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小型羽ばたき飛翔体の揚力測定システムの開発とこれを用いた揚力測定

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小型羽ばたき飛翔体の揚力測定システムの開発とこれを用いた揚力測定
第 1章 緒 言
1.1 研 究 背 景
近年,微小空間における観測システムや無人偵察システムなどへ
の 転 用 を 目 的 と し て , 全 長 15 cm以 下 の 小 型 飛 翔 体 ( Micro Air Vehi
cle) の 開 発 が 注 目 さ れ て い る . 移 動 手 段 と し て 飛 行 を 用 い る 小 型 飛
翔体は,より障害物などの制限を受けずに行動可能であり,広範囲
を効率良く探査することができるなどの利点があるためである.小
型飛翔体を用いた観測システムの使用例としては,倒壊の危険のあ
る建築物内の探索や配管内部の保守点検などが挙げられる.これら
の目的に適う小型飛翔体には,自由度の高い操縦性と可能な限り無
補給で長時間の稼働ができることが求められる.
自然界に存在する鳥や昆虫は,羽ばたき運動を用いて高効率で自
由度の高い飛行を実現している.そのため,鳥や昆虫の飛行を参考
にすることは,小型飛翔体を用いた観測システムの実現に有効であ
ると考えた.
1.2 揚 力 測 定 システムの開 発 経 緯
本 研 究 室 で は ,羽 ば た き に よ る 小 型 飛 翔 体 の 飛 行 に 成 功 し て い る (1) .
しかし,羽ばたき運動がどのように揚力および推力を得ているのか
は未だ解明されていない.今後,さらに小型かつ効率的な羽ばたき
翅を持つ小型飛翔体を作るために,羽ばたき翅が生み出す空気力の
測定および解析を行うことで,より効率的に揚力および推力を得ら
れる翅の構造や材質を模索する必要があると考えた.本研究では低
速風洞を用いて模擬的な飛行状態を再現し,ロードセルによって翅
の生み出す揚力を測定するシステムの開発と,それを用いた揚力の
測定および解析を試みた.
第 2章 羽 ばたき飛 翔 体
2.1 製 作 練 習 用 機 体
小型羽ばたき飛翔体の制作技術の習得とその構造に対する理解を
深める目的で,飛行可能な羽ばたき飛翔体を制作した.製作練習用
機 体 の 概 要 を 図 2.1に , 諸 元 を 表 1に 示 す .
製作した機体は,コアレスモーターの回転をギヤで減速し,その
回転をクランクを用いたリンク機構に伝え翅を上下運動させること
で飛翔する.また,方向転換はコイルアクチュエータでラダーを左
右 に 動 か す こ と で 行 う . 翅 は 直 径 1 mmの カ ー ボ ン ロ ッ ド の 翅 軸 と ポ
リエチレンフィルムの翅膜からなり,ギヤボックスは軽量化のため
バルサ材をカーボン繊維板で補強したものを用いた.リチウムポリ
マ ー 電 池 を 電 源 と し , 2 ch赤 外 線 受 信 機 (IRX2N)お よ び 送 信 機 で ラ ダ
ー と モ ー タ ー 出 力 を 操 作 す る . ギ ヤ ボ ッ ク ス を 図 2.2, 図 3.2に , ラ
ダ ー を 図 2.4, 赤 外 線 受 信 機 を 図 2.5, 赤 外 線 送 信 機 を 図 2 . 6に 示 す .
完成した機体を実際に飛行させたところ,水平飛行が可能である
ことを確認した.しかし,急な旋回を行った際には大きく高度を落
としてしまったため,機体重量に比べて揚力にあまり余裕がないと
考えられる.
図 2.1 製 作 練 習 用 機 体
表1 製作練習用機体諸元
翅枚数
2枚
全翅長
300 mm
全翅面積
1.41 × 10 5 mm 2
全羽ばたき角
全重量
60 deg.( 上 半 角 15 deg.)
12.7 g
使用モーター
DIDEL
コアレスモーター
MK07-3.3
使用バッテリー
Li-Po バ ッ テ リ ー
70mAh IPX-70
ギヤ減速比
1:26
図 2.2 ギ ヤ ボ ッ ク ス お よ び リ ン ク 機 構 ( 正 面 )
図 2.3 ギ ヤ ボ ッ ク ス お よ び リ ン ク 機 構 ( 側 面 )
図 2.4 ラ ダ ー お よ び コ イ ル ア ク チ ュ エ ー タ
図 2.5 2ch赤 外 線 受 信 機 (IRX2N)
図 2.6 赤 外 線 送 信 機
2.2 リンク機 構 の設 計
羽ばたき機構の翅の動きは,リンク機構の設計によって大きく変
化する.羽ばたき飛翔体を飛行させるためには,左右の翅の動きが
等しくなければならず,また羽ばたき角や平均上半角などもリンク
機構によって決定される.
