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第3節 アメリカ経済

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第3節 アメリカ経済
第3節 アメリカ経済
アメリカ経済は、2009年6月より景気回復局面に入ったが、11年夏頃には連邦債務の
法定上限問題に直面し、一時、緊張が高まり株価の下落や消費者や企業のマインド悪化
がみられたほか、雇用の回復の遅れやガソリン高等により個人消費が減少するなど回復
テンポが緩やかとなった。しかしながら、11年後半から12年前半は、雇用者数の増加や
消費の持ち直しといった動きがみられ、世界経済が引き続き欧州政府債務危機で動揺す
る中にあって、全体として緩やかに回復している。
本節では、アメリカ経済の景気回復の持続性と今後の中長期的な成長の姿について分
析する。
1.アメリカ経済の成長力
(1)アメリカ経済の現状
世界金融危機発生後に落ち込んだ実質経済成長率は、その後の景気刺激策等により順
調に回復したものの、10年後半から11年前半にかけて回復テンポが緩やかとなった(第
2-3-1図)
。この様子を供給側、需要側の各指標から概観すれば、景気の山からの落ち込
みが大きい上、過去の景気回復局面と比べて回復の動きは緩慢である。そうした中、実
質GDPや個人消費等の一部の指標については、ようやく世界金融危機前の水準を回復
し、景気に明るさがみられるようになった(第2-3-2図)
。12年以降も、雇用者数の伸び
は鈍化しつつも増加を続けており、また、個人消費も持ち直しが続いていることから、
景気の緩やかな回復が続くものと考えられる。一方で、このところ低下してきているも
のの依然として失業率は高い水準にあるほか、住宅価格は低水準にあり家計のバランス
シート調整が継続していることから、安定した個人消費の伸びはまだ期待できない。ま
た、政府は財政再建を喫緊の課題として取り組んでおり、政府支出の減少が景気下押し
要因となるリスクも内在している。
第2-3-1図 実質経済成長率の推移:12年以降も緩やかな回復が続く
(前期比年率、%)
6
実質経済成長率
最終需要の伸び
3.0
4
1.8
0.4 1.3
2
2.2
在庫投資寄与
住宅投資寄与
個人消費寄与
0
民間設備
投資寄与
純輸出寄与
政府支出寄与
-2
-4
-6
-8
-10
Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 (期)
2008
09
10
11
12 (年)
(備考)アメリカ商務省より作成。
135
第2-3-2図 現在の回復局面における各種経済指標の動き:
GDPや個人消費は危機前の水準を回復
(景気の山=100)
非農業雇用者数
(景気の山=100)
1981年7月
108
1981年7月
112
1990年7月
106
108
1990年7月
104
102
104
100
100
98
2001年3月
96
96
92
94
2007年12月
92
88
2007年12月
2001年3月
-30-24-18-12 -6 Y 6 12 18 24 30 36 42 48
-30-24-18-12 -6 Y 6 12 18 24 30 36 42 48
鉱工業生産
実質売上
(景気の山=100)
(景気の山=100)
116
116
1981年7月
1990年7月
112
112
108
108
1981年7月
104
1990年7月
104
2001年3月
100
100
2001年3月
96
96
92
92
88
88
2007年12月
84
-30-24-18-12 -6 Y
(景気の山=100)
6 12 18 24 30 36 42 48
実質GDP
1981年7月
120
84
2007年12月
80
-30-24-18-12 -6 Y
(景気の山=100)
124
6 12 18 24 30 36 42 48
実質消費
1981年7月
120
115
116
2001年3月
110
2001年3月
112
105
1990年7月
100
108
104
95
2007年12
1990年7月
100
90
96
85
92
80
実質所得(移転所得除く)
116
110
2007年12月
88
-30-24-18-12 -6 Y 6 12 18 24 30 36 42 48
-18
-12
-6
Y
6
12
18
(備考)アメリカ商務省、アメリカ労働省、連邦準備制度理事会(FRB)より作成。
(2)潜在成長率の低下
アメリカの潜在成長率は2000年代に入るまでおおむね3%超で推移していたが、2000
年代に入り低下傾向をたどり、11年には1%台半ばとなっている(第2-3-3図)
。これを
寄与度分解すると、90年代以降のIT投資拡大により全要素生産性(TFP)の寄与が
拡大する一方、90年代と比較して2000年代には労働、資本の寄与が半分程度に大きく低
136
下していることが影響している。
議会予算局(CBO)によれば、12年以降、潜在成長率はやや持ち直し、2%台後半
になると考えられているが、内訳をみると、資本の寄与がやや回復するものの、労働、
