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「国論分裂」に如何に対処するか - 経済産業省・資源エネルギー庁

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「国論分裂」に如何に対処するか - 経済産業省・資源エネルギー庁
2012 年 3 月 26 日号(No. 466-s)
Market Economics
Weekly Economic Report
エネルギー政策を巡る「国論分裂」に如何に対処するか
原発と再生可能エネルギーに対するエコノミストの視点
河野 龍太郎
経済産業省・資源エネルギー庁の総合資源エネルギー調査会・基本問
題委員会では、新しいエネルギー計画の電源構成などについて協議を
続けている。報道にある通り、3 月 14 日、19 日の審議会でも、原子
力発電や再生可能エネルギーの 2030 年における比率を巡って、各委
員の意見は大きく分かれた。原発推進派は再生可能エネルギーのポテ
ンシャルを低く見積もり、一方、脱原発派は再生可能エネルギーのポ
テンシャルを高く評価し、会議は原発推進派と脱原発派(=再生可能
エネルギー派)の間で平行線を辿っている。ただ、ほとんど報道され
ていないのだが、筆者を含め少数派ではあるがどちらにも与しないも
う一つの考え方があることを明確にしておきたい。今回の Weekly
Economic Report では、経済学的視点からエネルギー政策について論
じる。エコノミストの視点による政策の評価軸こそが、分裂した国論
のかけ橋となるはずなのだが・・・。
電源構成の 2010 年度実績は、原子力発電 26.4%、再生可能エネルギ
ー10.2%、火力 56.9%、コジェネ・自家発 6.5%である。2010 年 6 月
に策定された現行のエネルギー計画における 2030 年の電源構成は、
原子力発電 45.2%、再生可能エネルギー18.0%、火力 22.7%、コジェ
ネ・自家発 14.1%である1。今回、各委員が提出した 2030 年の電源構
図 1:2030 年における各委員の電源構成案(%)
河野 龍太郎
チーフエコノミスト
原子力発電
50
40
2010年度実績
30
加藤 あずさ
エコノミスト
現行計画
20
10
白石 洋
エコノミスト
渡邊 誠
エコノミスト
0
0
10
20
30
40
50
60
70
80
再生可能エネルギー
(出所)資源エネルギー庁資料より、BNP パリバ証券作成
(注)電源構成を、例えば 0~10%というようにレンジで示している場合については平均値
1
議論が「原子力発電 VS 再生可能エネルギー」となっているため、電源構成ば
かりが注目を浴びているが、最終エネルギー消費量に占める電力消費量の割合は
4 分の 1 程度に過ぎない。
Please refer to important information at the end of the report.
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成案を見ると2、原子力発電のウエイトをゼロとし再生可能エネルギ
ーのウエイトを高く見積もるグループ、原子力発電のウエイトを高く
見積もり(20%程度)再生可能エネルギーのウエイトを低くするグル
ープに分かれているが、筆者は両グループのちょうど中間に位置する。
筆者の提出した電源構成案は、原子力発電 0~10%、再生可能エネル
ギー25~30%、火力 45~55%、節電(含むコジェネ)が 15~25%で
ある。原子力発電のウエイトが低いが、再生可能エネルギーのウエイ
トも高くはない。
望ましい電源構成は市場が決め
るもの
なお、2030 年の電源構成について、全ての委員が原案を提出してい
るわけではない。望ましい電源構成は本来、市場が決めるものであっ
て、政府が目標値を出すべきではないという趣旨なのだろう。筆者も
その考えに全く同感であり、提出した電源構成案はあくまで目安とい
う位置付けである(数値がないと議論にならないので、やむなく提出
した)。仮にまとまった政府案がコミットメントと受け止められれば、
