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宇宙天気データを11年周期で見る - JAXA Repository / AIREX

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宇宙天気データを11年周期で見る - JAXA Repository / AIREX
宇宙天気データを11年周期で見る
九州大学 篠原 学
はじめに
2006年12月5日、太陽活動が極小期であるに
もかかわらず、X9.0の大規模なフレアが発生した
(図1)。長期的に太陽活動を考えた場合、この規
模のフレアはどの程度発生しているのだろうか。
1976年から2006年までの31年間に発生したフレ
アを調べると、X9.0を超えるフレアは、31年間
に30回発生していた(図2)。単純に計算すると、1
年に1回ほどになる。しかし、太陽の活動には、
極大期と極小期と呼ばれる大きな変化があり、後
に述べるがイベントの発生頻度には大きな差があ
る。X9.0を超えるフレアの発生時期を調べる
と、そのほとんどは太陽活動の極大期(赤色の期
間)に発生していて、その間の発生頻度は1.35回/
図1 GOES13のX線カメラによる、2006年
12月5日のX9.0フレア。
年である。一方、極小期の発生頻度は0.27回/年
となり、極大期に比べるとかなり少ない。今回の
大規模フレアは、4年に1度くらいのまれな現象
だということが分かった。
太陽の黒点相対数は、約11年の周期で大きく
増減を繰り返している。これにともなって、フレ
ア、磁気嵐、プロトンイベント、放射線帯高エネ
ルギー電子などの宇宙天気現象の発生頻度がどの
ように変化しているか、極大期と極小期を比較す
る形で議論する。
フレアの発生数の変化
図2 31年間に発生した、X9.0以上の規模
のフレア。
1976年から2006年までに発生したフレアを図
3の上段に示す。横軸は発生日(年)、縦軸はフレ
アの規模である。この図を見ると、発生するフレ
アの数、規模ともに大きく変動していることが分
かる。下段の黒点相対数のグラフと比較すると周
期が一致しており、太陽フレアの活動周期が黒点
の増減と強く関係していることが分かる。
続いて、図4中段に、各年毎のフレアの発生件
数を示す。Cクラス以上のフレアを緑、Mクラス
以上を青、Xクラス以上を赤で示す。数値化する
と、活動期によって発生件数が大きく変化するこ
とがよりはっきりする。例えばCクラス以上のグ
図3 31年間に発生したフレアの数(上段)
と、黒点相対数(下段)。
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ラフを見た場合、太陽活動が極大のころには、年
間2,500回から4,000回にも及ぶ発生件数が記録
されているのに対し、極小では200回くらいにま
で下がっている。
この違いはM以上、X以上でも同様である。変
化を見やすくするために、Mクラスを5倍、Xク
ラスを50倍したグラフを図4の下段に示す。
発生頻度の違いをまとめるため、1976∼2006
年の期間を、極大期、極小期のふたつに分類す
る。年間のフレアの発生件数から、極大期を
78∼84年、88∼93年、98年∼04年の20年間、
極小期を残りの10年間とした。
各期間のフレア発生件数を表1上段に示す。集
計期間が異なるので、年間あたりの平均数にする
と(下段)、極大期と極小期ではフレアの発生数が
10倍程度異なることが分かる。大まかにみる
と、極大期ではMクラスのフレアが1日1回程度
図4 フレアの年間発生数の変化(中段)。C
以上(緑)、M以上(青)、X以上(赤)。下段は、
Mを5倍、Xを50倍して描いている。
発生しているのに対し、極小期ではCクラスが1
日1回起きる程度である。X10を超える猛烈なフ
レアは、極大期では年に1回程度発生しているの
に対し、極小期では10年に1度程度と、たいへん
少ない頻度に下がってしまう。
磁気嵐(Dst指数)の発生数の変化
Dst指数の変化より、磁気嵐の発生頻度を調べ
た(図5)。-200nTよりもDst指数が下がった大規
模なイベントを選び出し(緑の⃝)、太陽フレアの
グラフと比較すると、太陽活動が活発な時期に、
大規模な磁気嵐がより多く発生していることが分
かる。
表1 太陽活動の極大期と極小期に発生した
フレアの件数(上段)と、年平均(下段)。
フレアと同様に、極大期と極小期のふたつに分
けると(表2の最上段の図の、赤く色づけした部分
が極大期)、大規模磁気嵐の集中ぶりが一段と
はっきりする。
それぞれの期間に発生した磁気嵐を、規模別に
集計すると、表2中段のようになる。年間の発生
