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第7章 脳神経疾患

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第7章 脳神経疾患
第7章 脳神経疾患
1.15O gas steady state 法
15
O gas steady state 法は PET 検査のなかでは最初に健康保険適応となった検査方法で、15O
標識二酸化炭素ガス(C15O2)、酸素ガス(15O2)、一酸化炭素ガス(C15O)を順に吸入する
ことで局所脳血流量(regional cerebral blood flow: rCBF)、局所脳酸素代謝率(regional cerebral
metabolic rate for oxygen: rCMRO2)、局所脳酸素摂取率(regional oxygen extraction fraction:
rOEF)、局所脳血液量(regional cerebral blood volume: rCBV)を定量測定する方法である。
測定理論の詳細については他の解説書に譲るが、本法の特徴は吸入されたガスによって脳
組織に流入する RI と血流によって運び出される RI そして壊変によって減衰する RI の三者
が平衡関係に達し(一酸化炭素ガスはこれにあてはまらない)、見かけ上 RI の動きがない
定常状態で脳の放射能分布と動脈血中の放射能量の関係から上記のパラメータを求めるこ
とである。よって被検者の呼吸状態が定常でないなどの原因によって比較的大きな測定誤
差が生じる。また一連の検査を終了するのに90分以上かかる点も、検査のスループット
や患者の身体を長時間制約する点では問題となる。
2.Acetazolamide 負荷
Acetazolamide(Diamox®)は炭酸脱水素酵素阻害剤であり、体重1Kg あたり 15~20mg、総
量で最大 1000mg を静脈投与されると脳の細動脈レベルで血管外アシドーシスを引き起こ
し、細動脈を選択的に強力に拡張させる作用を持っている。投与後約 10~20 分後にこの作
用は最大に達し、脳の血管抵抗は低くなり脳血流は著明に増加する。健常者では平均で約
40~50%程度の脳血流増加が見られる。脳主幹動脈に閉塞性病変が見られる場合、脳循環
予備能をみる目的で acetazolamide 負荷が好んで用いられる。閉塞病変の末梢側で潅流圧が
低下している場合は代償機転として安静時から血管拡張が生じており、acetazolamide による
拡張予備能が低下することが判明しており、この拡張予備能の低下の程度で脳循環予備能
の障害の程度を判別する。Acetazolamide 負荷は 15O gas steady state 法で行うことも可能であ
るが、次項で述べる 15O 標識水静注法のほうが短時間で安静時ならびに負荷時の rCBF 測定
が可能である。
3.その他の負荷試験
15
O 標識水静注法と autoradiography 法を組み合わせると1回の rCBF 測定を2分程度で行う
ことができる。動脈血採血を併用すれば定量も可能である。この方法では 15O は半減期が2
分しかないため 10 分程度間隔をおけば体内の放射能はかなり減衰し、rCBF 測定を何回も繰
り返し行うことができる。したがって一人の被験者に条件を変えながら何回も rCBF 測定を
行い、条件ごとに脳血流分布画像を収集することができる。この方法は主に記憶や、感情、
運動のコントロール、視覚処理、言語処理といった脳の高次機能の局在をイメージングす
る手法として用いられている。この場合、定量測定を行うと大脳全体の血流量が毎回変動
して局所の血流増加がマスクされてしまうため、高次脳機能局在イメージングでは動脈血
採血をせず、定性画像で診断をする。定量性は必要なく、繰り返し回数を多くして被曝も
抑えたいため、3D 収集するのがふつうである。
一連の画像データはワークステーションまたは PC に転送され、通常は SPM(statistical
parametric mapping)ソフトウェアにより統計処理されて目的の活動に関連する脳内の部位
が特定される。
4.脳虚血の病態および診断
脳は生理的条件下では局所の神経活動を反映する rCMRO2 と rCBF はバランスを保って変化
しており、このことを coupling と呼んでいる。しかし脳梗塞に伴う脳虚血のような病態下
ではしばしばこの関係が破られ(uncoupling)、需要を表す rCMRO2 と供給を表す rCBF の
乖離が見られる。脳梗塞発症直後の超急性期から慢性期にいたるまでの様々な時点でこの
ような乖離現象がみられ、それぞれ臨床的に大きな意味を持っている。血行再建術との兼
ね合いで問題となるのが hemodynamic compromise である。これは、脳組織自体は障害され
ずにほぼ正常の代謝を行っているにもかかわらず、脳主幹動脈の閉塞性病変のため潅流圧
が低下し需要に見合った脳血流が供給されていない状態を指す。十分な供給がなされない