本 研 究 で は ,リ ン ク 機 構 の 設 計 に は イ ン タ ー ネ ッ ト サ イ ト
HOPTER ZONE
ORNIT
の 設 計 支 援 ソ フ ト 『 Flap Desiggn 2』 を 使 用 し た . こ
れ は 図 2.7に 示 す よ う な リ ン ク 機 構 の 各 数 値 を 入 力 す る こ と で ,羽 ば
たき機構の動きをシミュレートし,アニメーションと位相のグラフ
で見ることができるというものである.製作練習用機体のリンク機
構 の 諸 数 値 を 表 2に 示 す .
図 2.7 リ ン ク 機 構 の 諸 数 値
表2 製作練習用機体のリンク機構
①
Crank radius
0.8 mm
②
Crank arm
0.6 mm
③
Crank angle
110 deg
④
Width
0.1 mm
⑤
Hight
35 mm
⑥
Lever
1.3 mm
⑦
Conrod
34 mm
第 3章 測 定 用 羽 ばたき機 構
3.1 測 定 用 ギヤボックス
実際に飛行可能な羽ばたき飛翔体は,ギヤボックスにバルサ材を
用いるなどして可能な限り機体の軽量化を図っている.しかし,バ
ルサ材は強度,耐久性などが弱く,また手作りであるため寸法精度
も低いといった問題がある.本羽ばたき機構は測定実験を行うこと
のみを目的とし,軽量化などは考慮する必要がないため,アルミニ
ウ ム 合 金 を NC で 加 工 し て 製 作 し た . 製 作 し た 測 定 用 ギ ヤ ボ ッ ク ス を
図 3.1に , ギ ヤ ボ ッ ク ス の 設 計 図 を 図 3.2に 示 す .
図 3.1測 定 用 ギ ヤ ボ ッ ク ス
図 3.2 測 定 用 ギ ヤ ボ ッ ク ス 図 面
3.2 2枚 翅 機 構 と4枚 翅 機 構
本 研 究 室 で こ れ ま で 製 作 し た 機 体 に は ,2枚 翅 機 構 と 4枚 翅 機 構 の 2
種 類 が あ り ,特 に 小 型 の 機 体 で は 4枚 翅 を 用 い る こ と で 飛 行 に 成 功 し
て い る . そ こ で , こ の 2枚 翅 と 4枚 翅 の 間 に ど の よ う な 差 違 が あ る の
かを調査し,その特性について検討する目的で,上記の測定用ギヤ
ボ ッ ク ス に よ る 2枚 翅 お よ び 4枚 翅 の 羽 ば た き 機 構 を 製 作 し た .2枚 翅
機 構 を 図 3.3に , 4枚 翅 機 構 を 図 3.4に , 諸 元 を 表 3に 示 す . ま た , 1周
期 の 羽 ば た き 運 動 を 正 面 か ら 見 た 場 合 の モ デ ル を 図 3.5に ,リ ン ク 機
構 の 諸 数 値 を 表 4に 示 す . 2 種 類 の 羽 ば た き 機 構 は , 羽 ば た き の 振 り
角が等しく,上下の羽ばたき角が同じになるように制作した.
図 3.3
2枚 翅 機 構
図 3.4
4枚 翅 機 構
表3 測定用羽ばたき機構諸元
翅枚数
2 枚
4枚
全翅長
14 cm
14 cm
翅幅
3.5 cm
3.5 cm
翅面積
79 cm 2
157 cm 2
全羽ばたき角
100 deg
100 deg
図 3.5 羽 ば た き 機 構 模 式 図
表4
2枚 翅 機 構 用 リ ン ク
表5
4枚 翅 機 構 用 リ ン ク
①
Crank radius
0.7 mm
①
Crank radius
0.6 mm
②
Crank arm
0.5 mm
②
Crank arm
0.6 mm
③
Crank angle
110 deg
③
Crank angle
120 deg
④
Width
0.1 mm
④
Width
0.1 mm
⑤
Hight
30 mm
⑤
Hight
30 mm
⑥
Lever
1.1 mm
⑥
Lever
1.5 mm
⑦
Conrod
2.9 mm
⑦
Conrod
2.6 mm
第 4章 測 定 システム
4.1 測 定 システム概 要
羽ばたきによって発生する空気力を測定するために試作した装置
の 概 要 を 図 4.1に 示 す . 計 測 装 置 は ロ ー ド セ ル , 低 速 風 洞 , オ シ ロ ス
コ ー プ ,定 電 圧 電 源 ,パ ー ソ ナ ル コ ン ピ ュ ー タ に よ っ て 構 成 さ れ る .
