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下水汚泥炭化物・鶏糞炭化物中のリン回収技術調査
75 環境リスク評価 下水汚泥炭化物・鶏糞炭化物中のリン回収技術調査 背 景 電気事業では CO2 排出抑制対策の一つとして、石炭火力発電所で下水汚泥炭化物をバイオマス燃料として 混焼している。炭化物中のリンは、燃焼後に石炭灰中に移行し、石炭灰のセメント原料としての品質に影響 することが懸念される。リン量が多い下水汚泥や鶏糞の炭化物から燃焼前にリンを分離抽出できれば石炭灰 の品質保持に寄与でき、回収したリンも資源として活用できる*。 目 的 下水汚泥や鶏糞中のリン資源量・基本化学性状およびリン回収技術に関わる技術情報調査を国内外の論 文・報告書類を対象に行うとともに、炭化物試料の酸・アルカリ抽出試験を行い、リン抽出分離の技術的可 能性について調査する。 主な成果 1.下水汚泥・鶏糞中のリン資源量 国内 2008 年度の下水汚泥中のリン量(P2O5)は年間 10.6 万 t、鶏糞中のそれは 10.3 万tと推定され、両者 の合計量は日本のリン原料輸入量の約 4 割に相当する(図 1)。炭化物の熱量と灰分の値は両者とも大差な い。灰分のリン量は両者とも平均 20%程度で、その他成分については、前者は鉄とアルミニウム、後者はカ ルシウムとカリウムが多い傾向があることが文献値の集計結果より示された。 2.炭化物の酸・アルカリによるリン抽出試験 下水汚泥炭化物 3 試料、鶏糞炭化物 4 試料を用いて、酸・アルカリ抽出試験を行った。酸抽出では、両炭 化物ともに 75~94%の高い抽出率を示したが、アルカリ抽出の抽出率は前者が 46~51%、後者が 2~12% に留まった(図 2)。これにより炭化物燃料中のリン抽出法として酸抽出がアルカリ抽出より高効率である ことがわかった。 3.炭化燃料からのリン回収法の予備的評価 酸抽出後の炭化物の燃料利用には乾燥処理が必要なため、遠心脱水後の試料の水分測定を行い、乾燥に要 する熱量を 1.1~2.9MJ/kg と推算した。この量は、酸処理による炭化物の高位発熱量注 1)の増加分(灰分の 減少により 4MJ/kg 程度増加)を下回るため、乾燥に要するエネルギーコストの影響は小さいと考えられる。 前項 2 と本項の結果から、炭化燃料の前処理技術として、酸抽出し、抽出液の重金属を分離除去してリン回 収する方法(欧州で開発中)が有望と判断した。 今後の展開 酸抽出による炭化物燃料からのリン回収方法の技術的課題について検討を行う。 主担当者 環境科学研究所 環境ソリューションセンター 上席研究員 安池 慎治 関連報告書 (報告書名の後に記載されているアルファベットと数字は、電力中央研究所報告の報告書番号です) ・下水汚泥炭化物・鶏糞炭化物のリン回収技術に関する文献調査およびリン抽出試験調査〔V10029〕 ・脱硫石膏および石膏ボード廃棄物を用いた環境浄化材の合成法の開発(その 4)- ベンチスケール製造 試験と土壌中重金属不溶化性能試験 - 〔V08015〕* 注 1)高位発熱量は燃焼ガス中の生成水蒸気が凝縮したときに得られる凝縮潜熱を含めた発熱量。 「地球工学研究所・環境科学研究所 研究概要 -2010 年度研究成果-」 ©CRIEPI 2011 75 120 年間発生量(×1000 P2O5 t/yr) 100 80 60 40 20 0 乳用牛 肉用牛 豚 採卵鶏 ブロイラー 下水汚泥 発生源 図 1 家畜排泄物・下水汚泥に含まれるリンの国内発生量の比較(2008 年) 家畜排泄物全体のリン含有量(P2O5)は 26 万tである。鶏糞(採卵鶏・ブロイラ ー)と下水汚泥については、炭化物の流通実績がある。 アルカリ抽出 酸抽出 鶏糞炭化物 下水汚泥炭化物 20 20 100% 18 100% 18 16 16 80% 14 12 50% 10 SS-3 8 SS-1 6 SS-2 20% 4 2 CM-4 0 0 2 4 6 CM-2 8 10 80% 14 SS-3 12 10 50% SS-2 CM-1 CM-3 CM-2 SS-1 8 6 CM-4 20% 4 2 CM-3 CM-1 12 液相中リン量 (g/L) 液相中リン量 (g/L) 鶏糞炭化物 下水汚泥炭化物 14 16 18 20 0 0 固相中リン量 (g P/ 200g Solid) 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 固相中リン量 (g P /200g Solid) 図 2 鶏糞炭化物・下水汚泥炭化物からのリン抽出試験結果 一般にアルカリによる抽出効率は酸による抽出よりも低く、特に鶏糞炭化物 ではほとんど抽出できないことがわかる。 「地球工学研究所・環境科学研究所 研究概要 -2010 年度研究成果-」 ©CRIEPI 2011