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4 軸独立制御・枚葉揺動ラッピング加工装置の開発と基本的加工特性の

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4 軸独立制御・枚葉揺動ラッピング加工装置の開発と基本的加工特性の
[講演番号:1M1-01]
工学設計Ⅲプロジェクト発表資料
4 軸独立制御・枚葉揺動ラッピング加工装置の開発と基本的加工特性の評価
伊藤 純(SM3−05)
指導教員:畝田 道雄 講師 ,石川 憲一 教授
1.緒
言
ラッピングとは,ラップと呼ばれる平面の定盤上に工作物を置き,
ラップと工作物下面間に砥粒と水を混合させたスラリーを挟み,工
作物に上から圧力を加え摺動させることによって行う加工方式であ
る 1).このラッピング加工には,図 1(a)に示すように現在までに 4way
ラッピングと称される方式が主として用いられている 2)が,近年のウ
ェーハの大口径化に伴い,加工装置としての 4way ラッピング加工
装置も大型化することは避けられない.このことから,今後予想され
る大口径ウェーハのラッピングには現状までの 4way 方式ではなく,
図 1(b)に示すような「枚葉ラッピング方式」が有効であると考えられ
ている.4way 方式と枚葉方式でウェーハの径を同一であると考える
と,枚葉方式の方が格段に定盤径を小さくできると考えられる.
このように,今後の大口径ウェーハのラッピングに適用が期待さ
れる枚葉ラッピング方式においては,定盤に偏摩耗を生じさせるこ
となくウェーハを均一に仕上げることが求められる 3).すなわち,本
研究ではウェーハの均一化を達成するために,定盤の偏摩耗を生
じさせずにウェーハの高平坦度を得るための枚葉ラッピング方式の
確立を目的としている.
そこで,図 1(c)のように定盤の運動に回転運動のみならず揺動運
動を加えるとともに,ウェーハの回転に関しても定盤の回転・揺動と
独立して制御し,研磨荷重も加工中に変化させるというような 4 軸独
立制御・枚葉揺動ラッピング方式を提案する.本プロジェクトにおい
ては,本方式を具現化するための装置を設計,製作するとともに,
その基本的な加工特性を評価することを通じて本方式の実用化に
向けた研究開発を行うことを目的とする.
ウェーハ
キャリア
キャリア公転方向
キャリア自転方向
定盤
ウェーハ
ラップ定盤自転方向
(a) 4way 方式モデル
装置のサイズ
キャリア
ラップ定盤
ラップ定盤
ラップ定盤自転方向
2.設計目標と設計
図 2 は本プロジェクトにおいて全ての設計・製作を行い,完
成した 4 軸独立制御・枚葉揺動ラッピング加工装置である.本装
置においては,上定盤の軸にロータリーボールスプラインを利
用することにより,定盤の上下運動と回転運動を同時に行うこ
とが出来る.上下運動を行う機器として,メカシリンダを使用
する.これを利用することによって,荷重の調整が出来る.ま
た,下定盤の遥動運動にも同シリンダをことで,0.1mm 単位で
の微小位置決めを可能としている.上下軸の回転にはサーボモ
ータを使用し,これにより上下定盤の回転速度も調整すること
が可能となる.
定盤への偏摩耗を防ぐために,上下定盤の回転,上定盤の加圧,そ
して下定盤の揺動の4 軸独立制御にし,
これによりラップ定盤への荷
重が一点に集中することが無くなるため,
ラップ定盤の偏摩耗を防ぐ
ことが出来ると思われる.さらに,様々な実験条件を設定することが
可能となり,多くの実験データが取得可能となる.
LM ガイド
キャリア自転方向
(b) 枚葉方式モデル
ラップ定盤
表1 装置の詳細
高さ
幅
奥行き
上定盤
直径
下定盤
厚さ
上定盤
材質
下定盤
上定盤
回転数
下定盤
レールの長さ
ストローク
研磨荷重
(研磨荷重制御)
キャリア
ウェーハ
メカシリンダ
ラップ定盤揺動方向
(揺動範囲・速度制御)
ラップ定盤自転方向
キャリア自転方向
(自転方向・速度制御) (自転方向・速度制御)
(c) 提案する4 軸同時制御モデル
図1 ラッピング方式
480 mm
上定盤用
下定盤用
位置決め精度
移動速度
押付最大推力
回転数
サーボモータ
回転数最小設定値
0∼400 mm/s
70 N
0∼300 rpm
0.02 rpm
メカシリンダ
下定盤
上定盤
(a) 装置正面図
150 mm
200 mm
±0.1mm
ロータリーボールスプライン軸
サーボモータ
850 mm
470 mm
550 mm
60 mm
300 mm
15 mm
鋳鉄(FC250)
鋼(SS400)
1∼100rpm
1∼150rpm
(b) 装置側面図
(c) 装置外観図
図 2 設計・製作した 4 軸独立制御・枚葉揺動ラッピング加工装置
[講演番号:1M1-01]
工学設計Ⅲプロジェクト発表資料
3.基本運動特性
装置の基本運動特性として,固有振動数を計測した.測定方
法としては,図 3 のように圧電形加速度計を上下定盤の中心に
取り付け,装置の適当な場所をハンマで打撃し,そのときの応
答波形をオシロスコープで読み込んだ.そして,その応答波形
対して周波数解析を行った結果が図 4 である.
