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切り土法面における林縁樹の湿り雪による倒伏とその
北海道の雪氷 No.30(2011) 切 り土法面にお ける林縁樹 の湿 り雪 による倒伏 とそ の対策 につい て 斎藤新 一郎 (社 団法人北海道開発技術 セ ンター) は じめに 北国では,秋 季 に,落 葉前 に,早 々 と,初 雪 とし ての湿 り雪が降ることがある。そ して, ときどき 切 り土法面 の木 々が,湿 り雪を樹冠 に載せ (冠 雪), そ の重 さで,路 面へ倒伏す る雪害が生 じる。 , 2010年 10月 26日 に,国 道 453号 の支笏湖畔 ( KP41.5km付 近)に お いて,湿 り雪による樹木 の倒 伏害 が発生 した (写 真 -1)。 そ して,緊 急出動 とし て,土 質 の専門家 が呼ばれ て,善 後策 が検討 された。 けれ ども,こ の事例 の よ うに,雪 害 が生 じてか ら検 写真 -1 国道 453号 における,湿 り 討 しても,後 始末だけであつて,根 本的な対策では 雪による切 り土法 面 の木 々の倒伏 ない。 (道 路防災有識者会議資料か ら) の が で 筆者 本論 提案す ることは,林 縁樹 湿 り雪に よる倒伏 は,前 もつて十分 に予想 できるのであ り,予 防対策 は,そ れ らの間引きをす る必要性 である。以下に,そ の必然性 と予防対策 として の間引きを検討 し,安 全 な道路交通に,多 少 と も貢献 いた したい。 林縁木 の 片側樹冠 について 国道 にお い ては,切 り土法面に樹林が存在 す ると,そ の道路側 の林縁 の木 々 の多 くが 片側だけが発達 した樹冠 (偏 り樹冠 )を もつ。 , そ の成因は,上 方か らの陽光 を,上 側 の本 の 樹冠 に奪われ ,路 面上方 か らの側方 の陽光 を 利用す るために,そ ち ら側 に枝葉 が偏 るか ら である.そ れ ゆえ,重 力が作用 し,幹 が傾斜 を余儀 な くされ る。また,幹 の傾斜 は,積 雪 の移動 (グ ライ ド)に も影響 され ,木 本性 つ る類 の絡み付 きにも影響 され る こ うした樹冠 (枝 葉複合体)が ,湿 り雪 を . 載せ ると,樹 幹 は,さ らなる傾斜 を余儀 な く され ,倒 伏 に到 るケースが生 じることになる (図 -1)。 なお ,傾 いた樹幹は,立 ち直 るこ 図 -1 切 り上法面に生育す る木 々の うち , 林縁木 は,樹 冠 が偏 り,樹 幹 が傾 きやす い とな く,い ずれ ,自 重 のみ で も倒伏 に到 る . 湿 り雪による倒伏の事例 筆者 が初 めて湿 り雪による,林 縁木 の倒伏 と通行止 めを視 た事例 は,2001年 10月 2日 の 大雪湖 沿 いの国道 273号 であつた (写 真 -2).高 標高地 では,仲 秋 であつて も,湿 り雪が降 り , , 落葉前 の樹冠 に降 り積 もつて,冠 雪を生 じさせ ,倒 伏 を強 いて,そ の処理のために,国 道 が数 日間の通行止 めを余儀 な くされた . - 43 Copyright © 2011(社)日本雪氷学会北海道支部 √ 北海道の雪氷 No.30(2011) 湿 り雪による倒伏 を防止す るための林縁木 の 間引きについて 1)間 引き とは 写真 -1の 支笏湖畔 のケースでは,国 立公 園内であ り,樹 木伐採 に制約がある,と の こ とである。けれ ども,伐 採 には,皆 伐 と問 引 きとがあつて,全 く対応 が異な るので ある . 皆伐 (clear cutting)と は,全 ての木 々 を 伐 る ことで あ り,造 林地 でない限 り,森 林 の 破壊 である.そ れゆえ,公 園管理人に,ま た , 自然保護論者 に,伐 採 を制約 され る。 