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耳のずれたフクロウ エ聴覚空間認識の脳内機構

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耳のずれたフクロウ エ聴覚空間認識の脳内機構
耳のずれたフクロウ :聴 覚空間認識の脳内機構
新技術事業 団 。さ きが け研 究 21お よび
理化学研 究所 。
国際 フ ロ ンテ ィア研 究 システ ム・思考電流 チ ーム
藤:
田
一
良Б
Barn owls localize sound most accurately among aH animals Studies on the brain mechanisms of
their sound localization rcpresent a case、 vhere many important questions in sensory physiology
can be addressed in a straightfor、 vard way.This article、 vill review our current understanding
of ho、 v ncurons in the owl's auditory syste■ l create their selectivity to position of sounds
barn ow1/sound 10calization/auditory receptive field/stimulus selectivity/GABA
神経細胞 が感 覚情報 をどの よ うに符号化 し,表 現 し
て い るか を追求す る研究 は,半 世紀以上 の歴 史 を経 た
.
て い るので はな い .音 が顔 の真 正面以 外 か ら来 れば
,
音 は近 い方 の耳 にわず か に早 く到着 した の ち, もう一
そ の 間 に得 られ た結 論 の一 つ は,「 脳 の 感覚神経細胞
方 の 耳 に 達 す る。 こ こで 生 じる時 差 を 1両 耳 間 時 差
は。 あ る特定範 囲 の刺激 にのみ反応す る」 とい う こ と
(ITD)と 呼 ぶ .ITDに は,到 着 時 間 の差 と継続 的時
で あ る.特 定 の感覚束1激 に対 す る神経細胞 の選択 的応
差 とい う二 つ の成 分が あ る.音 が継続 中,片 耳 での音
答性 (刺 激選択性 )が い か に形成 され るか。そ の複雑
の 全波形 は もう一 方 の耳 に くらべ てわず か に進 んで い
さ と鋭 さが ,末 梢 感覚 器か ら脳 の奥 へ と進 むにつ れ
るが ,こ の 差が継続 的時差 で あ る.純 音 の場合 には
,
,
どの よ うに変 わ って い くか .そ の変換 の メカニ ズム は
位相差 と考 えて よい。 また,頭 が音 の 遮蔽物 になるこ
何 か。 そ して ,こ れ らの細胞 の 活動 と個体 の感覚知覚
とか ら,両 耳 にお け る音圧 も左イfで わず か に異 なる
の 間 には,因 呆 関係 があ るか。 これ らの 問 いは,感 覚
この差 を両 耳 間音圧差 (IID)と 呼 ぶ
.
本稿 で は,上 記 問題 の研 究例 と して ,メ ンフ ク ロ ウ
“算 出"し て い る脳 内機構
を述 べ る。1989年 までの知見 につ い て はす で に解説 が
あ
1'3),必
るが
.
メ ンフク ロ ウは,こ れ らの手 が か りの うち,ITDを
生理 学 の重要課題 で あ る
とい う鳥 が 音 の 来 る方 向 を
.
要 上 ,本 稿 の 前半部 で 要約 し,後 半部
用 い て音 の 水平位 置 を決 め ,垂 直位 置 は HDを 使 って
6).こ の が音 の
垂 直位 置 を知 るの に HD
鳥
決 めてい る
を使 える理 由 は,左 右 の耳朱 の位置 が _L下 方 向 にずれ
7).そ の
て い るか らで あ る
結 果 ,彼 らが音 源 定 位 に
使 って い る 周 波 数 領 域 (3 9kHz)で は,左 右 の 耳 が
で ,そ の後 の進展 を紹介す る
.
音 源 定 位 の 手 が か り :両 耳 間 時 差 と強 度 差
上 下方 向 に異 な る感度 を持 ち,IIDが 音源 の垂 直位 置
に よって変 化 し,手 がか りとなるので あ る
.
夜行性 の猛禽 メンフクロウ (図
1)は ,あ らゆる動
物 の中で,最 も正確 に音源 の位置 を知 る。定位 の誤差
は,水 平 ・垂直方向 とも12度 で4),暗 闇 で音 だ け を
5).彼 らは どんな がか
たよ りに獲物 を捕 える
りを
手
,
使 って rfの 来る方向を知 るのだろ うか
.
