...

水熱反応を用いた下水汚泥焼却灰の 有効利用技術の検討

by user

on
Category: Documents
11

views

Report

Comments

Transcript

水熱反応を用いた下水汚泥焼却灰の 有効利用技術の検討
Ⅱ −3−1−5(1/3)
水熱反応を用いた下水汚泥焼却灰の
有効利用技術の検討
(株)神鋼環境ソリューション ○佐藤 朋弘
竹村 元伸
神戸市建設局
音瀬 保彦
1.はじめに
近年、循環型社会の実現に向け、下水汚泥焼却灰(以下、
「焼却灰」と表記)についてもさらなる有効利用
の拡大が求められているが、焼却灰を多様な資源化メニューに適用するためには、焼却灰に含まれる重金属
類への対策のほか、製品の使いやすさ(ハンドリング性等)の向上が必要である。
神戸市において従来より実施されている消石灰添加処理によれば重金属類の溶出を防止できるが、製品が
微粉末状であるため、用途によってはハンドリングしづらい、単体での使用が難しい等の課題があった。
そこで本研究では、重金属類の溶出抑制と同時に、粒状化することによりハンドリング性の向上等が可能
な、水熱反応処理システムの神戸市焼却灰への適用性確認、有効利用用途の検討を行った。
2.技術概要
水熱反応処理システムは、焼却灰
消石灰 Ca(OH)2
重金属
に消石灰、水を加えミキサーで混
合・造粒したのち、オートクレーブ
ケイ酸カルシウム結晶
☆
☆
☆
反応器にて処理するものである。
☆
☆
☆
石灰 Ca(OH)2 を添加すると、重金属
焼却灰中の二酸化ケイ素 SiO2 と消
☆
☆
☆
図-1 に水熱反応による重金属類
☆
☆
SiO2
☆
☆
☆
溶出抑制の原理を示す。焼却灰に消
類が難溶性塩の形態となる。さらに、
☆
☆ SiO2 ☆
SiO2
☆
シリカ SiO2
(焼却灰中に存在)
水熱処理
消石灰添加
難溶性塩を生成
[
]
150~300℃
飽和蒸気圧
重金属類を封じ込め、溶出抑制
図-1 水熱反応の原理概念図
石灰を水熱反応条件下(150~300℃
/飽和蒸気圧)で反応させると、ケイ酸カルシウムの結晶が生成し、焼却灰粒子を結合させるとともに難溶
化した重金属類を結晶内に封じ込める。
3.実験方法
(1) 実験装置
本実験で使用した装置は次のとおりである。
①混合撹拌機
・用途:水熱反応処理の前処理として粉体である焼
却灰と添加剤の混合・造粒を行う。
・内容積:5 リットル
②オートクレーブ
・用途:水熱反応器(電気ヒーター加熱)
・内容積:20 リットル
図-2 混合撹拌機
(426)
図-3 オートクレーブ
Ⅱ −3−1−5(2/3)
(2) 実験手順
実験に供する焼却灰は神戸市建設局東部スラッジセンターにて採取した。消石灰の必要量を定量的に把握
するため、消石灰添加前の焼却灰(以下、
「未処理灰」と表記)を使用した。実験手順は以下のとおりである。
①焼却灰に所定量の消石灰(特号)と水を添加し、混合撹拌機により均一な混合と造粒を行う。
②造粒した試料をオートクレーブ内の気相部の容器に入れる。
③オートクレーブ底部に水を張り、外部ヒーターにより加熱して発生する水蒸気により造粒試料は所望す
る水熱反応条件(温度・圧力)で加熱処理される。
④所定時間保持し、脱圧後に処理灰(製品)を取り出し、品質確認(分析)を行う。
4.実験結果
(1) 未処理灰性状
採取日の異なる 2 種類の未処理灰Ⅰ(採取日:2009/12/14)
、未処理灰Ⅱ(採取日:2010/1/26)を用い、
計 2 回の実験を行った。
未処理灰Ⅰ、Ⅱについて、元素分析結果を表-1 に、重金属類の含有量および溶出量を表-2 に示す。含
有量は平成 15 年環境省告示第 19 号(以下、環告 19 号)による含有量試験、溶出量は平成 3 年環境庁告示
第 46 号(以下、環告 46 号)による溶出試験にしたがって分析した。
未処理灰には鉄、リン、ケイ素、アルミニウムの順に多く含まれていた。鉄は汚泥処理工程で使用された
凝集剤由来とみられる。重金属類の含有量は全項目とも土壌環境基準を大きく下回ったが、溶出量について
は、未処理灰Ⅰがヒ素およびホウ素、未処理灰Ⅱがヒ素、セレンおよびホウ素で基準値を上回った。
表-1 未処理灰の元素分析結果
元素 [wt%]
Fe
K
未処理灰Ⅰ
Si
9.32
Ca
4.57
Al
5.71
20.80
0.72
Na
0.85
10.52
P
Mg
1.72
S
0.41
Cl
0.04
未処理灰Ⅱ
8.93
5.06
5.30
19.37
0.90
0.20
10.65
2.34
0.44
0.03
表-2 未処理灰の重金属類含有量と溶出量
項目
単位
環告 未処理灰Ⅰ
19号 未処理灰Ⅱ
含有量 基準値
mg/kg
環告 未処理灰Ⅰ
46号 未処理灰Ⅱ
溶出量 基準値
mg/L
Cd
Pb
Cr6+
T-Hg
As
Se
F
B
<5
42
<5
<0.1
11
<5
