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新市場/新製品/新技術動向 ファッションと E コマース ―不況下の数少ない成長市場をさぐる ― フリージャーナリスト 土井 弘美(どい ひろみ) 立教大学卒業後、出版関係の業務に従事。科学雑誌『ニュートン』 、ファッション業界誌 『チャネラー』などを経て現在フリーランスで活動。中国でのビジネス経験もあり。 要 点 1 インターネットの高い普及率に支えられて、ネット販売は成長し続けている。 2 ファッション分野では、「ZOZOTOWN」のような巨大 EC モールが続々と誕生、大手 IT 企業もファッション 強化に乗り出した。 3 実店舗でも、ブログやインターネットを使った販促活動が効果を上げている。 4 中国での E コマース市場の伸びは大きく、IT 企業同士の提携、相互乗り入れが進んでいる。 多忙な 40 代中心に 広がる E コマース市場 リーマンショック以降の長引く不況のなかで、 ファストアパレルの好調さと百貨店の再編など、 ファッション業界の構造変化が顕著になりつつあ る。その中で、忘れてはならないのが多面的な変化 を遂げている E コマースだ。 まずは、日本の E コマース市場の全体像をつか むこととしよう。 経済産業省の統計「平成 21 年度電子商取引に関 する市場調査」 によると、 2009 年の BtoC の E コマー ス市場規模は 6 兆 6,960 億円で、08 年と比較して 図表 1 日本における BtoC-EC 市場規模の推移 億円 80,000 70,000 60,000 53,440億円 60,890億円 50,000 40,000 30,000 66,960億円 2.08% 1.79% 1.52% 2.50% 2.00% 1.50% 1.00% 20,000 0.50% 10,000 0 3.00% 2007年 2008年 EC市場規模(左目盛) 2009年 0.00% EC化率(右目盛) 出所:平成 21 年度我が国情報経済社会における基盤整備 (電子商取引に関する市場調査)報告書 平成 22 年 7 月 経済産業省 110.0%となった。対前年比で見てみると、08 年が 113.9%、07 年が 121.7%となっており、伸びが鈍 くなっていることが分かる。だが、08 年末のリー マンショック後、ほとんどの流通チャネルがマイナ 次に、伸び率の大きかった業種を見てみよう。す ると、 「医薬化粧品小売業」 (対前年比 130.8%) 「食 品小売業」 (同 128.7%) などの分野の伸びが大きかっ ス成長に転じてしまったことを考え合わせれば、こ の数字は立派である。また、商取引の電子化(EC たことが分かる。一方、 「衣料・アクセサリー小売業」 も同 117.8%で、前年が 130%近い伸びであったこ 化率)は進み、08 年の 1.79%から 2.08%になった。 とを考えると鈍化してはいるが、堅調な伸びを見せ ている。 74 繊維トレンド 2011 年 3・4 月号 ファッションと E コマース 図表 2 日本における BtoC-EC の業種別内訳 業種 小売業 総合小売業 衣料・アクセサリー小売業 食料品小売業 自動車・パーツ小売業 家具・家庭用品小売業 家電電気製品小売業 医薬化粧品小売業 スポーツ・本・音楽・ 玩具小売業 宿泊・旅行業 飲食業 娯楽業 建設業 製造業 情報通信業 運輸業 金融業 卸売業 その他 合計 合計(小売・サービス) 2007 年 2008 年 EC 市場規模 EC 市場規模 EC 市場規模 EC 化率 EC 化率 (億円) (億円) (億円) 12,190 2.78% 13,550 3.17% 14,290 570 0.45% 730 0.58% 860 2,510 0.42% 2,930 0.48% 3,770 2009 年 対前年比 105.5% 117.8% 128.7% EC 化率 3.60% 0.70% 0.62% サービス業 6,650 2.04% 7,750 2.36% 9,460 122.1% 2.81% 1,410 1.47% 1,720 1.67% 2,250 130.8% 2.14% 