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タイの投資環境 - 信金中金 地域・中小企業研究所

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タイの投資環境 - 信金中金 地域・中小企業研究所
SCB
SHINKIN
CENTRAL
BANK
アジア業務相談室情報
Vol.24−2(15−5−2)
(2004.1.7)
総合研究所(アジア業務相談室)
〒104-0031 東京都中央区京橋 3-8-1
TEL.03-3563-7547 FAX.03-3563-7551
タイの投資環境
−タイ自動車産業の現況−
(はじめに)
現在、大手自動車メーカー各社はタイをピックアップトラックの生産・輸出拠点とするために
大規模な設備投資を行っており、2006 年までにタイの自動車生産能力は現状の年間 60 万台から
100 万台に増強される見通しである。こうした状況は自動車関連産業に従事する信用金庫取引先
にも多くのビジネスチャンスをもたらしている。本中金香港支店では 2003 年7月にタイのバン
コク周辺地域を訪問し、自動車産業を中心とする投資環境を調査した。その結果を Vol.24−1「タ
イ経済の現状と投資環境」(2003.12.26)、Vol.24−2「タイ自動車産業の現況」(本稿)とし
て報告する。
1.タイ自動車産業の現状と今後の展望
(1)タイの自動車生産台数は 96 年に 56 万台を記録した後、アジア通貨危機の影響で激減し一
時は 15 万台まで落ち込んだが、内需回復と輸出増加に支えられ 02 年には過去最高の 58 万台
を達成、06 年には 100 万台に達すると予測される。
(2)タイ自動車産業の特徴は、国内市場の約9割を占有する日系完成車メーカーを頂点に部品
サプライヤーが多数進出しており、裾野分野まで自動車部品産業の集積が進んでいることで
ある。また、税務上の優遇措置により比較的低価格で購入できるピックアップトラックに人
気が集中しているため、販売台数の約7割を商用車が占めている。
(3)タイに進出する大手メーカーに共通する戦略はタイをピックアップトラックの生産・輸出
拠点として活用することであり、各社とも生産体制を増強すると同時に、部品の現地調達化
推進による競争力強化を図っている。タイで最大手のトヨタ自動車は、タイをIMVプロジ
ェクト(多目的車を世界的に供給するプロジェクト)の最重要拠点と位置づけており、現地
工場の生産能力を 04 年夏以降、現状の2倍の 30 万台に拡大する予定である。
(4)タイには自動車部品産業がほとんど進出済みで、地場企業も力をつけているため、企業間
競争は大変熾烈である。しかしながら、部品供給先の大手メーカーが生産能力向上とコスト
ダウン実現を目指し、従来の系列関係にこだわらない調達方針を示していることから、高い
技術力と価格競争力を兼ね備えた3∼4次サプライヤーが、タイに進出し成功する余地は十
分残されていると思われる。
2.現地信用金庫取引先からのヒアリング
(1)今回の投資環境調査では 1995∼96 年ごろタイに進出した信用金庫取引先3先を訪問した。
3先ともアジア通貨危機を乗り切り業績を着実に拡大しているが、同時期に進出したいくつ
かの企業はすで淘汰されているという。
(2)経済が順調に拡大しているタイでは、中小企業にとっても自動車産業を中心に多くのビジ
ネスチャンスがあるものと期待されるが、中途半端な考えの企業が進出しても成功は覚束な
い。高い技術力と親会社の支援を背景に高品質、納期厳守を保ちつつコストダウンを徹底し
なければ生存競争を勝ち抜くのは難しいようである。
タイ自動車産業の現状と今後の展望
アジア通貨危機後のタイの経済を支えているのは、電気製品、ハイテク製品を中心とした輸出と
好調な内需、海外からの直接投資を始めとする民間設備投資である。中でも自動車産業は、国内販
売市場の回復と輸出の増加によりタイ経済復活の大きな原動力になっている。本稿では、タイ自動
車産業の優位性と日本の中小部品メーカーにとっての今後の展望を考察いたしたい。
1.タイの自動車生産状況
(1)生産台数の推移
タイの自動車生産は、日系自動車メーカーが進出して以来順調に伸び続け、1996 年には年間
