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プロジェクト研究 I チーム シーガル 「リクルートの創発力の源泉」

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プロジェクト研究 I チーム シーガル 「リクルートの創発力の源泉」
プロジェクト 研究 I
チーム シーガル
「リクルートの創発力の源泉」
2009年9月12日
樫
健太郎
原
義忠
美濃 啓貴
2009/10/30
プロジェクト研究 I
1
目次
1.本研究のテーマとリクルート選定理由
2.トップの変遷と創発力への影響
3.トップ、ミドル、創発的インフラの関係性
3-1歴史
3-2ホットペッパー開発ストーリー
3-3 ホットペッパー開発ストーリーとリクルート関連記事レビューからの考察
3-4 OBインタビュー調査
3-5 ミドルの創発的行動のモデル化'仮説(
4.先行研究への展開
4-1,2先行研究への展開
4-3文化×組織プロセス
4-4トップとミドルの関係
5.結論
2009/10/30
プロジェクト研究 I
2
1 本研究テーマならびにリクルートを選定した理由
株式会社リクルート'以下、同社という(は『人材輩出企業』と称されて、久しい。現に、
多くのOB・OGが現在も活躍している。
創業以来の沿革を辿ると、リクルート事件やダイエー傘下入りなど大きな変革期を体
験している。しかし、同社では、企業理念'私たちは常に社会との調和を図りながら
新しい情報価値の創造を通じて自由で活き活きした人間社会の実現を目指す(や経
営の三原則'新しい価値の創造・個の尊重・社会への貢献(のもと、自分の頭で考え
行動するという『リクルートマンシップ*』を抱き続け、世の中に影響を与えるほどの事
業を持続的に生み出している。この『リクルートマンシップ』は、リクルートで共有され
た価値観・信念であり、創業者江副氏の想い、そして困難を乗り切ってきたトップの
想いでもある。
〈*:「リクルートという奇跡」藤原和博著'2005年(より引用〉
我々は、本研究で、リクルートが世の中を変えるほどに影響を与えている事業を持
続的に生み出す力を「創発力」と定義する。
リクルートには、創発力をもったミドル'以後、創発的ミドルという(が存在し、さらに創
発的ミドルを生み出す創発インフラ'創発力を生み出すような土壌を持った組織(が
持続的に形成されていると考えた。
なぜなら、創発的ミドルが去った後も、次の新たな創発的ミドルが創発力を発揮し、
創発的行動を実践している同社は、我々の研究テーマを達成する上で、有効である
と判断し、対象企業として選定した。
2009/10/30
プロジェクト研究 I
3
2 トップの変遷と創発力への影響
年号
1960-1988
1988-1997
1997-2003
2004-
トップ
江副浩正
位田尚隆
河野栄子
柏木斉
ミドル(代表的)
【60年代入社組】 【70年代入社組】
大沢武志(日本心理学 藤原和博(和田中学)
協会理事)
倉田学(伝説の編集者)
位田尚隆(後社長)
松永真里(iモード)
河野栄子(後社長)
【80年代入社組】
平尾勇司
【90年代入社組】
藤井大輔(R25)
トップとミドルの関
係
トップとミドルとの
友人的信頼感
後のロールモデル
となるカリスマミド
ルの発生
合議制への移行
次期社長レース
社内派閥?