装置起動時の周波数が固有振動数の 1/10 以下であれば問題な
表2 実験条件
定盤回転数(rpm)
30
上定盤の下定盤中心からの距離(mm)
100
荷重圧(kPa) / (%)
5 / 22
砥粒濃度(wt%)
30
実験時間(min)
20
いと考えられることから,最小の固有振動数を A とすると,装
研磨量 µm
60A/10[Hz]= 6A [rpm]となる.今回の実験で使用した回転数は
30rpm なので,式より A=5 [Hz] となり,装置起動時の周波数は
5Hz以下となれば問題ないことになる.図 4 より,最小の周波
数 fn は約 50Hzで,本実験で使用する回転数は最大でも
50
50
25
25
研磨量 µm
置の稼働可能周波数は A/10[Hz]となりそれを回転数で表すと、
0
-25
-50
0
-25
-50
-75
-75
-100
-100
0
60rpm( f =1Hz)であることから,f / fn =0.02 程度であり,問題が
25
50
75
100
125
0
150
25
50
(a) 5 分後
100
125
150
125
150
(b) 10 分後
50
50
25
25
研磨量 µm
研磨量 µm
無いことが分かる.
また,メカシリンダを用いて加圧を行うが,メカシリンダに
設定する押付率(%)に対する加圧力(N)を,動圧計(図 5)を用い
て計測した.その結果を図 6 に示す.同図より,メカシリンダ
の設定押付率に対して加圧力は比例関係にあることが分かる.
75
定盤半径 mm
定盤半径 mm
0
-25
-50
0
-25
-50
-75
-75
-100
-100
0
25
50
75
100
定盤半径 mm
(c) 15 分後
125
150
0
25
50
75
100
定盤半径 mm
(d) 20 分後
図7 うねり測定結果
0.04
0.03
0.03
0.02
0.02
振幅
振幅
図3 振動特性測定風景
0.04
0.01
0.01
0.00
0.00
0
200
400
600
800
1000 1200
周波数 (Hz)
1400
1600
1800
2000
0
200
400
600
800
(a)上定盤
1000 1200
周波数 (Hz)
1400
1600
1800
2000
(b)下定盤
図4 振動特性測定結果
図 8 実験風景
4-2 実験結果
図 7(a)は加工 5 分後のグラフである.このグフラより,測定距
離 70~130mm 付近の変位が下がっているのを読み取ることが出
来る.よって,下定盤は研磨され摩耗していることが分かる.
また,同図(a)∼(d)に至る研磨量の推移を見ると,加工開始 5 分
までの研磨能率は非常に高いが,それ以後は徐々に研磨されて
いく傾向が見受けられる.
40
35
30
荷重 [N]
25
20
15
10
Y=1.32432X-1.79924
5
0
0
5
10
15
20
25
荷重 [%]
図5 動圧計による測定
図6 押付荷重 N−%
4.基礎実験
4-1 実験方法および条件
ここでは,表 2 に示すような条件で下定盤自体を大口径ワー
クと見なして,研磨時間に対する摩耗量の変化を測定する実験
を行った.なお,実験には,上下定盤とも平面研削盤にて研削
仕上げを行ったものを用いた.
加工前における下定盤の 4 箇所のうねり(中心から端まで)を
渦電流変位センサを用いて計測し,実験後に同じ箇所のうねり
を測定し,その差で研磨量を求めた.そのグラフを図 7 に示す.
また,図 8 は実験風景である.
30
35
5.結言
本研究では,4 軸独立制御・枚葉揺動ラッピング加工装置の設
計から製作にいたる一連の開発を行うとともに,基礎実験を通
じて,本装置の基本性能を確認した.得られた基本性能につい
てまとめると,以下のようになる.
1) 装置の起動回転数に比較して,固有振動数は極めて大き
いことから,共振等による悪影響を受けない.