31
47
58
59
<5
35
<5
<0.1
14
<5
150以下
150以下
250以下
15以下
150以下
150以下
0.003
<0.005
<0.02
<0.0005
0.39
0.008
<0.2
1.6
0.002
<0.005
<0.02
<0.0005
0.38
0.033
0.3
1.3
0.8以下
1以下
0.01以下 0.01以下 0.05以下 0.0005以下 0.01以下 0.01以下
4000以下 4000以下
(2) 処理灰性状
図-4 に処理灰の写真、表-3 に実験条件および処理灰の溶出試験
結果(ヒ素、セレン、ホウ素)を示す。ヒ素、セレンについては、水
熱反応処理により、全 9 条件で大幅に基準値を下回った。ホウ素につ
いては、消石灰添加率 5%では基準値をやや上回り、10%ではケースに
よっては基準値と同程度、15%添加すると大きく基準値を下回った。
消石灰添加量が多いほど、添加した消石灰中のカルシウムが効率良く
反応したためと考えられる。なお、反応時間については、灰組成の変
動等を考慮し 20 時間とするのが確実と考えられる。
(427)
図− 4 処理灰
図-4
処理灰
Ⅱ −3−1−5(3/3)
以上より、神戸市焼却灰では、反応温度:165℃、反応時間:20 時間、消石灰添加率:15%の条件で水熱
反応処理すれば、重金属類の溶出抑制が可能であることが示唆された。
表-3 実験条件および処理灰の溶出試験結果
未処理灰
反応温度
反応時間
消石灰添加率(灰当たり)
水添加率(灰当たり)
As
Se
Ⅰ
環告46号
B
溶出量
As
[mg/L]
Se
Ⅱ
B
0.39
0.008
1.6
0.38
0.033
1.3
条件1
条件2
条件3
条件4
20時間
5%
10%
15%
5%
40%
42%
44%
38%
0.009
0.006 0.002 0.006
0.002 <0.002 <0.002 0.002
1.2
0.4
0.5
1.4
0.006
0.003 <0.002 0.006
<0.002 <0.002 <0.002 <0.002
1.2
0.9
0.5
1.1
処理灰
条件5 条件6
165℃
条件7
条件8
条件9
15時間
10%
15%
5%
10%
15%
40%
42%
38%
40%
42%
0.003 <0.002 0.006 0.005 <0.002
0.002 <0.002 0.003 0.002 <0.002
0.6
0.5
1
0.9
0.4
0.003 0.002 0.009 0.006 0.002
0.002 <0.002 <0.002 <0.002 <0.002
1.0
0.6
0.9
0.9
0.6
土壌環境
基準値
[mg/L]
0.01以下
0.01以下
1以下
0.01以下
0.01以下
1以下
100
5.処理灰の有効利用用途
処理灰の 50%径は 1mm 程度であり、未処理灰に比べ飛散
処理灰Ⅱ(条件5)
さ比重(見掛比重)は約 0.9 と比較的軽量で利用しやすく、
未処理灰よりは高比重(約 1.4 倍)であるため、輸送コスト
の低減が可能である。
表-4 未処理灰および処理灰のかさ比重
未処理灰Ⅱ
0.640
処理灰Ⅱ(条件5)
0.919
累積 [wt%]
等の心配が少なく、ハンドリング性が良好である。また、か
50
0.5mm未満
0.5~1.0mm
1.0~2.0mm
2.0~5.0mm
5.0以上
0
0
0.96
2
wt%
23.9
28.1
42.6
5.2
0.2
4
6
粒径 [mm]
図-5 処理灰の粒径分布
その他、処理灰は栄養成分が豊富、水はけが良い、外観が園芸用土に似ている等の特徴をもつため、用途
ごとに品質評価を実施する必要はあるが、
歩道用舗装材やインターロッキングブロック、
法面緑化用土壌等、
様々な有効利用用途が考えられる。
6.まとめ
水熱反応処理システムの神戸市焼却灰への適用性確認、有効利用用途の検討を行った。
未処理灰に消石灰、水を添加し混合・造粒したのち、水熱反応処理(条件:165℃、20 時間、消石灰添加
率 15%)することにより、重金属類溶出量が土壌環境基準をクリアすること、また、ハンドリング性、運搬
性等の使用上のメリットが確認できた。本結果から、焼却灰の用途拡大への貢献が大いに期待できる。
今後、実用化に向けては、用途ごとに品質評価・改良を行い、引取先ニーズに合致した製品として完成さ
せることや、経済的なプロセスを構築することが課題である。
本研究は、神戸市平成 21 年度公募型共同研究「下水汚泥焼却灰の有効利用に関する新技術・製品開発に
ついての研究」において実施したものです。
問合わせ先:
(株)神鋼環境ソリューション 商品市場・技術開発センター 佐藤朋弘
兵庫県神戸市西区室谷 1 丁目 1-4 Tel:078-992-6957 E-mail:[email protected]
(428)
Fly UP