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第6回COE研究会・国際開発学会広島支部2003年度例会 「社会的環境管理能力の形成における法整備と制度変化」 社会的環境管理能力の形成と 制度変化 岡田紗更・松岡俊二・木戸謙介・本田直子 広島大学大学院国際協力研究科 報告の構成 1. 報告の目的と背景 2. 社会的環境管理能力の定義 3. 社会的環境管理能力の形成と制度変化の モデル化 4. モデルの検証 :宇部市の事例を用いて 5. 結論と今後の課題 1. 報告の目的と背景 報告の背景 従来の技術協力分野における能力開発への 批判・反省 1.個人・組織の能力向上に偏重 ↓ ・ミクロレベルでの技術は向上 ・ローカルな制度・国家全体の持続的な能力 向上に寄与していない Fukuda-Parr. et.al. (2002) 報告の背景 従来の技術協力分野における能力開発への 批判・反省 2.ドナー主導の単純な技術置換・マネジメン ト体制によるオーナーシップの欠如 ↓ ・“パートナーシップ”、“政策対話 (Policy Dialogue)”、”参加型援助 (participation)” の必要性 Fukuda-Parr. et.al. (2002) 報告の背景 能力形成における「関係性」の重視 z 社会レベルでの能力向上:能力は個人・組 織間関係の中で形成される z 地元の知識の重要性・暗黙知の獲得(ド ナーと被援助国の知識ネットワーク・知識 コミュニティの形成) z 参加型意思決定プロセスに基づくオー ナーシップとパートナーシップの重要性 Fukuda-Parr. et.al. (2002)、JICA (2003) 能力開発:概念の系譜 アプローチ 195060‘s 制度構築 196070‘s 制度強化 1980‘s 制度開発 公共部門の個々の組織の能力強化 Institutional Building Institutional Strengthening Institutional Development 1990‘s 特徴 能力開発 Capacity Development 公共部門全体の制度形成 既存組織の実施能力の強化 官民両セクター間の連携およびそのための長期的政策 への支援 プロジェクト支援からプログラム支援への移行 長期の自生的な構造の形成 公共と民間のパートナーシップ (PPP) 人間開発 (Human Development) 持続可能な開発と環境対処能力 (CDE) 報告の背景 社会全体の能力開発のための必要課題 z 制度革新 (Institutional innovation) z 途上国の制度、政策能力に応じた能力開 発アプローチの構築 z 社会全体の能力向上のための援助策定 に有効な分析フレームワークの体系化 能力と制度の関係を解明するツール 報告の目的 1. 社会的環境管理能力の概念を明確化 2. 環境管理能力の発展モデルを提示:社会 的環境管理能力の形成と制度変化のダイ ナミズムを把握 3. モデルの有効性を検証:山口県宇部市の 公害対策を事例に 2. 社会的環境管理能力 の定義 社会的環境管理能力(SCEM) -定義 中央・地方における政府、企業、市民という社会 的アクターの能力および各アクター間の関係に より構成された環境管理能力 社会的環境管理システムの稼動力 各アクターの能力・関係は基本的要素(政策・対 策、人材・組織、知識・技術)により規定される 3. 社会的環境管理能力の形成 と制度変化 社会的環境管理能力と制度変化モデル 制度(Institutions) 社会におけるゲームのルール。人々によって考案された 制約であり、人々の相互作用を形作る。 – フォーマルな制度:公式化・形式化されたルール (憲法、制定法、条例、契約など) – インフォーマルな制度: 社会的に伝達された文化に由来 (行為コード、慣習、行動規範など) フォーマルな制度変化に伴って変化するとは限らない North (1990) 制度変化 z フォーマルな制度とインフォーマルな制度 の変化 z 相対価格の変化(技術革新)、嗜好の変化 (情報、知識の拡大)、外圧などによる漸進 的変化 z 経路依存性:制度パフォーマンスは歴史的 な経路に依存する 能力と制度 ガバナンス(Governance) 「規制や行動規約などの社会制度などを含め、特 定の課題に関して機能する政治システム」 (Rosenau & Czempiel 1992) 社会関係資本(Social Capital) 信頼、規範、人的ネットワークの蓄積が、制度パ フォーマンスを左右する (Putnam 1993) SCEMと制度変化 (1) 外圧 内圧 社会経済的背景 ・歴史・文化 ・相対価格(技術革新と取引価格の変化) ・嗜好の変化(知識・情報) 制度(INSTITUTIONS) 環境問題の特徴 社会的環境管理能力 フォーマルな制度変化 インフォーマルな 制度変化 アクターの能力 と アクター間関係 パフォーマンス(環境質の改善) SCEMと制度変化 (2) フォーマルな 制度 環境法・環境行政・ 環境情報の整備 SCEM 技術革新 知識・情報獲得 外圧・内圧 環境質改善 アクターの意識・ 行動様式の変化 インフォーマル な制度 4. 社会的環境管理能力の形成 と制度変化 社会的環境管理システムの 発展ステージモデル 社会的環境管理システム 発展ステージ 汚染レベル 社会的環境管理能力 環境クズネッツ曲線 転換点 自律期 システム形成期 本格的稼動期 経済成長 年 政府 市民 企業 社会的環境管理システム 発展ステージ(中国) 社会的環境管理 能力 上海万博 (2010) 北京オリンピック (2008) 第10次5カ年計画 (2001) 国家環境保護総局 SEPA (1998) 中国環境年鑑 (1990) 環境保護法 (1989) 第9次5カ年計画 (1996) 工業SO2排出量ピーク 大気汚染防止法改正 (1995) 国家環境総局 NEPA (1984) 第6次5カ年計画 (1981) 環境保護法・試行 (1979) 発展ステージ システム形成期 GDP per capita Year 本格的稼動期 自律期 社会的環境管理システム 発展ステージ(インドネシア) 社会的環境管理 能力 一人あたりGDP もしくは年 ブルースカイ・プログラム(LANGIT BIRU) (1992) 大気環境基準 (1988) 環境管理庁(BAPEDAL) (1990) 環境影響評価規則・ガイドライン (1986) 環境管理基本法 (1982) ステージ 環境白書 (2003) GDP per capita Year システム形成期 4. 宇部市の社会的環境管理能力 と制度変化 宇部市を考察する意義 汚染物質の変化に伴う社会的環境管理能力と 制度の変化が観察される 煤塵対策に実効性を有した制度 ↓ SOx対策に実効性を有した制度 宇部市の煤塵対策 1949年 「降ばい対策委員会」設置 1950年 煤塵モニタリング開始。結果は毎月新聞に掲載。 1951年 科学的調査に基づき、集塵装置の設置、散水車の購入、緑化 促進が議会に提言される。 「煤塵対策委員会」設立・・・宇部モデル(フォーマルな制度) 1952年 企業の抵抗が続き、市民が決起大会を開き煤塵対策を要求。 1953年 宇部興産中安副社長が米国・ピッツバーグ市を訪問。その後 『ダスト・イズ・マネー』を合言葉に、方向転換を図る。集めた煤 塵で高品質セメントを開発。売上金で、集塵装置の購入資金に あてる。・・・インフォーマルな制度変化 1957年 市長と事業者の首脳懇談会において煤塵対策の数値目標を締 結。 宇部方式(宇部モデル)の定義 z 「行政(市)、企業、学識者及び市民が様々な情 報や科学的データを基に公害防止対策について 話し合い、それを自発的に実施」する取り組み (日本の大気汚染経験検討委員会 1997) z 「情報の公開を基礎に、地域の「産・官・学・民」 の四者が相互信頼、連帯の精神に根ざして・・・ 自治意識のもと、科学的調査データに基づく話し 合いによる発生源対策を第一主義に、法令や罰 則に頼ることなく・・・公害の未然防止と環境問題 の解決を図ろうとする地域ぐるみの自主的な活 動」 (宇部市 2002) 宇部モデルとSOx対策 1960年 1960年 1962年 1965年 1968年 1969年 「大気汚染対策委員会」・・・フォーマルな制度変化 (形骸化) SOx測定器を設置(17ヶ所) SOx自動測定器を購入、常時測定を開始。 宇部窒素工場において排煙脱硫装置設置:普及せず 大気汚染防止法の施行・・・外圧 大気汚染緊急時措置要項 大気汚染注意報・・・外圧 1970年 大気汚染警報の発令回数が12回を記録→工場の操業カット。 公害国会。・・・外圧 市の公害対策課を設置 「公害対策審議会」 1971年 市内主要工場12社と公害防止協定を締結 (フォーマルな制度 変化)。翌、1972年に細目を締結。煤塵対策に加え、SOxの環境 保全目標を1974年を目標年として、0.034ppmとした。その後、数 回に渡り公害防止協定の改定を行った。 