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いわゆる「香港マフィア」 ∼香港「三合会(トライアッド)」の動向について

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いわゆる「香港マフィア」 ∼香港「三合会(トライアッド)」の動向について
野悪幣誓誓耶竺:盛
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昭和27年3月24円第3梯郵便物認TIT 平成20年5月10日発行(妬月lBil10日発行) a,61巻第5号・
警察寧論集喜65.,5
警察大学校編集
<警察政策フォーラム>
多機関連携による犯罪予防∼少年非行対韓を中心として
督察政策学会・警察政策研究センター( 1 )
犯罪予防のための多械開連携アプローチ
∼イングランドとウェールズにおける少年非行対範ロンドン大学ロンドンキングスカレッジ収'/G政策研究掴際センタ一所良 ロブ・アレン
<編触>祭2;'i政簿研兜センター教授 黒川 浩一
少年非行の予防・減少と多機関連携一紫国の場合を参考に
中央大学法科大学院教授 中野日孝則
犯罪被害から子どもを守り、非行を防止するための関係機関との連携について
一学校と野寮の連携を中心に-
野鮒T・生活安全局少年深長 山口 敏
保港司等との連携による非行少年の立ち直り支援
I■
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1
束京都曹少年・治安相第本.%総合対策部LH少年灘長 青山 彩子
かこ藍定義宗宝
非行少年の社会的包摂と多横関連携
立教大学コミュニティ福祉学鹿准教授 小長#賀輿
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鹿児島・天文飴における地域安全活動
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天文飽中央地Lj(iク7)-ンパトロール隊長 高田 秋穂
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犯罪.非行の予防と減少の努力-とりわけ少年非rTについて
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京都産XJ大学大学院法務研究科孜授 渥美 東洋
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<新 警察署長論・警察署課長論②>私の警備課長論
粛符酎人学柁
詰晶等品琵品富橋 本 洋 一(73)
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外申戊1-賭詞雀宮兼次据
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、二告、一 二、
各種警察作用法にみる消費者法
l相野宙共捕組合軒拝 吉 田 英 法(90)
いわゆる「香港マフィア」 ∼香港「三合会(トライアッド)」の
動向について
冨罷盲悪β贈署普小 林 良 樹(119)r
犯罪による収益の移転防止に関する法律施行令・施行規則等の
制定について(上)
萎慧晋芽鰐'16#貰松林高樹(140,
立花書房発行
118
119
架空請求等の犯罪に利用されることの多いプリペイド式携帯電話にかかる本人確認
の徹底やその利用停止について、菅察庁、法務省とも連携しつつ検討を進め、早急
に結論を得る。」ことが盛り込まれた。
なお、法律制定の背景と経緯の詳細については、親家和仁「「携帯音声通信事業
者による契約者等の本人確認等及び携帯音声通信役務の不正な利用防止に関する法
〔響察学論集第61巻第5号〕
いわゆる「香港マフィア」∼香港「三合会(トライアッド)」
の動向について
律」について」 (警察学論集第58巻第8号所収)を参照のこと。
51)立法の経緯や法律の目的から、個人情報の保護その他消費者の保護が大きな柱と
なっていることは、兼架康弘r探偵業法-立法までの物語と逐条解削(例えば、
小 林 良 樹
5、 18、 25、 27、 28、 43頁)を参照のこと。
(若鮎莞競喜)
日 三
Ⅲ
次 Ⅳ
はじめに∼本稿の日的
香港「三合会」の概要
「三合会」の最近の特徴点
終わりに∼教訓事項
【要 旨】
1.香港「三合会」の概要
(1)香港の犯罪組織: 「三合金」とは何か
一 香港の犯罪組織は、 「三合会(さんごうかい)」、英語では「トライ
アツド(Triad)」と呼ばれる。但し、 「三合会」とは香港における
「犯罪組織の稔称」であり、個別具体の犯罪組織を示す固有名詞では
ない。
- 「三合会」の起源は、 17世紀∼18世紀境に中国において結成された
各種の秘密結社にさかのぼると言われている。現代においても「≡
合会」組織の多くは、中国の秘密結社に端を発する伝統的な習慣を
継暴している場合が少なくない。
一 香港の「社団法」は、すべての「三合会」組織を「非合法」と定
めている。
(2) 「三合会」の現勢
- 現在確認されている「三合会」組織は52組織である。このうち、
実際に活動を行っている「三合会」組織は13組織である。特に活発
なのは「新義安」、 「和勝和」、 「14K」、 「和合桃」、 「和合楽」、 「14K
大圏」、 「大圏」の7組織である。
(3) 「三合会」の活動
- 「三合会」が関与している主な犯罪としては、人の密輸、管理売春、
薬物密輸・密売、賭博・ノミ行為、債権取立て、恐喝、強盗、クレ
120
いわゆる「香港マフィア」 ∼香港「三合会(トライアツド)」の動向について121
ジットカード詐欺、偽造(パスポート、ブランド商品等)、マネー・
ローンダリング等が上げられる。
Ⅰ はじめに∼本稿の目的
(4) 「三合会」の海外への進出動向
一 東南アジア、菓州、北米、欧州等での活動が確認されている0
一 但し、これらの活動は基本的には各構成員の個人的な活動に過ぎ
香港の犯罪組織は我が国の治安にも影響を及ぼしている。例えば、最近
ず、 「三合金」の「組織的」な海外進出とは言えない場合が多いと見