状況で脳組織の障害を避けるために主に二つの代償機構が働くようになる。最初の代償機
構は脳の抵抗血管の拡張である。これは rCBV の上昇という形で PET 上計測可能である。
血管抵抗を減らすことで低い圧力でも血流を確保しようとする反応である。さらに潅流圧
が低下してこの代償機構が消耗してくるころ第二の代償機構が働き始める。それは酸素摂
取率(OEF)を上昇させ、流れてくる乏しい血流の中から出来るだけ多くの酸素を汲み上げ
て酸素代謝を維持しようとする働きであり、PET 上 OEF の上昇という形で計測可能である。
Powers はこのような代償機構のモデルを提唱し、CBV の上昇する最初の段階を stage I、OEF
の上昇が起こる次の段階を stage II と定義した。実際の無症候性脳主幹動脈閉塞症の患者で
も代償機構の消耗程度は症例ごとに様々で、側副血行路が非常によく発達し stage I にも達
していない症例から、代償機構を使い果たし梗塞を起こす寸前の stage II の症例まで様々で
あり、実際に PET で計測してみないとわからないことが多い。当然後者のほうが梗塞を起
こすリスクが高いわけであり、このようなリスクの高い患者にとってはバイパス術を代表
とする血行再建術が適応となり、手術によって長期予後も改善されると考えられている。
脳循環 special term と脳循環代謝動態
rCBF
rCMRO2
rOEF
rCBV
特徴
Misery perfusion
↓↓↓
↓
↑↑
↑↑
脳梗塞超急性期
hyperemia
↑↑
→、↓
↓
→、↑
脳梗塞急性期の再開通
Luxury perfusion
↑、→
↓、↓↓
↓、↓↓
→
脳梗塞亜急性期再開通
Matched perfusion
↓↓↓
↓↓↓
→
→
脳梗塞慢性期
Stage I
↓
→
→
↑
慢性低潅流
Stage II
↓↓
→
↑
↑↑
慢性低潅流
Luxury perfusion を呈した脳梗塞の一例
CBF
CMRO2
CBV
OEF
心原性脳塞栓の亜急性期に一部が再開通を起こした。(矢印)左前頭葉に血流は再開してい
る(CBF)が同部はすでに梗塞に陥っており酸素代謝はない(CMRO2)。よって血流はあっ
ても酸素は利用されていないので酸素摂取率はほぼ0である(OEF)。
右中大脳動脈閉塞症の一例
CBF
CMRO2
OEF
CBV
右前頭葉に軽度の脳血流低下(CBF)と酸素代謝(CMRO2)の低下を認める。右大脳半球
では左に比較して脳血液量(CBV)、酸素摂取率(OEF)が上昇しており、抵抗血管の拡張
および酸素摂取率の上昇という代償機構が大きく働いていることがわかる。
第8章 心臓疾患
1.心筋血流 PET
心筋の局所血流量の絶対値を計測する(SPECT で評価する心筋血流は相対値)
冠動脈予備能(coronary flow reserve: CFR):最大血管拡張時と安静時の血流比
血管拡張薬
ジピリダモール:0.56 mg/kg(4分間)
ATP:0.16 mg/kg/min
アデノシン(もうすぐ使用可)
ドブタミン+アトロピン
冠動脈内皮機能:内皮からの NO 産生による血管拡張能をみる
一般には寒冷負荷試験を行う(α2recerptor を介した反応)
A.
13
N-NH3
血流により心筋に運ばれ取り込まれた後、細胞内で glutamine synthetase によりグルタミンに
代謝され固定される。
a. 撮像法
dynamic PET を撮像することにより、心筋および血中(心プール)の放射能を計測する。
CFR を計測するためには ATP やジピリダモールのような血管拡張剤を用いる。
13
N の半減期は 10 分であり、2 回の study では約 1 時間間隔をあける必要がある。
図Ⅳ.8.1 撮像プロトコール
図Ⅳ.8.2
ROI の設定と Time Activity Curve
b. compartment model
心筋血流量を定量する場合 compartment model を仮定して算出する。
2-compartment model と 3-compartment model が使われる。
図Ⅳ.8.3
2-compartment model と 3-compartment model
MBF: myocardial blood flow, SP: spill over, E: extraction fraction,
PVE: partial volume effect
計算方法
non-linear fitting
Patlak plot graphical analysis(計算が簡単)
Simple flow model(計算が簡単)
Partial volume effect の補正が必要(または心筋を全て 1cm と仮定)
2-compartment model が主流
投与開始より2分間のデータのみを使用。
代謝物の関与は考慮しない。k2=0 と仮定。
c. 画像
static image (相対的)
図Ⅳ.8.4 三枝病変症例における 13N-H3 PET 画像
心尖部・側壁の虚血、下壁の高速が認められる。
B.
15
15
O-H2O
O-H2O は拡散型で extraction fraction が血流量に影響されない優れたトレーサであるが、血
中内・心筋とも同様に分布するため
15
O–CO PET により心プールのイメージを撮像し、
subtraction する必要がある。半減期は 2 分と非常に短い。
a. 撮像法
図Ⅳ.8.5 撮像プロトコール
b. model
Perfusable Tissue Fraction: PTF という変数をおくことによって、Partial volume effect や motion
effect の影響を解決した方法である。
ここで求められる心筋血流量は 13N-NH3 PET で求められるものと異なり Perfusable tissue に
おける心筋血流量を測定(13N-NH3 PET では心筋全体における血流であった)。
図Ⅳ.8.6
15
O-H2O PET による心筋血流量モデル
(Iida H, et al. Circulation 1988; 78:104-115)
c. Perfusable Tissue Index: PTI=残存心筋量の指標
図Ⅳ.8.7
Perfusable tissue index : PTI = PTF/ATF
(de Silva R, et al. Circulation 1992; 86:1783-1742)
画像
図Ⅳ.8.8 心筋血流画像の作成
C. 局所心筋血流量測定の応用
冠動脈疾患
動脈硬化の危険因子(高脂血症、高血圧、糖尿病、喫煙)
移植後慢性冠動脈拒絶反応
拡張型心筋症
2.心筋代謝
PET により心筋細胞における様々な代謝を測定することが可能(図Ⅳ.8.9)
図Ⅳ.8.9 心筋エネルギー代謝とそれぞれの基質に対する PET 製剤
FFA: free fatty acid, FTHA: fluoro-6-thia-heptadecanoic acid, TCA: tricarboxylic acid
A.
18
F-FDG
a. 撮像法
FDG 投与後 45-60 分にて撮像
(1) 空腹時像(12 時間以上の絶食):通常心筋の集積はない。虚血、炎症、心筋障害などの
各種病態にて集積が亢進する。ただし、正常であってもさまざまな要因にて集積すること
有り。
(2) 経口糖負荷像:50-75g グルコースを経口投与 50 分後に FDG 静注
図Ⅳ.8.10
Fasting-Glucose loading FDG PET Protocol
図Ⅳ.8.11
18
F-FDG PET の正常像
(3) インスリンクランプ法:insulin 1 mU/kg/min+20% glucose infusion
10 分毎に血糖測定し 90-100 となるように glucose 量を調節する。約 60 分後に FDG 静注。
糖尿病、グルコース代謝量を定量する場合に用いられる。
(4) 経口糖負荷+インスリン皮下注:グルコース経口負荷後 45-60 分にて血糖測定し、その
値に応じてインスリンを皮下注する。その 5-10 分後に FDG 投与。
b. 心筋梗塞
心筋 viability を評価する手段として最も信頼されている方法
保険適応:慢性虚血性心疾患で左室機能が低下している場合に、血行再建を施行すること
によって、左室機能が改善するかどうかを予測する。ただし、血流 SPECT にて判断がつか
ない場合。心筋 viability の診断基準:糖負荷時像で判定することが多い
(1) FDG-PET 単独:正常領域の 50%以上集積あれば viability (+)
(2) 血流 PET または SPECT と比較:血流が低下している領域において FDG が保たれていれ
ば viability(+) (図Ⅳ.8.12)
図Ⅳ.8.12 血流 SPECT と比較した場合の心筋 viability 診断基準
図Ⅳ.8.13
FDG により診断された viability と治療からみた予後
(Allmam KC, et al. JACC 2002;39:1151-1158)
c. 心サルコイドーシス
サルコイド結節に FDG が集積する。
ステロイド療法の治療効果判定に有用。
図Ⅳ.8.14 新サルコイドーシス
B.