2,220 1.22% 2,650 1.52% 2,970 112.1% 1.78% 6,510 2.71% 8,320 3.53% 9,090 109.3% 4.13% 990 N/A 1,510 14,880 2,370 1,010 0.63% N/A N/A N/A N/A N/A 1,020 N/A 1,700 16,280 2,670 870 0.66% N/A N/A N/A N/A N/A 1,060 N/A 1,590 17,570 2,650 800 103.9% N/A 93.5% 107.9% 99.3% 92.0% 0.74% N/A N/A N/A N/A N/A 620 N/A 700 N/A 600 85.7% N/A 53,440 33,050 N/A 1.52% 60,890 38,670 N/A 1.79% 66,960 43,750 110.0% 113.1% N/A 2.08% 出所:平成 21 年度我が国情報経済社会における基盤整備(電子商取引に関する市場調査)報告書 平成 22 年 7 月 経済産業省 さて、E コマースの市場規模を業種別の構成比か ら見てみると「情報通信業」 (26.2%) 「 、総合小売業」 (21.3%) 、 「自動車・パーツ・家具・家庭用品・家 電電気製品小売業」 (14.1%) 、 「宿泊・旅行業、飲 食業」 (13.6%)の 4 分野で 75%を超すシェアを占 めている。ここで注目すべきなのは「総合小売業」 の数字で、規模 1 兆 4,290 億円(対前年比 105.5%、 対前年比 740 億円)という数字であろう。この分野 には百貨店、大手スーパーマーケット、通販会社の インターネット販売部分の数字が含まれており、か なりの部分でファッション関連のものが入っている と思われるからである。 こういった E コマースの伸びは、インターネット の高い普及率に支えられている。総務省が 2010 年 4 月に発表した 「平成 21 年通信利用動向調査の結果」 によると、インターネットの利用者数は 9,408 万人 で、人口普及率は 78.0%となっている。 もう少し、消費者側からのデータを探っていこう。 同じく経済産業省の「消費者購買動向調査」〜リー マンショック以降の日本の消費者の実像〜によれ ば、消費者の購買チャネルは変化をとげ、ネット ショッピングは 9 割以上、カタログ通販は 7 割以上 が利用経験を持つ。ことにネットショッピングの平 均的利用者の利用頻度は 3 カ月間に 5.7 回、金額は 5.13 万円にものぼっている。 図表 3 日本における 2009 年 BtoC-EC の業種別構成比 24.7% 26.2% 13.6% 21.3% 14.1% 情報通信業 自動車・パーツ・家具・家庭用品・家電電気製品小売業 その他の業種 総合小売業 宿泊・旅行業、飲食業 出所:平成 21 年度我が国情報経済社会における基盤整備(電子商取引に関する市場調査)報告書 平成 22 年 7 月 経済産業省 繊維トレンド 2011 年 3・4 月号 75 新市場/新製品/新技術動向 図表 4 通信販売の利用は? 出所:「消費者購買動向調査」~リーマンショック以降の日本の消費者の実像~(概要) 平成 22 年 4 月 21 日 経済産業省 図表 5 通信販売利用状況(最近 3 カ月利用者) 出所:「消費者購買動向調査」~リーマンショック以降の日本の消費者の実像~(概要) 平成 22 年 4 月 21 日 経済産業省 利用年代を探っていくと、よくいわれているよう に、多忙な 40 代の利用が多いことが分かる。仕事が その時間にすることは、 「PC やモバイルでメールや 情報をチェック」 「テレビを見る」などで、おそら 忙しい、家事や育児に時間が割かれる、要介護者が いてショッピングにいけない、そんなときにネットを のぞいてみるというライフスタイルがよく分かる。 く「テレビを見ながらケータイをチェック」という ことなのだろう。だから、この時間帯にアクセスが 集中していく。ネットショップやテレビ通販などで そういう多忙な人たちがやっと「ほっとする」の は、午後 9 時以降から深夜寝るまでの時間帯である。 