そのこと自体が民間の経済活動を歪めかねないし、コミットメントと
なれば政府も達成のために財政資金を投入することになる。財政資金
に群がる経済主体が増え、資源配分の効率性を歪めるレントシーキン
グ発生の原因となるだろう。
あくまで目安
今後の各電源による電力供給は、国際情勢の変化や技術革新等によっ
て大きく左右される可能性があり、需要側についても人々の嗜好の変
化など(例えば、環境意識のさらなる高まり等)不確実性も大きく、
もし政府が数字を出すとしても、柔軟に見直していく性格のもの(目
安)である。また、エネルギーミックスは可能な限り市場メカニズム
で決定されていくことが望ましく、後述する通り、それが国民の経済
厚生の向上に資する(そのためにも、電力市場改革によって、地域独
占体制など時代遅れとなった不適切な規制・制度を変えていく必要が
ある)。
事業に関わる全てのコストが負
さて、原子力発電のウエイトがゼロのグループと 20%程度のグルー
プに大きく分かれる中で、筆者が 0~10%とした理由は、次の通りで
ある3。他のビジネスと同様、電力事業についても、事業の受益者が
コストを負担する経済の大原則が当てはまる。しかし、原子力発電に
ついては、これまで事業者はそのメリットを享受する一方、事業に関
わる全てのコストを負担せず、様々な手段を使って、納税者にツケを
まわしてきた。公正性や財政民主主義の観点でも重大な問題だが、資
源の無駄遣いにも繋がる。これまで「政府の暗黙の保証」によって負
担されれば、原発撤退も
2
今年夏を目途に予定されているエネルギー基本計画の策定に向けて、事務局よ
り各委員に意見の提示が求められた。
3
エネルギー政策の基本的な考え方については、2011 年 10 月 3 日付け Weekly
Economic Report『エネルギー基本計画をどうするか~経済の究極の目的に立ち返
る』を参照下さい。経済学的観点からの原子力事業の問題については、2012 年 1
月 30 日付け Weekly Economic Report『原子力発電の経済学』を参照下さい。
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26 March 2012
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担が免除されていた資本コストを含め、事業に関わる全ての費用を事
業者自らが負担することを前提にするなら(そのような制度設計に改
めるなら)、今後、原子力発電から事業者が撤退する可能性がある4。
その場合、原子力発電の割合はゼロとなる。費用・便益の原則が貫か
れるのであれば、その可能性は小さくはない。
コストを負担しても採算が取れ
るのなら、原発事業存続
ただ、全ての費用を負担した場合でも、高い収益を上げることができ
る優れた原子力発電技術を持った事業者の出現を否定することはでき
ない。予想できないのがイノベーションである。この場合、一部の原
子力発電事業は存続することになる。ただ、安全性に関わる技術革新
が目に見えて進まない限り、政治的に新規建設は難しいと考えられる。
この場合、老朽化に伴い 2030 年に原子力発電の供給能力は現状の 4
割弱となるため、予測としては、最大でも 10%程度のウエイトとい
うことになる5。
図 2:原子力発電によるエネルギー供給量の見通し(万 kW)
5000
耐用年数40年(除:新規計画)
耐用年数30年(除:新規計画)
耐用年数40年(新規計画を含む)
4500
4000
3500
3000
2500
2000
1500
1000
500
0
2010
2015
2020
2025
2030
2035
2040
2045
2050
(出所)電力事業会社各社 H.P より、BNP パリバ証券作成
(注)東日本大震災の影響により福島第一(1-4 号機)浜岡(4-6 号機)は廃炉、
福島第一(7-8 号機)の建設計画は中止
再生可能エネルギーにも過大な
期待をかけるべきではない
財政資金を使った推進には節度
が必要
原子力発電に否定的な意見のグループは、再生可能エネルギーを重視
するが、筆者は再生可能エネルギーにも過大な期待をかけるべきでは