11
C-acetate
Acetate は TCA 回路に直接入り代謝されるため、局所心筋の酸素代謝の指標となる。
撮像法
11
C-acetate 静脈内投与後1分ごとの動態画像を 20 分間撮像。
3-5 分後の血中の activity が低下した時点の画像は心筋血流を表している。
その洗い出し率である K mono(monoexponential fitting したカーブによって求めた洗い出し
速度定数)は酸素消費量と良い相関を示す。
図Ⅳ.8.15
11
C-acetate の各領域に於ける放射能曲線
(目で見る循環器病シリーズ 10 心臓核医学検査 P.146)
ドブタミンに対する反応性を見ることにより、心筋 viability を診断することが可能である。
図Ⅳ.8.16 低容量ドブダミン不可 11C-acetate PET
(Hata T, et al. Circulation 1996; 94:1834-1841)
第9章 データ解析法
1.コンパートメント解析 1)
一般的なトレーサ(追跡子)法において生理学的な知見を得るためには、トレーサとし
て用いられる放射性同位元素の体内挙動についての先見的な知識が必要である。このよう
な知識は通常数学モデルの形式でまとめられ、それを用いて測定データの解析が行われる。
この場合、主としてコンパートメントモデルが用いられる。コンパートメントとは、トレ
ーサと非標識物質の濃度の割合が均一である系の解剖学的、生理学的、化学的、あるいは
物理学的小区画と定義される。しかし、コンパートメントの概念はあくまでも近似的なも
のであり、現実そのものではない。
1)コンパートメント解析の基本的仮定
(1)コンパートメント解析では、まずいくつかのコンパートメントから成り立つモデル
を設定し、そのなかに解析しようとする物質が分布していると仮定する。測定の対象とな
るのは、一般にはそれぞれのコンパートメント間の移動速度(速度定数)である。
(2)トレーサはそれぞれのコンパートメント内に入ると、直ちに非標識物質と混和し、
その比、すなわち比放射能量はコンパートメント内ではいかなる時点においても一定であ
ると仮定する。
(3)種々のコンパートメント内での非標識物質の質量およびコンパートメント間の速度
定数は一定である。すなわち、系は定常状態であると仮定する。
2)コンパートメントモデルの例
図Ⅳ.9.1 にコンパートメントモデルの例(3-コンパートメントモデルの場合)を示す。
図Ⅳ.9.1 コンパートメントモデルの例
各コンパートメントにおける放射能量の時間変化は、数学的には次の微分方程式を用いて
記述することができる 2)。
dM e (t )
= K1C a (t ) − (k 2 + k3 ) M e (t ) + k 4 M m (t )
dt
dM m (t )
= k3 M e (t ) − k 4 M m (t )
dt
(1)
ここで、 K1 、k 2 、k 3 、k 4 はトレーサの各コンパートメント間の移行の速度定数を表し、
M e (t ) および M m (t ) は時間 t におけるそれぞれのコンパートメント内のトレーサの放射
能量(組織単位重量当たりの放射能)を表す。(1)式を初期値が0( M e (0) = 0 および
M m (0) = 0 )として解くと、各コンパートメント内における放射能量は次式によって表
すことができる 2)。
K1 ⎛
⎜ ( k − α1 )
M e (t ) =
α 2 − α1 ⎜⎝ 4
M m (t ) =
K1 k 3 ⎛
⎜
α 2 − α1 ⎜⎝
∫
⎞
C a (u ) e −α 2 (t − u ) du ⎟⎟
0
0
⎠
t
t
⎞
Ca (u ) e −α 1 (t − u ) du − C a (u ) e −α 2 (t − u ) du ⎟⎟
0
0
⎠
∫
t
Ca (u ) e
−α 1 ( t − u )
du + (α 2 − k 4 )
∫
t
∫
(2)
ここで、
k 2 + k 3 + k 4 − ( k 2 + k 3 + k 4 ) 2 − 4k 2 k 4
α1 =
2
α2 =
(3)
k 2 + k 3 + k 4 + ( k 2 + k 3 + k 4 ) − 4k 2 k 4
2
2
である。また、全放射能量( A(t ) )は次式で与えられる。
A(t ) = M e (t ) + M m (t ) + Va Ca (t )
(4)
ここで、 Va は組織単位重量当たりの血管の容積を表す。