も、この時間帯を「ゴールデンタイム」としてお買 い得品や新商品の開示をするところが多い。ショッ ピングタイムはすでに 24 時間となっているのだ。 76 繊維トレンド 2011 年 3・4 月号 ファッションと E コマース 図表 6 自由になる時間帯は? 出所:「消費者購買動向調査」~リーマンショック以降の日本の消費者の実像~(概要) 平成 22 年 4 月 21 日 経済産業省 しかし、前に戻ってインターネットの普及率を見 て み る と、65 〜 69 歳 代 で は 58.0 %( 対 前 年 比 120.4%)と高い増加率である。これはデジタルテ レビなどからも手軽にアクセスできるようになった ことも影響しており、購買の中心が、現在 E コマー スの中心である 40 代から上の世代に広がっていく ことも十分に考えられる。シニア世代に広がる夫婦・ 単身者世帯では、 「病気・高齢化によって買い物が 困難」という状況が、殊に自動車を使わなくてはな らない地方都市・郊外地区を中心に起きている。E コマースの最大の特色は「いつでも、どこでも」買 い物ができることにあり、この世代を救う大きな手 段となっているからだ。 広がったネット販売の範囲 かつて、ファッション分野では E コマースは難 しいといわれた時代があった。ほんの数年前まで、 「素材の質感」は触って確かめるものであり、試着 もしないで購入するなど「想像もできない」といわ れていたのである。しかし、 現在では欧米のラグジュ アリーブランドもネット販売を加速している。 「ラ コステ」はアメリカ・フランス・ドイツなどでネッ ト販売をスタート。高級ジュエリー関連でもフラン スのモープッサンがネット販売を開始した。続々と E コマースに参入する背景には、不況下にあって、 世界的に見てもやはりこの分野が数少ない成長分野 であるからだ。もはや高価な服や宝石類まで、ネッ トで何の抵抗もなく購入される時代となった。 図表 7 属性別インターネット利用率(個人・世代別) 平成20年末(n=12,791) 平成21年末(n=13,928) ○世代別 % 100 95.5 96.3 96.3 97.2 95.796.3 92.0 95.4 80 75.3 78.0 60 86.1 63.4 71.6 58.0 37.6 40 27.7 20 0 68.9 68.6 82.2 32.9 14.5 6歳以上 全体 18.5 6∼12歳 13∼19歳 20∼29歳 30∼39歳 40∼49歳 50∼59歳 60∼64歳 65∼69歳 70∼79歳 80歳以上 出所:平成 21 年「通信利用動向調査」の結果 平成 22 年 4 月 27 日 総務省 繊維トレンド 2011 年 3・4 月号 77 新市場/新製品/新技術動向 さらに絶対不可能だと思われた分野でも、ネッ ト販売が行われるようになった。オーダーメイド スーツなどは試着したうえでの修正が必要である ため、ネットでのやり取りは無理だと考えられて きたが、採寸データさえあれば、商品内容を電話 で販売スタッフがていねいに説明する、仕上がり をビジュアル化して送るなどのさまざまな手段を 通じて顧客とのコミュニケーションを図って仕上 げる。中には実店舗並みの売上高を上げていると ころもあるという。 もはや、ネットで販売できないものはなく、領域 にタブーはなくなったといっていい。 ネット内に立ち上がった巨大なショッピングセンター ファッション分野では、好調な EC サイトに注目 が集まっている。ことにファッションに特化した EC モール 「ZOZOTOWN」 などを運営する 「スタートトゥ デイ」の伸びは素晴らしい。11 年 3 月期の売上高は 170 億 4,500 万円で、前期比 146.7%増。大型ショッ ピングセンターがそっくりネットのなかに立ち上 がったことになる。11 年 2 月現在で、会員数は 297 万 7,761 人。そのうちアクティブ会員と呼ばれる過 去 1 年間に 1 回以上買い物をしたことのある人数は 117 万 3,506 人となった。同社の商品取扱高はさら に増え続けており、10 年 4 月からの月次報告を見て も、7 月対前年比+ 90.7%、8 月同+ 56%と目覚ま しい。 