公害防止協定 z 地方公共団体が汚染発生源を有する事業者に 対して、公害の規制基準、生産設備の新増設時 の協議等、公害防止に関する措置について協議 し、双方が合意した内容を協定書の形でまとめ たもの。 (日本の大気汚染経験検討委員会 1997) ⇒宇部モデル(VA)よりも、政府の関与が強まり、 成文化されたことにより社会的な拘束力を持つと いう点で直接規制(CAC)的な性格を有する。 宇部市のSCEMと制度関係 煤塵対策 SOx対策 1970:公害対策審議会 1949:宇部市降煤対策委員会 1969:大気汚染 宇部市公害対策課 1951:煤塵対策委員会 緊急時措置要項 フォーマルな 1971:公害防止協定 制度 煤塵濃度低下 SOx濃度低下 宇部方式 1953:「ダスト・イズ・マネー」による 企業の自主的取り組み SEMS発展 ステージ 公害国会 大気汚染 防止法 インフォーマル な制度 市民運動・ ピッツバーグ 訪問 社会的環境 管理能力 システム形成期 市と企業間における、 拘束力を伴う対策にシフト 本格的稼動期 宇部市のSEMSと制度変化 社会的環境管理能力 公害防止協定 I2 警報発令・操業カット 制度2(公害防止協定) SOx 注意報発令・操業カット 大気汚染防止法 I1 煤塵 1949 SCEM発展 ステージ 1951 システム形成期 1968 制度1(宇部モデル) 1971 本格的稼動期 5. 結論と今後の課題 (年) 結論 z 社会的環境管理能力は制度変化との相互作 用の中で形成・発展する。 z 社会的環境管理能力は外圧、技術革新、知 識・情報の獲得の影響を内部化しパフォーマ ンス(環境質の改善)としてだせる能力である。 z 環境質の違いにより、必要とされる制度と社 会的環境管理能力の大きさが異なる。 今後の課題 z 外圧、技術革新、知識・情報獲得が内部化 する過程の解明と、能力向上・制度変化に 与える影響の指標化 z 社会的環境管理能力の定量的分析手法 の開発 z 全国的な工業型汚染対策能力のモデルと の比較 z 途上国における発展モデルへの適用 参考文献 z z z z z z z z z Fukuda-Parr, Sakiko., Lopez, Carlos., and Malik, Khalid. eds. 2002. Capacity for Development - New Solutions to Old Problems-. UNDP. Japan Society for International Development (JASID). 2003. Environmental Center Approach: Development and Social Capacity for Environmental Management in Developing Countries and Japan’s Environmental Cooperation. JICA. Matsuoka, Shunji. and Kuchiki, Akifumi. eds. 2003. Social Capacity Development for Environmental Management in Asia: Japan’s Environmental Cooperation after Johannesburg Summit 2002. Institute of Developing Economies. 日本の大気汚染経験検討委員会、1997、『日本の大気汚染経験』、The Japan Times。 North, Douglass C. 1990. Institutions, institutional change and economic performance.New York: Cambridge University Press. Putnam, Robert D. 1993. Making Democracy Work: Civic Traditions in Modern Italy. Princeton: Princeton University Press. 宇部市、2002、『宇部方式』、宇部市。 UNEP and WHO. 1996. GEMS/AIR Air Quality Management and Assessment Capabilities in 20 Major Cities. London: MARC. 財団法人国際開発センター・アイ・シー・ネット株式会社、2003、『プロジェクト 研究 「日本型国際協力の有効性と課題」』、国際協力事業団。