通常、観測される組織の放射能量の時間変化と(4)式から得られる値との重み付残差平方
和から、非線形最小2乗法を用いて速度定数などのパラメータを算出する。実際の計算で
はガウス・ニュートン法、修正マルコート法、シンプレックス法、共役傾斜法などが使用
される 3)。
2.グラフ解析
コンパートメント解析の簡便法として、グラフ解析法がある。Gjedde-Patlak 法 4)や Logan
t
∫ C (u)du
a
5)
法 などがその代表例である。Gjedde-Patlak 法では、グラフの横軸に
縦軸に
0
C a (t )
をとり、
A(t )
をとる。3-コンパートメントモデルで k 4 が0の場合のグラフは、傾きが
C a (t )
⎛
⎞
⎛ Kk ⎞
K1 k 2
⎟
+
V
K ⎜⎜ = 1 3 ⎟⎟ で y 切 片 が Vg ⎜⎜ =
a ⎟ の直線に漸近する。また、
2
+
k
k
+
(
)
k
k
3⎠
⎝ 2
2
3
⎝
⎠
∫ C (u)du
t
a
0
C a (t )
が小さい場合には、傾きが K1 の直線に漸近する。なお、縦軸の
A(t )
は分
C a (t )
布容積を表す。図Ⅳ.9.2 に Gjedde-Patlak プロットの例を示す。このグラフから K1 、 V g お
よび K 値が推定できる。
図Ⅳ.9.2
Gjedde-Patlak プロットの例
∫ C (u)du
t
a
Logan 法では、グラフの横軸に
0
ROI (t )
∫ ROI (u)du
t
をとり、縦軸に
0
ROI (t )
をとる。ここ
で、 ROI (t ) は時間 t における関心領域内の放射能量を表す。2-コンパートメントモデル
の場合のグラフは傾きが
K1
+ Va
k2
、3-コンパートメントモデルの場合には
k
B
K1
K
(1 + 3 ) + Va の直線に漸近する。標識リガンドの場合には 1 (1 + max ) + Va
k2
k4
k2
KD
( Bmax :受容体の最大結合数、 K D :平衡解離定数)となる。これらは平衡時の分配係数
を表す。また、y切片は2-コンパートメントモデルの場合には −
1
、3-
Va k 2
)
k 2 (1 +
K1
⎛
⎞
⎜
⎟
k
1
1
3
⎟ で表される。図Ⅳ.9.3
(1 + ) +
コンパートメントモデルの場合には − ⎜
⎜ k2
k4 ⎟
k4
k 4 (1 + ) ⎟
⎜
k3 ⎠
⎝
に Logan プロットの例を示す。
図Ⅳ.9.3
Logan プロットの例
3.スペクトル解析
この解析法は Cunningham らが最初に PET データの解析に導入したものである 6)。スペク
トル解析ではまず動態モデルを線形と仮定し、ある時間 t における組織内の放射能量
( A(t ) )は血液中の放射能量( C a (t ) )とk個の指数関数との重畳積分で表されると仮定
する。つまり、 A(t ) は
k
A(t ) =
∑α ∫ C (u) e
t
i
a
− β i (t − u )
du
(5)
0
i =1
で表される。ここで、 α i と β i は0か正の値であると仮定する。次に、 β i の値をあらかじ
め与えておき(例えば 0 から 1 min-1 の範囲で 0.01 min-1 きざみ)、観測される組織の放射能
量の時間変化と(5)式から非負最小2乗法を用いて α i の値を求める。この解析法ではトレー
サの動態の線形性を仮定しているため、受容体に対するリガンドのようにその動態が非線
形な場合には基本的には使用できない。しかし、線形性以外にはモデルに対する仮定が不
要である。
また、スペクトル解析を用いるとインパルス応答関数を計算することができる。得られ
たインパルス応答関数から、トレーサの血液から組織への摂取率や平均通過時間などのパ
ラメータを簡単に求めることができる 7)。
4.機能画像の作成法
得られた速度定数などのパラメータを画像化(機能画像の作成)には、各ピクセルごと
にパラメータを計算する必要がある。前述の非線形最小2乗法は、各ピクセルごとにパラ
メータを計算するには膨大な計算時間を必要とするため実用的ではなく、いくつかの代用
法が考案されている。
その代表例として重み付積分法がある 8)。この方法は、求めたいパラメータの数だけ互い
に独立した重み関数( Wi (t ) (i
= 1,L, n) )を用いて方程式を作成する。求めたいパラメ
ータの数だけ方程式ができるため、パラメータを求めることが可能となる。例えば、2-コ
ンパートメントモデルの場合を考える。この場合 A(t ) は次式で表される。
