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地中熱ヒートポンプによる空調設備の事例
【43】 全地連「技術フォーラム2011」京都 地中熱ヒートポンプによる空調設備の事例 東邦地下工機㈱ ○紫牟田 森 1. はじめに 博 与志信 流下する御笠川流域の平野部である。深度15m 程度まで 異常気象に起因すると思われる自然災害が多発するよ は砂やシルトなどの河川堆積層に覆われ,その下位は基 うになって地球環境の保全,とりわけ地球温暖化防止が 盤岩の花崗岩が分布する。地下水位は GL-3~4m に確認 声高に訴えられてきている。また,エネルギー資源の枯 されている。 以下に主な機器の構造や機能について述べ, 渇問題も近い将来には現実的な問題として私達の生活に 表-1にそれらの仕様を示す。 大きく関わってくると思われる。先に発生した東日本大 (1) 地中熱交換井 震災はこれらの問題が切迫したものであることを如実に 感じさせる。 孔径φ143mm,深度約95m の2本のボーリング孔内にφ 25mm 高密度ポリエチレン製 U 字管を2組ずつ挿入し,そ 省エネルギー,省電力,温室効果ガス削減,排熱削減 の周囲はφ5~10mm の玉砂利で充填した。この U 字管は といった具体的な対策が求められ,既存技術の効率化や 井戸と以下のヒートポンプを結ぶ閉回路となっている。 新技術の開発が進められてはいるが,目標の達成には程 管内の媒体(水)をポンプ循環させて地中熱源との熱交換 遠い。再生可能なエネルギーの利用が着目されており, を行い,採熱や放熱を行うことができる。 その中の一つに地中熱ヒートポンプシステムによる空調 (2) ヒートポンプ 技術がある。 暖房時にはヒートポンプ内の媒体(代替フロン)を本機 本文はボーリング孔を利用した地中熱ヒートポンプシ コンプレッサーの圧縮作用によって加温し,これと接す ステムの実証施設概要と冬期暖房運転の状況について報 る室内側配管内の循環水を温水にする。また冷房時には 告するものである。 膨張作用によって冷却し,同じく循環水を冷水とする。 この温水または冷水を室内側にポンプ循環させて空調に 2. 地中熱ヒートポンプシステムの概要 地中熱とは深さ200m 程度までの年間を通して温度変 利用するものである。ヒートポンプ内で加熱または放熱 した後の冷媒に対しては,地中熱交換井からの循環水に 化の少ない地下浅部に貯留されるエネルギー源を指す。 よって熱エネルギーの受け渡しが行われる。 地中熱ヒートポンプシステムとは,この熱エネルギーを (3) ファンコイルユニット 循環媒体によって地上に取り出し,ヒートポンプで増幅 ヒートポンプで作られた温水や冷水を室内側に循環さ されたエネルギーを室内の空調に利用するものである。 せ,ファンコイル内のファンで送風して温風または冷風 図-1に暖房運転でのシステム概念図を示す。 を室内に送り出す。冷房運転時にはこの冷水が循環する 熱交換器部分に結露が付着して室内空気の除湿効果が得 られる。 表-1 システムの仕様一覧表 ヒートポンプ 暖 房 機器名称 地中熱 交換井 地中熱交換井 地中熱 ヒートポンプ 図-1 地中熱ヒートポンプシステムの概念図1) 3. 実証施設の概要 空調を実施した施設は,福岡市博多区内にある鉄骨プ レハブ作りの事務所棟1階部分で約100m2の広さである。 この付近の年間平均気温は17.0℃とされる2)。博多区内を ファンコイルユニット 仕様 孔径φ143mm 深度93m、95m φ25mm ダブル U 字管 φ5~10mm 砂利充填 冷暖房用 単相200V (圧縮機、循環ポンプ) 消費電力3.05kW 冷暖能力10.0kW (8,600kcal) 単相100V 消費電力0.131kW 数量 備考 2本 U-ポリパイ (イノアック住環境 社製) 1台 GSHP-1001 (サンポット社製) 2台 FCU-1 (ダイキン社製) 4. システムの設計と熱応答試験 地中熱ヒートポンプシステムの計画に際しては,空調 する施設の広さや構造に応じた能力の空調設備(地中熱 ヒートポンプとファンコイルユニット)と地中熱エネル ギーをやり取りする熱交換井の深さや本数など,具体的 全地連「技術フォーラム2011」京都 な設計が必要となる。ここでは福岡地区における標準的 定して運転状況を比較した。