の我が国に対する覚せい剤密輸事件の中には香港の犯罪者が深く関与して
られる。
いたと見られるものも少なくない(拙稿「覚せい剤密輸のメカニズム」、
(5) 「三合金」と日本との関係
一 香港「三合会」構成員が日本の暴力団関係者等と協力して薬物密
立花書房r警察学論集]第61巻第2号、平成20年3月、 p.48)。また、暫
輸等各種犯罪に関与している例は少なくない。
一 但し、これらの活動は基本的には各構成員の個人的な活動に過ぎ
く前には香港の犯罪者グループが我が国において強盗やクレジットカード
ず、 「三合会」が「組織的」に関与しているとは言えない場合が多い
と見られる。
2. 「三舎会」の最近の特徴点
(1)非中央集権化
一 昨今の「三合会」は、独立した犯罪者同士の題やかな「寄り合い」
鼻息に過ぎなくなりつつある。各「三合会」組織の編成や各種の伝
統的儀式等についても、従前に比較すると相当に簡素化されている。
(2)活動の非犯罪化(合法ビジネスへの進出)
一 昨今の「三合会」は、非合法ビジネスのみならず、飲食店経営、
映画産業経常等の合法ビジネスへの進出を強めている。
(3)中国大陸への進出
一 香港の中国返遼(1997年)の後、香港「三合会」構成員が中国大
陸(特に香港と隣接する広東省)に進出し、現地の犯罪組織等と協
力して各種の活動を行う例が増加している。
3.終わりに∼教訓事項
(1)香港「三合会」と日本の暴力団の相違
一 香港「三合会」は日本の暴力団組織とは相当に異なった特性を有
しており、日本の暴力団組織をイメージしつつ「三舎会」を理解し
ようとすると思わぬ誤解を生じかねない。
(2)組織犯罪に対する学術的・体系的研究の重要性
- 香港現地のみな・らず欧米においては、取締り当局のみならず大学
等における研究者による「三合会」に関する学術的・体系的な分
析・研究が非常に進んでおり、更にその際には、研究者側と取締り
当局の間に緊密な協力関係が見られる。
詐欺等に関与していた例も見られている1'。
昨年(平成19年)中だけを見ても、香港が関連している主な事件の検挙
事例としては以下のようなものがあげられる2'。
【航空機利用による中国人集団密航事件(平成19年12月・宮城県警)I
12月3日、仙台入国管理局から、偽造香港旅券を捷示して不法に入国
した中国人男女の連絡を受け、中国人2人を入管法違反(不法入国)で
逮捕した。
【中国(香港)人らによる壁破りを侵入手口とした窃盗事件(平成19年11
月・警視庁)】
都内の貴金属店を対象に油圧ジャッキ等を用いて壁を破り侵入し、描
輪や高級腕時計等を窃取する出店荒し等事件で、 6月までに、中国(香
港)人4人、中国(台湾)人1人を逮捕し、出店荒し等35件(被害総額
約4億7,000万円)を解明した。
【中国人らによる大量覚せい剤営利目的所持事件(平成20年4月・警視庁)】
外国取締機関の協力を得て、覚せい剤営利日的所持被疑者5人(中国
[香港]人4人、日本人1人)を覚せい剤取締法違反で逮捕し、覚せい
剤約50kgを押収した。
こうしたことから、香港の犯罪組織の動向を理解・把振することは、我
が国の治安維持の観点からも重要なことと言い得る。
かかる観点から、本稿では、香港の犯罪組織の起源、現勢、組織概要、
活動状況等を簡単に紹介し、加えて、最近の特徴等を概観する。
いわゆる「香港マフィア」 ∼香港「三合会(トライアツド)」の動向について123
122
なお、本稿に記されている内容は専ら筆者の個人的意見に過ぎず、筆者
の所属する組織等の公式的見解ではないことを予めお断りしておく。
によるマネー・ローンダリング活動等に対する取締りを強化している5㌧
香港警察関係者によると、上記の「組織犯罪対策法」及び2000年に制定
された「証人保護法(Witness Protection Ordinance)」 (法第564章)は、
Ⅱ 香港「三合会」の概要
香港における「三合会」の取締り上の大きな武器となっている6'。
3 「三合金」の起源7'
1 香港の犯罪組織: 「三合会」とは何か
「三合会」の起源は、 17世紀の清朝期に、中国南東部(現在の福建省付
香港の犯罪組織については、我が国の報道記事等においては「香港マフ
近)において「反滑複明(清朝を滅ぼして漢民族の明王朝を復活させるこ
ィア」と称される例も散見される。しかし、香港の現地においては一般に
と)」を目的として、少林寺の修道士によって結成された秘密結社(「洪門」
「三合会(さんごうかい)」、英語では「トライアツド(Triad)」と呼ばれ
或いは「天地会」)にさかのぼると言われている(いわゆる「少林寺伝説」)0
る場合がほとんどである。例えば、香港警察の組織犯罪対策担当部署は
但し、こうしたいわゆる「少林寺伝説」の真偽は必ずしも明らかではない。
「組織犯罪・三合会調査課(Organized Crime and Triad Bureau)」と称
実際には「天地会」を始め当時中国南東部(広東省、福建省等)を中心に
している3'。
数多く発生した各種の秘密結社は、政治目的の結社というよりも寧ろ、当
ここで注意すべき点は、 「三合会」とは香港における「犯罪組織の稔称」
時の社会情勢(人口の急増と移民の増加等)を背景として、構成員の相互
に過ぎないということである。すなわち、日本で言うならば「暴力団」に
の扶助や部外者からの攻撃に対する防衛を目的とした組織であったとも見
近い言葉であり、 「山口組」や「稲川会」のような個別具体の犯罪組織を
られる。また、こうした秘密結社の多くは、構成員同士の意思疎通の手段
示す固有名詞ではない。なお、英語の「トライアツド(Triad)」という
として隠語・符丁等を使用し、構成員の入会等に当たり独特の儀式を行う
用語は、香港の犯罪組織のみならず、中国大陸系、台湾系、シンガポール
など、独自の神秘性を育んでいったと見られている。
系、マレーシア系等およそ全ての中華系犯罪者に対して使用される場合も
いずれにせよ、こうした中国大陸の秘密結社の伝統は、中国大陸から香
あり、注意が必要である。
港への移民・難民の流入に伴って香港へも流入して行った。一万、 19世紀
2 「三合会」の法的位置付け
から20世紀初頭にかけて、香港においても、地縁や産業(港湾労働者、建
1949年に制定された香港の「社団法(Societies Ordinance)」 (法第151章)