A(t ) = K1
∫
t
0
C a (u ) e − k 2 (t − u ) du + Va C a (t )
(6)
(6)式の両辺に Wi (t ) (i
= 1,2,3) を掛けて積分すると
∫W (u)A(u)du = K ∫ W (v)∫
t
t
i
1
0
v
Ca (u ) e
i
0
− k 2 (v − u )
∫
t
dudv + Va Wi (u )C a (u )du
0
0
(7)
を得る。(7)式で表される3つの方程式( i
= 1,2,3 )を連立方程式を解く要領で解くと、K1 、
k 2 、 Va が求まる。
また、線形化法を用いた方法も考案されている。例えば、3-コンパートメントモデル
で k 4 が0の場合には、 A(t ) は(1)式を変形することにより次の線形方程式で表すことがで
きる 9)。
∫
t
A(t ) = [K1 + (k 2 + k3 )Va ] C a (u )du + K1k3
0
∫
t
u
0
0
∫ ∫ C (v)dvdu
a
t
(8)
− (k 2 + k3 ) A(u )du + Va C a (t )
0
したがって、(8)式において異なったスキャンの数だけ線形方程式が得られ、それらを線形
最小2乗法を用いて解くことにより K1 、k 2 、k3 および Va が高速に得られる。そのため、
各パラメータの画像化(機能画像の作成)が可能となる。
5.PET 画像再構成法
1)PET データの補正 10)
陽電子放出核種で標識された放射性薬剤を被検体に投与して同時計数の結果得られる投
影データは、偶発同時計数や散乱同時計数などの影響を受けているため、画像再構成の前
処理としてこれらを補正する必要がある。
(1) 偶発同時計数補正
よく用いられる補正法は、同時計数を行う二つの検出器のうち片方の信号を適当な時間
遅らせてから同時計数(遅延同時計数)を行い、通常の同時計数して得られた計数値(即
発同時計数)から差し引く方法である。この方法には、さらに計測中に差し引く方法とデ
ータ収集後に差し引く方法の二つがある。後者の方法には、偶発同時計数のデータを平滑
化して、これを即発同時計数のデータから差し引くことにより統計雑音の増加を軽減でき
る利点がある。また、各検出器のシングル計数値(検出器が消滅γ線を単光子として計数
した値)を用いる方法もある。
(2) 散乱同時計数補正
散乱同時計数とは、一対の消滅γ線のうちいずれか一方もしくは両方が被検体内で散乱
されて、その進行方向が曲げられたのち検出される同時計数のことである。これらの補正
には、SPECT の場合と同様点あるいは線線源に対する散乱成分の応答を求めておき、これ
を測定された投影データに重畳積分して差し引くコンボリューションサブトラクション法
や、低エネルギー側にもう一つのエネルギーウィンドウを設定して散乱線を検出し、その
計数値にある係数をかけて差し引くデュアルエネルギーウィンドウ法などがある。
(3)
検出器感度補正
PET 装置の検出器は、光電子増倍管の利得の違いや幾何学的配置によって検出感度が異
なっているため、各検出器対ごとに感度の補正を行う必要がある。感度補正用のデータは、
視野内に均一な外部線源のみを入れて収集(ノーマライズ収集あるいはブランク収集)す
ることで得られる(図Ⅳ.9.4)。
図Ⅳ.9.4 ノーマライズ(ブランク)収集、トラスミッション収集、エミッション収集の説
明
(4)
減弱補正
PET では、消滅γ線が被検体を透過して同時計数される確率は、二つの消滅γ線が被検
体を横切る全距離 L と減弱係数μだけで決まり、消滅γ線の発生位置には無関係である(図
Ⅳ.9.5)。
図Ⅳ.9.5 同時計数される確率
したがって、被検体に放射性薬剤を投与する前に外部線源を使って透過データの収集(ト
ランスミッション収集)(図Ⅳ.9.4)を行えば、減弱補正に必要な透過率を得ることができ
る。2次元 PET では、棒状の 68Ge-68Ga 線源を被検体の回りに回転させてトランスミッショ
ン収集を行う。3次元 PET では、投影データの情報が膨大なことや散乱同時計数の混入な
どの点からすべての方向の投影データに対する減弱補正用のデータを3次元モードで測定
することは実用的ではない。そこで、2次元モードで測定した透過データから減弱係数の
3次元画像を求め、これから各投影方向への減弱を計算で求めるのが一般的である。なお、
図Ⅳ.9.6 に2次元 PET と3次元 PET の概念図を示す。
図Ⅳ.9.6 2次元 PET と3次元 PET の概念図
