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成瀬 正樹:スーパー・ギタリスト・ファイル09
成瀬正樹:スーパー・ギタリスト・ファイル ギターを演奏する人なら誰でも憧れるスーパー・ギタリスト。彼らがスーパーである所以は、その華麗なるテク ニックだけではありません。ギター本体やアンプ・セッティング、そしてエフェクターなどによって作られるギ ター・サウンドそのものが魅力的であるからこそスーパーなのです。Reason 4 にはそうしたギター・サウンド をシミュレートするためのギアが豊富にそろっています。本セミナーでは、スーパー・ギタリストたちのサウン ド・メイクをアナライズしつつ、それを Propellerhead の Reason 4 によって再現することを試みてみましょ う。 第 9 回:マイク・スターン ( 2009 年 6 月 30 日 ) 「ライク・サムワン・イン・ラヴ」 スーパー・ギタリストのサウンドをアナライズし、シミュレートにチャレンジする本コーナー。今回は、6月にランディ・ ブレッカー(tp)、デイヴ・ウェックル(dr)、クリス・ミン・ドーキー(ba)らとエネルギッシュで素晴らしい来日ライ ブをブチかましてくれた(僕も行ってきました♪)、マイク・スターンをピックアップです。取り上げるのは、ジャズ・ス タンダード曲に取り組んだ意欲作である『スタンダード(原題は『Standards and other songs』)の1曲目、 「ライク・ サムワン・イン・ラヴ」。アルバムの冒頭から美しいトーンを響かせてくれるあの曲ですね。 『スタンダード』は、マイルスのバンド参加以降、いわゆる“フュージョン・ギタリスト”的なスタイルでソロ・アルバ ムを着実に積み重ねてきたマイクが、コンテンポラリー・ジャズ・ギタリストとして改めて高く評価されるきっかけとも なった、エポック・メイキングな作品です。もちろんそれ以前からも、さまざまなジャズ・アーティストの作品への参加 でのプレイや、ニューヨークの 55bar で連夜のように行われているスタンダード・セッションなどで、マイクがクリーン・ トーンのみでバップを弾かせてもメチャクチャ巧いことは熱心なファンには知られていました。しかし、やはりそれまで は、「マイルスのバンドにいたロック野郎」的なイメージも根強かったのではないでしょうか(ちなみにここでの“野郎” は親愛が込められての表現かと・笑)」。しかし、本作での素晴らしいパフォーマンスがジャズ・ファンへのより広い認知 を促し、マイクの以後の活動の方向性にも少なからずの影響を与えていったと思います。 そんな記念碑的な作品における、あのふくよかで個性的なクリーン・トーンのシミュレート。チャレンジしてみましょう! ■ピッチ・シフター活用によるステレオ・サウンド さて原曲のサウンドのアナライズ。機材面をチェックしつつ、あわせてサウンドそのものもイメージしていきましょう。 使用ギターは、当時はまだ YAMAHA Pacifica のマイク・スターン・モデルに移行する前で、フロントにダンカン JB-59 を搭載したテレキャスターです。今回取り上げるクリーン・トーンでは、このフロント P.U.を使用しているワケですね。 またこのギターはピックアップ交換のほかにも、ブースターの内蔵(壊れてオンになったまま)、6ウェイ・テイルピース への交換などいろいろと手が加えられていて(ネックとボディも違うものらしいです)、テレキャスらしからぬファットな サウンドを持っていました。ただ、テレキャスらしからぬ、、ではありつつも、やはりどこかテレキャス的なトーン要素も 感じられるというのは、ギターのボディ形状の持つサウンド面での意味の大きさを、改めて感じさせられたりします。 次にエフェクター&アンプ。マイクのサウンド・バリエーションには、必殺の歪み(BOSS の DS-1 使用)、特に初期の 頃に聴かれたサウンド・エフェクト的なオクターバー(これも BOSS)、そして盛り上がった時の飛び道具的ロング・デ ィレイ(BOSS の DD-3)などもありますが、今回はあくまでもクリーン・トーン時に絞って話を進めましょう。