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Title 東北タイと西アフリカのギニアサバンナ帯 Author(s) 若月, 利之

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Title 東北タイと西アフリカのギニアサバンナ帯 Author(s) 若月, 利之
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東北タイと西アフリカのギニアサバンナ帯
若月, 利之
重点領域研究総合的地域研究成果報告書シリーズ : 総合
的地域研究の手法確立 : 世界と地域の共存のパラダイム
を求めて (1996), 23: 51-67
1996-11-30
http://hdl.handle.net/2433/187618
Right
Type
Textversion
Journal Article
publisher
Kyoto University
東 北 タ イ と西 ア フ リカの
ギ ニ ア サ バ ンナ 帯
若 月利之
は じめ に
生 態 環 境 の基 本 的 要 素 と して 気 候 ・水 条 件 と土 壌 条 件 を 取 り上 げ て 見 る と、 西 ア フ リカ の ギ
ニ ア サ バ ン ナ帯 、 と り わ け ナ イ ジ ェ リア 中部 の ニ ジ ェ ール 州 の ヌ ペ ラ ン ドは 驚 くほ ど東 北 タ イ
に似 て い る。 地 質 、 地 形 、 植 生 景 観 に類 似 性 が 高 い 。 例 え ば 、 両 者 と も 中 世 代 の 砂 岩 を 母 材 と
す る た め 土 壌 は 砂 質 で 極 め て 貧 栄 養 で あ る 。 標 高100-200mの
メ サ を 伴 う緩 や か に起 伏 す る
準 平 原 地 形 が 卓 越 し、 準 平 原 の 低 地 部 に は 無 数 の 小 低 地 が 分 布 して い る。 一 方 、 メ コ ン川 、 ニ
ジ ェー ル 川 と い う 巨大 河 川 に そ っ て 大 規 模 な 氾 濫 原 も分 布 す る。 年 雨 量 は800-1500㎜
両 者 と も雨 期 は5-10月
で、
で あ り、 降 雨 量 と 降 雨 パ タ ー ンの 変 動 は 大 き い 。 こ の よ う な 水 条 件
と土 壌 条 件 に 規 定 され る栽 培 作 物 も、 低 地 に お け る稲 ・サ トウ キ ビ、 ア ップ ラ ン ドに お け る メ
イ ズ/ソ
ル ガ ム/キ
ャ ッサ バ 、 マ ンゴ ー 等 、 共 通 性 が 高 い 。 しか し、 農 業 シ ス テ ム は 全 く異 な
り、 又 、 仏 教 とイ ス ラ ム 教 の 違 い も含 め て 社 会 文 化 的 な 違 い は大 き い 。
本 稿 の 目的 は サ バ ンナ 帯 の 熱 帯 ア ジア とア フ リカ の 生 態 環 境 や 農 業 シ ス テ ム の 比 較 を 通 して 、
両 地 域 の 生 態 環 境 の 類 似 性 と農 業 シ ス テ ム の 異 質 性 を 明 か に す る と と も に 、21世
紀 にお け る
両 地 域 の農 業 技 術 や 農 業 シ ス テ ム の 相 互 交 流 の 必 要 性 や そ の 意 義 と可 能 性 と考 察 す る こ と で あ
る。 地 域 間 比 較 研 究 か ら地 域 間 交 流 、 と りわ け ア ジ ア ー ア フ リカ地 域 の 交 流 を 目指 した い 。
現 在 の 熱 帯 ア フ リカ の 社 会 経 済 危 機 の 背 景 に は 農 業 と環 境 危 機 が あ る 。1960年
代 か ら今 日
まで 「緑 の 革 命 」 技 徳 を そ の 伝 統 農 業 の 中 に 取 り込 み 、 持 続 的 な 農 業 生 産 性 増 大 を 達 成 した熱
帯 ア ジア 諸 国 は 、 安 定 した農 業 生 産 と環 境 を バ ック に 急 速 な 経 済 発 展 の 時 代 、 「ア ジ ア の 時 代 」
を 迎 え て い る 。 ア フ リカ に 持 続 的 な 農 業 シ ス テ ム が 展 開 して い な い 最 大 の理 由 は 、 コ ロ ン ブ ス
以 来 数 百 年 以 上 続 い た 欧 米 の 奴 隷 貿 易 とそ れ に よ る新 大 陸 開 発 の 犠 牲 に な った こ と と、 そ の 後
1960年 、 ア フ リカ の 独 立 ま で100年
以 上続 い た欧米 に よる植 民地 政策 にあ ると筆者 は 考え て
い る。 熱 帯 ア ジ ア の 経 済 発 展 は 森 林 伐 採 等 、 環 境 悪 化 と 引 き 換 え と い う側 面 が あ る。 一 方 、 熱
帯 ア フ リ カの 森 林 等 の 環 境 資 源 は 、 植 民 地 時 代 に 欧 米 の 経 済 発 展 と 引 き 換 え に 利 用 され た。 そ
51
れ ゆえ 、 ア ジ ア の 環 境 破 壊 は 自立 的 回 復 の 契 機 が 存 在 す るが 、 熱 帯 ア フ リカ で は 自立 的 回復 は
困 難 で あ ろ う。 ア フ リカ に お け る この よ う な500年
な い で あ ろ う。 しか し、 これ ま で の500年
に及 ぶ 負 の 遺 産 を 精 算 す る こ と は 簡 単 で は
が 欧米 的価値観 の 世界化 と同時 に地球 環境 悪化 の過
程 で あ る こ とを 理 解 す れ ば 、 日本 と東 南 ア ジ ア 、 欧 米 とア フ リカ 、米 国 は 中 南 米 と い う住 み 分
け の 構 図 に安 住 す る こ と は 、 許 さ れ な い こ とで は な か ろ うか 。
本 稿 の 直 接 的 な 狙 い は 生 態 環 境 の 似 て い る東 北 タ イ の 、 と りわ け持 続 的 な 水 田農 業 シ ス テ ム
を 西 ア フ リカ の ギ ニ ア サ バ ンナ 帯 へ 技 術 移 転 で き な い で あ ろ うか 、 と い う こ とで あ る。 東 北 タ
イ は 急 速 な 経 済 発 展 の 中 に あ る タ イ で は 非 常 に貧 しい 地 域 と さ れ て い る が 、 人 間 の 長 い 間 の 労
働 の 積 み 重 ね に よ って 、水 田 、 家 畜 、 有 用 多 目 的 樹 種 が 合 理 的 に 農 業 シ ス テ ム の 中 に 総 合 化 さ
れ て お り、 厳 しい 生 態 環 境 の 中 で も持 続 的 な農 業 シ ス テ ム を 完 成 させ て い る豊 か な地 域 で あ る
と、 筆 者 は 考 え て い る 。 一 方 、 ナ イ ジ ェ リア の ヌ ペ ラ ン ドを 始 め とす る西 ア フ リ カ の ギ ニ ア サ
バ ン ナ帯 の 農 村 は 類 似 の 生 態 環 境 に あ るが 、 持 続 的 な 農 業 シ ス テ ム と して 森 林 一 水 田 一 畜 産 一
養 魚 業 等 が 総 合 化 され る ま で 至 って い な い 。 特 に 、 持 続 的 農 業 の 中 心 とな る 水 田 農 業 の 有 無 の