設業者、運輸業者等)ごとに相互扶助のための各種の組織の結成が進み、
第18条は、すべての「三合会」組織を「非合法」と定めている。その上で、
こうした香港の地場の組織にも中国大陸の秘密結社の儀式習慣が取り入れ
同法第19粂以下は、かかる非合法な「三合会」組織の構成員となること、
られて行ったと見られる。
「三合金」組織の構成員に勧誘する行為、 「三合会」に関連する物品の所持、
「三合金」関連の儀式や会合への参加等に対する罰則を定めている4'。
更に、 1994年に制定された香港の「組織犯罪対策法(Organized and
Serious Crimes Ordinance)」 (法第455章)は、 「三合金」による犯罪活動は
これらの各組織は、自己の構成員を他集団の攻撃等から防衛する過程に
おいて暴力性を帯びるようになり、同時に、自己の構成員に対しては用心
棒代金等を要求するようになっていった。かかる過程を経て、これらの相
互扶助集団は、次第に犯罪組織へと変容して行ったものと見られている。
同法の規制する「組織犯罪」に含まれる旨を定めた上で、組織犯罪による犯
こうした発生の経緯にかんがみ、現代においても「三合会」組織の多く
罪収益に対する当局による差押え・没収権限等を強化するなど、 「三合会」
は、独自の隠語・符丁や儀式等中国の秘密結社に端を発する伝統的な習慣
いわゆる「香港マフィア」 ∼香港「三合会(トライアッド)」の動向について125
124
を継承している場合が少なくない。
年6月10日付記事も、 「数の上ではr14Kjがr新義安」を凌ぐ勢いであ
なお、 「三合会(Triad)」の語源については、 ① 「天、地、人」の主っ
ることは確かであるものの、 r新義安」が最も強固な組織力を有する最強
の力のコンビネーションに由来するという説、 ② 「天地会」の創設場所が
のr三合会j組織であることには変りはない」との専門家の意見を紹介し
3本の川の付近であったことに由来するという説、 ③ 「天地会」の創設者
ている12'。こうした見方の背景には、後述のとおり、 ① 「14K」は組織性
が李、来、供の3名の人物であったことに由来するという説、など諸税あ
がやや横やかであるのに対して「新義安」は比較的組織性が強いと見られ
るがいずれも真偽は定かではない8'。
ること、 (参「和勝和」は他の「三合会」組織に比較して街頭レベルでの非
4 「三合金」の現勢
合法活動が比較的活発であること、などがあるものと見られる。
香港における「三合会」の構成員の総数は必ずしも明らかではないもの
なお、前述の栄耀光准教授は、現在の香港「三合金」組織は、 「潮州・
の、 2000年12月24日付の香港「サウス・チャイナ・モーニング・ポスト
頑健(Chiu Chow/Hoklo)」、 「14K」、 「和(Wo)」、 「聯(Luen)」の4つ
(south China Morning Post)」親の記事は「約5万人から12万人と推定さ
の主要グループに分類されると指摘している。 (図表1参照。)13'
れる」旨を述べている9'。 (ちなみに、現在の香港の稔人口は概ね690万人
である。)前述のように、 「三合金」組織が法律上「非合法」とされている
ことが、正確な構成員数の把握を困難にしている一因であると見られる。
香港警察によると、 1960年代には212の「三合会」組織が存在が確認さ
れていたものの、現在確認されている「三合会」組織は52組織である。こ
図表1 四大「三合金」グループとその下部組織
潮州.蒔億
新載安(sl一山YceOu) 儘b
ニニ
福桝(FLTkYec払l辛)
D
敬載(KJn等Ycc) 義群(yccKw血J 佇
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和合卸(秩)(W○E叩T○)
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のうち、実際に活動を行っている「三合会」組織は13組織であり、特に活
発なのは以下の7組織である10'。
出典: clnLI Yul-ko噂(朱搾光) 1¶le Tliads as Bl柑llle等ぎ"、三000. Rolltledge. I).26.
・新義安(SanYeeOn)
上記の各グループはそれぞれ独自の歴史的起源を有している。
・和勝和(WoShingWo)
第-の「潮州・頑俺」グループは、元来、潮州・頑健地方(中国広東省)
14K
の出身者が使用する独特の方言に基づいて結束したものである。
・和合桃(WoHopTo)
第二の「14K」は、元来、中国における国共内戦の最中の1947年、中国
・和合楽(WoOnLok)
広東省において、中国国民党が秘密結社の構成員を国民党支援勢力として
14K大圏(14K Ta主 Huen)
・ 大圏(TaiHuen)
結集するべく結成した反共産党・親国民党的組織を起源とすると言われて
いる。その後、 1949年に国民党が内戦に敗れて台湾に逃走した際、当該組
「三合会」研究の専門家である香港大学の栄耀光(Chu Yiu kong)准教
織の構成月の多くが避社民として中国大陸から香港に流入し、香港に土着
授の研究によると、現在、これらの「三合会」組織の中で最大の組織員数
するようになった。設立当初、組織の本部が「広東省広州市域華路14番地」
を有するのは「14K」であるものの、最も強力な組織は「新義安」であり、
に設置されており、組織構成員の多くが組織本部の住所地番に基づき自分
更に、 1990年代下旬以降警察当局が最も注視している組織は「和勝和」で
たちを「rSap Sze Ho (No.14)」の構成員である」と名乗ったことが、
あると見られる11'。 「サウス・チャイナ・モーニング・ポスト」紙の2001
「14K」の「14」の由来であると言われている。一方、 「14K」の「K」と
..FIT:'・.T).讃・.ll._..
126
いわゆる「香港マフィア」 ∼香港「三合金(トライアッド)」の動向について127
I.
・・・・_・・・・
は、 「普通の金より硬く強いrカラット金(karatGold)jのシンボル(K)」
- 「紅梶(HungKwan)」は、組織の中の武関責任者である.