「前年割れしないのがやっと」である実店舗 の状況を見慣れた目には、奇跡的な数字にも映る。 同社の設立は 04 年 12 月と、わずか 6 年ほど前の ことである。 「ZOZOTOWN」はもともとユナイテッ ドアローズ、ビームス、アメリカンラグシーなど多 くの人気ショップ、ブランドを集めたショッピング モールであったのが、 「ZOZONAVI」で全国の実店 舗を紹介してこれと結ぶようになり、さらに、ハイ エンドファッションである「ZOZOVIRA」 、お買い れば、当然商品もチェックすることになるからだ。 伸びているのはスタートトゥデイだけではなく、EC モールでは「マガシーク」や通販企業が運営する「ス タイライフ」なども好調で、また自社商品を扱う「セ レクソニック」 (サンエーインターナショナル) 「 、ワー ルドダイレクトスタイル」 (ワールド) もよい。そして、 ここに来て新しい動きが出てきた。大手 IT 企業が ファッション方面の強化に乗り出してきたのである。 「アマゾン」にはビームスやディーゼルが出店、 デジタルカタログ「ルックブック」が導入された。 一方、 「楽天」はトップページにスタイル別のポー タルページを設定、 「クールセクシー」 「スウィート フェミニン」 「スタイリッシュカジュアル」 「キャリ ア&エレガンス」などのカテゴリーのテイストに 合ったブランドを集め、それぞれのショップに飛べ るようになっている。 「Yahoo!」はスタートトゥデ イと提携し、ファッションデータベースのオープン プラットフォーム戦 略 に 取り組 む。200 社 以 上、 1,400 ブランドを超える商品データを持つスタート トゥデイがデータをオープン化することによって、 データは Yahoo! の検索結果に反映され、スタート トゥデイは購入の入り口を増やすことができる。 もともと大手 IT モールでは、ファッション商品 も大きな要素。しかし、全体に占める割合は小さく、 「まだまだ伸び代がある」とみたから強化に踏み切っ たわけである。 通販企業もネット販売で収益改善 通販といえば大手通販企業がこぞってネット通販 に力を入れ、収益の改善を図っていることが挙げら れる。本来のカタログ通販では「カタログ編集時と 実売期にズレがある」 「企業の昼休みに回し読みし てもらっていたのがスタート。働く人の多様化でで きなくなった」などの理由に加え、一昨年からの不 況で伸び悩んでいたが、ネット販売部門で伸びて業 績を持ち直した企業が多い。加えて、実店舗を運営 得サイト「ZOZOOUTLET」にまでその範囲を広げ ている。このほか、誰かにありがとうという気持ち し、実際に商品を手にとって実感してもらい、ネッ を伝えようという「ZOZOARIGATO」や、ヒト・ モノ・コトについて投稿する「ZOZOPEOPLE」な どのコミュニティのサイトも運営するようになっ た。実はこのコミュニティサイトが、モール拡大の トやカタログ通販に結び付けている。 このことから見ても、実店舗はすでにネット販売 と競合するものではなくなっていることが分かる。 むしろ、実店舗で商品を確認、購買した経験がある 大きな要因にもなっていると考える。自分の経験に もよるが、日常の中で「頻繁に行って情報をチェッ からこそ、ネットで「試着しなくても」安心して購 入することができるのだ。 「ZOZOTAWN」がで実 クしたり、書き込みをするサイト」ができてしまう と、一種の習慣となり変えることは難しい。コミュ ニティサイトに毎日のようにアクセスすることにな 店舗を紹介しているのが、そのよい例である。ラグ ジュアリーブランドを購入する際にも、あらかじめ 店舗に足を運んでいる人が多いことが分かっている。 78 繊維トレンド 2011 年 3・4 月号 ファッションと E コマース 実店舗の販促に活用されるブログとブロガーたち さて、サイトでファッション商品を購入する際に 何を基準にして買うかというと、 「クチコミ」とい 人ワンコーデずつ作成し、全員で投票して、一括で 送るメールやブログにアップするもの 2 体を決めて いる。メールにはスタッフの名前も入れてあるので、 うのが一番多い。読者の方々も、 「このレストラン に行こう」というときに「ぐるなび」などの評価を 参考にした経験があるのではないだろうか。