差 が 大 き い よ う に 思 わ れ る 。 今 、 深 刻 な 危 機 に あ る 熱 帯 ア フ リカ 、 と りわ け サ バ ンナ 帯 の 農 業
と環 境 危 機 を 救 う上 で 、 東 北 タ イ あ る い は そ の 他 の 熱 帯 ア ジ ア の 「平 原 区 」(高
の 農 業 シ ス テ ム 、 と りわ け 水 田 農 業 は 救 世 主 と な る可 能 性 が あ る(若
月1994)。
谷1985)
日本 は 東
南 ア ジ ア 、 欧 米 は ア フ リカ とい う 、 南 北 間 の 交 流 だ け で は 限 界 が あ る 。 今 後 は 南 南 交 流 、 例 え
ば タ イ ー サ ブサ ハ ラ 諸 国 の 交 流 が 重 要 で あ る 。 この よ うな 交 流 に よ り、 逆 に近 代 化 の 中 で あ え
ぐイ サ ー ン(東 北 タ イ)の
農 業 を 見 つ め る新 しい視 点 が 生 ま れ る の で は な か ろ うか 。 欧 米 の 枠
組 み を 抜 け 出せ ず 危 機 の 中 に あ る熱 帯 ア フ リカ の 再 生 に は熱 帯 ア ジ ア と の交 流 が 大 き な 役 割 を
果 た す よ う に思 え る 。 欧 米 の 近 代 文 明 や 近 代 科 学 を 乗 り越 え21世
紀 の 新 しい 地 球 社 会 を 築 く
た め に も、 ア ジ ア ー ア フ リカ の 交 流 が 望 ま れ る。 地 域 間 比 較 研 究 に 止 ま る の で は な く、 地 域 間
交 流 を促 進 す る た め の 方 策 を 考 え た い 。
生 態環境 条件 の比 較
1.気
候 ・水 ・土 壌 条 件
西 ア フ リカ の 気 候 は緯 度 と と も に規 則 的 に 変 わ り、 低 緯 度 の ギ ニ ア 湾 沿 海 で は 年 間 降 雨 量 は
3000㎜
を 超 え る 。 約1300km北
(北 村1997)。
上 しサ ハ ラ砂 漠 の ア ガ デ ス で は 降 雨 量 は300㎜
東 北 タ イ は 図3-3-1と
図3-3-2に
漠 の 中間 に 位 置 す る 。
52
以下 とな る
示 した よ う に ギ ニ ア 湾 とサ ハ ラ砂
SAHARA
DESERT
ATLANTIC
0
0
Low:
3.4
Moderate: 3.4-5.0
(Mean30.25SD)
High:
(>Mean-r0.25SD)
>5.0
図3-3-1
OCEAN
(Mean-0.25SD)
西 ア フ リカ の4つ
の 気 候 帯 と小 低 地 土 壌 の サ ンプ リ ング 地 点 。
土 壌 の 有 効 陽 イ オ ン交 換 容 量{単
表3-3-1に
位 はCmo1(+)ノkg}の
東 北 タ イ と ギ ニ ア サ バ ンナ 帯 の 代 表 的 な 地 域 に あ る都 市 に お け る 、 月 及 び 年
平 均 降 雨 量 を 示 し た 。 ギ ニ ア サ バ ン ナ帯 の 都 市 、 中 部 ナ イ ジ ェ リア のBida市
T㎜ale市
分布
の位 置 は 図3-3-2に
示 した 。 降 雨 量 は東 北 タ イ は1㎜
53
一1鋤
と中部 ガ ー ナの
㎜
の 範 囲1こあ り
図3-3-2降
雨 量 と 気 温 の 緯 度 に 伴 う変 化
54
表3-3-1東
北 タ イ と ギ ニ アサ バ ンナ 帯 の 月 平 均 降 雨 量 と 年 平 均 降 雨 量(mm)
東
北 Udon Thani
タ
イ Sakon Nakhon
ギ サ
ニ
Bida
Jan.
Feb.
Mar. Apr.
May
Jun.
Jul.
Aug.
Sep.
Oct.
9
20
41
76
176
237
204
269
266
50
2
0
1349
10
23
47
55
169
189
147
164
290
87
4
0
1186
1
1
31
59
137
208
207
206
203
70
0
0
1121
2
9
51
88
121
132
149
189
217
98
13
5
1073
Mov. Dec.
Year
ノく
ア
ン Tamale
ナ
ギ ニ ア サ バ ンナ 帯 よ りや や 恵 ま れ て い るが 、 表 に示 した よ う に 大 部 分 の地 域 で は 降 雨 量 と そ の
降 雨 パ タ ー ンは 驚 くほ ど似 て い る。 雨 期 の 開 始 は4月
一6月 で あ り、10月
に は 雨 期 は終 わ る 。
11月 一3月 に は ほ と ん ど 降 雨 は な い 。 雨 期 の 開 始 月 、 月 毎 の 降 雨 量 と も年 々 の 変 動 は 非 常 に
大 き い(福 井1988,Juo&1刀w1986)。
西 ア フ リカ の ギ ニ ヤ サ バ ンナ 帯 か ら赤 道 森 林 帯 へ の 遷
移 地 帯 を 含 め る と 、 東 北 タ イ の こ う雨 量 の 範 囲 に ほ ぼ 等 し くな る 。 ま た 降 雨 量 が1500mmを
超 え る地 域 で は 雨 季 の 中 ほ どの8月
こ ろ に 雨 量 が 少 な くな る ドラ イ ス ペ ル が 現 わ れ る 点 も共 通
で あ る 。 又 、 雨 量 の 降 り 方 も 集 中 的 な 豪 雨 タ イ プ が ほ と ん ど で 、1日
10-100㎜
む しろ数 時 間 で 数
を 超 え る もの が 多 い と い う降 り方 で 、 逆 に 雨 季 の 中 で 連 続 無 降 雨 日数 は10数
日以
上 の 場 合 も多 い 点 で 、 東 北 タ イ に 共 通 し、 か つ よ り厳 しい と言 え る 。
この よ うな 降 雨 パ タ ー ン に対 す る 河 川 の 流 出 パ タ ー ン も東 北 タ イ と類 似 す る 傾 向 が あ る。 流
出率 は ニ ジ ェ ール 川 で16%,セ
-aの
ネ ガ ル 川 で10%程
下 に ナ イ ジ ェ リア 中 部Bida市
約1000ha)の
表3-3-1に
度 に 過 ぎな い(北 村1997)。
付 近(図3-3-2参
年 間流 出パ タ ー ン を 示 した 。 総 流 出 率 は12%で
示 した4都
月 の 気 温 が 最 低 で3月
市 の 平 均 気 温 は 摂 氏26-27度
照)の
源 流 小 河 川(全
図3-3-3
集水 域 面積
あ った。
、 月 平 均 気 温 は 摂 氏21-32度
の 気 温 が 最 高 で あ る点 も 似 て い る 。 ち な み に 、 東 北 タ イ は 北 緯14-18
度 、 ギ ニ ヤ サ バ ン ナ 帯 は 北 緯8-13度
の 範 囲 に あ り、 ほ ぼ 同 緯 度 で あ る。
55
、1
月 平均 流 出 量
図3-3-3-aナ
月平 均 流 出量
イ ジ ェ リア 中 部 、Bida市
付 近 の内陸渓 谷 にお け る
作 付 けパ タ ー ン、 降 雨 、 蒸 発 散 及 び 流 出 パ タ ー ン と の 関 係
図3-3-3-bア
ップ ラ ン ドも含 む 内 陸 小 低 地 集 水 域 の
作 付 け カ レ ンダ ー(ナ
56
イ ジ ェ リア 中部 、Bida市
付 近)
表3-3-2熱
小低地
内陸
匙
ら 原
帯 ア ジ ア 、 東 北 タ イ 、 西 ア フ リカ ギ ニ ア サ バ ンナ 帯 低 地 土 壌 の 比 較(表
熱 帯 ア ジ ア 水 田(n竃410).