56 万台を記録した。しかしながら、97 年のアジア通貨危機にともなう国内経済の低迷により
自動車の国内需要が大幅に減退したことで、98 年の生産台数は 15 万台まで落ち込んだ。
99 年以降、国内需要の回復と完成車輸出の拡大に支えられ生産台数は徐々に増加し、2002
年に過去最高記録となる 58 万台を達成した。03 年はさらに増加し 10 月末時点で 60 万台を突
破し、前年実績を上回った。生産台数は今後も増加が見込まれ、タイ自動車産業協会(TAI
A)では、06 年には 100 万台に達すると予測している。
図表1: タイにおける自動車生産台数の推移
自動車計
乗用車
商用車
1995
525
127
398
96
559
138
420
97
360
112
248
98
158
32
126
99
327
72
254
2000
411
97
314
(単位:千台)
02
03(1-10)
584
606
169
207
415
399
01
459
126
303
(備考)03 年は1∼10 月までの実績。タイ工業連盟の資料にもとづき作成
(2)国内販売状況
タイ国内の自動車販売台数は生産台数と同様に 90 年前半には右肩上がりで増加し、96 年に
は 58.9 万台に達したが、その後2年連続で大幅減となり、98 年はピーク時の4分の1の 14.4
万台まで落ち込んだ。99 年以降は、緩やかに増加に転じているものの足取りは遅く、02 年に
なってもピーク時の7割(40.9 万台)にとどまっている。
03 年 は 好 調 な
国内経済に自動車
ローンの金利低下
や前回ピーク時
700
(96 年)購入者の
600
買い替え需要等の
500
追い風も加わり、
10 月までに 42.5
万台(前年同期間
比 30.6%)と好調
であり、通年では
図表2:自動車の国内販売台数推移
千台
乗用車
商用車
400
300
200
100
0
92
94
96
98
00
02
年
52 万台に達する (備考)03 年は1∼10 月の実績。タイ工業連盟の資料にもとづき作成
見通しである。
(3)完成車の輸出動向
アジア通貨危機以前は、タイで生産された自動車の大部分は国内で販売されていたが、国内
市場が一気に縮小したことを受け、各メーカーは生産能力を拡張した工場の稼動率を維持する
ために、完成車輸出を拡大する戦略を練った。この結果、96 年にはわずか 1.4 万台に過ぎなか
2
った輸出台数は急増し、
図表3:完成車輸出台数の推移
2000 年に 15 万台を突破、02
千台
年は 18 万台となった。03 年
250
も好調で 10 月までに 19.7
200
万台(前年同期間比 37.2%
150
増)を達成している。
100
02 年にタイで生産された
50
自動車(58 万台)の国内販
0
売と輸出の比率は7:3であ
1996
ったが、メーカー各社による
97
98
99
2000
01
02
03(1-10)
年
(備考)03 年は1∼10 月の実績。タイ工業連盟の資料にもとづき作成
輸出拠点化推進により輸出
比率が高まり、06 年には6:4(国内販売 60 万台:輸出 40 万台)になると見られている。
2.タイ自動車産業の特徴
(1)自動車部品産業の高度な集積
タイには日系完成車メーカーを頂点に、外資系自動車部品サプライヤーが多数進出しており、
裾野分野に至るまで自動車部品産業の集積が進んでいる。これは、60 年代に完成車メーカーが
進出してから、タイ政府が国内部品産業を育成するために、自動車部品の現地調達率を引き上
げる政策を採ったことに起因する。タイ政府による厳しい現地調達比率要求を充たすために、
完成車メーカーの要請により部品メーカーも進出を余儀なくされた結果、日系部品メーカーは
すでに1次サプライヤーだけでなく2次サプライヤーまでほぼタイに出揃っている。現在は3
∼4次サプライヤーが進出している状況であり、今後集積度はさらに高まるものと考えられる。
(2)日系自動車メーカーによる市場占有
日系自動車メーカーの多くが 60 年代からタイ進出を開始しているのに対し、欧米系メーカ
ーによるタイ進出は、80 年代以降であるため、タイ国内の自動車販売市場は先行する日系メー