ロードセルの出力信号をオペアンプを用いた増幅回路で増幅し,オ
シ ロ ス コ ー プ に よ っ て 羽 ば た き 1周 期 あ た り 約 2500点 の デ ジ タ ル デ
ー タ に 変 換 し た 波 形 500周 期 分 を 平 均 化 し た も の を ,パ ー ソ ナ ル コ ン
ピ ュ ー タ に 保 存 す る .波 形 の デ ー タ か ら 揚 力 の 値 お よ び 羽 ば た き 1周
期における揚力の変化を観測する.
図 4.1 揚 力 測 定 シ ス テ ム 概 要
4.2 ロードセル
羽 ば た き に よ っ て 発 生 す る 空 気 力 を 計 測 す る 測 定 器 と し て ,シ ン グ
ル ポ イ ン ト ロ ー ド セ ル を 使 用 し た .装 置 に 使 用 し た ロ ー ド セ ル を 図 4.
2に 示 す .垂 直 方 向 と 水 平 方 向 の 荷 重 を 同 時 か つ 個 別 に 計 測 す る た め ,
2個 の ロ ー ド セ ル を 直 角 に 組 み 立 て ,2分 力 ロ ー ド セ ル と し た (2) .組 み
立 て た 2分 力 ロ ー ド セ ル を 図 4.3 に 示 す . 本 研 究 室 で 過 去 に 製 作 さ れ
た 羽 ば た き 飛 翔 体 は 機 体 重 量 が 3 g程 度 で あ り , そ の 機 体 を 飛 翔 さ せ
る揚力もほぼ同程度であると考えられる.この範囲の荷重を計測で
き る ロ ー ド セ ル と し て ,VISHAY社 の MODEL 1004 定 格 荷 重 300 gを 使
用した.
図 4.2 シ ン グ ル ポ イ ン ト ロ ー ド セ ル ( 定 格 荷 重 300 g)
図 4.3
2分 力 ロ ー ド セ ル
4.3 増 幅 器
ロードセルからの電気信号をオシロスコープで観測するために増
幅 器 を 製 作 し た . 増 幅 器 は ア ン プ キ ッ ト ( TAK-01 東 京 測 器 研 究 所 )
および製作した非反転増幅回路によって構成される.非反転増幅回
路 の 回 路 図 を 図 4.4に , ア ン プ キ ッ ト を 図 4.5に 示 す . 非 反 転 増 幅 回
路 は オ ペ ア ン プ( TL072CP)を 使 用 し て い る .ロ ー ド セ ル の 信 号 は ,水
平 軸 , 垂 直 軸 が そ れ ぞ れ ア ン プ キ ッ ト で 約 4 0倍 に 増 幅 さ れ , 次 に 非
反転増幅回路によってさらに増幅される.非反転増幅回路の増幅率
A 0 は ,フ ィ ー ド バ ッ ク 抵 抗 R と 抵 抗 r か ら ,式 (1)に よ り 定 義 さ れ る .
(1)
こ の 回 路 で は 非 反 転 増 幅 回 路 の 増 幅 率 で は 2 7倍 , 増 幅 回 路 全 体 で は
約 1080倍 に 増 幅 さ れ る .
図 4.4 増 幅 回 路
図 4.5 ア ン プ キ ッ ト
4.4 ロードセルの校 正
ロードセルは荷重を電圧に変換する機器であり,本システムにお
いて,ロードセルから出力された電圧は増幅回路で増幅され,オシ
ロスコープで数値化される.オシロスコープの出力電圧からロード
セルにかかる荷重を調べるには,ロードセルにかかる荷重の値とオ
シロスコープに出力される電圧の値の関係を知る必要がある,その
ため,ロードセルの校正を行った.校正を行うために使用した装置
を , 水 平 軸 方 向 の 校 正 時 を 図 4.6に , 垂 直 軸 方 向 の 校 正 時 を 図 4.7 に
示 す .ロ ー ド セ ル に 1 gず つ 荷 重 を か け て 行 き ,オ シ ロ ス コ ー プ に 出
力 さ れ る 電 圧 を 測 定 し て 行 く . 水 平 軸 方 向 の 測 定 の 結 果 を 図 4. 8 に ,
垂 直 軸 方 向 の 測 定 の 結 果 を 図 4.9に 示 す .測 定 の 結 果 ,ロ ー ド セ ル の
荷 重 ― 電 圧 の 特 性 は ほ ぼ 直 線 性 を 保 っ て お り ,荷 重 1 gに 対 し て 50 m
Vの 電 圧 を 出 力 す る こ と が 分 か っ た .