2) 上定盤の支持に柔軟性を持たせることで,上定盤と下定
盤を面接触させる事が出来る.
3) 下定盤を大口径ワークと見なして,小円の上定盤による
修正加工を行い,基本加工特性を得た.
参考文献
1) 石川憲一:ラップ定盤の摩耗と修正,機械と工具,(1992)85
2) 吉冨健一郎,宇根篤暢,餅田正秋:研磨による大口径ウェ
ハの形状修正(第2報),2002 年度精密工学会秋季大会学
術講演会講演論文集,(2002)512
3) 河野肇,滝田賢二:シリコンウェハの研磨量分布の推定,
2002 年度精密工学会秋季大会学術講演会講演論文集,
(2002)422
工学設計Ⅲプロジェクト発表資料
[講演番号:1M1-02]
MUSIC アルゴリズムを用いた近距離にある音源の
発信源位置推定法に関する研究
石井智也(SM3−1)
指導教員:畝田道雄
1.緒
言
現在,精密機械や精密加工を可能にする工作機械等には,
機械を始動したときに起こる振動,異常音などこれらに対す
る完全な対策は見られない 1)2).例えば工作機械を起動させ
ているときに明らかに不自然な振動やまれに異常音が発生
するときがあるが,これはその工作機械の構造等にどこか問
題や故障がある恐れがあることを示しているものと考える
ことができる.そこで,工作機械に不自然な振動や異常音が
発生した場合,問題や故障している機械の部位をより早く発
見するための対策が必要になってくる.
本研究では,問題や故障している箇所から発せられる音を
アレー受信装置で得ることによって,音源位置を高精度に特
定することを目的とする.そして本プロジェクトでは,現在
までにアレーアンテナによる高分解能到来方向推定方法と
して研究されている MUSIC アルゴリズムを使用し,音源位
置推定を行える高分解能位置推定システム(装置)を製作す
ることを目的とし,またその装置により,発信源位置推定を
行い使用可能な状態にするということを目的とする.
2.MUSIC アルゴリズムの概要と特徴
本研究で使用する MUSIC アルゴリズムについて,図 1 の
ように M 個のマイクロホンを有するリニアアレー受信装置
を用いて近距離に存在する音源の位置推定を行う場合を考
える.図 1 では音源が 1 個の場合を示しているが,議論を一
般化するために,音源が K 個ある場合を想定する.このと
き,マイクロホン m(m:1∼M)において時刻 t で得られる
音波を複素信号 xm(t)として表すと,
fk
c
( xs , k − xm ) 2 + ( y s , k − y m 2
k =1
+ nm (t )
(1)
として与えられる.ここで,sk(t), (xs,k, ys,k), fk はそれぞれ音源
k (k:1∼K)の振幅,二次元座標,並びに発信周波数である.
さらに,c は音波の伝搬速度であり,(xm, ym)は素子 m の座標
である.
式(1)の複素信号 xm(t)に関し,素子 1∼M までの信号を纏
めてベクトル X(t)で表すと,
X(t ) = AS(t ) + N(t )
R = E[ X(t )・X(t ) ]
θk,2
#M ・・・ ・・・
#m
#2
(3)
d2
受信装置
#1
dm
dM
図 1 マイクロホンアレー受信モデル
現在,MUSIC アルゴリズムは,同一ビーム内に複数の目
標(信号源)があったとしても,それらの分離・高精度計測
が可能になることが明らかにされていることから,防衛用レ
ーダ(目標位置計測等)や車載用レーダ(車間距離計測等)
への適用が期待されている.このように,今後適用範囲が拡
大すると期待される MUSIC アルゴリズムを,本研究では新
しい音源探査技術として応用するものである.
3.マイクロホン並びに騒音計の角度特性
音源の位置推定を行うためには,受信装置に使用するマイ
クロホンの角度特性があるか否かを知る必要がある.そこで,
既存の騒音計と自作装置で使用するコンデンサマイクロホ
ンを使用して,以下の実験を行う.
騒音計とマイクロホンの角度特性を調べるために,音源と
して用いるスピーカを固定し,受信装置であるマイクロホン
部分を−10°∼+10°まで,0°位置を基準点とし,おのお
の+方向と−方向に 0.6°ずつ角度を変化させた状態で音波
を受信し,解析を行った.実験装置モデル図を図 2 に実際の
装置の写真を図 3 に示す.
