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電力子会社改革のあり方 - Nomura Research Institute
NRI K NOWLEDGE INSIGHT 2012 MAR. VOL.23 当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断 転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の 著作権法及び国際条約により保護されています。 Copyright ⓒ 2012 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission. 3 電力子会社改革のあり方 樋詰伸之 インフラ産業コンサルティング部 上級コンサルタント 対して、電力インフラの耐用年数は比較 している。 スマートグリッドなど電力高度化に向け にならないほど長い。鉄道インフラの耐 一方、電力事業者においては、スマー た動きへの対応も視野に入れて議論され 用年数も長く、例えば電車は13年である。 トグリッド構築に向けて、送電網の強化 るべきである。 日本のインフラ業界は高コスト構造で 電車に関しては、夜間等は運航せず点検 や配電・変電の高度化を推進していくこ あるといわれる。土地・人件費が相対的 が可能となるが、同様に耐用年数が長い とが喫緊の課題である。具体的には、超 に高い国土において、法人や家庭が求め 電力インフラには点検等のための休みが 高圧送電の敷設を通じて、電力供給の広 る高い品質と安定供給を実現しようとす ない。 域連携を図り、面単位で需給ギャップを 6 れば、投資及び運営コストは高くなる。 原子力、水力、火力発電所ともに電気 解消することや、配電設備や変電設備の 近 年、 業 界 再 編 や ク ロ ス ボ ー ダ ー 国内電力会社の原価低減活動は手ぬる 事業法に基づく定期検査や定期安全検査 自動化・高度化により送配電系統の管理 M&Aが活発化しつつある。電力業界も いかといえば、必ずしもそうではない。 等に合格し、それを繰返すことにより、 レベルを向上させること等である。 例外ではない。業界再編やM&Aは市場 例えば、「東京電力経営ビジョン2010」 半永久的に運転を継続することができる。 既に国内の電力網は高度な機能を有 競争の中では当然起こりうることであり、 における業務効率改善目標は平成15年 最も身近な電力設備として、電柱や柱 していると言われているものの、これ 合理化に向け規模の経済性発揮は必要で 度比で20%以上である。 上変圧器等の流通設備があげられる。平 らを推進するためには、過去設置され ある。 他方、電力事業では度々大きな事故が 成22年末時点における電力10社の鉄塔・ た設備機器を入れ替えるとともに、新 ただし、一部の電力流通設備について 発生していることも考慮する必要がある。 電柱数(配電設備支持物)は総計2,139 旧機器が混在する状態で電力を安定供 は、大手企業が採算性の観点から撤退 原子力発電関連では、高速増殖原型炉 万本であり、変圧器は990万台となって 給する制御システムのさらなる高度化 し、電力子会社や中堅企業が支えている 「もんじゅ」事故(平成7年) 、浜岡原子 いる。変圧器には多様な種類があり機種 が必要となる。 という実態もある。また、M&Aを繰り 力発電所事故(平成11年)、美浜発電所 性能によって差異はあるものの、代表的 実際には、スマートグリッド化に伴い 返し成長し続ける企業が多数ある半面、 資料:東京電力に関する経営・財務調査委員会報告書より抜粋 3号機事故(平成14年)などが記憶に な設備である柱上変圧器をみると、耐用 すべての機器を入れ替える必要性はない M&Aに失敗し、財務体質を悪化させ事 新しい。また平成18年10月から11月に 年数は税法上で18年、学会推奨では25 が、需要側の様々な需要に対応するため 業撤退を余儀なくされる企業も星の数ほ 電力会社は、これまで実施してきた原価 かけて、複数の電力会社において、過去 年となっている。 には、段階的に送電・変電・配電網に関 どある。短期的な経済合理性だけで判断 わる流通設備を高度化する必要がある。 することは、国益を損じることにもなり 福島原子力発電所問題を契機に、東京 けた「関係会社の取引における発注方法 電力の子会社及び関連会社の合理化・再 の工夫」の必要性が言及された。また委 編が検討されている。 