図 4.6 水 平 成 分 ロ ー ド セ ル 校 正 モ デ ル
図 4.7 垂 直 成 分 ロ ー ド セ ル 校 正 モ デ ル
図 4.8 水 平 方 向 校 正 結 果
図 4.9 垂 直 方 向 校 正 結 果
4.5 デジタルフィルタリング
オ シ ロ ス コ ー プ に 出 力 さ れ た 羽 ば た き 1周 期 間 の 波 形 を 図 4.10に
示す.ロードセルによって得られる信号には,羽ばたきによる空気
力以外にも,羽ばたき機構の機械振動によるロードセル自体の共振
現象も含まれるため,羽ばたきによって生み出される空気力の観測
が困難である.そこで,採取した信号に対してパーソナルコンピュ
ータ上でフーリエ変換を用いたデジタルフィルタリングを行い,機
械振動成分を除去することで,羽ばたきによる空気力成分のみを抽
出した.
図 4.10 デ ジ タ ル フ ィ ル タ 前 の ロ ー ド セ ル の 信 号
以下に,本研究におけるデジタルフィルタリングの手順を示す.
① オシロスコープからロードセルの波形およびトリガの波形デ
ータをパーソナルコンピュータに保存する.
② ト リ ガ の 波 形 デ ー タ よ り , 羽 ば た き 1周 期 の 時 間 T お よ び デ
ー タ の 個 数 T 0を 求 め る .
③ ロ ー ド セ ル の 波 形 デ ー タ か ら , 式 (2), (3)を 用 い て フ ー リ エ
係 数 a n お よ び b n を 求 め ,分 析 す る 高 調 波 の 次 数 n を 設 定
し,
式 (4)よ り パ ワ ー ス ペ ク ト ル を 求 め る .
(2)
(3)
(4)
④ パワースペクトルの分布からロードセル自体の共振現象に起
因する高調波の次数を特定する.
⑤ 該 当 す る 成 分 を 除 去 し た 後 , 式 (5) を 用 い て 逆 フ ー リ エ 変 換
を行い,波形を再構成する.
(5)
4.6 ロードセルの固 有 振 動 数
こ れ ま で の 実 験 で は ,ロ ー ド セ ル に 定 格 荷 重 定 格 300 gの ロ ー ド セ
ル を 使 用 し て き た .荷 重 300 gの ロ ー ド セ ル で 測 定 し た 波 形 を フ ー リ
エ 変 換 し た ス ペ ク ト ル を 図 4.11に 示 す . 羽 ば た き 周 波 数 と ロ ー ド セ
ルの固有振動数が近いため,デジタルフィルタリングの際に機械振
動成分のみを取り除くことが困難であった.そのため,ロードセル
の固有振動数を測定し,実験に最適なロードセルを選定した.
各
ロ ー ド セ ル の 固 有 振 動 数 を 表 6に 示 す .組 み 立 て た 状 態 の ロ ー ド セ ル
に振動を与え,出力信号の波形をオシロスコープで観測し,周波数
を求めた.ロードセルの定格荷重が大きくなると固有振動数も高く
なる.これは,定格荷重の大きな仕様のロードセルほど,機械的な
剛性が高いためと考えられる.この結果から,より定格荷重の高い
ロードセルを使用することで,さらなる改良が見込めると考えた.
現 在 は 定 格 荷 重 3.0 kgの ロ ー ド セ ル を 使 用 し て い る .定 格 荷 重 3.0
kgの ロ ー ド セ ル で 測 定 し た 波 形 を フ ー リ エ 変 換 し た ス ペ ク ト ル を
図 4.12に 示 す . ロ ー ド セ ル の 固 有 振 動 数 が 高 く な っ た こ と に よ り ,
羽ばたきによる空気力の成分と機械振動成分の区分が明確になり,
機械振動成分を容易に除去することができるようになった.
図 4.11 パ ワ ー ス ペ ク ト ル (ロ ー ド セ ル 定 格 荷 重 300 g)
表6 ロードセルの固有振動
定格荷重
垂直軸
300 gf
43 Hz
56 Hz
600 gf
67 Hz
67 Hz
3.0 kgf
148 Hz
93 Hz
水平軸
図 4.12 パ ワ ー ス ペ ク ト ル (ロ ー ド セ ル 定 格 荷 重 3 kg)
4.7 増 幅 回 路 の変 更
ロードセルの定格荷重が変わったため,荷重と出力電圧の関係も
変化し出力電圧が小さくなった.オシロスコープで波形の観測を容
易にするため増幅回路の増幅率を大きくしたが,単一のオペアンプ
で過大な増幅を行うとオペアンプの周波数特性が低下するという問
題 が 発 生 し た た め , 増 幅 を 2個 の オ ペ ア ン プ で 分 け て 行 う 2段 増 幅 回
路 に 変 更 し た . 製 作 し た 2段 増 幅 回 路 を 図 4.13に , 増 幅 回 路 の 全 体
図 を 図 4.14に 示 す .