ギター からはまず、コンパクト・エフェクターのディレイ(BOSS DD-3:ライブでは前出の DD-3 と合わせて2台を接続)に つながります。これはオンにしっぱなしで、400ms 前後ほどの、ちょっと長めのスラップ・ディレイとして用いていま す。そして次に空間系ラック・エフェクター(YAMAHA SPX90)につながり、ピッチ・シフターによる微ピッチ・チ ェンジで(SPX90 の単位で 7∼8 セントほど)ステレオ・コーラス効果を与えています。この際のダイレクト音とエフ ェクト音のミックス・バランスはエフェクト音が 75%ほど(!)。コーラスなどを掛ける際、サウンドの変化がイヤラシ クならない程度の薄めを意識して掛ける人も少なくないのではと思いますが、マイクの場合はもう容赦なし。ドッカーン って感じで思いっきりエフェクトを掛かけているようです。この、ピッチ・シフトによるステレオ化&濃厚なコーラス感 が、マイクのクリーン・トーンのキャラの“決め手”と言えるものでしょう。 ピッチシフターでステレオ化された信号は、EV(エレクトロ・ヴォイス)のスピーカーがはめ込まれた YAMAHA の G100-212 と、ピアスの G1(または G2R)の、2台のアンプにつながれて出力されます。ちなみに先日のライブでは レンタルの Twin Reverb を2台使っていました。あとクリニックなどでは、その会場で用意されるアンプを用いたりする ようですね。アンプのセッティングは、ライブなどで確認したところほとんどオール5(ツマミが真ん中辺り)。またアン プのリバーブは使っていないようです。 以上がクリーン・トーンでのマイクのセッティングです。機材面を中心に色々と述べてみましたが、エフェクト面を要約 すると、ディレイ(スラップ)とピッチシフターによるコーラス効果(ステレオ)」だけです。インプロヴァイズをそのま ま収録することに意義のあるジャズ・アルバムでのプレイ、そのサウンドもやはり基本、シンプルです! あと、マイク の機材では掛けていないと思いますが、ミックス時に施したであろう、ほどよいスペースを感じさせる上質なリバーブも 掛かっています。シミュレートする際にはこの部分も押さえておきたいですね(ミックス時に付加ももちろんアリ)。 ■エフェクターを贅沢に用いて完全ステレオ化! さあ、シミュレートです。マイク本人の機材は前述したようにシンプルですが、PC 上でのシミュレートではそんなことお 構いナシ! 似せられるのならば思いっきりエフェクターを活用してしまう、そんな方向で進めていきますね。ではまず いつも通り、NN-XT(サンプラー)を立ち上げて基本となるギター・サウンド探しから。「テレキャスでフロント・ハム バッカー、かつ少々ブーストされたサウンド」があればちょうど良いのですが、さすがにそこまでピッタリのサウンド・ ファイルは見つかりませんでした。はじめにテレキャス系のサウンドをチェックしてみたのですが、マイクのサウンドに 似せるにはやはり“テレキャス過ぎる”感じです。 そこで、トーンの微調整は EQ 等で行うことで割り切り、ジャズ系のサウンドをチェック。その中で、トレブルにハリと アタック感がありつつもふくよかさもある“Jazzy Hall Gt”を見つけて、セレクトしました。次に、ギターに内蔵された ブースターのシミュレートを行うために、SCREAM 4 を立ち上げ“Tape”を選択し、軽ーくブーストをします。また、 ミドルのアタック感が少々強過ぎるように感じたので、同エフェクト内にある【3バンド EQ】をオンにして、ミドルを少々 カット。ここまででだいぶ雰囲気は似てきたのですが、まだファット感が物足りなく感じたので、さらにパラメトリック・ イコライザーの PEQ-2 をつなぎ、ロー・ミッド(350Hz 辺り)をなだらかにブーストします。ここまでが、ギターから のストレートな信号のシミュレートとします。 