動物 の二つ の耳 は同一の 音 を同 じタイ ミングで聞い
Owls with asynlinetric ears : brain mechanisms of
sound localization
lchiro Fuiita
PRESTO, Research Development Corporation of Japan
and Laboratory for Neural lnformation Processing, Fron―
tier Reseach Program,RIKEN Institute
音 の 位 置 を知 る細 胞 :受 容 野 と地 図
内耳 の音受容細胞 は,周 波数 に選択性 を持つが,音
の位置 は コー ドしていない。 しか し,メ ンフ クロウの
中脳 の下丘外側核 (図
2)の 細胞 は,空 間内の特定の
8).し か も
,こ れ ら
領域か ら発 した音 にのみ反応す る
の細胞 は,そ の コー ドしている音 の位置 に従 って,下
丘外佃1核 の中で整然 と並 び,聴 覚空間の地 I を形成 し
8).受
てい る
容細胞 は音 の位置 を “知 らない"の だか
ら,脳 が音 の位置 を算 出 し (聴 覚受容野 を持 ち),音
の位置 を表示 した (聴 覚地図 をつ くった )の で あ る。
それ は, どの ような しくみなので あろうか。lTDが 音
生
(148)
物
物
理
V01。
32 No 3(1992)
│ず
導││
図
1
οαめα
メ ンフ クロ ウ (英 語 名 barn Owl,学 名 乃 ι
顔 面 の 白 い 羽 毛 を と りの ぞ く と,耳 イしをお お う
preaural nipと 呼 ばれ る耳朱 に相 当す る構造 が現 わ
れ る そ の位置 は左 右 で _L下 方 向 にずれて い る (図
)
右 ,矢 日1は 左右 の nipの 上端 を/JNす 。 これ に よ り
この 鳥 は,音 の両耳 間 音圧 差 を使 って 音の垂 直位 置
を知 る こ とがで きる。
,
の 水平位 置 を,IIDが 垂 直位 置 を決定 して い る こ とか
ら,こ の 疑 間 は,「 ネ
申経 細 胞 が い か に して特 定 の ITD
や HDに 応答す る よ うにな り, しか もそ の コー ドす る
ITDや HDの 値 に従 って整然 と並 ぶ のか 」 とい う問題
に帰 す る こ とがで きる
耳 の奥深 く
:聴 覚 神 経 路
鼓膜 を越 え,脳 の 中 に入 ってみ よ う。 音情報 は,受
容細胞 に よ り各周波数成分 に分解 され,周 波数別 に音
llと 位相 の情報 が聴神経 に送 られ る.個 々の聴神経 は
脳 の 中 に入 る と,二 つ に分岐 し,大 細胞核 と角状核 に
達 す る (図
2)。
そ して ,大 細 胞核 に は位 相情 報 のみ
が伝 え られ,角 状核 には音圧情報 のみが 伝 わ る (そ の
メカ ニ ズ ム は文献 3参 照 ).こ の 後 ,下
11中
心核 コ ア
お よび内側 シェル まで ,時 間情報 と 占ll:情 報 は,独 立
の経路 で並 列 に処理 され る。現在 ,こ の二 つ の神経路
91・
の 詳細 が半J明 して い る
位 相差計算の道具
│
:軸 索 遅 延 線 と 同 時 検 出 器
大細胞核 の細 胞 は 1司 側 の 耳 か らの情報 のみ を受 け て
い るが ,層 状 核 は 1両 側 の 大細胞核 か ら入力 を受 け るた
め ,右 耳 と左 耳 か らの情 報 を比較す るこ とがで きる。
事実 , ここで ,そ れぞれ の耳 由来 の位相情報 か ら,両
図 2
1:情
メンフクロウの聴覚神経路.音 の位相情報 と音ナ
報が 2つ の経路で独立 に処理 され,再 び結合 される
様子 を強調す るため,単 純化 して示 してある.fl,
・fnは ,周 波数選択性 を持 つ神経線維結合 を示
f2,・・
す。
耳 間位相差 が計算 されて い る。
そ の しくみ を図 3左 を用 い て説 明 しよ う.例 えば
,
5つ の神経細胞 が並 んで い て ,そ れぞれが右耳 と左 耳
由来 の 入力 を受 けて い る.そ して右耳 由来 の情報 を伝
-46-
耳 のず れた フク ロ ウ :聴 覚空 間認識 の脳 内機構
(149)
里胸
│
大細 胞核
だ
‖f力
「
abcde
‐ 左 耳か らの
││1青 幸
臓
{立 本
図 3
両耳間位相差検出のための神経回路.モ デル (左
とメンフクロウの層状核 の構造 (右 ).