4.8 ノイズ除 去
採取した信号は,高周波ノイズと誘導ノイズを含むため除去対策
を 行 っ た . 図 4.13に 示 す よ う に , コ ン デ ン サ を フ ィ ー ド バ ッ ク 抵 抗
に並列接続することで,高周波ノイズを除去することができた.誘
導ノイズ対策は,装置全体の配線の短縮,増幅器内の配線の短縮,
および配線同士のツイストにより解決した.
図 4.13
2段 増 幅 回 路
図 4.14 増 幅 器 全 体 図
4.9 トリガ
羽 ば た き 1周 期 の 波 形 を 得 る た め に ,羽 ば た き 1周 期 の 開 始 と 終 了 の
タ イ ミ ン グ を 取 る 必 要 が あ る .使 用 し た ト リ ガ 検 出 装 置 を 図 4.15に ,
ト リ ガ 波 形 を 図 4.16に , レ ー ザ ー ポ イ ン タ を 図 4.17に , 光 セ ン サ を
図 4.18に 示 す . 羽 ば た き の 上 死 点 で 翅 の 先 端 が レ ー ザ ー を 遮 る
ことで,光センサからオシロスコープにトリガが入力される.トリ
ガ と ト リ ガ の 間 が 羽 ば た き 1周 期 で あ り ,こ の ト リ ガ を 波 形 の 平 均 化 ,
フ ー リ エ 変 換 の デ ー タ 範 囲 の 設 定 , 1周 期 の 時 間 の 測 定 に 使 用 す る .
図 4.15 ト リ ガ 検 出 装 置
図 4.16 ト リ ガ 波 形
図 4.17 レ ー ザ ー ポ イ ン タ
図 4.18 光 セ ン サ
4.10 まとめ
本章では,羽ばたき力測定システムの開発と,それを用いて羽ば
たきの生み出す空気力の観測を行った.開発した羽ばたき力測定シ
ス テ ム の 概 要 を 図 4.19に , デ ジ タ ル フ ィ ル タ リ ン グ に よ っ て 抽 出 さ
れ た 2枚 翅 機 構 の 羽 ば た き 周 波 数 8 Hz, 迎 角 0度 に お け る 羽 ば た き 1 周
期 の 空 気 力 の 波 形 を 図 4.20に 示 す . 羽 ば た き 力 測 定 シ ス テ ム に よ っ
て ,羽 ば た き 1周 期 の 空 気 力 の 時 間 変 化 を 捉 え る こ と が で き た .ま た ,
波形の平均値から揚力の平均値を得ることができた.
図 4.19 揚 力 測 定 シ ス テ ム 概 要
図 4.20 デ ジ タ ル フ ィ ル タ 後 の 波 形
第 5章 揚 力 測 定 実 験
5.1 飛 行 状 態 の再 現
飛行中の羽ばたき翅が得る空気力を測定するためには,羽ばたき
飛翔体が飛行している状態を再現する必要がある.羽ばたき機構を
一定周波数で羽ばたかせながら低速風洞から風を送ることで,羽ば
たき機構と空気に相対速度を作り出し,模擬的な飛行状態を再現す
ることにした.このとき水平方向荷重を測定するロードセルの平均
測 定 値 が 0 kg f と な る よ う に 風 速 v を 調 節 す る . こ れ に よ っ て 羽 ば
たき飛翔体が速度vで水平方向に定速飛行をしている状態に相当す
る と 考 え る .様 々 な 羽 ば た き 周 波 数 に お い て ,迎 角 を 0度 か ら 40度 ま
で 10度 ず つ 変 化 さ せ 測 定 を 行 っ た .
5.2 測 定 の手 順
揚力測定システムにおける測定の手順を以下に示す.
① 羽 ば た き 機 構 を 測 定 し た い 迎 角 に 固 定 し ,低 速 風 洞 の 前 に 設
置する.
② 羽 ば た き の 上 死 点 で 翅 の 先 端 が レ ー ザ ー を 遮 る よ う に ,レ ー
ザーの位置を調節する.
③ オシロスコープで静止状態でのロードセルの信号をアベレー
ジングし,出力電圧のオフセットを取る.
④ 定 電 圧 電 源 の 電 圧 を 調 節 し ,羽 ば た き 周 波 数 を 測 定 し た い 周
波数に合わせる.