東北 タイ 軸
6.0 1.41 0.13 10.8 17.6 10.4 5.5 0.40
西 ア フ リ カ(n置185)
5.3 1.28 0.11 115 3.9 1.59 0.88 0.25 1.00 4.20 60 23 17 25
ギ ニ ア サ バ ン ナ(n冒98)
5.3 0.73 0.07 10.4 2.9 1.33 0.51 0.20 0.51 2.66 61 24 15 18
5.6 0.54 0.05 10.8 5.7 2.55 0.67 0.15
17.8
532
土)
34 28 38 60 21 19 1
47
西 ア ブ ・カ ・・一62・
5.4 1.10 0.098 11.2 3.2 5.61 2.69 0.49 0.75 103 48 23 29 36
ギ ニ ァ サ パ ン ナ(n=19)
5.5 1.63 0.013 123 4.1 3.92 1.93 0.47 0.73 7.80 47 28 25 31
日本 の 水 田(n=155)
5.4 3.33 0.29 11.5 573
9.3 2.8 0.40
12.9
49 30 21 61
• Kawaguchi and Kyuma ( 1977)
•• Miura et al. ( 1992 )
表3-3-2は
熱 帯 ア ジ ァ 、 東 北 タ イ 、 西 ア フ リカ 全体 、 ギ こ ア サ バ ン ナ 帯 の 低 地 土 壌 表 土
の 肥 沃 度 を 比 較 した も の で あ る。Kawaguchl&K:ytma(1977)に
よれば東 北 タ イの低 地土 壌 は
大 変 砂 質 で 、 交 換 性 塩 基 も低 く、 粘 土 鉱 物 は 強 風 化 を 受 け た カ オ リン質 で あ る
。 土壌 の肥沃 度
の 三 つ の 因 子 と して 、 有 機 物 や 窒 素 、 有 効 陽 イ オ ン交 換 容 量 、 リ ン酸 肥 沃 度 が あ る が 、 これ ら
の 肥 沃 度 因 子 い ず れ もが 、 熱 帯 ア ジ ア の 標 準 か ら見 て
、東北 タイの水 田土壌 は最 低の 部類 に入
る こ とが 表 の 結 果 か ら も分 か る 。 西 ア フ リカ の 低 地 土 壌 表 土 の う ち
、 内陸小低 地 は全西 ア フ リ
カを 見 て も、 ギ ニ ア サ バ ンナ 帯 だ け を 見 て も、 東 北 タ イ の そ れ と ほ ぼ 同 じ レベ ル に あ る こ とが
分 か る 。 西 ア フ リカ の は ん らん 原 土 壌 は 交 換 性 塩 基 や 粘 土 含 む 量 、 有 効 陽 イ オ ン交 換 容 量 の 点
か ら見 る と 、 肥 沃 度 は 比 較 的 高 い こ とが 分 か る 。 東 北 タ イ も メ コ ン川 や そ れ に そ そ ぐチ ー 川 や
ム ー ン川 の は ん らん 原 の 土 壌 は 粘 土 質 で 、 比 較 的 肥 沃 度 は 高 い 。
東 北 タ イ と 西 ア フ リカ の 、 特 に ギ ニ ア サバ ンナ 帯 の 内 陸 小 低 地 の 、 土 壌 肥 沃 度 は 極 め て 低 い
こ と は 表3-3-2や
図3-3-2か
ら分 か る が 、 特 徴 的 な こ とは 東 北 タ イ は熱 帯 ア ジ ア で は
特 別 肥 沃 度 が 低 い が ・ 西 ア フ1)カ で は この よ う な 土 壌 が 最 も搬
的 で あ る こ とで あ る
.熱 帯 ア
フ リ カ に お け る農 業 生 産 性 が 熱 地 ア ジ ア に 比 べ て 停 滞 して い る理 由 の 一 つ は この よ うな 土 壌 肥
沃 度 の 差 異 も関 係 して い る 。
57
2.ギ ニ アサ バ ン ナ 帯 の 農 業 シ ス テ ム ー ナ イ ジ ェ リ ア 中 部Bida市 付 近 の 農 村 の 事 例
以 下 主 と して 広 瀬(1997)及
び 石 田(1997)の
こ の 地 域 は 農 耕 民 で あ る ヌ ペ 族(Nupe)の
記 述 に よ って 農 業 シ ス テ ム を 概 観 す る 。
地 域 で あ り、 ア ップ ラ ン ドは 雨 期 に トウ ジ ン ビエ 、
モ ロ コ シ 、 トウ モ ロ コ シ、 サ サ ゲ 等 の 雑 穀 、 豆 と若 干 の 野 菜 を 栽 培 す る畑 作 生 産 に 依 存 す るが 、
小 河 川 の 氾 濫 原 で あ る 小 集 水 域 低 地 は 雨 期 の 降 雨 と表 面 流 去 水 お よ び 地 下 滲 出水 に よ る水 稲 作
と 畑 作(乾
期)生
産 に依 存 す る 生 業 が 見 られ る 。 ま た 、Niger川
に 接 して 位 置 す る大 氾 濫 原(Floodplain)で
、Kaduna川
お よ びBenue川
は 、 雨 期 の 稲 作 と漁 労 に依 存 した ヌ ペ 族 に よ る 生 業
形 態 が 見 られ る 。 さ ら に 、 ヌ ペ 族 の 定 着 農 耕 地 域 へ は 季 節 に よ って 放 牧 地 域 を 移 動 す る フル
ベ 族(F血be)が
家 畜 を 連 れ て 侵 入 し、 時 に は ヌ ペ 族 の 耕 作 地 が フ ル ベ 族 の 放 牧 牛 に よ って 被
害 を 受 け る こ と も あ り 、 ヌペ 族 の 農 耕 環 境 は フル ベ 族 の 放 牧 と密 接 に 関 係 して い る。
(1)中
流 氾濫原 の農 業 シス テム
5-6月
か ら始 ま る 降 雨 に よ っ て 土 壌 が 膨 軟 に な る の を 待 っ て 、 農 民 はZukunと
の 鍬 で 土 を 両 側 か ら反 転 し水 田 内 に 幅35-45cm,高
こ し らえ 法 あ る い は そ の 状 態(栽
播 き(Dzudzochi)す
培 環 境)を
さ12-18cmの
現 地 で はGbaragiと
畝(Gbaπa)を
作 る 。 この 地
称 して い る 。 畝 の 上 に 籾 を 直
る 。 畝 幅 が 広 い 場 合 は 畝 の 両 肩 の 土 塊 を 砕 き2列
雨 期 の 到 来 が 遅 れ る 時 は 水 辺 の 近 くで 育 苗 した 苗(Kpechi)を
称す る短 柄
に籾 を 播 いて 培 土す る。
移 植(Shishichi)す
る こと もあ
る 。 氾 濫 原 の 畝 立 て 直 播 は 種 子 の 発 芽 を 促 進 し、 急 な 増 水 に よ る 被 害 を 軽 減 す る効 果 も あ る 。