を受 け るだろ うか
え る軸索 と左 耳 由来 の情報 を伝 える軸索 が逆並行 に走
)
.
ら Eに 向 か って ,右
フク ロ ウの両 耳 に イヤ ホ ンを入 れ ,右 耳 と左 耳 に位
耳 か らは順次 ,少 しず つ 長 い軸索伝 導 を行 な うこ とに
相 をず ら した音 を与 える こ とに よ り,神 経細胞 の両耳
問位相差 に対す る応 答選択性 を調 べ る こ とがで きる
行 して い る。 す る と,細 胞
Aか
な り,左 耳 か らの 伝 導距 離 は細 胞
Eか ら Aに 向 か っ
て 長 くな る.つ ま りここには,右 耳 か らと左 耳 か らの
.
これ を,時 間経路 の各神経核 で 行 な い比較 した ものが
13).層
状 核 と外 側 毛帯 核 前 核 の 細 胞 の 示
図 4で あ る
遅延 回路 が軸索 に よ り形成 され てお り (軸 索遅延線 ),
しか も遅延 の増加方向 は逆 向 きにな って い る。 さらに
す 曲線 (ITD曲 線 )は 互 い に よ く似 て い る。 この 2つ
A― Eの 細胞 は,両 耳 か らの入力 が 同時 に到着 した と
の核 に比 べ て ,下 丘 中心核 コ アお よび外側 シェルの曲
きに最 大応 答 を示 す とす る (同 時検 出器 ).す る と
線 の ピー クの 幅 は狭 く,谷 は深 い。 す なわち,中 心核
音 源 が顔 の正 面 にあ る ときには,右 耳 か らの情報 を伝
の細胞 は前 2核 に くらべ て,位 相差 に対 して よ り鋭敏
え る活動電位 と左耳 か らの情報 を伝 える活動電位 は
で あ る。下丘外側核 の細胞 は, さらに選択性 が鋭 い 。
,
,
,
Cの 細胞 で 同時 に到着 し,最 大応 答 を引 き起 こす .音
位 相差 に対 す る選択性 を徐 々に鋭敏 にす る こ とが ,こ
源 が右 にあ る とす る と,活 動電位 は右耳 由来 の ものが
の 経路 の 第 1の 情報処 理 で あ る
先 に 出発 す る.そ の 結 果 ,最 大応 答 は Cの 細 胞 よ り
下 に位置す る細胞 で起 こる.ど の細胞 になるか は, ど
第 2は ,層 状 核 か ら中心核 外 側 シェル まで は,ITD
曲線 に複数 の ピー クが あ るの に,下 丘外側核 で は一 つ
の くらい早 く右耳 に音 が入 ったか ,す なわち,両 耳 間
の ピー クを残 し,他 の ピー クは小 さい ことで あ る。 つ
位相差 の 大 きさに依存 す る。 こ う して ,こ れ らの細胞
ま り,下 位 の 4つ の核 で は,同 じ位相差 を生 じる複数
は特定 の 両耳 間位相差 に選択性 を持 つ よ うにな り, し
の ITDに 応 答す るの に対 し (位 相 多義性 ),下 丘 外側
か も,位 相差 の 大 きさに したが って 配列す る よ うにな
核 細 胞 は真 の ITDに の み応 じる。 た だ し,こ れ は 白
る。 この 回路 は,1948年 に仮説 と して提 唱 されて い た
色 ノイ ズ音 (広 範囲 の周波数成分 を含 む音 )で 刺激 し
が ,層 状核 で この仮説 の通 りの こ とが起 きて い る こ と
た場合 で , もし純音 (一 つ の周波数 か ら成 る音 )で 刺
激 す る と,下 丘外倶1核 細胞 も複数 の ピー クを持 つ .こ
が ,近 年 ,証 明 された
11)'12).
.