2)PET画像再構成法 11)
(1)
2 次元 PET の場合
2次元 PET の画像再構成法は基本的には SPECT の画像再構成法と同じである。
(1.1) フィルタ補正逆投影法
フィルタ補正逆投影法では、図Ⅳ.9.7 に示すように、各投影データにぼけを補正するた
めのフィルタを重畳積分することによって補正された投影データを作り、これらを逆投影
する。
図Ⅳ.9.7 フィルタ補正逆投影法の原理
この時の重畳積分は、空間周波数に比例して高周波成分を増強する役目を持つ。最も代表
的なフィルタは Shepp-Logan フィルタと呼ばれる。フィルタは PET 画像の解像力と統計雑
音のバランスをはかるうえで重要な役割をはたす。雑音を軽減するには Shepp-Logan フィル
タよりもゆるやかなフィルタを用いるか、あるいはあらかじめ投影データに平滑化を施す。
特に、ウィーナーフィルタやバターワースフィルタを用いて周波数特性の最適化をはかる
ことによって PET 画像の信号対雑音比やコントラストが向上する。
(1.2) 逐次近似法
逐次近似法では、図Ⅳ.9.8 に示すようにまず断層像として適当な初期値を与え、各投影方
向に加算して計算上の投影データを作る。この投影データと実際に測定された投影データ
を比較して何らかの補正を行って新しい投影データを作る。そして、これらの投影データ
を逆投影して断層像を作り、この断層像から再び投影データを作る。これらの操作を何回
か繰り返して断層像を修正し、所定の条件を満たせば繰り返しを終了して最終画像を得る。
逐次近似法は繰り返し計算を行うため長時間の処理時間を必要とする。
図Ⅳ.9.8 逐次近似法の手順
(1.2.1) 最尤推定—期待値最大化アルゴリズム
逐次近似法のうち、最尤推定—期待値最大化アルゴリズム(Maximum Likelihood –
Expectation Maximization: ML—EM 法)12)やそれを高速化したOS—EM(Ordered Subsets –
Expectation Maximization)法 13)が注目されている。ML—EM 法は、測定された投影データか
ら確率的に最も期待できる(最も可能性の高い)再構成画像を逐次近似で推定していく方
法である(図Ⅳ.9.9)。
図Ⅳ.9.9
すなわち、画素
ML-EM 法の原理
j の k + 1回目の逐次近似の値 λkj +1 は k 回目の推定値 λkj を使って次式で推
定する。
λkj +1
=
λkj
∑C ∑ ∑C λ
Cij yi
ij
i
(9)
k
il l
i
l
(9)式はML-EM法の基本となる式である。この式の意味は、検出器 i から画素
逆投影の計算である C ij y i を画素
j を通り検出器 i に入るγ線の投影データ
j に対する
∑C λ
k
il l の
l
比を、すべての投影角度のデータを加算して、全確率
∑C
ij で規格化する。その結果に k
i
k +1
k
回目の推定値 λ j を乗算して推定値 λ j を置き換える(図Ⅳ.9.10)
。
図Ⅳ.9.10 ML-EM 法の解釈
この得られたデータをもとに逆投影を行い修
正画像を得る。(9)式の Cij にγ線の減弱や散乱、コリメータの開口特性などを考慮すれば、
これらの補正も原理的には可能である。ML-EM法は、①再構成した画像の画素値が負
にならない、②画素値の総和が保存される、③雑音のないデータでは収束が保証されてい
る、④高カウント領域からの線状アーチファクトが軽減される、⑤測定系で起こりうる物
理現象(減弱、散乱、コリメータの開口特性など)を織り込むことにより定量性の向上が
期待できる、などの利点をもっている。一方、①計算に長時間を要する、②雑音に対する
拘束がないため逐次近似の回数とともに雑音が増加する、③収束速度が空間周波数に依存
する、などの欠点をもっているが、これらの欠点を補う方法も提案されている。
(1.2.2) OS−EM法
OS−EM法はML−EM法の高速化を図った方法で、図Ⅳ.9.11 に示すように投影データ
をいくつかのグループ(サブセット)に分割し、一つのサブセットから求めた再構成画像
を使って次のサブセットによる計算を行う。全てのサブセットについて計算を行うと一回
の繰り返し計算が終了したことになり、サブセットの数だけ再構成画像が更新されていく
ためML−EM法に比べて計算時間が短縮できる。
図Ⅳ.9.11 OS−EM法の原理
(1.3) Bayes 画像再構成法
先ほどのML−EM法で雑音に対する拘束条件(画像の先験確率)を与える方法として Bayes