に由来すると言われている14'。
- 「白紙厨(Pak Tsz Sin /White Paper Fan)」は、組織の全般的運営
このように「潮州・稲億」グループ及び「14K」グループが中国大陸に
の責任者である。
・1Tt7T
起源を有しその後に香港に流入してきたものであるのに対し、 「和」グル
- 「草牲(ChoHai /StrawSandal)」は、組織の対外渉外役を務める。
ープ及び「聯」グループは香港の労働組合組織等から発展した、言わば
- 「四九仔(Sze Kau Chai /Red Pole)」は組織の一般的な構成員である。
「香港地場」のグループであると見られる15'。
なお、 「大圏仔(Ta主 Huen Chai)」 (英語ではしばしば「Big Circle
Boys」と言われる。)については、元来、中国の文化大革命の時期(1960
年代後半∼1970年代前半)に中国南東部(主に広東省)において紅衛兵と
なお、それぞれの役職には数字の符丁が付されており、 「山主」は489、
「副山主」と「香主」と「先鋒」は438、 「紅梶」は426、 「白紙厨」は415、
「草牲」は432、がそれぞれの符丁番号である19'。
図表2 伝統的な「三合会」組織の編成
して活動していた学生や若者が、文化大革命終了後の1970年代に中国大陸
から合法的或いは非合法的に香港に流入し、その一部が犯罪組織化したも
のと言われている。 「大圏仔」構成員が香港の地場の「三合金」組織と同
化する場合には「14K」グループと同化する場合が多く、こうした組織が
「14大圏」となったと見られている16'.17'。
但し、いずれにせよ、これらはあくまで歴史的な経緯に過ぎず、今甘では
これらのグループはいずれも香港において「現地化」した組織となってい
るoまた、後述のように各「三合会」組織の非中央主権化にともない、現在
は各グループとも強い組織的な結束力は必ずしも有していないと見られる。
5 「三合会」の組織編成
香港警察によると、伝統的な「三合金」の典型的な組織編成は以下の図
表2のようなものであったと見られる18'。
- 「山主(Sham Chu)」は、全ての事項に関して最終決定を行う責任を
有する全般的な指導者である。
- 「副山主(Fu Sha Chu)」は、組織の副指導者であり、指導者である
「山主」を直接補佐する。
- 「香主(Heung Chu)」は、加入や昇進等に関する全ての儀式の責任
者である。
- 「先鋒(Shin rung)」は、構成員の勧誘の責任者である他、各種儀式
の運営・補佐役を務める。
一方、後述のとおり、昨今は「三合会」組織の非中央集権化の進展にと
もない各「三合会」組織は簡素化する傾向にあると見られる。香港警察に
よると、現代の「三合会」組織の典型的な編成は以下の図表3のように
なっていると見られる20'。
6 「三合会」の活動
香港警察によると、 「三合会」組織の構成員が関与している主な犯罪と
しては、人の密輸、管理売春、薬物密輸・密売、賭博・ノミ行為、債権取
立て、恐喝、強盗、クレジットカード詐欺、偽造(パスポート、ブランド
商品等)、マネー・ローンダリング等が上げられる21)0
最近の香港における「三合会」関連事案の報道としては以下のような辛
∴ L
いわゆる「香港マフィア」 ∼香港「三合会(トライアツド)」の動向について129
128
I ・ , . . . / ・
図表3 現代の「三台会」組織の編成
【2007年6月18日付「サウス・チャイナ・モーニング・ポスト」紙】
香港警察は、 「三合会」構成員が運営するインターネットの売春「裏
I . ・ 1 7 ・ . ,
サイト」を摘発し、関係者16名を逮捕した25'。
I J I . . I
【2005年11月18日付「サウス・チャイナ・モーニング・ポスト」紙】
香港警察は、マカオ警察、広東省公安局と合同で、 12日間にわたる
「三合会」一斉共同摘発を行い、 「新義安」、 「14K」、 「和勝和」構成員等
を含む被疑者鎗計約1β00名を検挙するとともに、 「三合会」関連のナイ
トクラブ、酒場、賭博場、薬物取引所等の捜索を通じて違法な薬物、銃
器等多数を押収した26㌧
【2005年11月3日付「サウス・チャイナ・モーニング・ポスト」紙】
香港警察は、 「三合会」の運営する九龍地区の複数の売春施設に対す
例が見られる。
【2008年3月17日付「サウス・チャイナ・モーニング・ポスト」紙】
る一斉摘発を行い、稔計で126名の被疑者を検挙した㌘)0
【2005年6月15日付「サウス・チャイナ・モーニング・ポスト」紙】
香港警察は、新界、九龍地区の酒場等において、 「三合会」構成員合
香港警察は、マカオ警察、広東省公安局と共同で約1週間にわたる
計53名を違法なサッカー賭博、薬物取引、武器所持等の容疑で逮捕する
「和勝和」及び「14K」に対する一斉共同取締りを行い、総計で約500名
とともに、遠法典物(覚せい剤、コカイン、ケタミン)及び賭博掛け金
の被疑者を検挙するとともに、違法な薬物、武器、密輸タバコ等多数を
を押収した22'。
押収した。香港においては、 「和勝和」の運営する九龍地区のマッサー
【2008年1月31日付「サウス・チャイナ・モーニング・ポスト」紙】
ジ店や薬物取引所が捜索を受けた28㌧
香港税関及び香港警察は、中国大陸とのボーダーにおいて、 「三合会」
構成員等3名を車両を用いてタバコを密輸した容疑で逮捕するととち
他方、後述のとおり、近年は、各「三合会」組織の構成員が上記のよう
に、末端価格200万香港ドル(約3千万円)相当のタバコを押収した。
な違法活動から「合法ビジネス」に進出している例が増加しているものと
なお密輸タバコの押収総額は、 2006年は7千8百万香港ドル(約1億1
見られる。
千7百万円)、 2007年は1億7千8百万香港ドル(約2億6千7百万円)
に上る23'o
【2007年7月31日付「サウス・チャイナ・モーニング・ポスト」紙】
香港警察は、 「新義安」関係の施設に対する捜索を実施し、最高幹部
実際、過去14年間の香港における稔犯罪件数の中に占める「三合会」関
連犯罪件数は概ね3%から4%程度であり、少なくとも犯罪統計上は「香
港における犯罪のほとんどに r三合会]が関連している」とは言えない.