の ことは両耳 間位相 差 か ら真 の 時差 を決定す るには
,
ITD選 択性 の変換 :鋭 敏化 と多義性除去
複 数 の 周波数成分 か らの情報 を集 め る こ とが必要 な こ
こ う して層状核細胞 は特定 の範囲 の 両耳 間位相差 に
反応 す る よ うになるが ,そ の 出力 が ,聴 覚神経路 の上
位 の核 に引 き継 が れて い く際 に, どの よ うな情報処 理
-47-
とを示 して い る.こ の′
鳥自身 , ノイ ズ音 は正 確 に定位
す るが ,純 音 の定位 は大 きな誤差 を伴 う。
│
生
(150)
物
Vol.32 No 3(1992)
理
物
14).GABA抑
る
b E ﹂o Z ︵択 ︶ oいcOo ooα つO N一も ε ﹂O Z
︵減 ︶ o∽Co α ∽oα o oさ る E ﹂o z ︵凍 ︶ oocoα りoα つo N一
制 の 役 割 は,そ の 選 択 的 拮 抗 剤 ビ
。
キ ュキ ュ リ ン メ チ オ ダイ ド (BMI)を ,そ れぞれの
神 経核 の細胞 に与 え,ITD選 択性 へ の影響 をみ る こ と
13).
で検討 で きる
た とえ ば,下 丘 中心 核 コ アの 細 胞 に BMIを 与 え る
と,ITD曲 線 の ピー クの 幅 は大 くな り,谷 の深 さは浅
くなる。 そ の結果 ,層 状核 や外側毛帯核前核 の細胞 の
。
︱
ITD曲 線 とそ っ く りな 曲線 とな る
が 増 え,そ の 入力核 で あ る中心核 の細胞 の よ うになる
.
。
IJ ん
。
Vヤ
、
す なわ ち,BMIに
よ り ITD選 択性 は劣化 したわ けで
,
通 常 は,GABA抑 制 が ,こ れ らの 細 胞 の ITDに 対 す
る選 択性 を高 めて い る と考 え られ る。 一 方 ,外 側毛帯
核 前 核 細 胞 に BMIを 与 えて も,ITD曲 線 の 形 に は 変
化 が起 きな い が ,こ れ は,層 状 核 とこの 核 の ITD曲
心核
線 の 間 に違 い が 見 られ な い こ と (図
る
4)に 対応 して い
.
下丘外側核細胞 は異 な った周波数 に応 じる中心核細
る
/
山、
ヽ口
/
/
1
0コ
︵
獣 0■墳 2節 使K唱 ︶節 使斌 響
:GABA抑 制 の 役 割
ゝ
0
2
で の 刺激 は 白色 ノ イズ 計で あ る。点線 は 自発放電 の
頻 度 を示す
プ
。
︲
。7
¨ / ハ月 州 ︱ ︲
0
4
.
/
︲
0
れ発
﹂
税
いソ”
L6
口
0
6
、。
.。
メ ンフ ク ロ ウ聴 覚 細 胞 の ITD選 択 性 .時 間経路 の
5つ の 神 経 核 の 細 胞 の ITDに 対 す る応 答 を示 す
最適 周波 数 の ほぼ等 しい細胞 を比較 してあ る.こ こ
足 し算 を越 え て
0
8
、、
一
丁 薇 ;1ぉ
しか し,そ の 際 ,異 な った周 波数 チ ャネ ル
0
0
ヽ
.
ュ
、
2
2
い
o
b
﹄″R
ヽ
ヽ
﹁
一
い
1
ヽ
\
¨
キ
r寺 ・
ヽ
・
前核
0、
。
/ 。 ︵I 綽 ■ 女 二 練 捜 К 桜 ︶ 熱 甍 釈 彗
ノ
︵深︶ o∽COαoo∝ つ0さ も E LoZ
︱
Vi
外側毛帯 核
15),16)。
0
0
︵
凍︶ o●coαいo∝ 00N一
ЪEЬ Z
胞 か らの 入 力 を集 め て ,位 相 多 義 性 を解 決 して い
lnterour。 I Time Oifference(μ sec)
4
5上 ).下 丘 外
倶1核 細 胞 で も同様 に,BMIを 投 与 す る と, ピー ク幅
:
図
(図
100
ITD経 路 で起 こる選択性 の鋭敏化 と位相差 か ら時差
の決定 とい う二つの情報処理 に,抑 制性神経伝達物質
で あるガンマ ア ミノ酪酸
(GABA)を 介す る抑制が ど
う関与す るか を次 に考 える。そ の理 由 は,GABAお
よびその合成酵素 を含 む神経細胞 ・神経終末が,ITD
経路 のすべ ての神経核 に多 く含 まれて い るか らであ
-48-
両耳間時差
図5
(マ
イクロ 秒
)
1TD検 出における GABAの 役割.上 段 は,下 丘 中
心核 コア細胞 の純音 (4KHz)へ の応答 に対す る ビ
キ ュキュリン (BMI)の 効果.下 段 は,下 丘外側核
細胞 のノイズ音へ の応答へ の BMIの 影響
.
