...

金融商品取引法

by user

on
Category: Documents
16

views

Report

Comments

Transcript

金融商品取引法
Financial seminar
■図表1 金融商品取引法の規制内容
ユーロマネー&早稲田大学ファイナンス研究科 金融ゼミナール
行為規制を受けることになりました。特
に、事前説明での行為規制や契約締結前
販売・勧誘
および契約締結時の書面交付義務、クー
金融商品取引法
2007年9月30日に施行された「金融商品取引法」。「証券取引法」から名称が変更
されただけでなく、投資家保護を強く打ち出し、あらゆる金融商品に対する横断
的な規制を強化する内容となっている。その一方で、金融市場の活性化を図るた
証券取引法
証券業(原則登録制)
第一種金融商品取引業
金融先物取引法
金融先物取引業(登録制)
流動性の高い有価証券の
販売・勧誘、顧客資産の管理など
商品ファンド法
商品投資販売業(許可制)
信託業法
リングオフの適用などの規制が課せられ
ることが重要です。
集団投資スキーム持ち分の自己募集
投資助言
これにより、金融庁がどんなファンド
に対しても直接、管理・把握できる仕組
投資運用
みができました。法律のグレーゾーンを
塞いだことで、投資家保護の強化と市場
信託受益権販売業(登録制)
証券投資顧問業法
証券投資顧問業(登録制)
証券投資顧問業法
投資一任契約にかかる業務(認可制)
投資信託・投資法人法
投資信託委託業・投資法人資産運用業(認可制)
集団投資スキームの財産の自己運用
資産管理
(証券会社の付随業務) 有価証券の保護預り
の公平性確保が期待できます。その半面、
金
融
商
品
取
引
業
︵
登
録
制
︶
■図表2 特定投資家(プロ)と
一般投資家(アマ)の区分
投資運用業
A:一般投資家への移行不可
● 適格機関投資家など
プロ
B:一般投資家への移行可能
● 上場企業など
アマになれるプロ
特定投資家
(プロ)
投資運用
第二種金融商品取引業
流動性の低い有価証券の販売・勧誘など
移行可能
特定投資家への移行可能
●A、B以外の法人
プロになれるアマ
●一定の要件に該当する個人
投資助言・代理業
投資助言など
一般投資家
(アマ)
※業務の種別に応じた参入規制
・個人による参入の可否
・財産的基盤
・人的構成の適確性
など
特定投資家への移行不可
●個人
アマ
(出所:金融庁ホームページ)
(出所:金融庁ホームページ)
め、機関投資家を中心とした“プロ”への取引については規制を緩和する内容も
これまで規制されていなかった私募ファ
盛り込まれている。上場企業にとっては「日本版SOX 法」として内部統制を強化
ンドなどに対して規制を行うことは、自
取引の活用を阻害し、機関投資家などの
一方、プロを選んだ場合には、面倒な手
事業年度ごとに財務報告にかかわる内部
する対応が迫られることになる。
由な市場取引を制限する過剰規制になる
運用にかえってマイナスの影響が出るこ
続きもなくストレスなく取引が行えるも
統制報告書の提出が義務となります。し
のでは、との懸念もあります。
早稲田大学大学院
ファイナンス研究科教授
岸田 雅雄先生
すべてのファンドが規制の対象に
とも考えられます。そこで金商法では、
のの、投資家保護の対象とならないため、
かも内部統制報告書には公認会計士また
金商法のファンド規制強化が、金融庁の
投資家を特定投資家(プロフェッショナ
何か問題が発生した場合にも自己責任に
は監査法人の監査証明が必要です。あわ
目論見通りフェアな市場の実現により、投
ル)と一般投資家(アマチュア)に区分
なる可能性が高くなります。
せて四半期報告書の提出も義務付けされ
資家が安心して取引することができ、市
し、デリバティブ取引については、プロ
金融商品を提供する側としても、アマ
ます。企業の情報開示のルールを厳格
これまで各々の法律で規制されていた
場が活発になるのか。それとも過剰規制
向けの行為規制は緩和する措置が取られ
を対象とする場合には時間や手間がかか
化・統一化し、投資家が安心して投資を
多くの金融商品が、金融商品取引法(以
を嫌ってヘッジファンドなどが日本市場か
ています。プロ向けについては販売・勧
るために、その分手数料によってコスト
行えるよう促す狙いがあります。
下、金商法)という一つの法律に統合さ
ら逃避してしまうのか。金商法による市場
誘の規制を緩め、詳しい説明義務や書面
を上乗せし、プロに対しては面倒な手続
金商法の規制強化を形骸化させないた
れ、一元的・横断的に規制されることに
への影響については、施行半年足らずの
交付を不要にし、スピーディーな取引を
きがいらないので手数料を安くするとい
め、有価証券報告書の虚偽記載やインサ
なりました
(図表1)
。金商法は、預金、保険
現段階では何ともいえず、もう少し時間を
促しています。一方、クーリングオフ制
った対処を行うことが考えられます。プ
イダー取引などについて罰則が強化され
なども含むあらゆる金融商品の規制を一
置いて考えてみる必要があると思います。
度は適用されないなど、アマのような投
ロにもアマにもなれる投資家にとって、
ました。罰金や懲役といった刑事罰の引
資家保護は適用されず、投資家の自己責
金融知識の有無にかかわらず、手数料が
き上げはもちろん、不正な取引を行った
任が求められる仕組みになっています。
高いか安いかでプロを選ぶといったケー
企業に対して、新たに課徴金制度を導入
スも出てくるかもしれません。
しました。課徴金制度は行政罰であって
本化した英国の金融サービス市場法がモ