稲 作 で の 畝 立 て 栽 培 法 は 余 り見 か け な い 方 法 で あ る が 、 農 民 に よ る と両 側 か ら土 塊 を 盛 り上
げ て 畝 を 作 る方 法 は 土 地 を す べ て 耕 起 す る 必 要 は な く、労 力 、 時 間 と も に節 約 出 来 る利 点 が あ
る。
収 穫(Enyako)は11月
25-35cmの
こ ろ に は す べ て 完 了 す る 。 収 穫 は 鎌(工enzhe)で
地際よ り
高 さ で 刈 る根 刈 りで あ る 。 稲 の 刈 束 は 刈 株 の 上 に 置 い て 乾 燥 し、 そ の 後 稲 穂 を 内
側 に して サ ー クル 状 に 稲 束 を 積 み 上 げ る 。 そ の 高 さ は 大 凡160-180cmで
あ り、 この よ うな堆
積 法 は フ ル ベ 族 の 放 牧 牛 に よ る加 害 に 対 す る 防御 法 と いえ る。 サ ー ク ル の 内 側 で 男 子 が 稲 束 を
石 に 打 ち付 け な が ら脱 穀(En郵
㎜)す
る が 、 そ の 後 の風 選(E図
㎝)は
女 性 の 仕 事 と して 厳
密 に 分 業 化 して い る 。
氾 濫 原 で の 稲 作 は1年1作
4月 植 え 付 け 、11-12月
で あ る 。 農 民 に よ っ て は ア ップ ラ ン ドに ヤ ム を 栽 培 す る 。 ヤ ム は
に 収 穫 す る 。 村 内 に も 僅 か な 土 地 の 高 低 差 を 利 用 して エ グ シ ー メ ロ
ン 、 ヤ ム、 モ ロ コ シ を 栽 培 して い る 。 多 くの農 家 は 米 の 収 穫 時 期 に 米 の 約 半 分 を 販 売 して モ ロ
58
コ シ を 購 入 して 主 食 と して い る。 農 民 に よ る とモ ロ コ シ に対 す る 嗜 好 性 は 米 に も相 当す る 。 年
間 の 主 食 穀 物 摂 取 量 は 、 モ ロ コ シ 〉米 〉ヤ ム 、 の 順 に 多 い 。 モ ロ コ シの 精 白 小 屋 が 村 は ず れ に
あ り、 多 くの農 民 が モ ロ コ シ を精 白 して い る 光 景 が 収 穫 時 期(11-12月)に
(2)内
陸 小 低 地 の 農 業 シ ス テ ム(石
見 られ た る。
田 、1997)
ヌ ペ の 低 地 農 業 シ ス テ ム は 、 様 々 な タ イ プ の 畦 あ る い は 、 マ ウ ン ドを 形 成 す る と い う 特 徴
を 持 っ て い る 。 ヌ ペ 農 民 は 、 雨 期 に 稲 作 を 行 い 、 乾 期 に は 野 菜 を 生 産 して い る 。 低 地 に お い て
は 、 こ れ ら の 作 物 を 栽 培 す る 際 に 、 畦 あ る い は 、 マ ウ ン ドの 形 の 違 い に よ り 、7つ
の形態 が観
察 さ れ た 。 す な わ ち 、Togogikuru,Togokokuru,Togoginaafena,Togokonaafen馬Ewoko,
Baragi,Gbaragiで
あ る(図3-3-4)。
て お り 、Ewoko以
kumの
図 中 の 黒 塗 り の 部 分 が 畦 あ る い は 、 マ ウ ン ドを 表 し
外 の 形 態 で は 、 白 い 部 分 で 稲 を 栽 培 して い る 。TogogikuruとTogoko
特 徴 は 、 四 角 く 囲 わ れ て お り 、 畦 に よ っ て よ り 小 さ く再 区 分 さ れ て い る と い う こ と で
あ る 。TogogikuruとTogokokuruの
違 い は 、 再 区分 さ れ て い る 四 角 の 一 辺 の お お き さ に よ る。
す な わ ち 、 小 さ い も の がTogogikuru、
naa色naとTogokonaafenaは
比 較 的 大 き い も の がTogokokumで
各 区 画 内 に 、 カ ギ 状 の 畦 が 形 成 さ れ る と い う特 徴 を 持 つ 。 各 カ ギ
と カ ギ の 間 の 広 さ の 違 い に よ り、Togogin漉naとTogokon譲naと
(1991)に
あ る 。Togogi
よ れ ばTogogikuru,Togokokuru,Togoginaafenaお
呼 び 分 け られ る。 工 楽
よ びTogokonaafenaと
同様 の
形 態 が 、 弥 生 時 代 の 群 馬 県 高 崎 市 の 御 布 呂 遺 跡 か ら発 掘 さ れ て い る 。 ま た 、 高 谷 ら(1981)
に よ れ ば 、TogoginaafenaとTogokonaa艶naに
関 し て は 、 イ ン ドネ シ ア 、 ス マ トラ 島 、 タ パ
ヌ リで 類 似 の 形 態 が 存 在 す る こ と が 報 告 さ れ て い る 。Ewokoは
、 直 径 が1-1.5mほ
どの丸 い
マ ウ ン ドで 、 通 常 は 、 そ の 上 で 、 キ ャ ッサ バ 、 サ ツ マ イ モ 、 コ コ ヤ ム 、 お よ び 野 菜 類 が 栽 培 さ
れ て い る 。Baragiは
50cmほ
、 畦 も マ ウ ン ド も な い 平 坦 な と こ ろ で 稲 作 が 行 わ れ る 。Gbaragiは
、
ど の 畦 を 垂 直 平行 に た て た 上 で 稲 が 栽 培 され る。
稲 の 生 育 状 況 、 雑 草 の 繁 茂 、 水 分 条 件 、 栽 培 作 物 種 の 変 化 に よ り、 各 形 態 が 畦 の 太 ・細 を 中
心 に 各 パ タ ー ン で 時 系 列 的 に 変 更 さ れ て い く 。Togogi(ko)kuruは
角 く 囲 う形 に 、Togogi(ko)naafenaは
れ 、naafenaの
Pの
田持 えの 前の時 期 に、 四
乾 期 作 前 に 、 鈎 状 に 、集 め られ た 表 土 で 太 い 畦 が 形 成 さ
場 合 は そ の 畦 上 で 作 物 が 栽 培 さ れ る 。 雨 期 に は 細 い 畦 を 残 して 削 ら れ た 土 壌 が
白抜 き の 部 分 に 散 布 さ れ 、 稲 作 が 行 わ れ る 。 そ の 後 除 草 時 に 、 鍬 で 雑 草 を 土 ご と す く い 取
り 畦 の 上 に ひ っ く り 返 し て 積 み 上 げ ら れ(W、