TFPは現在とほぼ同程度であり、労働の寄与が低調なまま推移すると考えられている。
資本については、ITバブル崩壊や世界金融危機を受けて資本ストックの伸び率が低下
しているものの、景気の回復による設備投資の増加を受けて、将来的にはやや回復する
と考えられる。労働については、長期失業によりスキルを喪失した者は職を得るのが難
しいことや、高齢化の進展により労働力人口の増加率の低下が見込まれることなどから
低調に推移するものと考えられる。TFPについては、国内における企業のR&D投資
の縮小といった懸念はあるものの、おおむね現在の水準を維持するものと考えられる。
第2-3-3図 潜在成長率の推移:2000年代に入り低下
(1)潜在GDP成長率の推移
(%)
6
(2)潜在GDP成長率の寄与分解
(%)
6
5
民間部門
4
4
3
3
2
2
全部門
1
0
1950
(見通し)
5
潜在GDP成長率
TFP寄与
資本寄与
1
労働寄与
60
70
80
90
00
0
10(年)
1950 1974 1982 1991 2002 2012 2018
(年)
1973 1981 1990 2001 2011 2017 2022
(備考)アメリカ議会予算局より作成。
2.経済の構造変化と成長の持続性
このようにアメリカ経済は緩やかな回復を続けているものの、経済成長の持続性に
ついては依然として確固たる回復の見通しを持てない状況にある。12年前半時点で緩
やかな回復局面にある経済状況及び経済成長の持続可能性を検証し、今後の中長期的
な経済成長の姿を考察するために、供給面について労働と資本という観点から、需要
面について家計と政府という観点から、順に分析していくこととする。
(1)供給面の考察
(i)労働
(ア) 労働力となり得る人口そのものの増加率低下
労働については、はじめに人口の構造からみていく。アメリカでは、人口増加率
137
の低下や高齢化の進展を背景に、労働力人口の増加率が低下している(第2-3-4図)
。
人口は、1960年には年率2%程度で伸びていたが、2010年には同1%程度にまで伸
び率が低下している。その一方で、高齢化が進展している。人口ピラミッドの形が
示す通り、ベビーブーマーの高齢化の影響もあり、全人口に占める65歳以上の割合
を示す高齢化率は上昇し、10年には13%に達している。その結果、労働力人口の伸
び率は2000年からすでに人口増加率を下回り、10年には年率0.5%を割る水準まで低
下し、潜在成長率の押し下げ要因になっていると考えられる。今後についても、国
勢調査局の見通しでは、人口増加率が同1%程度で推移すると見込まれており、高
齢化も進展している。また、CBO1によれば、12年∼21年の人口増加率の平均値は
同1.1%と1948年∼2011年の平均値同1.4%から低下する見込みであり、労働人口の
増加率がさらに抑制される状況が続くと考えられる。
第2-3-4図 アメリカの労働力人口等の推移
:人口増加率の低下や高齢化により労働力人口の増加率が低下
(1)人口増加率と労働力人口増加率
(億人)
(%)
労働力人口増加率
(年率換算値、右目盛)
5.0
2.5
4.5
2.0
4.0
3.5
1.5
3.0
人口増加率
(年率換算値、右目盛)
2.5
1.0
2.0
1.5
0.5
1.0
総人口
0.5
1950 60
70
80
90 2000 10
20
30
40
0.0
50 (年)
(備考)1.アメリカ国勢調査局より作成。
2.2020年以降はアメリカ国勢調査局の推計値。
(2)人口ピラミッド比較
85∼
80∼84
75∼79
70∼74
65∼69
60∼64
55∼59
50∼54
45∼49
40∼44
35∼39
30∼34
25∼29
20∼24
15∼19
10∼14
5∼9
0∼5
1,500
(女性)
1,000
(男性)
500
(備考)アメリカ国勢調査局より作成。
1
0
(2010年)
(歳)
(2000年)
(歳)
500
1,000
85∼
80∼84
75∼79
70∼74
65∼69
60∼64
55∼59
50∼54
45∼49
40∼44
35∼39
30∼34
25∼29
20∼24
15∼19
10∼14
5∼9
0∼5
1,500(万人)
1,500
(女性)
1,000
(男性)
500
(備考)アメリカ国勢調査局より作成。
CBO(2011)
138
0
500
1,000
1,500(万人)
(イ)スキルや地域のミスマッチなどにより就業ができない者の存在
08年の世界金融危機により失業率は5%台から10%台へと約4.5%ポイント上昇
した。この4.5%ポイント上昇分のうち3.5%ポイントは景気循環によるものだが、
残りの約1%ポイントが構造的な要因によるものとの指摘2がなさなれており、構造
的な要因としてはスキルや地域のミスマッチの存在が考えられる。その他、現在も
延長されている手厚い失業保険給付の存在も失業率高止りの要因とされている。
労働市場のミスマッチの状況を調べるため、欠員率と失業率の関係を示したベバ
レッジ曲線をみると、直近12年1∼3月期の値は欠員率が2.5%程度、失業率が8%
程度となっている。過去のデータに基づけば、図が示すとおり、欠員率が2.5%程度
であれば、失業率は6%程度になっているはずであり、世界金融危機後となる09年