スピーカ
騒音計
1m
スイベルステージ
CH1 スイベルステージ
0°
CH2 騒音計基準
+10° −10°
図2
実験装置モデル図
装置写真
1.04
2.5
2
1.5
1
0.5
10°
5°
0°
-5°
0
-0.5
-1.5
スキャン角度[°]
コンデンサマイク
図4
1.02
1.00
0.98
0.96
0.94
-10°
-1
(4)
図3
1.06
センサ角度特性「位相」
-10°
ここで,添え字 H は複素共役転置を表す.
相関行列 R を固有値解析することによって得られる固有
ベクトル em(m:1∼M)において,EN=[ek+1, eK+2, ・・・, eM]とす
るとき,MUSIC 評価関数 P(x,y,f)は次式によって定義される.
すなわち,P(x,y,f)のピークが所望の音源位置,並びに発信周
波数の推定値となる 3).
1
P ( x, y , f ) =
a( x, y , f ) H E N
θk,1
(2)
となる.そして,受信信号 X(t)の相関行列 R は E[・]を期待
値とすると,次式のように定めることができる.
H
θk,M θk,m
通過振幅
− j 2π
教授
信号源
通過位相[°]
K
x m (t ) = ∑ s k (t )e
講師,石川憲一
騒音計
角度と位相差の関係
-5°
0°
5°
スキャン角度[°]
コンデンサマイク
図5
騒音計
角度と振幅の関係
10°
[講演番号:1M1-02]
実験結果より,図 4 の位相差の関係図を見ると,コンデン
サマイクロホン,並びに騒音計は同じように+方向に角度が
変わるにつれて位相差が−になっている.これは図 5 の通過
振幅にも言えることであり,このことより,コンデンサマイ
クと騒音計の角度特性はスキャン角度が 0°から 10°にな
るにつれて,コンデンサマイクでは約 1°,騒音計では約 3°
の角度特性を持っていると考えられる.よって,騒音計とコ
ンデンサマイクロホンを使用した音源位置推定において厳
密解を得るためには,これらのセンサ角度特性の値を考慮す
る必要があると考えられるが,ここでは基礎検討として,ま
ずは角度特性を考慮に入れずに,以下の検討を行った.
4.騒音計を用いた基本特性検討
騒音計を使用し,1 次元での発信源位置推定実験を行った.
実験方法は,騒音計を 2 台使用し,CH1 をスピーカの中心
位置から-250mm の位置に,CH2 をスピーカの中心位置から
250mm の位置にそれぞれ固定した.そして,スピーカの位
置を 0mm から 60mm まで 20mm 間隔で変化させながら,音
波をアレー信号として受信した.実験装置のモデル図を図 6
に,実際の装置の写真を図 7 に示す.また,スピーカから発
せられる周波数は 1kHz とした.
スピーカ
騒音計
0∼60mmまで
20mmずつ測定
1m
CH1
CH2
−250mm
図6
スタンドに固定
250mm
実験装置モデル図
図 7 装置写真
0
表1
MUSIC spectrum [dB]
-10
-20
-30
-40
-50
-300 -240X -180
-120 axis
-60 [mm]
0
coordinate
20mm
60mm
60
40mm
位置推定結果
信源位置
0mm
20mm
40mm
60mm
推定位置
1.79mm
21.64mm
41.56mm
59.72mm
図 8 位置推定解析結果
図 8 は実験結果である.騒音計を使用した 1 次元の位置推
定実験は,実際の位置と数 mm の誤差が生じるということ
になった.スピーカ位置が 20mm のときは推定結果の誤差
が 1.64mm であり,40mm のときは推定結果の誤差は 1.56mm
と微小ではあるが推定結果に誤差が生じた.60mm のときの
推定結果が−0.28mm の誤差が生じ,実際の発信源位置とは
異なるものの精度の良い結果となった.このことより,多少
の誤差は生じたものの,既存の騒音計を使用した場合,高精
度位置推定が可能になることを明らかにした.ところで,
MUSIC の解析においてセンサ数が 2 つの場合は 1 次元のみ
の測定しか行えないことから,一般的な 3 次元測定を可能に
するために,次に示す自作での装置開発を行うことにした.
5.マイクロホンアレー受信装置の試作基礎実験
自作装置を使用し,2 次元での発信源位置推定実験を行っ
た.実験方法は,自作装置に取り付けられたコンデンサマイ
クロホン 5 つを使用した.CH3 をスピーカの中心位置に固
定し,その中心位置からそれぞれ左右に 125mm 間隔でその
他のマイクロホンを固定した.スピーカの位置を 0mm∼
50mm まで 10mm 間隔で順に変化させ,データを採取した.
実験装置モデル図を図 9 に,実際の装置の写真を図 10 に示
す.また,スピーカから発せられる周波数は 1kHz とした.