耳 のず れた フク ロ ウ :聴 覚空 間認識 の脳 内機構
い る こ とが わか る.一 方 ,周 波数選択性 をみ る と, 1
か らの入力 の単純 な線形加算 を して い るので はない 。
BMIを 与 える と,ITD曲 線 が複数 の ピー クを持 つ よ う
に な る と い う結 果 (図 5下
)は ,GABAに
群 の細胞
細胞
:分 解
イプ 1)は ,ご く限 られた周波数領域 に
イ ズ音 で 刺激 して も,位 相多義性 を示 す 。 もう 1群 の
13),17).
別 れ の あ との 出 会 い
(タ
選 択 的 に応 答 す る。 そ して,そ の ITD選 択性 は,ノ
よる抑 制
が この加算 の非線形性 に寄与 して い る こ とを示 して い
る
(151)
イ プ 2)は 広 い 周 波 数 範 囲 に応 答 し,ま た
(タ
ITD曲 線 も位相 多義性 を示 さな い。 これ らの細胞 の応
した情 報 の 統 合
答 潜 時 は, タイ プ
1,
タ イプ 2,下 丘 外 側核 細 胞 と
徐 々 に長 くな る こ とか ら,情 報 は タイプ 1→ タイプ 2
感覚系 の研究 の 多 くは,感 覚情 報 が脳 の 中 を送 られ
るにつ れて ,そ の構成要素 に分解 され て い く様子 を明
→ 下丘外側核細胞 と流 れて い くこ とが わか る
.
らか に して きた。 た とえば,視 覚情報 が色 ,形 ,動 き
つ ま り,分 配 し処理 した情報 を,再 結 合す る際 には
視 差 な どの要素情報 に分解 され,今 や30を 越すサ ルの
まず ,中 心核外側 シェルの タイプ 1細 胞 で ,各 周波数
,
,
チ ャネ ル 間 の独立性 は保 った ままで ,時 間情報 と 音圧
18).
視 覚 領野 に分配 され て い く様子 が わか りつ つ あ る
しか し,情 報 をそ の要素 に分解 す る こ とは,脳 に とっ
情 報 を統合 し,続 い て , タイプ 2細 胞 ,下 丘外側核細
て 目的 で はな く,そ の 方 が利点が あ る とい う情報処 理
胞 と進 む際 に,周 波数 チ ャネ ル 間 の収敏 を行 うので あ
上 の手段 で はな い だろ うか。 た とえば,複 数 の情 報 を
分配 せ ず に処理 しよう とす る と,ひ とつ の情報 に何 い
る
下 の よ うに考 え られ る.ITD選 択性 は層状核 で 形成 さ
かの変換 を施す と,同 時 に運 んで い る他 の情報 の 表現
れ ,下 丘 中心核 コ アに い たる経路 でか な り鋭 くな って
に影響 をお よぼす ことに な る。情報 を分配 し独立 に処
い る。 一 方 ,IIDに 対 す る感 受 性 は 外 側 毛 帯 核 後 核
理 す る こ とに よ り,こ
の よ うな情報 の表現 の 間 の 干渉
19)。
(図
この よ う に情 報 処 理 を進 め る機 能 的意 味 は以
2)で す で にみ られ る ものの,特 定 の HDに のみ
応 じる性 質 (選 択性 )は 下丘 中心核外側 シェルで よう
を さける こ とがで きる。
す で に見 て きた ように, メ ンフ ク ロ ウの聴覚経路 で
や く形成 され て くる。 ITDお よび HDに 対 す る選択性
も最初 にな され る こ とは情報 の 分解 で あ る.受 容細胞
を外倶1シ ェルの タイプ 1細 胞 が合 わせ もったあ と,残
で ,各 周波数 成分 へ の分解 が起 き,大 細胞核 と角核 で
された仕事 は,ITD選 択性 につ い て は位相多義性 の 除
時 間情報 と音圧情報 の 分解が起 こる.し か し,下 丘外
狽1核 細胞 は音 の 水平位置 。垂直位 置 の 両方 を知 ってお
去 で あ り,IID選 択性 につ い て は選択性 の 鋭敏化 で あ
る。そ して この二 つ の仕事 とも広 範 囲 の周波数 か らの
15),16),19).ITDの
り, また広範 囲 の 周波数領 域 か らの 入力 を受 けて い る
情 報 を集 め る こ とで 達 成 で き る
す なわ ち, どこかで ,ITD情 報 と HD情 報 の統 合 お よ
び周波数 チ ャネ ル 間 の1又 敏 が起 こ らな くて はな らな い
コー ドに も HDの コー ドに も共通 に役 に立 つ とい う段
階 に達 して初 めて ,周 波数 チ ャネ ル 間 の収敏 が始 まる
これ らの情 報統 合 は どこで起 こるのだろ うか .ITDと
ので あ る
HDの 情 報 の統 合 と周波 数 チ ャネル 間 の収敏 は同時 に
起 こるのか ,そ れ とも,一 つ ず つ 行 なわれ るのか .一
耳がずれなかつた者たち :比 較生理学
.