創発力の火種
江副氏のオーナー
的リーダーシップ
位田氏の人望と
事件への反発心
、Human AD
河野氏への反発
復活への希望、ダ
イエーのノウハウ
中途採用とM&A
外部へ活路
OUTPUT
住宅情報
とらばーゆ
ゼクシィ
じゃらん
ホットペッパー
R25
時代背景
創業から急成長
リクルート事件
企業変革の要求
借金1兆7000億
コスト圧縮の要求
M&A・提携
新規事業の要求
2009/10/30
プロジェクト研究 I
(ホットペッパー)
柏木斉(現社長)
4
3-1 リクルートの歴史
リクルートの沿革の概略は下表の通り。特徴的なこととして、
①非上場・社員持ち株会が最大株主②社会的な問題を起こし信用を失ってからの復活
③わずか10年で1兆4000億円の負債返済④数年ごとにトレンド的な新商品を生み出す
年代
出来事
1960年
江副浩正が大学新聞広告社を創業 63年㈱日本リクルートメントセンター創業
1962年
『企業への招待』創刊(後のリクルートブック、現在のリクナビ)
1976年
『月刊住宅情報』創刊(後の週間住宅情報、現在の住宅情報タウンズ)
1980年
『とらばーゆ』創刊 女性の転職を示す言葉として流行語になる
1981年
本社ビルリクルートG8を建設 この頃金融事業、不動産事業を強化
1983年~
新規事業提案制度RING開始 90年からNew-RINGへ
このRINGから84年のエイビーロード、カーセンサー。90年のじゃらんなどの情報誌が生まれる
1985年
情報通信事業へ進出
1988年~94年
リクルート事件。2代目位田社長就任。ニューリクルート30委員会を発足し企業理念の再構築。89年には新
規事業開発室が設置される。92年にダイエー傘下入り。94年には関連子会社の負債を受け1兆4000億円の
負債を抱える。
1993年
『ゼクシィ』創刊 CMが話題に
1997年~
3代目河野社長就任。人事制度を大幅に見直しコストダウンを図る。リストラ女帝との異名も。2003年にわず
か10年で借金返済完了。
2000年
『ホットペッパー』創刊
2003年~
4代目柏木社長就任。M&Aによる新規事業展開を加速。海外進出にも積極的。
2004年
『R25』創刊 お化けフリーペーパーに
2009/10/30
プロジェクト研究 I
同社ホームページより作成
5
3-2 ホットペッパー開発ストーリー
■ケース選定の理由
・リクルートが毎年1000億の借金返済に追われていた時期の新規事業'ほぼ投資無し(
・サンロクマルという失敗事業からのスタート'7年間36億の累積赤字(
・短期間で大変革し、高収益化'4年で売上300億、営業利益100億(
・クーポンをゲットして食事に行くという新たなライフスタイルを創出
・日本における初のフリーペーパー事業の成功
・梅モデル'低価格‐高差別化(を生み出し、後のタウンズ、タウンワークに生かされる
・組織構成員の85%が非正社員'CV職採用という新たな人事制度の構築(
■事業成功の五つの要因
・明確な事業コンセプト→狭域ビジネス=生活圏
・商品、サービスの工夫とアイディア→クーポンと写真とキャッチ
・選択と集中の売り方開発→半径2キロ、飲食店、1/9三回連続
・効率的、効果的な強い組織→3年の契約社員、エンゲージメント
・自分で考え、決め、行動する事業リーダー→49名の版元長
尚、この分析は『Hot Pepper ミラクル・ストーリー』平尾勇司著'2008年(を元に作成しています。
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プロジェクト研究 I
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3-3
ホットペッパー開発ストーリー&リクルート関連記事レビューからの考察
■分析手法
70個の重要
だと思われ
る記述を抽
出→言語化
42個の重要
だと思われ
る記述を抽
出→言語化
我々の仮説モデルに当てはめ、
トップ、ミドル、創発的インフラ、触媒に集約
ホットペッパーの使命は、「クーポン文化を醸
成しデフレスパイラルを止めて日本の街を元
気にする」と定義した
明確な事業ビジョン'A-12(
「HotPepperミラクル・ストリーより」
「優秀な人材を採用し、実践を通じて厳しく訓
練する。そうすれば、トップが細かいことまで
口出ししなくても、会社はうまくいくと考えてい
る。」
優秀な人材の採用を重視'B-2(
日経ビジネス1970年9月7日号'江副社長インタビュー(
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プロジェクト研究 I
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3-4 リクルートOBインタビュー調査
今回3名のリクルートOBにインタビュー調査を実施。時間的な制約もあり、今回はキャリアやタイプ
の対極的なお二人の方にまずインタビューを実施。その後、『HotPeppearミラクル・スートリー』の
著者である平尾氏にインタビューを行った。
A氏
国立大文系卒
江副期に新卒で入社し柏木期に退職して現在はコンサルティング会社を経営
リクルートでは主にライン部門のミドルを勤めた
'スタッフ部門の経験、子会社出向経験もあり(
A氏の印象:ホットでハートフルな印象であり、内発的動機付けが高い印象。
B氏