4∼6月期以降は同じ欠員率の水準であっても、過去の水準ほどには失業率が低下
しなくなっており、ミスマッチが拡大している可能性が高い(第2-3-5図)
。
第2-3-5図 ベバレッジ曲線:右上にシフトし、ミスマッチ拡大の可能性を示唆
(%)
11
↑
10
9
失
業
率
12年Q1
8
09年Q1
7
↓
6
5
4
1.5
2.0
←
2.5
欠員率
3.0
3.5
4.0(%)
→
(備考)アメリカ労働省より作成。
アメリカの産業別雇用状況についてみてみると、景気循環に関係なく雇用者数が
増加・減少している産業が存在している。求職率や有効求人倍率等を産業別にみる
と、高スキルが求められる分野は欠員状態にあるものの、スキルがそれほど必要と
されない分野では人が足りている状況になっている(第2-3-6図)
。また、低学歴の
者ほど失業率が高水準であることからもスキルの低さが失業を生む背景となってい
る と 推 察 さ れ る ( 第 2-3-7 図 )。 I M F の ワ ー キ ン グ ペ ー パ ー ( Estevao and
Tsounta(2011))3によればスキルのミスマッチが高いほど失業率は高くなる傾向に
2
3
CBO(2011)
本レポートでは、州ごとのスキルレベル別の需要サイドと供給サイドの人数の差からスキルミスマッチ指数を算出
し、州ごとのスキルミスマッチ指数と失業率の関係を分析している。
139
ある。スキルに対するニーズは高度化・多様化しており、スキルのミスマッチの解
消はより厳しくなっていると考えられる。
第2-3-6図 産業スキル別の欠員数、雇用数、離職数の推移
:高スキル産業は欠員状態、低スキル産業は人が足りている
(1)高スキル産業
(万人)
(2)中スキル産業
(万人)
300
200
離職者数
新規雇用者数
180
新規雇用者数
250
離職者数
160
200
140
150
100
120
欠員者数
欠員者数
50
100
1
4
7 10 1
4
7 10 1
2008
4
09
7 10 1
10
7 10 1 3 (月)
4
11
1
4
(年)
12
7 10 1
2008
4
7 10 1
09
4
7 10 1
10
4
7 10 1 3(月)
11
12
(年)
(3)低スキル産業
(万人)
60
新規雇用者数
離職者数
50
40
(備考)1. アメリカ労働省より作成。
2. 各年月の値は、6か月移動平均の未季節調整値。
3. 産業のスキル分類については、IMF(2011)に基づき、
以下の通り、定義。
高スキル産業:情報サービス、金融、教育・医療、
専門サービス
中スキル産業:製造業、物流・卸売・小売・公益、
レジャー・接客、その他サービス
低スキル産業:鉱業、建設
30
20
欠員者数
10
0
1
4
7 10 1
2008
4
7 10 1
09
4
7 10 1
4
10
7 10 1 3 (月)
11
12
(年)
第2-3-7図 学歴別失業率の推移:低学歴者の失業率の高止まりが続く
(%)
18
16
14
高卒未満
12
10
高卒
8
6
学士未満
4
大卒以上
2
0
1 7 1 7 1 7 1 7 1 7 1 7 1 7 1 7 1 7 1 7 1 7 1 7 14 (月)
2000 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
(年)
(備考)アメリカ労働省より作成。
続いて、地域のミスマッチについては、住宅市場の低迷により保有する家を手放
せず、失業しても職が豊富な地域への引越しができない結果、失業状態が続いてし
まう可能性が指摘されている。例えば、前述のIMFワーキングペーパーでは、ス
キルのミスマッチとともに住宅市場の環境悪化が景気循環要因を差し引いてもなお
140
失業率の押上げに寄与していると推計されている。アメリカ国内における引越し理
由は「職を求めて」というものが一番高い(第2-3-8図)
。一方、引越し率は過去最
低水準にまで低下している(第2-3-9図)
。住宅市場の回復には時間がかかるとみら
れており、地域のミスマッチも長期化する可能性がある。
第2-3-8図 引越しの理由:
第2-3-9図 アメリカ内国での引越し率:
職を理由とするものが一番多い
大きく低下
就職・転職
(%)
20
求職・失業
15
それ以外
職場に
より近い
10
退職
その他
家庭の
事情
その他
職業上の
理由
結婚
5
0
1990
家から
独立
(備考)1. アメリカ国勢調査局より作成。
2. 10∼11年に引っ越しをした106万件のデータを
基に作成。
95
2000
05
11(年)
(備考)アメリカ国勢調査局より作成。
最後に、失業保険については、08年のリーマンショック以降、給付期間の延長が
段階的に決定されてきた4。現在、最も長く給付を受けられる州では99週間に渡って
支給がされている。労働市場の改善が鈍いことから、失業保険給付期間の延長措置
の期限は延長が続けられていたが、12年2月、上下院両院において12年末までの延
長が決定されるとともに、最大給付期間の段階的な短縮化が決定された。12年6月
以降、最長給付期間が段階的に縮小され、9月以降は最長99週間あった給付期間が