.
つ ず つ な らば, どち らが先 にな され るのだろ うか。 そ
メ ンフ ク ロ ウの話 を ここ まで述 べ て きて ,予 想 され
る読者 の 反応 の一 つ は,「 人 間 を含 めて ,耳 の ず れて
してそれ は何故 か。
い な い動物 は, ど う して い るのだ。」 で あ ろ う。実際
これ らの問 い は,下 丘外側核 とその入力核 の ITD,
HDお
.
よび周波 数 に対 す る選択性 を調 べ る こ とで 答 え
左右 の耳 の 間 に非対称性 がみ られ るの は,動 物界 で
,
,
中心 核 コ アの細 胞 は,ITDに 選
フ クロ ウの仲 間 だ けであ る。 しか し,す べ ての種類 の
択性 を持 つ が IIDに は感受性 を持 たな い。 中心核 内側
フク ロ ウが非対称 の耳 を持 って い るので はな い.系 統
シェルの細 胞 は,逆 に,IIDに 感 受 性 を持 つ が ,ITD
発生学 的 には,左 右対称 の耳 の方 が形 質 と して古 く
には感受性 を持 たない .両 者 とも,ご く限 られた周波
数応 答領 域 を持 つ 。 す な わち,こ の レベ ルで は,ITD
耳 の位置 や構 造 に非対称 が生 じる とい う変化 は,フ ク
20).
ロ ウの進化 の過程 で起 きた と考 え られて い る
と HDの 情報 の統合 も周波数 チ ャネ ル 間 の収敏 も起 き
て い な い .次 に,コ アお よび内側 シェル両 方 か ら軸索
左 右 対 称 の 耳 を持 って い るア メ リ カ ワ シ ミミズ ク
(図 6),ア ナ ホ リフ ク ロ ウ, トラフ ズ クを調 べ てみ
投 射 を受 け て い る中心核外側 シェルの細胞 を調 べ てみ
る と,い ず れ の 鳥 の下丘外側核細胞 も,メ ンフ ク ロ ウ
る と,そ の 細 胞 は全 て ,ITDお よび IIDに 感 受 性 を
の場合 と同様 ,水 平方 向 には限局 した受容野 を持 って
HDの 情報 の統合 は ここで起 きて
お り, しか も,音 の 水平位置 は下丘外側核 の 前後軸 に
19)。
る こ とが で きる
持 って お り,ITDと
-49-
,
生
(152)
物
物
Vol.32 No 3(1992)
理
この性 質 は大事 な意味 を持 った ので あ る
.
われ われが ,新 発売 の電子部 品 を購 入 して まった く
新 しい設計 の電気 回路 を作製す るの と違 って ,動 物が
進化 の過程 でで きる こ とは,す で に持 って い る神経 回
路 とその部 品 を,少 しず つ 変更 しなが ら利用す るこ と
で あ る。末梢器官 の変化 が起 きた時 (耳 がず れた時 ),
脳 の 中 にすで に持 って い て ,何 らか の 別 の機能 を持 っ
て い た HD選 択性細胞 を,音 の垂直位 置 を知 らせ る細
胞 と して用 い たので はな い か と想像 され る。 ほかの機
能 をはた して い た既存 の神経 回路 を新 たな行動 の メカ
ニ ズム と して組 み込 んで い くこ とが ,行 動 の 進化 の過
程 で起 きたので はな い か とい う提 唱 は,電 気魚 の 混信
23)ゃ
, ヒメマ スの 求愛 ・ 産卵 行
回避行 動 の 中枢 機 構
24)に つ い
動 の 運 動 パ ター ン・ ジェネ レー ター
て もな
されて い る
.