ないと考えている。天邪鬼なのではなく、あくまで経済学的分析から
の判断である。もちろん、地球温暖化への対応や電源の多様化、地域
再生の観点から、再生可能エネルギーが一定の役割を担うことを強く
願っている(心情的には脱原発派に近い)。
しかしながら、再生可能エネルギーの技術は未知数であり、そのウエ
イトを高めるために多大な政策的サポートを行うことは、経済資源の
非効率・不適切な利用につながる恐れがある。国民の納める税金や支
4
ここで論じているコストは、既に起こった事故の負担の議論ではなく、今後の
事業運営で発生するコストである。
5
あるいは、「国防」といった別のロジックから政府が財政資金を投入すること
で、一定程度の原子力発電のウエイトを維持する可能性もあり得る。それはそれ
で結構だが、その際には、目的を明確にした上で、政策のための総コストも国民
に明示してもらいたいものである。それが財政民主主義の原則である。
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払う電力料金を原資に、湯水の如く資金が投入されれば、資源配分の
歪みと共に、新たな既得権益が発生する。「地域経済発展のため」の
はずが、公共事業中毒や原発事業中毒と同様の新たなモルヒネとなり
かねない。公共工事も原発事業も、そのスタート段階で地元への導入
を決意した関係者は皆、善意に基づき、良かれと思っていたはずであ
るが、必ずしも意図した通りにはなっていない。財政資金を使った推
進には節度が必要である。また、筆者は、政府の積極的な支援で投機
マネーが流れ込み、再生可能エネルギー・バブルが生じることを懸念
している(現実に、スペインでは、太陽光発電バブルが 2009 年に弾
け、大量のバブルの残骸が残された)。
火力と省エネに期待
原子力発電にも、再生可能エネルギーにも期待できないとすれば、何
処に活路を見出すのか。一つは、火力発電であり、もう一つは省エネ
である。まず、火力のウエイトについて 45~55%と、2010 年度実績
と同程度のウエイトを筆者は見込んでいる。しかし、それでは CO2
排出量の抑制にどう対応するのか、疑問を持たれるかもしれない。そ
もそも、3・11 前に、日本政府が原子力発電のウエイトを大幅に高め
る計画を打ち出していたのは、温暖化問題への対応のためだったはず
である。
温暖化問題は地球規模の「外部
筆者の回答は、温暖化問題は地球環境に対する「外部不経済の問題」
であり、地球レベルの解決策を提示することでしか解決できない、と
いうものである。例えば、2008 年の世界全体の CO2 排出量に占める
日本のウエイトは 4.0%に過ぎない。多い国を見ると、中国が 22.1%、
米国は 19.2%、ロシアは 5.5%、インドは 4.9%である。2020 年まで
に日本が排出量を 25%減らしても、世界全体での削減率は 1%程度に
留まる。もちろん、1%の削減は重要だが、地球規模での問題解決に
は他の手立てを考える必要がある。
不経済の問題」
世界最高水準の熱効率を持つ日
本の石炭火力技術を輸出
例えば、世界最高水準の熱効率を持つ日本の石炭火力を世界で普及さ
せれば、CO2 排出量を大きく抑制することができるし、そうすること
図 3:世界の二酸化炭素排出量-国別排出割合-(2008 年)
その他, 29.7%
フランス, 1.2%
インドネシア, 1.3%
中国, 22.1%
オーストラリア, 1.4%
イタリア, 1.4%
メキシコ, 1.5%
アメリカ, 19.2%
韓国, 1.7%
カナダ, 1.8%
イギリス, 1.8%
ドイツ , 2.6%
ロシア, 5.5%
日本, 4.0%
インド, 4.9%
(出所)EDMC/エネルギー・経済統計要覧 2011 年版資料より、BNP パリバ証券作成
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が優れた技術を持つ日本の責務でもある6。国内においては、後述す
る通り、炭素税を活用して CO2 を抑えると同時に、それを財源に新
興国への技術インフラの輸出・供与を促進するというのはどうだろう
か。技術インフラ輸出を積極的に政府が後押しする産業政策について、