73週間まで短縮される。失業保険給付は失業中の所得補償として機能するが、一方
で、給付が長期に及ぶと失業者の就業意欲を抑制するリスクがあると考えられる。
このため、給付期間を短縮する一方で、職業訓練等を通じたスキルアップ等失業者
の就業に向けた支援を実施するという現在の政府の取組が、失業者の就職意欲を高
め、再び安定した雇用への回帰につなげられるかがポイントとなる。
上記のほかにも、海外への産業シフト、アウトソーシング拡大による国内労働需
要の低下5や、企業の雇用コスト上昇(医療、年金負担等)による新規採用意欲の低
下等が労働機会の喪失に影響を与えている可能性がある。
4
内閣府(2011b)
5
内閣府(2011b)
141
(ウ)国際的な高度人材の集中
ここまで、労働力の増加が抑制されることで潜在成長率を低下させ得る要因を挙
げてきたが、一方で、アメリカでは、海外からの大量の専門的高度人材を受け入れ
ており、彼らがイノベーションの盛んな成長産業の担い手となっている側面もある
(第2-3-10図)
。まず、アメリカへの留学生数をみると、堅調な動きが続いている。
このことからも、アメリカの教育面での国際的な優位性がうかがえる。また、高度
人材の短期就労ビザ取得件数をみても、リーマンショック直後の08、09年は大きく
落ち込んだものの、総じて堅調な推移となっている。また、アメリカに長期的に居
付くと考えられる高度人材の移民ビザ(通称、グリーンカード)取得件数について
も、受入れ件数に制限があるため、大幅に増加することがない反面、リーマンショ
ックの影響で大きく落ち込むこともなく、毎年15万件程度で比較的安定的に推移し
ている。
第2-3-10図 海外からの高度人材の受入れ:増加
(1)アメリカへの留学生数
(2)専門性を持った職種のための短期就労ビザの
(万人)
(万件)
80
取得数の推移
50
アメリカへの留学生数合計
70
45
60
40
50
日本
40
カナダ
30
韓国
20
35
30
インド
25
10
中国
0
20
2001
03
05
07
09
10
(年)
(備考)1. UNESCOより作成。
2. 棒グラフは10年の上位5か国の過去10年間の推移。
2001
03
05
(3)グリーンカード取得者の推移
(万件)
25
20
15
10
5
0
2001
03
05
07
09
10 (年)
(備考)1. 2010 Yearbook of Immigration Statisticsより作成。
2. ここでは、雇用関係の移民ビザ取得件数のうち、特別移民、
投資家を除く、卓越技能者、知的労働者、専門職や
熟練・非熟練労働者を指す。
142
07
09
10
(年)
(備考)1. 2010 Yearbook of Immigration Statisticsより作成。
2. 特殊技能を有する職業者とは、学士以上の学位を必要とする科学、
薬学、ヘルスケア、教育、バイオテクノロジー、経営の専門性
といった特定の専門性を持った職種等を指す。
また、本国生まれ及び外国人の全体及び大卒以上の失業率の推移をみると、外国
人の大卒以上の失業率はリーマンショック以前には継続して低下していた。加えて、
直近データとなる2010年の値をみると、本国生まれの全体及び大卒以上の失業率と
外国人の全体の失業率は依然として上昇している一方で、外国人の大卒以上の失業
率は低下している(第2-3-11図)
。彼らの労働市場での需要の高さがうかがえる。
第2-3-11図 本国生まれ及び外国人の全体及び大卒以上の失業率の推移:
外国人の大卒以上の失業率は低下基調
(%)
10
外国人
全体
9
8
7
本国生まれ
全体
6
外国人
大卒以上
5
4
3
2
本国生まれ
大卒以上
1
0
2002
04
06
08
10 (年)
(備考)アメリカ労働省より作成。
アメリカの労働市場は、ミスマッチのある国内からではなく、海外から人材を得
ており、その結果、アメリカには高度人材が集まり、彼らがアメリカ内で活躍する
ことによりアメリカ経済は相対的に優位な経済成長率を維持しているということも
できる。
(ii)資本
アメリカの設備投資は、1990年代の景気回復の中で堅調に増加し、GDPに対する割
合を高めるとともに、資本ストックを大きく増加させた(第2-3-12図)
。しかし、00年半
ば以降、それまで設備投資を牽引してきたIT投資のバブルが崩壊すると、資本ストッ
クの調整局面に入り、その後の金融危機に起因する調整とともに、アメリカの資本スト
ックの伸び率を大きく低下させた。
10年には、設備投資は前年比4.4%増となるなど回復の動きがみられるが、資本ストッ
クの伸び率は引き続き低い。背景には、更新投資の増加に押し上げられて設備投資が回
復する一方、設備投資における純投資の割合が減少していることが挙げられる。投資財
別にみると、構築物投資は、商業用不動産市場の停滞もあり、回復が鈍い一方で、更新
サイクルの短いIT投資や、機器投資は堅調に拡大している(第2-3-13図)
。
143
第2-3-12図 資本ストックの推移:
設備投資に対し資本蓄積の伸びは鈍化
5
(%)
資本ストック
増加率
第2-3-13図 投資種類別の対資本ストック比率:
(%)
設備投資対実質GDP比率
(右目盛)