スピーカー
0∼50mmまで
10mmずつ測定
コンデンサマイクロホン
1m
CH1
CH2
CH3
CH4
CH5
125mm 125mm 125mm 125mm
図9
実験装置モデル図
図 10 装置写真
表 2 位置推定結果
信源
位置
0mm
10mm
20mm
30mm
40mm
50mm
X 軸推定
位置[m]
0
0.0100
0.0225
0.0350
0.0475
0.0600
Y 軸推定
位置[m]
0.998
1.000
1.025
1.045
1.085
1.105
図 11 位置推定解析結果
実験結果より,スピーカからの信号発信位置が 0mm と
10mm のときにはほぼ正しい結果が得られたのに対して,
20mm から信号の発信位置が離れていくにつれ,誤差が大き
くなるという結果になった.このことにより何故このような
結果になったのか,考えられることはいくつかあるが,1 つ
目に先ほどのセンサ角度特性実験でコンデンサマイクには
約 1°のマイクロホン角度特性があった.すなわち,このマ
イクロホンの角度特性を今回の実験では考慮して実験を行
っていないため,数 mm 単位の誤差が生じたのではないか
ということが考えられる.2 つ目に考えられることは,実験
を行う際に使用した実験装置の配置が精密に正しい位置に
固定されていたのかどうかということが考えられる.すなわ
ち,今回行った実験では,スピーカ,自作での高分解能位置
推定システム(装置)において,スピーカや装置を置く際に
精密な機械や機器などを使い固定位置を決めたのではなく,
スケールを用いるのみで配置を行ったため,微妙ではあれ配
置誤差があったと考えられる.そして,今回の実験における
解析では,スピーカが中心位置(0mm)の時の値で補償を
行ったため,スピーカが中心位置(0mm)の時にはあまり
配置誤差の影響がなく,中心位置から離れていくにつれてこ
のような推定誤差がおこったのだと考えられる.
6.結
言
本研究では,問題や故障している箇所から発せられる音を
アレー受信装置で得ることによって,音源位置を高精度に特
定することを目的として,MUSIC アルゴリズムを使用し音
源位置推定を行える高分解能位置推定システム(装置)を製
作し,実証実験を行えるようにするということだった.
実際に高分解能位置推定システム(装置)を製作し基礎的
な実験を行ってみた結果,音源位置推定に誤差は生じたもの
の,それを理論的に推定することは可能であるということが
わかった.
参 考 文 献
1) 柴山秀雄,王 輝:診断におけるアレー信号処理について,
日本音響学会誌,58,5,(2002)pp.295-301.
2)安倍正人:低周波振動による異常箇所の同定,日本音響学会
誌,58,5,(2002)pp.302-305.
3)菊間信良:アレーアンテナによる適応信号処理,科学技
術出版,(1999)pp.194-202.
工学設計Ⅲプロジェクト発表資料
[講演番号:1M1-03]
振動援用型精密外周刃スライシング装置の設計・製作
大部誠也(SM3-8)
指導教員:畝田道雄 講師, 石川憲一 教授
1.緒言
科学技術の進展に伴ってセラミックスに代表されるような硬脆材
料があらゆる方面で多用されている.これらの材料は機械,電気的
特性に優れているため,各分野において幅広く利用され,それらの
発展に関連してきた.また,精密切断加工が近年の小型製品の開
発に大きく貢献しているのも事実である.しかし,その小ささ故に寸
法精度、表面精度を向上させた高品質な製品が要求されるようにな
り,成形,切断による微細加工,精密加工,もしくは超精密加工が必
要とされるようになっている.このような背景より,精密切断加工は非
常に重要な技術分野とされ,当該分野で非常に多用されているの
が外周刃方式である 1).
外周刃方式とは図1のように砥粒を固着させた極薄ブレードを高
速で回転させることにより切断を行う研削切断方式である.外周刃は
横剛性が低いため,加工中に大きな負荷が加わった場合,加工精
度の悪化や偏摩耗発生の原因になり,それは製品精度の低下だけ
ではなく工具の寿命悪化にもつながる問題となる.しかし,利益向
上や環境対策のために外周刃方式では材料のロスとなる切断しろ
を減少させるため,さらに薄い刃を使用する傾向にあり二律背反が
存在することになっている 2).
現在までに,加工中に薄刃ブレードが受ける切断抵抗を減少す
る方法として,『振動切断技術』1)が考案された。しかし,これまでの
振動外周刃方式の諸研究ではワーク側に加振装置を取り付けること
によって振動加工をおこなっていたため,加工対象になるワークが
限定され,多様なワークに対応することが困難であった.そこで本
プロジェクトでは多様なワークに対応できる振動外周刃装置の開発
を目指し,ワークではなくブレードが取り付けられる主軸へ振動を付
与することにより振動加工をおこなうことができる装置の設計,製作
を行うことを目的とした.