カーによる市場占有率が極めて高い状態にある。
メーカー別販売台数は
販売シェアが3割を超え
るトヨタが第1位、商用
車部門トップのいすゞが
続き、以下ホンダ、日産、
三菱と日系メーカーが上
位を独占している。日系
メーカーの市場占有率は
9割弱に達しており、タ
イの国内自動車市場は完
全に日系メーカーの独壇
図表4:メーカー別国内販売状況
(単位:千台、%)
02 年
03 年(1 -10 月)
販売台数
メーカー
乗用車 商用車 合計 シェア 合計
シェア
150.2
35.3
トヨタ
50.7
79.3
130.0
32.2
いすゞ
0.0
92.7
92.7
22.9
106.0
24.9
ホンダ
35.4
17.0
52.5
13.0
55.4
13.0
日産
12.7
31.5
44.3
11.0
34.7
8.1
三菱自動車
7.7
25.1
32.9
8.1
27.3
6.4
フォード・マツダ
2.4
23.8
26.2
6.5
29.0
6.8
その他
17.1
7.9
25.1
6.3
22.8
5.5
合計
126.3 277.7
404.0 100.0
425.4
100.0
(備考)トヨタ・モーター・タイランドの資料にもとづき作成
場となっている。
(3)商用車主流の国内市場
タイ国内の自動車市場では商用車が総販売台数の7割弱を占め、中でもピックアップトラッ
クのシェアがとりわけ高い。ピックアップトラックは比較的地味な車であり通常はあまり売れ
る車種ではない。ところがタイでは、購入時に課される物品税率が5%と乗用車(40%)に比
3
べ大幅に優遇されており比較的低価格で購入できること、タイ国内は都市部を除くと依然とし
て未舗装の道路が多いこと、荷台に多くの人を乗せることが可能であり利便性が高いことなど
を理由にピックアップトラックが人気を集めている。ピックアップトラックを生産する基盤が
充実していることが、自動車メーカー各社がタイをピックアップトラックの世界市場向け供給
基地として位置づける戦略の根拠となっている。
(4)AICOスキームによるアセアン域内での部品調達
タ イの 自動車 部品 の最
大の貿易相手国は、輸出入
ともに日本であるが、アセ
アン域内取引もアセアン
工業協力協定(AICO)
の利用等の要因により増
加する傾向にある。
2002 年のタイとマレー
シアとの自動車部品輸出
入額は、輸出が 48%、輸入
図表5:タイの自動車部品(関税分類:8708)輸出入額
(単位:億バーツ)
区分・年
輸出
輸入
03/01-10 2001
03/1-10
国名
2001
02
02
合 計
217.7 269.5
325.5 641.4 697.2
717.5
日 本
62.0
71.5
73.9 387.1 460.0
488.8
マレーシア
24.3
36.0
46.8
9.2
14.2
19.7
インドネシア
12.5
17.8
19.2
12.5
19.0
20.3
フィリピン
11.3
16.1
14.8
43.8
60.9
62.7
シンガポール
2.8
2.3
4.3
0.2
0.4
0.7
(備考)タイ税関統計にもとづき作成
が 55%増加している。同じくインドネシア向けは輸出 43%増、輸入 52%増、フィリピン向け
は輸出 43%増、輸入 39%増となっている。また、2003 年実績も1月から 10 月までの 10 ヵ月
間でほぼ前年実績値を上回る状況にある。
AICOスキームはアセアン域内企業間の共同製作を促進するプログラムで、アセアンの異
なった国における2つ以上の企業間の取引を対象に0∼5%の特別関税が適用される。ただし、
AICOスキームを活用し各国製造拠点の生産品目を得意分野に絞り込むことでコストダウ
ンを実現できるのはアセアン各国に複数の製造拠点を持つ一部の大手部品サプライヤーに限
られ、域内に孤立した拠点しか持たない中小企業がメリットを享受するのは難しい。
3.大手自動車メーカーのタイ戦略
(1)各社のタイ戦略比較
タイに進出している大手自動車メーカーに共通する戦略は、自動車産業の一大集積地となっ
たタイをピックアップトラックの生産基地・輸出拠点として活用することである。各社とも生
産能力を拡充し、増産体制を構築するとともに、部品の現地調達化を進め製造コストを削減す
