...

製鋼スラグからのリン回収の可能性

by user

on
Category: Documents
117

views

Report

Comments

Transcript

製鋼スラグからのリン回収の可能性
2016 年第 12 回早稲田大学リンアトラス研究所セミナー
2016 年 11 月 8 日
製鋼スラグからのリン回収の可能性
東北大学・工学研究科・金属フロンティア工学専攻
長坂徹也
1. はじめに
リン(P)は化学工業品、医薬品、鋼板表面処理などに使用され、化学肥料においては「い
のちの元素」とも呼ばれ、生体を構成するとともに、生命活動の維持に必要な代替不可能
な元素であると同時に、工業的にも極めて重要な元素である。リン鉱石は地域的な偏在が
著しく、中国、米国、モロッコ、ロシアで世界の産出量の約 95%を占める。自国での資源
確保の観点から、米国は 1996 年以降リン鉱石を輸出禁止品に指定しており、世界の人口増
加に伴う食糧調達とも関連して、将来的なリンの供給不安が叫ばれている。本講演では、
有望なリンの2次資源のひとつと考えられている、製鋼スラグからのリン回収の可能性に
ついて述べる。
2. 製鋼スラグとは
リンは鉄鋼にとって最も有害な不純物元素である。リンはほとんどの鉄鉱石中に 0.01%
前後の低い濃度で含有されている成分であるが、鉄鉱石から高炉プロセスで製造される銑
鉄(溶融 Fe-C 合金)中にほぼ全量移行する。この時の銑鉄(溶銑)中のリン濃度は高々0.15%
以下程度であるが、リンは鋼の低温脆性を助長するため、次の転炉製鋼プロセスで 90%以
上が P2O5 として酸化除去され、スラグ中に濃縮される。転炉出鋼後の粗鋼中のリン濃度は
0.01%程度まで低下するが、これに対応して、リンはスラグ中に数%のオーダーまで濃縮さ
れる。転炉における主目的は、溶銑の脱炭であり、我が国の高炉メーカーでは、転炉工程
前の溶銑段階で脱リンを目的とした溶銑予備処理を行うのが一般的である。この時の発生
スラグ(溶銑脱リンスラグ)は、
FeO-CaO-SiO2 を主成分とし、リン
はリン酸カルシウム珪酸塩
(3CaO・P2O5-2CaO・SiO2)の形
で、P 濃度で 5%近くに達する場
合もある。すなわち、鉄鉱石中の
微量のリンは、高炉・転炉法を経
て、約 100 倍以上の濃度になり、
高炉・転炉法は鉄鉱石中のリンの
高度濃縮プロセスとも言うことが
できる。
我が国の粗鋼生産量は約1億1
千万トンであり、このうちの約4
図1
リンの国内マテリアルフロー 1)
[テキストを入力]
分の3が鉄鉱石から高炉・転炉法を用いて
製造されるため、製鋼スラグ中に酸化除去
されるリンの量も極めて多いことになる。
著者ら
1)
によるリンの国内マテリアルフ
ロー分析の結果では、製鋼スラグ中に酸化
除去されるリンの量は、年間で 9 万トン強
であることが示されている(図1)。これ
はリン鉱石としてのリンの年間輸入量約
11 万トンに匹敵する量となっている。我
が国では鉄鉱石の長期的な安定供給が確
立されており、鉄鋼の副産物としてリンを
図2
溶銑脱リンスラグのミクロ組織
回収するプロセスの確立は、資源を持たな
い我が国の資源戦略にとって極めて有効であるが、製鋼スラグからリンを回収する方法に
ついては過去に幾つかの検討例があるものの、未だその明確な方向性を示す技術開発はな
されていない。
3. 製鋼スラグからのリン回収の試み
図2は、典型的な溶銑脱リンスラグのミクロ組織である。スラグは均一液体ではなく、
特に溶銑予備処理は転炉製鋼温度である 1600℃より 200℃以上低い温度(1300~1400℃)
で行われるため、スラグには固体のカルシウム珪酸塩が液体相と共存しているのが一般的
である。リンはこのカルシウム珪酸塩に濃縮しており、操業条件によってはリン鉱石と同
等の高いリン濃度を呈する場合がある。一方、液体相は FeO 濃度が高く、リンはほとんど
含まれていない。このことから、著者ら 2)は、粉砕した溶銑脱リンを高磁場勾配を利用して
磁気的に分離することを試みた。その結果、図2に見られるようなリン酸カルシウム珪酸
塩(3CaO・P2O5-2CaO・SiO2)、図2のケースでは P2O5=11%)を約 60%の効率で回収す
ることができた。
一方、脱リンスラグを高温で炭材と反応させると、リンは還元されるが、スラグ中の FeO
が優先的に還元されて生成する金属鉄相中
に溶解してしまうので、平衡論的にはリン蒸
気として回収することは難しいと考えられ
ていた。しかしながら、実際に脱リンスラグ
を還元すると、反応過程で一部のリンが還元
揮発し、黄リンとして回収できることがわか
った(図3)。これは FeO と P2O5 の還元速
度の差によると推測され、スラグから黄リン
図 3 溶銑脱リンスラグを炭素熱還元し
回収の可能性が示唆された。
た場合のリンの生成物分布
1) K. Matsubae, H. Kubo, K. Nakajima and T. Nagasaka: J. Industrial Ecology, 13 (2009), p.687-705
2) 久保裕也、松八重(横山)一代、長坂徹也:鉄と鋼、95 (2009), p.300-305
連絡先:[email protected]
Fly UP