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異異 文化マネージメントツールとしての ホフステードの 5 次元モデル紹介
異異⽂文化マネージメントツールとしての ホフステードの 5 次元モデル紹介 itim international(www.itim.org) コンサルタント 加藤真佐⼦子 1.はじめに 異異⽂文化経営・組織⽂文化の専⾨門家集団、itimインターナショナルが運営する「グローバル⼈人材研究 所」のサイトへようこそ。私たちは、異異⽂文化経営・組織⽂文化研究の世界的権威、ヘールト・ホフ ステードの研究、開発したモデルを基盤に、グローバルビジネスで活躍される皆様が、より効 果的にビジネス成果を出される事を、世界32カ国で活動する60名以上の異異⽂文化マネジメント コンサルタントと共に⽀支援しています。 この短い⽂文書では、⽂文化とは何か?に始まり、国⺠民⽂文化理理解のグローバルスタンダードとして、 世界で最も幅広く使⽤用されているホフステードの5次元モデルを簡単にご紹介します。そして同 モデルの使い出を感じて頂くために、5次元モデルを使って⽇日本⽂文化の基本的な価値観を他国 の⽂文化と⽐比較しながらごく簡単に説明します。⾃自分が持つ⽂文化的価値観をグローバルな視点か ら相対的に理理解する事は、異異⽂文化マネージメントの基本です。この情報が、ご多忙なグローバ ルビジネスで活躍される貴⽅方のお役に⽴立立てれば幸いです。 2. ⽂文化の定義 ⽂文化には、⼤大きく分けて⼆二つの定義があります。 ひとつは、「⽂文明」と同義の使われ⽅方をする場 合で、 教養、芸術、⽂文学などの総体を指します。もうひとつ の定義は、⽂文化⼈人類学者が⽤用いる もので、あるグループの⼈人々が共通して持っている考え⽅方、感じ⽅方、⾏行行動パターンなどの総称を 指します。異異⽂文化でのビジネスにとって重要なのは、この2番⽬目の⽅方の⽂文化です。 こうしたものの感じ⽅方、⾏行行動の仕⽅方は、ひとが ⽣生まれた時から、家族やまわりの⼤大⼈人たちとの かかわりの中で、また少し⼤大きくなってからは学校やスポーツクラブなどでの⼤大⼈人や同世代の友 ⼈人とのかかわりの中で⾃自然に⾝身に付けていくもので、 12歳ぐらいまでにその⼤大⽅方が固まると ⾔言われています。 ホフステードは、⽂文化を「コレクテイブ・プログ ラミング・オブ・ザ・マインド」と定義しまし た。 この定義が語っているように、⽂文化とは集団的な現象であり、学習されるものです。⼈人間 の⼼心のプログラミングには、この他、⼈人類共通の「⼈人間性」 と「個⼈人のパーソナリテイ」のレベ ルがあります。 図表1 11 creating cultural competence ⼈人間性とは、⼈人類全般に備わっている恐怖、怒怒り、愛情、喜びなどを感じる能⼒力力のことで、 遺 伝に基づくと⾔言えるでしょう。⼀一⽅方、パーソナリテイは、個⼈人の遺伝⼦子による部分と、その⼈人だ けの特殊な経験による学習の両⽅方により形成されると考えられます。ですから、ある⼈人が属する 国の⽂文化を理理解したからと⾔言って、その⼈人のことがすべて理理解できる訳ではありません。⽂文化と は、あくまで集団の属性であり、私たちがビジネスの現場で出会う他国の⼈人は、みなユニークな パーソナリテイを持った個⼈人なのです。 たまねぎ型モデル さて、ある集団に属している⼈人々が共有している物の考え⽅方や⾏行行動のパターンが⽂文化ですが、 具 体的にその中⾝身は何なのでしょう。次のたまねぎ型モデル(図 2)は、⽂文化の層を外側から順番 に、⽬目に触れやすいものから触れにくいものまで表しています。外側から順に⾒見見て⾏行行きましょう。 図表 2 ホフステードモデル シンボルとは、同じ⽂文化を共有している⼈人々だけが理理解できる、特別な意味を持つ、しぐさ、図 あるいは物です。例例えば富⼠士⼭山は⽇日本⽂文化の、マクドナルドやコカコーラは⽶米国⽂文化のシンボル です。私たちの関⼼心事、ビジネスの現場でのシンボルと⾔言えば、カンパニーカーや重役室の調度度 などのステータスシンボル、ドレスコードなどがあります。 