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発声メソッドEVT
1. Estill Voice Training とは Estill Voice Training(略称 EVT)とは、伊系アメリカ人ジョー・エスティル氏(1921~2010)が創立し た発声のためのトレーニングです。メソッドは、創立当初は Voice Craft と呼ばれていましたが、現在は EVT と呼び方が統一されています。EVT は、他の発声方法を否定するものではなく、発声器官の働き、また 自分の必要にあった声の出し方、負担をかけずに声を使う方法などを学び、声の健康を守りながら自分自 身の声による豊かな表現をめざします。そのため、発声器官を細かく分類し、それぞれの器官を独立して コントロールするためのエクセサイズを行います。この日常的なエクセサイズを通して、肺や共鳴板、咽 頭からなる発声器官においての働きを自分でよく理解し、自分に必要な声の種類をコントロールすること が可能となります。 メソッドは、1988 年に創立されましたが、現在は国際組織 Estill Voice International として運営され ており世界中に広く広まっています。 Estill Voice International は、認定パフォーマー(CFP-Certificate of Figure Proficiency)、認定講 師(CMP- Certified Master Teacher)、認定セミナー講師(CCI-Certified Course Instructor)などの資格 認定を行いながら、隔年で国際シンポジウムを行い、医療機関との共同研究、Voice Print という声の分 析を行うためのコンピュータープログラムの開発や、世界各地の教育機関での専門授業の開催など、メソ ッド普及のため、世界中の声のために様々な活動を行っています。 2.EVT メソッドを取り入れている教育機関 (現在、過去の教育課程も含む) ・Mountview Academy of Theatre Arts(London, U.K.) ・Royal Academy of Music (London, U.K.) ・ University of Central Florida (Orland, Florida, U.S.A ) ・ Flinders University (Adelaide, South Australia) ・ London College of Music (London, U.K.) ・Motherwell College (London, U.K.) ・ Bird College in London (London, U.K.) ・Mars Hill University ( Mars Hill, North Carolina U.S.A) ・New College Lanarkshir ( Motherwell, North Lanarkshire, Scotland) ・弘益大学校(Seoul, South Korea) 3. メソッドの基本的概念 "Everyone has a beautiful voice. You just have to know how to use it." メソッドの基となった研究は、長年歌手として教育者としてのキャリアを重ねていたジョー氏のシンプル な疑問から生まれました。“私が今していることをするのには、どうしたらいいの?” 長年のキャリアをもってしても、舞台に上がる瞬間に自分の第一声が怖くなるのはよくあること。 自分の声を出すための発声器官を熟知し、どの様にそれを使っているかという事を理解し、コントロール する事が出来れば、パフォーマンスのクォリティーも上がり、より豊かな表現が可能になるのはもちろん です。その事から自身の発声器官を見つめ直す、独自の研究が始まりました。 "Everyone has a beautiful voice. You just have to know how to use it." という考えの基に研究を進め たジョー氏、正しい方法のテクニックを身につけ、自分の声についてよく知っていれば、どんな人でも持っている「美しい 声」を引き出す事が可能であると考え、それぞれの声を最大限に引き出し、声の健康を保ちながら開花させるための 方法を生み出すために、25 年の月日を研究に費やしました。 ジョー氏は、テクニックと表現を混同しないために、 Craft / Artistry / Performance Magic の 3 段階に分け て勉強した時にこそ、本当の効果が得られると考えました。 Craft は、全ての土台となる部分です。発声器官のメカニズムを詳細に渡り習熟し、全ての種類の声の使い方を勉強 し、コントロールするテクニックを構築する事を目指します。Artistry では、Craft で学んだメカニズムを基に、うまく自分 のスタイルに適応させ、取り入れていく方法を見つめていきます。