国立大理系卒
位田期に新卒で入社し河野期に退職して現在は大手人材派遣会社の取締役
リクルートでは主にスタッフ部門のミドルを勤めた
'ライン部門の経験、子会社出向経験もあり(
B氏の印象:クールでクレバーな印象であり、外発的動機付けが高い印象。
平尾氏
2009/10/30
ホットペッパーミラクルストーリーの著者であり、事業部長としてホットペッパー事業を
成功させた平尾勇司氏本人へもインタビュー出来た。
著作への記載内容は事実であり、成功要因を全て公開していることが確認された。
平尾氏は香川大学卒、江副期に入社し柏木期に役員退任。現在は経営コンサルタント
プロジェクト研究 I
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3-5
リクルートのミドルの創発的行動のモデル化'仮説(
ケースや関連記事そして、OBインタビューを通じて、リクルートでは全社をあげて「採用」活動を実践しており、
その上で「リクルートマンシップ」を具現化できる人材を確保し、さらにOJT'「お前はどうしたい?」「その事業
は、リクルートらしいのか?」など(や徹底した情報共有によって、強固な社内ネットワークを構築していると考
えられる。そして、同社ミドル社員が抱く「哲学」「独自性・自立性」が尊重される文化が存在する一方で、優秀
な人材がさまざまな情報共有のシステムにより、単なる個性の強みの集合ではない、「企業としての強み」を
形成していると考えられる。
リクルートのミドルの創発的行動を誘引する仕組み
自社の強みの定義
リクルートマンシップ
「仕組み化」
触媒 A
トップの強いリーダーシップ
共有された「採用」
への価値観
明確 自信
一貫性 期待
'リクルートマンシップを
具現化できる人材の確保(
創発的インフラの形成
創発的ミドル
誇り
意欲
信念
自負
触媒 B
組織文化
組織構造
組織プロセス
人事システム
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強固な
社内ネットワーク
'OJTや徹底した情報共有(
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4-1 先行研究への展開-創発的インフラの形成
組織の構成要素および創発的インフラの定義については、河合'1996(の定義を使用。
【'広義(組織文化】
リスクテイク、チャレンジングな風土
【組織構造】
フラットな組織、意思決定経路短縮
【組織プロセス】
出来るだけ権限委譲、自律的意思決定
【人事システム】
業績主義的な報酬制度
組織構造
組織プロセス
組織文化
人事システム
1
【組織文化】
チャレンジングな
風土
内発的動機付け
2
【組織文化】
チャレンジングな
風土
社内ベンチャー
3
【組織文化】
チャレンジングな
風土
2009/10/30
×
【人事システム】
業績主義的な報酬
制度
外発的動機付け
×
【組織構造】
フラットな組織
フラット組織
【組織プロセス】
自律的意思決定
知識創造
プロジェクト研究 I
学習する組織
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4-2 先行研究への展開-トップとミドルの関係
4
トップ
ミドル
「パワー」
5
トップ
ミドル
「代替機能」
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4-3-1 先行研究への展開
組織文化×組織プロセス
3
【組織文化】
チャレンジングな
風土
×
知識創造理論-SECIモデル'1(
【組織プロセス】
自律的意思決定
知識創造
学習する組織
リクルートでは、常日頃、社員同士で膨大な量のコミュニケーションを交わす
場を自らが設定し、互いに持ちうる知識や情報を融合させることで、新たな知
識・知恵を創造することが可能となっている。また、この過程を経ることが、リ
クルートの持つ独自の『リクルートマンシップ'暗黙の仮定(』の形成に役立っ
ていると考えられる。
そこで、この仮説に基づき、「知識創造理論」「学習する組織」の先行研究への展開
を図る。なお、組織文化との関係性については、組織文化の統一的定義はなく、また
広範囲にひろがっているという認識のうえで、組織文化の形成にも役立つと考えた。
【組織文化に関する先行研究レビュー】
「文化の本質はこのような集団として獲得された価値観、信念、仮定であり、組織が繁栄を続けるにつ
れてそれらが共有された当然視されるようになったものである。」
「文化、特にその本質を操っているのは、学習され共有された暗黙の仮定である。」
「文化が最も明らかに表現されるのは、共通の言語および考え方においてである。」
「組織における文化にまつわる仮定は、組織内の人と人とのつながり方をめぐって育まれてきたもので
あるのに間違いないが、人と人とのつながり方は文化がカバーするほんの一部に過ぎない。」
'以上、E.H.シャイン,2004(
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4-3-2 先行研究への展開
組織文化×組織プロセス 知識創造理論-SECIモデル'2(
•「訊く」ことからOJTの場が生ま
れ,一緒に考えることで共体験
を得ることができる。
•インフォーマルな勉強会,プロ
ジェクトの自然発生による暗黙