(下記図表4参照o)
1名を含む「新義安」構成貞数名を「新世界財閥」グループに対する脅
また、後述のように、ある犯罪に「三合会」構成員が関与している場合
迫等の容疑で逮捕するとともに、犯罪収益と見られる現金、遵法薬物等
であっても、それは当該「三合会」構成員が個人的に関与しているに過ぎ
を押収した24'。
ず、当該犯罪者が所属している「三合会」組織が「組織的」に当該犯罪を
.-.G.7...1.'・TT'.Jl-T.T "jTfT
いわゆる「香港マフィア」 ∼香港「三合会(トライアツド)」の動向について131
130
敢行している訳ではない場合が少なくないと見られることに注意する必要
仔」との関係が見られている。また、台湾の「竹聯酎」との関係も見ら
がある29'o
れる。
また、 2003年(平成15年) 4月に米国国会図書館(Library of Congress)
国表4 香港の全犯罪件数と「三台会」関連犯罪件数
年
ルLhン
1994
ー995
ネ
B
塔rテ
r三台会」関連犯罪件数
Hネ
3,746件
当ツテャb2
1996
都津
1997
田rテ3cxネ
1998
1999
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3,959件
ネ
87
D「
釘
R
釘
3,126件
釘
R
纈R
砺ツテ田"2
2,623件
綯R
都bテsvツ2
2,872件
縒R
2,477件
都rテ#CXネ
2001
都2
2802
都Rテピxネ
2,604件
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2003
塔づ3sxネ
2,471件
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2004
塔
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Xネ
都rテC3xネ
紕R
2,346件
N/A
- フィリピンでは、 「14K」、 「大圏仔」等の構成員が薬物密輸・密売や
一 タイでは、 「14K」、 「新義安」等の構成員がヘロイン等の廃物密輸・
R
2,455件
「三合会」の動向に関して次のように述べている。
人の密輸に従事している。
2000
2005
Activities of Chinese Crime Organization)」は、主要国における香港
R
2,599件
以
が発行した調査報告書「中国犯罪組織の国際的活動状況(Transnational
密売、人の密輸等に従事している。
一 豪州では、シドニーを中心に、 「14K」、 「新義安」、 「和合桃」、 「和勝義」等
纈R
の構成員が東南アジアからのヘロインの密輸・密売等に従事している。
披
2006
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2,396件
R
2007
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2,259件
繧R
【出典】:
I 1994-2004年: ChuYm-kong (東児光) "HongKongtrlads after 1997" ("Trends Jn
- オランダ・ベルギーでは「14K」構成員がヘロイン密輸に従事してい
る。
一 英国では、 「14K」、 「大圏仔」、 「和勝和」、 「和安楽」、 「新義安」等の
orgmlLed Cr皿e" Vo1 8, Number 3/ March 2805, SprlngNew Yわrk), p 6
- 2005-2008年:香港警察HP:http//www pollC8 gOVhkJhkp-homeI8ngllSh/lnd8Ⅹ him
7 「三合会」の海外への進出動向
香港の「三合会」組織の構成員は、香港内のみならず、東南アジア、北
米、欧州等世界各地においても広く活動している様子がうかがわれる。
かかる動向に関し、前出の朱耀光香港大学准教授は次のように指摘して
いる30㌧ (※中国大陸への進出の動向については別途後述するo)
構成員が中国からの密航ビジネスやコピー商品の密輸・密売等に従事し
ている。
- カナダでは「大圏仔」、 「14K」、 「新義安」、 「和合囲(桃)」、 「和安楽」
等の構成員が薬物密輸・密売、マネー・ローンダリング等を始め多彩な
犯罪に従事している。
- 米国では、 「大圏仔」構成員の活動が広く見られる。また、 「14K」構
. 1 7 . . T . 1 . . ・ 1 . T , I . ' r L 一 一 . . J 一 1 . 7 4 ■ 一 i 1 . - .
- 「新義安」構成員は米国、カナダ、英国、豪州等での活動が確認され
成員の活動がニューヨーク、カリフォルニア、ボストン、ヒューストン
ており、特にニューヨーク(米国)では現地の中華系犯罪組織である
等において見られるほか、 「新義安」構成員の活動がニューヨーク、マ
イアミ、サンフランシスコ、ロサンゼルス等において見られる。
「福清野」との関係が見られる。
- 「和勝和」構成員は米国、カナダ、英国等での活動が確認されている0
朱耀光准教授は、 「こうした海外における r三合会」の活動は基本的に
また、オランダでは現地の中華系犯罪組織である「大圏仔」との関係が
は各r三合金」構成員の個人的かつインフォーマルな人的ネットワークに
見られる。
- 「14K」構成員は英国、オランダ、米国、カナダ、豪州等での活動が
基づくものに過ぎず、香港の各r三合会j組織がr組織的」に海外に進出
確認されている。特にオランダでは現地の中華系犯罪組織である「大圏
しているとは必ずしも言えない(すなわち、香港のr三合会」組織が海外
に下部組織等を開設している訳ではない。)」旨を指摘している31'。
132
いわゆる「香港マフィア」 ∼香港「三合金(トライアツド)」の動向について133
なお、海外で活動している中華系の犯罪者や犯罪組織には香港「三合金」
構成員のみならず、中国本土系、台湾系、マレーシア系、シンガポール系、
③中国大陸-の進出、の3点を指摘している。
1 非中央集権化
更には外国に定着した移民2世・ 3世等で構成される「地場系」等多くの
第-点目は「非中央集権化」である。すなわち、朱准教授によると、昨
異なった種類のグループがある点に注意する必要がある。その意味で、
今の「三合金」組織は、独立した犯罪者同士の綾やかな「寄り合い」集団
「世界中における中華系犯罪者の活動全てを香港r三合会」が取り仕切っ
に過ぎなくなりつつある。確かに構成員は依然として同じ伝統的な習慣
ている」との一部の見方は正しいとは言えない。 (なお、前述のとおり、
(隠語・符丁、各種儀式等)を共有しているものの、活動面においては組
英語の「トライアツド(Triad)」という用語は、香港「三合金」のみな
織全体を指揮する「中央指導部」のようなものはもはや存在しなくなりつ
らず、中国大陸系、台湾系、シンガポール系、マレーシア系等およそ全て
つあると見られる。この結果、各「三合会」の組織編成や各種の伝統的儀
の中華系犯罪者・犯罪組織の稔称として使用される場合もあることに注意
式等についても、従前に比較すると相当に簡素化されていると見られる㍊'。
する必要がある。)
日本の暴力団組織との比較で言えば、香港の「三合会」組織の場合は、
8 「三合会」と日本との関係
下部構成員から上部への上納金制度等は殆どなく、また、組織からの脱退