ることで競争力強化を図っている。
また、2002 年のアセアン自由貿易地域(AFTA)の発効にともないASEAN原加盟国6
ヵ国間の共通有効特恵関税(CEPT)の関税率が0∼5%となったことを受け、自動車部品
の調達機能をタイに集約し、域内の他の製造拠点へ供給する体制をとるメーカーも出ている。
図表6:大手メーカー各社のタイ戦略
戦略内容
トヨタ
・IMVプロジェクトの一環として、1tピックアップトラックの生産を日本から全
面的にタイに移管し、タイをグローバルな生産拠点として集中化する。
・タイの将来性および地理的な利点を活かし、テクニカルセンターを設立し、自動車
の研究開発拠点を設置する。
ホンダ
・ASEANを完成車の供給基地として、域外への輸出を図る。
・現地調達率の向上やコストダウンを目的として、ASEAN域内(タイ・インドネ
シア・マレーシア・フィリピン)で自動車、同部品の相互補完体制を強化する。
4
戦略内容
ホンダ
(続き)
日産
・タイで生産した小型乗用車「フィット・アリア」を日本へ輸出開始(日本の自動車
メーカーがアジアの自社工場から日本に逆輸入するのは初めての試み)
・ASEAN域内における部品調達の効率化を図るため、タイに自動車部品の調達を
行う部品調達補完新会社を設立する。
三菱
・タイ工場に新規投資し、1tピックアップトラックの生産能力を年間 18 万台(約5
(クライ
割の増加)に増強し、世界 140 カ国へ供給する生産・輸出拠点としての位置付けを
スラー)
強化する。
いすゞ
(GM)
・タイをピックアップトラック・ビジネスの中核拠点と位置付け、日本での輸出向け
ピックアップトラックの生産を 2003 年からタイに移管集約を行う。
・世界戦略車として、GMと次世代のピックアップトラック「いすゞD−MAX」を
共同開発し、タイで生産を開始。一部はGMタイランドに生産を委託して、2005 年
までに2社合計で生産台数を 25 万台に増強する。
(備考)各社ニュースリリースおよび新聞報道等にもとづき作成
(2)トヨタ自動車のタイオペレーション
今回の投資環境調査では、タイ国内自動車市場において最大シェアを維持するトヨタ自動車
の現地法人であるトヨタ・モーター・タイランド(TMT)社を訪問し、現在のオペレーショ
ンの状況と今後の展開について聴取した。
イ.TMT社の生産状況
トヨタのタイにおける製造拠点はTMT社(完成車製造)とサイアム・トヨタ・マニュフ
ァクチュアリング社(エンジン製造)の2社がある。
1962 年に設立されたTMT社は現在2つの組立工場(サムロン工場、ゲートウェイ工場)
において乗用車3車種(ソルーナ(アジアカー)、カローラ、カムリ)と商用車2車種(ハ
イラックス、ダイナ)を生産している。2002 年の生産実績は 14 万台(前年比 54.5%増)。
03 年は国内市場が好調なため、春先からは両工場とも2直体制でフル稼働中であり、残業や
休日出勤を行って対応している。このため、生産台数は過去最高を記録する見込みである。
ロ.国内販売市場における地位
販売台数の7割近くを占める商用車部門の販売シェアはいすゞが首位でトヨタは2位に
入っている。一方、乗用車部門ではトヨタが首位でホンダが2位となっている。ただし、い
すゞは商用車のみ、ホンダは乗用車のみを生産しているため、両方の車種を生産するトヨタ
の販売シェアは総合すると 30%を超え、他社を大きく引き離している。
ハ.IMVプロジェクトにおけるタイの位置づけ
世界各地に約 50 ヵ所の生産拠点を持つトヨタ自動車の生産能力は全世界合計で 600 万台
に上ると言われている。トヨタは世界市場を北米、欧州、日本、アジア、中東・アフリカ・
中南米・オセアニアの5地域に分割して事業を展開している。タイは以前からアジア地域に
おける中核拠点であるが、トヨタの世界戦略プロジェクトとして現在進行しているIMVプ
ロジェクトにおいても最重要拠点として位置づけられている。
IMVプロジェクトはトヨタの海外生産拠点を有機的に結びつけ、世界最適開発・調達・
生産を進め、競争力を高めるという戦略にもとづき策定されている。このプロジェクトでは
タイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、ベトナムのアセアン地域およびインド等の