13
23
21
11
19
3
10
17
2
9
15
8
13
7
11
1
0
構築物投資の回復は遅い
(%)
7
機械設備・ソフトウェア
12
4
(%)
6
1980 82 84 86 88 90 92 94 96 98 2000 02 04 06 08 10(年)
(備考)1.アメリカ商務省より作成。
2.資本ストックは民間非住宅部門の実質資本ストックを指す。
6
5
4
構築物(右目盛)
9
3
1980 82 84 86 88 90 92 94 96 98 2000 02 04 06 08 10(年)
(備考)1.アメリカ商務省より作成。
2.実質ベースの設備投資対資本ストック比率を指す。
次に、資本ストック循環図から、資本のフローとストックの動きをみてみる(第2-3-14
図)
。ストック調整とは、過剰な資本設備が存在する下で新規の設備投資が抑制される過
程のことであるが、
08年から始まったストック調整は、
09年には設備投資を前年比17.8%
減と大幅に減少させた後、急激に進展し、10年には調整局面を脱している。
「設備投資/
資本ストック」比率を横軸にとった循環図をみても、2年間でストック調整が大幅に進
展していることが確認できるが、設備投資が持続的に増加していくためには、今後、企
業の期待成長率が高まっていくことが重要になる6 。企業の期待成長率は、ITバブル
の崩壊とその後の金融危機、二度にわたる調整局面を経て低下しており、11年には1.5%
程度となっている。こうした中で、期待成長率が高まり、企業が適正と考える資本スト
ック水準が増加しなければ、
設備投資の増加局面は短期間で終わることとなる。
この点、
アメリカ民間調査機関52社の平均的長期予測では、
13年以降18年まで、
前年比2.5∼3.0%
と、11年を超える成長率が見込まれている7 。
6
資本係数(資本ストックKをGDPで除したもの)の伸びと資本ストックの除却率を一定と仮定した中期的な状況
においては、ある一定の期待成長率に見合った点を並べると双曲線が描けるという関係がある。そのため、双曲線
に対し左方へシフトしていくことは期待成長率が低下していることを示唆している。
7
ブルーチップ・インディケーター(12 年3月号)より。
144
第2-3-14図 資本ストック循環:ストック調整が進展
(1)設備投資と資本ストック
(2)資本ストック循環と期待成長率
(%)
(%)
15
15
12
12
9
9
実質設備投資︵前年比︶
実質設備投資︵前年比︶
10年
6
45度線
3
0
-3
-6
-9
02年
-12
96年
11年
6
10年
3
3.0%
0
-3
02年
-6
2.0%
-9
期待成長率:
1.0%
-12
-15
-15
09年
-18
0
1
09年
-18
2
3
資本ストック(前年比)
4
5
7.5
(%)
8.0
8.5
9.0
9.5
10.0
10.5
前年の設備投資/前年末の資本ストック
11.0
(%)
(備考)1.アメリカ商務省より作成。
2.資本ストックは、実質資本ストックをさす。点線は、期待成長率に見合った水準の双曲線をさす。
双曲線は、期待成長率+資本ストック係数の変化率+除去率にて算出。また、資本ストック係数の変化率と除去率は2000年から09年の平均。
企業財務の面に目を移すと、企業の投資に必要な環境は良好となっている。金融危機
以降、債務返済比率が急増した家計部門に対し、企業部門の負債は比較的低位に抑えら
れてきた。また、金融危機で大きく落ち込んだ企業収益は大きく改善しており、企業の
資本収益性も長期的に上昇傾向にある。こうした中で、企業では資金が内部留保され、
設備投資額を大きく上回って、企業のキャッシュフローは潤沢になっている(第2-3-15
図)
。
第 2-3-15 図 資本収益性とキャッシュフロー:投資環境は良好
(1)資本収益性の推移
10
(2)設備投資とキャッシュフロー
(%)
1.8
1.6
9
(兆ドル)
キャッシュフロー
1.4
8
1.2
7
1.0
6
0.8
0.6
5
0.4
4
3
設備投資
0.2
1980 82 84 86 88 90 92 94 96 98 2000 02 04 06 08 10(年)
0.0
1980 82 84 86 88 90 92 94 96 98 2000 02 04 06 08 1011(年)
(備考)1.アメリカ商務省より作成。直線は傾向線を示す。
(備考)1.連邦準備制度理事会(FRB)より作成。
2.「税引前企業収益(在庫品評価・資本減耗調整後)」を
2.キャッシュフォローは、「税引き後利益−配当+減価償却費」を示す。
「民間非住宅資本ストック」で除したもの。
産業別にみると、2000年以降、情報通信、金融、専門・教育医療サービス等が設備投
資を牽引していることがうかがえる(第2-3-16図)
。90年代は、IT投資の増加を支えた
製造業や情報通信、そしてIT利用度の高い卸売・小売、金融・保険業等といった産業
が、生産性の上昇を伴って、経済成長に大きく寄与していた。一方、2000年以降、製造
業のアウトソーシングや、それまで企業や家計に内包されていたサービス部門のアウト
145
ソーシングが進展すると、サービス産業による設備投資、経済成長率への寄与度は相対