畦 は 太 く な る)、
状 の 畦 は 四 角 く 閉 じ ら れ 、Togogl(ko)naatsunaと
そ れ と 同 時 にnaafenaの
名 前 が 変 わ る 。Ewokoは
59
鈎
、 丸 い マ ウ ン ドで
図3-3-4ヌ
(D黒
部 分)、
ペ の 低 地 稲 作 の地 ご し らえ 法 の類 形
通 常 そ の 上 で キ ャ ッサ バ 、 コ コ ヤ ム 、 サ ツ マ イ モ が 栽 培 さ れ る が 、 降 水 量 の
多 い 年 に は 、 マ ウ ン ドを 崩 し、 平 ら に した と こ ろ で(P)、Baragiは
らな と こ ろ で 、 各 々稲 作 が 行 わ れ る。Gbaragiは
部 分)で
畦 も マ ウ ン ドも な い 平
畦 を 直 線 的 に 平 行 に た て た 形 で 、 そ の 上(黒
稲 が 栽 培 さ れ る が 、 除 草 時 に 稲 の み 残 し、 畦 ご と 削 り取 られ る(W)。
そ のた め 、
季 節 に よ り畦 の 太 さが 太 くな った り、 細 くな った りす る。 乾 期 作 が 行 わ れ な い 形 態 に お い て も、
マ ウ ン ドあ る い は 畦 が 形 成 さ れ る の は 、 土 壌 中の 水 分 の 保 持 の た め で あ ろ う。
60
低 地 に お い て 、 こ の よ う な 様 々 な1andpreparadonpattemが
存 在 す る 理 由 と して 、 除 草 効 果 、
土 壌 養 分 お よ び水 分 対 策 上 の 効 果 が 求 め られ た 。 家 畜 あ る い は 、 機 械 に よ る 耕 起 を 持 た ず 、 簡
単 な手 鍬 の み で 行 わ れ る農 業 シ ス テ ム に お い て は 、 ヌ ペ 農 民 が 行 って い る よ う な 小 区 画 水 田 や 、
土 壌 の 移 動 は 、 除 草 効 果 、 土 壌 養 分 の 保 持 、 水 分 状 況 の保 全 と い う点 で 、 西 ア フ リカ 、 ギ ニ ア
サ バ ンナ 地 帯 の 砂 質 、 貧 栄 養 、不 安 定 な 降 雨 と い う生 態 環 境 に 適 応 した 高 度 に 発 達 した もの と
考 え られ る 。
(3)ア
ッ プラ ン ドに お け る 伝 統 農 法 一畑 作(広
畑 地 で の 農 耕 様 式 は短 くて5-6年
くて10年
瀬1997)
、 長 くて10年
程 度 休 閑 地 とす る叢 林 休 閑(Bush翻ow)シ
以 上 連 続 して 耕 作 し、 そ の 後5-10年
、長
ス テ ム と言 え る 。 休 閑 地 を 耕 地 に 戻 す
場 合 、 どの 休 閑 地 を 選 ぶ か は 植 生 の 回 復 状 態 に よ って 決 め られ る 。Gontaは15年
以 上休 閑
地 に した 土 地 で 、 耕 作 に 適 す る ま で に 肥 沃 度 が 回 復 した 休 閑 地 と され て い るが 、 多 くのGonta
の 植 生 状 況 か ら見 て 、 十 分 に 肥 沃 度 が 回 復 し た と見 な し うる も の は 少 な い 。Gonta内
所 に 植 生 の 剥 が れ た 裸 地 が 見 られ る か らで あ る。Gontaに
部 には随
は フル ベ 族 の 放 牧 牛 が 侵 入 す る こ と
も あ り、 乾 期 に は フ ル ベ 族 に よ って 屡 々火 入 れ が 行 わ れ る(い ね 科 草 の 新 芽 の 発 生 を 促 進 す る)。
そ の た め 有 機 物 の 蓄 積 が 抑 制 され て 、 植 生 回 復 が 遅 延 す る。 ま た 、Gontaは
村 民 の薪 炭 材 の 採
取 地 で も あ る。
次 に 、 開 墾 す る休 閑 地 が 決 ま れ ば 、 乾 期 の 始 め に 耕 起 に 取 りか か る が 、 有 用 樹 、 す な わ ち 、
シ ェ ア バ タ ー(Sheabutter、Vitallahapamdoxum)、
Parkia五li-cordea)、
Adanosoniadigitata)等
イ ナ ゴ マ メ(WestA〔hcan1㏄ustbean、
ア ブ ラ ヤ シ(Oilpa】m、Elaeisguineensis)、
は 伐 採 しな い で 残 し 〔増 田1993、
や 下 草 を 刈 り、 火 入 れ を 行 う。 そ の 後 、 水 田 のGbalagi法
バ オ バ ブ(Baobab、
図3-3-4の
右 側参 照 〕、小灌 木
と同 じよ う にZukunで
ら反 転 しな が ら盛 り上 げて 、 畝 を 作 る。 畝 の 高 さ は20-28cm、
土壌 を両側 か
畝 幅 は95-125cmで
あ る。 こ
の 方 法 で は 耕 地 全 面 を 耕 起 す る必 要 は 無 く、 ま た 、 畝 に肥 沃 な 表 土 を 集 め る こ とが で き る と 同
時 に 全 面 耕 起 に 比 べ て 労 働 時 間 を2-3割
軽 減 で き る 。 さ らに 、 畝 立 て は 雨 期 の 降 雨 の 表 面 流
水 を 防 止 し、 畑 に 雨 水 を 停 滞 させ る と 同 時 に 浸 透 させ る役 割 を 果 た して い る。2年
目以 降 は 前
年 の 畝 間の 底 に 当 た る 部 分 に 作 物 め 茎 葉 お よ び雑 草 類 を 集 め て 、 そ の 上 に前 年 の 畝 を 反 転 して
盛 り上 げ て 畝 を 作 る 。
畑 作 に お け る 穀 類 は3種
あ るが 、 主 食 と して 重 要 な の は モ ロ コ シ と トウ ジ ン ビエ で あ り、 こ
れ ら は栽 培 品種 も多 い 。 豆 類 で は サ サ ゲ が 最 も重 要 で あ り、 次 に 、 ラ ッカ セ イ と フ タ ゴ マ メ で
61
あ る。 フ タ ゴ マ メ は 地 下 結 実 性 で 西 ア フ リカ 原 産 の 豆 で あ り 、農 民 に よ る と休 閑 地 を 開 墾 した
最 初 の年 に 植 え 付 け る 作 物 で あ る 。 い も類 と して は カ ン シ ョと ヤ ムが あ る。 キ ャ ッサ バ は 雨 期
の 畑 地 に植 え られ る こ と は 稀 で あ る。 ヤ ム はWhiteyam(Dioscoreamtundata)、Yellowyam(D.