⑤ 低 速 風 洞 か ら 風 を 送 り ,オ シ ロ ス コ ー プ の 水 平 方 向 の 出 力 電
圧 が ほ ぼ 0 Vに な る よ う に 風 速 を 調 節 す る .
⑥ オ シ ロ ス コ ー プ で 出 力 信 号 を ア ベ レ ー ジ ン グ し , 羽 ば た き 500
周期分を平均化した波形を得る.オシロスコープの波形をフ
ロッピーディスクでパーソナルコンピュータに保存する.
⑦ パーソナルコンピュータ上でデジタルフィルタリングを行い,
羽 ば た き 1周 期 分 の 揚 力 の 波 形 を 得 る .
5.3 動 的 解 析 の結 果
迎 角 0度 の 状 態 と 迎 角 30度 の 状 態 に お け る 飛 行 時 の ,羽 ば た き 運 動
1周 期 の 間 に 変 化 す る 揚 力 の 波 形 に つ い て , 2枚 翅 機 構 が 得 る 揚 力 の
波 形 を 図 5.1に ,4枚 翅 機 構 が 得 る 揚 力 の 波 形 を 図 5.2に 示 す .時 間 軸
の 0点 が 羽 ば た き の 上 死 点 で あ る . 迎 角 0度 と 迎 角 30度 の 波 形 を 比 較
す る と , 迎 角 30度 の 波 形 は 迎 角 0度 の 波 形 よ り 上 方 に 推 移 し て お り ,
揚 力 の 平 均 値 が 大 き く な っ た こ と を 確 認 で き た .ま た ,2枚 翅 機 構 と
4枚 翅 機 構 の 波 形 を 比 較 す る と ,4枚 翅 機 構 は 波 形 の 振 れ 幅 が 小 さ く ,
こ の こ と か ら 飛 行 時 の 上 下 振 動 が 2枚 羽 機 構 に 比 べ て 安 定 し て い る
と考えられる.
図 5.1
2枚 翅 機 構 の 揚 力 波 形
図 5.2
4枚 翅 機 構 の 揚 力 波 形
5.4 揚 力 の平 均 値
羽 ば た き 翅 が 生 み 出 す 揚 力 は ,羽 ば た き の 周 波 数 が 高 く な れ ば 大 き
くなり,また固定翼の飛行機と同じように,機体の風に対する迎角
によって変化すると考えた.そこで,羽ばたき翅が生み出す揚力の
平均値と羽ばたき周波数の関係,および羽ばたき周波数と迎角の関
係を調査した.
羽 ば た き 周 波 数 と 揚 力 の 関 係 に つ い て , 2枚 翅 機 構 に 測 定 結 果 を 図 5.
3に ,4枚 翅 機 構 の 測 定 結 果 を 図 5.4示 す .迎 角 と 揚 力 の 関 係 に つ い て ,
羽 ば た き 周 波 数 15Hzの 測 定 結 果 を 図 5.5に , 20Hzの 測 定 結 果 を 図 5.6
に示す.羽ばたき周波数を高くすると揚力は大きくなる.迎角を大
き く し て 行 く と 揚 力 も 上 昇 し , 約 20度 か ら 30度 で 最 大 に な
り,それ以上迎角を大きくしても揚力は減少することが分かった.
図 5.3 羽 ば た き 周 波 数 15Hzの 揚 力 (2枚 翅 機 構 )
図 5.4 羽 ば た き 周 波 数 20Hzの 揚 力 (4枚 翅 機 構 )
図 5.5
2枚 翅 機 構 と 4枚 翅 機 構 の 揚 力 比 較 (15Hz)
図 5.6
2枚 翅 機 構 と 4枚 翅 機 構 の 揚 力 比 較 (20Hz)
第 6章 揚 力 の発 生 効 率
6.1 揚 力 発 生 効 率 概 要
小型羽ばたき飛翔体の小型化,高効率化を進めるために,羽ばた
き機構の揚力の発生効率を調査し検討することですることで,より
効率良く揚力を発生する羽ばたき機構や羽の材質,形状などを模索
する指針とした.本研究では,羽ばたき機構の動力源であるモータ
ーに着目し,モーターの機械的出力に対して羽ばたき翅の生み出す
揚力の関係を調べ,モーターの単位出力あたりの揚力を揚力発生効
率と定義し,様々な条件の下比較を行った.
6.2 モーター特 性
羽 ば た き 機 構 に 対 す る モ ー タ ー の 出 力 を 知 る た め に ,モ ー タ ー 特 性
の調査を行った.モーターの各電圧毎の静止トルクを測定した結果
を 図 5.7に , 無 負 荷 状 態 で の 回 転 数 を 測 定 し た 結 果 を 図 5.8に 示 す .
測定の結果,静止トルク,回転数共に電圧に比例することが確認で
きた.