地 図 は役 立 つて い るの か
:破 壊 実 験
最 後 に考 えな くて はな らな い 問題 は,下 丘外側核 の
聴覚空 間地図 が ,実 際 に,音 源定位 の役 に立 って い る
図6
アメリカワシミミズク (英 語名 great horned oヽ
の
が対称であ
ο 響
学名 お ら
・」 4“ s).左 右の耳 構造
“
るこの鳥では,両 耳間強度差 (IID)を 「子の垂直位
置を知 らせる手がかりに使 えない.に もかかわらず
この鳥の下丘外側核細胞は HD選 択性 を持っている
1,
:α
,
か ど うかであ る.そ こで ,下 丘外側核 の一 部 を小 さ く
電気凝 固 してみ る と,メ ンフ ク ロ ウはそ の破壊 領野 の
細胞 の受容 野 か ら来 る音 を う ま く定位 す るこ とがで き
25,.首 の
ない
定 位 のふ りむ き角 度 が小 さ くな り,応
答潜時 は長 くな る.こ の 効果 は,破 壊 領域 の細胞 の受
容 野 にのみ限 られてお り,ほ か の 位置 か らの音 は問題
21'22,。
そ って表 出 されて い る
しか し,ア メ リカ ワシ
な く定位す るこ とか ら,運 動制御機能 の 阻害 が原 因 で
ミミズ ク・ アナホ リフ ク ロ ウの場 合 ,音 源 の 水平位置
はな い。 この結 果 は,下 丘 外側核 の聴覚 空 間地 図が
が そ の細胞 の好 む範囲 にあれば ,垂 直位 置 が どこであ
ろ う と,下 丘外側核細胞 は興奮す る.ト ラフ ズ クの場
音 源 の 正確 な定位 に必 要 であ るこ とを示 して い る。
合 には,受 容野 は垂直方 向 に も限 りがあ るが ,水 平方
向 に くらべ ,そ の広が りはず っ と大 き く, また音源 の
,
むすび
感覚情 報 が処理 され て い くとき,処 理 の 各段 階 で一
1).む しろ
,そ れぞ
垂 直位 置 が下丘外側核 の 中 に系統 的 に表示 され て い る
度 に多 くの 変換 を行 うので はな い
証拠 は得 られ て い な い 。 この よ うに,左 右対称 の耳 を
持 つ フ ク ロ ウ の 下 11外 側 核細 胞 は音 源 の 水平 位 置 は
れ の段 階 で は,一 つ ず つ 情 報 の 変換 を行 い ,何 段 階 も
コー ドして い る ものの ,垂 直位 置 は コー ドして い な い
完 全で あ る.こ れ らの鳥 が
か ,ま たはそ の コー ドはイく
い 選択性 を持 つ 細胞 をつ くりだ して い る.脳 に よる感
覚情報処 理 の 内容 を知 る とい う こ とは, この 変換 の様
はた して ,音 源 の垂直位置 を正確 に知 って い るか どう
子 を一つ一つ ,同 定 して い くこ とであ る。 そ して次 に
か は不 明 であ る。
そ うや って 明 らか にな った本1激 選択性 の形成 と変換 の
の過程 を経 て ,最 終 的 には複雑 な感覚刺激 に対 して鋭
,
ところで驚 くべ きこ とに, これ ら左右対称 の 耳 を持
メカニ ズム を調 べ るのだが ,こ れ は,通 常 ,は るか に
つ フ ク ロ ウの下丘外側核 細胞 も,IIDに 対 す る選択性
難 しい.た とえば,サ ルや ネ コの 大脳皮 質第 1次 視覚
21),22).こ
は持 って い る
れ らの フ ク ロ ウで は,IIDは
音 の垂直位置 を知 らせ る手 がか りにはな りえず ,彼 ら
の 下丘外側核細 胞 が HDに 選択性 を持 つ こ との意味 は
野 の細胞 が ,視 党刺激 と して与 えた線 分 の傾 きに選択
26)が
,そ の
性 を持 つ こ とは30年 前 に発 見 され て い る
選択性形成 の メカニ ズム につ い て は い まだに議論が絶
27)。
メ ン フ ク ロ ウ の 聴覚 系 にお け る ITD選 択
不 明 で あ る。 しか し,進 化 の過程 で 耳 にず れが生 じ
え ない
HDが 音 の垂 直位 置 を知 らせ る手 が か りとな った時
性 の形成 の メカニ ズムは,お そ ら くもっ と も明快 な説
,
,
-50-
(153)
耳 のず れた フク ロ ウ :聴 覚空 間認識 の脳 内機構
しか し, これ とて も, そ
明 の つ い て い る例 で あ ろ う
.