知の共有化が図られる。
暗黙知
共同化
表出化
Socialization
Externalization
暗黙知
•「伝説的の営業マン」の存在,
彼らをサクセス・ストーリー'形式
知(や行動をロールモデルに,自
身の体験へと昇華していく。ロール
プレイによる形式知の体化。
•新規事業コンセプト:「リクルート
でやる意味があるのか?」
•ホットペッパー事業の使命は,
「日本の街を元気にする」等であ
る。事業の意味や価値を明らか
になると,それは影響力になる。
形式知
内面化
連結化
Internalization
Combination
形式知
•異なる形式知を組み合わせる
場として,リクルートでは,「リク
ルート・ビジネス・カレッジ」が存
在する。そこでは,事業創造の
ための形式知の交換が行われ
ている。
リクルートでは,日常的に自然発生する場の創造や熱い議論が行われている。
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プロジェクト研究 I
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4-4-1 先行研究への展開
トップとミドルの関係 -「パワー」の存在
4
ミドル
トップ
「パワー」
トップとミドルの間で、リーダーシップが適正に作用するためには、ミドルがトップの要求に応え、トップのビジョン
にコミットされるためのパワーが必要となる。
French&Raven'1959(は、リーダーのパワーの源泉'Potential Power(を5つ'下表①~⑤(に定義した。
また、Yukl&Falbe'1981(は、①~⑤に加えて、⑥、⑦が存在するとしている。
パ
ワ
ー
の
源
泉
①「報酬的パワー」'reward power(
: 報酬を与えることができる力。-金銭的報酬とは限らない
②「強制的パワー」'coercive power(
: 服従しないと罰を受けるなど強制力を行使できる力
③「正当的パワー」'legitimate power(
: 組織から公式に与えられている正当な権利・権力
「上司」と「部下」など形式上の関係
④「準拠的パワー」'referent power(
: 同一視。そのリーダーのようになりたいと思わせる人間的な力
⑤「専門的パワー」'expert power(
: 知識や技能など特定の専門能力による影響力。特に問題解決能力
⑥「情報統制パワー」'control over information(
: 情報をコントロールする力
⑦「説得力パワー」'persuasiveness(
: 論理性に基づく説得力
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プロジェクト研究 I
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4-4-2 先行研究への展開
トップとミドルの関係 -パワーから見たリクルートのリーダーシップスタイル
リクルートにおけるリーダーシップでは、種々のパワーが機能しており、そのいずれもが有効に機能してい
ると言える。イメージよりも「報酬的パワー」「強制的パワー」が機能するシステムが存在している。
「トップ」がシステムを通じて
有するパワー
ミドルが「仕事(実績)」を通じて
有するパワー
報酬的パワー
準拠的パワー
事業を成功させた人材に「よい仕事」、
「高い報酬」が与えられ、社外での活
躍の場も広がることなどを通じて、ミド
ル-若手のOJTが有効に機能する
ためのパワーが付与される。
強制的パワー
事業レベルにおけるトップのリーダー
シップはそれほど目立たないが、トッ
プは「システム」を通じてミドルに対し
てリーダーシップを発揮できるパワー
を有している。
正当的パワー
「リクルートマン」である
ことの前提条件
それほど強調されず?
情報統制パワー
専門的パワー
説得力パワー
いわゆる「専門職」的な職務に魅力を
感じているというよりは、ゼネラリスト
志向が強い?
採用・育成において「能力の高い人
材」の育成には徹底的なこだわりが
ある。
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5 結論-本研究の結論
前述の「仮説モデル」に先行研究等を反映させたところ、我々は同仮説モデルに対して一応の
結論を見出すことができた。
リクルートは、「自由なイメージ」とは異なり、実際にはさまざまな公式なシステムが合理的に組
み込まれており、そのバランスの良さと不整合の少なさが創発性の源泉であると言えるのでは
ないだろうか。
リクルートのミドルの創発的行動を誘引する仕組み'再掲(
自社の強みの定義
リクルートマンシップ
「仕組み化」
トップの強いリーダーシップ
明確 自信
一貫性 期待
創発的インフラの形成
組織文化
組織構造
組織プロセス
人事システム
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触媒 A
創発的ミドル
共有された「採用」
への価値観
'リクルートマンシップを
具現化できる人材の確保(
触媒 B
誇り
意欲
信念
自負
強固な
社内ネットワーク
'OJTや徹底した情報共有(
プロジェクト研究 I
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