2,具体的設計
主軸へ振動を付与する方法としては,図 2(a)のように,偏心軸
を用いる 2 重軸構造を採用した.偏心軸とは図 3,4 に示すよう
な,外径中心に対して意図的に中心に微小の変位を与えた軸
ダウンカット
固定砥粒
外周刃ブレード
加工対象物
(ワーク)
円振動
送り方向
図1
外周刃方式と振動方向
のことであり,本装置における偏心量及び,発振振動数はこれま
での諸研究より適正と判断する 100μm,並びに 10∼20Hz と設
定した.偏心軸に回転運動が加わると偏心は外形中心の周りで
円運動をおこなう.この偏心させた内径中心に主軸を設けると軸
同士の中心が異なっているため,主軸には微小な振動が発生
することになる.この振動は主軸自体に発生している振動なので
振動を伝達する機構が必要なく,確実に主軸が振動する方法と
考えられる.また,主軸と偏心軸それぞれにモータを取り付ける
ことにより,偏心軸と主軸の回転を独立のものとすることができる
ため,2 つの軸の回転数,回転方向を変更することができる.本
装置では図 2(b)のようにベルト,プーリを用いて偏心軸を回転さ
せることにより振動を発生させる.この振動が主軸からブレード
へ伝わり,振動加工をおこなうことが可能になると考えられる.製
作に関しては,偏心量,方向を軸端同士で一致させるために偏
心軸穴を貫通穴とした.ベアリングハウスを製作する際には,同
心が得られるように 1 つの鋼材を分断して製作することとした.ま
ベアリングハウス
ベアリングハウス
偏心軸
主軸
ベルト
プーリ
主軸
キー溝
(b)装置外観
(a)装置製図
図2
振動主軸の詳細
振幅 µm
[講演番号:1M1-03]
た,組み立て時に精度を維持するため,ベアリングハウス下部分
にキー溝を設け,キーによって前後のベアリングハウスが同心を
得ることができるように工夫した.
外形中心
振動振幅
125
100
75
50
25
0
-25
-50
-75
-100
-125
0.00
0.02
0.04
内径中心
偏心量
図7
図3
偏心軸外観
1.0
駆動
加速度比 G
0.8
前
後
駆動無し
前
後
0.6
0.4
0.2
0.0
0
0
500
1000
10
図5
1500
2000
回転数 rpm
20
30
振動数 Hz
2500
40
3000
50
偏心軸駆動時の加速度比
駆動
加速度比 G
前
後
駆動無し
前
後
0.30
0.25
0.20
0.15
0.05
0
500
1000
図6
振動波形
3,振動特性
図 5,図 6 は組上がった装置の偏心軸駆動位置,主軸駆動位置
へそれぞれ駆動用モータを設置したときの加速度比を計測したもの
である.測定方法は装置ベアリングハウス前側,後側へそれぞれ振
動ピックアップを取り付け,チャージ振動計によって加速度比を計
測した.モータを設置し,軸を駆動した状態を『駆動』.設置のみで,
軸に接続せず,モータ単体を回転させた状態を『駆動なし』とし,グ
ラフ上に表記した.また,この実験は主軸,偏心軸いずれかの軸の
回転に限ったものとなっている.図5より偏心軸駆動位置において,
モータ単体を回転させた状態では前後ともに加速度比は 0.1G 程
度となっているが,装置と接続した場合,1500 回転を超えた付近か
ら前側の振動値が急激に上昇することがわかる.未接続の状態に
比べて後側は約 3 倍程度なのに対し,前側は約 7 倍になっている.
図 6 は主軸駆動位置へモータを設置した状態の振動値の様子であ
るが,偏心軸駆動位置においての加速度比が回転数の増加ととも
に上昇したのに対して,主軸駆動位置では,その傾向は見られず,
回転数が低い状態でも加速度比の値が高いところで推移している.
また,図5,図6 を比較すると偏心軸駆動位置では前側の加速度
比が高めなのに対し,主軸駆動位置では後側の加速度比が高くな
るという結果が出ている.これは,偏心軸を駆動するためのプーリは
ねじれを防ぐために偏心軸の中央に取り付けてあるものの,前側に
向かって偏心軸径が太くなるために,前側の加速度比が高く出たと
考えられる.また,主軸を回転させた際に後側の加速度比が高くな
ったのは主軸のモータ取り付け部分がピックアップ後側に近いため
にこのような結果が生まれたと考えられる.