音楽や演劇の世界においては、学んだ発声メカニズ ムをミュージカルやオペラといった自分のパフォーマンスするものに適応させていくことになりますし、アナウンスやレク チャーの為の話し声などに学んだテクニックを生かす事を目指します。また、最終目標である Performance Magic の 段階においては、自身の習得したテクニック、スタイルを生かしながら、声を使ってどの様にコミュニケーションしていく か、更なる高みを目指す事が必要です。 4.どの様な人にメソッドは勉強されていますか? メソッドでは、Artistry/Performance Magic と、声の土台となるテクニックの構築である Craft を切り離 して勉強する事を提案しています。そのため、EVT メソッドで勉強する Craft の部分は、分野に関わらな い様々な職種の方々が勉強する事が可能です。オペラ歌手、ミュージカル歌手はもちろんの事、ロック、 ジャズ、ゴスペルなど幅広いジャンルの音楽、演劇関係の舞台人に勉強されています。また、日頃から声 を酷使する事が多い、学校の先生やアナウンサー、解説者、声のテラピーに携わる言語聴覚士、耳鼻咽喉 科の医師なども、メソッドを学んでいます。 5.発声器官のメカニズム メソッドでは、発声に関する機関を、以下の3つ(パワー・ソース・フィルター)に大きく分け、それを さらに細かく器官ごとに分類して、器官の機能、効果的なアプローチの方法、コントロールする為のエク セサイズを学んでいきます。 また前述した様に、EVT では発声に関わる器官を以下の様に分類し、その器官のコントロール方法をエク セサイズしながら勉強していきます。それらを、EVT では Figura Obbligatoria と呼び、基本のポジショ ンの様なものとして扱い、声を構築する上で最も大切な事だと考えられています。 パワー(呼吸器系器官と胴体) ソース(声帯、喉頭) フィルター(声道) 1 真声帯のアタック Le Corde Vocali Vere 2 仮声帯 Le Corde Vocali False 3 真声帯 4 甲状軟骨 La Cartilagine Tiroidea 5 輪状軟骨 La Cartilagine Cricoidea 6 披裂喉頭蓋括約筋(SAE) Lo Sfintere Ariepiglottico 7 喉頭の位置 La Laringe 8 軟口蓋 Il Velo 9 舌の位置 La Lingua 10 下あごの位置 La Mandibola 11 唇 Le Labbre 12 頭と首によるサポート L’ancoraggio Testa/Collo 13 胴体によるサポート L’ancoraggio del Tronco Body-Cover Inizio/Fine Le Corde Vocali Vere Body-Cover 6.ヴォーカル・クオリティー EVT では、前述の器官の働きを組み合わせ、全部で6種類のヴォーカル・クオリティーに分類します。 それらを、一つの曲の中でミックスして使い、多様な表現をすることも可能ですし、自分の必要に応じた クオリティーのみ選択して生かす事もできます。 Speech スピーチ Falsetto ファルセット Sob ソブ泣き Twang Belting ベルティング Opera オペラ トゥエング(Oral と Nasal の2種類) 7.様々なエクササイズ EVT では、発声器官の働きを勉強し、エクササイズを加えて実際にコントロールする方法を学びます。 エクササイズ例 ・仮声帯を自由にコントロール→声の負担を軽減し、声の健康を保ちます。 ・真声帯のアタックのコントロール→必要に応じた様々なアタック方法を習得します。 ・真声帯 Body-Cover のコントロール→表現の強弱や演奏目的に応じ、変化をつける事が可能です。 ・披裂喉頭蓋括約筋のコントロール→声に輝きを与え、遠くまで飛ぶ声を作るために必要です。 8.Centro Studi Estill による、EVT を基とした共同研究 Centro Studi Estill Japan 協会の会長、エリーザ・トゥルラ氏は、イタリアで最も著名な音声医学博 士フランコ・フッシと共に、研究を続けています。研究の成果はシンポジウムや学会で発表され、両氏 による共著「Il Trattamento delle difonie: una prospettativa per Estill Voicecraft(和訳:音声 障害の治療:エスティル ヴォイスクラフトの将来性)」も出版されています。 また、ローマ・アカデミアサンタチェチーリア音楽院・レナータ・スコット オペラスタジオの発声教 官、アンナ・ヴァンディ氏と、異なるスタイルやレパートリーのオペラのための、発声器官の使い分け 方などを研究し、独自のエクササイズなどを編み出しています。 イタリア各地の音声聴覚士を対象としたセミナーの開催、北イタリアパドヴァ・ Centro Medico Foniatoria の医師たちとの研究など、音声医学会と密接に関わり、メソッドの普及にあたっています。