的に高まっている。サービス産業のうち、金融サービスや専門サービス部門は、対外競
争力があり、収益性も高い(第2-3-17図)
。特に、金融部門では、金融危機時には企業収
益が大きく減少したが、その後は堅調に増加している。また、2000年以降、シェールガ
スやシェールオイル等の採掘が進み、
設備投資における鉱業部門の寄与が目立つ。
特に、
シェールガスはアメリカを中心とした北米が最大の資源賦存地域となっており、政策的
な観点からも、引き続き採掘が進むと見込まれる。鉱業部門はアメリカのGDPのわず
か2%のシェアしか占めない一方で、設備投資に対しては引き続き高い貢献が期待され
る。
第2-3-16図
産業別のGDPと設備投資寄与度の推移:サービス部門が牽引
1991年∼2000年
1.5
2001年∼05年
(%)
1.2
(%)
実質GDP
増加寄与度
0.9
1.0
0.5
0.0
06年∼10年
設備投資
増加寄与度
0.8
0.6
0.6
0.4
0.3
0.2
0.0
0.0
-0.2
-0.3
-0.5
-0.4
-0.6
-0.6
その他サービス
専門サービス
金融・保険
情報通信
不動産
卸・小売・輸送
製造業
公益
鉱業
農業・建設
その他サービス
専門サービス
情報通信
金融・保険
卸・小売・輸送
不動産
公益
製造業
鉱業
-0.9
農業・建設
その他サービス
専門サービス
金融・保険
情報通信
不動産
卸・小売・輸送
製造業
公益
鉱業
農業・建設
-1.0
(%)
(備考)1.アメリカ商務省より作成。
2.実質GDPと民間設備投資の成長率に対する各産業の寄与度を一定期間で平均したもの。
第2-3-17図 サービス部門の収益性と競争力:
金融、専門サービスでは高い
(2)サービス部門の貿易特化指数
(1)産業別のROA
(%)
28
24
専門サービス
80
金融・保険
(%)
ビジネス支援
サービス
60
娯楽・文化
サービス
40
20
製造業
16
卸売・
小売・輸送
12
8
-20
4
-40
0
-60
情報通信
-4
1998 99 2000 01
02
03
04
05
特許使用料等
その他 20
サービス
0
06
07
08
その他産業
-80
09 10(年)
金融サービス
アメリカ
コンピュータ・
情報サービス
英国
ドイツ
日本
(備考)1.UNCTADより作成。
2.貿易特化指数は、(輸出額−輸入額)/(輸出額+輸入額)×100
から算出される数値で、輸出競争力を示す。最も競争力がある場
合の係数は100、最も競争力がない場合の係数は-100 となる。
3.06年∼10年の貿易特化指数の平均値を指す。
(備考)1.アメリカ商務省より作成。
2.ROAを有形固定資産の収益性として、「企業の税引前利益
(国内のみ)/民間資本ストック(住宅除く)」で算出。
146
今後、金融政策が正常化し、資金調達コストが上昇すれば、投資が抑制されるおそれ
もあるが、企業の期待成長率は現状よりも高く、また、財務面からみた投資余力も高い
中では、中長期的にはこうした成長産業を中心として、一定の投資機会の増加が見込ま
れると考えられる。
(iii)研究開発
研究開発投資は、生産性の向上や収益性の拡大を通じて、企業や経済の成長に寄与す
る8。アメリカの研究開発投資は、投資総額の規模でみればほかの諸国に比べて大きいも
のの、対GDP比では2.9%に留まり、日本や韓国、フィンランド等の北欧諸国に比べる
と低いものとなっている9。一方で、研究開発費の支出について、組織別(企業・政府・
その他)
、分野別(基礎・応用・開発)にみると、ほかの主要国同様、企業部門が研究開
発支出の大宗を占めるものの、研究開発支出に占める政府負担比率(助成金を通じた間
接負担含む)は他国と比して高く、特に基礎研究分野では、その研究開発費の半分以上
を政府が負担している(第2-3-18図)
。
第2-3-18図 研究開発費の組織別負担割合:政府負担比率は高い
(1)主要国の組織別負担割合
政府
企業
(2)研究分野別の組織別負担割合
その他
100
(%)
その他
連邦政府
アメリカ
80
ドイツ
60
企業
企業
(内、政府)
大学機関
40
日本
大学機関
(内、民間資金)
20
中国
大学機関
(内、政府)
0
0
20
40
60
80
開発研究
100(%)
応用研究
基礎研究
(備考)1.全米科学財団(NSF)より作成(09年の値)。
(備考)1.OECDより作成(09年の値)。
2.研究開発費の分野別の割合は、「開発研究」が6割、
2.政府には政府助成金を含む。
「応用研究」、「基礎研究」が各2割。
3.( )は政府もしくは民間による助成金を通じた間接負担を示す。
3.研究開発費総額の上位4か国を示す。
充実した政府助成金に加え、アメリカの特徴として、産学間の技術移転の仕組みが発
展していることが挙げられる。1980年には、連邦政府資金を利用した研究成果の実用・
商用化を促進することを目的に、バイ=ドール法 が制定され、同法律により、政府から
8
アメリカ労働省は、研究開発投資が全要素生産性(TFP)に対し各年 0.2%寄与していると推計している。
9
OECDによると、研究開発投資の対GDP比(09 年)にて、イスラエル、フィンランド、スウェーデン、韓国、