室温設定は22℃,室内温水 な気象条件,地質条件の下にダブル U 字管での地中熱交 循環量は16.5ℓ /分,午前8時から午後6時まで送風量自動 換井を想定して「地中熱ヒートポンプシステム設計・性 切替えにて暖房運転を行った。 3) 能予測手法 」により90m 級の井戸2本を計画した。 (2) 効率評価 さらに,築造した熱交換井がどの程度の地中熱交換能 ヒートポンプを用いた空調設備の効率評価は,一般に 力を有しているのかを確認するため,熱応答試験を行っ 成績係数(COP)で表わされ,次式で算出される5)。即ち, た。試験を行った井戸の地質は,表層15m までが盛土お 消費する電気エネルギーが何倍の空調熱エネルギーとし よび砂などの河川堆積層,その下位に基盤岩の花崗岩が て得られるかを表現したもので,この COP 値が高いほ 分布することがボーリング状況から確認されている。深 ど効率が良いと評価される。 度20m まではマサ状の強風化花崗岩,以下やや風化した 軟質な花崗岩となるが,75~90m 付近には中硬質塊状部 暖房(冷房)に利用する熱(出力) (W) COP = 圧縮機で使用するエネルギー(入力) を残している。地下水位は GL-3~4m に確認されている が,地下水流動層の有無は確認されていない。 (W) 1月11日の運転では昼頃から室温18℃程度を維持した 熱応答試験では U 字管内に光ファイバー温度計を挿入 が,1月25日の運転では室温は20℃以上に達している。こ し,1m 毎の初期温度を測定した後,4.4kW のヒーターで れは循環温水の設定温度の違いによるものと考えられる 加熱した温水を毎分約20ℓ の流量で U 字管内を48時間連 が,上式による COP 評価では,COP(1月11日)=4.28, 続して循環させ,流体の温度変化,流量,ヒーターの消 COP(1月25日)=3.40と循環水温を低く設定した方が COP 費電力等を観測した。また,循環停止後の流体温度の回 値は高く算出されている。 復状況も深度毎に観測している。その結果、地中熱交換 量 q は47W/m,地層の熱伝導率λは2.6W/m/K という評 価であった4)。 6. おわりに 地中熱ヒートポンプシステムは,ボーリング孔を通し て地下浅所に貯留される地中熱エネルギーを熱交換利用 5. 空調運転 する技術であり,効率の良い空調システムを構築するこ 以上のように熱交換井性能評価を行った後,ヒートポ とが可能であるが,このシステムの運転に際しては,そ ンプやファンコイルユニットなど空調設備工事を行うと れぞれの熱交換井の性能を理解し,運転時の設定条件を 共に温度センサーや流量計,電力計など運転状況を観測 最適な状態で運用することが重要である。 するための計測装置類を設備した。2010年9月より試験運 本施設では上述の通り,冬期暖房運転を終えて観測デ 転に入り,外気温が20℃を下回り始めた11月から暖房運 ータを集計中であるが,一般の空気熱源式空調機器と変 転を開始した。 わらない快適さを得ることができたと考えている。夏期 冷房運転はこれからであるので冷房及び除湿効果等を観 測評価していく予定である。 今後はこの地中熱ヒートポンプシステム空調の有する 省エネルギー,省電力,温室効果ガス削減,排熱削減の 各効果を地球環境保全に活かせるよう技術の向上と普及 に努めたい。 《引用・参考文献》 1) 株式会社イノアックコーポレーション:地中熱交換シ ステムパンフレット 2) 気象庁:平均気温平年値(1981年~2010年), 2011.5 図-2 地中熱ヒートポンプと配管状況 (1) 暖房運転 暖房運転では設定した室温を得るためにヒートポンプ で温水を生成し,室内への放熱で減少した熱エネルギー を熱交換井から回収するサイクルである。従って室温や 送風量,循環水の温度と水量などを適切に設定し,効率 良い運転を行う必要がある。 2011年1月11日と1月25日,いずれも外気温が終日5℃ 程度の日であったが,温水温をそれぞれ40℃と45℃に設 3)北海道大学地中熱利用システム工学講座:地中熱ヒー トポンプシステム, pp88~108, 2007.9 4)藤井光,駒庭義人:サーマルレスポンス試験報告書, 2010.9 5)北海道大学地中熱利用システム工学講座:地中熱ヒー トポンプシステム, pp58~62, 2007.9