間引き (thinning)は ,良 い木 を残 し,不 良な木 を伐 って,将 来的に,樹 林全体 を良い もの に仕 立て る手法である。湿 り雪で倒伏災 写真 -2 害 を起 こす木 々 は,元 々不良木 (劣 勢木 )で あつて,良 い木 (優 勢木 )に 圧倒 されて,樹 国道 273号 における,湿 り雪による 切 り土法面か らの,落 葉前 の林縁木 の路面 へ の倒伏 (上 川道路維持事業所提供 ) 冠 が偏 り,樹 幹 が傾 き,災 害 を起 こす予備軍 なので ある。 ところが,優 勢木 は,樹 冠 が不 偏 で,幹 が鉛直 で,湿 り雪で冠雪 となって も た とえ枝折れ が生 じることがあつて も,幹 の倒 伏 は生 じない つ ま り,間 引きを して,良 い木 を残せ ば,樹 林そ の ものが健全 。長命化 し,交 通安全 に寄与 , . す るのみでな く,景 観 も向上す るので ある.こ れであれば,公 園管理人 も,自 然保護論者 さえ 危険木 の間引きを認 めるであろ う , . 2)道 路法面 における間引きの事例 写真 -2も ,国 立公 園内である.こ こでは,道 路法面であるか ら,道 路管理者 の裁量で,間 │1道 路維持事業所 の職員 たちによって,シ ラカ ンバ密生林 の 引きが可能 であつた。そ して,上 り 間引きが実施 された (図 -2). 間引き前 には,ま ことに過密 な生育状況であ り,樹 高 2.Om以 上の本 の密度 が 12,300本 /ha であ り,胸 高断面積合計 が 20.7m2/haで あった。残す木 と問引 く木 の基準は,次 ぎの よ うで あつた。 残す木 :優 勢木 であ り,シ ラカ ンバ では,直 径 が太 めであるだ けでな く,樹 皮 が 自い 問引 く木 :劣 勢木 であ り,同 じく,直 径が細めであるだけでな く,樹 皮 が黒 つばい この基準 によ り,樹 木 には素人 の職員たちが,そ れぞれ ,手 鋸で,劣 勢木 を伐 り除 いた。 そ の結果 ,間 引き後 の密度 が 4,290本 /haと な り,胸 高断面積合計 が 14.Om2/haと な った。 つ ま り,間 引き率は,本 数 では 65.1%に も達 したが,胸 高断面積合計 (現 存量)で は 32.4% にす ぎなかった。劣勢木 を大幅に間引いて も,優 勢木 を残せ ば,森 林 の現存量 とい うものは , それ ほ ど減 らない,と い うことである。そ して,間 引いた ことで,優 勢木 の成長 が旺盛 にな り 近 い将来 にお いて,間 引き前 の現存量 を超 える筈 である.し か も,劣 勢木は,い ずれ ,優 勢木 によつて馬区逐 されて しま うので ある , . 道路法面における第 2の 間引き事例 は,千 歳道路事務所 の職員たちによ り,道 央圏連絡道 の 盛 り土法面にお いて実施 された (写 真 -3). ここで も,天 然生 のシ ラカ ンバ が主体 であつたので,樹 皮 の 白い個体 を残 し,ま だ 白くなつ - 44 - Copyright © 2011(社)日本雪氷学会北海道支部 撃√ 北海道の雪氷 No.30(2011) 鶏 Before diШ ttng er iL山 ag Density:4,290本 Density:12,300ラ 樟/ha /ha Basal area:140m2/ha Basal area:20.7m2/ha 図 -2 切 り上法面に侵入 し,成 立 した若 いシ ラカ ンバ天然生林 の密生状態 (左 )と 問引き (右 ) 劣勢木 を大幅 に間引い て も,優 勢木 が残 されたので,森 林 の現存量 はあま り減 らない てい ない個体 を伐 り除 いた。ちなみに,樹 皮 の 白い個体は,肥 大成長量が旺盛 で,樹 皮 の新陳 代謝 が進んで,本 来 のシ ラカ ンバ (白 い樺 )に なるので あ り,劣 勢本 は新陳代謝が進 まないの で,樹 皮 が 自くなれないので ある。 