図 5.7 電 圧 -ト ル ク 線 図
図 5.8 電 圧 -回 転 数 線 図
6.3 モーター特 性 線 図
飛行を再現した状態でのモーターの動作状態を知るために,電圧
毎のモーターの動作特性を調べた.各電圧におけるモーターのトル
クに対する電流および回転数の関係をまとめたモーター特性曲線の
一 例 を 図 5.9に 示 す .
図 5.9 モ ー タ ー の 特 性 線 図 (2.4V時 )
6.4 モーター出 力
揚 力 測 定 実 験 の デ ー タ か ら 実 験 時 の モ ー タ ー の 印 加 電 圧 を 求 め ,そ
の電圧における特性線図を使用する.羽ばたき周波数とギヤの減速
比 か ら モ ー タ ー の 回 転 数 を 求 め ( 式 (6)) , 特 性 線 図 よ り 実 験 時 の モ
ーターのトルクを求める.そのトルクと回転数からモーターの出力
を 求 め る こ と が で き る (式 (7)) .
モ ー タ ー 回 転 数 N = 羽 ば た き 周 波 数 H ×減 速 比 γ
(6)
モ ー タ ー 出 力 W = ト ル ク T ×モ ー タ ー 回 転 数 N
(7)
6.5 揚 力 発 生 効 率
前 項 で 求 め た モ ー タ ー 出 力 か ら , 式 (8)に よ っ て 羽 ば た き 機 構 の 揚
力発生効率を求める.
効率 η=揚力 L/モーター出力 W
(8)
羽ばたき周波数,迎角,翅の枚数を変化させ,揚力発生効率の比較
を行った.
6.6 2枚 翅 機 構 と4枚 翅 機 構 の比 較
翅 長 14cmの 2枚 翅 機 構 と 4枚 翅 機 構 を ,15Hzで 羽 ば た か せ て 飛 行 を 再
現 し た 際 に 観 測 さ れ た 揚 力 発 生 効 率 と 迎 角 の 関 係 を 図 5.10に , 20Hz
で 羽 ば た か せ た 場 合 を 図 5.11に 示 す .こ の グ ラ フ よ り ,4枚 翅 機 構 の
方 が 2枚 翅 機 構 に 比 べ て モ ー タ ー 出 力 に 対 す る 揚 力 の 発 生 効 率 が 高
いことが分かった.
図 5.10
2枚 翅 機 構 と 4枚 翅 機 構 の 効 率 比 較 (15Hz)
図 5.11
2枚 翅 機 構 と 4枚 翅 機 構 の 効 率 比 較 (20Hz)
6.7 4枚 翅 機 構 の羽 ばたき周 波 数 による比 較
こ れ ま で の 実 験 の 結 果 か ら ,4枚 翅 機 構 は 2枚 翅 機 構 に 比 べ て ,揚 力
お よ び 揚 力 発 生 効 率 が 高 い こ と が 分 か っ た .そ こ で ,4枚 翅 機 構 に 着
目 し ,4枚 翅 機 構 の 羽 ば た き 周 波 数 と 揚 力 お よ び 揚 力 発 生 効 率 の 関 係
を 調 べ た . 4枚 翅 機 構 を 15Hz, 17Hz, 20Hz, 22Hzで 羽 ば た か せ , 飛 行
を 再 現 し た 際 の 迎 角 と 揚 力 の 関 係 の グ ラ フ を 図 5.12に , 迎 角 と 揚 力
発 生 効 率 の 関 係 の グ ラ フ を 図 5.13に 示 す . ま た , 各 迎 角 に お け る 羽
ば た き 周 波 数 と 揚 力 発 生 効 率 の 関 係 を 図 5. 14に 示 す . 実 験 の 結 果 ,
揚 力 お よ び 揚 力 発 生 効 率 は 羽 ば た き 周 波 数 20Hzの 迎 角 20度 ∼ 30度 付
近 が 最 大 で あ り , 羽 ば た き 周 波 数 を 20Hzか ら 22Hzに 上 げ て も 揚 力 は
ほとんど変化せず,むしろ揚力発生効率は低下していることが分か
った.このことから,本研究で使用した羽ばたき機構で実際に飛行
可 能 な 羽 ば た き 飛 翔 体 を 製 作 す る 場 合 ,羽 ば た き 周 波 数 20Hz,迎 角 2
0度 ∼ 30度 で 飛 行 す る よ う に 製 作 す る と ,最 も 効 率 良 く 飛 行 が 可 能 で
あると考えられる.