デルで、事前規制の色彩が濃い法律とな
デリバティブ取引の規制拡大
っています。その点を過剰規制と批判す
今回の金商法施行に伴い、規制面が強
る向きもありますが、米国のような事後
化されたものとして挙げられるのがデリ
規制型の法規制では、金融商品販売後に
バティブ取引です。従来は、証券取引法
トラブルが発生した場合、事あるごとに
により有価証券に関連するデリバティブ
(図表2)
。第1は「アマになれないプロ」
裁判になり、そのたびに争わなければな
取引が、金融先物取引法により為替、金
1970 年滋賀大学経済部、1972 年神戸大
学法学部卒業。1974年最高裁判所司法修
習生終了。1974年から神戸大学法学部助
手、助教授、教授、2000年同大学院法学研
らないというデメリットも考えられます。
金商法の大きな特徴の一つは、これま
究科教授を経て、本研究科教授。著書に
PROFILE.きしだ・まさお
『ゼミナール会社法入門』
『ゼミナール企業
取引法入門』
(日本経済新聞社)など。公認
会計士試験委員、金融庁企業会計審議会臨
時委員等を歴任。
明らかなプロや明らかなアマにとって
刑事罰のような厳格な手続きなしにスム
は、今回の金商法による投資家別の規制
ーズに執行できるメリットがあり、イン
の違いにメリットを感じても、プロ・アマど
サイダー取引の場合には、不正に得た利
で適格機関投資家と呼ばれるものです。
ちらにもなれる投資家にとっては、どち
益の1.5倍程度を請求するなど、金銭利益
利、通貨デリバティブ取引が規制されて
国や日本銀行、金融機関などがこれにあ
らを選んでも中途半端になりかねない危
を吐き出させることによる合理的な抑止
いました。金商法施行によって、これま
てはまります。どんな場合にも必ずプロ
惧もあります。こうした投資家は慎重にプ
効果を狙ったものです。
で法律の抜け穴となっていた、集団投資
で規制の対象外だった金利、通貨スワッ
として扱われます。第2は「プロになれな
ロ・アマを選択する必要があると思います。
スキーム(いわゆるファンド)を新たな
プ取引、天候デリバティブ取引、クレジ
いアマ」
。ごく一般の個人投資家がこれに
規制の対象に加えたことです。金商法に
ット・デリバティブ取引などが新たに規
あたり、常にアマとして扱われます。
おける集団投資とは、①他者から金銭等
制の対象となりました。
プロ・アマには4つの区分があります
2007年9月末の金商法施行前後には総
じて規制に対する過剰な拒否反応も見ら
プロ向けの専門市場創設へ
れましたが、
「フリー」
「フェア」
「グロー
投資家保護を目的とした金商法は、フ
バル」な金融市場を実現するために必要
の出資(拠出)を受け、②その財産を用
金融庁がデリバティブ取引の規制強化
と第4の「プロになれるアマ」です。アマに
ェアな投資が行えるよう、企業の情報開
不可欠なインフラともいえます。プロ向
いて事業を行い、③当該事業から生じる
に乗り出した背景には、日本におけるデ
なれるプロとは、政府系機関や地方公共
示とコンプライアンスの重視を求める
「日本
けの専門市場の創設、グループ内の銀
収益等を出資者等に分配するような仕組
リバティブ取引高の増加と、取引の多様
団体、一定規模以上の企業などです。プ
版SOX法」
としての役割も担います。SOX
行・証券・保険間に存在するファイアー
みを持つものを指します。つまり、REIT
化・複雑化が進んだことにあると考えら
ロになれるアマとは、企業やプロに準じ
(サーベンス・オクスリー)法とは、2002年
ウォール(業務障壁)の規制緩和、課徴
(リート)やヘッジファンドなど、組織形
れます。デリバティブ取引によって、最
る者としての要件を満たす個人などです。
に米国で成立した企業改革法で、内部統
金の大幅引き上げなどの改正案が2008年
態にかかわらずすべてのファンドが規制
終決済時に大きな損出が発生し、企業の
このどちらも自らの選択によりアマに
制システムの義務付けおよび監査体制の強
3月に閣議決定したこともあり、今後の
の対象になることを意味しています。
存続自体まで危うくなる可能性もあるた
なったりプロになったりすることができ
化を目的としたものです。近年頻発した粉
動向も気になるところです。
複雑なのは、第3の「アマになれるプロ」
め、規制強化および開示制度を拡充し、
ます。金融取引を活発に行う企業にとっ
飾決算など、企業の不正会計による投資
金商法が日本にフェアな投資ルールを
合形態、合同会社、合名会社など株式会
定性・定量情報の開示により、リスクの
てどちらを選択するかは難しい問題です。
家被害を防ぐことを目的とし、日本では金
根付かせ、国際競争力ある魅力的な金融
社以外の組織によるファンドについても、
可視化に重点が置かれました。
アマを選べば投資家保護の対象となる半
商法の一部として組み込まれ、該当部分の
市場の整備に役立つかどうかは、マーケ
面、説明や書面交付に時間がかかり、迅
法規制は2008年4月に施行となりました。
ットが長い目で判断することになるので
証券取引法では規制の対象外だった組
28
プロとアマの選択は慎重に
第二種金融商品取引業者として登録が必
ただ、一面的な規制強化だけでは、市
要になり、一定の場合の開示規制および
場のニーズに応えた高度なデリバティブ
EUROMONEY Japanese Edition Spring 2008
速な取引を行えない可能性が出てきます。
原則すべての上場企業が対象となり、
はないでしょうか。
EUROMONEY Japanese Edition Spring 2008
29
Fly UP