日本との関係に関しても、香港警察関係者は、 「香港のr三合金J組織
や別の組織への移籍も比較的自由であると言われている。更に、各構成員
の構成員が日本の暴力団関係者等と協力して各種犯罪に関与している例は
はしばしば、自身が所属する「三合会」組織の利益よりも自分自身の個人
少なくないものの(例えば薬物密輸等)、これらはあくまで各犯罪者の個
的利益を優先することもあると見られる34㌧したがって、ある「三合会」
人的な活動であり、各r三合会J組織が組織的に関与しているものとは見
組織(例えば「14K」)の構成員が、より大きな経済的利益を求めて他の
られず、ましてや、香港のr三合会j組織が組織的に日本に進出している
「三合会」組織(例えば「和勝和」)の構成員と共同して犯罪活動を行うよ
との兆候は把纏されていない」旨を述べている32㌧
うな事例も珍しくないと見られる35㌧
ちなみに、日本における中国系犯罪者としては、主に東北地方(遼寧
こうした香港の「三合会」組織の状況は、例えで言えば、 「犯罪者の集
省・吉林省・黒竜江省)系、福建省系、上海系等がみられるが、これらの
う同好会のようなもの」とも青い得る。すなわち、各構成則まあくまで独
犯罪者の多くは合法的或いは非合法的に日本に入り、事実上ある程度日本
立した言わば「個人事業主」であり、 「三合会」組織は各構成員同士のネ
に定住している者である場合が少なくないものと見られる。これに対して、
ットワーキング等には資するものの、 「三合会」そのものが企業のように
日本において犯罪を敢行する香港の犯罪者の多くは、日本に定住している
単一の「組織体」として犯罪活動を展開する訳では必ずしもない。また、
者ではなく、個別具体の犯罪敢行のために必要な範囲内においてのみ短期
「三合会」組織の幹部は「名士」として構成月に尊敬はされているものの、
的・一時的に来日しているに過ぎないものと見られる。
その指揮・指導に各構成月が必ずしも従うわけではないものと見られる。
こうしたことから、前述のように、ある犯罪に「三合会」構成員が関与
Ⅲ 「三合会」の最近の特徴点
している場合であっても、それは当該「三合会」構成負が個人的に関与し
ているに過ぎず、当該犯罪者が所属している「三合会」組織が「組織的」
最近の「三合会」の特徴点として、前出の朱耀光香港大学准教授は、以
下のとおり、 ①非中央集権化、 ②活動の非犯罪化(合法ビジネスへの進出)、
に当該犯罪を敢行している訳ではない場合が少なくないと見られる3㌔
なお、各「三合会」組織の比較としては、主要な「三合会」組織の中で
134
いわゆる「香港マフィア」 ∼香港「三合金(トライアツド)」の動向について135
∃ . t 一 . ト " . 1 , I
も特に「14K」はこうした非中央主権化がより進展している一方、 「新義
二に、中国広東省は香港と同じ広東語が日常語として話されている地域で
安」は依然として組織としての繋がりが比較的強いと見られている37'。
あり、言語・習慣的にも香港の「三合会」構成員にとって比較的活動が容
2 活動の非犯罪化(合法ビジネスへの進出)
易な環境であると見られる。
第二点目は、 「三合会」の活動の非犯罪化或いは「合法ビジネスへの進
中国大陸(特に広東省)へ進出した香港の「三合会」構成月は、中国・
出」である。すなわち、昨今、 「三合会」構成員は、前述のような非合法
香港のボーダーを跨ぐ人身売買や薬物密輸等の犯罪行為に関与する場合も
ビジネスのみならず、飲食店(ナイトクラブ、バー、レストラン、ダンス
ある一方で、中国現地においてカラオケバーやレストラン経営等の娯楽産
クラブ)経営、映画産業経常等の合法ビジネスへの進出を強めていると見
業に合法的に関与する場合も少なくないと見られる。また、こうした場合、
られるo宋准教授も、 「各r三合会j組織の構成員の多くは正業としての
当該ビジネスはしばしば香港「三合会」構成月と現地の中国犯罪組織構成
合法ビジネスに従事しており、 F三合会J構成員の全てが犯罪に関与して
員の共同事業(ジョイント・ベンチャー)として経営されているものと見
いる訳では必ずしもない」旨を指摘している3㌔但し、その度合いがどの
られる43㌧
程度であるかは現段階では必ずしも明らかではない39'o
かかる動向に関し、 2007年9月、中国広東省最高人民法院は、 「近年、
「サウス・チャイナ・モーニング・ポスト」紙の2001年6月10日付記事
香港、マカオ、台湾等の犯罪組織関係者の広東省への進出が増加しており、
も同株に「r三食会」の活動の非犯罪化」の傾向を指摘した上で、その背
現地の交通、建設、娯楽、流通等の各産業への影響力を強めている」旨を
景として、 「1994年の香港における暴力団対策法の施行等により r三合会j
指摘している44㌧
組織の犯罪活動に対する当局の取締りが強化された結果、 r三合金j組織
但し、こうした現象は、前述のような「三合金」構成員の欧米進出の場
の活動はより実利的(ビジネスライク)かつ巧妙なものに変容を余儀なく
合と同様に、必ずしも「三合会」の各組織が「組織的」に中国へ進出して
されている」旨を指摘している40'。
いるのではなく、あくまで「三合会」の各構成貞の個人的な活動である場
なお、各「三合会」組織の比較としては、主要な「三合会」組織の中で
合が多いものと見られる45'。
も特に「新義安」は合法ビジネス-の進出がより進んでいると見られてい
る。他方、 「和勝和」は依然として伝統的な違法活動への関与の度合いが
Ⅳ 終わりに∼教訓事項
比較的多いと見られている41'。
3 中国大陸への進出
1香港「三食会」と日本の暴力団の相違
第三点目は、香港の「三合会」構成員の中国大陸への進出の活発化であ
本稿では、香港の「三合会」の成り立ちから最近の動向等について概説
る。未准教授は、香港の中国返還(1997年)の後、香港の「三合会」構成
した。上記より明らかなとおり、香港「三合会lは日本の暴力団組舷とは
員が中国大陸(特に香港と隣接する広東省)に進出し、現地の犯罪組織
相当に異なった特性を有しており、日本の暴力紐組織をイメージしつつ
等と協力して各種活動を行う例が増加している旨を指摘している42'。
「三合会」を理解しようとすると思わぬ誤解を生じかねないと思われる。
こうした動向の背景としては、第一に、昨今の中国の急速な経済発展や
最大のポイントは、日本の暴力団組織は比較的強EElな組織性を有してい
香港経済と中国経済の融合化の進展に伴い、犯罪面においても中国大陸に
るのに対し、香港の「三合会lは非中央主権化が進んでおり、個々の構成
おけるビジネスのチャンスが増加していることがあるものと見られる。第
員が「個人事業主」の如く独立して犯罪行為に従事する場合が少なくない
.I I
rP・眉濁煽瑚題溺領周V.・頂・.り司PT.r。、甥.TL.,'TT..-. LtT!・T..Tr7jllI「1TT7.:7顎.JU・fr::V・...qT..TL"./..・.1...i...(.....IP.'';.W.当
136
いわゆる「香港マフィア」 ∼香港「三合会(トライアッド)」の動向について137
と見られることである。その意味で、前述のとおり、香港の「三合金lは
(本稿に対するご質問、ご意見等は次のメール・アドレスまでお願いい
「犯罪者の集う同好会lのような「膚やかな繋がりlに過ぎないとも青い
たします: [email protected])
得よう。
あくまでも筆者の私見であるが、こうした状況の背景には、香港(ある
