録を,政府全体として,報告を行おうとする 際に生じる問題が,より複雑化することが予想されるからである。つまり,「財産勘定」を政府全 体の観点から作成される「結合計算書」にどのように組み込めばよいのかということである。この 問題は解決する必要があるが,政府の財務取引を複式簿記により各勘定に記録する限り,その解決 はそれほど困難にはならないだろう。 最後に,本稿における分析・検討から,わが国の公会計改革への示唆をまとめると,次の 3 点と なろう。 ① 「収支管理」と「財産管理」のように,管理しようとする対象が異なれば,その管理のため に必要な体系(方法・手続)は異なりうる。つまり,収支管理の方法として政府会計に取り入 れられた(であろう) 「基金」概念を利用した「資本的資産」の管理には限界があり, 「基金」 とは別の会計実体を設定することで,それぞれの管理を十分に行うことができる。 ② 「収支管理」と「財産管理」を結び付ける方法として,いわゆる「複式簿記」を利用するこ とができる。ただし,原初認識時には, 「財産目録」と「固定資産台帳」を整備することが必 要となる。また,複式に記入することから,何らかの「剰余(あるいは差額) 」を生じさせる 余地がある。この「剰余」の金額にどのような意味を持たせるか(その金額をどのように計算 するか)を分析することを通じて,その管理機能が十分に発揮されているのかを明らかにでき る可能性がある。 ③ 「財産管理」に関する問題だが,何らかの会計的手法で管理される「資本的資産」について, 減価償却を行うのかどうか,さらに行うとすればなぜ行うのか(あるいは行わないとすればな ぜ行わないのか)を検討しなければ, その管理を行うことにはならない可能性がある。つまり, 収益獲得とは結び付かない政府の「資本的資産」に関する減価償却が,財産管理にとって,ど んな意味を持つものなのかを明らかにしなければならない。 [参考文献] Cleveland, F.A. 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Principles of Municipal Accounting. The Accounting Review, Vol. 9, No. 4, 1934 年。 Oakey, Francis. Principles of Governmental Accounting and Reporting. New York, 1921 年。 Paton, W.A. Accountant’s Handbook. 3rd ed, 1943 年。 Potts, J.H. An analysis of Evolution of Municipal Accounting to 1935 with Primary Emphasis on Developments in the United States. Michigan, 1976 年。 Potts, J.H. The Evolution of Municipal Accounting in the United States : 1900 1935. 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