日本、デンマーク、スイスに次いで、アメリカはOECD諸国の中で8番目となっている。ただし、スイスは 08 年
の値。
147
の資金援助を受けた大学機関は、研究開発に関する特許取得や企業への当該特許ライセ
ンスの供与をできるようになった10。また、その他にも企業と大学との共同研究を対象
とした資金提供プログラム等、産学の連携を促進する取組が多くなされ、科学技術の発
展に大きく貢献している。
こうした産官学の活発な研究開発と積極的な特許出願により、国際特許出願件数では
アメリカは世界の3割を占めている。また、特許使用料は、サービスの輸出として、2000
年以降も一貫してサービス収支の黒字を牽引している(第2-3-19図)
。
第2-3-19図 特許とサービス収支の推移:特許使用料がサービス収支を牽引
(1)国際特許出願件数の割合 (11 年)
(2)サービス収支の推移
20
韓国
6%
15
その他
10%
中国
9%
(%)
サービス収支
増加率
特許使用料
10
アメリカ
27%
5
0
日本
21%
-5
EU
27%
旅行・運賃
その他民間
サービス
輸送
-10
軍・政府その他
-15
1991∼2000
(備考)世界知的所有権機関(WIPO)より作成。
2001∼05
06∼10(年)
(備考)1.アメリカ商務省より作成。
2.各期間でのサービス収支の増加率と寄与度の平均。
研究開発の成果は、特許件数やサービス収支の黒字に現れるほか、一定期間経過後、
生産性の向上や付加価値の増加という経路でも経済発展に寄与する。研究開発活動によ
るこうした成果への結び付きを測る指標の一つとして、研究開発効率がある。研究開発
の対GDPの割合が低い国では相対的に数値として高く現われやすいため、ここでは各
国研究開発効率の変化の推移に注目してみてみると、日本やフランスでは90年以降、研
究開発率を大きく低下させている。
一方、
アメリカではすう勢的には漸減傾向にあるが、
上記2カ国に対し比較的安定しているとみることもできる(第2-3-20図)
。
10
従来は、政府の資金で大学が研究開発を行った場合、その研究開発過程で生じた特許権が政府のみに帰属していた
ところ、同法により大学や研究者に特許権を帰属させる余地が認められるようになった。
148
第2-3-20図
研究開発効率の推移:各国低下傾向
(1)研究開発効率と研究開発費 (09 年)
(2)先進主要国での研究開発効率の推移
(研究開発効率、倍)
75
(研究開発効率、倍)
140
イタリア
英国
70
120
65
100
60
カナダ
80
55
英国
60
フランス
フランス
50
ドイツ
ドイツ
45
日本
40
40
アメリカ
アメリカ
日本
35
20
1
1.5
2
2.5
3
3.5
(企業R&D対GDP比、%)
30
1990 92
94
96
98 2000 02
04
06
08
10(年)
(備考)1.OECDより作成。
2.各国の企業部門の生産付加価値と研究開発費支出(PPPドルベース)を使用。
3.研究開発効率は、付加価値と研究開発費について後方5か年移動平均を取り、5年差の比を求めることで算出。
アメリカの企業部門の研究開発費支出を産業別にみると、製造業がその7割を占める
など圧倒的なシェアを占有しており、中でも、コンピュータ、医薬品、航空宇宙の3部
門のみで全体の50%を占めている
(第2-3-21図)
。
こうした研究開発投資の
「選択と集中」
を背景に、アメリカのハイテク産業は、対外競争力が高く、世界の付加価値の30%のシ
ェアを有している(第2-3-22図)
。ただし、2000年以降、中国におけるハイテク産業の急
速な進展に伴い、アメリカの世界シェアは低下傾向にある。
第2-3-21図
民間研究開発費の主要な産業:ハイテク製造業の割合が大きい
コンピュータ
21%
非製造業
31%
医薬品
16%
その他製造業
20%
航空宇宙
12%
(備考)全米科学財団(NSF)より作成(09年の値)。
149
第2-3-22図 ハイテク産業の競争力:競争力は高いが世界シェアは低下傾向
(2)ハイテク産業の付加価値の世界シェア
(1)ハイテク産業の顕示比較優位指数
4.5
3.5
40
アメリカ
4.0
ASIA−8
中国
日本
(%)
アメリカ
35
EU
3.0
30
2.5
EU
25
2.0
1.5
20
1.0
15
0.5
日本
ASIA−8
10
0.0
通信
機器
半導体
コン
ピュータ
計測
機器
医薬品
航空
宇宙
5
中国
0
(備考)1.全米科学財団(NSF)より作成。
1990 92 94 96 98 2000 02 04 06 08 10(年)
2.顕示比較優位指数(RCA 指数)は、世界の平均的な輸出比率に比較したとき
の当該国の輸出比率の大きさを財ごとに示すものであり、各国が世界的にみて (備考)1.全米科学財団(NSF)より作成。
2.ハイテク産業はOECDの定義するもので、半導体、航空宇宙、
どのような財に比較優位があるものかを表す。(自国の工業製品の輸出全体に
占める当該財の輸出)/(世界工業製品輸出に占める当該財の輸出)から算出。
情報、コニューピューター・電子機器、医薬品が含まれる。
3.ASIA−8は、インド、インドネシア、マレーシア、フィリ