資源配分を歪ませることになりはしないか、自由貿易派の筆者はやや
疑問を持っていたのだが、外部不経済の問題を解決するための介入と
いうのであれば、十分検討に値すると思われる。地球規模の外部不経
済の問題であるという視点、さらに比較優位原則を用いるという視点
が無ければ、地球温暖化問題は解決できない。
図 4:各国の石炭火力 平均熱効率(LHV)(%)
43
日本
41
39
ドイツ
37
33
英国・
アイルランド
米国
31
中国
35
29
インド
27
90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08
(出所)「Ecofys International Comparison of Fossil Power Efficiency and CO2 Intensity update
2011」より、BNP パリバ証券作成
国内では天然ガスシフト
一方、国内では、炭素税の活用によって、CO2 排出量が最も少ない天
然ガスへのシフトが促される7。天然ガス火力は、CO2 排出量の最も
少ないクリーンな火力である。また、天然ガスを併用したコジェネに
よる分散型エネルギーシステムの発展で、思った以上に再生可能エネ
ルギーが広がる可能性もある。この他、炭素税の活用は、石炭火力の
熱効率技術をさらに向上させる。現状の技術の下でも、日本の石炭火
力の熱効率は相当に高いため、最新の石炭火力のウエイトが増えるこ
と自体も CO2 排出量の抑制につながる。
価格メカニズム導入で進むピー
省エネについては、現状(2007 年)対比で 15~25%を見込んでいる。
これまでピークカットやピークシフトの発想があまりに軽視されてき
クシフト
6
日本の石炭火力のウエイトは 25%程度だが、中国では 80%程度、インドでは
70%程度である。日本の最先端の石炭技術を新興国に供給すれば、これらの国々
の公害問題、CO2 排出問題が解決できるだけでなく、地球全体の CO2 排出量も大
きく減らすことができる。
7
2012 年度の税制改正により導入予定となっている環境税(地球温暖化対策のた
めの税)は、CO2 の排出を抑制する観点から、全化石燃料を課税ベースとする石
油石炭税に CO2 排出量に応じた税率を上乗せする。ただし、今のところ税率は僅
かである。CO2 削減を目的とする場合、日本の政策の現場では、原子力発電や再
生可能エネルギーに補助金を出すというものであるが、補助金は様々な副作用を
もたらす。電源間の相対価格を変えることを目的とするのであれば、炭素税を課
すことの方が、副作用は小さい。
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たが、価格メカニズムを導入することで、多くの人が考える以上に電
力需要を抑制することが可能である。経済学の数少ない合意事項の一
つは、「人はトレードオフとインセンティブに反応する」というもの
であるが、電力価格に対する長期の需要弾力性は、少なくとも1に達
すると筆者は考えている(1%の価格上昇で、1%の需要が抑制され
る)。昨年夏場は、価格メカニズムを導入することなく、数量調整だ
けで、電力不足を何とか乗り切ったが、価格メカニズムを導入してい
れば、さらにスムーズな調整が可能となっていたはずである。
新規参入で環境の時代の電力サ
ービスが供給される
改革のための 6 つの評価軸
今後、電力市場改革を進めることで、電力需要のピークカットを促す
ためのハード(スマートグリッド)やソフト(料金体系)の導入が進
み、省エネも需給構造調整の核の一つに位置付けることができる。省
エネは、単に我々に対する「制約」ということだけではなく、環境の
時代に生きる我々一人一人が欲しているライフ・スタイルの一つでも
ある。電力市場改革で参入が容易になれば、環境をより重視した、省
エネライフと整合的な電力サービスを供給する事業者が現れるはずで
ある。環境の時代に生きる我々が欲する電力サービスがこれまで供給
されてこなかったのは、規制によって新規参入が阻害されていたため
である。
経済学的な視点からエネルギー政策を論じてきたが、ここで改めてエ
ネルギーミックスを考える上での重要な評価軸をまとめる。①安全性