cayenensis)とWateryam(D.alata)の3種
が 確 認 され た が 、 ヌ ペ 人 が 好 むWhiteyam(Echi)の
培 が 多 い 。 ヤ ム は 畑 地 に 作 られ た 高 さ約50cmの
マ ウ ン ド上 に 、 雨 期 の 始 ま る4月
栽
に植 え 付 け
る 。 サ トウ キ ビは 低 湿 地 や そ の縁 辺 地 に栽 培 され て い る 。 バ ナ ナ ・プ ラ ンテ ンは ガザ 村 で 必 ず
し も多 くは な い が 、屋 敷 畑 や 低 湿 地 の 一 角 に栽 培 され て い る 。 副 食 用 、 調 味 料 と して 重 要 な 野
菜 類 と し て エ グ シ ー メ ロ ン 、 オ ク ラ 、 トウ ガ ラ シ が あ る 。 エ グ シ ー メ ロ ン の 果 実 は 直 径
15-20cmの
小 玉 の 瓜 類 で 、 穀 類 と 混 作 さ れ る 。 収 穫 は7-8月
250-290個
で あ る 。 収 穫 後 、 畑 に1週
で100㎡
当 た りの 果 実 数 は
間 堆 積 し腐 ら した 後 に 種 子 を 集 め て 乾 燥 す る 。 種 子 の
子 葉 部 分 が 粉 に さ れ て 、 ス ー プの う ま み を つ け る の に 用 い られ る 。 オ ク ラ は と ろ み料 と して 同
様 に 用 い ら れ る。 ち な み に 、 ナ イ ジ ェ リア の 代 表 的 な 味 は 、 杵 で つ き た て の ヤ ム(パ
ヤ ム)を
エ グ シス ー プ か オ ク ラス ー プ に ブ ッ シ ュ ミー ト(glasscutteち
型 げ っ し類)の
ブ ッ シ ュ の 中 に住 む 大
一 切 れ を お かず に して 食 べ る もの で あ る。
畑 地 で は2-4作
され る 。7-8月
ンデ ッ ト
物 を 混 作 す る の が 普 通 で あ る 。 これ らの 作 物 は 雨 期 の 始 ま る5-6月
に播 種
の 調 査 に よ る と 在 圃 日数 の 長 い 晩 生 モ ロ コ シ と トウ ジ ン ビエ に在 圃 日数 の 短
い 豆 類 と瓜 類 を 組 合 わ せ た 混 作 が 普 通 で あ るが 、 早 生 トウ ジ ン ビエ と 晩生 モ ロ コ シ との 混 作 も
見 られ る。 聞 き取 り調 査 した 農 民 の 一 人 で あ るKの 畑 は休 閑 地 を 開 墾 して5年
目にな るが、 開
墾 初 年 目か らの 混 作 組 合 せ は 下 記 の 通 りで あ る。
1年 目:モ
ロ コ シ=フ
タ ゴマメ
2年 目:モ
ロ コ シ=エ
グ シーメ ロ ン
3年 目:晩 生 トウ ジ ン ビエ=エ
グ シー メ ロ ン
4年 目;同 上
5年 目:早 生 トウ ジ ン ビエ コモ ロ コ シ
注:モ
ロ コ シは い ず れ も晩 生 、=:混
混 作 の 方 法 は 畝(列)内
作組 合 わせを示 す。
混 作 で 、 同 一 畝 内 に2つ
の作 物を交 互 あ るい は位置 を変 えて播 種す
る 。 例 え ば 、 モ ロ コ シ と フ タ ゴ マ メ の場 合 は 、 フ タ ゴ マ メ は 畝 の 真 ん 中 に 植 え られ る が 、 モ ロ
コ シ は畝 の 肩 よ りや や 下 方 に 植 え 、 畝 内 の 両 作 物 の 株 間 は そ れ ぞ れ の 作 物 独 自の 間 隔 で 植 え ら
れ る。 す な わ ち 、 フ タ ゴ マ メ は 約50cm間
隔 、 モ ロ コ シは 約85cmの
間 隔 で あ る。 しか し、 同
じ穀 類 で あ る早 生 トウ ジ ン ビエ と 晩 生 モ ロ コ シ の 混 作 で は 畝 の 真 ん 中 に 完 全 に交 互 に 植 え られ
62
てい る。
3.東
北 タ イ の 農 業 シ ス テ ム とギ ニ ア サ バ ン ナ 帯 の 農 業 シス テ ム の 比 較
東 北 タ イ の 農 業 シ ス テ ム の 記 述 は コ ン ケ ン大 学 農 業 シ ス テ ム プ ロ ジ ェ ク トの 報 告(1991)
と著 者 の 短 期 訪 問(1990年3月
、1993年9月)の
観 察 に基 ず い て い る 。
気 候 条 件 と 平 衡 に あ る成 熟 した 森 林 は 両 者 と も10%以
下に な って いる。 特 にギ ニ アサバ ン
ナ 帯 に は 成 熟 した サ バ ンナ 林 は ナ イ ジ ェ リア で は カ イ ン ジ 国 立 公 園 内 を 除 け ば 残 って い な い 。
ナ イ ジ ェ リア 全 体 で も成 熟 した 森 林 面 積 は 全 国 土 の5%程
で 、 ギ ニ ア サ バ ンナ 帯 で は 数%以
度 しか 残 って い な い と 推 定 さ れ る の
下 で あ ろ う 。 一 方 東 北 タ イ で は15%程
度 の成 熟林 が残 存 し
て い る。 東 北 タ イ の 森 林 が 減 少 す る の は 良 く知 られ て い る よ うに 、 タ イ の 急 速 な 経 済 発 展 が 始
ま る直 前 の1960年
代 以 降 で あ る。 一 方 、 西 ア フ リ カ の 森 林 減 少 は 植 民 地 時 代 の1930年
代 と推
定 され る 。 タ イ の 森 林 資 源 は タ イ の 経 済 発 展 と 引 き替 え と い う側 面 が あ る が 、 西 ア フ リカ や ナ
イ ジ ェ リア の サ バ ンナ 帯 の 森 林 破 壊 は 植 民 地 政 策 に根 が あ り、 森 林 資 源 は 欧 米 の 植 民 地 政 府 の
蓄 積 の 一 部 と な っ た と考 え られ る 。
植 林 さ れ た プ ラ ンテ ー シ ョ ン林 と して は 両 者 と もユ ー カ リ林 が 試 み られ て い る が 、 ア フ リカ
で は 人 工 的 な 植 林 面 積 はせ い ぜ い数100ヘ
ク タ ー ル 規 模 の 実 証 試 験 地 を 除 け ば 皆 無 で あ る。 東
北 タ イ で は 生 育 の 早 い ユ ー カ リは モ ノ カル チ ャー と して 一 次 非 難 され た が 、 そ の パ ル プ 材 と し