図 7 は渦電流計を用いて,偏心軸を回転させた状態での主軸振
動波形を計測した結果である.振幅は 100μm となっており,全振幅
は 200μm となる.
参考文献
1)石川憲一,畝田道雄:低周波振動を利用した硬脆材料の切断
技術,先端加工,21,1(2003)49.
2)水野雅裕,井山俊郎:外周刃ブレードによる切断加工シュミレ
ーション,砥粒加工学会誌,46,11(2002)561.
0.10
0.00
0.10
4,結言
本プロジェクトにおいては,振動援用型外周刃スライシン
グ装置のうち,主要部分となるスピンドルに主眼をあて設計,
製作を行い,所望の振動を得ることができたと考えられる.
0.40
0.35
0.08
偏心モデル
10mm
図4
0.06
時間 s
1500
2000
回転数 rpm
主軸駆動時の加速度比
2500
3000
工学設計Ⅲプロジェクト発表資料
[講演番号:1M1-04]
日本刀に関する科学的研究
朴木
卓(SM3-62)
指導教員:畝田道雄
1.
緒
講師,
石川憲一
教授
例すると考えることができる.
言
1-1 日本刀の歴史と変革
古代,日本の刀剣は中国からの影響もあり,その形状は直刀
であった.平安時代初期に入ると,武士の戦術の変化に伴い刀
剣の形状は直刀から反りのある湾刀に移行した.形状変化の理
由は明確にされてはいないものの,歩兵戦術から騎馬戦術への
移行が大きな理由のひとつと考えられている 1) 2).
1-2 毛抜形太刀の歴史と特徴
日本の刀剣が直刀から湾刀に移行していく過程において,過
渡期に作られたと考えられる刀剣がいくつかある.その 1 つが
毛抜形太刀である.その特徴は,茎の部分に毛抜があることで
あり,平安時代以降製作されていないことである 2).
1-3 本研究の目的
本研究では形状の異なる刀剣を対象に,同様の衝撃が作用し
た場合における力の伝播状況を比較・検討することによって,
日本刀が反りのある湾刀へ移行した意義,並びに毛抜形太刀が
造られた意義,そして理由を科学的に考察する.また,刀剣の
厳密解析を行うにあたり,その断面形状を評価する必要がある
ことから、断面形状測定装置の設計・製作も併せて行うことを
目的とする.
2.毛抜型太刀における毛抜の影響
2-1 解析方法
刀剣の刀身に力が付与されたときに,毛抜や反りが使い手や
刀身自体にどのような影響を及ぼすのか,形状の異なる代表的
な刀剣を対象に比較してその結果を考察する.
解析ソフトウェア:ANSYS/ED5.6 でモデル化した刀剣を図
7)
1 に記す.図 1 の(d)は毛抜の影響をより明確にするため,
図 1 の(c)の毛抜型太刀の毛抜を埋めたモデルを作成した.
図2
直刀の原点・荷重点・計測点・拘束点
図3
湾刀の原点・荷重点・計測点・拘束点
表 1 解析条件
密度〔kg/m3〕
ヤング率〔GPa〕
ポアソン比
厚み〔m〕
力〔N〕
力の付与時間〔s〕
解析時間 t〔s〕
力の付与箇所
7.86×103
210
0.3
0.007
5
0.001
0.05
切先 3 寸
(約 100mm)
2-2 解析結果
2-2-1 刀剣の反りの有無
直刀と湾刀の解析結果を図 4,図 5 に記す.図 4 は切先の加
速度を,図 5 は刃区の加速度をそれぞれ表したものである.
100.0
75.0
加速度a〔m/s 2〕
50.0
25.0
0.0
-25.0
-50.0
直刀
-75.0
太刀
-100.0
0
10.0
20.0
30.0
40.0
50.0
時間t〔ms〕
モデル化した刀剣
図 2,図 3 は直刀と湾刀の場合における原点,荷重点,測定
点,拘束点の位置を表している.刀剣の 2 次元モデルは長さ方
向を X 軸とし,力のかかる方向を Y 軸とした.原点は茎と刀
身の境目である棟区の部分として,同じく茎との境目である刃
区の部分を根元の計測点とした.荷重点は切先の計測点から
100mm の箇所とした.茎は変位量 0 で拘束し原点より 10mm
離した.荷重点に衝撃を付与したときにおける刀剣各部の応力
伝播状況を評価する.