員会報告において「継続」とされた関係 3 電力インフラの耐用年数は長く、安定 会社についても、下表に示すように、合 的なサービス供給を担保するには、設備 理化や事業再編の推進が求められている。 製造・保守サービスを担う企業の事業継 続性や環境変化に耐えうるだけの財務体 力が必要となる。 近視眼的な経済合理性だけでなく、“イ ンフラ50年”を視座とした改革が展開さ れることが望まれる。 図表1:東京電力関係会社における存続会社の扱い ①コスト削減による合理化 存続対象とする関係会社において固 定費の圧縮等を図ることにより連結 ベースでのコスト削減を見込む ②再編による合理化 類似又は関連した機能を有する関 1 効率化の波が押し寄せる 電力業界 平成24年1月末に東京電力を除く電 力9社の平成23年4~12月期連結決算 が発表された。 相次ぐ原子力発電所の停止に伴い、火 力発電をはじめとする燃料費負担の大幅 増により7社が赤字へ転落している。 係会社を統合することで重複した 機能・人員配置を見直し、コスト 削減・効率化を図る。 【再編の軸】 発電設備、送配電設備 顧客管理、不動産管理 電力安定供給と合理化の ジレンマ “インフラ50年”を視座とした 改革シナリオの必要性 現在家庭向け電力料金を定める総原価 低減活動に加え、子会社・関連会社のガバ における発電所に関する書類の不備や、 電力インフラの耐用年数は非常に長い 方式の見直し作業が進められているなか、 ナンスのあり方についての対応が求めら データの不適切な取扱い等の問題が明ら ため、安定供給を実現するには、長期に また、長期間にわたる電力の安定供給に かねない。 世論の関心が電力会社のコスト体質に集 れることが予想される。次節以降では、① かになった。このように、電力会社は、 わたって安定的にインフラを管理できる 向けては、様々な研究・実証研究をもと 東日本大震災の際、首都圏の電力・ まっている。平成24年4月には、東京 電力安定供給と合理化のジレンマ、②イン 歴史的に大事故が発生するリスクと向き 体制が堅持できているか、という点も大 にさらなる高度化が必要になる。 交通・通信網の機能不全が発生し都市 電力再建に向けた総合特別事業計画が発 フラ対応年数と保守・交換、③スマートグ 合いながら、安定供給を実現させなけれ きなポイントになる。 電力子会社改革に向けては、こうした パニックとなったことは記憶に新しい。 表される見通しであるが、同社に対して、 リッド化への対応といった側面から、電力 ばならず、安全と合理化のジレンマを抱 大胆な合理化・効率化努力が要請される 子会社の改革や再編について考察する。 えている。 力会社にも及ぶことは必至である。 2 電力子会社ガバナンスの 行方 電力子会社や関連会社のあり方につい ても見直しの必要性が高まっている。 平成23年10月末に発表された「東京 電力に関する経営・財務調査委員会報告 書」では、資材・役務調達費用削減に向 01 図表2:東京電力関係会社の分類結果と売却方針 国内事業 海外事業 再編合理化 5 0 存続合理化 29 25 売却(存続) 27 7 非継続(54社) 売却(清算) 12 0 6 2 継続(59社) 清算 資料:東京電力に関する経営・財務調査委員会報告書より抜粋 スマートグリッド化への 対応 図表3:流通設備高度化イメージ 品質維持、安全・安定供給、 合理化を避けることは難しい。しかしな 5 がら、中期的観点で発生する各種リスク 今後10年間において、双方向の通信 関連会社の改革にあたって を踏まえながら慎重に判断することも不 機能を備えた新しい次世代電力計「ス は、短期的な合理化だけでは 可欠である。 マートメータ」が導入される見通しであ なく、対象企業の事業継続性 る。スマートメータ導入に伴いHEMS等 (安定供給)や中長期な環境 新たなビジネス機会が見込まれる。電力 変化を踏まえる必要がある。 需要問題が顕在化するなか、こうした新 イ ン フ ラ50年 を 視 座 と し たな市場獲得に向けて、電気メーカ、通 た改革に関するグランドデ パソコンの耐用年数は4年、冷蔵庫は 信メーカ、自動車メーカ等では単独ある ザインを描くことが必要で 6年、普通自動車は4~6年であるのに いはアライアンスによる参入戦略を検討 ある。 電力業界の置かれた現状を踏まえれば、 ことが予想される。この影響は、他の電 電力会社にとって、電力の 4 インフラ耐用年数と 保守・交換 高度化への対応は至上命題で ある。電力設備や機器を扱う 02