ファッ ションショップの場合、販売スタッフが「どういう 覚えてもらえるという利点もある。時には「この前 買った服、とても可愛かった」 「今度デートに来て いく服を選んでもらえますか」といった、嬉しい返 ときにお召しになるのですか」 「こちらのスカート とコーディネートされてはいかがですか」などと 信がスタッフを喜ばせる。 ブログをブランド立ち上げの際の販促に使うケー スもある。 いった丁寧な接客とともに、素材や取り扱い方法な どの情報を伝えてくれるのだが、ネットの場合それ がない。だが、代わるものとして「ブログ」や「ツ ジ ャ ム シ テ ィ は、2010 年 春 夏 シ ー ズ ン か ら 「シュープリームララ」などのブランドを立ち上げ たが、その際にケータイ恋愛小説の作家とコラボ イッター」が登場し、 「メルマガ」よりも軽く毎日 情報を流すことができる。 そして、このブログやツイッターは実店舗の販促 レートし、ターゲットである 10 〜 20 代の女性への プロモーションを図った。ブランドのテイストは登 場人物のキャラクターと重なっていく。お披露目の 手段として実に有効な使いかたをされている。 「ギャラクシー」は、3 年前に立ち上げられたサ ブカルチャーの香りの強いポップなブランドだ。 ギャラクシーの好調さは、独特なプロモーションに よる。音楽好きの仲間が集まって作ったブランドだ けに、クラブでのイベントが得意だ。また、ネット、 殊にブログにはブランド設立当初から取り組んでい る。ブログのアップロードは 1 日になんと 7 〜 10 回というから、その力の入れ方が分かる。商品情報 を流すほかに、商品を購入してくれた来店客の写真 を撮り、 そのうちのベストコーディネートを「スター ズ・オブ・ギャラクシー」としてコメントとともに ブログに掲載。1 年前からツイッターも使いはじめ、 短い文章でどんどん商品情報を流している。人気の 上昇とともに、ブログへのアクセス数も飛躍的に伸 ファッションショーには多くのブロガーを招待、モ デルとしても登場してもらい、大いに盛り上がった。 このブロガーたち、実はとてつもないパワーを 持った存在なのだ。一般にブロガーとは個人でブロ グを作って発信している人たちのことを言うが、ブ ログのコミュニケーションを利用してブランドを立 ち上げたり、情報発信して商品を販売したりと活動 が活発になっている。そういう活動をしているブロ ガーたちの多くは女性で、ファッション好きでセン スもいい。ブログでは日常生活や子育てなども公開 し、ライフスタイル自体が同世代の支持を受けてい る。そのブログがパワーを発揮するのは「クチコミ」 であり、前述したように新商品の販促やイベントの 告知などに活用されることが多くなってきた。 び、現在は月平均 2 万アクセスになった(昨年は 1 万 5,000 アクセス) 。 「ソアリーク」渋谷店は、オープンして 1 年足ら ずの間に着実に顧客を増やしてきた。その理由の一 中国の E コマース市場の成長は日本を超える 中国では、日本よりも速いスピードで E コマース 市場が成長している。しかも、外国商品に対する関 心が高いのだ。先に見た経済産業省の統計「平成 つは、雑誌媒体への露出である。ユニークな発想と 多彩なコーディネートが好評で、主要ファッション 21 年度電子商取引に関する市場調査」には、日本・ アメリカ・中国・韓国の 4 カ国の「越境 EC 利用者(イ 誌に登場する回数が多く、知名度も上がってきた。 もう一つのポイントは、メールやブログを駆使し た顧客づくりをしていることだ。買い上げの際に携 帯電話かパソコンどちらかのメールアドレスを聞い ンターネットを使用して国外のサイトから商品を購 入している人) 」に関する統計が掲載されている。 それによると、この 4 カ国の中で日本が 17.8%と最 も低く、逆に最も高いのが中国で 48.1%であった。 ておき、コーディネートやイベント情報をメールす る。コーディネートメールはほぼ月 2 回、イベント 情報は月 1 回が平均だ。顧客によっては「この前お しかも、今後積極的に利用したいとする層は日本 では 2 割程度だが、 中国では 8 割にものぼっている。 