生産拠点をピックアップトラックや多目的車、そしてその関連部品の供給拠点と位置づけ、
相互に補完し合う体制を確立するとともに、南アフリカ、アルゼンチンをそれぞれ欧州・ア
5
フリカ、中南米市場向けの供給拠点とし、生産・輸出の拡大を図ることになる。
新体制に移行する 04 年夏以降、全世界のトヨタ製ピックアップトラック生産量の 40%が
タイに集中されることから、TMT社の生産能力は現在の2倍の 30 万台まで拡大されアジ
ア最大の規模のトヨタ車生産拠点となる。TMT社ではすでにタイ投資委員会(BOI)か
ら総額 216 億バーツに上る投資認可を受け、ピックアップトラックの製造ラインを拡張して
いる。また、トヨタグループの主要な部品サプライヤー各社もIMVプロジェクトに対応す
るために、タイにおける事業規模拡大に努めている。
ニ.部品サプライヤーの選定方針
トヨタでは生産のグローバル化にともない、スピーディで効率的に部品調達を行える体制
を構築している。特に輸入関税コストを削減するため、現地調達化を推進しており、現在平
均8割程度の現地調達率を限りなく 100%に近づけようと努力している。部品調達先は系列
にこだわることなく品質・性能・コスト等を総合的に評価し、ビジネスライクに選定してい
る。タイに進出している1∼2次サプライヤーは、生産能力の向上とコスト削減に努めてい
る。したがって、高い技術力と価格競争力を持つ3∼4次サプライヤーが今後タイに進出し
1∼2次サプライヤーに対し部品を供給する余地は残されていると思う。
ホ.トヨタの中国拠点との競合関係
トヨタの中国事業はようやく本格的に立ち上がったところで、欧米の自動車メーカーに比
べ出遅れている感は否めない。自動車産業の集積が進み生産基盤が充実しているタイ拠点の
現時点での国際競争力は中国拠点を上回っている。中国拠点は当面、中国国内市場向け生産
で手一杯となり、輸出面においてタイ拠点と競合することはないだろう。
(3)完成車輸出拠点としてのタイの優位性
2002 年から 03 年にかけてタイへの直接投資動向は、業種により異なる動きを示している。
02 年に金属加工・機械(自動車を含む)への投資は微増となったが、電気・電子機器は 45%
減少している。03 年(1-9 月)の金属加工・機械は前年比 100%以上増加しているのに対し、
電気・電子機器は増加に転じているものの小幅にとどまっている。このことから輸出市場にお
いて中国と競合しない自動車の場合、電気・電子機器のように中国向け投資動向に影響される
ことなく、タイへの投資が着実に実行されていることがわかる。
中国では、都市部における国民所得向上とともにモータリゼーションが進展し、国内自動車
市場は急速に拡大している。タイの国内自動車市場規模は中国の8分の1に過ぎず、国内市場
の将来性は明らかに中国の方が有望である。しかしながら、中国の自動車産業は今のところ輸
入代替産業の域を脱しておらず、当面は国内市場の需要を充たすのみで、輸出型産業に転換す
るには相当な時間を要すると考えられる。一方、すでに自動車部品産業が高度に集積している
タイは、日本製と遜色のない品質の部品を低コストで調達できるメリットを活用し、全世界市
場向けピックアップトラックの生産拠点として位置づけられている。各自動車メーカーが積極
的に設備投資を実行し増産体制をとっていることから、今後中国の自動車市場が急成長したと
しても、自動車輸出拠点としてのタイの優位性は当面変らないと見られる。
図表7:タイと中国の自動車産業の比較
タイ
中国
外資系自動車メーカーの
1960 年代から日系メーカーが進 1985 年にフォルクスワーゲンが
進出時期
出し、欧米系メーカーの進出は 合弁で進出し、日系メーカーの
98 年以降(日系メーカーが先行) 本格的な進出は 98 年のホンダ以
降(日系メーカーは後発)
6
タイ
自動車市場の 生産台数
584 千台
規模(2002 年)
(乗用車:169,商用車:415)
販売台数
409 千台
(乗用車:126,商用車:283)
輸出台数
自動車保有状況
中国
3,251 千台
(乗用車:1,090,商用車:2,160)
3,248 千台
(乗用車:1,126,商用車:2,122)