次に、コンパクト・ペダル・ディレイによるスラップバック・ディレイをシミュレートするために DDL-1 を立ち上げます。 ディレイ・タイムは前述したように 400ms 前後。 【FEEDBACK】は最小で、エフェクト音がフレーズの邪魔にならない ように、エフェクト・レベル(【DRY/WET】)も低めに設定しましょう。ここまでがモノラルです。 さて、次にいよいよピッチシフターによるコーラス効果とステレオ化のシミュレートです。微ピッチ・チェンジは UN-16 で行え、ここからステレオ・アウトさせればもうそれで OK!ではあるのですが、せっかく、ハードウェアと違い使用エフ ェクターの数をフレキシブルに設計できる Reason 4 でのシミュレートです。ここはもう少し凝ってみましょう。まず、 先ほどスラップバック・ディレイにセッティングした DDL-1 の後ろに、もう一台 DDL-1 をつなぎます。この DDL-1 で 超ショート・ディレイを掛けてステレオ化させます。そして DDL-1 のステレオ・アウトの L と R にそれぞれ UN-16 を つなぎ、2台のデチューンの値を微妙に変えて、広がりと深みのあるサウンドを構築します。 ステレオ化した 2 つの信号はそれぞれ、アンプ・シミュレートをした SCREAM 4 に通して(SCREAM 4 も2台!)、 ミキサーの2トラックをしっかりと用いたステレオ・トラックとして送り込みます。仕上げに、ミックス時に掛けられた リバーブのシミュレートとして、ミキサーのセンド/リターンにつないだリバーブを掛けて完成です! ■セッティングの確認 接続順は“ギター→ブースター(ギター内ブースターのシミュレート)→イコライザー(ギター・トーンの補正)→ディ レイ(スラップバック・ディレイ)→ディレイ(超ショート・ディレイによるステレオ化)→L と R それぞれにユニゾン (微ピッチシフトのシミュレート)→L と R それぞれにアンプ(ギター・アンプのシミュレート)→ミキサー”で、ミキ サーのセンド/リターンに“リバーブ”なので、「NN-XT→SCREAM 4→PEQ-2→DDL-1→DDL-1→UN-16(×2) →SCREAM 4(×2)→Mixer(+RV7000)」となります。 今回はこの 1 つの音色に対して、結果的にですがかなりのエフェクター数を用いてみました。 エフェクター組み合わせのシミュレートが自在な Reason 4 ならではの、贅沢なセッティングですね! NN-XT ハリとふくよかさのある“Jazzy Hall Gt”を選択。 Scream 4 【DAMAGE CONTROL(歪み)】は抑え気味にする。パッチは“70s Lofi”で、 [Tape]を選択。 【SPEED】、 【COMPRESSION】は共に 12 時辺りに設定。イコライザーはオンで、 【MID】を少し下げて【LO】を少々 上げる。【BODY(共鳴)】はオフ。 PEQ-2 バンドのみ使用。350Hz 辺りをなだらかな[Q]でブースト。 DDL-1 ディレイ・タイムは 400ms。【FEEDBACK】は最小で、【DRY/WET】も低めで“8”ほど。 DDL-1 ディレイ・タイムは 10ms くらい。【FEEDBACK】は最小で、【DRY/WET】は最大。 UN-16(×2台) 【VOICE COUNT】を少なめの“4”にし、【DETUNE】は一方を“12”ほど、もう一方を“18”ほどに 設定。【DRY/WET】は 75%ほどと高めに設定(マイクの SPX の設定に倣った数値)。 RV-7000 リバーブ・タイプは“ALL 1st Room”を選択。 【EQ Enqble】をオンにし、 【Decay】を 12 時、 【HF Damp】 を9時、 【HI EQ】を 12 時くらいに設定。 【DRY/WET】は WET 側に振り切り、ミキサー側でリバーブの量 を決める。ミキサーの【RETURN】は 100、【AUX(センドの量)】は 45 ほど。 では、ここまでの接続と設定を、Reason 4のパネルで図示しておきましょう(図 1/図 2)。 図1 フロント・パネル 図2 リア・パネル