主な解析条件を表 1 に記す.解析結果は時間に対する変位と
加速度とした.特に加速度においてはその部分における力に比
図 4 切先の加速度の比較
15.0
10.0
加速度a[m/s2〕
図1
5.0
0.0
-5.0
直刀
-10.0
太刀
-15.0
0
10.0
20.0
30.0
40.0
時間t〔ms〕
図5
刃区の加速度 a の比較
50.0
[講演番号:1M1-04]
2-2-2 毛抜形太刀の毛抜の有無
毛抜形太刀,及びに解析上で作った毛抜を無くした刀剣
の解析結果を図 6,図 7,図 8 に記す.図 6 は刃区の加速度
を,図 7 は刃区の変位を,図 8 は刃区の相当応力を表したもの
である.
15.0
10.0
加速度a〔m/s2〕
5.0
0.0
毛抜形太刀
-5.0
毛抜なし
-10.0
-15.0
0
10.0
20.0
30.0
時間t〔ms〕
40.0
今回,参考文献 8)で設計された光切断方式の装置を参考に,改
良・改善を加えて装置を設計する.
3.2 理論及び測定結果
断面形状測定装置の機構を図 9 に記す.測定物の日本刀へ垂
直上からレーザーポインターによるレーザー光を照射し,測定
物のレーザー光の投影軌跡をデジタルカメラで角度Θから撮
影する.この方法を使用すると日本刀の切先の部分まで断面形
状を測定することができるが,撮影した写真は cosΘの画像処
理をする必要がある.図 10 は例として鋼材を撮影したもので
あるが,角度 45°より撮影した写真を con45°で写真修正した
ものである.レーザー光の軌跡が物体の断面形状を表しており
正確に測定できていることが確認できる.
50.0
図 6 刃区の加速度の比較
0.08
変位h〔 μm〕
0.04
図9
0.00
-0.04
断面形状測定装置の機構
毛抜形太刀
毛抜なし
-0.08
0
10
20
30
時間t〔ms〕
40
50
図 7 刃区の変位の比較
1.5
図 10
毛抜形太刀
cos45°の写真修正
相当応力〔MPa〕
毛抜なし
1.0
0.5
0.0
0
10
20 時間t〔ms〕 30
40
50
図 8 刃区の相当応力
2-3 考
察
直刀と太刀を比較すると切先の加速度は太刀の方が大きく,
刃区の加速度は直刀の方が大きいことがわかる.これは刀身に
反りがあることにより,力が X 軸方向と Y 軸方向に分散され
た結果,切先方向への力が大きくなり,刃区方向の力が小さく
なったと考えられる.よって,使い手への負担が小さいのは反
りのある太刀と考えられる.
毛抜の有無を比較すると,刃区の加速度は毛抜がない場合に
比べ小さくなっていることから,使い手への負担は毛抜型太刀
の方が小さいと考えられる.しかし,刀身にかかる力を変位に
変換できないので刀身自体にかかる相当応力は大きく,刀身の
破損の原因になったと考えられる.
3. 断面形状測定装置の設計
3.1 断面形状測定装置の設計
日本刀のような大型で高価なものの断面形状を測定する条
件として測定範囲が広く,非接触・非破壊でなければならない.
4. 結
言
(1) 直刀と太刀を比較すると太刀の方が刃区におけ
る加速度は小さくなる.すなわち太刀の方が使い手に
及ぼす衝撃は小さいことを明らかにした.
(2) 毛抜形太刀は毛抜があることによって使い手に
かかる衝撃を小さくする効果があるが,刃区にかかる
応力が大きくなることから破損の原因となる.
(3) 毛抜形太刀が作られなくなった理由として,太刀
は茎に柄をつけることで使い手に伝わる衝撃を軽減
できるので,破損しやすい毛抜形太刀は作られなくな
ったと考えられる.
(4) 断面形状測定装置を製作し,性能を確認した.
5.
1)
2)
3)
4)
5)
6)
7)
8)
参考文献
石川憲一:日本刀の科学 金沢工業大学出版局(1989)
小笠原信夫:刀剣 保育社(1981)
福井款彦:名刀のみどころ 熱田神宮宮庁(2000)
尾崎元春,佐藤寒山:原色日本の美術;甲冑と刀剣 改
訂版 3 版 25 巻(1997)
本阿彌光遜:日本刀の掟と特徴 14 版: 美術倶楽部
(1999)
井上達雄:日本刀に名刀にみる科学と技術 京都大学
工学部エネルギー応用工学教室(1995)
文化庁監修:国宝・重要文化財大全 6 工芸品 毎日新聞
社
宮入 輝晃:刃物の切れ味に関する研究 工学設計Ⅲ
卒業論文(2000)
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