3.値は03年∼10年の平均。ASIA−8は、インド、インドネシア、マレーシア、
ピン、シンガポール、韓国、台湾、タイを指す。
フィリピン、シンガポール、韓国、台湾、タイを指す。
こうした背景には、アウトソースの進展により、コンピュータや半導体の分野で生産
拠点が中国を含むアジア諸国に移っていることが挙げられる。アメリカにおいても、製
造業の総付加価値の構成比率が減少していく中で、ハイテク製造業の占める比率も長期
的には漸減傾向となっている11。また、生産拠点に続いて、金融危機以降、製造業の研
究開発の8割を占める多国籍企業(在米親会社)では、研究開発についても新興国等の
海外拠点に移す動きがみられる(第2-3-23図)
。研究開発拠点の海外移転は、多国籍企業
にとっては、販売先となる新興国市場に適した製品開発や、安価な賃金での優秀な人材
の獲得を可能とし、売上の増加や研究開発効率を高めることとなる。こうした企業の動
きをアメリカ経済との関係でみると、企業がアメリカ国内で知的財産権を管理している
ような場合にはサービス収支上の特許使用料の流入として、第三国での収益も所得収支
上では直接投資収益という形でアメリカへの還流が期待される12。一方、既にみてきた
ように、徐々にではあるが、ハイテク産業分野の国内における付加価値が低減していく
可能性があるほか、こうした分野の国内での雇用機会の減少にもつながる可能性もある
13
。従って、今後、アメリカ経済の持続的成長のためには、雇用に及ぼす影響に留意し
11
OECDによると、アメリカの総付加価値に対し、製造業のシェアは、1990 年以降の 20 年間で 17.5%から 12.3%
に減じている一方、ハイテク製造業は 3.1%から 2.6%となっている。製造業全体の減少テンポよりは遅いものの、
長期的には漸減傾向にある。
12
ただし、直接投資収益には、
「再投資収益(直接投資を受け入れた企業に留保された未配分収益)
」が含まれており、
所得収支に計上された金額のすべてが実際に還流しているとは限らない点に注意が必要。すなわち、再投資収益は
実際には送金されないが、再投資収益が一度直接投資家に配分された後、当該投資家によって再び投資されたもの
とみなされるため、所得収支には計上され、同額が投資収支の「直接投資」にも計上される。なお、10 年のアメリ
カの直接投資収益に占める再投資収益の割合は8割と高い。
13
アメリカ商務省によると、アメリカを本拠とする多国籍企業で 04 年から 09 年までの6年間で新規雇用された研究
開発者 15 万人のうち、約 85%は海外拠点での雇用となっている。
150
つつも、世界のイノベーションセンターとしての機能を維持し、対外収益の還流等につ
なげていくことが重要であると考えられる。
こうした中、政府はかねてからイノベーション支援策を打ち出している。特に、2000
年以降、競争力強化の必要性が強く認識され、06年の一般教書演説では「アメリカイニ
シアティブ」を発表したほか、07年には研究投資、科学技術能力の向上、イノベーショ
ン環境の構築を柱とする「アメリカ競争力法」が制定されるなど政府の政策基盤は整え
られてきている。
第2-3-23図 多国籍企業の投資動向:海外拠点へ移る動き
(2)多国籍企業のR&D投資の推移
(1)多国籍企業のR&D投資の割合
90
非製造業
(非多国籍)
14%
非製造業
(多国籍)
17%
(%)
多国籍企業R&D投資に
おける在米親会社の割合
在米親会社の
R&D投資費用
(右目盛)
88
(億ドル)
2,200
2,000
1,800
製造業
(多国籍)
52%
製造業
(非多国籍)
17%
86
1,600
84
1,400
1,200
82
1,000
80
800
1994
96
98
2000
02
04
06
08
(年)
(備考)1.アメリカ商務省、全米科学財団(NSF)より作成。
2.多国籍企業は、非製造業を含む。
3.在米親会社の割合は、「在米親会社の投資」を「多国籍企業
全体の投資(在米親会社+海外子会社)」で割ったもの。
(備考)1.アメリカ商務省より作成(09年の値)。
2.多国籍企業は、在米親会社のみのR&D投資を示す。
(2)需要面の考察
(ⅰ)家計部門
GDPの7割を消費が占めるアメリカでは、家計の需要動向が成長に大きな影響を及
ぼす。以下では、アメリカの消費を取り巻く環境・構造を概観し、アメリカ経済の成長
の課題について考察する。
(ア)加速する所得格差の拡大
世帯所得について分配の不平等度を表すジニ係数をみると、1970年代半ば以降、上昇
基調を辿っており、センサス局、OECDの推計のいずれでみても、ジニ係数は、60∼
70年代の最も低かった時と比較して2割程度上昇している(第2-3-24図)
。
また、平均所得と中位所得の動向をみると、2000年以降いずれの所得も伸びが横ばい
となっている。一方、中位所得と平均所得のかい離をみると、90年代半ばから2000年代
半ばにかけて特に拡大し、その後も縮小はみられない。こうしたことは、中位所得に比
べて平均所得の増加率が高く、上位層の所得が不均衡に拡大したことを意味していると
151
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