いは中国全般)においては日本等に比較して社会における「個人主義的指
向」乃至は「起業家精神」が強いことが関係しているとも見られる。すな
わち、香港等においては、犯罪者の多くにとって最大の関心事は「自分自
身が如何に多く儲けるか」ということであり、帰属する組織(「三合会」)
はあくまでもこうした「個人の金儲け実現のための手段」に過ぎず、更に
は犯罪活動そのものもやはり「個人の金儲け手段」の一つに過ぎないとの
思考があるように見られる。したがって、前述のように、各犯罪者と組織
1) 「平成15年版「警察自書」 (p28-29)は次のように述べている。
我が国ではこれまで,三合金の構成員が首領として指揮を取りヒットアンドアウ
ェイ方式により貴金属店に対する強盗を敢行したり,構成員らが日本国内に偽造工
場を設けクレジットカードを偽造し,これを用いて商品を屈し取った事件等がみら
れる。後者の例では,磁気情報をスキミングされた店舗が米国,カナダ,シンガポ
ール等世界各地にわたり,我が国での被書総額は約20億円に上るなど,国際的規模
で敢行されている事件もみられる。また,新宿の歌舞伎町で活動がみられた香港出
身者からなるクレジットカード偽造グループに対する捜査の過程でその背後に三合
会の関与がうかがわれるものもあった。
2) 「来日外国人犯罪の検挙状況(平成19年)」、平成20年3月4 El、警察庁。
替察庁ホームページより。
http://ww w. npa.go.j p/sosik iba nzai/kok usaisousa/kok usai4/con te n ts.htm
3)香港督寮の「組織犯罪・三合金調査課(Organized Crime and Triad Bureau)」
(「三合会」)との関係も日本の暴力団組織と構成員の関係よりも遁かに凄
いものにならざるを得ないものと見られる。更に、前述のような香港「三
の正確な中国語表記は「有組織罪案及三合金調査科」である。
4) 「社団法(Societies Ordinance)」 (法第151章)第18粂(Section : 18)の原文は
次のとおり。
合会」構成員による「合法ビジネスへの進出」や「中国大陸への進出」と
いった動向についても、 「そうした方がより儲かるから」という「ビジネ
ス」上の動機に裏付けられている面が強いと考えられる。
2 組織犯罪に対する学術的・体系的研究の重要性
本満の執筆に当たっては、筆者自身による香港警察関係者への取材結果
や現地報道等を参照した他、 「三合会」に関する各種の学術研究書や論文
等を参照した。その際に実感したことは、香港及び欧米においては、取締
り当局のみならず、大学等における研究者による「三合会」に関する学術
的・体系的な分析・研究が非常に進んでおり、更にその際には、研究者側
と取締り当局の間に緊密な協力関係が見られるということである4㌔
かかる取組みは我が国における組織犯罪対策の推進においても参考にな
(1) For the purposes of this Ordinance, "unlawful society" (非法社圃) means-
(a) a triad society, whether or not such society is a registered society or art
exempted society and whether or not such society is a localsociety : or
(b) a society in respect of which, or in respect of whose branch, an order
made under section 8 is in force. (Replaced 75 of 1992 S. ll. Amended 118 of
1997S.12)
(2) (Repealed75of1992S, ll)
(3) Every society which uses any triad ritual or which adopts or makes use of
any triad title or nomenclature shall be deemed to be a triad society.
5) 「組織犯罪対策法(Organized and Serious Crimes Ordinance)」 (法第455章)第
2条は、 ①伝統的な「三合会」において一般的に使用されている儀式、当該儀式に
類似している組織或いは当該儀式の一部を使用する組織、 ②伝統的な「三合金」の
名称や用語を使用している組織、はすべからく同法の規制する「三合会」組織に含
まれる旨を定めている。同条の原文は以下のとおり。 (なお、同法の中国語の正確
な名称は「有組織及厳重罪行条例」。)
triad society " (三合食) includes any society which-
(a) uses any ritual commonly used by triad societies. any ritual closely
るものと思われる。
resembling any such ritual or any part of any such ritual ; or
(b) adopts or makes use of any triad title or nomenclature ;
6) 2007年11月、香港警察刑事局組織犯罪対策殊関係者から筆者が聴取した内容。
冒頭に述べたように、香港の組織犯罪情勢は我が国の治安情勢にも影響
を及ぼすものである。香港の組織犯罪情勢を理解する上で本満が何らかの
役に立てれば幸いであるo
「サウス・チャイナ・モーニング・ポスト」紙の2001年6月10日付記事も同様の
見解を紹介している。 "Triads leaner and meaner in their methods巾, June
10/2001, South China Morning Post
7 ) Chu Yin-kong (朱輝光) "The Triads as Business1 2000, Routledge, p.11121.
讃∵(.
・・-、,Lt.
いわゆる「香港マフィア」 ∼香港「三合会(トライアッド)」の動向について139
138
8 ) Chu Yin-kong (朱耀光) "The Triads as Business", 2000, Routledge, p.13.
A..
9 ) "Triads spread their wings- , December 24/2000, South China Moming Post
0rganized Crime" vol. 8, Number 3 / March 2005, Spring New York), pふ6・
34) Chu Yin-kong (朱燭光) }Global Triads: Myth or Reality", Mats Berdaland
・∵,
10) 2007年11月、香港督察刑事局組織犯罪対策課関係者から筆者が聴取した内容。
Monica Serrano Ed.. "TransnationalOrganized Crime and International Security"
ll) Chu Yin-kong (栄耀光)山Hong Kong triads after 1997" (dTrends in
2002, Lynne Rienner, p.184.