の 根 底 に は,「 ミリ秒 とい う時 間幅 の 活動電位 を用 い
て , ど うや っ て 10マ イ ク ロ秒 オ ー ダーの ITDを 算 出
で きるか」 とい う重要 な疑間が残 って い る。神経細胞
が持 つ この す ば ら しい能力 は行動学 的実験 を出発点 と
して発 見 されて きた。 しか し,そ れが どうな され て い
るか を問 う今 こそ ,ま さに生物物理学 の 出番 で はな い
だろ うか
謝辞
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an,WE,Konishi,M.(1986)Pra`.ノ 鼈ι
Sθ じUSA,83,84008404
12)Carr,C E,Konishi,M(1990)ェ
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3227-3246
13)Fulita,1,Konishi,M(1990)ェ
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,11,722-739
I(1989)ェ Cttp.
14)Carr, C E, Fulita, I, Konishi,
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., 286,190-207
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15)Takahashi, T, Konishi, M (1986)ェ
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」
Юsι J.,
6,
3413-3422
.
写 真 提 供 と と もに ,本 稿 に対 し有 益 な助 言 を い
た だ い た 小 西 正 一 教 授 と Susan Volman博 士 に感 謝 い
た します 。 また ,本 稿 執 筆 の 機 会 と原 稿 へ の コ メ ン ト
を くだ さ った磯 野 邦 夫 博 士 に感 謝 い た します
文
16)Wagner,H,Takahashi,T T,Konishi,M (1987)ェ
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,7,3105-3116
17)MOri,K,Fujita,I.,Konishi,M.(1990)■
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χ,1,1-47
19)Fulita,I.Konishi.M (1989)ス
献
3,第 3章 ,丸 善書店
20)Norberg,R A l19771F)メ
21)VOlman, s F, Konishi、
3083-3096
4)Knudsen,E I,Blasdel,G G,Konishi,M (1979)ノ
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22)VOlman,sF ,Konishi,M (1990)B4づ π B′ 力at'El'ο
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.,61,414-424
5)Konishi,M(1973)■ 771 Sε づ
,164,
6)MOiseff,A,Konishi,M(1988)ノ Cttp Pttsづ θι
637-644
`.
36,196-215.
23)川 崎 雅 司 (1989)科 学 ,59,437445.
24)Matsushima,T,Takel,K,Kitamura,S,Kusunokl.ヽ 1.
Satou, M, Ueda, K (1989)ェ
C""ρ PれノStθ ′, 165,
293-314
200,
25)Wagner,H(1991)ス
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た Sθ εttπ ηs`じ 17,1483
26)Hubel,DH,Wiesel,TN(1962)ェ
795-797
9)Takahashi,T T,Konishi,M (1988)ェ
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280,375-408
.
7)Kundsen,EI(1981)S`イ _4π ,245,83-91
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,
8)Kundsen, E I, Konishi, M (1978)Sε づ
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2)小 西正 一 (1990)科 学 60(1),18-28.
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紀伊 国屋書店 ,東 京
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Vι zttsθ じ
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1)斉 藤 秀 昭 (1989)丸 善 ア ドバ ンス トテ ク ノロジ ー
電子
11)Sull
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160, 106-154
Vι 2っ sε j, 10
27)Ferster, D, Koch, C (1987)T″ κas ノ
274,190-211
10)Takahashi,TT,Konishi,M(1988)ェ C酬).Nι πЮ
J.,
487-492
274,212-238
ふ じた も`
ちろう
1956年 生 まれ .79年 東京大学 理学部動物学教 室卒業 .84年 同大学
ロ
院修 r後 ,生 理 学 研 究 所 ,CALTECH,理 化 学研 究 所 国 際 フ ン
テ ィア研究 シス テ ム を経 て ,92年 2月 よ り現職 .コ イの 嗅常 ,フ ク
ロ ウの聴覚 の研 究 の後 ,今 はサ ルの視覚 に熱 中 して い る。国内外 の
か つ ての同業者 に会 う と,「 次 はヘ ビの 体性 感覚 か 」 な どとか らか
われ る.趣 味 :博 物学 (昆 虫 ,魚 ,鳥 ,骨 ,石 器 )と 終神経 (生 体
の科学 42(3):237-239,1991).
80484621111
-51-
内線 6412
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