数に変換すると(下段)、概ね4倍程度の発生頻度
の差が見られる。Dstが-200nTを超える大規模イ
ベントの場合、極大期には年2回程度発生が見ら
れるのに対し、極小期では2年に1度となる。ま
た、-300nTクラスの激しいイベントは、極大期
では2年に1度の発生を考慮する必要があるが、
図5 31年間に発生した、-200nT以下の大
規模磁気嵐(上段)と、黒点相対数(下段)。
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極小期は10年に1度で、たいへん少ない頻度に下
がっている。
プロトンイベントの発生数の変化
太陽で激しいフレアが発生した時に見られる、
プロトンイベントについてまとめる。ここでは、
1995年から2006年の11年間にかけて得られた、
GOES衛星のデータを用いる。図6は、10MeVプ
ロトンの1日ごとの最大値を示している。プロト
ンが1,000PFUを超えて非常に強まった期間は、
11年間に19イベント、33日間見られた。その多
くは、フレアが活発に発生している太陽活動の極
大期に見られている。この11年間では、極大期
は98年∼04年の7年間、極小期は残りの4.5年間
である。この間のプロトンが強まっていた日数を
求める(表3)。すると、プロトンイベントの場
合、極大期と極小期の差は2倍程度になることが
分かった。フレアや磁気嵐と比べると、差は小さ
くい。ただし、10,000PFUを超える猛烈なイベ
表2 太陽活動の極大期と極小期に発生した
フレアの件数(中段)と、年平均(下段)。
ントはこの期間に6回(7日間)見られたが、すべて
極大期に発生していた。これは、激しいフレアが
極大期に多く、極小期の発生頻度が大きく下がっ
てしまうことと関連していると思われる。
放射線帯高エネルギー電子数の変化
最後に、地球周辺の放射線帯に見られる、
2MeV以上の高エネルギー電子についてまとめる
(GOES衛星の観測による)。高エネルギー電子の
データは、これまでのデータとは異なる性質を示
す。図7は、高エネルギー電子の1日ごとの最大
値を示している。10,000以上の高レベルの日を
赤点で示す。このグラフをフレアのグラフと比較
すると、高レベルの日の分布が、フレアの発生分
布と必ずしも一致しないことが分かる。フレアが
図6 11年間に発生した、1,000PFU以上の
プロトンイベント(上段)と、フレアの発生数
(下段)。
少なくなる前半(96∼97年)や、後半(2005年頃)に
も、多くの赤点が見られるのである(この中で、
2003年は特異な年だったので、別に扱うことに
する)。
放射線帯の高エネルギー電子の増加は、高速太
陽風の通過時に多く見られる。太陽風が高速にな
る原因としては、フレアに続いて発生するCME
(コロナ質量放出)や、コロナホールからの吹き出
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しによるものがある。CMEはフレアが多くなる
太陽活動の極大期に多く発生するが、コロナホー
ルはむしろ極小期に目立つようになる。従って、
太陽風速度の長期変化を考えた場合、極大期と極
小期それぞれに異なる高速風の原因が存在するの
である。図8で、高エネルギー電子と太陽風速度
を比較すると、両者の変化がかなりよく一致する
ことが分かる。一方、太陽風速度(図8下段)を、
フレアのグラフ(図7下段)と比較しても、単純に
は関連が見られないことも分かる。
高エネルギー電子の発生頻度の特殊性は、発生
日数を分析するとよりはっきりする(表4)。
図7 高エネルギー電子が10,000以上に増
加した日(上段)と、フレアの発生数(下段)。
10,000以上に強まる日数を比較すると、極小期
のほうが極大期の3倍に達するのである。その一
方で、100,000を超える猛烈なイベントは極大期
にのみ見られている。
2003年の特殊性について述べると、この年は
猛烈なフレア活動が発生するとともに、コロナ
ホールによる回帰性の高速風が安定して続いた年
でもあった。この両者が重なったため、他の年を
圧倒して高い発生日数を記録したのであろう。
10,000を超えた日数は149日に達し、1年の半分
に及ぶ期間がたいへん高い状態にあったことにな
図8 高エネルギー電子(上段)と太陽風速度
(下段)の1日の最大値の変化。
る。
表3 極大期と極小期に発生したプロトンイ
ベントの日数(中段)と、その年平均(下段)。
表4 極大期と極小期に高エネルギー電子が
増加した日数(中段)と、その年平均(下段)。
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