Organized Crimeけvol. 8, Number 3 / March 2005, Spring New York), p.5.
,・・.LEq頂1...等
12) dTriads leaner and meaner in their methods". June 10/2001, South China
Morning Post
13) Chu Yin-kong (朱増光) qThe Triads as Business", 2000, Routledge, p.26.
14) Chu Yin-kong (朱頼光) "The Triads as Business", 2000. Routledge, p.147-148.
15) Chu Yin-kong (栄耀光) "The Triads as Business", 2000, Routledge, p.26.
16) Chu Yin-kong (朱頼光) "The Triads as Business". 2000. Routledge, p.1501152.
17) 「大圏仔」と称する犯罪組織はオランダやカナダ等欧米においても見られるo こ
れらは、元来中国本土(主に広東省)から香港に流入した「大圏仔」がその後更に
香港から外国へ移民した場合もあるが、中には中国本土(主に広東省)から(香港
を経由せずに)直接当該外国に移住し、各国においては「大圏仔」の名称が比軟的
有名であることから便宜上「大圏仔」の名称を名乗っている場合もある. (Chu
Yin-kong (#mX) "The Triads as Business", 2000, Routledge, p.152.)
18) 2007年11月、香港響察刑事局組織犯罪対策課関係者から筆者が聴取した内容0
19) Chu Yin-kong (未増光) "The Triads as Business". 2000, Routledge, p.22125.
20) 2007年11月、香港警察刑事局組織犯罪対策課関係者から筆者が聴取した内容。
Chu Yin・kong (栄耀光) "The Triads as Business". 2000. Routledge, p25・29.
21) 2007年11月、香港書察刑事局組織犯罪対策課関係者から筆者が聴取した内容。
22) "53 suspected triad members arrestedl March 17/2008, South China Morning
Post.
23) "Trio arrested as police seized cigarettes worth HK$2m", January 31/2008,
..■ ∴.A.T.T・」.・弓.:・.・7).1HI.V・tT.・、.T.T・、T・T・+.-ご:l・.rl'TT-J-i;
South China Morning Post
24) "Top triad suspect held in raids", July 13/2007, South China Morning Post.
25) dTriad-linked websites blatantly selling sex in flats are closedl June 18/2007,
South China Morning Post
26) `1.800 seized in cross-border crackdown on triad gangs". November 18/2005,
South China Morning Post.
27) "Scores held after police smash triad-run vicering", November 3/2005, South
China Morning Post.
28) "Crackdown on triads sees 500 arrested". June 15/2005, South China Morning
PosL
29) Chu Yin-kong (朱増光) "Hong Kong triads after 1997" (''Trends in
Organized Crime" vol. 8, Number 3 / March 2005, Spring New York), p. 7.
30) Chu Yin-kong (栄耀光) "Hong Kong triads after 1997" ("Trends in
Organized Crime" vol. 8, Number 3 / March 2005. Spring New York). p.9-ll.
31) Chu Yin-kong (栄耀光) "Global Triads : Myth or Reality", Mats Berdaland
Monica Serrano Ed.. "Transnational Organized Crime and lnternational Security"
2002, Lynne Rienner, p.186.
32) 2007年11月、香港警察刑事局組織犯罪対策課関係者から筆者が聴取した内容。
33) Chu Yin-kong (朱耀光) "Hong Kong triads after 1997" ("Trends in
35) Chu Yin-kong (栄耀光) "GlobalTriads: Myth or Reality". Mats Berdaland
Monica Serrano Ed., "Transnationa1 Organized Crime and International Security"
2002. Lynne Rienner, p.186.
36) Chu Yin-kong (朱増光) "Hong Kong triads after 1997" ("Trends in Organized
crime" vol. 8, Number 3 / March 2005. Spring New York), p.7.
37) Chu Yin-kong (朱頼光) "Hong Kong triads after 199r ("Trends in Organized
crime" vol. 8, Number 3 / March 2005, Spring New York), p.9-ll.
38) Chu Yin-kong (朱耀光) "GlobalTriads: Myth or Reality", Mats Berdal and
Monica Serrano Ed/Transnational Organized Crime and lnternationalSecurity"
2002. Lynne Rienner. p.184.
39) Chu Yin-kong (乗堰光)山Hong Kong triads after 1997け("Trends in
organized Crime" vol. 8, Number 3 / March 2005, Spring New York), p・7・
40) "Triads leaner and meaner in their methods". June 10/2001. South China
Morning Post
41) Chu Yin-kong (栄耀光)山Hong Kong triads after 1997け(dTrends in
organized Crime" vol. 8, Number 3 / March 2005, Spring New York). p.9, P.ll.
42) Chu Yin-kong (朱輝光) "Hong Kong triads after 1997" ("Trends in
organized Crime" VOL 8. Number 3 / March 2005, Spring New York). p.8.
2000年12月24日付及び2002年7月18日付の「サウス・チャイナ・モーニングポス
ト」紙も国旨の記事を掲取している。
"Triads spread their wingsI December 24/2000, South China Morning Post
"Triads stake claims in mainland goldrush", July 18/2002, South China
Mornlng Post
43) Chu Yin-kong (##*) "GlobalTriads : Myth or Reality", Mats Berdal and
Monica Serrano Ed.. "Transnational Organized Crime and International Security"
2002, Lynne Rienner, p.186.
44) "Juveniles, foreigners swell triad numbers in Guangdong", September 5/2007,
China Daily
"Triads invasion growing, says Guangdong Court", September 5/2007, South
China Morning Post
45) Chu Yin-kong (朱耀光) "Hong Kong triads after 1997" ("Trends in
organized Crime" vol. 8, Number 3 / March 2005, Spring New York). p. 8.
Chu Yin-kong (朱濯光) "Global Triads : Myth or Reality付. Mats Berdaland
Monica Serrano Ed.. "TransnationalOrganized Crime and International Security〝
2002, Lynne Rienner, p.186.
46)例えば香港における一例としては、香港大学社会学部犯罪学センター
(University of Hone Kong, Department of Sociology, Center for Criminology)の
活動があげられる。
同センターのホームページは次のとおり。 : http://www.crime.hku.hk/
Fly UP