て の 経 済 効 果 ば か りで な く、 塩 害 地 の 地 下 水 低 下 等 環 境 面 で もマ イ ナ ス ぱ か りで は な い こ と が
明 か に され て き、 次 第 に 定 着 しつ つ あ る と 考 え られ る 。 ユ ー カ リ以 外 で も伝 統 的 な多 目 的 樹 種
の 植 林 が 、 政 府 や 各 種NGOの
活 動 も あ り、 農 村 レベ ル で も次 第 に 活 発 に な りつ つ あ る 。 一 方 、
ギ ニ アサ バ ンナ 帯 で は 、 マ ンゴ ー や オ レ ン ジ等 の果 樹 は植 え るが 、 それ 以 外 の樹 種 を植 林 して 、
森 林 を 再 生 す る と い う活 動 は ほ と ん ど 見 られ な い 。
農 作 物 の 作 付 け に 関 して いえ ば 、 ギ ニ ヤ サ バ ンナ 帯 で は ア ップ ラ ン ドに ミ レ ッ ト、 ソ ル ガ ム 、
メ イ ズ 、 落 花 生 、 エ グ シ メ ロ ン。 ヤ ム 、 キ ャ ッサ バ 、 オ ク ロ 等 、 多 様 な 穀 物 類 が 作 付 け さ れ 、
そ の 重 要 性(経
済 価 値)は
低 地 の 稲 の2倍
以 上 と推 定 さ れ る 。 ア ップ ラ ン ドの 作 物 の 種 類 が 異
な る の は 当然 と して も、 東 北 タ イ で は低 地 水 田稲 作 は ア ップ ラ ン ドに比 べ 遥 か に重 要 性 が 高 い。
キ ャ ッ サバ 等 の 換 金 作 物 を 考 慮 に 入 れ て も稲 が 圧 倒 的 に 重 要 で 、 農 業 収 入 の80%以
上 は稲 に
よ る。.
両 者 の 土 壌 管 理 法 で 最 も対 照 的 な の は 、 低 地 稲 作 に お け る 水 田 の 有 無 で あ る。 東 北 タ イ で は
低地 で 雨期 に湛 水 す る 可 能 性 の あ る と ころ は ま ず 水 田 に す る 。 ギ ニ ア サバ ンナ 帯 で は 図3-3
63
一4に 示 した よ う に 、 西 ア フ リカ の 中 で は 例 外 的 な稲 作 民 で あ る ヌ ペ 人 の 一 部 で は 水 田 類 似 の
地 ご し らえ に よ っ て 稲 を 栽 培 して い る が 、 大 部 分 の稲 作 は 非 水 田 的 に 、 自然 の 地 形 そ の ま ま で
低 地 稲 を 栽 培 す る 。 雨 期 に な り自 然 に 湛 水 し、 雨 が や め ば 畑 状 態 に な り、 積 極 的 に水 を 溜 め よ
う と い う地 こ し らえ(水
田 造 成)は
しな い 。 こ れ に 関 連 して 著 者 の 現 地 調 査 で 印 象 的 で あ っ た
こ と は 、 ア ップ ラ ン ドか ら低 地 に か け て の 一 連 の トポ シ ー ケ ンス に お け る 土 壌 の 土 性 の 差 で あ
る 。 表3-3-2に
示 す よ うに 東 北 タ イ も ギ ニ ア サ バ ンナ 帯 も表 土 の 土 性 の 差 は 平 均 値 で 見 る
と あ ま りな い よ うで あ る 。 しか し、 水 田 の あ る 東 北 タ イ で は 水 田 に 粘 土 成 分 が 蓄 積 す る た め 、
ア ップ ラ ン ドか ら低 地 に か け て の トポ シ ー ケ ン ス で は ア ップ ラ ン ドの 土 性 が 最 も砂 質 、 高 位 水
田、 中 位 水 田 と 粘 土 含 量 が 増 加 し、.低位 水 田 が 最 も細 粒 とな って い る 。 一 方 、 自 然 湛 水 に よ る
稲 作 が 長 期 間 継 続 して い る ギ ニ ア サ バ ンナ 帯 で は低 地 土 壌 の 肥 沃 度 が 低 く、 粘 土 成 分 が 蓄 積 し
て い る 傾 向 は ほ ん と ん ど 認 め られ な い 。 粘 土 成 分 は 洗 い 流 さ れ る 傾 向 に あ る 。 表 層10数
セン
チ に や や 細 粒 の 土 壌 層 が あ る場 合 で も、 そ の 下 は 白 い 砂 と な って い る 場 合 が 多 い 。 粘 土 含 量 や
土 壌 の 肥 沃 度 は む しろ ア ッ プ ラ ン ドの ほ うが 高 い 。 持 続 的農 業 の 前 提 は 土 と水 の 保 全 で あ る こ
とは 言 う ま で も な い が 、 こ の 点 で は水 田ベ ー ス の 農 業 シ ス テ ム は 有 利 で あ る と言 え る 。
東 北 タ イ で 、 次 ぎ に 注 目 され た の は水 田 の 稲 藁 を 利 用 して 水 牛 が 広 範 に 飼 育 され て い る こ と
で あ る 。 米 の 収 量 を 多 少 犠 牲 に して も 、 水 牛 の エ サ と な る よ う な稲 藁 収 量 の 多 い 品 種 を 植 え 付
け て い る 東 北 タ イ の 農 民 の 合 理 牲 を 見 た 。 東 北 タ イ の よ う な 貧 栄 養 の 土 壌 地 帯 で 、 持 続 的農 業
を継 続 す る 上 で は 、 安 易 に 草 丈 の 短 い 高 収 量 品 種 を 導 入 す る よ り、 伝 統 的 品 種 は 総 合 的 に 見 て
す ぐれ て い る よ う に 思 え た 。 最 近 は 小 型 耕 運 機 の 普 及 が 目覚 ま しい の で 、 水 牛 と水 田 ベ ー ス の
伝 統 的 栽 培 法 も変 化 の 時 を 迎 え て い る。 と もあ れ 、 東 北 タ イ で は 家 畜 が 水 田 の 農 作 業 と地 力 維
持 の 中心 と して 位 置 づ け られ て い る 。 一 方 、 西 ア フ リカ や ナ イ ジ ェ リア の 場 合 も家 畜 の 飼 育 は
広 範 に 行 わ れ て い る 。 しか し、 家 畜 の 飼 育 は 遊 牧 民 の フル ベ に 専 門 分 化 され て い る。 この た め
農 耕 民 で あ る、 ヌペ は 牛 を 耕 作 に 使 う こ と は な く、 又 、 積 極 的 に地 力 維 持 の た め に 家 畜 を 利 用
す る農 業 シ ス テ ム に は な って い な い 。 牛 耕 が 一 般 的 で は な い こ とが 、 図3-3-4の