180 千台
22 千台
104.1 台
10.9 台
(1000 人あたり保有台数)
自動車メーカーの進出形態
当初は現地資本との合弁による 外資出資規制により中国地場の
進出が主体。外資出資規制緩和 自動車メーカーと合弁または技
後は独資による進出が主体
術供与による進出が主体
乗用車の国内 日系メーカー
85.3%
22.8%
市場シェア
欧米系メーカー
12.4%
58.2%
(2002 年)
その他
2.3%
19.0%
主な自動車メーカーの戦略
完成車(主にピックアップトラ 巨大な中国国内市場への販売を
ック)の輸出拠点
部品産業集積地
目的した生産拠点
タイ東部の臨海地域を中心に狭 国内全土に点在(主に自動車メー
い範囲で集積
カーが立地している吉林省、上海
市、湖北省、広東省の4地域に分
散)
日系部品メーカーの進出状況
151 社
134 社
(備考)新聞報道等にもとづき作成
(4)中小部品サプライヤーのビジネスチャンス
現在タイでは自動車の生産能力を 2006 年までに年産 100 万台体制に拡大するために大規模
な設備投資が行われていることから、自動車関連産業に従事する中小企業とってのビジネスチ
ャンスも確実に増加している。製造ライン増設に関連する案件はすでにピークにあり、新ライ
ン稼動後の部品調達増加は中小の部品サプライヤーにとり新規取引拡大の好機となろう。
タイには部品産業がほとんど進出済みで、地場企業も力をつけていることから、企業間の競
争は大変熾烈になっている。こうした状況下で後発の不利を乗り越えてオーダーを確保するに
は相当な努力が求められる。しかしながら、自動車メーカーの意向により1∼2次サプライヤ
ーが生産能力の向上とコスト削減に取り組んでおり、各社とも従来の系列関係にこだわらない
調達方針を採用しているため、高い技術力と価格競争力を兼ね備えた3∼4次サプライヤーが
今後タイに進出し成功する余地は十分残されていると思われる。
現地信用金庫取引先からのヒアリング
今回の投資環境調査ではアマタ・ナコーンおよびサムットプラカーンに進出する信用金庫取引先
3先を訪問した。いずれも 1995∼96 年にタイに進出し、その後発生したアジア通貨危機を乗り切
り業績を着実に拡大しているが、同時期に進出したいくつかの企業は現地での厳しい価格競争に耐
え切れずすでに淘汰されているという。
経済が順調に拡大しているタイでは、中小企業にとっても自動車産業を中心に多くのビジネスチ
ャンスがあるものと期待されるが、中途半端な考えの企業が進出しても成功は覚束ない。高い技術
力と親会社の支援を背景に高品質、納期厳守を保ちつつコストダウンを徹底しなければ生存競争を
勝ち抜くのは難しいようである。
7
訪問先の概要
A社
B社
C社
所在地
アマタ・ナコーン
工業団地
サムットプラカ
ーン
サムットプラカ
ーン
業種
自動車部品製造
進出形態
合弁
電機制御機器の 合弁
製造・販売
プレス機械のメ 合弁
ンテナンス
進出時期
96 年 2 月
資本金
6,000 万バーツ
従業員数
120 名
95 年 9 月
400 万バーツ
24 名
96 年 8 月
800 万バーツ
14 名
1.A社(自動車部品製造、アマタ・ナコーン工業団地内)
(1)当社の概要
・進出時期:1996 年2月
・進出形態:合弁企業(外資マジョリティー:日本側 80%、タイ側 20%)
・資 本 金:6,000 万バーツ
・業務内容:自動車部品その他金属部品製造、メッキ加工など
・従業員数:日本人2名、タイ人 118 名(管理者6名、ワーカー112 名)
(2)進出経緯
・96 年にトヨタ自動車がタイにおいてソルーナ(アジア・カー)の生産を開始する際に、ブレ
ーキホース口金、ブレーキ油圧継ぎ手等の金属部品を現地調達したいとの強い要請があったこ
とから、進出を決定した。
(3)現地の状況
・進出当初の 1996 年は自動車産業の第1次投資ブームの最中であったが、97 年のアジア通貨
危機発生により急激に落ち込んだ。現在は第2次投資ブームにあたり、いずれのメーカーも
工場を拡張して対応しているようだ。A社も 2002 年 12 月に工場を2倍に拡張したが、すで
にフル稼働状態となっている。
・工業団地内のインフラは近年よくなっている。以前は停電が頻発したが、今ではほとんどな