は必要最低限であるが、その他、②消費者を重視した競争メカニズム
(価格メカニズム)の活用、③市場の失敗への対応(外部不経済の取
り込み)、④公正性(正義)、⑤持続可能性、⑥分散化・複線化の 6
つの評価軸である。
z
安全性:言うまでもなく、安全性は最低限の条件である。
z
消費者重視の競争メカニズム:事業者の視点ではなく、消費者重
視の視点が重要であり、そのためには、競争メカニズムの活用
(=電力市場改革)が不可欠。あらゆる経済政策の究極の目的は
「国民の経済厚生の向上」であり、事業者の利益ではない。安定
供給については、可能な限り競争を取り込むことが、真に強い事
業者、強い電力システムを作る王道である。これまでピークカッ
トやピークシフトの発想が軽視されてきたが、価格メカニズムを
導入することで、多くの人が考える以上に需要を抑制することが
できる。
z
外部不経済を取り込む制度設計(その 1)と公正性(正義):受
益者がコストを負担するのが経済の原則である。特に原発では、
これまで事業者は事業に関わるコストを全て負担せず、納税者に
ツケをまわしてきた。外部不経済を取り込むことができなければ、
資源の無駄遣いの問題だけでなく、公正性(正義)の問題も生じ
る。
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高い成長率見通しを前提にする
のは不適切
z
外部不経済を取り込む制度設計(その 2)と持続可能性:温暖化
問題は地球環境に対する外部不経済の問題である。国内では炭素
税の活用による対応が不可欠だが、一国で対応するのではなく、
省エネ技術の海外への輸出・供与で対応すべき。また、使用済み
核燃料の処理など、将来世代に負担を強いるコストも取り込む必
要がある。現段階で発生するコストだけでなく、将来発生するコ
ストへの考慮なくして、持続可能なエネルギー政策は構築できな
い8 。
z
分散化・複線化:安定供給の基本は分散化と複線化である。自由
貿易を推進し、エネルギー源及びその調達先を分散することが何
よりのエネルギー安全保障となる9。
最後にもう一つ、第一回目の会議から筆者が繰り返し主張しているに
も関わらず、十分理解されていない問題――「経済成長率の前提」―
―について論じる。審議会がスタートした段階から論じていることだ
が、高い成長率見通しを前提に、過大なエネルギー見通しを立てるこ
とは不適切ということである。しかし、エネルギー政策の立案の前提
として事務局から提示されるのは、未だに内閣府が試算した①成長戦
略シナリオ(2010 年代 1.8%、2020 年代 1.2%)と②慎重シナリオ
(2010 年代 1.1%、2020 年代 0.8%)の二つである。
図 5:日本の実質 GDP(前年比、%)
16
前年比のトレンド( HPフィルターを用いて抽出)
前年比
12
8
4
1957~73年
9.4%
0
-4
1974~90年
4.2%
-8
1991~2011年
0.9%
-12
57
60
63
66
69
72
75
78
81
84
87
90
93
96
99
02
05
08
11
(出所)内閣府資料より、BNP パリバ証券作成
政府の慎重シナリオも高成長
慎重シナリオといっても、内閣府の 2010 年代の 1.1%成長はかなり高
い数値である。ちなみに、1990 年以降の平均成長率は 0.9%であり、
2000 年以降の平均成長率は 0.7%である。筆者の予想では、今後、一
人当たりトレンド成長率は年率 1~1.5%で推移するが、生産年齢人口
が年率 1%程度で減少を続けるため(少なくとも今後 15 年間の生産
8
将来世代を犠牲にした現在の制度は財政赤字問題と同じであり、持続可能では
ない。
9
地政学的要因などによって、一次エネルギーの輸入が途絶する場合、価格が上
昇すること自体が、需要を抑制することにつながる。ただし、流動性制約に直面
する低所得者層への配慮も必要であるため、一定程度の備蓄を政府が行うことが
考えられる。
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26 March 2012