画像再構成法(MAP法とも呼ばれる)が開発されている。画像の先験確率が一定の場合
にはML−EM法に相当する。
(2)
3次元 PET の場合
3次元収集されたデータに対しては、3次元的な画像再構成法が必要となる 14)。
(2.1) 3次元フィルタ補正逆投影法
最も数学的に確立された方法として、フィルタ補正逆投影法を3次元に拡張した3次元
フィルタ補正逆投影法がある。
(2.2) 3次元再投影法
3次元フィルタ補正逆投影法は、全投影方向について完全な2次元投影データを必要と
するが、現実の PET 装置では検出器系の軸方向の長さが有限であるため斜め方向の投影デ
ータは部分的にしか測定されない。そこで、まず従来の2次元 PET と同様に、小さい傾斜
角のデータを用いて視野全体の3次元画像を再構成する。そして、この画像から欠損した
投影データを計算によって作り、これに実測された投影データを付加した後に改めて3次
元フィルタ補正逆投影法を適用する。この方法は3次元再投影法(3D Reprojection: 3DRP 法)
と呼ばれ、PET における標準的な3次元画像再構成法になっている。
(2.3) リビニング法
リビニング法は、傾斜した投影データを検出器面と平行な投影データとみなしてデータ
収集を行い、従来の2次元の画像再構成法を用いて画像再構成を行う方法である。傾斜し
た投影データを一つの平行スライスに書き込む方法を SSRB(Single Slice Rebinning)法と呼ぶ
(図Ⅳ.9.12)。また、傾斜した投影データが横切る複数の平行スライスに書き込む方法を
MSRB(Multi Slice Rebinning)法と呼ぶ。これらの方法によってデータのメモリ容量や計算時
間を著しく低減できるが、検出器の中心軸からの距離に比例して体軸方向の解像力が低下
する。
図Ⅳ.9.12
SSRB 法の原理
(2.4) FORE 法
最近、FORE(Fourier Rebinning)法という高速の近似方法が開発されて近似の精度が向上
し、3DRP 法による再構成画像に匹敵する画像を得ることができるため実用化が進んでいる。
FORE 法は周波数—距離関係(Frequency Distance Relation: FDR)(図Ⅳ.9.13)と呼ばれる原理
に基づいている。これはサイノグラムを2次元フーリエ変換する( ω は空間周波数、 k は
角度方向のフーリエ展開係数)と、その画像上で d
=−
k
ω
の情報の大部分は実空間の座標
原点から投影方向への距離が d の位置の線源分布の寄与によるというものである。
図Ⅳ.9.13 周波数-距離関係
図Ⅳ.9.14 に FORE 法の原理を示す。先ほどの周波数—距離関係の性質を利用すると傾
斜サイノグラムを通常(平行スライス)サイノグラムに変換することができるため大幅に
データ量を減らすことができ、結果的に画像再構成の時間を大幅に短縮することができる。
図Ⅳ.9.14
FORE 法の原理
9.6 画像の位置合わせ 15)
PET の画像解析を行うためには、X 線 CT や MRI から得られた解剖画像との位置合わせ
が重要である。最近のコンピュータの性能の向上によって医用画像の自動位置合わせが実
用的な時間内で可能になってきた。画像の位置合わせは、数学的には単なる座標変換の操
作である。すなわち、ある座標の画素データを他の座標に移動させる操作である。この変
換において、すべての画素データで同じ平行移動・回転を行う場合を線形変換あるいは剛
体変換とよび、そうでない場合を非線形変換あるいは非剛体変換と呼んでいる。
図Ⅳ.9.15 に一般的な画像の自動位置合わせの手順を示す。この手順には、①データの平
行移動・回転、②評価関数の計算、③平行移動・回転のパラメータの修正(最適化)が含
まれており、これらを繰り返し計算によって収束させていく。評価関数としては、同種画
像間(例えば、PET と PET、PET と SPECT など)では2つの画像の画素値の差の絶対値、
両画像の比の均一性(標準偏差)、両画像間の相関係数などが用いられている。最近、相互
情報量(Mutual Information: MI)を評価基準に用いた方法も考案されている。上記のうち、画
像間の比の均一性や相互情報量は異種画像間(例えば、PET と MRI、PET と CT など)の位
置合わせにも使用されている。
図Ⅳ.9.15 画像の位置合わせの手順
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