ヒーローとは、その⽂文化で⾮非常に⾼高く評価される特徴を備えていて、⼈人々の⾏行行動のモデルとされ る⼈人物です。実在の⼈人物だけでなく、漫画の主⼈人公のような架空の⼈人物もヒーロー⾜足り得ます。 カウボーイはアメリカ⽂文化のヒーローであり、出世街道に乗っている⼈人や、⼈人望があって、職制 を越えて仕事を成功に導ける⼈人などが会社のヒーローです。 儀礼とは、⼈人々が集団で⾏行行うものですが、具体的な⽬目的に到達するための⼿手段としては、役 に⽴立立ちません。しかし、それらを繰り返し⾏行行う事に感情的な意味合いがあります。初詣、ひな祭 り、お彼岸、お盆などの年年中⾏行行事。また結婚式や葬式も儀礼です。会社での、上司との挨拶の仕 ⽅方や、会議の仕⽅方にも儀礼的要素が多分に含まれています。 以上、⽂文化の外側の3層は、慣⾏行行として異異⽂文化圏の⼈人の⽬目に触れますが、その⽂文化的意味は、部 外者にはなかなかわかりません。逆に⽂文化の中核にある価値観は、⼈人の⽬目に触れませんが、まさ に慣⾏行行に⽂文化的意味を与えるものです。 価値観とは、ある状態の⽅方が他の状態よりも好ましいと思う傾向のことです。例例えば、何が良良く て、何が悪いか、何がきれいで何が汚いか、何が合理理的で何が⾮非合理理的か、といった事です。異異 ⽂文化で仕事をする際の障壁となるのは、この価値観のレベルの⽂文化です。 3.国⺠民⽂文化 こうした価値観の違いを研究する基になっているのは、「すべての⼈人間社会は共通の問題を抱え ているが、その解決⽅方法は社会によって異異なっている」と⾔言う⽂文化⼈人類学者たちの考えです。ホ フステードは多国籍企業IBMの各国⽀支社で働く社員を対象にした価値観の調査や中国⼈人の価 値観を元にした調査を基に、次の5次元において世界各国の「⼈人類共通の問題に対する」アプロ ーチに違いがある事を⾒見見つけました。そして調査データを因⼦子分析することにより、その違いを 0から100までに分布して数値化しました。つまり、曖昧模糊とした⽂文化にスコアを付けて可 視化し、各国⽂文化を数値で⽐比較することに成功したのです。 1. 権⼒力力格差 2. 個⼈人主義と集団主義 3. 男性らしさと⼥女女性らしさ 4. 不不確実性回避 5. ⻑⾧長期現実主義と短期規範主義 それではまず、それぞれの次元を簡単に紹介しましょう。 権⼒力力格差:それぞれの国の制度度や組織において、 権⼒力力の弱い成員が、権⼒力力が不不平等に分布して いる状態を予期し、受け⼊入れている程度度。権⼒力力格差は、企業での上司と部下のかかわりや、権⼒力力 の集中度度、組織の階層システムなどに影響しています。 個⼈人主義と集団主義:個⼈人の利利益が集団の利利益よりも優先される社会が個⼈人主義の社会であり、 集団の利利益が個⼈人の利利益よりも優先される社会が集団主義の社会です。個⼈人主義社会では、社員 は⾃自分の利利害に応じて⾏行行動する「経済的な⼈人間」とみなされ、集団主義では、社員は所属集団の メンバーであり、会社に忠誠を誓うかわりに保護を受けます。個⼈人主義社会では、個⼈人の時間、 ⾃自由、やりがいが仕事上重要であり、集団主義社会では、訓練、作業環境、技能を発揮できるこ とが重視されます。 男性らしさと⼥女女性らしさ:競争原理理に基づき、ベストパーフォーマーになる事を期待され,勝者 が敬われる⽂文化を男性らしい⽂文化、逆にベストになるよりベストを尽くす事に重きがおかれ、弱 者を思いやる⽂文化を⼥女女性らしい⽂文化と呼びます。男性らしい⽂文化では、男は男らしく、⼥女女は⼥女女ら しくある事が求められ、⼥女女性らしい⽂文化では男⼥女女の役割期待の差が⼩小さく、優しい男性も認めら れます。 不不確実性の回避:ある⽂文化の成員が不不確実な状況や未知の状況に対して不不安を感じる程度度の事。 不不確実性の回避は、危険の回避ではありません。危険には対象がありますが、不不確実性には対象 がありません。不不確実性を回避しようとする⾏行行動は、危険の減少ではなく、あいまいさを減らす ことを⽬目的とします。また、不不安とは、確固とした対象への恐怖ではなく、何が起こるかわから ないと⼼心配で落落ち着かない漠然とした状態の事を差します。