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年齢人口については、ほぼ既定値と見なしてよい)、2030 年までの
トレンド成長率は 0~0.5%程度に留まる。生産年齢人口の減少が始ま
っているだけでなく、これまでのレポートで論じている通り、純資本
ストックも既に 2008 年度から減少が始まっている10。
成長戦略シナリオは現実離れし
た高成長
仮に、構造改革に成功して一人当たりトレンド成長率が 2%程度と、
近年見られない高い成長になるとしても、トレンド成長率は 1%程度
に留まる。内閣府の慎重シナリオは、電力需要が上振れする際の十分
な糊代を含んでいると考えられる。しかし、文字通りそれを慎重シナ
リオ(=下限)とし、成長戦略シナリオを上限に据えれば、あまりに
過大な需要推計となってしまう。生産年齢人口が年率 1%で減少する
ことを前提にすれば、内閣府の成長戦略シナリオに対応する 2010 年
代の一人当たり成長率は 2.9%と、90 年代初頭に低成長時代が始まっ
た後、一度も見られなかった高い数値である。好況期だけでなく、不
況期まで含んだ上で一人当たりの平均成長率が 2.9%というのは、本
当に夢のようなシナリオである。
図 6:日本の一人当たりのトレンド成長率(=自然利子率、%)
8
6
4
2
0
-2
-4
-6
前年比
-8
5年移動平均
※ 労働者一人当たりの成長率
-10
75
77
79
81
83
85
87
89
91
93
95
97
99
01
03
05
07
09
11
(出所)内閣府資料より、BNP パリバ証券作成
高い成長を前提とするのは、現
行制度を維持するための言訳か
財政健全化の際に高い成長率を前提にするのは、有権者に対し厳しい
増税や歳出削減を先送りするための常套手段であった11。高速道路な
どの社会インフラを作る際に、高い成長率を前提にするのも、不要な
インフラ投資を正当化する際の常套手段であった。エネルギー政策を
議論する審議会においても同様の問題に直面し、筆者は苦笑せざるを
得ない。現実離れした高成長を前提とするのは、現行制度を維持する
ための言訳と受け止められても仕方がないのだが。眼前の苦しい決断
を回避するために、現実離れした高成長を求める人がまだまだ多いと
いうことだろうか。
10
純資本ストックの減少については、2011 年 10 月 31 日付け Weekly Economic
Report『日本の IS バランスの行方~なぜ円高・低金利が続いているのか?』、
2011 年 9 月 12 日付け Weekly Economic Report『食い潰しの始まる純資本ストック
~経常収支の赤字化より深刻』を参照下さい。
11
2011 年 12 月 12 日付け Weekly Economic Report『低成長を前提とした政策運営
の必要性~消費税法案に盛り込む適切な弾力条項』を参照下さい。
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<参考文献>
¾
石井彰『エネルギー論争の盲点―天然ガスと分散化が日本を救
う』NHK 出版 2011 年
¾
大島堅一『再生可能エネルギーの政治経済学―エネルギー政策の
グリーン改革に向けて』東洋経済新報社 2010 年
¾
大島堅一『原発のコスト―エネルギー転換への視点』
岩波書店 2011 年
¾
齊藤誠『原発危機の経済学―社会科学者として考えたこと』
日本評論社 2011 年
¾
橘川武郎『原子力発電をどうするか -日本のエネルギー政策の再
生に向けて』名古屋大学出版会 2011 年
¾
竹森俊平 『国策民営の罠―原子力政策に秘められた戦い』
日本経済新聞出版社 2011 年
¾
八田達夫、田中誠『電力自由化の経済学』東洋経済新報社
2004 年
¾
八田達夫、田中誠『規制改革の経済分析―電力自由化のケース・
スタディ』日本経済新聞出版社 2007 年
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26 March 2012
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