よ うな特
異 な 形 態 の稲 作 栽 培 へ と特 化 した 理 由 の 一 つ で あ ろ う。
東 北 タ イ で も う一 つ 注 目 され る こ と は 、 確 か に 森 林 は極 端 に 減 少 して い る が 、 壊 滅 した わ け
で は な い こ と で あ る 。 依 然 と して15%程
度 の 天 然 林 が 残 さ れ 、 村 に は 寺 有 林 が あ り、 又 、 高
位 と 中 位 の 水 田 を 中心 に 、 建 築 用 そ の 他 の 多 目的 樹 種 が か な りの 密 度 で 切 らず に残 され た り、
植 林 あ る い は 育 林 さ れ て い る こ と で あ る 。 こ れ ら は産 米 水 田 林(図3-3-5左
TakayaandTomos㎎i1972、Watanabe1990)と
側 参照 、
呼ばれ て、東 北 タイの水 田に特異 な景 観を作
64
りだ して い る 。 中心 的 な 用 途 は 家 屋 の 建 築 用 で あ るが 、 果 樹 や 薬 用 等 に も植 え られ て い る 。 又 、
木 陰 を作 る と と もに 、 比 較 的 土 壌 侵 食 に さ ら さ れ や す い 高 位 や 中 位 の水 田 の 保 全 に も役 立 っ て
い る もの と思 わ れ る。 これ と対 を な す よ う に 、 ギ ニ ヤ サ バ ンナ 帯 で は 、 ア ッ プ ラ ン ドの 畑 に シ
ア ナ ッ トや ロカ ス トビー ン等 の 有 用 樹 が か な りの 密 度 で 残 さ れ 、 伝 統 的 な ア グ ロ フ ォ レス トリ
ー と な って い る(図3-3-5右
側 参 照 、MasudaandKudu1993)。
しか し、 積 極 的 に 植 え られ て い る の は マ ン ゴ ー 、 ア ブ ラ ヤ シ 、バ オ バ オ 、 オ レ ン ジな ど で 、 こ
れ らは 家 屋 の 周 辺 の 屋 敷 林 と な る。
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S... &.dor.4.iemeno
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T.0. T.rmin.Ii.
h. .1.
X. o. Xrlie nyloorp,
Termite ....d
P.ddy dike
0 Cr... ..
図3-3-5東
北 タ イ の 産 米 水 田 林(左
、 Watanabe
西 ア フ リ カ サ バ ン ナ 帯 の 雑 穀 畑 林(右
65
et al., 1990 ) と
、MasudaandKudu,1993)
Fm.M n--p
結論
東 北 タ イ は 急 速 に 近 代 化 が 進 む タ イ の 中 で は 非 常 に 貧 しい 地 域 と され て い る が 、 人 々 の 長 い
間 の 労 働 の 積 み 重 ね に よ っ て 、 水 田 、 家 畜 、 有 用 木 、 養 魚 池 、 屋 敷 林 が 合 理 的 に農 業 シ ス テ ム
の 中 に総 合 化 され て お り、 厳 しい 生 態 環 境 の 中 で も持 続 的農 業 シス テ ム を 有 す る豊 か な 地 域 で
あ る と考 え られ る。 一 方 、 ナ イ ジ ェ リア 中部 の ギ ニ ア サ バ ンナ 地 帯 も同 様 に 厳 しい 生 態 環 境 の
中 に あ る が 、 持 続 的 な 農 業 シス テ ム と して 総 合 化 され る まで に 至 って い な い 。 土 と水 を 保 全 す
る農 業 シ ス テ ム を 作 り出 す こ とが で き な い で い る 。 漂 白の 民 の ア フ リカ と定 着 の 民 の ア ジ ア の
歴 史 の 長 さ の差 で あ る 。 しか し、 ア フ リカ に 持 続 的 な農 業 シ ス テ ム が 根 付 い て い な い 最 大 の 理
由 は 過 去500年
も続 い た 欧 米 の 奴 隷 貿 易 と植 民 地 化 に あ る と 考 え られ る 。 実 際 、 我 々 が 調 査 し
て い るBida市 付 近 の 村 の発 祥 は いず れ も比 較 的 新 し くせ い ぜ い で100年
程 度 の 歴 史 しか な い 。
しか も、 始 ま りは 、 奴 隷 に な る の が 嫌 で 逃 れ て こ の 地 に 着 き 、 開 拓 を 始 め た と い う もの で あ っ
た。
今 、 深 刻 な 危 機 に あ り、21世
紀 に 向 け て も明 る い 展 望 を 見 い 出せ な い で い る 熱 帯 ア フ リカ
の農業危 機 を救 う上で 、東 北 タイの農 業 シス テム は一つ の可能 なモ デル を提 供す るので はな か
ろ うか 。 も ち ろ ん 、 ア フ リ カ の 伝 統 農 業 と 調 和 可 能 で あ る こ と が 前 提 に な る が 。
明治 以来 、
日本 は欧 米 の 近 代 科 学 の 恩 恵 を 享 受 し近 代 工 業 国 家 と して 、 発 展 して き た 。 しか し、 欧 米 の 近
代 文 明 は そ れ 以 外 の 地 球 社 会 と地 球 環 境 を 犠 牲 に 発 展 して き た 。 ア フ リカ の 犠 牲 は特 に 大 き か
っ た 。 欧 米 の 近 代 文 明 に と って ア フ リカ は 原 罪 の 地 な の だ 。 欧 米 と 日本 の発 展 、 そ して ア フ リ
カ の 衰 退 と 地 球 環 境 の 危 機 は 表 裏 一 体 な の で あ る 。 欧 米 の 近 代 文 明 や 近 代 科 学 を 乗 り越 え る た
め に も、 日本 は ア ジ ア の 地 に 留 ま る の で は な く、 ア ジ ア ー ア フ リカ の 地 域 間 交 流 の 先 頭 に立 っ
べ き で は な か ろ うか 。 そ れ が 新 しい 地 球 社 会 を 築 く21世 紀 の 日本 の 役 割 で は な か ろ うか 。
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