買い上げになったものに、こんなアイテムを合わせ たら」 とお勧めのコーディネートを組んでいく。アッ プするコーディネートは、5 人のスタッフたちが一 この動きを受けて、さまざまな動きが出てきてい る。中国ネット販売最大手のタオパオが Yahoo! と提 携し、日中間でネット販売の相互取引サービスを実 繊維トレンド 2011 年 3・4 月号 79 新市場/新製品/新技術動向 施している。中国インターネット検索最大手の百度 は楽天と資本提携し、中国のインターネットショッ 購入しようとは思わないだろう。しかし、それが本 当なのかどうかは分からない。ここが、ネット社会 の恐ろしさでもあり、単純なところだともいえる。ポ ピングモール 「楽酷天」 を開業した。 中国の人々がネッ ト販売で購入するものの 1 位がアパレル製品である ことを考えれば、閉そく感のある日本のアパレル企 イントにいる「カリスマブロガー」をうまく動かして コラボレートすれば、販促活動に役立つからだ。ツ イッターはブログよりさらに短い発信だが、 「電車の 業はぜひともこれらの動きに乗ってネットショップ を開きたいところであろう。中国市場は実店舗を展 開するには法律関係も含めかなりハードな環境だか 中でも、喫茶店にいても、つまりどこでも」発信で きるこのツールもまた、消費を左右する一面を持つ。 さて、すでに実店舗はネット販売と相反するもの ら、 「小資本で済むし、とりあえず様子を見たい」と いう中・小規模の企業には最適かと思われる。決済 や発送など、まだ完全に整備されているわけではな ではなくなったと述べた。しかし、ファッション商 品を購入する人々の財布から構成されるファッショ ン市場全体の大きさが劇的に拡大するはずもなく、 いが、今後早い時期に整えられていくだろう。 キーとなるブログとツイッター 多様な変化を遂げている E コマース市場。市場規 模自体は今後数年で拡大が止まるだろうが、変化は 「共存」するが「急成長」しないということにはな るだろう。そして、 「お客さま」に実店舗に足を向 けさせる要因こそが、マンパワーであり、接客の力 であると考える。 「平成 21 年通信利用動向調査の結 まだまだ続いていくと思われる。そのキーとなるの が、ブログとツイッターである。 「クチコミ」がネッ トの世界から始まって消費の大勢を決するようにな るかもしれない。誰でも、 「この商品はひどい、使い にくい」とたくさんのブログに書かれているものを 果」の調査によっても、消費者はすでに購入ポイン トを「安さではない」と考えていることが分かる。 実店舗については、顧客対販売員という原点に返っ て、顧客づくりを考える必要があるだろう。 図表 8 各国消費者の越境 EC 利用率(日本・米国・中国・韓国) 0.0% 日本 10.0% 20.0% 30.0% 40.0% 50.0% 70.0% 90.0% 100.0% 74.6% 25.4% 中国 51.9% 48.1% 韓国 80.0% 82.2% 17.8% 米国 60.0% 70.6% 29.4% 利用している 利用していない 出所:平成 21 年度我が国情報経済社会における基盤整備(電子商取引に関する市場調査)報告書 平成 22 年 7 月 経済産業省 図表 9 各国消費者の越境 EC の今後の利用意向(日本・米国・中国・韓国) 0% 10% 日本 2.3% 18.2% 米国 11.4% 5.2% 中国 20% 30% 18.1% 50% 60% 70% 80% 31.2% 37.3% 29.7% 韓国 4.5% 40% 20.0% 積極的に利用したい あまり利用したくない 16.2% 100% 30.1% 26.0% 49.7% 43.1% 90% 13.8% 27.8% 4.6%2.2% 8.4% 機会があれば利用したい どちらともいえない まったく利用するつもりはない 出所:平成 21 年度我が国情報経済社会における基盤整備(電子商取引に関する市場調査)報告書 平成 22 年 7 月 経済産業省 次号では、設立 10 周年を迎える原糸・原綿 EC 取引きサイト(ファイバーフロンティア)の事例を紹介する。 80 繊維トレンド 2011 年 3・4 月号