不不確実性回避の弱い⽂文化は、奇抜な アイディアに対して寛容なので⾰革新を⽣生みやすく、⼀一⽅方、アイディアの実⽤用化にはかなりの正確 さと規則正しさが必要なので、不不確実性回避の強い⽂文化の⽅方が適していると⾔言えます。 ⻑⾧長期現実主義: この次元の⼀一⽅方は、⻑⾧長期志向かつ現実的、実⽤用的な⽂文化であり、もう⼀一⽅方は短 期志向かつ規範的、原則主義的⽂文化です。 中国、韓国、⽇日本など儒教の影響を受けた東アジア 緒国及びインド、ブラジルなど多神教の諸国は、⻑⾧長期志向の傾向があり、世界の3⼤大宗教キリス ト教、イスラム教、ユダヤ教のような⼀一神教が主流流の国々は短期志向の傾向があります。唯⼀一絶 対の神を信じる背景には絶対の真理理、原則が有ると信じる⽂文化があると考えられます。ビジネス (注)この次元の説明はホフステードがマイケルボンドの協⼒力力を得て1980年年代に23カ国で 調査した研究結果に基づいています。 4.各国⽂文化の⽐比較 各国の⽂文化の特徴は、これら5次元の組み合わせによってかなり正確に理理解することができます。 次の表は五カ国の5次元のスコアを結んだグラフですが、アジアの2国、中国と⽇日本、それから 欧⽶米の3カ国、アメリカ、オランダ、ドイツがそれぞれ全く違った⽂文化プロフィールを持つこと が⼀一⽬目瞭然にわかります。アジア、欧⽶米と⾔言ってもその⽂文化は多種多様です。特に欧州は多様な ⽂文化がひしめいている⼤大陸陸です。また、中国と⽇日本の最⼤大の違いは4次元⽬目、不不確実性回避の度度 合いにあることがわかります。⽇日本⼈人から⾒見見て中国⼈人が⼤大雑把であったり、上からの管理理がない と品質管理理が徹底しなかったり、という悩みの原因がここにあります。5次元モデルを使いこな せるようになれば、多⽂文化混成チームで仕事をする際に、各⼈人の⽂文化的背景の概要を掴むことが できます 140" オランダ" 120" 100" 日本" 80" アメリカ" 60" 40" 中国" 20" 0" PDI" IDV" MAS" UAI" LTP" ドイツ" 5.⽇日本⽂文化を5次元モデルで検証する 最後に⽇日本⽂文化の価値観を、5次元モデルを使って簡単に説明してみたいと思います。⾃自分の国 の⽂文化は熟知しているはずですが、⾃自国の価値観は当たり前過ぎて、他の⽂文化圏から来た⼈人に彼 らの⽂文化と⽐比較して説明することは難しいものです。5次元モデルはそれを可能にしてくれます。 権⼒力力格差(⽇日本のスコア54) ⽇日本⽂文化の権⼒力力格差のスコア(0から100の間の⽐比較分布)は54で、世界的に⾒見見て、どちら かと⾔言えばヒエラルキーを重視する⽂文化で有ると⾔言えます。ホフステードの調査スコアのある7 6の国と地域の中で、⽇日本のスコアは49番⽬目。つまり76カ国(地域)中48カ国(地域)は ⽇日本よりも⼤大きな権⼒力力格差を認めている⽂文化ということになります。アジア、アフリカ、中近東、 南アメリカのほとんどの国は⽇日本より権⼒力力格差⼤大です。 しかし、⽇日本⽂文化は近隣隣のアジア⼈人から⾒見見てもとても権⼒力力格差が⾼高い、と思われることが多く有 ります。それは、⽇日本の組織で上司に公の場で反対意⾒見見を述べる⼈人がほとんどいないことや、細 かい決定事項も本社にお伺いを⽴立立てなければならない、そして意思決定はすべてのヒエラルキー レベルを介して⾏行行われるので⾮非常に遅い、などのビジネス慣⾏行行から外国⼈人が抱くイメージです。 ⽇日本⼈人のこうした⾏行行動には、権⼒力力格差や集団志向に加え、意⾒見見の不不⼀一致を公にしたくない、どん な細かい事にも皆の合意を求めるという、4つ⽬目の次元、「不不確実性の回避」志向が影響してい ます。意思決定が遅い事は、⽇日本の意思決定が単純なトップダウンではなく、各階層の多くの⼈人 が関与しているためで、逆に権⼒力力格差がそれほど⼤大きくないことを⽰示しています。 個⼈人主義と集団主義(⽇日本のスコア46) この次元での⽇日本⽂文化のスコア(0は最も集団主義的、100は最も個⼈人主義的)は46です。 世界各国と⽐比較してほんの少し集団主義的傾向がある、と⾔言えます。順位は76カ国(地域)の 中で35番⽬目。⼤大雑把に⾔言って、世界の半分は⽇日本より個⼈人主義志向、半分は集団主義志向です。 ⽇日本より個⼈人主義傾向の強い欧⽶米諸国の⼈人から⾒見見ると、⽇日本⼈人は会社(所属集団)への帰属意識識 が⾼高く、集団⾏行行動がうまく、集団の和と利利益を個⼈人の利利益より優先させる典型的な集団主義⽂文化 と⾒見見えます。しかし、近隣隣アジア諸国を始め、⽇日本より集団主義志向の強い⽂文化圏の⼈人たちは、 ⽇日本⼈人は⻑⾧長くつき合っても腹を割らない、距離離が埋まらない、という印象を持つことがあり、こ れは⽇日本⼈人が彼らよりプライバシーを重視している(個⼈人主義の価値観)ためと考えられます。 男性らしさ⼥女女性らしさ(⽇日本のスコア95) この次元での⽇日本のスコアは95で、スロバキアに継ぎ世界で2番⽬目に「男性らしい」⽂文化とな ります。男性らしい⽂文化と聞いて多くの⽅方がすぐに思い浮かべる国はアメリカだと思います。世 界で最も個⼈人主義志向のアメリカでは、個⼈人の成功が讃えられ、企業トップの CEO がとてつも ない額の成功報酬を得ることが受け⼊入れられています。⽇日本では、出る釘は打たれる集団主義傾 向との組み合わせで、個⼈人間でトップを競う表⽴立立った⾏行行動やトップに⽴立立った個⼈人を誉め称えるこ とは差し控えられ、主に所属集団を勝利利に導くために貢献する、という形で競争が繰り広げられ ます。また⽇日本⽂文化の男性らしさは、「⼀一つの道を極める」という形で顕著に現れています。そ れは伝統的な武⼠士道や学問の道でもそうですし、ワーカホリックやオタクといった形にも現れて います。⽇日本が誇る、「ものづくり」や「おもてなし」は製造でもサービスでもすべてにおいて 「秀でる、完璧を⽬目指す」ことを美徳とする男性らしさの産物と⾔言えます。 不不確実性の回避(⽇日本のスコア92) ⽇日本のスコアは92で76カ国(地域)の中で11番⽬目に不不確実性を嫌う⽂文化です。「⽯石橋をた たいても渡らない」⽂文化と⾔言えます。⽇日本⽂文化のこうした側⾯面は、現場主義(事実、実証に基づ くマネージメント)やゼロデイフェクトを⽬目指す「改善」、「ホウレンソウ」と呼ばれる綿密な社 内コミュニケーション、 新⼊入社員教育では業務内容はもとより、 「我が社のやり⽅方」を叩き込む、 前例例のない事は誰も⼿手を出したがらない、など会社⽣生活のあらゆるところに⾒見見られます。 ⽇日本⽂文化の⾼高い不不確実性回避志向は前述の強い男性らしさと相まって、⽇日本が誇りとする⾼高い品 質管理理を可能にしました。⼀一⽅方、予測不不能な状況を嫌うこの⽂文化は、変化が激しく予測不不能なこ との多いグローバルビジネス展開には⾜足かせとなりがちです。 ⻑⾧長期志向と短期志向(⽇日本のスコア80) ⽇日本のスコアは調査対象国23カ国の中で 4 番⽬目。かなり⻑⾧長期志向、現実主義が強い⽂文化となり ます。⽇日本⽂文化が現実主義的であることは、多くの⽇日本⼈人が唯⼀一絶対の神を真理理の源泉として信 じることなく、信じるよりも、徳の⾼高い⽣生き⽅方をすることの⽅方を重んじることに顕著に現れてい ます。ビジネスに⽬目を向けると、多くの⽇日本企業の存在理理由が短期的利利益を上げることではなく、 「会社の存続」そのものであること、不不景気でも研究開発への投資は欧⽶米諸国に⽐比べ⾼高いレベル をキープしていること、会社の⻑⾧長期ビジョン、戦略略を持っていること、変⾰革マネージメントは苦 ⼿手だが、災害や世界的恐慌のように⼈人知を超える変化が押し寄せて来た時には、その現実を受け ⼊入れ、現実的に対応する態度度を持っていることなどが、⽇日本の⻑⾧長期/現実主義志向の現れです。 6.終わりに 以上は本当に簡単な、ホフステードの5次元モデルを使った異異⽂文化マネージメントへの案内状で す。5次元モデルで各国の⼈人々の⾏行行動を動機づけている多様な⽂文化のドライバーを理理解すれば、 グローバルビジネスでの貴⽅方のストレスを減らし、仕事の能率率率を上げる事ができます。5次元モ デルとその活⽤用⽅方法について、さらに詳しくお知りになりたい⽅方は、iitm international コンサ ルタント加藤真佐⼦子までご連絡下さい([email protected])。 参考⽂文献: G. ホフステード、G.J.ホフステード、M.ミンコフ著、岩井⼋八郎郎、岩井紀⼦子訳 2013「多⽂文化世界」第三版 有斐閣