間引き後 には,過 密 な樹林が適 正な密度 にな り,白 い樹皮 の ものばか りとな つて,景 観 がい ち じるしく向上 した。 3)河 畔林 における間引きの事例 国道沿 い における樹林 の間引きの事例は,ま ことに乏 しい。けれ ども,河 畔林 にお いて は , 既 に,道 内各地 にお いて,事 業 として展開 され つつ ある。 │1行 政 では,従 来 の治水 一 辺河倒 か ら,利 河り 写真 -3 盛 り土法面における天然侵入 した シラカンバ樹林 の間引き (千 歳道路事務 所管内) 水や環境 を含む よ うにな り,漁 業 とも,生 態系 とも関係 して,河 畔林 を皆伐 しないで,洪 水 が流下 で きるよ うに,間 引 く手法を採用 し始 めた - 45 - Copyright © 2011(社)日本雪氷学会北海道支部 3 北海道の雪氷 No.30(2011) ので ある。 写真 -4に ,網 走川 中流域 (網 走湖 の直上部 )に おいて実施 された,そ の 1例 が示 され る。 間引 くことで,本 数 がいち じる しく減 るので 一一皆伐後 に発生 して くる,無 数 の多幹株 に比 較 して一一 ,表 面積 に比例す る,洪 水 の堰 き止 め効果 が,大 幅 に減殺 され る。 そ して,残 された優勢木 が さらに成長す るの │1生 態系 が さらに充実 で,立 体性 が高 ま り,河 り す る ことになる . むすび 道路沿 いの林縁本 が,傾 斜 していて,偏 った 樹冠 であ り,湿 り雪を載せた ら倒伏す るであろ う, とい う状況は,誰 の 日にも明 らかであろ う 事実 ,全 道 の国道沿 い には, しば しば,そ うし . た状況一―専門家 か ら観れ ば,危 険を含む状況 ―一 が見出 され る。 そ して,全 てを伐採す るのでな く,間 引きに よって,残 された優 勢 な木 々の樹冠 が整 えば , 湿 り雪による倒伏災害は,大 幅 に減少す る。 し 写真 -4 河畔林 の間引き前後 の状況 (湖 響 か も,景 観 を損ね ることがな く,生 態的にも以 橋下流側 ;網 走開発建設部提供) 前 よ り素晴 らしい樹林 が 出現 して くる . 参考文献 斎藤新 一郎 。田村麻子 ,2001.切 り土法面に侵入・定着 したシラカンバ林 の現況お よび倒木防 止のための保育手法 につい て。 日林北支論集 ,nO.49:85∼ 89. ,2003.道 路法面 に生育す る樹林 の冠雪 による倒伏 とそ の対策 について。雪氷大会 , 2003:100. ,2008.千 歳道路事務所植樹管理現地講習会 に講師を務 めての コメ ン ト.18pp" 環境林 づ くり研究所 (千 歳道路事務所 へ の コメ ン ト). 講 予稿集 SAITO,Shin‐ ichiro,2008. ⅣIeasures for trattc safety against snow‐ capped trees at the road. 」apan‐ China winter road transportation wollkshop 2008 proceedings,p.33∼ Sapporo,」 apan(和 文要 旨 :道 路緑化 にお ける冠雪害へ の対策 について). 38, ,2010.地 球環境 にや さしい道路緑化樹――そ の植 え方 と育 て方 .326pp"Jヒ 海道 道路管理技術 セ ンター,札 幌 .<第 5章 雪害対策 > ,201la.生 態系お よび魚 つ き林 としての河畔林 の間引き手法 について,日 林北支 論銅亀, nO.59:141∼ 144. ,201lb.湿 雪 による着葉期 の落葉広葉樹 の道路へ の倒伏 とそ の対策 につい て。7pp" 環境林 づ くり研究所 (道 路防災有識者会議事務局へ の コメ ン ト). - 46 Copyright © 2011(社)日本雪氷学会北海道支部 げ―