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多文化理解教育の視点を取り入れた授業開発 -外国人参政権問題
多文化理解教育の視点を取り入れた授業開発 -外国人参政権問題を通して- 教育学部 社会専修 A8E12022 斉藤 愛香 はじめに 本論の目的は多文化教育の視点を取り入れ、小学校社会科第 6 学年の政治学習のために 外国人参政権問題を取り扱った教材開発を行うことである。 グローバル社会と呼ばれる現代の日本では、国内の外国人労働者などの外国人人口が増 加し、社会の多文化化の形成が進んでいる。そのなかで、外国人に対する雇用の問題や医 療の問題、参政権問題、教育の問題などの人権問題や権利の制限、住民間でのトラブルが 生じるようになった。 1996 年の中央教育審議会答申1においては、以下のようなことが言われ、多文化社会の形 成が進む現在、異文化理解に止まらず、多文化共生へ向けた学校における対応が求められ ていると言える。 「国際理解教育を進めていくに当たって、特に重要と考えられることは、多様な異文化の生活・ 習慣・価値観などについて、 「どちらが正しく、どちらが誤っている」ということではなく、 「違い」 を「違い」として認識していく態度や相互に共通している点を見つけていく態度、相互の歴史的伝 統・多元的な価値観を尊重し合う態度などを育成していくことである。 一つのものの見方や考え方にとらわれて、異なる文化・生活・習慣などを断定的に評価するよう なことは、子供たちをいたずらに偏見や誤った理解に陥らせる基になりかねず、決してあってはな らないことである。 」 また、森茂岳雄2は、「ヒトのトランスナショナルな移動は、地球規模の文化的多様化を推し 進めることになり、グローバル化と多文化化が相互に連動して進行している」と述べ、グローバ ルな問題と多文化という問題が同時進行で存在するという問題の捉え方をしている。このことか らも、社会のグローバル化に伴って、多文化化に対応する多文化理解の教育が必要であることが いえる。 社会科教育の分野においても今まで様々な研究や実践がなされてきたが、それらを再度 分析・検討し、多文化共生への多文化教育の視点を取り入れた授業の開発が必要である。 中央教育審議会 1996 『第一次答申』 第 3 部 第 2 章 国際化と教育 [2]国際理解教育 の充実 2 森茂岳雄 2002 「グローバル教育と多文化教育のインターフェイス-移民史学習の可 能性」,中央大学教育学研究会(編) 『教育学論集』 (vol.44). 1 その問題点については第一章で詳しく述べる。授業開発の視点としては、共生への多文化 理解のためのねらいを、お互いの努力や、個人の態度形成にとどめるのではなく、社会シ ステムを見直し、互いによりよい社会を考えられるようなものとする。社会システムの見 直しを行うことで、問題の根底にある社会的な背景の認識を深め、変化する社会を捉え、 対応する力を育成することができよう。 多文化共生への多文化理解を行うに当たっては、マイノリティーとマジョリティーとい う関係から問題を捉えることができるほうがわかりやすいことから、在日外国人問題のひ とつである外国人参政権問題を扱う。外国人参政権問題の中で、参政権という一つの人権 を考える中ことで、在日外国人の人権について考えることになり、在日外国人にも私たち 日本人と同じように等しく人権があるということに気付くことができよう。さらに、日本 の変化の過程でそれを求める人々の間から生まれてきた問題であることから、これを教材 とすることで、社会の変化に対応した問題解決能力へと繋げていくこともできると考える。 また、外国語活動が平成 23 年度より完全実施されることとなったが、言語としての異文 化理解にとどめるのではなく、それに伴った多文化理解の必要性がある。ましてや、小学 校学習指導要領社会科の目標に「国際社会に生きる民主的、平和的な国家・社会の形成者 として必要な公民的資質の基礎を養う」とある以上、政治学習など、可能なところで多文 化教育的な視点を入れた単元学習を開発するべきである。そこで、本稿では、教材として 外国人の参政権問題を取り上げた政治学習の授業開発を目指したのである。 構成 はじめに 第 1 章 在日外国人を取り扱った先行研究の分析 1 節 分析対象 2 節 先行研究の分類 3節 価値態度形成型 藤原孝章 『外国人労働者問題をどう教えるか』の分析 4節 価値認識形成型 峰明秀 「価値認識形成をめざす中学社会科授業-単元「外国 人労働者問題を考える」の場合-」の分析 5節 共生態度形成型 中山京子 「多文化教育の知の導入による小学校社会科学習内 容の再構築-単元「海を渡る日系移民」の開発を事例として-」の分析 6 節 科学的社会認識型 三浦朋子 「社会的変容過程を動的に捉える授業-「外国人 医療保障問題」を事例として-」の分析 7 節 先行研究の比較・分析・検討 第 2 章 在日外国人の問題 1 節 在日外国人数と分類 2 節 在日外国人の背景 1項 在日韓国・朝鮮人 2項 ニューカマーの増加 3項 外国人労働者発生の要因 4項 日本の外国人労働者をめぐるプッシュ要因とプル要因 3 節 外国人をめぐる様々な問題 1項 外国人の法的地位 2項 労働をめぐる問題 3項 社会保障などをめぐる問題 4項 教育をめぐる問題 第 3 章 外国人参政権問題 1節 日本における外国人参政権の現状 2節 外国人参政権をめぐる学説 3 節 外国人参政権をめぐる主な論点 1項 憲法上の問題 2項 国籍の問題 3項 付与する場合の参政権の主体 4項 付与する場合の参政権の内容 5項 在日コリアンの問題 4 節 諸外国の外国人への参政権付与 1項 ヨーロッパにおける外国人の選挙権 2項 アジアにおける外国人参政権の付与状況 第 4 章 外国人参政権問題を取り扱った授業開発