くなった。通信面も特に問題ない。
(4)人材の状況
・工場のワーカーは、隣接するチョンブリから採用している。工場の外に募集チラシを貼って
おけば、それを見て応募してくる。ワーカーの賃金は月 5,000 バーツ程度である。
・現在タイは景気がよく、ワーカーの募集が多数あり、今の仕事が気に入らなければ簡単に次
の職を見つけることができる状況にあるため、ワーカーの定着率が低いことが悩みとなって
いる。
・ワーカーの質は悪くはないが、慎重に選考するほうがよい。A社では男性ワーカーを採用す
る場合にオートバイを所有しているかどうかを判断基準の1つとしている。タイではオート
バイを取得する際に、オートローンを組むのが一般的であり、借入能力の有無によりその人
物の社会的信用力を推測できる。
・また、タイではドラッグの常用者が多いため、A社では定期的に検査を実施している。企業
によっては、検査時に地元の警察を呼ぶこともある。ドラッグ検査がきっかけとなり労働争
議に発展するケースもあるそうだ。
(5)日本人派遣社員の生活
・工業団地に近いチョンブリの街は、治安面や日本食レストランが少ないという点で、日本人
が住みやすい環境ではないため、バンコクのはずれに住んでいる。
・以前はバンコクからの通勤に約3時間を要したが、道路網の整備が進んだため、通勤時間は
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1時間以内に短縮されている。
(6)現状の問題点および今後の展開
・タイには自動車関連企業はほぼ出揃っているため、日本と同様競争が激化している。品質・
コスト・納期を巡っての競争になるが、品質と納期では地場企業に勝つことができても、コ
スト面ではかなり厳しい状況にある。日本では製造原価の 60%を労務費が占めるのに対し、
タイでは労務費は 10%程度に過ぎず材料費のウェイトが高い。利益率を向上し、競争に打ち
勝ってゆくには、材料費の抑制が課題となる。
・大手自動車メーカー各社がタイで増産体制をとっていることから、自動車部品メーカーに対
する発注量も増加が見込まれる。高品質の維持と納期厳守を前提にコスト競争力を維持でき
れば日系他社や地場メーカーとの競争に打ち勝ち自社製品を拡販する余地は十分残されて
いると思う。
2.B社(電機制御機器製造・販売、サムットプラカーン)
(1)当社の概要
・進出時期:1995 年9月
・進出形態:合弁企業(外資マイノリティー:日本側 49%・タイ側 51%)
・資 本 金:400 万バーツ
・業務内容:電機制御機器の製造・販売、制御盤の設計・製作・外部配線工事など
・従業員数:日本人3名、タイ人 22 名(管理者3名、ワーカー19 名)
(2)進出経緯
・日系進出企業向けに製品を販売する場合、販売後のメンテナンスができないと採用してもら
えないため、タイに製造拠点を設置した取引先の要請により、タイ進出を決めた。
(3)現地の状況
・B社は進出後8年が経過しているが、業績は一貫して上昇基調にある。97 年のアジア通貨危
機により経済が落ち込んだ際も、自動車関連の1次・2次下請けメーカーによる工場新設が
継続されたため、工場に設備を供給するB社には大きな逆風とならなかった。
・ここ1∼2年はトヨタのIMVプロジェクトの関係で自動車業界向けが大きく伸びている。
2003 年7∼9月にトヨタの1次・2次下請け企業の製造ラインが一斉に立ち上がるため、年
内は好調が見込まれるが、その後の落込みを懸念している。
(4)人材の状況
・従業員の育成には言葉の問題もあり、かなり苦労した。B社の従業員は低コストながら他社
と比較しても高いレベルにあると思う。
(5)現地での生活
・タイは日本人が住む環境としては非常に良い。治安がいいし、日本人も多い、食事も日本食
が充実しているので、全く不便は感じない。
(6)現状の問題点および今後の展開
・BOIの恩典は国内で物品の販売事業を行う企業は利用できないため、当社は認可を取得で
きなかった。このため、部材を免税で輸入できず、電機部品に 20%、機械に5%の輸入関税
を課されることがコストアップ要因となりビジネスチャンスを逃すこともある。BOIの認
可取得が難しい事業を行う場合、相当に高い技術力を持たない限り、厳しいコスト競争を勝