図 5.12
揚力と羽ばたき周波数の関係
図 5.13
効率と羽ばたき周波数の関係
図 5.14 羽 ば た き 周 波 数 と 揚 力 発 生 効 率
6.8 羽 の構 造 の変 更
羽 ば た き 周 波 数 を 20 Hzか ら 22 Hzに 変 え て も 揚 力 が 向 上 し な い 理
由として,羽の主軸の動きと翅膜のたわみの位相のずれが考えられ
る.翅膜にフィルムを貼ることで翅のたわみ方を変化させ,羽ばた
き 周 波 数 20Hzと 22Hzで 揚 力 を 測 定 し た 測 定 の 結 果 を 図 6.1に ,揚 力 の
発 生 効 率 を 図 6.2に 示 す .フ ィ ル ム を 貼 る こ と で 羽 ば た き 周 波 数 22Hz
における揚力が向上し,揚力発生効率もフィルムがない場合に比べ
て向上していることが分かる.これは,フィルムによって翅膜のた
わみ方が変化し,羽ばたき周波数高くなっても翅膜のたわみが翅軸
の動きに追従できるようになったためと考えられる.
図 6.1 翅 膜 の 変 化 に よ る 揚 力 の 比 較
図 6.2 翅 膜 の 変 化 に よ る 揚 力 発 生 効 率 の 変 化
第 7章 結 言
7. 1 研 究 の ま と め
本研究では,ロードセルによる揚力測定システムの開発と,それ
による揚力の測定および解析を行った.羽ばたき機構を模擬的な飛
行状態に再現した場合の,揚力の動的解析,揚力およびモーター出
力に対する揚力発生効率を測定することができた.
4枚 翅 機 構 の 揚 力 発 生 効 率 を , 羽 ば た き 周 波 数 15Hz, 17Hz, 20Hz,
22Hzで 測 定 し た と こ ろ , 15Hzか ら 20Hzま で は 羽 ば た き 周 波 数 が 高 く
な る に つ れ て 揚 力 発 生 効 率 も 高 く な っ た が , 22Hzで は 逆 に 揚 力 発 生
効率は低下した.このことから羽ばたき機構には最も効率の良い羽
ばたき周波数が存在することが分かった.
また,翅膜にフィルムを貼ることで翅のたわみを変化させて揚力
発 生 効 率 を 測 定 し た と こ ろ , 20Hzか ら 22Hzに 羽 ば た き 周 波 数 を 上 げ
ても揚力発生効率は高くなった.羽ばたき機構の最も効率の良い羽
ばたき周波数は,翅の状態に依存するということが分かった.
7. 2
今後の課題
これまでの結果より,羽ばたき機構の最も効率の良い羽ばたき周
波 数 は ,翅 の 形 状 ,材 質 ,構 造 な ど に よ っ て 変 化 す る と 考 え ら れ る .
また,測定システムには改良の余地があると思われる.今後の課題
として以下の事項がある.
(1)様 々 な 翅 で 測 定 を 行 い ,羽 ば た き 飛 翔 体 の さ ら な る 小 型 化 ,高 効
率化を進める.
(2)測 定 シ ス テ ム の 改 良 に よ る 測 定 時 間 の 短 縮 , 誤 差 の 低 減 .
参考文献
(1)
早 田 智 史 , 河 村 良 行 ,「 ホ バ リ ン グ 可 能 な 小 型 羽 ば た き 飛 行 機
の 開 発 」 , 第 81期 日 本 機 械 学 会 流 体 力 学 部 門 講 演 会 講 演 論 文 集 , P12
11, (2006).
(2) 本 橋 龍 郎 , 「 微 少 空 気 力 の 測 定 ( 第 1報 ) 」 , 日 本 大 学 理 工 学 研
究 所 報 , P71, ( 2001) .
謝辞
本研究を進めるにあたりまして,私たちに多大なる御指導,御鞭
撻頂きました河村良行教授に心より深く御礼と感謝を申し上げます.
豊富な知識とリーダーシップで私たちの研究をご指導頂きました
指導院生の早田智史さん,西本怜史さんに深く御礼と感謝を申し上
げます
測定用ギヤボックスおよび固定用治具の制作にあたり,様々な助
言と御指導を頂きました,工作センターの長野和幸技術員,平田隆
一技術員,黒川秀明技術員に深く感謝致します.
1年 間 , 同 研 究 室 で 苦 楽 を 共 に し た , 大 学 院 生 の 近 藤 篤 さ ん , 学 部
生の楳本哲也君,大川原佳寛君,伊藤慎吾君,井上潤一郎君,江口
敬太君,河野太君,新海正嗣君に深く御礼を申し上げます.本研究
室に在籍することで得た知識と経験,そして仲間たちは私たちにと
って何ものにも代え難いものです.私たちを大きく成長させて頂い
た河村研究室に深く感謝致します.ありがとうございました.
参考資料
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