ち抜くのは苦しいと思う。
・現在タイへの進出を検討中の企業には、しっかりとした事業計画を立てて置くことをアドバ
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イスしたい。日本の自動車業界にはまだ系列関係が残るが、タイでは系列に頼ったビジネス
は期待できないことをよく認識しておく必要がある。
3.C社(プレス機械メンテナンス・販売、サムットプラカーン)
(1)当社の概要
・進出時期:1996 年8月
・資 本 金:800 万バーツ
・進出形態:合弁企業(外資マイノリティー:日本側 49%、タイ側 51%)
・業務内容:プレス機械のメンテナンス、中古プレス機械の販売
・従業員数:日本人3名、タイ人 11 名(技術者6名、女性事務員2名、運転手3名)
(2)進出経緯
・日本の親会社が合弁での海外進出を計画していたとき、日系大手メーカーに勤務していた当
社社長が定年退職を機に独立して、当社を立ち上げの話を引き受けたため、1年の調査期間
を経てC社を設立した。
(3)現地の状況
・社長は大手メーカーで長年プレス関連業務に携わっており業界で顔が広いことから、自動車
や電気関連の取引先を多数開拓できている。
・業績は順調に伸びており、2002 年は売上 2,500 万バーツを達成、03 年は 3,500 万バーツを
超える見通しとなっている。
・日本からの仕入代金の決済を親会社が猶予してもらえるため、資金繰りは安定しており、現
地での借入れは必要ない。
・電話、電気、水道などインフラの面で不便を感じることはない。停電も少ない。
(4)人材の状況
・C社は工業団地外に立地し、張り紙をしても従業員は集まらないため、人材紹介会社を通じ
て人材を採用している。待遇は高卒で月 6,500 バーツ、大卒で月 7,000 バーツ程度としてい
る。従業員数が少なく、きめ細かく指導することができるので、ワーカーの定着率はよい。
・C社は機械のメンテナンスを主要業務としており、取引先の工場が停止する土・日勤務が多
くなる。時間外勤務手当として、平日の残業で 1.5 倍、休日勤務で2倍、休日夜間は3倍を
支払うため、休日勤務を見越して基本給を抑制している。従業員は積極的に時間外勤務に応
じており、実際に支払う給与額は基本給の 1.5∼1.6 倍となることから、同業他社と比較し
て手取額が少ないわけではない。
(5)現地での生活
・現地での生活において困ることは暑さだけで、他は全く支障ない。バンコク近郊に住んでい
るため、食生活の面も不自由することはない。
・タイに来てから今まで2回置引きにあっている。いずれもタイ人の従業員と一緒にいるとき
であったが、ちょっとした隙に盗まれた。
(6)現状の問題点および今後の展開
・取引先がいつ売上代金を支払ってくれるか心配なので、インボイス上に支払日を記入しても
らうようにしている。以前は、メンテナンス作業・インボイス送付・代金回収の合計3回先
方まで出向いていた。最も遠い取引先は東北方面のカミンブリなので、移動に大変苦労した。
最近は代金支払いに銀行振込を利用する取引先が次第に増えているため負担は減っている。
・これまでタイに進出した日系中古機械販売業者で、事業に行き詰まって倒産した会社も多数
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ある。日本の親会社とのパイプを強化し、しっかりとした技術力を持ち込まないと競争力を
維持することは難しい。
(香港支店
真下正博)
本レポートは、情報提供のみを目的とした上記時点における当研究所の意見です。施策実施等に関する最終決定は、ご自身の判断
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ておりますが、その情報の正確性および完全性について当研究所が保証するものではありません。
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アジア業務相談室 行
今回の「アジア業務相談室情報 Vol.24−2」について
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